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イチゴ あまおう の厳寒期どり新作型の開発 小賦幸一 * 奥幸一郎 水上宏二 井上惠子 イチゴ あまおう の栽培において, 9 月中下旬に 10a 当たり 15,000 株を密植し, 厳寒期である 12 2 月の短期間に頂果房のみを収穫する新作型を開発した 培土容量 130mL の小型紙ポット苗は, 容器ごと直接定植できることから省力的で密植作業に適しており, 収量も慣行の苗と同等であった 定植前マルチに白マルチを使用すると, 黒マルチに比べて 10 月までの地温が低く, 高温年の白マルチにおける収量は, 黒マルチに比べて高かった 定植前に白マルチを被覆したほ場に小型紙ポット苗を栽植株数 15,000 株 /10a で密植すると,12 2 月までの頂果房のみで 3.0t/10a を収穫できた 新作型は一定の収益性が見込まれるとともに, 2 月までで収穫を終了するため, 新作型 10a と慣行作型 20a を組み合わせても収穫最盛期となる 3 月下旬の労働時間は増えず, 現状の労働力のままで導入可能である [ キーワード : イチゴ, 密植, 小型紙ポット, 白マルチ, 労働時間 ] Development of New Midwinter Cropping Type of Amaou Strawberry. OBU Koichi, Koichiro OKU, Koji MIZUKAMI and Keiko INOUE (Fukuoka Agriculture and Forestry Research Center, Chikushino, Fukuoka 818-8549,Japan) Bull. Fukuoka Agric. For. Res. Cent. 2:34-40 (2016) We developed a new midwinter cropping type of Amaou strawberry for which only the first fruit cluster is harvested from December to February by high-density planting at 15,000 stocks/10a in mid to late September. Small paper pots suitable for dense planting with soil volume of 130mL containing nursery plants were planted without removing pots. Yield was comparable to that using conventional nursery plant pots. Using white plastic mulch with mulching before planting, soil temperatures were lower than that for black plastic mulch, but yield in high temperature years was higher than for black mulch. By planting small paper pots containing nursery plants at a high density of 15,000 stocks/10a into fields with mulching before planting by white plastic mulch, yield was 3.0t/10a from December to February. The new cropping type is expected to be profitable. If the new type 10a is introduced in combination with conventional cropping 20a, it can be done without increasing workforce, because harvesting will finish by February, and therefore working hours in late March busy season will not increase. [Key words: strawberry, dense planting, small paper pot, white plastic mulch, working hours] 緒言 本県産イチゴは,2013 年産の産出額 204 億円と県農産物産出額の 9.1% を占める重要な品目である ( 農林水産省 2014) 本県育成品種 福岡 S6 号 ( 以下 あまおう ) は, 果実が大きく, 良食味で, 着色が良いという特性を有することから ( 三井ら 2003), 市場では主要イチゴ品種の中で最も高い評価を受けている 一方, あまおう は, 花芽分化および冬期の出葉速度がやや遅い特性があり, 促成栽培では定植後の環境条件により厳寒期の果房連続性が不安定となりやすい 本県では, これまでに有機配合肥料による最適基肥量 ( 水上 小田原 2007), 早期作型における定植後の遮光処理 ( 北島 佐藤 2008) などの栽培技術を開発した 同時に, 各産地で作型構成割合の適正化や定植後に初期生育の栄養生長過多を抑えるためのかん水制限などの栽培管理が徹底され, 厳寒期のいわゆる収穫の中休みは解消されつつある しかしながら, 依然として 34 月の収量が多く収穫労力が一時期に集中し, 経営規模の拡大を制限する要因ともなっており, 2 月までの収量をさらに増加させ収量の平準化を図ることが課題となっている * 連絡責任者 ( 野菜部 :obu-k9870@pref.fukuoka.lg.jp) これまでイチゴの促成栽培では, 約 1.1 万株 /10a の密植 ( 松村 1994) や, 二芽苗の定植 ( 三井 伏原 1999) で, 単位面積当たりの頂果房の収穫果数が増加し, 早期収量が増加することが報告されている しかし, こうした頂果房の密度を高める方法は, 作業が煩雑であることから普及しなかった また, 本県産地では あまおう の厳寒期の収量を補填するため,10 月に定植して 1 月からの遅出しを行い, 収穫繁忙期に労力が不足すれば収穫を打ち切る組み合わせ作型が検討されてきた しかし, 慣行作型と同様の設備や労力が必要である一方, 遅出しで収量が劣るため収益性が確保できず, 遊休施設を活用するなど極一部を除き普及が見込めなかった そこで著者らは, 厳寒期に高収量を得られる栽培技術を確立すれば, 一定の収益性が確保され, 収穫繁忙期前に終了できる組み合わせ作型が実現可能と考えた このため, 果房連続性を考慮して初期生育を制限する必要がない頂果房のみでも, 高密植することで 2 月までに 3t/10a 以上の収量が得られる栽培技術の開発に取り組んだ これまでに密植時の株数を検討し, あまおう を慣行の 1.82.8 倍 ( 15,00018,000 株 /10a) に密植すると頂果房のみで 122 月までの収量が慣行の 1.4 倍の約 2.8t/10a を 受付 2015 年 8 月 3 日 ; 受理 2015 年 11 月 17 日

得られることを明らかにした ( 井上ら 2014) また, 密植に適した培土量が少なく低コストで作業性の良い小型紙製育苗ポットを開発し, その育苗方法を明らかにした ( 奥ら 2014) 本研究では, これまでの知見をもとに, 小型紙製育苗ポット苗を使った密植栽培の方法, 労働時間や収益性を明らかにし, 慣行作型と組み合わせることができ, 122 月の短期間で多収を得る新作型を開発したので報告する 材料および方法 本研究におけるすべての試験では, 供試品種は, あまおう とした 育苗は, 福岡県農林業総合試験場内の間口 7m, 長さ 25m の雨除けハウスで, 本圃の栽培は, 間口 7m, 長さ 25m の鉄骨ハウスで行った 施肥は, 基肥としてとよのか配合 ( 大日本産肥 ( 株 ) 製 ) を 10a 当たり N-P 2 O5-K 2 O=10.0-7.5-6.3kg, 追肥として OK-F-1 の 750 倍液を 10 a 当たり合計で N-P 2 O 5 -K 2 O = 5.0-2.7-5.7kg 施用した 冬期の電照処理は日長延長方式, 暖房は最低温度 5 設定で行った 定植時期は, 9 月 19 日頃の早期および 9 月 26 日頃の普通期の 2 時期とし, 栽培は, 新たに開発した容量 130mL の小型紙製育苗ポット ( 以下 小型紙ポット, 大石産業 ( 株 ) 製 ), 定植前マルチの種類として白黒ダブルマルチ ( 白色側を表面に使用, 以下 白マルチ ),10a 当たり栽植株数約 15,000 株を基本とし, 以下の試験を行った 1 育苗容器の種類が商品果の収量および作業時間に及ぼす影響試験区の構成は, 小型紙ポットおよび対照としてには容量 220mL の紙ポット ( 花菜ポット, 大石産業 ( 株 ) 製, 以下 紙ポット大 ), 普通期定植には容量 0360mL の 9cm ポリポット (( 株 ) 東海化成製 ) を用いた 育苗培土は, 小型紙ポットは試作専用培土, 紙ポット大および 9cm ポリポットは いちご専用培土 2 号 ( 両培土ともに清新産業 ( 株 ) 製 ) を用いた 採苗は, 2012 年 6 月 13 日に鉢上げ法で行い, 鉢上げ後 2 週間は寒冷紗被覆下で活着を促した 小型紙ポットは, 7.5cm ポット用 40 穴トレイ (( 株 ) 東海化成製 ) に 15 株 (91 株 / m 2 ), 紙ポット大および 9cm ポリポットは 9cm ポット用 24 穴トレイ ( 同製 ) に 12 株 (77 株 /m 2 ) を配置して育苗した 施肥は,IB 化成 S1 号を 2 粒 ( 6 月 26 日, 7 月 17 日に各 1 粒 ) 施用した 最終追肥は, が 8 月 21 日, 普通期定植が花芽分化を遅くすることを目的に 9 月 4 日に OK-F-1 の 750 倍液を 50mL/ 株施用した 定植は,, 普通期定植ともに花芽分化を確認後 2 条内なり方式で行った 試験規模は, 1 区 12 株 3 反復とした 商品果の収量の調査は, 早期に出蕾した第一次腋果房は摘除し, 頂果房のみについて 2 月まで行った ( 以下全ての試験で同じ ) 作業時間の調査は, 土詰め, 鉢上げ, 施肥および摘葉を含む育苗作業, 苗の運搬を含む定植作業について, 100 株当たりに要する時間を 9cm ポリポットを対照として調査した 2 定植前マルチの種類が商品果の収量に及ぼす影響試験区の構成は, 定植前マルチの種類として白マルチと黒マルチの 2 水準, 定植時期として (2011 年は低温暗黒処理 Ⅴ 型,2012 年は小型紙ポットによる ) と普通期定植の 2 水準とした 2011 年の試験は, 育苗容器に 9cm ポリポットを用い, 6 月 15 日に鉢受け法で採苗した 育苗時の施肥は,IB 化成 S1 号を 2 粒 (6 月 21 日, 7 月 15 日 ) 施用し, 最終追肥として, が 8 月 16 日, 普通期定植が 8 月 30 日に OK-F-1 の 750 倍液を 050mL/ 株施用した 低温暗黒処理は, 9 月 120 日の期間行った 定植は, が 9 月 20 日, 普通期定植が 9 月 22 日に頂果房の花芽分化を確認後, 畝幅 90cm, 株間 15cm の 2 条外なり方式 ( 14,800 株 /10a) で定植した 2012 年の試験は, 育苗は前述の試験 1 と同様とし, 定植は, が 9 月 19 日, 普通期定植が 9 月 26 日に 2 条内なり方式 ( 15,100 株 /10a) で定植した 試験規模は, 01 区 12 株 3 反復とした 商品果の収量の調査は, 前述の試験 1 と同様とした 3 栽植様式が商品果の収量に及ぼす影響小型紙ポットと定植前白マルチを利用した密植における栽植様式の違いが商品果の収量に及ぼす影響を検討した 試験区の構成は,10a 当たりの栽植株数として 15,000 株,12,000 株の 2 水準, 果房向きとして内なり, 外なりの 22 水準とした 内なりは, 畝幅 110cm の 2 条植え,12,000 株区が株間 15cm( 12,100 株 /10a),15,000 株区が同 12cm ( 15,100 株 /10a), 外なりは, 畝幅 90cm の 2 条植え, 12,000 株区が株間 18cm( 12,300 株 /10a),15,000 株区が株間 15cm( 14,800 株 /10a) とした 育苗, 定植および栽培管理は, 前述の育苗容器の試験 1 と同様とした 試験規模は, 1 区 12 株 3 反復とした 商品果の収量の調査は, 前述の試験 1 と同様とした 結果 1 育苗容器の種類が商品果の収量および作業時間に及ぼす影響花芽分化時期は, 最終追肥を 8 月 21 日に行ったが 9 月 19 日, 最終追肥を 9 月 4 日に行った普通期定植が 9 月 26 日となった 育苗容器の種類が商品果の収量に及ぼす影響を第 1 表に示した における小型紙ポットの商品果の収量は, 期間計が 3.31t/10a と対照の紙ポット大と差がなく, 月別収量も差がなかった 普通期定植における小型紙ポットの商品果の収量は, 期間計が 3.04t/10a と対照の 9cm ポリポットと差がなく, 月別収量も差がなかった 平均果重, 株当たりの果数および株当たり収量は, 早期, 普通期の両定植時期とも対照との差がなかった 次に, 育苗容器の種類による作業時間を第 2 表に示した 小型紙ポットにおける育苗での作業時間は,80min/ 100 株 / 人と対照の 9cm ポリポットの 95% とほぼ同等であった 一方, 定植での作業時間は, 小型紙ポットが 51min/100 株 / 人と対照に比べて 49% と少なく, 育苗から

定植までの合計時間も,131min/100 株 / 人と対照に比べて 70% と少なかった 2 定植前マルチの種類が商品果の収量に及ぼす影響福岡県太宰府市のアメダス観測点における 10,11 月の平均気温は,2011 年が各々 18.7,15.2 と, 平年に比べて各々 0.9,2.8 高温であり,2012 年は各々 18.0, 11.6 と平年に比べて各々 0.2,-0.8 の平年並 低温であった 10,11 月が高温であった 2011 年のマルチの種類と時期別の平均地温を第 3 表に示した 白マルチの平均地温は, 対照の黒マルチに比べて 10 月まで低い傾向であり,12 月以降の厳寒期は対照と差がなかった 定植前マルチの種類が商品果の収量に及ぼす影響を第 04 表に示した 2011 年については, では, 白マルチの商品果の収量は, 1 月が対照の黒マルチに比べて多く, 期間計が 2.63t/10a と対照に比べて 0.49t 多かった 株当たり収量は 177.7g/ 株と対照に比べて 32.8g 多かった 普通期定植では, 商品果の収量は 12 月が対照に比べて多く, 期間計が 3.45t/10a と対照に比べて 0.58t 多かった 株当たり収量は 233.0g/ 株と対照に比べて 39.0g 多かった 2012 年については, 白マルチの商品果の収量は, 期間計ではが 3.31t/10a, 普通期定植が 3.04t/10a と両定植時期とも対照と差がなかった 株当たり収量は, 早期および普通期の両定植時期とも対照と差がなかった 第 1 表育苗容器の種類が商品果の収量, 平均果重, 株当たり果数および株当たり収量に及ぼす影響 (2012 年 ) 定植時期 普通期定植 育苗容器の種類 商品果収量 (t/10a) 12 月 1 月 2 月期間計 平均果重 (g) 株当たり果数 ( 個 / 株 ) 株当たり収量 (g/ 株 ) 小型紙ポット 0.46 ns 1) 2.01 ns 0.84 ns 3.31 ns 18.0 ns 12.2 ns 218.9 ns 紙ポット大 ( 対照 ) 0.51 2.02 0.88 3.41 18.6 12.2 225.8 小型紙ポット 0.34 ns 1.97 ns 0.74 ns 3.04 ns 21.6 ns 9.3 ns 201.3 ns 9cm ホ リホ ット ( 対照 ) 0.44 1.65 1.02 3.12 21.7 9.6 206.4 1) 表中,ns は有意差無し (t 検定 ) 2) 2 条内なり栽培,15,100 株 /10a, 定植前白マルチ 育苗容器 第 2 表育苗容器の種類と作業時間 育苗 1) 作業時間 定植 小型紙ポット 80 (95) 3) 51 (49) 131 (70) 9cm ポリポット 84 (100) 105 (100) 189 (100) 1) 育苗は, 土詰め 鉢上げ 摘葉作業を含む 2) 定植は, 苗の運搬 定植作業を含む 3) ( ) 内は,9cm ホ リホ ットの作業時間を 100 とした場合の割合 4) 作業条件は,2 条内なり (14,800 株 /10a) 2) 合計 (min/100 株 / 人 )(min/100 株 / 人 )(min/100 株 / 人 ) 第 3 表マルチの種類と時期別平均地温 (2011 年 ) マルチの種類 10/4 10/14 平均地温 1) ( ) 10/20 10/30 11/4 12/10 12/11 2/23 白マルチ 21.1 18.7 17.6 12.6 黒マルチ 22.0 19.2 17.8 12.6 1) Thermo Recorder TR-52(T&D 社製 ) で株間の深さ 10cm の地温を測定 定植時期 年度 2011 年 2012 年 第 4 表マルチの種類が商品果の収量, 株当たり収量に及ぼす影響 マルチの種類 商品果収量 (t/10a) 12 月 1 月 2 月期間計 株当たり収量 (g/ 株 ) 白マルチ 1.33 ns 1) 0.77 * 0.53 ns 2.63 * 177.7 * 黒マルチ ( 対照 ) 1.32 0.58 0.25 2.14 144.9 白マルチ 0.46 ns 2.01 ns 0.84 ns 3.31 ns 218.9 ns 黒マルチ ( 対照 ) 0.36 2.09 1.02 3.48 230.3 白マルチ 1.22 * 1.29 ns 0.94 ns 3.45 * 233.0 * 2011 年黒マルチ ( 対照 ) 0.69 1.27 0.91 2.87 194.0 普通期定植白マルチ 0.34 ns 1.97 ns 0.74 ns 3.04 ns 201.3 ns 2012 年黒マルチ ( 対照 ) 0.37 1.99 0.96 3.31 219.5 1) 表中,* は 5% 水準で有意差有り,ns は有意差無し (t 検定 ) 2) 栽植様式 :2011 年は 2 条外なり (14,800 株 /10a),2012 年は 2 条内なり (15,100 株 /10a), 電照加温栽培

定植前マルチの種類が商品果の株当たり果数および平均果重に及ぼす影響を第 5 表に示した 2011 年については, 白マルチのでは, 株当たり果数は 2 月および期間計が各々 3.1,10.1 個 / 株と対照の黒マルチに比べて多かった 平均果重は, 1 月が 15.1g と対照に比べて重かった 普通期定植では, 株当たり果数は 12 月および期間計が各々 2.3,11.7 個 / 株と対照に比べて多かった 平均果重は差がなかった 2012 年については, 株当たり果数は, 普通期定植では期間計が 9.3 個 / 株と対照より少なかった 平均果重は, 早期および普通期の両定植時期とも対照と差がなかった 3 栽植様式が商品果の収量に及ぼす影響小型紙ポット苗および定植前白マルチを利用した条件における あまおう の栽植様式の違いが商品果の収量に及ぼす影響を第 6 表に示した については, 商品果の株当たり果数は,15,000 株が内なり, 外なりとも 012.2 個 / 株と 12,000 株に比べて各々 1.0,0.5 個少なか った 株当たり収量は,15,000 株が内なりで 218.9g/ 株, 外なりで 236.5g/ 株と 12,000 株に比べて各々 41.1,14.1 g 少なかった 平均果重は, 株数の違いによる差がなかった 一方, 商品果の収量は, 1 月に 15,000 株が内なりで 2.01t/10a, 外なりで 2.23t/10a と 12,000 株に比べて各々 0.15,0.44t 多く, 期間計でも 15,000 株が内なりで 3.31t*/10a, 外なりで 3.50t/10a と 12,000 株に比べて各々 0.16,0.42t 多かった 果房向きの違いによる差はなかった 普通期定植については, 商品果の平均果重, 株当たり果数および株当たり収量は, 株数の違いによる差がなかった 商品果収量は, 1 月に 15,000 株が内なりで 1.97*t/10a, 外なりで *1.98t/10a と 12,000 株に比べて各々 0.22,0.21t 多かったが, 期間計には差がなかった 果房向きの違いでは, 株当たり果数が, 外なりが 15,000 株で :10.5 個 / 株,12,000 株で 11.0 個 / 株と内なりに比べて各々 1.5,0.5 個多かったが, 収量, 平均果重および株当たり収量には差がなかった 定植時期 普通期定植 第 5 表マルチの種類が商品果の時期別の株当たり果数および平均果重に及ぼす影響 年度 2011 年 2012 年 2011 年 2012 年 マルチの種類 株当たり果数 ( 個 / 株 ) 平均果重 (g) 12 月 1 月 2 月期間計 12 月 1 月 2 月 白マルチ 3.6 ns 1) 3.5 ns 3.1 * 10.1 * 25.2 ns 15.1 * 11.8 ns 17.6 ns 黒マルチ ( 対照 ) 3.1 3.3 1.7 8.5 24.8 11.9 9.4 17.1 白マルチ 0.8 ns 5.6 ns 5.8 ns 12.2 ns 37.8 ns 23.8 ns 9.6 ns 18.0 ns 黒マルチ ( 対照 ) 0.6 5.3 6.6 12.5 34.8 26.3 10.2 18.4 白マルチ 2.3 ** 4.3 ns 5.2 ns 11.7 * 36.3 ns 20.3 ns 12.2 ns 19.9 ns 黒マルチ ( 対照 ) 1.3 3.8 5.1 10.2 35.6 22.6 12.1 19.0 白マルチ 0.6 ns 4.7 ns 4.1 ns 9.3 * 40.4 ns 28.7 ns 11.8 ns 21.6 ns 黒マルチ ( 対照 ) 0.6 5.1 5.1 10.7 42.0 26.7 12.0 20.6 1) 表中,** は 1%,* は 5% 水準で有意差有り,ns は有意差無し ( 片側 t 検定 ) 2) 栽植様式 :2011 年は 2 条外なり (14,800 株 /10a),2012 年は 2 条内なり (15,100 株 /10a), 電照加温栽培 第 6 表栽植様式の違いが商品果の収量, 平均果重, 株当たり果数および株当たり収量に及ぼす影響 (2012 年 ) 栽植様式商品果収量 (t/10a) 平均果重株当たり果数株当たり収量定植時期株数果房向き 12 月 1 月 2 月期間計 (g) ( 個 / 株 ) (g/ 株 ) 1) 15,000 株内なり 0.46 2.01 0.84 3.31 18.0 12.2 218.9 外なり 0.30 2.23 0.98 3.50 19.5 12.2 236.5 12,000 株内なり 0.53 1.86 0.76 3.15 19.7 13.2 260.0 外なり 0.54 1.79 0.76 3.08 19.8 12.7 250.6 分散分析株数 (A) ns 2) ** ns ** ns ** ** 果房向き (B) ns ns ns ns ns ns ns 交互作用 (A) (B) ns ns ns ns ns ns ns 15,000 株 内なり 0.34 1.97 0.74 3.04 21.6 9.3 201.3 普通期定植 外なり 0.30 1.98 1.00 3.28 21.0 10.5 221.6 12,000 株内なり 0.38 1.75 0.73 2.85 21.9 10.8 235.9 外なり 0.43 1.77 0.64 2.84 21.0 11.0 230.6 分散分析 株数 (A) ns * ns ns ns ns ns 果房向き (B) ns ns ns ns ns ** ns 交互作用 (A) (B) ns ns ns ns ns ns ns 1) 15,000 株の実際の栽植株数は, 内なり 15,100 株 /10a, 外なり 14,800 株 /10a,12,000 株では, 内なり 12,100 株 /10a, 外なり 12,300 株 /10a 2) 表中,** は 1%,* は 5% 水準で有意差有り,ns は有意差無し (2 元配置分散分析 ) 期間計

考察 著者らは, 慣行作型と組み合わせて あまおう の 12 2 月の出荷量を増やすことができる新しい作型を開発するために, 小型紙ポットの密植適性, 定植前マルチの効果, 適正な栽植密度, 新作型導入効果について検討した まず, 密植栽培では慣行栽培に比べ 2 倍以上の苗が必要となることから, 低コストで作業性に優れた育苗容器の種類を検討した これまでイチゴでは, 苗の移動や定植作業を省力化するために育苗容器の小型化として, 容量 115mL の小型ポット棚式育苗の開発 ( 伏原ら 1995) や, 容量 130mL のセルトレイ育苗の利用 ( 石井 常磐 2003, 吉田 森本 2010) が行われてきた しかし, ポリポットに比べて導入費が高く, 容器が嵩張るため定植時の回収が煩雑である 一方, 蒸発潜熱で培地温が下がる紙ポット ( 荒木ら 2005) は, 低温処理を行わなくても花芽分化が促進され, 直接定植ができるため省力的な育苗容器である 著者らが新たに開発した容量 130mL の小型紙ポット ( 奥ら 2014) は, 紙製で導入コストが安く, 直接定植することができる 本試験では, 定植の作業時間が慣行の 9cm ポリポットを使った場合の 49% と省力的であることが明らかとなった また, 農家では気象変動や定植作業の集中を回避するため, 経営規模等に応じて早期 普通期の作型構成を行っている ここへ新たな作型を組み合わせる場合, 定植時期の競合を避け, 収量の補填効果の高い時期に収穫期間を設定する必要がある 密植では多数の苗を必要とすることから, 低温処理による花芽分化促進はコストが高く, 実施が困難である その中で, 小型紙ポットは, 低温処理を行わなくても あまおう では低温暗黒処理 Ⅴ 型並に花芽分化が促進される また, 最終追肥時期を遅くすると普通作型並の花芽分化時期となることから, 低コストで定植時期の設定が可能である さらに本試験の結果, 培土容量の多い容器と比べて減収しないことも確認され, 作業の省力性, 花芽分化の促進効果, 収量性において密植栽培に適した育苗容器であると考えられた 次に, 慣行作型では第一次腋果房の花芽分化を誘導するため, 地温が上昇しないよう定植後の 10 月中旬頃にマルチ被覆が行われているが, 新作型は慣行作型に比べて約 2.2 倍の密植であり定植後のマルチは作業が非常に煩雑となる マルチ作業の省力化としては, 定植前マルチが定植後マルチに比べて作業時間が約 1/3( 三井 伏原 1997), 約 1/4( 石井 常磐 2003) になることが報告されている 新作型は頂果房のみを収穫するため, 高温による腋果房の花芽分化遅延を考慮する必要がないことから定植前マルチを基本とした しかし, 果実発育期の気温が低いほど成熟日数が長くなり果重が重くなる ( 熊倉 宍戸 1994) こと, 雌ずい分化の早い時期に高温に遭遇すると果実当たりのそう果数が減少して果重が小さくなる ( 森 1998) ことから, 定植前マルチでは高温が頂果房の生育に影響することも考えられる イチゴは生長点が地表面に近く, 果実も地表面のマルチ上で成熟するため, 地温の影響を受けやすいことから, マルチの種類を検討した その結果,10,11 月が高温であった 2011 年は, 白マルチの 10 月の地温が黒マルチに比べて低く, 株および 10a 当たりの商品果収量が多い結果となった 夏秋イチゴでは白マルチは黒マルチに比べて晴天日の地温上昇を抑え, 79 月の収量が多い傾向である ( 岩瀬ら 1994) ことが報告されており, 促成栽培の本試験でも同様の結果であった その中で, 白マルチの平均果重は, 最も高温の影響を受けたと考えられる 12 月収穫の果実においても黒マルチとの差がなく, 果重に対する白マルチの昇温抑制効果は認められなかった 一方, 白マルチの株当たりの商品果数は, では 2 月と期間計, 普通期定植では 12 月と期間計が対照より多く, このことが商品果収量を多くした要因と考えられた 頂果房の花数は, 苗が大きく, 花芽分化後の体内窒素レベルが高い方が多くなる ( 植松 1998) ことから, 白マルチは黒マルチに比べて定植後の根域の地温が低く, 根の活性低下が緩和されたため, 定植後の養分吸収に優れ, 花数が増えた結果, 商品果数が増加したものと推察された これらのことから, 定植後の高温による初期生育への影響を抑えるためには, 定植前マルチの種類として白マルチが適していると考えられた さらに, これまでに明らかにした小型紙ポット, 定植前白マルチを利用して密植の栽植様式の違いが商品果の収量に及ぼす影響を検討した あまおう の高設栽培では, 株間 15.0,17.5,20.0cm の中では株間が狭いほど株当たり収量および果数が減少するものの, 121 月の 10a 当たり収量は多くなる ( 田中ら 2011) こと, 寒冷地における 女峰, とちおとめ, さちのか, 北の輝 の秋どり栽培では, 株間を 25cm から 20,15cm と狭めて栽植密度を上げると株当たり収量および果数が減少するが, 面積当たり収量は さちのか を除く 13 品種で多い傾向がみられた ( 山崎ら 2007) ことが報告されている 本試験においてもこれらの報告と同様に, では株当たり商品果数および商品果収量は,15,000 株が 12,000 株に比べて少なくなったものの,10a 当たりの商品果収量は 1 月および期間計で多くなった また, 普通期定植では株当たり商品果数および商品果収量は差が認められず,10a 当たりの商品果収量が 12,000 株に比べて 11 月で多くなった 冬期の寡日照時期を経過する慣行の促成栽培では, 密植すると葉の相互遮蔽により出葉速度が遅くなり冬期の生育が遅延するため, 全期間を通じた収量も思うように伸びないが, 頂果房だけの短期間の収穫であれば相互遮蔽の悪影響が小さく, 密植による増収効果を大きく活用できたためと考えられる これらのことから, 本作型における株数は 15,000 株が適していると考えられた 果房の向きについては, 株および 10a 当たり商品果収量に差が認められなかったことから, 収穫などの作業性を考慮すると作業者や台車が果実へ接触することが少ない内なりが適していると考えられた 以上のことを基本に本試験で開発した新作型を第 1 図に示した 新作型は, 白マルチを被覆したほ場に, 小型紙ポット苗を 9 月中下旬に 15,000 株 /10a 密植し,12

商品果収量 (t/30a) 労働時間 (h) 02 月の厳寒期に頂果房のみを収穫する この期間に平均果重 1722g, 株当たり 912 個の商品果が収穫でき, 商品果収量 3t/10a を得ることが可能である 次に新作型 10a と慣行作型 20a を組み合わせた場合の旬別の収量および労働時間の試算を第 2 図に示した 慣行作型で収量の少ない 122 月が新作型の収量で補完され, 慣行作型の収穫最盛期である 34 月の収量に近づき, 旬別の収量が平準化される また, 慣行作型の繁忙期である 3 月下旬の総労働時間は現状の 284 時間を超えないことから, 現行労力で新作型の導入が可能である さらに新作型 10 a の経営試算例を第 7 表に示した 新作型では収量 3t の粗収益が 425 万円, 新たに必要な小型紙ポット関連の資材費 14 万円を加えた生産経費が 100 万円, 販売経費 74 万円, 施設 機械の償却費 93 万円となり, 所得が 157 万 円と一定の収益性が見込まれる 第 7 表新作型の 10a 当たり経営試算例 収 量 3.0 t 粗 収 益 4,246 千円 生 産 経 費 小型紙ポット資材費 140 その他 860 販 売 経 費 744 償 却 費 931 所 得 1,571 1) 経営技術支援課資料を基礎に算出 2) 償却費は, パイプハウス及び付帯施設新調価格による 3) ポットトレイは,4 年使用の場合 作型 厳寒期どり 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上中下上 鉢上げ :6/ 中旬 ( 小型紙ポット ) 定植 :9/19 頃 液肥 (* 最終追肥 ) ビニル 1 回目 2 回目 *8/21 頃マルチ ( 白 ) 加温開始 置肥 定植 :9/26 頃 ビニル *9/4 頃 マルチ ( 白 ) 加温開始 1) 収穫盛期収穫盛期 第 1 図イチゴ あまおう の厳寒期どり新作型図 1) 冬季のハウス管理は, 加温設定温度 5 2.0 1.5 1.0 新作型 3.1t/10a 1) 慣行作型 9.6t/20a 2) 400 300 200 新作型 + 慣行作型の 2 月までのピーク時 12 月下旬 :246h 慣行作型のピーク時 3 月下旬 :284h 0.5 100 0.0 0 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 : 新作型 10a : 慣行 ( 早期 + 普通期 ) 作型 20a 第 2 図イチゴ あまおう の新作型 (10a) を慣行作型 (20a) に組み合わせた場合の旬別の収量と労働時間試算 1) 新作型の収量は,2011 年,2012 年の 2 か年平均値 2) 慣行作型の収量は, 県経営技術支援課資料を基に算出

謝辞 本作型を開発するにあたり, 精緻な試験区設置や栽培管理に精力的に取り組み, 開発を支えてくださった福岡県農林業総合試験場野菜部瀬戸口章氏, 前野菜部大熊サヨ子氏に深く感謝します 引用文献 荒木陽一 山口博隆 大石高也 倉田義宣 古野博久 坂口浩二 (2005) イチゴの花芽分化を促進する紙ポットの開発. 園学雑 74 別 1:308. 伏原肇 林三徳 柴戸靖志 山下満 宮崎虎男 (1995) イチゴ棚式育苗システムの開発第 1 報器材の開発. 福岡農総試研報 14:57-60. 井上惠子 小賦幸一 水上宏二 奥幸一郎 (2014) イチゴ あまおう における栽植様式が厳寒期の収量 品質に及ぼす影響. 園学研 13 別 2:236. 石井睦美 常磐秀夫 (2003) セル苗を利用したイチゴの定植時マルチ栽培. 東北農業研究 56:209-210. 岩瀬利己 北山美子 細井昭一郎 (1994) 遮光及びマルチ処理が夏秋イチゴの収量 品質に及ぼす影響. 東北農業研究 47:283-284. 北島伸之 佐藤公洋 (2008) イチゴ あまおう の早期作型における定植後の遮光処理による第 1 次腋果房の花芽分化促進. 福岡農総試研報 27:53-57. 熊倉裕史 宍戸良洋 (1994) イチゴの果実肥大に及ぼす温度の影響. 園学雑 62:827-832. 松村雅彦 (1994) 促成イチゴにおける栽培条件の違いが生育, 果実収量及び品質に及ぼす影響. 静岡農試研報 39:29-39. 三井寿一 藤田幸一 末吉孝行 伏原肇 (2003) イチゴ新品種 福岡 S6 号, 福岡 S7 号 の育成. 福岡農総試研報 22:61-68. 三井寿一 伏原肇 (1997) 小型ポット苗を利用したイチゴ促成栽培における定植前マルチングの影響. 福岡農総試研報 16:48-52. 三井寿一 伏原肇 (1999) イチゴ とよのか の促成栽培における収穫終了株を活用した 2 芽苗の利用技術. 福岡農総試研報 18:52-57. 水上宏二 小田原孝治 (2007) 福岡県におけるイチゴ あまおう の早期作型で 12 月に安定出荷するための有機配合肥料による最適基肥量. 福岡農総試研報 26:85-88. 森利樹 (1998) 花芽形成期の温度がイチゴ果実のそう果数と果重に及ぼす影響. 園学雑.67(3):396-399. 農林水産省 (2014) 平成 25 年農業産出額及び生産農業所得 都道府県別. 農林水産省大臣官房統計部経営 構造統計課, 東京,http://www.maff.go.jp/j/tokei/ kouhyou/nougyou_sansyutu/index.html#r(2015 年 2 月 19 日閲覧 ) 奥幸一郎 小賦幸一 水上宏二 井上惠子 大石高也 (2014) イチゴ あまおう の厳寒期どり多収栽培に適した小型紙ポットの開発. 園学研 13 別 2:441. 田中良幸 姫野修一 田中浩平 林田達也 (2011) イチゴ あまおう の高設栽培における定植時期の株間が生育, 収量および品質に及ぼす影響. 福岡農総試研報 30:60-65. 植松徳雄 (1998) イチゴ栽培の理論と実際. 誠文堂新光社, 東京,p.40-44. 山崎浩道 濱野惠 矢野孝喜 今田成雄 森下昌三 (2007) 寒冷地でのイチゴ秋どり栽培における定植時の株間が生育 収量に及ぼす影響. 東北農業研究 60:179-180. 吉田裕一 森本由香里 (2010) トレイ育苗したイチゴ 女峰 の花芽分化と開花に及ぼす挿し苗時期と施肥中断時期の影響. 岡山大学農学部学術報告 99:49-53.