Title 大学生のデートDVの実態 (1) 沖縄大学学生へのアンケート調査における被害 加害の実態 Author(s) 西村, 愛里 Citation 地域研究 = Regional Studies(12): 57-73 Issue Date 213-9-3 URL http://hdl.handle.net/2.5.121/ Rights 沖縄大学地域研究所
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) 地域研究 12 213 年 9 月 57-73 頁 The Institute of Regional Studies, Okinawa University Regional Studies 12 September 213 pp.57-73 大学生のデート DV の実態 (1) 沖縄大学学生へのアンケート調査における被害 加害の実態 * 西村愛里 The Actual Condition of the University Student's Dating Violence(1) Realities of Damage and Doing Damage in the Questionnaire Survey of Okinawa University Stuedents NISHIMURA Eri 要旨本稿は 212 年度に沖縄大学学生を対象として行ったデートDV 実態調査の報告である 調査の結果 デートDVの被害経験が一度でもあると答えた者は全体の37.1% であり 加害経験が一度でもあると答えた者は29.8% であった 被害 加害の経験があるにも関わらず 回答者には暴力として認識されていない現状が浮かび上がった キーワード :DV デートDV 1. はじめに暴力はあってはならない行為であるが 現実には後を断たない 暴力は加害者と被害者が支配 / 被支配の関係になっている とりわけ深刻なのは親密な関係の間で起こる暴力行為である 親密な関係は一般に 親子関係や夫婦関係 恋人関係などの 私的領域 を指すと考えられている そのような 私的領域 の人間関係は 相互の支え合いや情緒的な交流など 個人にとって重要であることが多い 一方で 親密な関係は閉鎖的という特性をあわせ持つため ⅰ 第三者には その関係の実態が見えづらいという特徴がある 閉鎖性によって関係の親密さは増すが それは親密な関係の間で起こる暴力行為が深刻になる要因でもある 親密な関係の間で起こる暴力として想起しやすいものは配偶者間の暴力であるDVであろ * 沖縄大学地域研究所特別研究員 n_bbbg@hotmail.com 57
う しかし 未婚の恋人間にも 一般のDVと類似した暴力行為が発生していることが 近年の調査 研究により明らかになり始めている DVは交際期間からはじまっているという指摘もあり デートDVの早期発見と支援の早期介入を求める声は多い デートDVの早期発見及び早期支援のためには まずデートDVの実態を把握しなければならない そこで筆者は 212 年度に沖縄大学において デートDVの実態調査を行った 本稿では 沖縄大学学生を対象としたアンケート調査におけるデートDVの被害や加害の実態を報告する なお 本稿では字数の都合上 デートDVの被害及び加害の実数にとどめ その他の結果については次号に報告する 2. 方法 ⑴ 対象沖縄大学に在籍している法経学部及び人文学部の学生を調査対象とした アンケートに回答した472 人 ( 女性 211 人 男性 25 人 不明 11 人 ) のうち 調査の主旨から 現在に至るまでに交際相手がいたかについて質問し 交際相手がいた ( いる ) 交際相手ではないが 友だち以上の親密な関係だと思う相手がいた ( いる ) と回答した者を分析対象とした データに欠損のある場合を除いた272 人 ( 女性 134 人 男性 138 人 ) について分析を行った ⑵ 調査内容内閣府 ⅱ 沖縄県 ⅲ などの先行調査を基に質問事項を抽出し デートDV 被害 加害経験を問う項目 ( 各 15 項目 ) 被害経験後の交際相手との関係を問う項目 ( 計 4 項目 ) デートDV の被害 加害経験の相談を問う項目 ( 各 2 項目 ) デートDVの認知度を問う項目(1 項目 ) デートDVの相談を受けた経験を問う項目 (2 項目 ) などを設定した なお回答の際には 回答者自身が 現在または過去の交際相手のなかで印象的だと思う1 人について回答するよう その旨記載した ⑶ 調査の手続き実施期間は212( 平成 24) 年 6 月 27 日から7 月 14 日で 無記名式による集団実施とした 講義時間内にアンケート用紙の配布を行い 調査の主旨を説明し 任意での回答を求めた ⑷ 分析方法集計結果は単純集計した 必要に応じて 男女間での意識差を検討するためにχ 2 検定を行った 分析には統計パッケージSPSSを使用した 自由記述については 記述内容を適宜掲載した 58
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) 3. 調査結果 ⑴ 対象者内訳 272 人のうち 男性 138 人 (5.7%) 女性 134 人 (49.3%) であった 年齢は18 歳から36 歳で 平均年齢 19.9 歳であった 学年は 1 年生 15 人 (38.6%) 2 年生 67 人 (24.6%) 3 年生 64 人 (23.5%) 4 年生 36 人 (13.2%) である 所属学科は 法経学科 38 人 (14.%) 国際コミュニケーション学科 12 人 (4.4%) 福祉文化学科 23 人 (74.6%) こども文化学科 19 人 (7.%) であった 交際相手と知り合ったきっかけとしては 学校 ( 大学含む ) 167 人 (61.4%) に続いて 友人からの紹介 51 人 ( 18.8%) アルバイト 23 人 ( 8.5%) インターネット 11 人 ( 4.%) ナンパ 6 人 (2.2%) 合コン 3 人 (1.1%) であった 交際相手と知り合ったきっかけに性差は認められなかった 交際期間は 半年未満 66 人 (24.3%) 半年以上 1 年未満 53 人 (19.5%) 1 年以上 2 年未満 68 人 (25%) が約 7 割を占めたが 2 年以上 3 年未満 39 人 (14.3%) 3 年以上 38 人 (14.%) と長期間交際している者も把握できた ⑵ デートDV 被害経験の実態デートDV 被害経験を問う15 項目について 何らかの被害行為を 一度でも受けたことがある と答えた者は272 人中 11 人 (37.1%; 女性 55 人 男性 46 人 ) であった ⅳ 被害を受けるまでの期間について 交際して半年以内 56 人 ( 55.4%) 交際して1 年以内 24 人 (23.7%) と答えた者が約 8 割に上ることから 短期間のうちに交際相手との間に暴力が発生し始めている可能性がある ただし 少数ではあるが 交際前から の被害経験も 9 人 (8.9%) 存在することから 交際前からの行為が交際後も引き続き行われていることに注意が必要である ⅴ また 性的関係を持つ前に被害を受けた と答えた者は 32 人 (31.6%) であるのに対し 性的関係を持ったあとに被害を受けた と答えた者は6 人 ( 59.4%) であった 性的関係と 親密な関係における暴力との間に何らかの関連が見られることが推察される 以下の表には 被害経験を問う15 項目の詳細を示した 一度でも受けたことがある と回答した者の割合をみていく 男女間の有意差を検討するためχ 2 検定を行った 有意差が認められた場合は記述している 身体的暴力を問う5 項目について 問 5(A) 命の危険を感じるくらいの身体的な暴力を受ける 5 人 (1.8%) 問 5(B) 手でたたかれたり 殴ったりされる 29 人 (1.7%) 問 5(C) 足で蹴られる 18 人 (6.6%) 問 5(D) 髪の毛を引っ張られたり 引きずり回したりされる 8 人 (2.9%) 問 5(E) 物を使った暴力を受ける 1 人 (3.6%) であった ( 表 1) 全体として身体的暴力を経験している割合は少数ではあるが 男女ともに被害経験を有していることが確認された 59
表 1 身体的暴力を問う 5 項目 (A) 命の危険を感じ 2(.7) 3(1.1) 267(98.2) るくらいの身体的な 女性 2(1.5) 1(.7) 131(97.8) 暴力を受ける 男性 2(1.4) 136(98.6) (B) 手でたたかれた 4(1.5) 8(2.9) 17(6.3) 243(89.3) り 殴ったりされる 女性 3(2.2) 6(4.5) 6(4.5) 119(88.8) 男性 1(.7) 2(1.4) 11(8.) 124(89.9) (C) 足で蹴られる 2(.7) 4(1.5) 12(4.4) 254(93.4) 女性 1(.7) 3(2.2) 5(3.7) 125(93.4) 男性 1(.7) 1(.7) 7(5.1) 129(93.5) (D) 髪の毛を引っ張 2(.7) 6(2.2) 264(97.1) られたり 引きずり 女性 2(1.5) 5(3.7) 127(94.8) 回されたりする 男性 1(.7) 137(99.3) (E) 物を使った暴力 2(.7) 8(2.9) 262(96.3) を受ける 女性 1(.7) 4(3.) 129(96.3) 男性 1(.7) 4(2.9) 133(96.4) 精神的暴力を問う3 項目については 問 5(F) 何を言っても 長い時間無視される 24 人 (8.8%) 問 5(G) ばかにした言葉や 汚い言葉を言われる 22 人 (8.1%) 問 5(H) 大声で怒鳴られる 33 人 (12.2%) であった ( 表 2) 表 2 精神的暴力を問う 3 項目 (F) 何を言っても 5(1.8) 3(1.1) 16(5.9) 248(91.2) 長い時間無視される 女性 2(1.5) 1(.7) 8(6.) 123(91.8) 男性 3(2.2) 2(1.4) 8(5.8) 125(9.6) (G) ばかにした言葉 3(1.1) 7(2.6) 12(4.4) 25(91.9) や 汚い言葉を言わ 女性 2(1.5) 6(4.5) 5(3.7) 121(9.3) れる 男性 1(.7) 1(.7) 7(5.1) 129(93.5) (H) 大声で怒鳴られ 7(2.6) 7(2.6) 19(7.) 239(87.9) る 女性 5(3.7) 5(3.7) 13(9.7) 111(82.9) 男性 2(1.4) 2(1.4) 6(4.3) 128(92.9) 6
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) 性的暴力を問う2 項目について 問 5(I) 嫌がっているのに 避妊に協力しない 13 人 (4.8%) 問 5(J) 嫌がっているのに 性的行為を強要される 17 人 (6.2%) であった ( 表 3) 男性より女性に被害が多く 問 5(I) 嫌がっているのに 避妊に協力しない (χ 2 (3)=11.146, p<.5) 問 5(J) 嫌がっているのに 性的行為を強要される (χ 2 (3) =14.86, p<.1) と性別による有意差が認められた (I) 嫌がっているのに 避妊に協力しない (J) 嫌がっているのに 性的行為を強要される 表 3 性的暴力を問う 2 項目 1(.4) 3(1.1) 9(3.3) 259(95.2) 女性 1(.7) 2(1.5) 9(6.7) 122(91.1) 男性 1(.7) 137(99.3) 1(.4) 8(2.9) 8(2.9) 255(93.8) 女性 1(.7) 7(5.2) 8(6.) 118(88.1) 男性 1(.7) 137(99.3) 経済的暴力を問う2 項目について 問 5(K) 交際費を出させられる 21 人 (7.7%) 問 5(L) 貸したお金や物を返してくれない 14 人 (5.2%) であった ( 表 4) (K) 交際費を出させられる (L) 貸したお金や物を返してくれない 表 4 経済的暴力を問う 2 項目 2(.7) 9(3.3) 1(3.7) 251(92.3) 女性 2(1.5) 7(5.2) 5(3.7) 12(89.6) 男性 2(1.4) 5(3.7) 131(94.9) 3(1.1) 1(.4) 1(3.7) 258(94.9) 女性 3(2.2) 1(.7) 7(5.2) 123(91.9) 男性 3(2.2) 135(97.8) 社会的暴力を問う3 項目については 問 5(M) 勝手に携帯電話を見られる 41 人 ( 15.1% ) 問 5(N) 家族や友人との関係を制限される 34 人 (12.5%) 問 5(O) メールや電話を返さないと不機嫌になり 怒られる 63 人 (23.2%) であった ( 表 5) 被害経験を 一度でも受けたことがある と答えた11 人に対して 暴力を受けたあとの生活上の変化について複数回答で聞いた 5 心身が不調になった (18.2%) 4 夜 眠れなくなった (1.1%) について自覚されていたが 8 特にない (68.7%) が多いことがわかっ 61
(M) 勝手に携帯電話を見られる (N) 家族や友人との関係を制限される (O) メールや電話を返さないと不機嫌になり 怒られる 表 5 社会的暴力を問う 3 項目 13(4.8) 13(4.8) 15(5.5) 231(84.9) 女性 9(6.7) 8(6.) 9(6.7) 18(8.6) 男性 4(2.9) 5(3.7) 6(4.3) 123(89.1) 11(4.) 7(2.6) 16(5.9) 238(87.5) 女性 8(6.) 5(3.7) 9(6.7) 112(83.6) 男性 3(2.2) 2(1.4) 7(5.1) 126(91.3) 16(5.9) 25(9.2) 22(8.1) 29(76.8) 女性 8(6.) 13(9.7) 7(5.2) 16(79.1) 男性 8(5.8) 12(8.7) 15(1.9) 13(74.6) た 8 特にない と回答した者は男女ともに最も多いが 男性の割合の方が高い 8 特にない と 7その他 以外のすべての項目で 男性より女性の該当者が多かった 1 学校をやめた 変えた と 3 外出するのが怖くなった の項目に回答したのは女性のみであった ( 図 1) 図 1 生活上の変化 n 98 M.T 117.8% n 53 M.T. 126.5% n 45 M.T 111.2% % 77.8 68.7 66. 1. 1.9 3.3 3.8 5.7 2.2 3.3 13.2 1.1 6.7 2.8 18.2 15.6 9.4 6.1 7.1 5.7 6.7 2.2 被害を経験した者に 被害経験後の交際相手との関係について尋ねた 相手と別れた 16 人 (15.8%) はわずかで 別れたい ( 別れよう ) と思ったが 別れなかった 16 人 (15.8%) 62
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) と 別れたい ( 別れよう ) とは思わなかった 59 人 (58.4%) が多いことから 何らかの被害経験がありながらも交際関係が継続されていることが示された 親密な関係の中で起こる暴力の特殊性から 被害者と加害者の間には暴力による心理的な絆が結ばれていることが多い そのため デートDVの関係が慢性化すると 相手と別れること自体が困難となる 別れるときの手段を知ることは別れたいと思いながらも別れられずにいる人に対しての支援方法の模索に有益だと考えられる 相手と別れた と回答した者に対してどのような方法で別れたかを複数回答で聞いたところ 1 相手と話し合った (93.6%) が最も高く 交際相手と話し合える状況があることが推察されるが 2 連絡を取らずに関係を終えた (25%) という者もいる 3 友人 知人に間に入ってもらった (6.3%) 4 家族 親戚に間に入ってもらった (6.3%) と回答した者は いずれも女性のみであった ( 図 2) 図 2 交際相手と別れたときの手段 93.6 n 16 M.T. 131.2% % 25 6.3 6.3 6.3 続いて 別れた後の交際相手がとった行動について該当する項目を複数回答で聞いた 2 よくメールや電話がきた (5%) 4 文句を言われた (21.4%) と 別れた後も交際相手との関わりがみられた 1つきまとわれた (28.5%) 5 別れたら死ぬ と言われた (7.1%) は女性のみの回答であった ( 図 3) 一方 交際相手と別れようと思ったが 別れなかった と回答した者に対して その理由に当てはまる項目を複数回答で聞いた 8 相手を好きな気持ちがあったから (85%) が最も多く 次いで 4 相手には自分が必要だと思ったから (4%) や 5これ以上 相手 63
図 3 別れたあとの交際相手の行動 5 n 14 M.T. 156.9% % 28.5 28.5 21.4 21.4 7.1 の行動は繰り返されないと思ったから (15%) という結果から 恋人同士という関係の中で暴力行為が許容されていることが推察される 7 相手が別れることに同意しない ( と思った ) から (25%) や 1 相手の反応が怖かったから (1%) という者もいることから 別れたいという自分の意思よりも相手を優先させる状況もうかがわれる また 3 世間体が悪いと思ったから (1%) と回答した者は男性のみだった ( 図 4) 図 4 交際相手と別れようと思ったが 別れなかった理由 n 2 M.T. 195% % 85 4 3 1 1 15 5 64
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) ⑶ デートDV 加害経験の実態加害経験を問う15 項目について 何らかの加害行為を 一度でも行ったことがある と答えた者は272 人中 81 人 (29.8%; 女性 5 人 男性 31 人 ) で 加害行為を行ったことがない者は191 人 (7.1%; 女性 84 人 男性 17 人 ) であった 被害経験と同様に 次の表にはデートDV 加害経験を問う15 項目についての回答結果を示した 各項目について 一度でも行ったことがある と回答した者の割合をみていく 身体的暴力の行使を問う5 項目について 問 15(A) 相手が大けがをするほどの身体的な暴力をふるう 4 人 (1.5%) 問 15(B) 手でたたいたり 殴ったりする 26 人 (9.5%) 問 15(C) 足で蹴る 1 人 (3.7%) 問 15(D) 髪の毛を引っぱったり 引きずり回したりする 4 人 (1.5%) 問 15(E) 物を使って身体をたたく 4 人 (1.5%) であった ( 表 6) いずれも加害経験者の総数は少ないが 女性の加害経験が多い結果となっている 問 15 表 6 身体的暴力の行使を問う 5 項目 (A) 相手が大けがを 1(.4) 3(1.1) 268(98.5) するほどの身体的な 女性 1(.7) 2(1.5) 131(97.8) 暴力をふるう 男性 1(.7) 137(99.3) (B) 手でたたいたり 3(1.1) 9(3.3) 14(5.1) 246(9.5) 殴ったりする 女性 2(1.5) 7(5.2) 11(8.2) 114(85.1) 男性 1(.7) 2(1.4) 3(2.2) 132(95.7) (C) 足で蹴る 1(.4) 3(1.1) 6(2.2) 262(96.3) 女性 1(.7) 2(1.5) 5(3.7) 126(94.) 男性 1(.7) 1(.7) 136(98.6) (D) 髪の毛を引っ 1(.4) 1(.4) 2(.7) 268(98.5) ぱったり 引きずり 女性 1(.7) 1(.7) 132(98.6) 回したりする 男性 1(.7) 1(.7) 136(98.6) (E) 物を使って身体 1(.4) 3(1.1) 268(98.5) をたたく 女性 1(.7) 1(.7) 132(98.6) 男性 2(1.4) 136(98.6) (B) 手でたたいたり 殴ったりする (χ 2 (3)=8.943, p<.5) は性別による有意差がみられた 精神的暴力の行使を問う3 項目については 問 15(F) 何を言われても わざと長い時間無視する 23 人 (8.5%) 問 15(G) ばかにした言葉や 汚い言葉を使う 25 人 (9.2%) 問 15(H) 大声で怒鳴る 25 人 (9.2%) であった ( 表 7) 65
表 7 精神的暴力の行使を問う 3 項目 性的暴力の行使を問う 2 項目については 問 15(I) 避妊しない 9 人 (3.3% ) 問 15 (J) 相手の意思に関わらず 性的行為をする 4 人 (1.5%) であった ( 表 8) (F) 何を言われても 1(.4) 3(1.1) 19(7.) 249(91.5) わざと長い時間無視 女性 1(.7) 1(.7) 12(9.) 12(89.6) する 男性 2(1.4) 7(5.1) 129(93.5) (G) ばかにした言葉 3(1.1) 6(2.2) 16(5.9) 247(9.8) や 汚い言葉をつか 女性 2(1.5) 3(2.2) 12(9.) 117(85.4) う 男性 1(.7) 3(2.2) 4(2.9) 13(94.2) (H) 大声で怒鳴る 4(1.5) 4(1.5) 17(6.3) 247(9.7) 女性 3(2.2) 2(1.5) 1(1) 119(88.8) 男性 1(.7) 2(1.4) 7(5.1) 128(92.8) 表 8 性的暴力の行使を問う 2 項目 (I) 避妊しない 2(.7) 3(1.1) 4(1.5) 263(96.7) 女性 1(.7) 1(.7) 132(98.5) 男性 2(1.4) 2(1.4) 3(2.2) 131(95.) (J) 相手の意思に関 4(1.5) 268(98.5) わらず 性的行為を 女性 1(.7) 133(99.3) する 男性 3(2.2) 135(97.8) 経済的暴力の行使を問う 2 項目については 問 15(K) 交際費を出させる 18 人 (6.7% ) 問 15(L) 借りたお金や物を返さない 4 人 (1.5%) であった ( 表 9) (K) 交際費を出させる (L) 借りたお金や物を返さない 表 9 経済的暴力の行使を問う 2 項目 1(.4) 7(2.6) 1(3.7) 254(93.4) 女性 1(.7) 5(3.7) 8(6.) 12(89.6) 男性 2(1.4) 2(1.4) 134(97.2) 2(.7) 2(.7) 268(98.5) 女性 1(.7) 2(1.4) 131(97.8) 男性 1(.7) 137(99.3) 66
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) 社会的暴力の行使を問う3 項目について 問 15(M) 勝手に相手の携帯電話を見る 19 人 (6.9%) 問 15(N) 相手の家族や友人との関係を制限する 13 人 (4.7%) 問 15(O) 相手がメールや電話を返さないと不機嫌になり 怒る 33 人 (12.1%) であった ( 表 1) 社会的暴力の項目は 男性より女性の加害経験が多く 問 15(M) 勝手に相手の携帯電話を見る (χ 2 (3)=11.229, p<.1) 問 15(O) 相手がメールや電話を返さないと不機嫌になり 怒る (χ 2 (3)=1.594, p<.1) は 性別による有意差が認められた (M) 勝手に相手の携帯電話を見る (N) 相手の家族や友人との関係を制限する (O) 相手がメールや電話を返さないと不機嫌になり 怒る 表 1 社会的暴力の行使を問う 3 項目 3(1.1) 2(.7) 14(5.1) 253(93.1) 女性 3(2.2) 1(.7) 12(9.) 118(88.1) 男性 1(.7) 2(1.4) 135(97.9) 5(1.8) 8(2.9) 259(95.3) 女性 4(3.) 3(2.2) 127(94.8) 男性 1(.7) 5(3.7) 132(95.6) 2(.7) 9(3.3) 22(8.1) 239(87.9) 女性 8(6.) 14(1.4) 112(83.6) 男性 2(1.4) 1(.7) 8(5.8) 127(92.1) 加害行為を 一度でも行ったことがある と答えた者に対して その理由を複数回答で聞いたところ 8 無意識にしていた (29.1%) と答えた者が多く 次いで 2 交際相手が自分を愛しているか不安だったから (24.9%) 5 交際相手が自分をイライラさせるから (22.8%) と相手の感情や言動を原因とする傾向が見受けられた 3 自分の行為は愛情表現だから (8.9%) 7 自分の行為が暴力だと思っていなかったから (3.8%) という意識もみられ 回答者自身の主観では暴力という認識に至っていないことがわかる 1ストレスがたまっているときだったから (22.8%) 9アルコールを飲んでいたから (5.1%) という答えもあり 自己の行為の理由をそれらと関連させていることがうかがわれる また 4 交際相手を自分の思うようにコントロールしたいから (5.1%) と回答した者は男性のみ 6 交際相手だったら 多少の暴力は許されると思ったから (1.3%) と回答した者は女性のみだった 1その他 を見ると 被害経験同様に 冗談や 遊びで (4 件 ) という理由が挙げられており 自分の行為が暴力であるという認識が薄いと示唆される 経済的暴力の項目として 問 15(K) 交際費を交際相手に出させる に該当した者の理由として 女性は 相手が交際費を負担すると言ってきた (2 件 ) 男性は そのときお金がなかったから(2 件 ) 67
という記述がみられた 交際費は男性が負担するのが一般的になっており 女性が負担することは稀であると推察される また 相手に同じことをされたから (4 件 ) と 被害を受けたことをきっかけに加害行為に至ったと記述した者は女性のみであった ( 図 5) 図 5 加害経験の理由 n 79 M.T. 149.1% n 49 M.T. 134.9% n 3 M.T. 166.6% 36.7 32.7 26.7 22.8 2.4 24.9 23.3 22.8 18.4 3 29.1 24.5 25.324.7 13.3 13.3 8.9 1 1 6.1 5.1 1.3 2. 3.8 4.1 3.3 5.1 2. ⑷ デートDV 被害 加害経験の相談状況デートDV 被害経験を相談した相手を複数回答で聞いたところ 全体では 友人 知人 (45.3%) に次いで 家族 親戚 (1.3%) と先行調査と同様に身近な者への相談が多かった しかし 相談しなかった (52.6%) 者が相談した者を上回り 特に男性に顕著であることがわかる 女性の被害は潜在化しやすいが それ以上に男性の被害も潜在化しやすい環境があると考えられる 続いて 相談しなかった者に対して 相談しなかった理由を尋ねたところ 11 相談するほどのことではないと思ったから (64%) と答えた者が最多だった 1 自分にも悪いところがあると思ったから (18%) や 5 自分ががまんすれば このままなんとかやっていけると思ったから (16%) 12 相手の行動は愛情表現だと思ったから (12%) と答えた者もおり 被害を受けている状態を肯定していることが推察される 3 相談してもむだだと思ったから (8%) 8 他人に知られると 周囲とこれまで通りの付き合いができなくなると思ったから (6%) という者もおり 第三者に相談をすることに対する抵抗感がうかがわれる また 1どこ ( だれ ) に相談していいのかわからなかっ 68
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) たから (2%) 2 恥ずかしくてだれにも言えなかったから (2%) 世間体が悪いと思ったから (2%) の回答者は男性のみ 7 他人を巻き込みたくなかったから (4%) の回答者は女性のみだった 13その他 の記述を見ると 特に何とも思わなかった (3 件 ) 嫌じゃないから や 冗談だと思った 悪気がないと思った (4 件 ) という理由が目立った( 図 6) 交際相手の行為を暴力だと認識していないことや 暴力を容認する態度が推察される 図 6 被害経験を相談しなかった理由 n 5 M.T. 146% n 23 M.T. 156.4% n 27 M.T. 137% % 66.7 64 6.9 13. 8 3.7 3.7 3.7 2 2 21.7 16 11.1 2 3.7 8.7 8.7 6 4 3.7 21.7 18% 14.8 14.8 12 12 13. 11.1 8.7 デートDV 被害経験と同様に 加害経験の相談相手を尋ねたが 相談しなかった (71.1%) が最も多かった 友人 知人 (26.3%) 学校関係者 (2.6%) と続いたが それ以外の相手への相談は皆無であった 女性は32.6% が 友人 知人 に相談しているのに対し 男性は16.7% であり ここでも男性が自分の抱えている悩みを相談しない傾向が示唆された 相談しなかった理由として 複数回答で回答を求めたところ 4 自分の行為は 交際相手のせいだから (9.6%) と 交際相手への責任転嫁する傾向や 3 何が悪いのかわからないから (17.3%) 7 これ以上 同じ言動は繰り返さないと思ったから (7.7%) 1 遊びなのでたいしたことがないから (5.8%) という自己の行動を過小評価する回答が目立つ また 被害経験と同様に 9 相談するほどのことではないと思ったから (53.8%) が多かった これらの結果から 加害経験は被害経験よりもさらに語りにくいという性質を持つことや 加害行為を行っている本人が加害性を自覚しにくいことが考えられる また 1 どこ( だれ ) に相談していいかわからなかったから (9.6%) は 被害経験の相談をしなかった理由と比較して高く 加害経験が相談可能であることが周知されていない 69
と思われる 2 他人に知られると 交際相手が自分から離れると思ったから (5.8%) 5 自分の行為は 世間体が悪いと思ったから (1.9%) 8 他人に知られると 周囲とこれまで通りの付き合いができなくなると思ったから (1.9%) は男性のみ 6 相手が嫌がっているように見えなかったから (3.8%) は女性のみの回答であった ( 図 7) 図 7 加害経験を相談しなかった理由 n 52 M.T. 128.7% n 3 M.T. 116.5% n 22 M.T. 14.8% % 59.1 53.8 5 9.6 3.3 18.2 5.8 13.6 17.3 18.2 16.6 13.3 9.6 4.5 4.5 1.9 6.7 3.8 1 7.7 4.5 4.5 1.9 13.3 11.5 9.1 9.1 5.8 3.3 ⑸ デートDVの認知度デートDVに関して 言葉も その内容も知っていた 156 人 (57.3%) が約 6 割を占め 言葉があることは知っていたが 内容はよく知らなかった 69 人 (25.4%) 言葉があることを知らなかった 46 人 (16.9%) と続く ( 図 8) この結果は 内閣府の調査 ⅵ と比較してもデートDVの認知が高いがわかる しかし 言葉があることを知らなかった と回答した者は 女性に比べて男性に多く 統計的に有意差が認められた (χ 2 (3) =14.161, p<.5) 1 (.4) 46 (16.9) 69 (25.4) 156 (57.3) 図 8 デート DV の認知度 1 (.7) 12 (9.) 33 (24.6) 88 (65.7) 34 (24.6) 36 (26.1) 68 (49.3) % N 272 n 134 n 138 7
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) ⑹ デートDVの相談を受けた経験大学生になってから友人などからデートDVについて相談を受けたことがあるかという質問に対して 何度もある ときどきある 1 2 回ある と答えた者は合わせて42 人 (15.4%) であった 先にみたように 48.3% の者がデートDV 被害経験を 友人 知人 に相談していることと比較すると非常に少ないと言える 相談を受けた経験のある者に 相談を受けたあとどのように対応したかについて複数回答で尋ねたところ 相談者に交際相手と別れるように話した (71.4%) が最も多く 次いで 相談者が交際相手から逃げることを援助した (42.6%) 暴力をふるっている相手に暴力をやめるよう話した (16.7%) であった この結果から たとえ相談を受けたとしても デートDVの被害者と加害者の仲介をすることで自力での解決を試みている者が多く 専門機関等との連携という選択は極めて低いことが推察される ( 図 9) 図 9 相談を受けたあとの対応 71.4 n 4 M.T. 154.6% % 42.6 16.7 11.9 2.4 2.4 2.4 2.4 2.4 3. おわりに以上のように 沖縄大学学生のデートDV 被害 加害の実態の実数をみた 被害 加害ともに経験したことがない 者は148 人 (54.4%) であり 半数を超える 被害経験はないが加害経験はある と答えた者は23 人 (8.5%) 加害経験はないが被害経験はある と答えた者は43 人 (15.8%) であった 加害のみ経験した者と被害のみ経験した者を上回ったのは 被害 加害ともに経験がある と答えた者 58 人 (21.3%) であった 本調査の回答者においては 交際相手と互いに何らかの暴力行為を行使し合っていることが示された 先行 71
調査では 加害経験者が被害経験者よりも少ない傾向にあると示されているが 本調査の回答者にも同様の傾向がみられた 被害経験は項目ごとに 1% 強から25% 弱であり 加害経験は1% 強から22% 強であった 学年で見ると 被害 加害ともに経験したことがない と答えた1 年次は48.6% であった 本調査の回答書の約 4% が1 年次であり 学年が低いほどデートDVの経験をしていないという結果となった 特筆すべき点として 本調査では男性の被害者が多くみられた 一般のDVに関する調査においては DV 被害の実態調査が主流であるため 被害を受けている者の加害行為の実態については把握できないが 一般には女性の被害 男性の加害が多い それに比べると本調査の結果は 女性の加害 男性の被害が多いことが デートDVが相互に起きていることがわかる ただし 先行調査同様に 被害が深刻と思われる事例の場合は 女性の被害が男性より多く確認された DVにおいては DV 被害に遭っていた女性が暴力に耐えかねた挙げ句 正当防衛や過剰防衛で男性を傷つけてしまったという事例が多いことが指摘されている ⅶ 今回の調査においても身体的暴力の経験に該当した女性が その理由について 相手と同じことをしてこらしめたかった とする例がみられた 対象者が少なく アンケートのみでの全容把握は困難であるが どのように暴力がはじまっているかを考察することは支配 / 被支配の構造を明らかにする上でも重要である 暴力を受けたことに対して暴力で反撃することは デートDVの解決にはならない しかし 相互に暴力を行使し合っている関係でも 関係を解消するには至らないほど相手との関係が強固になっていることが推察される このようにデートDV 被害 加害経験の実態が明らかになった だが 相談状況や被害を受けた後の交際相手との関係 デートDV 加害経験の理由などから 回答者自身は該当する項目があったとしてもそれを暴力行為だと認識していないことや 大したことではないと 矮小化したり軽視している現状が推察される しかし たった1 回であったり 身体的暴力以外の行為の行使だったとしても その行為自体が人権侵害であることに変わりはなく 軽視したり 見過ごしてはならない デートDV 被害 加害を暴力だと認識することは 親密な者との関係を見直し より良い関係を模索していく契機となろう 注 : ⅰ 中村正 家族臨床への視点 親密な関係性がはらむリスク 立命館人間科学研究 第 1 号 (21)p.66 ⅱ 内閣府 女性に対する暴力 に関する調査研究 ( 平成 23 年度調査 ) (212) ⅲ 沖縄県 男女共同参画社会づくりに関する県民意識調査 (21( 平成 22) 年度 ) ⅳ DVの特徴として 暴力行為が常態化することが挙げられるが 一方で 暴力行為は一度起こ ると繰り返される可能性が高まる 従って 単回の行為を暴力行為として扱うことは 被害者 支援を行ううえで有益であると考える 本調査では暴力の定義を 一度でも被害及び加害経験 72
西村愛里 : 大学生のデート DV の実態 (1) があればデートDVの状態にあるとした ⅴ デートDVは束縛など些細な行為から相手への支配がはじまり 次第に身体的暴力に至る 身体的暴力に至らないことも多いが 行為は繰り返され 徐々に激化していくことがわかっている ⅵ 211( 平成 23) 年実施の内閣府 男女間暴力に関する調査 では 言葉も その内容も知っている が2 代男女を合わせた全体の44.5% 次いで 言葉があることは知っているが 内容はよく知らない (26.4%) 言葉があることを知らなかった (27.2%) であった ( 内閣府前掲注 ⅱ) ⅶ 中村正 ドメスティック バイオレンスと家族の病理 作品社 (21)p.34-35 73