報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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報道発表資料 2007 年 4 月 30 日 独立行政法人理化学研究所 炎症反応を制御する新たなメカニズムを解明 - アレルギー 炎症性疾患の病態解明に新たな手掛かり - ポイント 免疫反応を正常に終息させる必須の分子は核内タンパク質 PDLIM2 炎症反応にかかわる転写因子を分解に導く新制御メカニ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 1 月 18 日 独立行政法人理化学研究所 植物の形を自由に小さくする新しい酵素を発見 - 植物生長ホルモンの作用を止め ミニ植物を作る - 種無しブドウ と聞いて植物成長ホルモンの ジベレリン を思い浮かべるあなたは知識人といって良いでしょう このジベ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

学位論文の要約

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

さらにのどや気管の粘膜に広く分布しているマスト細胞の表面に付着します IgE 抗体にスギ花粉が結合すると マスト細胞がヒスタミン ロイコトリエンという化学伝達物質を放出します このヒスタミン ロイコトリエンが鼻やのどの粘膜細胞や血管を刺激し 鼻水やくしゃみ 鼻づまりなどの花粉症の症状を引き起こします

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

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平成24年7月x日

事務連絡

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

研究成果報告書

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 山田淳 論文審査担当者 主査副査 大川淳野田政樹 上阪等 論文題目 Follistatin Alleviates Synovitis and Articular Cartilage Degeneration Induced by Carrageenan ( 論文

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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第6号-2/8)最前線(大矢)

原提示細胞によって調査すること 2 イベントの異なる黄砂のアレルギー喘息への影響を評価すること 3 黄砂に付着している微生物成分 (LPS 真菌 ) や化学物質 ( タール成分 ) のアレルギー喘息や花粉症への影響を評価すること 4 アレルギー喘息等の増悪メカニズムを 病原体分子パターン認識受容体

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

研究成果報告書

日本内科学会雑誌第102巻第4号

報道関係者各位

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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H26分子遺伝-20(サイトカイン).ppt


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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

図ストレスに対する植物ホルモンシグナルのネットワーク

( 図 ) 顕微受精の様子

平成24年7月x日

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60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - がんやウイルスなど身体を蝕む病原体から身を守る物質として インターフェロン が注目されています このインターフェロンのことは ご存知の方も多いと思いますが 私たちが生まれながらに持っている免疫をつかさどる物質です 免疫細胞の情報の交換やウイルス感染に強い防御を示す役割を担っています しかし 重要な役割を果たしているインターフェロンは ただ単に増やせばよいわけではありません 過剰になると自己免疫疾患という副作用を引き起こし 逆効果を生じます 免疫 アレルギー科学総合研究センターの生体防御研究チームは このインターフェロンの産生を制御することができる分子 IKK アルファ を発見しました 同時に分子メカニズムも明らかにしています 分子の発見は ウイルスによる感染症 がん 自己免疫疾患 アレルギーといったインターフェロンが関与する病気の新たな治療法の確立を可能にすると期待させるものです ( 図 ) TLR7/9 シグナルにおける IKKα の役割

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効な制御薬開発に新たな標的分子を提示独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は がんの発症やウイルスなどの病原体の侵入を防ぐインターフェロン (IFN) 1 の産生誘導に欠かせないシグナル伝達分子を新たに発見しました 理研横浜研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター ( 谷口克センター長 ) 生体防御研究チーム改正恒康 ( かいしょうつねやす ) チームリーダーおよび星野克明研究員らによる成果です ウイルスなどの異物が体内に侵入すると 免疫細胞の一種である樹状細胞がToll( トール ) 様受容体 (TLR) 2 というセンサーを使って異物を認識し 免疫機構を発動します TLRが感知する異物の成分やTLRにより誘導される免疫反応は TLRの種類 (TLR1~TLR10) によって多少異なると考えられています 中でも 核酸成分を認識するTLR7 とTLR9(TLR7/9) は I 型 IFNを誘導するという特徴を持っています I 型 IFNは 主な作用として抗ウイルス作用 免疫増強作用 抗腫瘍作用などがあり がんやウイルスの治療薬としても用いられています その一方 免疫増強作用をもつため 過剰になった場合には自己免疫疾患といった副作用を引き起こすことが指摘されています すなわち TLRの機能を適切に制御することが 病気のコントロールに非常に重要なのです これまで TLR7/9 がIFNの産生を誘導するためにはIRF7 という転写因子が重要であると考えられていましたが IRF7 がどのようにして活性化されるのかという分子メカニズムは明らかでありませんでした 今回の研究で アイカッパビーキナーゼアルファ (IKKα) という酵素がIRF7 を活性化することにより TLR7/9 によるIFN の産生に必須の役割を果たしていることを発見しました さらに IKKαはTLR7/9 が関与する他の炎症性サイトカイン 3 の産生誘導には必要ではなく I 型 IFNの産生にだけ重点的に関与していることも明らかとなりました IFNの産生を適切に制御することは ウイルス感染症やがん 自己免疫疾患 アレルギーといった様々な病気の治療に重要です 今回の成果から これらの病気の治療を目的として免疫を人為的に制御する標的分子としてIKKαが役立つことが期待されます 本研究成果は 英国の科学雑誌 Nature ( 4 月 13 日号 ) に掲載されます 1. 背景生体には ウイルスなどの病原体を認識するための機構が存在します 樹状細胞

はその中心的な役割を果たす細胞です 樹状細胞の表面には Toll 様受容体 (TLR) と呼ばれる膜タンパクが存在し 病原体を認識するセンサーとして働いています TLR が異物を認識すると 細胞内へシグナルが伝わり 炎症性サイトカインやインターフェロン (IFN) が作られ 免疫機構が機能するのです TLR には 10 種類 (TLR1~10) が存在し その種類によって病原体由来の様々な成分を認識します 樹状細胞のなかでも 形質細胞様樹状細胞と呼ばれる細胞は TLR のうち TLR7 と TLR9 のみを持っています これら TLR7/9 は 病原体由来の核酸 (DNA RNA) の断片を認識し I 型 IFN の産生をもたらすという特徴をもっています TLR が異物を認識し炎症性サイトカインや IFN を産生する過程には アイカッパビーキナーゼ (IKK) ファミリー 4 と呼ばれるリン酸化酵素が重要であることが知られていました この IKK ファミリーには 4 種類のメンバーが存在します しかし メンバーの中で IKKα だけが TLR による免疫反応との関係が分かっていませんでした そこで IKKα の機能を調べるために IKKα を欠損させたマウスを用いて解析することにしました 2. 研究手法と結果 IKKα 欠損マウスから採取した樹状細胞を TLR が認識する種々の異物成分によって刺激し 炎症性サイトカインや IFNα の産生量を ELISA 5 と呼ばれる方法で測定しました その結果 TLR7/9 が認識する成分で刺激したときにだけ IKKα 欠損マウスの樹状細胞で IFNα の産生量が 10% 以下に低下しました しかし 炎症性サイトカインの産生は正常なマウスと比較して少し低下しているか あるいはほとんど変化がありませんでした ( 図 1) これらのことから IKKα は IFN の産生に必須であると考えられました 次に IKKα がどのようなメカニズムで IFNα 産生誘導に関与しているのかを解明するために IKKα の機能を阻害するようリン酸化能力を欠いた キナーゼ不活性型 IKKα を用いて検討しました その結果 予想通り キナーゼ不活性型 IKKα は 本来 TLR シグナルにより増強されるはずの IFNα 遺伝子の活性化を阻害しました しかし一方で TLR シグナルの下流に位置すると考えられている転写因子 IRF7 による IFNα 遺伝子の活性化は阻害されませんでした このことから IKKα は TLR シグナルによる IFNα 遺伝子活性化経路では IRF7 の上流で機能していると考えられました ( 図 2) また 生化学的な実験により IKKα は IRF7 と結合し IRF7 をリン酸化することも明らかにしました さらに IKKα 欠損樹状細胞を用いた実験で IRF7 の活性化障害が認められ IRF7 の活性化に IKKα が必須であることを解明しました こうした結果を総合すると IKKα は IRF7 と結合し さらに IRF7 をリン酸化させて活性化することにより TLR シグナルによる IFN 産生誘導に関与しているものと考えられました ( 図 3) 3. 今後の期待 TLR7/9 シグナルによる IFN 産生は 抗ウイルス免疫や自己免疫に重要な役割を担っています さらにアレルギーにおいては TLR9 に結合して TLR9 シグナル伝

達を活性化する CpG DNA と呼ばれる分子がアレルギー制御薬として注目されています このように 本研究で解明された TLR7/9 の免疫シグナルの機構は様々な病気に重要で これらの病気の治療を目的として免疫を制御するために 今後 IKKα を標的分子とした新たな免疫 アレルギー制御薬の開発が期待されます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所免疫 アレルギー科学総合研究センター生体防御研究チームチームリーダー改正恒康 Tel : 045-503-7065 / Fax : 045-503-7064 横浜研究推進部 溝部鈴 Tel : 045-503-9117 / Fax : 045-503-9113 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 インターフェロン (IFN) 免疫細胞間の情報伝達及びウイルス感染に対する防御に関与する活性分子 I 型と II 型に分けられる I 型 IFN は IFNα β からなり 主に抗ウイルス作用を発揮する II 型 IFN は IFNγ とも呼ばれ T 細胞分化 マクロファージ活性化を示し 抗ウイルス 抗細菌作用を発揮する 今回の IKKα は I 型 IFN 特に IFNα の誘導に関与する 2 TLR(Toll-Like Receptor : Toll 様受容体 ) 病原体由来の種々の成分の認識に関与する膜タンパク群の総称 ヒトでは TLR1~ TLR10 の 10 種類 マウスでは TLR1~TLR9 TLR11~13(TLR10 は遺伝子として機能しない ) の 12 種類が報告されており それぞれの TLR が病原体特異的な種々の成分を認識する 今回の成果に関係する TLR7 は 1 本鎖 RNA の認識に関与し TLR9 は CpG DNA の認識に関与する この TLR7 及び TLR9 に認識される核酸はウイルス由来のものばかりでなく 自己組織由来のものも含まれる 3 サイトカイン細胞同士の情報伝達に関わる様々な生理活性をもつタンパク質の総称 炎症性サイトカインとは 体内への異物の侵入を受け産生されるサイトカインで 生体防御に

関与する多種類の細胞に働き 炎症反応を惹起する 4 IKK ファミリーリン酸化酵素セリンスレオニンキナーゼの種類の一つ IKKα IKKβ IKKε TBK1 の 4 種類がある IKKα 及び IKKβ は アイカッパビーキナーゼ (IκB) をリン酸化し分解することにより NF-κB( エヌエフカッパービーキナーゼ ) の活性化を誘導することを指標に同定された 遺伝子欠損マウスの解析により 生体内での TLR シグナルによる NF-κB 活性化及びそれによるサイトカイン産生には IKKα は必須ではなく主に IKKβ が重要であることがわかっている また IKKε 及び TBK1 は 免疫にかかわるリポ多糖の受容体である TLR4 2 本鎖 RNA の受容体である TLR3 シグナルによる転写因子 IRF3 のリン酸化及びそれによる IFNβ の産生に重要であることが知られている 5 ELISA 物質の定量をその物質の抗体を用いて行う方法 Enzyme-linked immunosorbent assay の略 血清 あるいは培養液中のサイトカイン IFN などの測定に広く使用されている

図 1 IKKα 欠損マウス由来の形質細胞様樹状細胞と野生型形質細胞様樹状細胞との比較 IKKα 欠損マウスにおいて TLR7/9 シグナルによるサイトカイン (IL-12p40,TNFα) の産生は保持されたが インターフェロン (IFN) 産生は 10% 以下に障害されていた

図 2 インターフェロン (IFN)α 遺伝子活性化のメカニズム IKKα は転写因子 IRF7 の上流で TLR シグナルによる IFNα 遺伝子活性化に関与する IRF7 により IFNα 遺伝子は活性化されるが キナーゼ不活性型 IKKα はその作用を阻害しない MyD88(TLR と会合し TLR シグナルを活性化するアダプター分子 MyD88 の発現により TLR シグナルが上流から活性化される ) を IRF7 と共に発現させると 左に示すように IFNα 遺伝子の活性化は増強されるが この増強効果は キナーゼ不活性型 IKKα により阻害される この結果から 右に示すように IKKα は IRF7 の上流で作用していると考えられる

図 3 TLR7/9 シグナルにおける IKKα の役割 樹状細胞は ウイルスあるいは傷害を受けた細胞由来の 1 本鎖 RNA または CpG DNA を エンドソームを介して取り込むと TLR7/9 を介してこれらを認識する その結果 炎症性サイトカインや IFN を産生する 炎症性サイトカイン産生には 転写因子 NF-κB のリン酸化が IFN 産生には転写因子 IRF-7 のリン酸化が必須であることがこれまでに知られていた 今回 IKKα は IFN 産生経路に中心的な役割を果たしていることが明らかになった