Microsoft Word - 堀_卒論.doc

Similar documents
論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

Microsoft Word - sato docx

Microsoft Word - 鈴木_卒論.doc

食料品購入時における非計画購買

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

どのような生活を送る人が インターネット通販を高頻度で利用しているか? 2013 年 7 月 公益財団法人流通経済研究所主任研究員鈴木雄高 はじめにもはやそれなしでの生活は考えられない このように インターネット通販を生活に不可欠な存在と位置付ける人も多いであろう 実際 リアル店舗で買えて ネットで

過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

1. 研究の目的本研究は 米国および日本のインターネット広告の分野で急成長している行動ターゲティングの特性抽出ならびに有効性分析を通じて 購買行動への影響および潜在需要の顕在化効果を明らかにしていくものである 研究の目的は次の 4 項目である 第 1 に ターゲティング広告が どのような特性を備えて

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

資料 1( 参考 ) 口コミサイト インフルエンサーマーケティングに関するアンケート結果 2018 年 9 月 19 日

<4D F736F F F696E74202D2091E63989F1837D815B F A B836093C1985F D816A2E >

Microsoft PowerPoint - 05 資料5 白井委員

ISO9001:2015規格要求事項解説テキスト(サンプル) 株式会社ハピネックス提供資料

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

Microsoft Word - intl_finance_09_lecturenote

EBNと疫学

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 概要3.doc

<4D F736F F D FCD81408FEE95F197CC88E682C68FEE95F18CB92E646F63>

1. 調査の目的 物価モニター調査の概要 原油価格や為替レートなどの動向が生活関連物資等の価格に及ぼす影響 物価動向についての意識等を正確 迅速に把握し 消費者等へタイムリーな情報提供を行う ( 参考 )URL:

Water Sunshine

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

UNIQLO の販売活動についての一考察 前田ひばり 高知工科大学マネジメント学部 1. 概要現在日本のほとんどの人がUNIQLOという日本企業のブランドを知っているだろう さらに UNIQL Oは着る人を選ばないインナーで圧倒的な知名度がある 日本だけではなく 世界でも多数の店舗を

産学共同研究 報告書

checklisthp.xls

構造方程式モデリング Structural Equation Modeling (SEM)

Microsoft Word - JSQC-Std 目次.doc

Microsoft Word - youshi1113

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな

untitled

ISO9001:2015内部監査チェックリスト

Kobe University Repository : Kernel タイトル Title 著者 Author(s) 掲載誌 巻号 ページ Citation 刊行日 Issue date 資源タイプ Resource Type 版区分 Resource Version 権利 Rights DOI

論文内容の要旨

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

Microsoft Word - 予稿

< F2D838F815B834E B B>

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D F4390B38DCF816A B2B2B817B817B945F90858FC891E C48C8F8EC08E7B95F18D908F912E >

コーチング心理学におけるメソッド開発の試み 東北大学大学院 徳吉陽河

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

目 次 第 1 章イントロダクション第 2 章先行研究のレビュー第 3 章仮説の提唱第 4 章調査方法第 5 章分析結果第 6 章考察と今後の課題

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

つき商品であるといった 条件付きのときに発生する計画的衝動購買である 本研究では 純粋衝動購買を ひとめぼれ型 示唆的衝動購買を おすすめ型 計画的衝動購買を おトク感型 とそれぞれの特徴から名付けた なお 2 つ目の想起衝動購買は店頭の要因では左右することができないため 調査対象から除外した 仮説

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint Presentation

(Microsoft PowerPoint _\221\3464\211\361\330\330\260\275\227p\216\221\227\277.ppt)

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

問題 近年, アスペルガー障害を含む自閉症スペク トラムとアレキシサイミアとの間には概念的な オーバーラップがあることが議論されている Fitzgerld & Bellgrove (2006) 福島 高須 (20) 2

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

<835A E E A B83678F578C768C8B89CA E786C7378>

サーバに関するヘドニック回帰式(再推計結果)

平成19年度環境ラベルに関するアンケート調査集計結果報告

顧客の気まずさ リレーションシップ マーケティングのジレンマ 高銘鴻 論文要旨 1. 本論文の構成 本論文は7 章構成となっている 第 1 章では 問題意識を整理し, 本論文全体の流れについて簡潔に説明する 本研究を行うきっかけとなった 顧客が経験する気まずさ について紹介し 従来のリレーションシッ

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名小山内秀和 論文題目 物語世界への没入体験 - 測定ツールの開発と読解における役割 - ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 読者が物語世界に没入する体験を明らかにする測定ツールを開発し, 読解における役割を実証的に解明した認知心理学的研究である 8

どのような便益があり得るか? より重要な ( ハイリスクの ) プロセス及びそれらのアウトプットに焦点が当たる 相互に依存するプロセスについての理解 定義及び統合が改善される プロセス及びマネジメントシステム全体の計画策定 実施 確認及び改善の体系的なマネジメント 資源の有効利用及び説明責任の強化

戦略的行動と経済取引 (ゲーム理論入門)

表 5-1 機器 設備 説明変数のカテゴリースコア, 偏相関係数, 判別的中率 属性 カテゴリー カテゴリースコア レンジ 偏相関係数 性別 女性 男性 ~20 歳台 歳台 年齢 40 歳台

<93648EA A837E B816989AA8E A B83678F578C762E786C7378>

調査概要 1 日 2 回でずっと効く コンタック 600 プラス を製造販売するグラクソ スミスクライン株式会社のコンタック総合研究所 ( は 花粉シーズン到来を前に ドラッグストアや薬局 薬店で販売されている鼻炎薬を含めた 市販薬の知識 & イメージ

1. 概要 目的 大学生におけるクレジットカードの所有の有無とクレジットカードに関する意識を調査するため 回答者 :709 名 1 日本大学商学部 特殊講義金融サービス ビジネス 受講生 (2~4 年生 ) 2 明治大学国際日本学部 金融サービス演習 受講生 (2 年生 ) 3 白鷗大学経営学部 銀

ANOVA

4.2 リスクリテラシーの修得 と受容との関 ( ) リスクリテラシーと 当該の科学技術に対する基礎知識と共に 科学技術のリスクやベネフィット あるいは受容の判断を適切に行う上で基本的に必要な思考方法を獲得している程度のこと GMOのリスクリテラシーは GMOの技術に関する基礎知識およびGMOのリス

農業者年金の資金運用に関するアンケート 次の各問について あなたのお考え ( 率直なご印象で結構です ) に最も近い回答を 1つだけ選び 同封の回答用はがきの回答欄に記入 ( 該当する記号 ( 英字 ) を 印で囲んで ) の上 11 月 30 日 ( 水 ) までに切手を貼らずにポストに投函いただ

Microsoft PowerPoint - データ解析基礎4.ppt [互換モード]

無党派層についての分析 芝井清久 神奈川大学人間科学部教務補助職員 統計数理研究所データ科学研究系特任研究員 注 ) 図表は 不明 無回答 を除外して作成した 設問によっては その他 の回答も除外した この分析では Q13 で と答えた有権者を無党派層と定義する Q13 と Q15-1, 2 のクロ

1. 期待収益率 ( 期待リターン ) 収益率 ( リターン ) には次の二つがあります 実際の価格データから計算した 事後的な収益率 将来発生しうると予想する 事前的な収益率 これまでみてきた債券の利回りを求める計算などは 事後的な収益率 の計算でした 事後的な収益率は一つですが 事前に予想できる

コンピュータ応用・演習 情報処理システム

Microsoft Word - Doki.docx

ブック 1.indb

統計的データ解析

表紙33-2号 のコピー.indd

Medical3

Microsoft PowerPoint - データ解析発表2用パワポ

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

Microsoft Word - 209J4009.doc

PowerPoint プレゼンテーション

売れる! インターネット活用術 < 第 3 回 > SEO の基礎知識 株式会社スプラム 代表取締役竹内幸次 ( 中小企業診断士 ) SEO で新規顧客を導く 世界一の検索サイト Google で http とだけ入力して検索すると 252 億ページがヒットします ( 見つかります ) 日本語のペー

教育工学会研究会原稿見本

2. 現状と課題 3 大津市の観光地としての課題 大津市の観光地として成長するには強みを磨き上げていく事と並行して 他の観光地と比較し課題を明らかにする事が大切です 大津市の観光地としての課題は 複数の調査結果をまとめ 次の5つであると考えています 1 一人あたりの来訪者の現地小遣いが低い 2 来訪

<4D F736F F F696E74202D E71837D836C815B82C98AD682B782E9837D815B F B835E81408FC194EF8D7

Microsoft PowerPoint - e-stat(OLS).pptx

Microsoft Word - 教育経済学:課題1.docx

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D B4392CA904D8E968BC682C982A882AF82E9834F838B815B83768AE98BC CD92B28DB DC48F4390B32E707074>

Microsoft Word - Masuyama.docx

小学生の英語学習に関する調査

調査の結果5.xlsx

< F C18D E93788EF38D7590B B CC8F578C76834F E786C73>

経済学 第1回 2010年4月7日

はじめに マーケティング を学習する背景 マーケティング を学習する目的 1. マーケティングの基本的な手法を学習する 2. 競争戦略の基礎を学習する 3. マーケティングの手法を実務で活用できるものとする 4. ケース メソッドを通じて 現状分析 戦略立案 意思決定 の能力を向上させる 4 本講座

Microsoft Word - 【確認】アンケート結果HP.docx

Microsoft PowerPoint - sc7.ppt [互換モード]

第 5 章管理職における男女部下育成の違い - 管理職へのアンケート調査及び若手男女社員へのアンケート調査より - 管理職へのインタビュー調査 ( 第 4 章 ) では 管理職は 仕事 目標の与え方について基本は男女同じだとしながらも 仕事に関わる外的環境 ( 深夜残業 業界特性 結婚 出産 ) 若

PowerPoint 演示文稿

<4D F736F F F696E74202D2096A28DA58F9790AB82CC82A882B582E182EA8FC194EF82C98AD682B782E992B28DB887412E707074>

アダストリア売り上げデータによる 現状把握と今後の方針 東海大学情報通信学部経営システム工学科佐藤健太

書店における店頭マーケティング

日本言語科学会(JSLS)チュートリアル講演会 平成13年12月16日(日)午前10時30分から午後4時30分 慶應義塾大学三田キャンパス東館6階G-SEC Lab   言語研究のための統計解析 「論理」学としての思考法,「美」学としての提示法

Microsoft Word b.docx

Transcription:

2008 年度東京学芸大学教育学部 久保知一研究室第 2 期卒業論文 最寄品における期間限定製品への消費者の反応 堀大輔 < 要旨 > 本論の目的は 消費者が最寄品における期間限定製品を購買しようと思うまでの消費者行動モデルの構築とその実証である 今日 スーパーマーケットやコンビニエンスストアで様々な最寄品が販売されている そのような場所で販売されている最寄品は大量生産されているため希少価値を見出す人は少ない しかし 最寄品の中には一定の期間限定で生産される消費者に希少価値を見出させようとする期間限定製品が存在する その最寄品における期間限定製品に消費者はどれだけ希少価値を見出しているのかということは明らかになっていない この問題を解明するために Howard のニューモデルを検討し 時間制限的リスク 機能的リスク あいまいな確信 態度 意図を変数に持つ独自の理論モデルを構築した モデル構築後 仮説を提唱した その後 東京都内の大学に通う 132 名の大学生から集めたデータを用いて共分散構造分析を行いモデルの経験的妥当性をテストした その結果 消費者は製品に記載される期間限定という言葉により 品質が不安だと感じたり 製品を買うか買わないかという判断があいまいになるよりも その製品自体を好ましいと感じるということが確認された < キーワード > 最寄品 期間限定製品 希少性の原理 TEASE 理論 Howard のニューモデル 知覚リスク 時間制限的リスク 機能的リスク あいまいな確信 共分散構造分析 1. イントロダクション 本論の研究テーマは 最寄品 (Convenience Goods) 1 における期間限定製品をめぐる消費者行動である 旅行先の土産 旅行先の名物料理 などその時を逃せば二度と手に入らない 味わうことができない 1 最寄品を最初に定義したのは Copeland (1923) である 本論の最寄品の意味として Holton (1958) が新たに定義した ある消費者にとって 価格と品質を代替的な売り手間で比較することによって得られそうな利益が 時間 金銭 努力といった探索費用と比較して相対的に小さいと想定される製品 という定義を採用する 1

限定生産品に人々は希少価値を見いだす 2 一方 大量生産されている最寄品に希少価値を見いだす人は少ないであろう しかし 大量生産される最寄品においても 期間限定 で生産される製品 ( 以下 期間限定製品 ) が存在する そこで 消費者は 限定生産の最寄品にどれだけ反応しているのだろうかという疑問が生じる 希少価値が大いにある 旅先の土産 などに消費者はなぜ惹かれるのかという研究はなされている 3 が 希少価値が薄れるであろう最寄品における期間限定製品に関する研究は今のところほとんど行われていない よって 本論ではすでに通常製品が販売されている製品の期間限定製品に対して消費者が反応し 購買しようと思うまでのモデル構築とその実証を目的とする 本論は以下のように構成される 第 2 節では期間限定製品の特徴 第 3 節ではモデル構築の理論的背景となる既存研究の吟味とその評価を行う 第 4 節ではオリジナルの理論モデルを構築し 仮説を提唱する 理論的分析に続いて行われるのは実証分析である 第 5 節では調査方法に言及し 第 6 節では分析結果の検討を行う 最終節では本研究の限界 および今後の研究課題について言及する 2. 期間限定製品 限定 という希少性の価値を訴求する製品は 期間限定製品 地域限定製品 数量限定製品 地域限定製品 チャネル限定製品 顧客限定製品など様々な製品があるが 本節は消費者行動モデルの構築に先立って 本論で扱う期間限定製品の特徴を概観する 期間限定製品とは 販売元のメーカーが決めたある一定期間に販売される製品である その期限は 春季限定 冬季限定 などまちまちであるが 消費者にはその販売期限がいつまでなのかはっきりと分からないことが多い よって 期間限定製品は買い逃しのリスクがある製品だといえる また 期間限定製品は販売期限があるために 消費者は期間限定製品に触れる機会が限られてしまい 初めて見るというときが多い 一度買った経験があればどのような製品かということはわかるが 初めて見ることが多いということは製品の内容がよくわからないまま購買しなければならない 期間限定製品はこのような不確実性のリスクがある製品ともいえる 他の特徴としては 期間限定製品は 販売期限が設けられていない通常製品の特別仕様として販売されることが多く 通常製品の名前の横などに 味 % 増量 仕様 などと加えて標記される また 通常製品と区別するためにパッケージが違う仕様になっている 本論で扱う期間限定製品は以上にあげた 最寄品の中にあり かつ通常製品が存在する製品の期間限定製品である そして 消費者は一度もその製品を購買したことがないと仮定する また 本論では期間限定製品が販売されている状況を特定する 消費者がよく最寄品を購買する場としてスーパーマーケットやコンビニエンスストアが挙げられるだろう そこに通常製品とともに陳列されているという状況である 本論は 最寄品における期間限定製品を扱うのでこのような状況を想定する 2 重田 (2004) は その時 その場でしか手に入らない といった入手が困難な商品ほど消費者はその商品を価値あるものと見出すと言っている これを希少性の原理という 3 Brown (2005) は消費者をじらし 購買意欲をかきたてる理論として トリック (Trickery) 限定 (Exclusivity) 増幅 (Amplification) 秘密 (Secrecy) エンターテイメント (Entertainment) の頭文字をとった TEASE 理論を提唱している そこで 消費者に欠乏感をあたえる 限定 という戦略が売れる要因になると言っている 2

3. 既存研究のレビュー 期間限定製品はリスクがある製品だと第 2 節で述べたが 本来リスクがある製品に対し消費者は購買をためらうだろう しかし 実際には消費者は期間限定製品を購買している リスクのある製品を購買するということは リスクがあったとしてもそれを見極められるという自信があるということである このことから期間限定製品を購買する際に消費者は自分の判断にある程度自信をもって購買しているということがわかる 図 1: Howard のニューモデル 確信 情報 ブランド認識 意図 態度 出典 :Howard, Shay, & Green (1988). 消費者が製品を購買しようとする際 その判断にどれだけ自信を持っているのかということをモデルに 含んだ消費者行動モデルとして Howard のニューモデルがある 消費者が期間限定製品を購買しようと思う までを説明するモデルを構築するために このモデルを検討する Howard のニューモデルは Howard & Sheth モデルに代表される刺激 - 反応型モデルに 情報処理研究で の成果を加えて 刺激 - 反応型モデルの再評価を試みたモデルである (Howard, Shay, & Green 1988) 消費 者は情報 4 を受け その後ブランドの認識 5 6 態度形成 確信 7 を行う このモデルはブランドの認識を行っ た後に態度形成 確信に至るルートのほかに 情報を得て そこから直接態度や確信に至るルートも考慮 されている 態度 確信が形成された後 その 2 つが合わさり購買意図 8 が形成される ( 図 1) Howard のニ ューモデルは Howard & Sheth モデルの考え方を踏襲するモデルとなっており 意図が形成されるまでの フローが 対象とする製品の製品ライフサイクルにより異なるとしている 踏襲している以外に問題が起 こった際の解決方法に新しいルールが存在している Howard & Sheth モデルでは製品ライフサイクルが成 熟期である場合 意思決定は日常反応的問題解決 (Routine Problem Solving) 9 のみを行うというルールだっ 4 刺激それ自体というよりもある外部からの刺激 ( 広告 口コミなど ) によって引き起こされた知覚 5 買い手が同一カテゴリー内の他のブランドと区別するためにもつ当該ブランドの知識の程度 6 消費者がその製品に対しどれくらい好感を示すかという程度 7 あるブランドないしカテゴリーに対する評価上の判断が正しいと消費者が感じる確からしさの程度 8 ある特定時点に一定数の特定ブランドを購買するという消費者の計画を反映した心理状態 9 消費者は製品カテゴリーやブランドをよく理解している場合 ほとんど情報を必要としない そして 知っているものやいつも買っているものを選ぶということ 3

た Howard のニューモデルは新たに 日常的に購入しているブランドに飽きたときに 限定的問題解決 (Limited Problem Solving) 10 と同じように問題解決を行う倦怠的問題解決を加えた これにより 成熟期にある製品カテゴリーにおいて 初めて見るブランドに対しても対応することができるとした また Howard は 刺激を受け直接意図に向かうバイパスパターンと 深く悩んだ結果 ブランド認識 態度形成 確信のすべてを経て意図まで向かうサイクルパターンの 2 通りを仮定している では このモデルが期間限定製品に援用できるかということを検討する このモデルには製品を購買しようとする際の確信を行う過程が含まれているため この部分は援用できると考えられる 期間限定製品はリスクのある製品だと述べてきた しかし Howard のニューモデルでは製品に含まれるリスクを想定していない それゆえ期間限定製品にそのままこのモデルを援用することは問題があると考える 4. モデル構築および仮説の提唱 本節では 第 3 節でレビューした Howard のニューモデルに基づいて 本研究の因果モデルを構築する そして いくつかの概念を削除または追加する まず Howard のニューモデルの概念を変換する 本論が研究対象とする期間限定製品は 消費者にとって関与が低い製品である つまり 事前に情報を得て ( インターネットで調べたり 広告を見たりし情報を集めて ) から購買するのではなく 直接店に出向いた際にその製品の情報を得ることが常だろう 11 よって 情報 は本研究で構築するモデルから外す また どんな製品であってもブランドというものはあるが 本研究では最寄品というどの消費者にとっても関与が低い製品を扱うため どこまでそのブランドを認知 理解しているかという概念は重要でない よって ブランド認識 は本研究で構築するモデルから外す そして 最寄品の購買において消費者は自分の購買行動に絶対の自信を持つことは少ないだろう むしろ ちょっと目についた製品やその時の気分によって購買の判断が左右されると言える 買う 買わない という判断は下されるが その根拠は現場の雰囲気や付属品の有無などあいまいな理由が多いということである よって 本研究では確信を あいまいな確信 に変更する あいまいな確信を本論では 自分の行動に絶対の自信を持つことがない状況下での自分の行動に自信が持てる程度 と定義する 最寄品の特徴上 購買における消費者の買うか買わないかという判断は それがたとえその消費者にとってマイナスとなる結果だったとしても損失は少ないと考えられる よって 最寄品の購買はあいまいな判断のもと行われ 消費者は損失をあまり気にせずに購買しようと考えやすいと言える よって あいまいな確信は意図に正の影響を与えると考えられる 調査に用いた質問において あいまいな確信の あいまいさ を表現する方法として 質問文の語尾に 確信を持たない 判断があいまい という意味をもつ ~な気 10 11 消費者が意思決定する製品の製品カテゴリーの特徴が既にわかっている場合 その情報は必要とせず 個別のブランドについての情報を限定的に用いること 平久保 (2005) はスーパーマーケットで販売される製品の 60% は計画外の購買 30% ははっきりと計画された購買 10% はおおまかに候補を絞った購買だと言っている 4

がする という言葉を用いることにより表現した 12 Howard のニューモデルでは態度が意図に正の影響を与えると考えている これを本論のモデルの仮説として援用する ここまでに変換された概念と Howard のニューモデルに基づいた概念を用いて 以下の仮説を提唱する 仮説 1: あいまいな確信は意図に正の影響を与える 仮説 2: 態度は意図に正の影響を与える 次に 概念の追加を行う 期間限定製品は通常製品に比べ初めて購入することが多いので購入の際に消費者は不安やリスクを感じるであろう モノやサービスの購入の際に消費者が抱く不安やリスクである 知覚リスク を本研究の構築するモデルに加える しかし 知覚リスクという概念は期間限定という言葉が生じさせるリスクを説明するには幅が広い Shiffman & Kanuk (1991) は 知覚リスクを 機能的リスク 物理的リスク 家計的リスク 社会的リスク 心理的リスク 時間的リスク 機会損失リスク 帰結リスクの 8 つに分類している その中の 品質は大丈夫だろうか という機能的リスク 13 を本論が構築するモデルに採用する このような不安は期間限定製品に対する態度に重要な役割を果たす 試したことのない製品は どのような製品かということをパッケージに記載してある情報から読み取らなくてはならない そして その情報ははたして本当だろうか その情報をきちんと守っている製品なのだろうかと消費者は疑問を抱くだろう その疑問は期間限定製品を好ましく感じなくさせる要因になっているといえる つまり 機能的リスクは態度に負の影響を与えると考えられる よって 以下の仮説を提唱する 0 仮説 3: 機能的リスクは態度に負の影響を与える 本論では消費者は期間限定製品に対し もしかしたらこの製品をまた目にすることはないかもしれない と感じると考える つまり 期間限定製品は 購買に時間的制約がある製品 だと言える 時間的制約は消費者を不安に感じさせるのでリスクだと言える このようなリスクを 時間制限的リスク とし 本論が構築するモデルに追加する 製品に対し販売期限が設定されると 消費者は焦り 購買を急ごうとするだろう 14 心理的に焦ってしまうことにより買うか買わないかという判断をより簡単に下すようになり購買が促進されると考えられる つまり 時間制限的リスクは あいまいな確信に正の影響を与え さらに意図にも正の影響を与えると考えられる また 期間限定という言葉により心理的に焦らせられる消費者は 別な影響も与えられていると考える 期間限定という言葉がついている製品に対し希少価値を見出しているということである それは期間限定製品が好きな消費者と言い換えることができる つまり 時 12 芳賀 佐々木 門倉 (1996) の著書である あいまい語辞典 を参考にした 13 平久保 (2005) は機能的リスクとは製品が本来の性能を果たさない可能性があると感じるリスクだと言っている 技術的に複雑であったり イノベーティブな製品であれば 機能的リスクは増大する また 結果がはっきりわからないサプリメントなども機能的リスクは大きい 14 販売期限を設けられたということは 入手が困難になったということである それにより 上で述べた希少性の理論を用いると その製品には希少価値が生まれ消費者は購買意欲を掻き立てられるということになる 5

間制限的リスクは態度に対し正の影響を与えると考えられる 本来リスクがある場合は消費を控えようとすると考えられるが時間制限的リスクは他の概念に対し正の影響を与える リスクが購買を促進する働きとして仮説を提唱しているというところは期間限定という言葉の特徴といえるだろう 以上の時間制限的リスクという概念が他の概念に与える影響をまとめ 以下の仮説を提唱する 仮説 4: 時間制限的リスクはあいまいな確信に正の影響を与える 仮設 5: 時間制限的リスクは意図に正の影響を与える 仮説 6: 時間制限的リスクは態度に正の影響を与える 期間限定という言葉が生み出す焦りは消費者の購買意欲を掻き立てる以外に 他の不安を軽減させる作用もあると考えられる 製品に販売期限が設けられるとそれによる焦りで 品質に関する不安などは多少なりとも軽減され後回しになるだろう なぜなら 品質に関する不安が他の要因によって軽減されていなければ 期間限定製品を購買しようと思わないと考えられるからである つまり 時間制限的リスクは機能的リスクに負の影響を与えると考えられる よって 以下の仮説を提唱する 仮設 7: 時間制限的リスクは機能的リスクに負の影響を与える また 時間制限的リスクが機能的リスクを軽減したからといって その影響が少なければ結局のところ期間限定製品は購買されないだろう つまり 期間限定という言葉は その製品に対し品質は大丈夫だろうかという不安を掻き立て期間限定製品を好ましいと思わなくさせるよりも 希少価値のほうに消費者の関心を向けさせ期間限定製品を好ましいと思わせていなければいけないということである それは 時間制限的リスクと機能的リスクの両方からパスの伸びている態度に対して 時間制限的リスクのほうが機能的リスクよりも強い影響を与えていなければ期間限定製品は消費者に魅力的な製品だと感じてもらえないということである よって 以下の仮説を提唱する 仮設 8: 時間制限的リスクが態度に与える影響は機能的リスクが態度に与える影響より大きい これまでに提唱された仮説は 図 2 に示す構造方程式モデルとして表現される 6

図 2: 構築されたモデル 時間制限的リスク H4:+ あいまいな確信 H1:+ H5:+ H7:- H6:+ 意図 H2 + 機能的リスク H3:- 態度 5. 調査方法 構築されたモデルの経験的妥当性をテストするために 質問紙調査を行った 質問票の作成は 態度と意図については高橋 (1996) を参考にしつつ 期間限定製品にも援用可能な項目を改良して進められた 他の質問項目は本論で独自に開発された 質問票配布対象として選定したのは 東京都内の大学に通う大学生であった 東京都の中央大学 15 と東京学芸大学 16 でプリテスト (n=45) を行った後更なる検討を行い 測定尺度を開発した プリテストに用いた期間限定製品は最寄品の中からすでに通常製品が複数存在するものを条件とし選出した そして 実際に販売されている製品名ではなく本論で独自に製品名を設定した なぜなら 本論での期間限定製品は消費者がまだ一度も購買したことのない製品と仮定しているため すでに存在する期間限定製品であったとしても調査対象者の中にその製品を購買した経験がある者がいれば その製品の品質に対する不安は購買経験のない調査対象者と異なると考えられるからである プリテストに用いた製品は チョコレート菓子である チョコボール 17 を選出した 選出理由としては チョコボールには通常製品が複数種類あり期間限定製品も存在するため 消費者にも期間限定製品の調査製品として認識されやすいと考えたからである 実際のプリテストに用いた製品名は架空の チョコボール冬味 とした しかし プリテストの結果 女性に比べ男性はあまりチョコレート菓子を購買しないので男性は調査の内容をイメージしにくいという意見が多数きかれた よって 本テストで用いる製品を飲料に変更した その飲料として選出したのが 午後の紅茶 18 である 選出理由としてはチョコボール同様通常製品が複数種類あり期間限定製品も存在 かつ紅茶は複数の茶葉をブレンドすることにより様々な種類の紅茶となるため 本調査で架空の製品名を調査に用いてもイメージがしやすいと考えたからである 15 2008 年 12 月 8 日実施 16 2008 年 12 月 10 日実施 17 チョコボールは 森永製菓が発売しているチョコレート菓子 1 センチ大のチョコレートの中にピーナッツやキャラメルや各種チョコレートをチョコレートでコーティングしたもので 複数種類が発売されている 18 キリンビバレッジが販売している紅茶飲料 7

実際の本テストで用いた製品名は 午後の紅茶ウィンターブレンド とした 本テストはプリテスト同様 東京都の中央大学 19 と東京学芸大学 20 で計 3 回実施し 132 名 ( 内男性 75 名 女性 45 名 ) を対象にして 質問紙調査を実施した 回収された質問票から 欠損値のあるものや著しく回答に隔たりのあるもの 21 を除くと 有効回答は 120 通 (90.9%) であった 6. 分析 図 2 に示された因果モデルを 統計ソフト SPSS R Student version 11.0 for Windows R と Amos7.0 R を用いて共分散構造分析によって経験的にテストした まず 潜在変数の信頼性分析を行ったところ クロンバックの 係数は全て.70 を上回った ( 村上 2006) それゆえ 本論が設定した測定尺度は信頼されるものであると考えられる 分析結果は表 1 に示されている 表 1: 信頼性係数 (n=120) 潜在変数観測変数の数クロンバックの 係数 時間制限的リスク 4.8145 機能的リスク 4.8754 あいまいな確信 5.8186 態度 2.9105 意図 3.9376 次に モデルの全体的評価を行う このモデルに対する χ 2 値は 42.504 で 自由度は 28 有意確率は.039 であった 適合度指標 GFI および自由度調整適合度指標 AGFI は各々.933 および.869 であった 平均二乗誤差平方根 RMSEA は.066 であった GFI は.90 以上という推奨水準 (Bagozzi & Yi 1988) を満たし AGFI も.85 以上という推奨水準 (Bagozzi & Yi 1988) を満たしている 平均二乗誤差平方根 RMSEA についても.08 以下という推奨水準 (Steiger 1980) を満たしている 以上の結果 推奨水準をすべて満たしていることからこのデータがモデルに適合していることを示唆している 続いて モデルの部分的評価を行う まず Howard のニューモデルに準拠した仮設 1 及び 2 に関しての評価を行う あいまいな確信は意図に対して有意かつ正の影響を与えていた ( =.311, t=1.970, p<0.05) これは 最寄品はあいまいな判断のもと購買が行われるため 購買しようと考えやすいという仮説 1 を支持する結果である 次に 態度は意図に対して有意かつ正の影響を与えていた ( =.783, t=6.581, p<0.01) これは 期間限定製品に好感を抱いているほど期間限定製品を購買しようと考える傾向にあるだろうという仮説 2 を支持する結果である 続いて モデルに新しい概念を組み込んだ仮説 3 から 7 までの評価を行う 機能的リスクは態度に対して有意かつ負の影響を与えていた ( =-.143, t=-2.172, p<0.05) これは 期間限定製品が消費者に期間限定 19 2008 年 12 月 18 日実施 20 2008 年 12 月 19 日 2009 年 1 月 10 日に実施 21 たとえばすべて 1 などの回答である 8

製品の品質は大丈夫なのだろうかという不安を抱かせ 消費者に期間限定製品を好ましく感じさせなくするという仮説 3 を支持する結果である 時間制限的リスクはあいまいな確信 意図及び態度に対して有意かつ正の影響を与えていた ( =.302, t=2.741, p<0.01 =.565, t=3.459, p<0.01 及び =.700, t=.4.446, p<0.01) これは 期間限定という言葉によって心理的に焦ってしまい買うか買わないかという判断がより簡単に行われ 結果購買意図が促進されるという仮説 4 5 と期間限定という言葉があるとその製品が好ましく感じられるという仮説 6 を支持する結果である 係数を比較すると 時間制限的リスクはあいまいな確信及び意図よりも態度に強い影響を与えていることがわかった 消費者は期間限定という言葉によって心理的に焦らせられるよりも 最寄品であっても 限定 という言葉に希少価値を見出し 期間限定製品への態度を高めていると考えられる また 時間制限的リスクは機能的リスクに対し有意な影響を与えていなかった ( =-.046, t=-.378, p>0.10) これは 時間制限的リスクと機能的リスクの間には有意な関係性はなく 期間限定という言葉が消費者を製品の購買に急がせることにより 製品の品質に対する不安を軽減するという仮説 7 を支持しない結果であり 仮説 7 は棄却された 時間制限的リスクと機能的リスクの態度に対する係数を比較してみると 時間制限的リスクのほうが機能的リスクより態度に対し強い影響を与えていることがわかった これは 期間限定という言葉が消費者に品質に対する不安を抱かせるよりも 期間限定製品を好ましく感じるほうが強いという仮説 8 を支持する結果である 分析結果は表 2 及び図 3 に示されている 表 2: 構造方程式モデルの推定結果 H1 あいまいな確信 意図 (+).305 (t= 1.933) ** H2 態度 意図 (+).767 (t= 6.407) *** H3 機能的リスク 態度 (-) -.143 (t=-2.172) ** H4 時間制限的リスク あいまいな確信 (+).172 (t= 2.756) *** H5 時間制限的リスク 意図 (+).329 (t= 3.005) *** H6 時間制限的リスク 態度 (+).413 (t= 4.603) *** H7 時間制限的リスク 機能的リスク (-) -.046 (t=-.378) 注記 :***:1% 水準で有意 * *:5% 水準で有意 ²=42.504 (d.f.=28), p<0.05 GFI=.933; AGFI=.866; RMSEA=.066 9

図 3: 分析結果 時間制限的リスク.302 *** あいまいな確信.311 **.565 *** -.046.700 *** 意図.783 *** 機能的リスク -.143 ** 態度 ***:1% 水準で有意 **:5% 水準で有意 実線 : 有意 破線 : 非有意 7. 本論の知見と今後の課題 今日 スーパーマーケットやコンビニエンスストアには数多く最寄品の期間限定製品が通常製品とともに陳列されている 消費社会といわれている今日において 多量に期間限定製品はあるにもかかわらず その 限定 という言葉にどれほど消費者が影響されているかという研究は盛んに行われているとはいえない 本論は Howard のニューモデルをもとに 製品の品質は大丈夫だろうかという不安の 機能的リスク 販売期限を限られたことによって生じる不安の 時間制限的リスク 自分の行動に絶対の自信を持つことがない状況下での自分の行動に自信が持てる程度である あいまいな確信 その製品に対しどれだけ好感を抱くかの程度である 態度 購買しようと思う程度である 意図 を変数に持つ独自の因果モデルを提唱し 消費者がどれほど 期間限定 という言葉に影響され期間限定製品を購買しようと思うのかということを説明しよう試みてきた 構築された因果モデルは 大学生に対して行った質問紙調査のデータを用い 共分散構造分析によって経験的テストに付された 分析結果が示唆することには 期間限定製品の 期間限定 という言葉は最寄品という希少価値が薄れやすい製品においても希少価値を見出させ 消費者にその製品に対し好印象を与えていることがわかった また 期間限定製品の品質が不安だと感じさせる機能的リスクを軽減させる要因が時間制限的リスクだとしていたがその関係は認められなかった しかし 係数の数値的にはマイナスになっており時間制限的リスクが機能的リスクを軽減しているということは認められた 他に 時間制限的リスクは機能的リスクよりも態度に対し強い影響を与えていることがわかった これは 消費者は期間限定製品に対し 品質が不安だと感じていても 期間限定製品は販売期限が限られている希少価値のある製品だと強く感じ 好ましく感じるということである 期間限定 という言葉が発生させる時間制限的リスクが他の変数に与えた係数を比較してみたところ あいまいな確信及び意図よりも態度に一番強い影響を与えていることもわかった つまり 期間限定 という言葉は消費者を心理的に焦らせ判断をより簡単にさせるよりも 期間限定製品を好ましいと感じさせ 10

期間限定ているということである 以上の結果から 期間限定製品に対し消費者からより好感をもたせるためには その製品をまず消費者に 期間限定の製品 だと強く感じさせる必要性があるということである それには 製品に 期間限定 という言葉を目立たせる位置に記載することがなによりの方法であろう 直接分析にはかかわっていないが本テストの予備テストとして 期間限定 という言葉を製品のどの位置に記載したらいいかという調査も行った 記載の例として挙げたのが図 4 の 4 つである 図 4: 記載例 (a) 上に表示 (b) 中央に表示 期間限定 製品名 製品名 期間限定 (c) 下に表示 (d) 側面に表示 製品名 期間限定 この結果は (a):57 名 (b):37 名 (c):27 名 (d):11 名 無回答 :4 名だった このことから 期間限定 と表記する際は 製品名の上 に記載するのが最も消費者から期間限定製品だと認識されやすいということがわかった そして より期間限定製品に対し好感を持ってもらうためには できるだけ製品の品質を詳細にわかりやすく記載するべきである それにより 消費者からの期間限定品の品質に対する不安を軽減することができるだろう また 期間限定 という言葉は消費者から好感もってもらえる言葉であることがこの調査から判明したので 通常製品がある製品の新製品を出す場合はただ単に 新製品 として売り出すよりも 一度期間限定製品として販売し消費者の反応を見て 消費者からの認知度を高めてから本格的に新製品として販売するというのも有効的な戦略であると考えられる 11

本論で構築されたモデルについて 幾つかの限界が存在する 第 1 に 調査の期間限定製品の参考となる製品を飲料の中の紅茶に限定したことである 紅茶以外にも飲料は存在しているので本来なら複数の飲料を参考製品として調査する必要があるように思われるが本論では時間 労力の関係から困難であった 第 2 に 本論は調査対象を大学生にしたことである 年代によって結果は違うであろう 最後に 期間限定製品の存在する最寄品は様々な種類の製品があり それを本論では飲料に限定した点である 飲料における 期間限定 は 一般的に 味 が通常製品とは違うという点だが 例えば洗剤などにおいては期間限定の増量というようにそれ自体の品質は通常製品と変わらないが 量 という点で違いを出す期間限定の使い方もある 飲料以外の製品における 期間限定 という言葉の影響力を調査及び分析することは 今後の研究における興味深い課題であろう 本論で扱った期間限定製品は 希少価値が少ないと知覚される最寄り品の中に存在する製品である しかし 本論により 最寄品における期間限定製品に対しても消費者は希少価値を見出し 期間限定 という言葉に好感を持っているということが確認された その点に本論の意義を主張することができるであろう 参考文献青木均 (2005) インターネット通販と消費者の知覚リスク 地域分析: 愛知学院大学経営研究所々報 ( 愛知学院大学 ) 第 44 巻第 1 号 69-82 頁 Bagozzi, R. P. & Y. Yi (1988), On the Evaluation of Structural Equation Models, Journal of the Academy of Marketing Science, Vol.16, No1, pp.76-80. Bauer, R. A. (1967), Consumer Behavior as Risk Taking, in D. F. Cox eds., Risk Taking and Information Handling in Consumer Behavior, Boston: Graduate School of Business Administration, Harvard University, pp.23-33. Brown, S (1999), Post-Modern Marketing, Thomson Learning, ルディー和子訳 (2005) ポストモダン マーケティング- 顧客志向 は捨ててしまえ! ダイヤモンド社 Copeland, M. T. (1923), Relation of Consumers Buying Habits of Marketing Methods, Harvard Business Review, Vol.1, No.2, pp.282-289. 芳賀綏 佐々木瑞枝 門倉正美 (1996) あいまい語辞典 東京堂出版 平久保仲人 (2005) 消費者行動論 - なぜ 消費者は A ではなく B を選ぶのか? ダイヤモンド社 Holton, R. H. (1958), The Distinction between Convenience Goods, Shopping Goods, and Speciality Goods, Journal of Marketing, Vol.23, No.1, pp.53-56. Howard, J. A., R. P. Shay, & C. A. Green (1988), Measuring The Effect of Marketing Information on Buying Intentions, Journal of Consumer Marketing, Vol.5, No.3, pp.5-14. 中田善啓 (1977) 購買者行動システムの分析-Howard and Sheth モデルを中心として- 大阪府立大学経済研究 ( 大阪府立大学 ) 第 22 巻第 2 号 37-77 頁 沼上幹 (2000) わかりやすいマーケティング戦略 有斐閣アルマ 村上宣寛 (2006) 心理尺度のつくり方 北大路書房 12

桶谷巧 (2005) インサント ダイヤモンド社 (2008) 思わず買ってしまう 心のスイッチを見つけるためのインサント実践トレーニング ダイヤモンド社 小野裕二 (2004) 小売構造の変化に関する一考察 NUCB Journal of Economics and Information Science ( 名古屋商科大学 ) 第 48 巻第 2 号 47-58 頁 Schiffman, L. & L. Kanuk (1991), Consumer Behavior, Prentice Hall. 重田修治 (2004) 心理マーケティングの技術 PHP 研究所 椎名乾平 (2005) コンフリクト 迷いと意思決定 日本知識情報ファジィ学会誌 第 17 巻第 6 号 672-678 頁 清水聰 (1999) 新しい消費者行動 千倉書房 白井美由里 (1999) 販売量が内的参照価格に依存するときの小売店の最適価格設定戦略: 動的計画法による分析 横浜経営研究 ( 横浜国立大学 ) 第 19 巻第 4 号 397-416 頁 (2003) 内的参照価格に関する先行研究の展望 横浜経営研究 ( 横浜国立大学 ) 第 23 巻第 4 号 137-171 頁 佐々木茂 坪井明彦 (2000) 消費者購買特性および広告が小売価格競争に及ぼす影響に関する基礎的考察 高崎経済大学論集 ( 高崎経済大学学会 ) 第 43 巻第 2 号 15-27 頁 Steiger, J. H. (1980), Tastes of Comparing Elements of a Correlation Matrix, Psychological Bulletin, Vol.87, No.2, pp.245-251. 多田洋介 (2003) 行動経済学入門 日本経済新聞出版社 高橋郁夫 (1996) 通信販売と消費者購買意思決定プロセス:J. A. Howard の消費者意思決定モデルに基づく実証分析 三田商学研究 ( 慶應義塾大学 ) 第 39 巻第 5 号 9-24 頁 匠英一 (2005) 図解でわかる心理マーケティング 日本能率協会マネージメントセンター 徳田賢治 (2006) おまけより割引してほしい- 値ごろ感の経済心理学 ちくま新書 上田和勇 (1987) 保険加入時の消費者の知覚リスクに関する実証的研究 文研論集 ( 生命保険文化研究所 ) 第 79 号 1-36 頁 和田充夫 恩蔵直人 三浦俊彦 (1996) マーケティング戦略 有斐閣アルマ Zaltman, G. (2003), How Customers Think: Essential Insights into the Mind of the Markets, Boston: Harvard Business School Press, 藤川佳則訳 阿久津聡訳 (2005) 心脳マーケティング顧客の無意識を解き明かす ダイヤモンド社 13

期間限定ウィンターブレンド期間限定製品に関するアンケート調査 久保知一研究室第二期生堀大輔 現在私は期間限定製品の研究を進めております この度 期間限定製品について皆様が持つイメージを調査するためにアンケートを作成しました アンケート結果に関するプライバシーは保護され 学術的な目的のみで利用されます アンケートが営利目的で利用されることはありません ご協力よろしくお願い致します <アンケートに移る前に読んでください > あなたはスーパーマーケットに立ち寄りました のどが渇いていたあなたは飲み物を買おうと思いジュースコーナーへ そこで目にとまったのが午後の紅茶 ( キリンビバレッジ ) さらに売り場をよく見てみると 期間限定 と書かれた 午後の紅茶 ( ウィンターブレンド ) を発見 今は以上のような状況であることを頭においてアンケートにお答えください 午後の紅茶 ( ウィンターブレンド ) は実在しておりません 期間限定製品に関する質問 01: あなたは製品のどこに 期間限定 の文字があると気になりますか 以下から選び をつけてください (a) 上に表示 (b) 中央に表示 期間限定 期間限定 ウィンターブレンド ウィンターブレンド (c) 下に表示 (d) 側面に表示 ウィンターブレンド 期間限定 14

まぁあてはまらないまぁあてはまるどちらでもないあてはまらないあてはまる02: 午後の紅茶 ( ウィンターブレンド ) は冬季限定と表示してあった この条件で以下の質問にお答えください 0201:( 次はないかもしれないから ) とりあえず買ってしまおうとなる 5-4-3-2-1 0202: 今を逃せば二度と手に入らないかもと感じてしまう 5-4-3-2-1 0203: なくなるかもと不安になってしまう 5-4-3-2-1 0204: 冬季限定 と書かれると焦ってしまう 5-4-3-2-1 まぁあてはまらないまぁあてはまるどちらでもないあてはまらないあてはまる0301: 通常製品 ( この場合は午後の紅茶ストレートティー ) のほうが安心だ 5-4-3-2-1 0302: 通常製品のほうが好ましい 5-4-3-2-1 0303: 期間限定製品の味はあまりよくなさそう 5-4-3-2-1 0304: 期間限定製品は単発的であるため味はあまりよくなさそう 5-4-3-2-1 0401: 飲み物を買うとき なんとなくで何を買うか決める気がする 5-4-3-2-1 0402: 飲み物を買うとき 何気なく目にとまったものを手に取る気がする 5-4-3-2-1 0403: 飲み物を買うとき その時の気分で何を買うか決める気がする 5-4-3-2-1 0404: 飲み物を買うとき まぁこれでいいか という判断で何を買うか決める気がする 5-4-3-2-1 0405: 飲み物を買うとき はっきりとした判断をすることは少ない気がする 5-4-3-2-1 0501: 期間限定製品が好きである 5-4-3-2-1 0502: 期間限定製品に興味がある 5-4-3-2-1 0601: 期間限定製品があれば買いたい 5-4-3-2-1 0602: 期間限定製品を見つけたら買いたくなる 5-4-3-2-1 0603: 期間限定製品はとりあえず買いたい 5-4-3-2-1 07: 性別 : 男性女性 アンケートは以上です 全ての質問に回答しているかご確認ください 貴重なご協力に心から感謝致します ありがとうございました 15