2014.1.29 & 30 中小企業者のための地下水汚染未然防止対策セミナー プラスチック材料の薬液による劣化挙動 東京工業大学大学院理工学研究科化学工学専攻教授久保内昌敏 講演内容 1. プラスチック材料の薬液による劣化 1-1. 物理的劣化と化学的劣化 1-2. プラスチック材料の腐食形態 2. 物理的劣化とその浸入挙動 2-1. 薬液の浸入挙動 2-2. 物理的劣化の可逆性 2-3. 薬液浸入に及ぼす充填粒子の効果 3. 化学的劣化とその形態に基づく劣化機構 3-1. 表面反応型と腐食層形成型の劣化挙動 3-2. 全面浸入型の劣化挙動 3-3. 形態に基づく劣化機構 4. 劣化形態に基づく寿命予測 4-1. 表面反応型と腐食層形成型の寿命予測 4-2. 全面浸入型の寿命予測 2
1. プラスチック材料の薬液による劣化 浸透, 透過溶出, 抽出 化学反応 分解 酸化, 加水分解アルカリ融解など 環境剤の浸入 ( 時間, 温度 ) 高分子材料 溶媒和 膨潤 溶解膨潤 分子結合の弱化, 形状の変化極端な強度低下 外観の変化機械的性質の低下物理的性質の低下 環境応力割れ 動的条件 応力温度勾配流動 クレーズ き裂 分子配向 分子結合の切断 水蒸気拡散 3 プラスチックの腐食劣化事例 腐食劣化事例集 樹脂ライニング工業会 樹脂ライニング皮膜の劣化診断指針 (2009) 写真で見る樹脂ライニング皮膜の劣化 損傷とその診断 [ 改訂版 ] 化学工学会 化学装置材料委員会 有機材料分科会 有機材料資料集 Ⅸ; 有機材料の劣化事例解析 (2006) 4
1.1. 物理的劣化と化学的劣化 物理的劣化 ; 薬液浸入による膨潤 極性が一致すると膨潤 溶解 ( 溶媒和 ) 乾燥により強度回復 溶解度パラメータ (SP) 化学的劣化 ; 化学反応による分子鎖切断 加水分解反応などによる不可逆反応 強度は回復しない 5 1.2. プラスチック材料の腐食形態 6
2. 物理的劣化 ( 浸入 ) とその寿命評価 環境液がプラスチックへ吸着, 浸入, 拡散 環境液 ( 水 ) の拡散浸入 Fickの理想拡散で整理される 分解反応せずに浸入した環境液は, 追い出すことができる 上手く追い出せば, 元に戻る 環境液が基材まで到達すれば, 基材劣化が始まる 7 2.1. 薬液の浸入挙動 環境液の拡散浸入 Fick の理想拡散で整理される 8
薬液の浸入しやすさ 溶解度パラメータによる評価 ;SP 値 凝集エネルキ ー密度 種々の溶媒のSP 値 溶媒 SP 値 クロロホルム 5.4 n-ペンタン 7.0 n-ヘキサン 7.2 四塩化炭素 8.6 トルエン 8.9 酢酸エチル 9.0 ベンゼン 9.2 アセトン 9.8 2-ブタノール 11.0 2-プロパノール 11.2 1-プロパノール 12.1 酢酸 12.6 エタノール 12.8 メタノール 14.8 水 23.4 9 薬液の浸入挙動評価 EDS(EDX) による評価 ステップ状の分布 CaseⅡ 表面 環境液の浸入方向 アミン硬化 EPを80,10% 硫酸に 100h 浸漬後の試料断面 左図四角部分のEDSによる S 元素分析結果 10
追補 ;EDS による試料断面元素分析について エネルギースペクトル 分析顕微鏡 元素マッピング分析 溶質と溶媒の浸透挙動 12 10 8 6 4 2 0 0.00 0.20 0.40 0.60 0.80 1.00 試験片深さ [mm] S element distribution 30% H 2 SO 4 20h BTB&BPB Water distribution 30wt% H 2 SO 4 20h BTB 12
有機溶媒の浸入挙動 有機溶剤の場合には濃度勾配有 Fick 型理想拡散に近い EP/ クロロトルエン,80 22hr 13 2.2. 物理的劣化における可逆性 膨潤 乾燥により強度回復 メタノール中での UP: 強度低下 乾燥により強度回復 ortho-up: オルソフタル酸系不飽和ポリエステル RFS:Retention of Flexural Strength 強度保持率 水中でのナイロン : 強度低下 乾燥により強度回復 しかし 硫酸中では回復せず 化学的な劣化 14
2.3. 薬液浸入に及ぼす充てん粒子の効果 球形粒子周りの環境液浸入 接液面 接液面 ガラスビーズ 15 フィラーの充てん効果と粒径効果 充てん効果は大きいが粒径効果は少ない! 浸入を促進させる効果が利いている 粒子表面積ではない! 16
フレークライニング フレークライニングによる透過の抑制 排煙脱硫装置の防食 ( 非常に厳しい条件 ) 水蒸気拡散による透過の道のりを長くする 材料科学 17 フレークの妨害効果と促進効果 フレークライニング 妨害効果と促進効果 (80,10% H 2 SO 4 /EP,200h) 材料科学 18
3. 化学的劣化とその形態に基づく劣化機構 腐食 劣化 電気化学反応ではないけれど 代表的な腐食環境 ( 酸 アルカリ 塩素 ) 化学反応による不可逆変化 金属の均一腐食と同様の取り扱いが可能 エポキシ樹脂の耐食性 エポキシ樹脂の酸 & アルカリ環境における耐食性は, 典型的に硬化剤によって変わる. 酸 アルカリ 酸無水物硬化 アミン硬化 19 アミン硬化と酸無水物硬化エポキシの比較 硫酸の浸入挙動 EP でも硬化剤により挙動は大きく異なる アミン硬化剤 硫酸 苛性ソーダ 酸無水物硬化剤 20
有機材料の腐食形態 21 3.1. 表面反応型と腐食層形成型の劣化挙動 材料の分解速度 >> 環境液の浸入速度材料は表面から徐々に溶出する. 残存樹脂内に環境液は全く浸入しておらず, 材料の劣化は減肉による厚さ減少で評価できる. 例 : アミン硬化エポキシ / 硝酸など 22
3.1. 表面反応型と腐食層形成型の劣化挙動 材料の分解速度 > 環境液の浸入速度材料の表面に 腐食層 が形成される. 腐食層は膨潤による寸法増加や溶出による減肉など複雑な挙動を示すが, 徐々に内部に進行する. 未腐食部は健全. 例 : 不飽和ポリエステル /KOH 水溶液など 23 3.1.1 表面反応型 <EP-MDA / HNO 3 > 外観観察 表面から徐々に溶出. 材料は薄肉化. 表面に付着した分解物は容易に除去でき, 試験前と同じ外観が現れる. 24
表面反応型 <EP-MTHPA / NaOH> 厚さの変化 (MTHPA / DGEBA-EP) /(NaOH) 1 次式 x k 1 t どの条件でも, 厚さ変化は時間に対して直線関係にある. 25 表面反応型 <EP-MTHPA / NaOH> IR スペクトル 65,10%,120hr 80, 10%, 192hr 26
3.1.2 腐食層形成型 イソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂 NaOH 環境 ; 腐食層形成型 KOH 環境 ; 表面反応型 80, 50%NaOH, 500hr 80, 60%KOH, 71hr 27 腐食層形成型 1<Iso-UP / NaOH> 断面観察 変色層 非変色層 IR 測定 変色層 = 腐食層 28
腐食層形成型 1 <Iso-UP / NaOH> 腐食層形成速度 x = k 2 t x= h 0 -h 2 h h 0 29 腐食層形成型 2 <Iso-UP / KOH> 腐食層形成速度 x = k 1 t 材料科学 30
3.2. 全面浸入型の劣化挙動 材料の分解速度 << 環境液の浸入速度環境液が材料内部に浸入し, 完全に飽和状態になった後に, 表面と内部で同時に反応が起こる. 分解前に浸入した環境液を追い出せば, 強度がほぼ回復. 例 : アミン硬化エポキシ / 硫酸など 31 全面浸入型 環境液が浸入してから分解が始まる 樹脂に特有の腐食形態 ( 金属にはない ). オルソフタル酸系不飽和ポリエステル / 水, 有機溶剤 アミン硬化エポキシ樹脂 / 硫酸水溶液 全面浸入型の系は多くないが, コンクリートライニング用樹脂として多用されている アミン硬化エポキシ樹脂 と, 近年問題になっている 硫酸環境 の組み合わせは全面浸入型となる. 初期は環境液が浸入するだけ. その後, 表面と内部で同時に強度が低下. 32
全面浸入型 重量変化 長期浸漬実験結果 アミン硬化エポキシ / 硫酸 ( 重量変化率 ) 15000 hrs= 約 2 年間の浸漬実験結果 長期浸漬試験 EP1 硫酸 同じ傾向 水 乾燥重量 時間 33 全面浸入型 アミン硬化エポキシ / 硫酸 0.95 曲げ強度の経時変化を調べた. アルカリ環境では強度低下が全く見られない. 硫酸環境では, 一定時間経過後に強度が低下. 34
全面浸入型 アミン硬化エポキシ / 硫酸 ある吸液量に達すると, その後は重量変化なしに強度が低下. 非常に危険な腐食形態である. 35 3.3. 形態に基づく劣化機構 化学反応が主体な表面反応型と腐食層形成型 劣化層の下はほとんどバージンの状態 樹脂に特有の全面浸入型 環境液が入ってからあるとき急激に強度低下 拡散と反応によって統一的な理解が可能 形態による分類と腐食の機構 腐食層形成型 表面反応型 反応が早い 全面浸入型 拡散が早い 形態による分類と腐食の予測 腐食層形成型 表面反応型 保守が容易 全面浸入型 注意が必要 36
腐食の統一的な理解 腐食形態 表面反応 腐食層形成 拡散速度と反応速度の関係 拡散 << 反応 メカニズム 分子量 低 高 腐食生成物 拡散抵抗 材料と環境の例 無 ( 溶出 ) MDA-EP / HNO 3 PA-EP n=0 / KOH 無 有 Iso-UP / KOH PA-EP n=0.5 / KOH iso-up / NaOH PA-EP n 1 / KOH 中間拡散 反応 PA6 / H 2 SO 4 全面浸入拡散 >> 反応生成しない MDA-EP / H 2 SO 4 ortho-up / H 2 O boil 37 4. 劣化形態に基づく寿命予測 38
4.1. 腐食層形成型 : 加速因子とアレニウス 腐食層形成型 : 腐食層の形成速度 腐食層の形成速度 UP/NaOH; 時間に1/2 次 UP/KOH; 時間に1 次 温度因子 アレニウスプロット 濃度因子 反応速度式 39 4.1. 腐食層形成型 : 加速因子とアレニウス 腐食層形成型 : 腐食層の形成速度 腐食層の形成速度 UP/NaOH; 時間に1/2 次 UP/KOH; 時間に1 次 温度因子 アレニウスプロット 濃度因子 反応速度式 40
4.1. 腐食層形成型 : 加速因子とアレニウス 腐食層形成型 : 腐食層の形成速度 腐食層の形成速度 NaOH; 時間に1/2 次 KOH; 時間に1 次 温度因子 アレニウスプロット 濃度因子 反応速度式 最後に残るのは 材料因子??? 41 4.1. 表面反応型, 腐食層形成型の寿命予測 強度低下 サンドイッチモデル b 2x h 2x 表面反応型 x k 1 exp 腐食層形成型 x k 1 exp n Q / RT C t L iso-up, KOH n Q / RT C t L iso-up, NaOH RFS bh iso-up, NaOH iso-up, KOH 2 2 42
4.2. 全面浸入型の寿命予測 長期浸漬実験結果 アミン硬化エポキシ / 硫酸 ( 浸入深さ ) ( 環境液浸入 = 元素分析 ) 濃度分布はステップ状 浸入深さは長期に渡って時間の平方根に比例 43 EP 樹脂ライニング材料の浸透評価試験方法 アミン硬化エポキシ樹脂 透過試験装置 TP 厚さ約 300 m セル容量 100 ml 44
エポキシへの硫酸の浸透試験 S 元素が透過する時 phは急激に低下 SO 2-4 は急激に上昇 EP4 硫酸として透過する 透過時間が寿命の設計 45 寿命予測 3 420 10 x k2 t t 30 2 x 1.4 10 t 3 2 t 5.1 10 x 5,000 x k x 1.1 10 t 2 t 55 10 50 3 5 2 8.3 10 x 8.3 t 3 約半年 t 100 年 10 46 5
エポキシ樹脂への硫酸浸透速度の推定 浸透速度の温度依存性, 濃度依存性 硫酸浸透深さの時間変化 EP2 のマスターカーブ 47 硫酸浸透深さのマスターカーブ EP2:λ=2.4 10 9 C 0.5 e -6800/T EP7:λ=2.1 10 10 C 0.5 e -7625/T EP4:λ=3.1 10 3 C 3 e -4042/T EP9:λ=2.3 10 7 C 0.5 e -5400/T 樹脂毎にマスターカーブが得られる 任意の温度 濃度における浸透速度が求められる 種々の EP 樹脂のマスターカーブ 48
接着試験結果 硫酸がコンクリートまで到達したものだけ強度が落ちている ライニングの寿命は硫酸がライニングを透過するまで コンクリート 49