<4D F736F F F696E74202D2091E63589F1926E8B85955C917782CC8D5C90AC82C AC2E707074>

Similar documents
陦ィ邏・3

<4D F736F F F696E74202D20926E8B8589C88A778A54985F E8B8593E095948D5C91A22E707074>

自然地理学概説

日本海地震・津波調査プロジェクト

大阪大学 大学院理学研究科博士前期課程 ( 宇宙地球科学専攻 第 2 次募集 ) 入学試験問題小論文 (2013 年 10 月 26 日 11 時 00 分 ~12 時 30 分 ) 次の [1] から [5] までの 5 問のうちから 2 問を選択して解答せよ 各問には別の解答 用紙を用い 解答用

Slide 1

色の付いた鉱物 ( 有色鉱物 ) では, マグマの温度が下がるにしたがい, 一般に次の順で晶出 分解します. かんらん石 斜方輝石, 単斜輝石 普通角閃石 黒雲母色の付いていない鉱物 ( 無色鉱物 ) では, 一般に次の順です. 斜長石 石英 カリ長石 問 2:1 斜長石とはどういうものかを知ってい

大地の変化 火山 マウナロア, 桜島, 雲仙普賢岳の₃つの火山で火成岩を採取することができた 図 ₁はいずれかの火山で採取した₂ 種類の火成岩のつくりをスケッチしたものである 次の問いに答えなさい (1) 図 ₁ののようなつくりを何というか () 図 ₁ののアのように大きな結晶になれな

1 正しい 地球が誕生して間もないころ 微惑星や原始惑星の衝突時に放出された熱などで地球表面は岩石が解けた状態になっており これをマグマオーシャンと呼ぶ 2 誤り 岩石が溶けてマグマオーシャンになっているとき 鉄などの密度の大きい金属成分は中心部に沈んで核を形成し 密度の小さい岩石成分は外側に向かっ


えられる球体について考えよ 慣性モーメント C と体積 M が以下の式で与えられることを示せ (5.8) (5.81) 地球のマントルと核の密度の平均値を求めよ C= kg m 2, M= kg, a=6378km, rc=3486km 次に (5.82) で与えら

untitled

物理演習問題

Microsoft PowerPoint - 1章 [互換モード]

自由落下と非慣性系における運動方程式 目次無重力... 2 加速度計は重力加速度を測れない... 3 重量は質量と同じ数値で kg が使える... 3 慣性系における運動方程式... 4 非慣性系における運動方程式... 6 見かけの力... 7 慣性系には実在する慣

2 図微小要素の流体の流入出 方向の断面の流体の流入出の収支断面 Ⅰ から微小要素に流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅰ は 以下のように定式化できる Q 断面 Ⅰ 流量 密度 流速 断面 Ⅰ の面積 微小要素の断面 Ⅰ から だけ移動した断面 Ⅱ を流入出する流体の流量 Q 断面 Ⅱ は以下のように

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

基礎化学 Ⅰ 第 5 講原子量とモル数 第 5 講原子量とモル数 1 原子量 (1) 相対質量 まず, 大きさの復習から 原子 ピンポン玉 原子の直径は, 約 1 億分の 1cm ( 第 1 講 ) 原子とピンポン玉の関係は, ピンポン玉と地球の関係と同じくらいの大きさです 地球 では, 原子 1


新潟県中越沖地震を踏まえた地下構造特性調査結果および駿河湾の地震で敷地内の揺れに違いが生じた要因の分析状況について

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

<4D F736F F F696E74202D20322E2095AC89CE976C8EAE82C695AC89CE8B4B96CD>

詳細な説明 2016 年 4 月 16 日に発生した熊本地震 ( マグニチュード (M) 7.3)( 図 1) は 熊本県 大分県を中心に甚大な被害をもたらしました 九州地方は 北東 - 南西方向に縦走する 別府 - 島原地溝帯 と呼ばれる顕著な地殻の裂け目によって特徴づけられます 別府 - 島原地

デジカメ天文学実習 < ワークシート : 解説編 > ガリレオ衛星の動きと木星の質量 1. 目的 木星のガリレオ衛星をデジカメで撮影し その動きからケプラーの第三法則と万有引 力の法則を使って, 木星本体の質量を求める 2. ガリレオ衛星の撮影 (1) 撮影の方法 4つのガリレオ衛星の内 一番外側を

岩盤斜面の進行性破壊に関する研究

Microsoft PowerPoint プレゼン資料(基礎)Rev.1.ppt [互換モード]

高軌道傾斜角を持つメインベルト 小惑星の可視光分光観測

スーパー地球の熱進化と 磁場の寿命 立浪千尋 千秋博紀 井田茂 衛星系形成小研究会 2012 小樽

木村の物理小ネタ ケプラーの第 2 法則と角運動量保存則 A. 面積速度面積速度とは平面内に定点 O と動点 P があるとき, 定点 O と動点 P を結ぶ線分 OP( 動径 OP という) が単位時間に描く面積を 動点 P の定点 O に

地球内部の放射性元素のベータ崩壊により生成 U Th K Pb 8 Pb 6 Ca e 4 4 He He 4e ν e 6 e - 6 ν 4 ν 1.31 [MeV] e e 51.7 [MeV] 42.7 [MeV] 放射性熱源は地表熱流量のおよそ半

物体の自由落下の跳ね返りの高さ 要約 物体の自由落下に対する物体の跳ね返りの高さを測定した 自由落下させる始点を高くするにつれ 跳ね返りの高さはただ単に始点の高さに比例するわけではなく 跳ね返る直前の速度に比例することがわかった

Microsoft Word - jupiter

<4D F736F F F696E74202D2091E63989F18AE290CE82CC959789BB82C693798FEB82CC8C6090AC2E707074>

解法 1 原子の性質を周期表で理解する 原子の結合について理解するには まずは原子の種類 (= 元素 ) による性質の違いを知る必要がある 原子の性質は 次の 3 つによって理解することができる イオン化エネルギー = 原子から電子 1 個を取り除くのに必要なエネルギー ( イメージ ) 電子 原子

24 4 話 超塩基性 ultrabasic 45 % 以下 40 % 前後 塩基性 basic % 50 % 前後 中性 intermediate % 60 % 前後 優白質 leucocratic 色指数 0 30 酸性 acidic 62 % 以上 70 % 前後 中色

WTENK5-6_26265.pdf

平成 28 年度勝山市ジオパーク学術研究等奨励補助金研究報告 1 経ヶ岳 法恩寺山火山噴出物の岩石学的研究 Petrological study of the volcanic products from Kyogatake and Hoonjisan volcanoes, Katsuyama, F

スライド 1

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

横浜市環境科学研究所

数値計算で学ぶ物理学 4 放物運動と惑星運動 地上のように下向きに重力がはたらいているような場においては 物体を投げると放物運動をする 一方 中心星のまわりの重力場中では 惑星は 円 だ円 放物線または双曲線を描きながら運動する ここでは 放物運動と惑星運動を 運動方程式を導出したうえで 数値シミュ

大阪大学物理 8 を解いてみた Ⅱ. 問 ( g cosq a sin q ) m - 台 B 上の観測者から見ると, 小物体は, 斜面からの垂直抗力 N, 小物体の重力 mg, 水平左向きの慣性力 ma を受け, 台 B の斜面と平行な向きに運動する したがって, 小物体は台 B の斜面に垂直な方

2009 年 11 月 16 日版 ( 久家 ) 遠地 P 波の変位波形の作成 遠地 P 波の変位波形 ( 変位の時間関数 ) は 波線理論をもとに P U () t = S()* t E()* t P() t で近似的に計算できる * は畳み込み積分 (convolution) を表す ( 付録

Microsoft Word - 木材の塩素濃度報告110510_2.docx

Xamテスト作成用テンプレート

領域シンポ発表

環境科学部年報(第16号)-04本文-学位論文の概要.indd

ギリシャ文字の読み方を教えてください

FdText理科1年

Microsoft PowerPoint - ‚æ5‘Í [„Ý−·…‡†[…h]

固体地球は, また大きく 3 つの分野に分けられます. 測地 地震 火山の3つです. この中で最も歴史が古いのは測地で, 地球を測るという意味では, 紀元前 240 年頃には地球の大きさが測られています. 近代的な測量方法は 18 世紀にフランスで発展しました. フランスは, 子午線の 1/4 の長

平成 27 年 7 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人広島大学国立大学法人東北大学千葉工業大学公益財団法人高輝度光科学研究センター 月表層の岩石試料 ( アポロ試料 ) から高圧相を世界で初めて発見 ポイント アポロ計画で回収された月表層の岩石試料から 世界で初めてシリカ (SiO 2 ) の高

2011 年度第 41 回天文 天体物理若手夏の学校 2011/8/1( 月 )-4( 木 ) 星間現象 18b 初代星形成における水素分子冷却モデルの影響 平野信吾 ( 東京大学 M2) 1. Introduction 初代星と水素分子冷却ファーストスター ( 初代星, PopIII) は重元素を


Microsoft PowerPoint - 科学ワインバー#2

<4D F736F F F696E74202D C CC89C88A B8CDD8AB B83685D>

スライド 1

参 考 1. 工事請負契約書 2. 建設分野で使われるおもな単位 3.SI 単位換算率表

1 大量のマグマが排出されると, 大きなマグマ溜りはその天井を支えられない. 2 そのような場合には, 上に載る火山性構造が破滅的に崩落し, カルデラと呼ばれる, 火口よりもはるかに巨大な, 急な壁に囲まれた盆地の形をした窪みを残す ( 図 12.11f を見よ ). 3 オレゴン州のクレーターレイ

名称未設定-1

ÿþŸb8bn0irt

PowerPoint プレゼンテーション

はじめに 卒業研究のテーマとして土星のリングを取り上げてきた 土星はその美しいリングを持つ惑星として有名である 太陽系の惑星では土星以外にもリングを持つ惑星に木星 天王星 海王星が挙げられるが 土星の持つリングはこの 3 つの惑星とは比べ物にならないほど はっきりとしていて特徴的である そこで本論文

- 14 -

概論 : 人工の爆発と自然地震の違い ~ 波形の違いを調べる前に ~ 人為起源の爆発が起こり得ない場所がある 震源決定の結果から 人為起源の爆発ではない事象が ある程度ふるい分けられる 1 深い場所 ( 深さ約 2km 以上での爆発は困難 ) 2 海底下 ( 海底下での爆発は技術的に困難 ) 海中や

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな

SMM_02_Solidification

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

目 次 1. 想定する巨大地震 強震断層モデルと震度分布... 2 (1) 推計の考え方... 2 (2) 震度分布の推計結果 津波断層モデルと津波高 浸水域等... 8 (1) 推計の考え方... 8 (2) 津波高等の推計結果 時間差を持って地震が

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

火星大気循環の解明 ~ ダストデビルの内部調査 ~ Team TOMATO CPS 探査ミッション立案スクール 2016/08/26

図1 北米の異なる地表面で観測されたエネルギー収支の日変化. 観測は 暖候期の晴天日 に行われた. 出典 Hartmann (2016) Global Physical Climatology, Second edition, Elsevier. 図 2 北米のよく灌漑された牧草地で観測されたエネル

1. A 1-1/2 1 5 (1) sin (x y) = sin x cos y cos x sin y Z = e ix e iy (2) x < 1 x = 0 (i) 1 1 x (ii) log (1 + x) log (3) (i) (ii) 0 1 xe x dx dx (x x x

補足 中学で学習したフレミング左手の法則 ( 電 磁 力 ) と関連付けると覚えやすい 電磁力は電流と磁界の外積で表される 力 F 磁 電磁力 F li 右ねじの回転の向き電 li ( l は導線の長さ ) 補足 有向線分とベクトル有向線分 : 矢印の位

() 実験 Ⅱ. 太陽の寿命を計算する 秒あたりに太陽が放出している全エネルギー量を計測データをもとに求める 太陽の放出エネルギーの起源は, 水素の原子核 4 個が核融合しヘリウムになるときのエネルギーと仮定し, 質量とエネルギーの等価性から 回の核融合で放出される全放射エネルギーを求める 3.から

木村の理論化学小ネタ 理想気体と実在気体 A. 標準状態における気体 1mol の体積 標準状態における気体 1mol の体積は気体の種類に関係なく 22.4L のはずである しかし, 実際には, その体積が 22.4L より明らかに小さい

浮力と圧力

宇宙機工学 演習問題

国石候補 ( アイウエオ順 ) 花崗岩 ( 花崗岩質岩およびそのペグマタイト ) 多くの城の石垣として また国会議事堂を始めとする建築物や墓石にも石材として利用されている 断面には副成分鉱物を含めた様々な鉱物粒子が見える また ペグマタイトを作り そこからは様々な鉱物の巨晶が産出する 日本の代表的な

CERT化学2013前期_問題

Microsoft PowerPoint - hiei_MasterThesis

Microsoft Word - thesis.doc

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

木村の物理小ネタ 単振動と単振動の力学的エネルギー 1. 弾性力と単振動 弾性力も単振動も力は F = -Kx の形で表されるが, x = 0 の位置は, 弾性力の場合, 弾性体の自然状態の位置 単振動の場合, 振動する物体に働く力のつり合

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

Microsoft PowerPoint - ‚æ4‘Í

ニュートン重力理論.pptx

線積分.indd

TO CO ST SIGHT CATALOG MATERIAL TO DI CF SO SI MO OR MA ES MO OR MA MATERIAL 139

Microsoft PowerPoint - 第6回プレートテクトニクス.ppt

53nenkaiTemplate

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

go.jp/wdcgg_i.html CD-ROM , IPCC, , ppm 32 / / 17 / / IPCC

i ( 23 ) ) SPP Science Partnership Project ( (1) (2) 2010 SSH

線形粘弾性 a.応力緩和とマクスウェル模型

EOS: 材料データシート(アルミニウム)

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

第 2 章 構造解析 8

Transcription:

第 5 回 地球表層 ( 地殻 ) の構成と組成 地球の平均密度は 5.52g/cm 3 である 地球表層の地殻をつくる花崗岩の密度は 2.67g/cm 3 玄武岩の密度は 2.80g/cm 3 であり ともに地球の平均密度の半分ほどしかない 石 砂粒の平均密度は 3.0g/cm 3 以下である この事実は 地球内部が地球表層の岩石よりずっと重い物質でできていることを示唆している 地震波の解析から 地球は内核 外核 マントル 地殻に四分され 軽い物質ほど上部に濃集した階層構造を成していることがわかっている 地殻の 75%( 重量 ) は珪素と酸素で構成されている 珪素と酸素という 2 つの元素からなる鉱物は石英 ( 水晶 ) であるが その石英の成分が地殻の 75% を占めている その内 47% 近くが酸素の重量である 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

地殻は体積で 94% が酸素原子から構成されている この酸素と珪素がつくる構造の中に様々な元素がはいって 様々な鉱物がつくられている その鉱物の集合体が岩石である 地殻の構成や化学組成 鉱物の化学組成と結晶構造など 鉱物のミクロな結晶構造の知識は 土壌の形成過程や土木 建設工事の基礎としての岩石や粘土の理解に欠かせない また岩石が溶融したマグマが噴出する火山活動や 岩石の破壊現象である地震を理解するための基礎でもある ここで 地殻を中心に 地球の構成と構造をマクロとミクロな視点から説明する

(a) 地球の質量と平均密度 太陽系の全質量の 99.9% は 地球の約 33 万倍の質量をもつ太陽によって占められているが 太陽の密度は 1.41g/cm 3 地球の約 1/4 しかない 惑星や衛星の質量は揮発成分の存在量を決定する 地球の質量は約 6.0 10 27 g 平均密度は 5.52g/cm 3 である 地球の質量は地球の重力加速度と半径より 万有引力の法則から求めることができる 地球上の 1kg の物体には 9.8N の力が働いている 地球表層の岩石の密度は 2.5~3g/cm 3 である 地球の平均密度の半分程度しかない この違いには 2 つの原因が考えられる 1 つは地球内部が高圧のため圧縮され 高密度の物質に相転移している もう 1 つは地球内部が地殻の岩石の化学組成と違う重い物質で構成されている

(b) 重力と引力 地球上の引力と重力の値はほぼ等しいとして地球の質量を求めた しかし地球が自転しているため 実際には引力と遠心力の合力が重力となる ( 図 1) 遠心力は緯度によって異なり 赤道上で最大となり 質量 1kgの物体が受けている遠心力は約 0.034Nである 赤道上の遠心力は引力の値の1/289の小さな値であるが それによって地球の赤道半径は極半径より21.3km 長くなっている 地球の半径が緯度によって異なるため 重力の値も緯度によって異なり 赤道では9.78m/s 2 極では9.83m/s 2 と変化する ( 表 1) また地下に高密度な物質がある場合には重力の値は相対的に大きくなり 軽い物質があると相対的に小さくなる

表 1 地球上の重力値の変化 緯度 ( ) 標準重力値 (m/s 2 高さ ( km ) 標準重力値 (m/s 2 ) 90 9.83219 35 9.673 80 9.83062 30 9.688 70 9.8261Q 25 9.703 60 9.81918 20 9.719 50 9.81070 15 9.734 40 9.80169 10 9.749 30 9.79325 5 9.765 20 9.78637 0 9.780 10 9.78188 0 9.78033

図 1 自転している地球とその上の物体に働く重力 ( 万有引力と遠心力の合力を重力と呼ぶ 遠心力 f は f=mrω 2 cosφ で表され (m: 物体の質量 ; r: 地球の半径 ; ω: 自転の角速度 ; φ: 緯度 ) 赤道上で最大 極で最小となる 赤道上の 1kg の物体に働いている遠心力の大きさは 約 0.034N であり 引力 ( 約 9.81N) の 1/289 である ) 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

図 2 地球内部の密度 体積弾性率 圧力の変化 ( コラム 地球内部の物質と圧力 p.54 を参照 Bullen,1936)

(c) 地震波の速度分布と成層構造 実際の観測によって求められた地震波速度の深さ方向の速度分布を図 3 に示す 4 つの深度で不連続が見られる この不連続面の存在は 地球内部が層構造をなしていることを示し 物質の急激な相変化あるいは化学組成の変化があることを示している 深さ 7~40km の不連続面は その発見者の名前をとってモホロビチッチ不連続面 ( モホ面 ) と呼ばれている これより上の地殻では地震波の P 波の速度が 5~7km 程度であるが その下のマントルでは約 8km になる P 波速度はマントル最上部で 8km/s の速度に達するが 深さ 70~200 km 付近で再び 7.8 km/s 程度に減速する この部分を低速度層と呼んでいる ( 図 4) ここでは岩石が部分的に数 % 程度融解している マントルには深さ 400km と 670km に 圧力の増加に伴う相転移による不連続面が存在することが知られている

低速度層より深いマントルでは P 波速度は深度とともに 増加し 最大約 14km/s に達するが 深さ 2900km で急激に減 速し 8km/s に戻る また この深度より以深では S 波が伝わら なくなる ( 図 3) この不連続面をグーテンベルグ不連続面と呼 び これ以深を核と呼ぶ マントルを構成する物質は超高圧実験に基づき かんらん岩とそれが相変化した岩石から構成されていると考えられているが マントル下部についてはまだ不明なことが多い 深度 5100km 付近で P 波速度はもう一度急激に増加する こ の不連続面を境に上部を外核 下部を内核と呼んでいる 核 は鉄やニッケルなどの金属でできていると考えられているが 外核は液体 内核は固体と考えられている その根拠になっているのが 地震波のシャドーゾーンの存在である

図 3 地震波速度と地球の内部構造 はグーテンベルグによるモデルを表す. ( 図説地球科学 岩波書店,1988による) (a) モホ不連続面 ; (b) 地球の内部構造 ; (c) 地震波速度分布. 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

図 4 地球表層の構成 大陸地殻は花崗岩質の上部と玄武岩質 ( はんれい岩質 ) の下部に二分される 地殻とマントル最上部の厚さ 80~120km はプレート ( リソウスフェア ) と呼ばれており その下には部分的に岩石が融解した低速度層 ( アセノスフェアー ) が分布している 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

図 5 地震波観測による地球内部の推定 (a) P 波は地球内部を貫通し 地震発生の約 22 分後には地球の反対の地点に到達する S 波は核とマントルの境界で屈折するため 震央距離 103 ~ 143 の地域では観測されないシャドーゾーン (b) 日本で発生した地震波のシャドーゾーン (Holmes 19781 上田 貝塚 兼平 小池 河野訳 一般地質学 III 東京大学出版会 1984)

大地震が発生すると 地震波は核を通過して約 22 分後には20,000km 離れた地球の反対側に到達する ところが震央から11,500kmから16,000km 離れたドーナツ状の地帯には届かない 震央距離 103 ~143 の地域では 地震が観測されない このような現象は地球上のどの地点で発生した地震でも共通である この地震波が到達しない地帯のことを地震波の影 シャドーゾーンと呼んでいる いったん観測されなくなったP 波は 143 より遠隔地では再び観測されるようになるが S 波は観測されない これらの観測事実は マントルと核の密度が異なるため その境界で波が屈折して起こったものである また103 より以遠ではS 波が観測されないことは核が液体であることを示している ただし 5,100km 以深ではP 波速度が急増することから 内核は固体であると考えられている

隕石による地球内部構造の解明 地球内部の構造と構成は 地震波を使って間接的に調べら れているが この推定が正しいことを示す証拠は隕石である 地球上に落ちてくる隕石は 火星と木星の間にあったもう1 つの惑星が他の天体の衝突によって破壊され 散らばったも のと考えられている 隕石の組成は石質隕石と鉄と鉄質隕石に二分され これまでに発見された各々の割合は93% と6% になっている ( 図 6) この割合は地球の地殻 マントルと核の 体積の割合 84% と 16% に近似している 石質隕石は地殻と マントルに 鉄質隕石は核に相当し 石鉄質隕石は核とマン トルの境界の物質に対応しているものと思われる 石質隕石 も鉄質隕石も様々な方法で年代測定されているが その年代値は45~46 億年前を示し 地球の年齢と同じである

隕石の種類はコンドリュールと呼ばれる丸い粒子をもつ石質隕石 ( コンドライト ) とコンドリュールをもたない石質隕石 ( エイコンドライト ) および Fe-Ni 合金からなる鉄隕石に大別される 図 6 地球上に落下した隕石の種類 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

地殻の構成と化学組成 地球の表面積 5.10 108km 2 の 29.2% が陸で 70.8% が海で 占められている 陸の平均高度は 840m であり 海の平均深 度は -3,795m である 地球表面の高度分布は二極化している 0~1,000m が 20.8% を占め -4,000~-5,000m が 23.4% を占めて いる 金星や火星 そして月の高度分布は 1 つの高度帯に集 中する これは地球の表層が性質の異なる 2 つの地殻から構 成されていることによるものと考えられる

(a) 大陸地殻と海洋地殻 大陸と海洋ではそれを構成する岩石の種類や厚さ 構造や年齢などが著しく異なっている それは以下の表のようにまとめられる 大陸地殻の69% はクラトン ( 剛塊 ) と呼ばれる25 億年より古い岩石から構成された 現在は地殻変動のない安定した地域である クラトンの周辺にはそれより若い年代の様々な造山帯からなる変動帯が取り巻いており それは大陸地殻の15% を占めている また アフリカ大地溝帯や北米のベースン & レーンジのように 地殻が引き延ばされ薄くなっている地帯が10% 日本列島のような火山弧が6% を占めている 大陸地殻の平均的な厚さは約 40kmであるが ヒマラヤやアルプスのような大陸が衝突してできた造山帯では 地殻の厚さは2 倍近くに達する

図 7 造山帯と海洋底の年代分布 科学 第 68 巻第 10 号丸山茂徳 岩波書店 1998

大陸地殻上部は主に花崗岩質 (SiO 2 約 70%) の岩石で構成されているが 海洋地殻は主に玄武岩質 (SiO 2 約 50%) の岩石から構成されている 日本列島のように海洋と大陸の境界に位置する島弧 ( 弧状列島 ) は 花崗岩と玄武岩の中間的な組成をもつ安山岩質 (SiO 2 約 60%) の岩石からなっている 大陸地殻を構成する岩石は 実際には様々な年齢と種類の岩石から構成されている 一方 海洋地殻は驚くほど均一な岩石組み合わせから構成されている すなわち第 1 層と呼ばれる最上部は 海洋生物の遺骸を中心とした厚さ数百メートルの遠洋性堆積物であり その下の第 2 層は枕状溶岩とそれを供給した平行岩脈群からなる ( 図 8) 第 3 層は層状はんれい岩からなり その下に層状かんらん岩を伴うことがある このような岩石組み合わせと積み重なりの順序は 世界中どこの海洋底でも同じである

図 8 中央海嶺における海洋地殻の形成モデル (Gass 1982)

海洋地殻第 2 3 層は中央海嶺で生産され 第 1 層はその後の海洋底拡大過程で堆積したものである なお風化浸食作用に常時さらされている大陸上では堆積速度が速く 1,000 年に100~1,000mmの堆積速度である しかし海洋底では陸源の砕屑粒子の供給は非常に限られ 風化浸食作用もないため堆積速度は遅く 1,000 年に1~ 数ミリメートル程度である したがって海洋底の堆積物 1m には 過去 100 万 ~ 数十万年の記録が残されていることになる

(b) 岩石 鉱物 ガラス 地殻を構成している岩石の基本粒子が鉱物である 花崗岩は石英 長石 雲母という3つの鉱物の集合体である 各鉱物の量比や粒度は不均一で 含ま れる副成分鉱物や化学組成は似ているが一定ではない 鉱物は均一な内部構造をもつ天然の無機物である 石英の化学組成は地球上どこでもSiO 2 であり 同じ物理的性質 ( 硬度 壁開 密度など ) をもつ 鉱 物は原子が規則正しく配列した結晶から構成されている 結晶の構成原子は ある一定の方向では一定の間隔と周期で規則正しく並んでいる その結果 同じ結晶構造をもつ鉱物は 同じ結晶形態や壁開をもっている ガラスは非結晶であり 原子の配列に規則性がない 岩石や鉱物を融解して急冷すると 天然ガラス ( たとえば黒曜石やガラス質火山灰 ) になる した がって 花崗岩を融解して急冷すると花崗岩質ガラス 玄武岩を融解 急冷すると玄武岩質ガラスとなる 鉱石とはある特定の元素や鉱物が濃集し それを抽出しても採算がとれる価値をもった岩石をいう 例えば AlやFeの最低濃度は約 30% である

図 9 鉱物 ( 結晶 ) とガラス ( 非結晶 ) の構造の違い ( クリストバライトと石英ガラスの化学組成は同じだが 石英ガラスをつくる原子は規則正しく配列していない ) 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

鉱物は温度や圧力などの物理的条件によって結晶構造を変化させ 別の鉱物に変化する 石墨 ( 密度 2.29/cm 3 ) の化学組成は炭素 C であり 柔らかく 真っ黒な色をしている しかし温度 1000 圧力が 4 万気圧以上の高圧下では硬く 透明なダイアモンド ( 密度 3.59/cm 3 ) になる 図 10 多形 ( 同質異像 ) の関係にあるダイァモンドと石墨 (a) ダイアモンドは炭素原子のつくる四面体が積み重なった密な結晶構造をなし 密度が高い (b) 石墨 ( グラファイト ) は六角形の網状シートが平行に重なった層状構造をなし 密度は低い このように化学組成が同じでも結晶構造が異なるものを多形 ( 同質異像 ) の関係にあるという 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

(c) 地殻の化学組成と鉱物組成 地殻を構成する岩石の割合は 玄武岩質の岩石が42.9% 花崗岩質の岩石が10.4% 両者の中間的な安山岩質の岩石が11.2% 変成岩と堆積岩が 35.3% を占めている 鉱物の割合は 斜長石 39% 正長石 12% 石英 12% 輝石 11% 角閃石 5% 雲母 5% 粘土鉱物 5% その他の鉱物 11% となっており 地殻の半 分が長石でできている 地殻の約 99% は以下の表に示した8つの元素から構成されている その中でも酸素と珪素の占める割合が圧倒的に多く 重量 % で74.32% 体積 % で94.63% を占める つまり石英の成分 SiO 2 が地殻の大部分を構成している また酸素と珪素の体積 % は 各々 93.77% と0.86% になっており 地 殻の大部分は酸素原子で占められている これは酸素のイオン半径 (1.40A ) が珪素のイオン半径 (0.42A ) の3 倍以上であることに由来する

重量 % 原子 % イオン半径 (A ) 体積 % O 46.60 62.55 1.40 93.77 Si 27.72 21.22 0.42 0.86 AI 8.13 6.47 0.51 0.47 Fe 5.00 1.92 0.74 0.43 Mg 2.09 1.84 0.66 0.29 Ca 3.63 1.94 0.99 1.03 Na 2.83 2.64 0.97 1.32 K 2.59 1.42 1.33 1.83 計 98.59 100.00 100.00 表 2 地殻を構成する主な元素の組成 (Mason, 1966) 図 10 地殻を構成する主な岩石 鉱物 元素の量比 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

図 11 地殻を構成する主な造岩鉱物の結晶構造 (SiO 4 四面体の酸素原子の共有の仕方によって 6つのグループにわけられる珪酸塩鉱物 ) 地球学入門 酒井治孝著 東海大学出版社 2003

火成岩の分類一化学組成と冷却速度 火成岩は冷却速度の違いによって火山岩と深成岩に二分される ( 図 12) 火山岩は地上あるいは地下浅い所で急速に冷却した岩石であり 噴出前に結晶化していた斑晶と急冷してできたガラス質基質からなる 一方 深成岩は地下深くでゆっくり冷却されて結晶化した粗粒の鉱物の集合体からなる 同じ化学組成のマグマであっても 冷却速度の違いにより異なる組織をもった火成岩となる たとえば海洋地殻をつくる玄武岩は ゆっくり冷却すると輝石 かんらん石 斜長石からなる完晶質のはんれい岩になる 一方 大陸地殻をつくる花崗岩質のマグマが地上に噴出すると流紋岩となる 玄武岩と流紋岩の中間的な組成をもつ安山岩が地下深所でゆっくり固結すると閃緑岩となる

図 12 火成岩の分類と鉱物点化学組成

地球内部の物質と圧力 地球深部で圧力が増加すると 物質の結晶構造が変化し ( 相転移 ) それに伴い密度と地震波速度が増加する マントルは地球の全体積の 82.6% を占め その結晶構造の変化は マントルの対流運動やプレート運動の起源を理解するのに重要である 超高圧実験装置を使った研究により マントル上部では 2 つの深度で相転移が起こっていることが明らかにされた 約 400km におけるカンラン石 (Mg, Si) 2 SiO 4 のスピネル構造への転移と約 670km におけるスピネル構造からペロブスカイト構造への相転移である 後者は上部マントルと下部マントルの境界となっている 上部マントルでは Si 原子 1 個に対し O 原子が 4 個の 4 面体構造が基本になっているが (4 配位 ) 下部マントルでは Si 原子 1 個に対し O 原子が 6 個結びついた (6 配位 ) より密なパッキングのペロブスカイト構造からできている ( 図 13)

カンラン石のスピネル構造からペロブスカイト構造への相転移 図 13 岩石の構成 地震波速度 力学的性質による核 マントルの区分 ( 川勝均編 地球ダイナミクスとトモグラフィー 朝倉書店,2002)