青竜塾平成 27 年第 3 回 漢方生薬と方剤補腎剤 医療法人社団ひのき会 証クリニック吉祥寺 神田 檜山幸孝
五臓の身体支配部位 腎
五臓の身体支配部位 腎 脳目 耳 髄骨格
五臓と七情の対応 恐驚
五臓と五味の対応 腎
五臓と五味の対応 腎
腎の機能 : 制を蓄え供給する 精 = 生命を維持する基本物質先天の気は自らの生命活動に伴い充実し 消長してゆく
女性の腎気 男性の腎気の生活変化 腎気 : 成長発育 生殖能 人生の周期 女は 7 年 男は 8 年? 木下優子監修 : 女の更年期 男の更年期 より ( 日本漢方生薬製剤協会 2002 年 )
気の構成 先天の気腎の気免疫 神経 内分泌系 気虚 気逆 気鬱 < 奔豚気 厥逆 後天の気水穀の気 + 宗気消化器 呼吸器系 気虚 気逆 気鬱 < 咳逆 水逆
腎虚とは 漢方では 生命エネルギーの根源をなすものを二つに大別して先天の気を腎気という これに対して後天の気には肺気 ( 宗気 ) と脾気 ( 穀気 ) がある 腎気が低下した状態を腎虚という 腎虚の症状には疲れやすい 頻尿 排尿困難 性欲低下 視力低下 難聴 冷え しびれ 物忘れなどがある こうした腎虚病態の改善に牛車腎気丸等の補腎剤が用いられる 生命力生殖力 腎 老化 腎虚
腎虚の種類 腎陽虚 腎陰虚 冷えるタイプ のぼせる ほてるタイプ
腎虚の種類 腎陰虚 冷えがない 腎における陰陽のバランスが崩れて陰が虚 ( 相対的に陽が実 ) した場合 腎陰 ( 血と水 ) が不足 ( 虚 ) すると 火旺 身体がほてり 熱が出る : 陰虚火旺 症状 頭昏 かすみ目 耳鳴 不眠 健忘 盗汗 遺精 などの症状が出現 六味丸 がよく適応する
腎虚の種類 腎陽虚 冷えがある 腎において陰虚に加えて腎陽虚が加わった場合 陽は火であり陽が不足 ( 虚 ) すると 機能低下から 冷えと水滞 無力感が招来される 症状 顔色白 頻尿 尿量減少 浮腫 めまい 耳鳴 舌淡白苔 などの症状が出現 六味丸地黄丸牛車腎気丸 がよく適応する
腎虚に使用される補腎薬の配合生薬一覧
尿量減少と頻尿 腎は全身の水分代謝をコントロールする中心的臓器 腎陽 ( 気 ) により機能を制御するため 腎陽が不足すると水分代謝機能が衰え 頻尿 尿勢の低下 残尿感などの症状が出る 八味地黄丸の適応 尿量減少 尿の出が悪く 残尿感があって どうもスッキリしない 頻尿 寒くなるとトイレの近くなる お年寄りが増える
水穀の受納と関連する臓腑
水穀の滓と関連する腑
脾における運化と昇清 通降 昇清 : 水穀の精微を心 肺へ送り気 血を臓腑器官に配布すること 濁 清 運化 : 運 = 搬送 化 = 変化水穀 + 水液 吸収 水穀の気 + 津液
内湿とは 水の偏在 = 過剰状態 水滞ないし水毒とほぼ同義 夏期に高温 多湿環境で増悪する 本邦では冬の日本海側で低温 多湿となる 病理 : 津液の代謝障害から水滞となる 水滞は下半身 末梢から進行する 水湿が滞留すると痰を生じる
漢方医学における病的機転 内因 : 七情 怒 喜 思 憂 恐 悲 驚 内生五邪 : 内風 内寒 内熱 内火 内湿 内燥 外因 : 六淫 風 寒 暑 湿 燥 火 不内外因 : 不摂生
内生五邪と五臓の相互関係 夏では熱邪と結び湿熱となる 湿熱が更なる水滞を招く 五臓の障害としては脾気虚となり 水湿が重症化する 冬には寒邪による腎陽虚と相まって水滞がさらに悪化する 近年では夏期の冷房による寒邪が無視できなくなっている
漢方医学からみた内湿 内因 : 七情 怒 ( 肝 ) 喜 ( 心 ) 思 ( 脾 ) 憂 恐 ( 肺 ) 悲 驚 ( 腎 ) 内生五邪 : 内風 内寒 内熱 内火 内湿 内燥 不内外因 : 不摂生過剰な冷房生活時間帯睡眠 ; 少ない時間と質 ( 遅い就寝時刻 ) 食事 ; 食べ方と内容 ( 脾気虚を招きやすい ) 二便 ; 排泄習慣仕事 学習 余暇 ( 座位が多く運動不足 )
西洋医学からみた内湿 症状 : 腎の機能障害 : 浮腫 尿量減少 主に下半身の浮腫 ( むくみ ) 下痢帯下が増える 脾の機能障害 : 消化吸収 水分代謝の障害 ( 胃もたれ 胃内停水 下痢 ) 肺の機能障害 : 動悸 息切れ 呼吸困難
水湿が代謝されずに持続すると 痰 : 呼吸器および器官内に停留した粘稠な液体を生じる さらに気血の巡行を妨げ 気鬱 気虚 血虚 瘀血病態を生ずる 症状 : だるい 体が重い 疲れやすい 朝起きにくい 皮膚は乾燥し皮下に水腫
太陰病とは 体力 病毒 腹満而吐食不下 ( お腹が張って吐く 食べ物がつかえる おりない ) 特徴 腹満感沈脈胃の冷え筋肉のひきつり治療原則 温散 ( 軽く温める ) 主となる生薬 人参当帰芍薬膠飴
太陰病期の処方
太陰病のまとめ 体力 病毒 闘病反応が弱く 動員可能な気血が不十分冷えがみられるようになる 補法 ( 温補 )
六味地黄丸とは 出典 処方構成 金匱要略 地黄 6.0 山茱萸 3.0 山薬 3.0 茯苓 3.0 桂皮 1.0 牡丹皮 2.5 ~3.0 沢瀉 3.0 附子 1.0 適応病名 症状 再構成したものを示す 総合 : 疲れやすく 尿量減少または多尿で 時に口渇があるもの ( 四肢がほてる = 虚熱 ) 泌尿器系 : 排尿困難頻尿むくみかゆみ 附 ) 特徴的症状 : 疲れやすい頭重感 めまい感 ( ふらっとする ) 下半身の脱力二便の異常 ; 尿不利 便秘 ( 兎糞状 ) 寝汗口渇
六味地黄丸徴候 脈証 沈数細弱渋 舌証 舌質 : 紅色 ~ 暗紅色 乾燥 ; 皺 ~ 亀裂 萎縮 舌苔 : 無苔 ~ 微白苔 腹証 腹力 2~3/5 臍下不仁
舌診 : 陰虚津液不足 乾燥 裂紋
六味地黄丸構成生薬からみた漢方医学的適応病態 熟地黄 3.0: 山茱萸 3.0: 山薬 3.0: 牡丹皮 3.0: 茯苓 3.0: 沢瀉 3.0: 桂皮 1.0: 附子 1.0: 滋陰補腎温肝収斂下焦補脾瀉虚熱固腎涼血清虚熱利水 消腫健脾和胃逐水 ( 特に下焦 ) 通陽補命門相火回陽救逆補陽散寒
六味地黄丸原典 小児薬証直訣 巻下諸方 地黄圓 地黄丸, 腎虚失音, 顖 ( 囟 ) 開不合 *, 神不足, 目中白晴多く, 面色皝白等の証を治す * 注 ) 子供が一定の年齢期 ( 年齡期 ) に入っても囟が縫合 ( 縫合 ) されずに開いており 通常の子供に比べて 囟門が大きな病態 簡訳 : 腎虚のため怯えて声が出なくなり 顖会付近 = 小泉門が閉じず 発育不良 白目が青く顔色が蒼白い者を治す 明代に薛巳が 正体類要 の中で 六味地黄丸 と改め 世に知らしめた 清代に汪昂は医方集解において 肝腎不足 真陰毀損シ 精血枯渇シ 憔悴羸弱シ 腰痛足酸 自汗盗汗シ 汗水泛ンデ痰トナリ 発熱咳嗽シ 頭重目眩 耳鳴耳聾 遺精便血 消渇淋瀝 失血失音 舌燥喉痛シ 虚火牙痛足踉痛ヲナシ 下部瘡瘍等ノ症ヲ治ス のように適応拡大を図った
八味地黄丸 ( 腎気丸 ) とは 出典 処方構成 適応病名 症状 金匱要略 地黄 6.0 山茱萸 3.0 山薬 3.0 茯苓 3.0 桂皮 1.0 牡丹皮 2.5 ~3.0 沢瀉 3.0 附子 1.0 注 ) 附子 : エキス剤では附子末 0.5~1.0g しか入っていないので 必要に応じて加える 再構成したものを示す 総合 : 疲労 倦怠感著しく 尿利減少 ( 残尿感あり ) または頻数 尿量が増大する場合があり ( 低張尿 ) 口渇し 手足に交互に冷感と熱感のあるもの ( 四肢は冷えやすいのに ときにほてることもある= 虚熱 ) 泌尿器系 :( 慢性 ) 腎炎ネフローゼ萎縮腎陰萎膀胱カタル前立腺肥大浮腫神経系 : 坐骨神経痛腰痛循環器系 : 高血圧動脈硬化低血圧症産後の脚気代謝系 : 糖尿病血糖増加による口渇婦人科系 : 更年期障害皮膚科 : 老人性の湿疹
附子とは 附子 ( ブシ ) Aconiti Tuber キンポウゲ科の多年草トリカブト属の子根 アコニチン メサコニチン ヒパコニチンなどのアルカロイドを含む 漢方医学では温裏 止痛 補陽の作用がある 薬理学的には 鎮痛 強心 利尿 新陳代謝賦活作用などが報告されている ただし毒性があり 多量に服用したり 酸性下で煎じると中毒症状 ( 口舌の痺れ 嘔吐 心伝導障害 痙攣 呼吸困難 ) が起きることがある
八味地黄丸徴候 脈証 沈やや数やや小 ~ 小渋 左右の尺脈が弱い 舌証 舌質 : 湿潤 淡白 舌苔 : 白滑苔を被るときに無苔 鏡面舌 腹証 腹力 2~3/5 臍下不仁小腹拘急
八味地黄丸構成生薬からみた漢方医学的適応病態 地黄 3.0: 山茱萸 3.0: 山薬 3.0: 茯苓 3.0: 牡丹皮 3.0: 桂皮 1.0: 沢瀉 3.0: 附子 1.0: 滋陰補腎温肝収斂下焦補脾瀉虚熱固腎利水 消腫健脾和胃涼血清虚熱通陽補命門相火逐水 ( 特に下焦 ) 回陽救逆補陽散寒
八味地黄丸 ( 金匱腎気丸 ) 原典 金匱要略 金匱要略 : 血痺虚労病篇第 6 に 八味腎気丸 の名で 疲飲款漱病篇第 12 消渇小便利淋病篇第 13 婦人雑病篇第 22 に 腎気丸 の名で記載されている 崔氏八味丸, 脚気上って少腹に入り, 不仁するを治す 虚労の腰痛, 少腹拘急し, 小便利せざる者, 八味丸之を主る
牛車腎気丸 ( 済生方腎気丸 ) とは 出典 処方構成 適応病名 症状 済生方 地黄 5.0 山茱萸 3.0 山薬 3.0 茯苓 3.0 桂皮 1.0 牡丹皮 3.0 沢瀉 3.0 附子 1.0 牛膝 3.0 車前子 3.0 八味地黄丸 : 地黄 6.0 山茱萸 3.0 山薬 3.0 茯苓 3.0 桂皮 1.0 牡丹皮 2.5 ~3.0 沢瀉 3.0 附子 1.0 再構成したものを示す 総合 : 疲れやすく 四肢が冷えやすく 尿量減少または多尿で時に口渇がある 泌尿器系 : 排尿困難 頻尿 精神神経 : 下肢痛腰痛しびれ 皮膚科 : かゆみ 眼科 : 老人のかすみ目
牛車腎気丸徴候 脈証 沈やや数小細弱渋 舌証 舌質 : 湿潤 淡白 舌苔 : 白滑苔を被る ときに無苔赤色鏡面舌 腹証 腹力 2~3/5 臍下不仁小腹拘急
牛車腎気丸構成生薬からみた漢方医学的適応病態 地黄 3.0: 山茱萸 3.0: 山薬 3.0: 茯苓 3.0: 牡丹皮 3.0: 桂皮 1.0: 沢瀉 3.0: 附子 1.0: 牛膝 3.0: 車前子 3.0: 滋陰補腎温肝収斂下焦補脾瀉虚熱固腎利水 消腫健脾和胃涼血清虚熱通陽補命門相火逐水 ( 特に下焦 ) 回陽救逆補陽散寒補肝腎少陰腎経の引経薬 ( 諸薬の ) 利水瀉熱茯苓と協調
少陰病とは 体力 < 病毒 脈微細但欲寝 ( 脈が弱くて細くて ただただ横になろうとする ) 特徴 脈微弱倦怠感身体の冷え悪寒治療原則 熱補 ( 強力に温める ) 主となる生薬 乾姜附子細辛
少陰病期の処方
真武湯とは 出典 処方構成 傷寒論 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0 芍薬 3.0 生姜 1.5 附子 0.5~1.0 注 ) 附子 : 最低量しか入っていないので加える必要がある 適応病名 症状 再構成したものを示す 消化器系 : 胃腸疾患胃下垂症腹膜炎慢性下痢泌尿器系 : ネフローゼ慢性腎炎循環器系 : 高血圧症低血圧症心臓弁膜症総合 : 新陳代謝の沈衰しているもの 冷え 倦怠感が強くめまいや動悸があって尿量減少し 下痢しやすいもの
真武湯徴候 脈証 沈遅細微弱まれに浮弱 舌証 舌質 : 湿潤 胖大歯痕 舌苔 : 無苔ときに白苔を被る 腹証 腹力 1~2/5 心下悸 臍上悸 ときに臍下にうすく腹直筋緊張
真武湯構成生薬からみた漢方医学的適応病態 茯苓 5.0 白朮 ( 蒼朮 )3.0: 芍薬 3.0 : 生姜 1.5: 附子 0.5~1.0: 健脾 利水 益脾 陰気収斂 和営 止腹痛 温経 逐寒補腎陽 去寒邪
真武湯原典 傷寒論 太陽病, 汗を発し, 汗出でて解せず, 其の人なお発熱し, 心下悸, 頭眩, 身潤動, 振振として地に擗れんと欲する者は, 真武湯之を主る 少陰病, 二三日已まず, 四五日に至って腹痛, 小便不利, 四肢沈重疼痛し, 自下利する者は, 此れ水気有りと為す, 其の人或いは欬し, 或いは小便利し, 或いは利せず, 或いは嘔する者は, 真武湯之を主る 藤平健 : 真武湯の特徴となる症候 : 1 歩いていてフラッとする 或はクラッとする ( フラッと ),2 雲の上を歩いているみたいで, なんとなく足もとが心もとない 或は地にしっかり足がついていないような感じがする ( 雲の上 ),3 誰かと一緒に歩いていると, 何で私に寄りかかるのかと言われたりすることがある ( 寄りかかり ),4 真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる ( 斜行感 ),5 真っすぐ歩こうとするのに横にそれる ( 斜行 ),6 座位や腰掛けていて, ときにクラッとして地震かなと思う ( 地震感 ),7 眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある ( 横走感 )
少陰病のまとめ 体力 < 病毒 闘病反応は弱々しく 新陳代謝が低下著しいADL 障害 補法 ( 熱補 )