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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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生物時計の安定性の秘密を解明

2011年度版アンチエイジング01.ppt

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

研究成果報告書

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成14年度研究報告

高齢者の筋肉内への脂肪蓄積はサルコペニアと運動機能低下に関係する ポイント 高齢者の筋肉内に霜降り状に蓄積する脂肪 ( 筋内脂肪 ) を超音波画像を使って計測し, 高齢者の運動機能や体組成などの因子と関係するのかについて検討しました 高齢男性の筋内脂肪は,1) 筋肉の量,2) 脚の筋力指標となる椅子

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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平成13年度研究報告

(Microsoft Word \203v\203\214\203X\203\212\203\212\201[\203X\216\221\227\2772.doc)

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

漢方薬

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

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平成24年7月x日

報道発表資料 2001 年 3 月 8 日 独立行政法人理化学研究所 脳内の食欲をつかさどるメカニズムの一端を解明 - ムスカリン性受容体欠損マウスはいつでも腹八分目 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 脳の食欲をつかさどる情報伝達にはムスカリン性受容体が必須であることを世界で初めて発見し


卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

学位論文の要約

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

「肥満に伴う脂肪組織の線維化を招く鍵分子を発見」【菅波孝祥 特任教授】

Microsoft Word CREST中山(確定版)

生物 第39講~第47講 テキスト

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

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核内受容体遺伝子の分子生物学

スライド 1

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ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

Microsoft Word - 【HP用】170807_最終版_プレスリリース.docx

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

スライド 1

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Microsoft Word - プレスリリース最終版

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神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

記者クラブ各位 平成 28 年 8 月 24 日大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所国立大学法人山梨大学国立研究開発法人日本医療研究開発機構 免疫細胞が発達期の脳回路を造る 発達期の脳内免疫状態の重要性を提唱 お世話になっております 今回 自然科学研究機構生理学研究所の鍋倉淳一教授 吉村

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

Microsoft Word Webup用.docx

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

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< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

NEXT外部評価書

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平成 29 年 7 月 4 日記者クラブ各位自然科学研究機構生理学研究所研究力強化戦略室星薬科大学先端生命科学研究所生命科学先導研究センターペプチド創薬研究室九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子細胞代謝学分野国立研究開発法人日本医療研究開発機構 食欲を抑え 熱産生を高めて末梢組織の糖利用を促進する神経細胞を発見 - インスリンの働きを高める脳の働きを解明し 肥満 糖尿病の予防と治療に期待 - お世話になっております 今回 自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授 吉村由美子教授 小林憲太准教授 星薬科大学の塩田清二特任教授 九州大学大学院医学研究院および東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の小川佳宏教授らの共同研究グループは 国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援を受け 視床下部腹内側核の神経細胞が 食欲を抑えて熱産生を高めると共に 末梢組織でのインスリン作用を高め糖の利用を促進する働きを持つことを世界で初めて発見しました 本研究結果は 2017 年 7 月 3 日 ( 月 ) アメリカ東部時間午前 10 時 ( 日本時間午後 11 時 ) アメリカ糖尿病学会学会誌 diabetes のオンライン版に掲載されました < 研究について> 自然科学研究機構生理学研究所生体機能調節研究領域生殖 内分泌系発達機構研究部門教授箕越靖彦 ( ミノコシヤスヒコ ) Tel: 0564-55-7741 FAX: 0564-55-7743 email: minokosh@nips.ac.jp < 広報に関すること> 自然科学研究機構生理学研究所研究力強化戦略室 TEL: 0564-55-7722 FAX: 0564-55-7721 email: pub-adm@nips.ac.jp pg. 1

食欲を抑え 熱産生を高めて末梢組織の糖利用を促進する神経細胞を発見 インスリンの働きを高める脳の機能を解明し 肥満 糖尿病の予防と治療に期待 骨格筋など末梢組織での糖の利用は 膵臓から分泌されるホルモン インスリンによって促進されます しかし 近年の研究により 脳 特に視床下部と呼ばれる脳領域の神経細胞が 単独或いはインスリンと協同して 末梢組織の糖の利用を促進することが明らかとなってきました しかし どの神経細胞が末梢組織の糖利用を促進するかは不明でした 今回 自然科学研究機構生理学研究所の箕越靖彦教授 吉村由美子教授 小林憲太准教授 星薬科大学の塩田清二特任教授 九州大学大学院医学研究院および東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の小川佳宏教授らの共同研究グループは 視床下部腹内側核の神経細胞において SF1/Ad4BP ニューロン用語説明 1 を直接化学的に刺激すると 食欲を抑え 熱産生を高めると共に 骨格筋などの末梢組織においてインスリンの働きを高めて糖の利用を促進することを マウスを用いて明らかにしました 肥満の原因となる白色脂肪細胞への糖の取込は促進しませんでした 本研究結果は 2017 年 7 月 3 日 ( 月 ) アメリカ糖尿病学会学会誌 diabetes のオンライン版に掲載されました 1. インスリンの働きを高める神経細胞を明らかにすることを目的に 視床下部腹内側核 SF1/Ad4BP ニューロン (SF1 ニューロン ) に注目した このニューロンを選択的に活性化させた時の マウスの摂食量 熱産生量 全身の糖利用 末梢組織への糖の取込量を調べた マウス SF1 ニューロンを選択的に活性化すると 摂食量が低下し 熱産生量が増加すると共に 骨格筋 心臓 褐色脂肪組織において選択的に糖の取込が増加した さらに このマウスにインスリンを投与すると 上記組織において糖の取込がさらに亢進した 白色脂肪組織では糖の取込に変化はなかった 2. インスリンの働きを細胞内に伝達するインスリン受容体と 細胞内タンパク質 Akt の活性化状態を調べた結果 SF1 ニューロンを選択的に活性化すると 骨格筋においてこれらのタンパク質が活性化することが分かった 3. 本研究成果は肥満や糖尿病の病因解明 新しい治療法に繋がることが期待される pg. 2

< 概要 > 私達の体には 脂肪細胞で産生されて血中に分泌される レプチンと呼ばれるホルモンがあります レプチンは 主に視床下部の神経細胞 ( ニューロン ) に作用を及ぼして 食欲を抑え 熱産生を高めます 箕越教授の研究グループは これらの作用に加えて レプチンが視床下部 中でも視床下部腹内側核の神経細胞に直接働き 骨格筋などの末梢組織においてインスリンの働きを高め 糖の利用を促進することを報告してきました 事実 レプチンの産生場所である脂肪細胞が消失する病気 脂肪萎縮症 は 血中レプチン濃度が低下し 重症の糖尿病を発症します この病気では 膵臓からインスリンはたくさん分泌されるのですが 骨格筋や肝臓においてインスリンの働きが低下するため インスリンによる治療もほとんど効果がありません ところが レプチンを投与すると この病気の糖尿病が著しく改善することが明らかとなり 現在では 同病気の治療薬として世界中で利用されようになりました このように どの神経細胞が 骨格筋など末梢組織でのインスリンの働きを高めて 糖の利用を促進するかを解明することは 新しい糖尿病治療の開発にもつながる可能性があります 箕越教授の研究グループは レプチンが視床下部腹内側核ニューロンに作用することで その効果を発揮すると考えてきました しかし 視床下部腹内側核ニューロンには 様々な機能を持つ神経細胞が存在します 例えば 糖尿病のように 血糖を逆に上昇させる神経細胞も存在します それ故 血糖を上昇させず 糖利用を促進する視床下部腹内側核ニューロンを明らかにすることが必要です 本研究グループは 視床下部腹内側核ニューロンの中で 末梢組織の代謝に調節作用を及ぼすと考えられる SF1/Ad4BP ニューロン ( 以下 SF1 ニューロン ) に注目し その機能を調べました 研究グループは SF1/Ad4BP ニューロンの神経活動を選択的に高めるために 今回 DREADD 法 (Designer Receptors Exclusively Activated by 用語説明 Designer Drug) 2 という 特定の神経細胞の神経活動を増加したり 抑制することができる方法を使い 実験を行いました この方法によってマウスの SF1 ニューロンを選択的に活性化すると 摂食量が低下して 熱産生が高まると共に 全身の糖利用が促進しました そこで どの組織に糖の取込が高まるかを調べたところ エネルギー消費器官である骨格筋 心臓 褐色脂肪組織用語説明 3 において選択的に糖の取込が高まることがわかりました 脂肪を貯蔵する白色脂肪組織では 糖の取込は全く変化しませんでした また インスリンを投与すると SF1 ニューロンを活性化したマウスは 活性化しないマウスに比べて 糖の取込が骨格筋 心臓 褐色脂肪細胞において増加し 結果として 全身で見ても糖利用も顕著に促進しました 以上の実験結果から SF1 ニューロンを活性化すると レプチンをマウスに pg. 3

作用させた時と同様に 摂食量や熱産生に作用を及ぼして抗肥満効果を引き起こし まるで運動のように 糖取込の最大組織である骨格筋においてインスリンの働きを高めて 糖の取込を促進することが分かりました 骨格筋細胞などの細胞膜にはインスリン受容体蛋白質があります インスリンは インスリン受容体蛋白質に結合すると 情報を細胞内に伝え Akt などいくつかの細胞内タンパク質を活性化して 糖の取込を促進します 本研究により SF1 ニューロンを活性化すると インスリン受容体と Akt が共に活性化することを見出しました この実験結果から SF1 ニューロンを活性化すると 骨格筋によってインスリンの働きが高まり その結果 糖の取込が亢進したと考えられます SF1 ニューロンがどのようにして骨格筋でのインスリン作用を増強するかは まだ明確には分かっていませんが 別の研究から 交感神経を介することが示唆されます 以上 本研究によって 視床下部腹内側核に存在する SF1 ニューロンを DREADD 法によって活性化すると 摂食量が低下して熱産生が上昇すると共に 骨格筋など末梢組織においてインスリンの働きが高まり 糖の利用が増加することが分かりました 今回の発見は 肥満や糖尿病の病因解明 新しい治療法の確立に繋がることが期待されます 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構の革新的先端研究開発支援事業 (AMED-CREST) 生体恒常性維持 変容 破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出 研究開発領域における研究開発課題 細胞間相互作用と臓器代謝ネットワークの破綻による組織線維化の制御機構の解明と医学応用 ( 研究開発代表者 : 小川佳宏 ) の一環で行われました また 日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究 B( 代表研究者 : 箕越靖彦教授 ) の支援も受けました pg. 4

< 用語解説 > 1.SF1/Ad4BP ニューロン転写因子 SF1 (steroidgenic factor 1; 別名 Ad4BP) を発現するニューロン 脳においては視床下部腹内側核に多く存在し 一部はレプチン受容体を発現する Ad4BP は九州大学諸橋教授が発見し命名した ほぼ同時に テキサス大学 Keith 博士もこの転写因子を発見して SF1 と名付けた ここでは SF1 ニューロンと呼ぶ 2.DREADD 法 (Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug) 神経伝達物質アセチルコリンの受容体の一つ ムスカリン受容体のアミノ酸配列を一部変更した受容体を用いて 特定の神経細胞の神経活動を増加又は抑制する方法 受容体にはいくつかの種類があり 神経活動を高めるためには hm3dq 受容体を 抑制するためには hm4di を主に用いる hm3dq と hm4di は 生体内に存在するアセチルコリンには反応しないが 薬物 CNO (Clozapine-N-Oxide) によって特異的に活性化又は抑制する この受容体を特定の神経細胞に発現させた後 CNO を投与することによって 目的とする神経細胞の活動を変更することが可能 CNO は 飲料水に入れて摂取させる または注射するによって 脳の中に入り 神経活動を操作できる 本実験では SF1/Ad4BP ニューロンに hm3dq を発現させ CNO をマウスに注射することによって同ニューロンの神経活動を高めた Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drug(DREADD) pg. 5

3. 褐色脂肪組織熱産生を行う脂肪組織 ヒトにも存在する 白色脂肪組織は脂肪の貯蔵を主な目的とするが 褐色脂肪組織は熱産生を行う そのため 熱産生に関わる特別なミトコンドリアが多数存在する 褐色調を示すのは ミトコンドリアと血管が豊富なためである 4.Akt 細胞内にあり インスリンの働きを細胞全体に伝えるタンパク質 インスリン受容体と Akt は タンパク質の一部アミノ酸がリン酸化されることによってタンパク質構造が変化し 活性化状態となる pg. 6

マウス SF1 ニューロンの神経活動が DREADD 法により増加 解説 A hm3dq を発現するウイルスをマウスの視床下部腹内側核に接種すると 同神経核の SF1 ニューロンに hm3dq が選択的に発現 ( 赤色の蛍光 ) ウイルスとマウスの遺伝子に各々工夫を施すことによって SF1 ニューロンにのみ hm3dq を発現させることができる B CNO をマウスに注射すると hm3dq を発現した SF1 ニューロンにおいて cfos タンパク質が発現 cfos タンパク質は 神経活動が増加していることを示す C hm3dq を発現する SF1 ニューロンに CNO を作用させると 神経細胞の電気活動が増加 データを示していないが hm3dq を発現しない神経細胞に CNO を作用させても効果は無い pg. 7

SF1 ニューロンの神経活動を高めると 摂食量が低下 熱産生が増加 すると共に インスリンによる糖利用が促進する 解説 A SF1 ニューロンに hm3dq を発現させたマウスに CNO を注射すると 摂食量が低下する * は 生食を投与した時と比べて 統計学的に差があることを示す B CNO を注射すると 熱産生が 3 時間以上増加する C CNO を注射すると グルコース投与による血糖上昇が少ない CNO によって グルコースの利用が促進したことを示す D CNO とインスリンの両方を投与すると 骨格筋 ( 特に赤筋 ) 心臓と褐色脂肪組織において糖の取込が顕著に高まる 赤筋は 姿勢を維持するために常に収縮している筋肉 これに対して 白筋は 100 メートル走などの瞬発的運動において働く筋肉 pg. 8

インスリンは 糖代謝の調節に最も大事なホルモンです しかし 視床下部の神経細胞も糖代謝の調節に重要であることが最近の研究で分かってきました 本研究は 視床下部腹内側核 SF1/Ad4BP ニューロンが 糖の利用を促進することを明らかにしました この研究結果は 2 型糖尿病の原因と言われるインスリン抵抗性の発症メカニズム またその治療法の開発に貢献すると考えられます Activation of SF1 neurons in the ventromedial hypothalamus by DREADD technology increases insulin sensitivity in peripheral tissues. Coutinho EA, Okamoto S, Ishikawa AW, Yokota S, Wada N, Hirabayashi T, Saito K, Sato T, Takagi K, Wang C, Kobayashi K, Ogawa Y, Shioda S, Yoshimura Y, Minokoshi Y. Diabetes. 2017 年 7 月 3 日 ( 月 ) アメリカ東部時間午前 10 時 ( 日本時間午後 11 時 ) オンライン版掲載 < 研究について> 自然科学研究機構生理学研究所生体機能調節研究領域生殖 内分泌系発達機構研究部門教授箕越靖彦 ( ミノコシヤスヒコ ) Tel: 0564-55-7741 FAX: 0564-55-7743 email: minokosh@nips.ac.jp < 広報に関すること> 自然科学研究機構生理学研究所研究力強化戦略室 TEL: 0564-55-7722 FAX: 0564-55-7721 email: pub-adm@nips.ac.jp 星薬科大学総務部高橋俊介 TEL: 03-5498-5813 email: s-takahashi@hoshi.ac.jp pg. 9

国立大学法人東京医科歯科大学総務部総務秘書課広報係 TEL: 03-5803-5833 mail: kouhou.adm@tmd.ac.jp 国立大学法人九州大学広報室 TEL: 092-802-2130 email: koho@jimu-kyushu-u.ac.jp <AMED に関すること> 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 基盤研究事業部研究企画課 TEL: 03-6870-2224 FAX: 03-6870-2243 email: kenkyuk-ask@amed.go.jp pg. 10