幹線道路沿い無信号交差点における見通しと運転挙動を考慮した自転車事故要因に関する分析 竹中祥人 吉田長裕 2 学生会員大阪市立大学大学院工学研究科 ( 8-88 大阪市住吉区杉本 3-3-38) E-mail: takenaka@plane.civil.eng.osaka-cu.ac.jp 2 正会員大阪市立大学大学院准教授工学研究科 ( 8-88 大阪市住吉区杉本 3-3-38) E-mail: yoshida@plane.civil.eng.osaka-cu.ac.jp 近年, 自転車利用に対する健康や環境面での関心が高まる一方で, 事故全体に占める自転車の関わる事故の割合は漸増傾向にある. 自転車事故は, 信号なし交差点において事故の多いことが報告されている. この要因として, 交差点における見通しと運転挙動との関係が示唆されているが, それらの相互関係は明らかになっていない. 本研究では, 無信号交差点で発生した自転車事故を対象に交差点の見通しと運転挙動との相互関係について, 実態調査に基づいて分析および考察を行った. Key Words: sight distance, driving behavior, unsignalized intersections along highway. はじめに近年の自転車事故は, その多くが交差点における出会い頭事故である. 亀井ら ) の幹線道路における自転車事故の分析結果では, 信号制御のない交差点において事故リスクが高いことが報告されている. 近年では自転車が安全 快適に走行できるように, 自転車通行帯の整備が歩道および車道上で進められているが, 交差点における自転車事故要因については明確になっていない. これまで整備されてきた自転車走行環境に対し, 客観的な事故分析に基づいて, 交通挙動への影響と課題を明らかにし, 安全性を高めていく必要がある. 自転車の安全性に関連した研究は多く見られ, その中で幹線道路における自転車に関する既往研究として, 萩田ら 2) は歩車道における自転車通行位置に着目し, 自転車事故との関連性について分析を行い歩車道が分離されているような道路において右側通行の危険性を指摘した. 渡邉ら 3) は交差点におけるドライバー視点移動のモデル化を行い, 安全に通行できる自転車通行速度, 通行位置について言及している. 武田ら 4) は東京都内の幹線道路.2km 区間における小交差点で発生した事故において 2002 年 ~200 年に発生した自転車事故について整理した結果, 従道路から幹線道路へと進入する自動車と幹線道路沿いの歩道を走行する, 従道路側から見て左側から交差点に進入する自転車との接触が多いことを指摘した. その中で歩道民地寄りを沿って走行する自転車の危険性を指摘した. 海外の事例では,Summala et al. ) が見通しの悪い交差点における事故要因の一つとして, 自動車右折 ( 日本における左折 ) 時に, ドライバーが幹線道路を走行する車両を確認するため左方向に注意が傾くためと考察している. 王ら 6) は兵庫県加古川市内に歩道のある幹線道路小交差点 7 箇所を抽出し, 交差点左右の見通しを現地で段階評価を与え事故との関係分析を行った. その結果, 左側の見通しが右側に比べ悪い交差点において出会い頭事故件数や事故率が高くなることを明らかにした. また従道路から幹線道路へと合流する自動車の挙動を分析した結果, 左側の見通しが右側の見通しより良い交差点と比べて, 手前で安全確認を終えている傾向にあると指摘した. このように, 見通しと運転挙動との関係について研究が進められているが, 自転車事故との関連性や交差点見通しと運転挙動の相互関係については明らかになっていない. そこで本研究では, 信号なし交差点における見通しに関わる交差点の構成要素を道路構造 建築境界をもとに評価し, 車両対自転車の出会い頭事故との関係を分析した. 次に, 分析結果に基づいて見通し条件の異なる無信号交差点において現地観測を行い, 交差点の見通しに関わる構成要素と運転挙動の相互関係から, 自転車事故の多発要因について考察を行うことにした.
2. 研究方法 () 対象地域および交差点等の概要本研究では, 自転車事故の多い兵庫県尼崎市内を対象に,H6~22 年の車両対自転車事故の分析を行った. 尼崎市は自転車利用とともに自転車事故が多く, 事故全体の約 4 割が自転車関連事故であり, その内の 8 割が対車両である. 車両対自転車の事故類型別の構成率では, 信号なし交差点で発生した出会い頭事故が 8 割を超えている状況にあった ( 図 -). そこで, 兵庫県尼崎市内の幹線道路沿い 282 の交差点を対象に 幹線道路沿い の 無信号交差点 における車両 自転車事故を抽出し, 詳細な分析を行うこととした. 関連する統計データとして, 交通量等については,H7 22 年の道路交通センサスを用い, 交通量が観測されている幹線道路のうち, 道路規模の大きい国道, 居住地区に多く接続する県道 市道を考慮して 9 路線を選定した ( 表 -). 各道路において兵庫県事故図より, 交差点毎に自転車の進行方向別に事故件数を集計した. その結果, 無信号交差点 282 地点で計 247 件の事故があり, 左側から交差点へと侵入してくる自転車との事故の割合は約 8% となっていた. (2) 地図を用いた見通し評価分析対象交差点に対して, 交差点見通しと事故との関係を簡易的に分析するために, 住宅地図を基に道路構造 建築境界を把握し見通し評価を行った. 交差点における見通しは, 従来行われてきた信号なし交差点における道路設計の概念 7) と,AASHTO 8) における交差点見通しの評価手法を参考に, 従道路を走行する車両と幹線道路沿いを走行する自転車との関係に置き換えて計測した ( 図 -2). 見通し評価を定量化し交差点の違いを比較できるように, 道路設計上の自転車と自動車の通行状態を以下のように定義した. 自転車の通行位置は, 歩道なし ( 路側帯 ) の場合は道路境界から 0.m, 歩道ありの場合は歩道端幹線道路側 0.m 地点とした 停止線設置位置と一般乗用車の車頭平均から, 運転手の視点位置は歩道境界.4m 地点に設置した 自転車設計速度は km/h とした 米国 AASHTO Green Book 8) の基準に基づき, 自動車最小交差点進入時間を 6. 秒とした本研究では, 設定した様々な見通し指標がある中で, 民地敷地境界によって車両ドライバー視点 Aが実際に見通すことのできる範囲をもとに求めた OS を見通し指標とし, 自転車の設計速度と自動車の最小交差点進入時間から算出される約 27m を上限値として左右別に算出した. この値を 3 段階に分け,9m 未満を見通し悪,9~8m を見通し中,8m 以上を見通し良と定め, 事故との関係を 分析していく. 分析では, 交通事故件数がポアソン分布に従うと仮定した一般化線形モデルを用いた. (3) 運転挙動の観測調査従道路から進入する自動車と幹線道路沿いを走行する自転車について, 交差点進入時における運転挙動の観測を行った ( 図 -3). 自動車の走行位置を調べるために歩道境界から従道路内に 0m から 0m までの区間に m 間隔で白色布テープを設置した. この区間を 流入部 とし, 地点ごとの自動車運転手の安全確認の向きおよび自動車車頭位置をビデオで確認できるようにした. 次に民地境界から歩車道境界までの区間を歩道内とし, 歩道内中央に白色布テープを設置し, 自転車の走行位置の観測を行った. パターンとして車道, 歩道車道寄り, 歩道民地寄りの 3つの走行位置に分類した. また, 従道 車両対自転車 表 - 分析対象交差点と H6~22 年事故発生件数 路線 H6~22 年計路線名交差点数分類順走逆走 国道 2 号 9 7 80 国道 国道 43 号 34 6 国道 7 号 4 0 0 尼崎池田線 28 2 県道 大阪伊丹線 40 4 23 尼崎宝塚線 2 9 米谷昆陽尼崎線 32 4 3 市道 五合橋線 7 4 道意線 3 2 合計 282 34 23 信号あり (,32 件 ) 信号なし (3,068 件 ) 正面衝突 追突 出会い頭 追い越し追い抜き時 すれ違い時 左折時 右折時 右折直進時 右折時 その他 その他 自転車走行位置 B 半直線 AS と OB の交点 0% 20% 40% 60% 80% 00% 図 - 事故類型別車両対自転車事故の発生割合 歩道 S OB OS' S 民地敷地境界 O 交差点 θ OA /2w 図 -2 見通し評価設定概念 運転手目線位置 A w 従道路幅員 歩道
路から幹線道路へと進入する自動車台数, 幹線道路沿いに走行する自転車の台数を走行方向別に観測した. 従道路を走行する自動車が交差点に接近しているときの顔の向きを左 右 正面の 3 つのいずれかに分類した. このとき, 自動車運転手が首を振って左右のどちらか一方向に顔を向けた状態を安全確認 回とし, 方向別に観測した. また, 運転挙動に関する計測指標については, 表 -2 のように設定した. 本研究の見通し指標をもとに, 左側良右側良, 左側中右側良, 左側悪右側良, 左側悪右側悪 の 4 種類の見通しを組み合わせた計 0 個の交差点で調査を行った ( 表 -3). ビデオ映像から目視により運転挙動指標の観測を行ったが, 日照条件により車内を観測できない場合が存在したため, 分析サンプル数が少なくなっている. 3. 見通し評価と出会い頭事故の関係分析 () 分析対象交差点における事故データ特徴左右の見通し指標と H6~22 年の 7 年間における年平均 交差点当たり事故件数との統計分析結果を表 -4 に示す. 左側から来る自転車との事故に対し, 交差点見通しが 左側悪右側良 で最も事故の割合が高いことが確認できた. また, 交差点見通しが 左側良右側悪 の場合, 他の組み合わせに比べ事故の割合が高く, このことから左右の見通しの差が大きくなるほど事故の割合が高まる傾向を確認できた. 一方, 右側から来る自転車との事故については, 見通しとの関係は把握できなかった. (2) 見通し評価と出会い頭事故のモデル分析本研究では, 交差点における見通し条件が車両対自転車の出会い頭事故にどの程度影響を与えているかを明らかにするために, モデル分析を行った. 交通量に対して発生確率の小さな事故は, 一般的にポアソン分布に従うことから, 式 () に示すような乗数モデルを分析に用いた. この式 () の両辺を対数に取り, 事故の変化要因を説明変数として右辺に加えたものを式 (2) に示す. Y i = α Q iβ, Y i ~ Po (u) () log u = log α +β log Q i + Σ β X (2) Y i: 実事故件数,Q i: 交通量,i: 交差点番号,u: 事故件数期待値,α,β: パラメータ,X: 事故の変化要因 次に, モデル式の右辺に代入する説明変数の概要を述べる. まず,H6~22 年間における事故件数の推移をダミー変数で示した. 交差点への流入交通量を計測したものは存在しないため, 代替変数として道路交通センサスの幹線道路を通行する 24 時間平均自動車交通量,2 時間平均自転車交通量で代用し, 交差点の規模を表す変数 評価項目一時停止の有無 通過交通の有無 流入部進入時間流入部退出時間 交差点接近速度 安全確認順序 流入部地点別安全確認方向安全確認回数 一回あたりの安全確認時間 図 -3 運転挙動調査概要 表 -2 運転挙動分析のため計測指標 内容車両が歩道進入までにおける一時停止の有無車両の民地境界到達時における幹線道路を走行する車両の有無流入部入口に車頭が到達した時間流入部出口に車頭が到達した時間車両の流入部進入から退出までの時間から換算した速度交差点進入時までの首降りによる安全確認の方向の順序で表したもの ( 例 : 右のみ : 右, 右の次に左の安全確認を行った場合 : 右左 ) 流入部 0~0m の m ごとの安全確認の有無 安全確認を行った回数車両の流入部進入から退出までの時間と地点別安全確認方向から換算した安全確認一回あたりの平均時間 表 -3 調査交差点概要 no 見通し評価自転車自動車従道路交通量運転挙動左側右側交通量順走逆走取得数 40 426 27 9 良良 2 64 40 28 3 3 22 60 89 4 中良 4 73 30 36 2 6 28 28 49 6 悪 良 8 608 4 29 7 343 99 6 07 8 44 26 78 4 9 悪 悪 49 69 84 24 0 4 40 29 3 表 -4 左右の見通し指標と年平均 交差点当たりの事故件数左側見通し指標悪中良 右側見通し指標 悪 0.06 (2) 0.00 () 0.77 (2) 中 0.048 (2) 0.09 (24) 0.06 (3) 良 0.34 (20) 0.76 (3) 0.092 (9) 括弧内は交差点数
として従道路幅員を用いた. 事故の変化要因として左右の見通し指標の影響をみるために, 見通し条件の説明変数の有無別にパターンを分けて分析を行った ( 表 -). その結果, 両パターンにおいて, 自転車 自動車交通量, 従道路幅員のパラメータが有意となっており, 事故増加の要因になっていることを確認できた. 見通し指標を追加したパターン 2では AIC 値が小さくなっており, モデル式の精度の向上を確認できた. 各変数を見ると, 両側の見通しが悪い交差点に比べ, 見通しが左右で極端に異なる場合か 左側中右側良 である場合に, 事故の危険性が高まることが確認された. 4. 運転挙動分析 () 調査結果の基礎集計分析幹線道路における通過車両, 自転車横断帯, 歩行者横断帯と一時停止の有無の関係を図 -4 に示す. 条件なしの場合には, ほぼ半数程度が一時停止を行っていないことがわかる. 次に各条件別に見ていくと, 歩行者横断帯や自転車横断帯といった施設の有無に関わらず, 一時停止を行っている割合はほぼ半数程度で有意差はなかった. 一方, 幹線道路の通過交通の有無別で比較すると, 幹線道路を通過する車両がある場合において有意差が確認された. 安全確認構成率については ( 図 -), 右側から安全確認を行う割合が一時停止の有無に関わらず 6 割を超えていることが確認された. 次に, 一回あたりの安全確認時間, 安全確認回数を左右別に見たところ ( 図 -6, 7), 安全確認回数では, 全ての交差点において左側に比べ右側の安全確認回数が多く, 全体としてみると約 回程度の差があった. 一回あたりの安全確認時間に着目すると no2,no0 を除き, 左側に比べ右側の安全確認時間が長く, 全体で見ると一回あたりの安全確認時間が右側で約 0.6 秒であったのに対し, 左側は約半分程度であった. 以上から, 従道路から幹線道路へと進入する自動車は, 基本的には右方向に注意が偏る傾向にあることが分かった. (2) 見通しと運転挙動の関係見通しの組み合わせ別に交差点接近速度との関係を見ると ( 図 -8), 両側の見通しが悪い交差点において最も交差点接近速度が遅い. 一方で両側の見通しが良い交差点や両側の見通しが悪い交差点よりも 右 > 左 となる交差点において交差点の接近速度が速くなる傾向にあることが確認された. 次に, 見通しの組み合わせ別に安全確認にかかわる運転挙動との関係では, 左側の見通しが悪くなると左右の安全確認位置が交差点に近づく傾向が得られたが, 見通しが 左側悪右側良, 左側悪右側悪 を比較すると 表 - 左側から来る自転車との出会い頭事故モデル分析結果 パターン パターン 2 係数 t 値 係数 t 値 定数 -3.46-4.886 ** -6.77 -.79 ** 自動車交通量 0.66 2.833 ** 0.76 3.78 ** 自転車交通量 0.67 4.967 ** 0.6 4.97 ** 従道路幅員 0.66 3.292 ** 0.83 3.3 ** 年ダミー H6 年ダミー H7-0.82-0.673-0.82-0.673 年ダミー H8-0.82-0.673-0.82-0.673 年ダミー H9-0. -.73-0. -.73 年ダミー H20 0.262.080 0.262.080 年ダミー H2 0.000 0.000 0.000 0.000 年ダミー H22-0.82-0.673-0.82-0.673 左側悪右側悪ダミー左側悪右側中ダミー -0.86-0.303 左側悪右側良ダミー.778 4.622 ** 左側中右側悪ダミー -.63 -.474 左側中右側中ダミー -0.269-0.4 左側中右側良ダミー 0.926 2.324 * 左側良右側悪ダミー.22 3.030 ** 左側良右側中ダミー -.782-2.248 * 左側良右側良ダミー 0.37 0.93 Log likelihood -6.47-9.483 AIC 0.777 0.77 分析サンプル数,974 (282 交差点 7 年分 ) *:%,**:% 有意水準 条件別一時停止の有無 条件なし (376) 幹線道路通過車両あり (7) 幹線道路通過車両なし (20) 自転車横断帯あり (88) 自転車横断帯なし (288) 歩行者横断帯あり (37) 歩行者横断帯なし (239) 一時停止あり 0% 20% 40% 60% 80% 00% 図 -4 条件別一時停止の有無 (**:% 有意 ) 図 - 安全確認順序の構成率 一時停止なし 図 -6 交差点別左右別の一回あたりの安全確認時間の比較 ]** 安全確認なし右右左右左右右左右左左左右左右左左右左右 全体 (376) 一時停止あり (89) 一時停止なし (87) 0% 20% 40% 60% 80% 00%
差がないことが確認された ( 図 -9, 0). (3) 運転挙動への変化要因分析事故に関わる運転挙動の変化要因として, 交差点の見通し条件や車両行動が安全確認時間に影響を与え, 右側へ注意が集中することで, 左側から来る自転車を発見できないと考えた. この仮説を確認するため, 安全確認に関わる顔の向いている時間について, 運転挙動と交差点の見通し条件を説明変数に加えてそれぞれ重回帰分析を行った ( 表 -6). まず各調整済み R 2 値を比較すると, 正面を向いている時間で最大となった. 全ての向きで交差点への接近速度が大きく影響しており, 減速するほど一方向を向いている時間が長くなることが確認された. 交差点見通しに着目すると, 左側良右側良 のみ左側を向いている時間が増加する傾向が得られたが, 見通しが 左側中右側良, 左側悪右側良 の変数は有意でなかった. このことから右側の見通しの良さは左側を向いている時間に影響しないことが確認された. また, 両側の見通しが悪い 左側悪右側悪 交差点に比べ, 左側悪右側良 で変数の有意性は確認されなかったが, 右側の見通しが良くなると右側を向いている時間が長くなる可能性が示唆された. 一方, 両側の見通しが悪くなるほど正面を向いている時間が長くなることを確認した. 以上より, 交差点の右側の見通しが良くなると右側を向いている時間が長くなり, 左側の見通しが良くならない限り左側を確認しないことが事故要因として考えられる.. まとめと今後の課題 交差点接近速度 (km/h) 最初に右側安全確認を行った位置 (m) 0 0 0 2 3 4 図 -7 交差点別左右別の安全確認回数の比較 左側良右側良 (94) 左側中右側良 (66) 左側良右側悪 (8) 左側悪右側悪 (3) 図 -8 見通しと交差点接近速度 左側良右側良 (94) 左側中右側良 (66) 左側良右側悪 (8) 左側悪右側悪 (3) 図 -9 見通しと最初に右側安全確認を行った位置 本研究では, 交差点の見通しに関わる構成要素と運転挙動の相互関係から, 自転車事故の要因を考察した. 見通しと出会い頭事故の関係について分析を行った結果, 交差点見通しが 右 > 左 の極端な場合において, 従道路に対し左側から交差点へと侵入してくる自転車が出会い頭事故に遭う危険性が高まることが確認された. 次に, 見通しと運転挙動への変化要因との相互関係を把握するため, 交差点進入時における観測を行った. そ 最初に左側安全確認を行った位置 (m) 0 2 3 4 左側良右側良 (94) 左側中右側良 (66) 左側良右側悪 (8) 左側悪右側悪 (3) 図 -0 見通しと最初に左側安全確認を行った位置 表 -6 重回帰分析結果 (*:%,**:% 有意水準 ) 左側を向いている時間 (s) 正面を向いている時間 (s) 右側を向いている時間 (s) 係数 t 値 係数 t 値 係数 t 値 定数 0.662 6.43 ** 3.992 2.00 **.47 9.447 ** 左側良右側良ダミー 0.264 2.787 ** -0.367-2.096 * 0.229 2.042 * 左側中右側良ダミー 0.048 0.477-0. -2.74 ** 0.284 2.39 * 左側悪右側良ダミー 0.020 0.228-0.327 -.98 0.2.438 左側悪右側悪ダミー一時停止有ダミー 0.004 0.083 0.8 2.026 * -0.008-0.42 交差点接近速度 -0.028 -.889 ** -0.27-4.8 ** -0.046-8.76 ** 調整済み R 2 0.32 0.420 0.6 分析サンプル数 376
の結果, 右 > 左 となる極端な場合において, 接近速度の上昇が確認された. これは, 事故に関わる運転挙動への変化要因として, 両側の見通しが悪い交差点に比べ, 右側から来る車両を確認しやすいためであると考えられる. 確認時間の分析では, 左側良右側良 の場合に左側を向いている時間が増加する傾向にあったが, 見通しが 左側中右側良, 左側悪右側良 の場合は有意でなかった. このことから右側の見通しの良さは, 左側を向いている時間に影響しないことを確認した. また, 両側の見通しが悪い 左側悪右側悪 交差点に比べ, 左側悪右側良 で変数の有意性は確認されなかったものの, 右側の見通しが良くなると右側を向く時間が長くなる可能性が示唆された. さらに, 両側の見通しが悪くなるほど正面を向く時間が長くなることが確認された. 以上のことから, 交差点の右側の見通しが良くなると右側を向いている時間が長くなり, 左側の見通しが良くならない限り左側を確認しないことが事故要因の一つとして考えられる. 注意が右側に集中することで左側から来る自転車の発見が遅れ, 事故の危険性が高まっていると考えられる. 以上を踏まえ, 事故対策の手段として, 交差点見通しが 右 > 左 である場合には右側の見通しを敢えて悪くすることで交差点への接近速度を減少させ, 右への注意が過度に偏ることを緩和できるのではないかと考えられる. これによって両側の見通しが悪くなることで, 正面を向いている時間が長くなることが期待できる. 本研究においては, 安全確認は首振りによって行うと定義しているが, 両側の見通しが悪い交差点では, 安全確認を視線移動のみで行っている可能性が高いことから, 左側から来る自転車を見落とさなくなるものと考えられる. 今後の課題として, 運転挙動の調査対象とした交差点の見通しの組み合わせは十分ではなく, 分析の精度を向 上させるには, より多くの組み合わせについて調査を行い, 首振りによる安全確認だけではなく, 視線移動も併せて分析を行っていく必要がある. 本研究では, 流入部における自動車の運転挙動に着目したが, 歩道内における運転挙動との関係については明らかになっていない. 車両対自転車の出会い頭事故を減らすには, 歩道内についても考慮し, 従道路から交差点進入までの一連の運転挙動を対象に事故要因を考察していく必要がある. 参考文献 ) 亀井省吾, 吉田長裕, 日野泰雄 : 事故の深刻度を考慮した幹線道路における自転車事故のリスク分析, 土木計画学研究 講演集,No. 40,4 p. (CD-ROM), 2009. 2) 萩田賢司, 森健二, 横関俊也, 矢野伸裕, 牧下寛 : 通行方向に着目した自転車事故の分析, 土木学会論文集 D3 ( 土木計画学 ),Vol. 69,No.,pp. I_7-I_78, 203. 3) 渡邉竜太, 鈴木美緒, 屋井鉄雄 : 自動車ドライバー視認行動に着目した自転車と自転車の出会い頭事故に関する研究, 土木計画学研究講演集,No. 42,4 p. (CD-ROM),200. 4) 武田圭介, 金子正洋, 松本幸司 : 自転車事故発生状況の分析と事故防止のための交差点設計方法の検討, 土木計画学講演集,No. 38,4 p. (CD-ROM),2008. ) Summala, H., Pasanen, E., Räsänen, M. and Sievänen, J.: Bicycle accidents and drivers visual search at left and right turns, Accident Analysis & Prevention, Vol. 28, Issue 2, pp. 47-3, 996. 6) 王茹剛, 山中英生, 三谷哲雄 : 幹線道路小交差点における見通しと自転車事故, 車両挙動の分析, 第 32 回交通工学研究発表会,pp. 89-92,202. 7) 道路構造例の解説と運用, 日本道路協会,2004. 8) A Policy on Geometric Design of Highways and Streets 4th Edition, AASHTO, 200. (204. 2. 28 受付 ) RESEARCH ON BICYCLIST SAFETY ANALYSIS OF SIGHT DISTANCE AND DRIVING BEHAVIOR AT UNSIGNALIZED INTERSECTIONS ALONG HIGHWAY Yoshito TAKENAKA and Nagahiro YOSHIDA Recently, using a bicycle is recommended under the growing concerns about health and environment, while the bicycle involved collision rate tends to increase. Some remarkable researches pointed out that a sight distance or driver s behaviors at intersections have affected an significant influence on bicycle safety, but the relationship between these factors are not clearly described together. Therefore, the purpose of this study is to investigate the possible factors of bicycle related accidents focused on the sight distance and driving behavior at unsignalized intersections along highway.