2013 年 4 月 23 日 : 中国における鳥インフルエンザ A(H7N9) に係る医療関係者研修会 トリ - ヒト感染の 分子メカニズム 京都府立医科大学 医学研究科 感染病態学教室 中屋隆明
(H2) (N2) (H3) H1N1 H2N2 H3N2 インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを一部改変
インフルエンザウイルスの宿主動物 ( を改変 H4,5,7,9,10 N1,2,4,7 H1N1 H3N2 産業動物 ( 家畜 ) ブタ ニワトリ H1N1pdm H3N2v? H5N1 H7N9 ヒト 野鳥 ( 水禽類 ) H1N1 H1N1pdm H3N2 H5N1? (H2N2) H7N9? H3N8 イヌアザラシ 家禽 H1-H12 X N1-N9 アヒル H1-H16 X N1-N9 H7N7 H3N8 ウマ
インフルエンザウイルスパンデミックの歴史 年香港風邪 年アジア風邪 年スペイン風邪 年ブタインフルエンザ 年ロシア風邪 トリ トリ 1889 1900 1920 1950 1960 1970 西暦 ( 年 ) 1980 1990 2000 2010 Nakaya T. Neuroinfection 2013 を改変
どれくらいの種類があるのか? A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :1~16 番 and NA の血清型 :1~9 番
HA: ヘマグルチニン NA: ノイラミニダーゼ Nayak DP. et al. Virus Res. Vol.143 2009
H5N1 ウイルス A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :5 番 and NA の血清型 :1 番
H7N9 ウイルス A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :7 番 and NA の血清型 :9 番
理化学研究所 HP より引用
ウイルスゲノムは 8 本 ( 分節 )
ハイブリッドウイルスの出現 Reassortant influenza viruses Virus A Virus B Host Cell 7 + 1 1 + 7 Genome Hybridization インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを一部改変
Gao R. et al. N Engl J Med. 2013 Apr 11
Gao R. et al. N Engl J Med. 2013 Apr 11
Eurosurveillance, Volume 18, Issue 15, 11 April 2013 Rapid communications Genetic analysis of novel avian A(H7N9) influenza viruses isolated from patients in China, February to April 2013 T Kageyama 1,2, S Fujisaki 1,2, E Takashita 1, H Xu 1, S Yamada 3, Y Uchida 4, G Neumann 5, T Saito 4,6, Y Kawaoka 3,5,7,8, M Tashiro
A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物への アダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの結 合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物への アダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの結 合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
ヘマグルチニン (HA) プロテアーゼによる切断 ( 開裂 ) Stevens J. et al., (2006)
インフルエンザウイルス HA 蛋白質の開裂部位配列は病原性を決定する重要な因子である インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを改変 細胞への侵入 (-) 細胞への侵入 (+)
インフルエンザウイルス HA 蛋白質の開裂部位配列はトリに対する病原性を決定する重要な因子である インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを改変 細胞への侵入 (-) 細胞への侵入 (+)
トリインフルエンザウイルス HA タンパク質の開裂部位のアミノ酸配列 開裂部位 弱毒型 H5ウイルス A/duck/Hong Kong/342/1978(H5N2) A/duck/Hong Kong/820/1980(H5N3) 強毒型 H5ウイルス A/goose/Guangdong/3/1997(H5N1) A/Hong Kong/486/1997(H5N1) A/crow/Kyoto/53 /04(H5N1) HA1 HA2 LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNSPQRERR- KKR GLFGAIAGFIEG
トリインフルエンザウイルス HA タンパク質の開裂部位のアミノ酸配列 開裂部位 弱毒型 H5ウイルス A/duck/Hong Kong/342/1978(H5N2) A/duck/Hong Kong/820/1980(H5N3) 強毒型 H5ウイルス A/goose/Guangdong/3/1997(H5N1) A/Hong Kong/486/1997(H5N1) A/crow/Kyoto/53 /04(H5N1) HA1 HA2 LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNSPQRERR- KKR GLFGAIAGFIEG 強毒型 H7ウイルス A/Netherlands/306/2003(H7N7) LLLATGMKNVPEIPKRRRR GLFGAIAGFIEN A(H7N9) ウイルス A/Shanghai/1/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG A/Shanghai/2/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG A/Anhui/1/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG トリに対して弱毒型
レセプター結合領域 ヘマグルチニン (HA) Stevens J. et al., (2006)
a2-3 SA a2-6 SA Bewley CA et al. 2008
Stevens J. et al. (2004) インフルエンザウイルス 2 種類のレセプター レセプター結合領域 ヒト由来ウイルス a2,6 型 ブタ由来ウイルス a2,6 型 a2,3 型 トリ由来ウイルス a2,3 型
Stevens J. et al. (2004) A/H7N9 (2013) レセプター結合領域 ヒト由来ウイルス a2,6 型 ブタ由来ウイルス a2,6 型 a2,3 型 トリ由来ウイルス H7 a2,3 型
A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのアダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプター への結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
G177V (G186V) H7 numbering (H3 numbering) Q217L/I (Q226L/I) A128S (A138S) Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
これまでの H1N1 H5 亜型 (Seasonal (Avian Flu) Flu) 現在のH7N9 現在のH5N1 (Avian Flu) Easily 伝播力 spread 無 Rarely fatal 致死率無 Spreads slowly Often fatal 伝播力小 / 無 致死率大
H5N1 (Avian Flu) 変異 H5N1 (Pandemic Flu!) Spreads Spreads Easily spread slowly slowly Rarely Often Often fatal fatal 伝播力小 / 無 致死率大 Spreads Spreads slowly 伝播力 Easily spread Often slowly 大 Often Rarely fatal fatal fatal 致死率大?
フェレットによる H5N1 感染試験 H5N1 が哺乳類間で空気 飛沫感染するようになるには HA Q222L, G224S および新たに発見された H103Y T156A それに PB2 E627K の 5 種類の変異があればいいということが明らかになった ( 空気感染ウイルス ) 空気 飛沫感染では実験中死んだフェレットは一頭もいなかった 10 6 TCID 50 という高濃度の空気感染ウイルスを気管から接種すると全頭死んだが この現象は野生型 H5N1 と同程度であり 空気感染性を獲得したことによる病原性の変化は見られなかった 東大医科研 河岡義裕教授ら ( オランダ ) エラスムス大学 Fouchier RA 教授ら
< 得られた変異セットのまとめ :H5N1> 共通なもの (HA): シアル酸レセプター特異性 ( トリ型 ヒト型 ) Science: Q222L + G224S Nature: Q222L + N220K N-グリコシル化部位 非グリコシル化 Science: T156A Nature: N154D 異なるもの (HA): Science: H103Y 三量体インターフェース Nature: T318Y 構造安定化 HA 以外 : Science: PB2 E627K Nature: 2009pdm H1N1 7つのRNA 分節 Yoshiko Okamoto <J-GRID>
< 得られた変異セットのまとめ :H5N1 > 共通なもの (HA): シアル酸レセプター特異性 ( トリ型 ヒト型 ) Science: Q222L + G224S Nature: Q222L + N220K N-グリコシル化部位 非グリコシル化 Science: T156A Nature: N154D 異なるもの (HA): Science: H103Y 三量体インターフェース Nature: T318Y 構造安定化 HA 以外 : Science: PB2 E627K Nature: 2009pdm H1N1 7つのRNA 分節 Yoshiko Okamoto <J-GRID>
A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのア ダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプター への結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのアダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの 結合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの 結合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの 結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変
まとめ (1): ヒト分離ウイルス 1. 今回の A(H7N9) ウイルスは 3 種類の異なるトリインフルエンザウイルスの遺伝子交雑体であると考えられる 2. ヒト分離ウイルス 4 株は互いに非常に類似していたが そのうちの 1 株 (A/Shanghai/1/2013) は 塩基配列上では他の 3 株とは区別され 共通の祖先から分岐した別系統の近縁ウイルスが同時期に伝播していたことが示唆された 3. ヒト分離ウイルス 4 株全ての HA 遺伝子は ヒト型のレセプターへの結合能を上昇させる変異を有していた またヒト分離株全ての PB2 遺伝子には RNA ポリメラーゼの至適温度を鳥の体温 (41 ) から哺乳類の上気道温度 (34 ) に低下させる変異が観察された これらの株については ヒト上気道に感染しやすく また増殖しやすいように変化している可能性が強く示唆された ( 国立感染研による所見を一部改変 )
まとめ (2): 抗インフルエンザ薬の感受性 4.NA 遺伝子の塩基配列からは ヒト分離株のうちの 1 株 A/Shanghai/1/2013 が 抗インフルエンザ薬のオセルタミビルおよびザナミビルに対する感受性が低下している可能性が指摘された しかし 現時点での酵素活性測定結果では オセルタミビル ザナミビルには感受性があるとされている 5.M 遺伝子については 解析した全てのウイルスが アマンタジン リマンタジンに対して耐性であると判断された
まとめ (3): トリ分離ウイルス 6. 上海市鳥市場のハト ニワトリおよび環境からの分離ウイルス 3 株は 上記ヒト分離ウイルスのうちの 3 株と同系統のウイルスと考えられる しかし 両者の間には 明らかに異なる塩基配列もあり 今回報告されたトリ分離ウイルスが 今回報告された患者に直接に感染したものであるとは考えにくい 7. 鳥 環境からの分離ウイルス 3 株の HA 遺伝子の解析では ヒト型のレセプターへの結合能が上昇していたが RNA ポリメラーゼの至適温度を低下させる変異 (PB2:E627K) は観察されなかった 8. これらの鳥由来ウイルスは鳥に対して低病原性であり 家禽 野鳥に感染しても症状を出さないと考えられる また一般的に H7 亜型のインフルエンザウイルスはブタにおいても不顕性感染であることが知られている 従って この系統のウイルスがこれらの哺乳動物の間で症状を示さずに伝播され ヒトへの感染源になっている可能性がある