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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

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インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

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Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

成人の肺炎球菌感染症とワクチン予防

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2013 年 3 月 鳥インフルエンザ A(H7N9) が中国で発生し 2014 年 11 月 5 日時点で全部で 456 症例を引き起こし 172 名の命を奪っている このウイルスは家禽で低病原性 ( 感染した鳥で臨床症状は認められない ) だが 哺乳類においては種を越える事前の適応なしで致命的な

スライド タイトルなし

Microsoft Word - ③鈴木先生 完成.doc

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

図 1 鳥インフルエンザの公式発表にもとづく分布 (2003 年 10 月以降 ) (2) 研究開発の概要と成果高病原性鳥インフルエンザの発生とヒトへの感染を防ぐためには 1 野鳥から家禽にウイルスを持ち込ませない 2 家禽の中での蔓延を防ぐ 3ヒトへの感染を防ぐの 3 つが重要である ( 図 2)

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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かなりの程度低く抑えられると想定される しかし 現在の地球人口は 74 億人 (4 倍 ) に増加しており 生活様式も大きく変化した 航空機等による高速大量輸送の発展によって 2009 年の H1N1 パンデミックにおいて経験されたように パンデミックは 2 カ月以内に世界中に波及し ほぼ全世界で同

鳥インフルエンザから新型インフルエンザ大流行へ

DVDを見た後で、次の問いに答えてください

2003 年後半から 新たな強毒型 H5N1 鳥インフルエンザの流行が東アジアから始まった その後 急速に 東南アジア 中国 韓国 日本 シベリア南部 中東 欧州 北アフリカへと拡大を続けている ウイルスは超強毒性で 家禽 野鳥 ネコ トラ イヌ ネズミなど多くの哺乳動物にも感染して 致死的な全身感

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

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Program

加藤茂孝先生

Microsoft Word 河岡H18終了報告書 冊子用p80.DOC

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - Program-1.doc

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

最近の動物インフルエンザの発生状況と検疫対応

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

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記載例 : 大腸菌 ウイルス ( 培養細胞 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 ヒ

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

詳細を明らかにするとともに ウイルスの病原性に関する研究も アジアで流行中のH5N1 鳥インフルエンザウイルスならびにその他のウイルスについても展開する予定である インフルエンザウイルス ゲノムのパッケージング シグナルの知見に基づくインフルエンザワクチンならびにワクチンベクターの開発 1. 次世代

2001~2002年度の札幌市における

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン


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ロタウイルスワクチンをめぐる話題


があるため 一ヶ月以上の間隔をおいて単品投与することが基本である そこで 呼吸器疾患を引き起こすパラインフルエンザウイルスの感染防御抗原を発現する組み換えインフルエンザウイルスを作製することによりウイルス性呼吸器疾患に対する多価生ワクチンの開発を試みた インフルエンザウイルスのNAは感染防御にはそれ

A 型インフルエンザ ( 人獣共通感染症 ) Ø 水禽類 ( カモ 白鳥など ) が全ての亜型を保持する自然宿主 H1 - H18 N1 - N11 H17, 18 Fruit bats Aquatic birds Poultry Humans Pigs Horses Aquatic mammals

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Title

エマージングウイルスの ワクチン 東京大学医科学研究所 河岡義裕

生物時計の安定性の秘密を解明

第 53 号 (2016) 35 資料 石川県におけるインフルエンザの流行状況 2015/2016 シーズン 石川県保健環境センター健康 食品安全科学部児玉洋江 成相絵里 崎川曜子 和文要旨 2015/16シーズンの集団かぜの発生施設数および患者数, 感染症発生動向調査事業のインフルエンザ累積患者報

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研究検討会

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209【参考資料9】 _H7N9リスクアセスメント_final4_見え消しなし

広島市衛研年報 35, 52-60(2016) 2005/06 シーズンから 2015/16 シーズンまでに検出されたノロウイルス GⅡ の遺伝子型解析と流行状況の分析 藤井慶樹則常浩太八島加八山本美和子 松室信宏 石村勝之 2005/06 シーズンから 2015/16 シーズンまでの間に, 広島市

全体編集作業中.PDF

論文の内容の要旨

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

人工知能補足_池村

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KEGG.ppt

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PowerPoint プレゼンテーション

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ



大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.8(2012) 3. 結果および考察 3.1 長野県における手足口病患者およびヘルパンギーナ患者からのエンテロウイルス検出状況 手足口病患者およびヘルパンギーナ患者 67 検体のうち, が 45 株 (67 %

C O N T E N T S 1

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

-2-

表 1. 抗インフルエンザ薬 オセルタミビルザナミビルラニナミビルペラミビル 新生児 乳児 (1 歳未満 ) 推奨 * 推奨されない 幼児 (1 歳から 4 歳 ) 推奨 吸入困難と考える 小児 (5 歳から 9 歳 ) 推奨 吸入が出来ると判断された場合に限る 10 歳以上 原則として使用を差し控

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Transcription:

2013 年 4 月 23 日 : 中国における鳥インフルエンザ A(H7N9) に係る医療関係者研修会 トリ - ヒト感染の 分子メカニズム 京都府立医科大学 医学研究科 感染病態学教室 中屋隆明

(H2) (N2) (H3) H1N1 H2N2 H3N2 インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを一部改変

インフルエンザウイルスの宿主動物 ( を改変 H4,5,7,9,10 N1,2,4,7 H1N1 H3N2 産業動物 ( 家畜 ) ブタ ニワトリ H1N1pdm H3N2v? H5N1 H7N9 ヒト 野鳥 ( 水禽類 ) H1N1 H1N1pdm H3N2 H5N1? (H2N2) H7N9? H3N8 イヌアザラシ 家禽 H1-H12 X N1-N9 アヒル H1-H16 X N1-N9 H7N7 H3N8 ウマ

インフルエンザウイルスパンデミックの歴史 年香港風邪 年アジア風邪 年スペイン風邪 年ブタインフルエンザ 年ロシア風邪 トリ トリ 1889 1900 1920 1950 1960 1970 西暦 ( 年 ) 1980 1990 2000 2010 Nakaya T. Neuroinfection 2013 を改変

どれくらいの種類があるのか? A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :1~16 番 and NA の血清型 :1~9 番

HA: ヘマグルチニン NA: ノイラミニダーゼ Nayak DP. et al. Virus Res. Vol.143 2009

H5N1 ウイルス A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :5 番 and NA の血清型 :1 番

H7N9 ウイルス A 型インフルエンザウイルス HA の血清型 :7 番 and NA の血清型 :9 番

理化学研究所 HP より引用

ウイルスゲノムは 8 本 ( 分節 )

ハイブリッドウイルスの出現 Reassortant influenza viruses Virus A Virus B Host Cell 7 + 1 1 + 7 Genome Hybridization インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを一部改変

Gao R. et al. N Engl J Med. 2013 Apr 11

Gao R. et al. N Engl J Med. 2013 Apr 11

Eurosurveillance, Volume 18, Issue 15, 11 April 2013 Rapid communications Genetic analysis of novel avian A(H7N9) influenza viruses isolated from patients in China, February to April 2013 T Kageyama 1,2, S Fujisaki 1,2, E Takashita 1, H Xu 1, S Yamada 3, Y Uchida 4, G Neumann 5, T Saito 4,6, Y Kawaoka 3,5,7,8, M Tashiro

A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

A(H7N9) インフルエンザウイルスのゲノム相同性 ウイルス遺伝子 もっとも近縁なウイルス株 相同性 (%) PB2 A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 PB1 A/chicken/Jiangsu/Q3/2010 (H9N2) 98 PA A/brambling/Beijing/16/2012 (H9N2) 99 HA A/duck/Zhejiang/12/2011 (H7N3) 95 NP A/chicken/Zhejiang/611/2011 (H9N2) 98 NA A/chicken/Czech Republic/13438-29K/2010 (H11N9) M A/chicken/Zhejiang/607/2011 (H9N2) 98 NS A/chicken/Dawang/1/2011 (H9N2) 99 96 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物への アダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの結 合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物への アダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの結 合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

ヘマグルチニン (HA) プロテアーゼによる切断 ( 開裂 ) Stevens J. et al., (2006)

インフルエンザウイルス HA 蛋白質の開裂部位配列は病原性を決定する重要な因子である インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを改変 細胞への侵入 (-) 細胞への侵入 (+)

インフルエンザウイルス HA 蛋白質の開裂部位配列はトリに対する病原性を決定する重要な因子である インフルエンザのすべて 松本慶蔵編集 / 日本ロッシュを改変 細胞への侵入 (-) 細胞への侵入 (+)

トリインフルエンザウイルス HA タンパク質の開裂部位のアミノ酸配列 開裂部位 弱毒型 H5ウイルス A/duck/Hong Kong/342/1978(H5N2) A/duck/Hong Kong/820/1980(H5N3) 強毒型 H5ウイルス A/goose/Guangdong/3/1997(H5N1) A/Hong Kong/486/1997(H5N1) A/crow/Kyoto/53 /04(H5N1) HA1 HA2 LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNSPQRERR- KKR GLFGAIAGFIEG

トリインフルエンザウイルス HA タンパク質の開裂部位のアミノ酸配列 開裂部位 弱毒型 H5ウイルス A/duck/Hong Kong/342/1978(H5N2) A/duck/Hong Kong/820/1980(H5N3) 強毒型 H5ウイルス A/goose/Guangdong/3/1997(H5N1) A/Hong Kong/486/1997(H5N1) A/crow/Kyoto/53 /04(H5N1) HA1 HA2 LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNVPQRE--------TR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNTPQRERRRKKR GLFGAIAGFIEG LVLATGLRNSPQRERR- KKR GLFGAIAGFIEG 強毒型 H7ウイルス A/Netherlands/306/2003(H7N7) LLLATGMKNVPEIPKRRRR GLFGAIAGFIEN A(H7N9) ウイルス A/Shanghai/1/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG A/Shanghai/2/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG A/Anhui/1/2013(H7N9) LLLATGMKNVPEIPKG----R GLFGAIAGFIEG トリに対して弱毒型

レセプター結合領域 ヘマグルチニン (HA) Stevens J. et al., (2006)

a2-3 SA a2-6 SA Bewley CA et al. 2008

Stevens J. et al. (2004) インフルエンザウイルス 2 種類のレセプター レセプター結合領域 ヒト由来ウイルス a2,6 型 ブタ由来ウイルス a2,6 型 a2,3 型 トリ由来ウイルス a2,3 型

Stevens J. et al. (2004) A/H7N9 (2013) レセプター結合領域 ヒト由来ウイルス a2,6 型 ブタ由来ウイルス a2,6 型 a2,3 型 トリ由来ウイルス H7 a2,3 型

A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのアダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプター への結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

G177V (G186V) H7 numbering (H3 numbering) Q217L/I (Q226L/I) A128S (A138S) Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

これまでの H1N1 H5 亜型 (Seasonal (Avian Flu) Flu) 現在のH7N9 現在のH5N1 (Avian Flu) Easily 伝播力 spread 無 Rarely fatal 致死率無 Spreads slowly Often fatal 伝播力小 / 無 致死率大

H5N1 (Avian Flu) 変異 H5N1 (Pandemic Flu!) Spreads Spreads Easily spread slowly slowly Rarely Often Often fatal fatal 伝播力小 / 無 致死率大 Spreads Spreads slowly 伝播力 Easily spread Often slowly 大 Often Rarely fatal fatal fatal 致死率大?

フェレットによる H5N1 感染試験 H5N1 が哺乳類間で空気 飛沫感染するようになるには HA Q222L, G224S および新たに発見された H103Y T156A それに PB2 E627K の 5 種類の変異があればいいということが明らかになった ( 空気感染ウイルス ) 空気 飛沫感染では実験中死んだフェレットは一頭もいなかった 10 6 TCID 50 という高濃度の空気感染ウイルスを気管から接種すると全頭死んだが この現象は野生型 H5N1 と同程度であり 空気感染性を獲得したことによる病原性の変化は見られなかった 東大医科研 河岡義裕教授ら ( オランダ ) エラスムス大学 Fouchier RA 教授ら

< 得られた変異セットのまとめ :H5N1> 共通なもの (HA): シアル酸レセプター特異性 ( トリ型 ヒト型 ) Science: Q222L + G224S Nature: Q222L + N220K N-グリコシル化部位 非グリコシル化 Science: T156A Nature: N154D 異なるもの (HA): Science: H103Y 三量体インターフェース Nature: T318Y 構造安定化 HA 以外 : Science: PB2 E627K Nature: 2009pdm H1N1 7つのRNA 分節 Yoshiko Okamoto <J-GRID>

< 得られた変異セットのまとめ :H5N1 > 共通なもの (HA): シアル酸レセプター特異性 ( トリ型 ヒト型 ) Science: Q222L + G224S Nature: Q222L + N220K N-グリコシル化部位 非グリコシル化 Science: T156A Nature: N154D 異なるもの (HA): Science: H103Y 三量体インターフェース Nature: T318Y 構造安定化 HA 以外 : Science: PB2 E627K Nature: 2009pdm H1N1 7つのRNA 分節 Yoshiko Okamoto <J-GRID>

A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのア ダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの結 合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの結 合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプター への結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビ ルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

A(H7N9) ウイルスの重要な遺伝子型のまとめ アミノ酸番号 A/H7N9 ヒト分離株 A/H7N9 トリ分離株 ヒト由来 トリ由来 1 2 3 4 5 6 7 PB2 627 K K K Nd E E E K E E627K: 哺乳動物へのアダプテーション HA NA 128/138 S A A A A A A A A S138A: ヒト型レセプターへの 結合性増大 151/160 A A A A A A A K A T160A:: 糖鎖付加配列の喪失 ヒト型レセプターへの結合性増大 177/186 G V V V V V V G G G186V: ヒト型レセプターへの 結合性増大 217/226 Q L L I L L L I Q Q226L: ヒト型レセプターへの 結合性増大 69-73 Deletion No deletion 289/294/ 292 69-73 領域の欠損 : マウスのおける病原性増大 K R R R R R R R R R294K: オセルタミビル ザナミビルの感受性低下 Kageyama T. et al. Eurosurveillance, Vol. 18, 11 April 2013 を改変

まとめ (1): ヒト分離ウイルス 1. 今回の A(H7N9) ウイルスは 3 種類の異なるトリインフルエンザウイルスの遺伝子交雑体であると考えられる 2. ヒト分離ウイルス 4 株は互いに非常に類似していたが そのうちの 1 株 (A/Shanghai/1/2013) は 塩基配列上では他の 3 株とは区別され 共通の祖先から分岐した別系統の近縁ウイルスが同時期に伝播していたことが示唆された 3. ヒト分離ウイルス 4 株全ての HA 遺伝子は ヒト型のレセプターへの結合能を上昇させる変異を有していた またヒト分離株全ての PB2 遺伝子には RNA ポリメラーゼの至適温度を鳥の体温 (41 ) から哺乳類の上気道温度 (34 ) に低下させる変異が観察された これらの株については ヒト上気道に感染しやすく また増殖しやすいように変化している可能性が強く示唆された ( 国立感染研による所見を一部改変 )

まとめ (2): 抗インフルエンザ薬の感受性 4.NA 遺伝子の塩基配列からは ヒト分離株のうちの 1 株 A/Shanghai/1/2013 が 抗インフルエンザ薬のオセルタミビルおよびザナミビルに対する感受性が低下している可能性が指摘された しかし 現時点での酵素活性測定結果では オセルタミビル ザナミビルには感受性があるとされている 5.M 遺伝子については 解析した全てのウイルスが アマンタジン リマンタジンに対して耐性であると判断された

まとめ (3): トリ分離ウイルス 6. 上海市鳥市場のハト ニワトリおよび環境からの分離ウイルス 3 株は 上記ヒト分離ウイルスのうちの 3 株と同系統のウイルスと考えられる しかし 両者の間には 明らかに異なる塩基配列もあり 今回報告されたトリ分離ウイルスが 今回報告された患者に直接に感染したものであるとは考えにくい 7. 鳥 環境からの分離ウイルス 3 株の HA 遺伝子の解析では ヒト型のレセプターへの結合能が上昇していたが RNA ポリメラーゼの至適温度を低下させる変異 (PB2:E627K) は観察されなかった 8. これらの鳥由来ウイルスは鳥に対して低病原性であり 家禽 野鳥に感染しても症状を出さないと考えられる また一般的に H7 亜型のインフルエンザウイルスはブタにおいても不顕性感染であることが知られている 従って この系統のウイルスがこれらの哺乳動物の間で症状を示さずに伝播され ヒトへの感染源になっている可能性がある