上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

Similar documents
八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

Untitled

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

Untitled

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

Untitled

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

Untitled

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

Microsoft Word _肺がん統計解析資料.docx

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

研究成果報告書

日本内科学会雑誌第96巻第4号

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

テイカ製薬株式会社 社内資料

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

研究成果報告書

作成要領・記載例

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります


平成14年度研究報告

膜小胞「エキソソーム」を介した経口免疫寛容誘導機構の解析

表1-4B.ai

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

ヒト胎盤における

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

Research 2 Vol.81, No.12013

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

Untitled

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

-119-

nsg01-04/ky191063169900010781

(Microsoft Word - \226\306\211u\212w\211\337\213\216\226\ doc)

抄録/抄録1    (1)V

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス


ββ

学位論文の要約 免疫抑制機構の観点からの ペプチドワクチン療法の効果増強を目指した研究 Programmed death-1 blockade enhances the antitumor effects of peptide vaccine-induced peptide-specific cyt

H28_大和証券_研究業績_C本文_p indd

方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

- 日中医学協会助成事業 - 肺炎球菌ワクチンに対する免疫応答性の日中間における比較に関する研究 研究者氏名教授川上和義研究機関東北大学大学院医学系研究科共同研究者氏名張天托 ( 中山大学医学部教授 ) 宮坂智充 ( 東北大学大学院医学系研究科大学院生 ) 要旨肺炎球菌は成人肺炎の最も頻度の高い起炎

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 山田淳 論文審査担当者 主査副査 大川淳野田政樹 上阪等 論文題目 Follistatin Alleviates Synovitis and Articular Cartilage Degeneration Induced by Carrageenan ( 論文

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

Untitled

学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

平成 2 3 年 2 月 9 日 科学技術振興機構 (JST) Tel: ( 広報ポータル部 ) 慶應義塾大学 Tel: ( 医学部庶務課 ) 腸における炎症を抑える新しいメカニズムを発見 - 炎症性腸疾患の新たな治療法開発に期待 - JST 課題解決型基

学位論文の要約

Untitled

<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

Untitled

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

ウシの免疫機能と乳腺免疫 球は.8 ~ 24.3% T 細胞は 33.5 ~ 42.7% B 細胞は 28.5 ~ 36.2% 単球は 6.9 ~ 8.9% で推移し 有意な変動は認められなかった T 細胞サブセットの割合は γδ T 細胞が最も高く 43.4 ~ 48.3% で CD4 + T 細

Untitled

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

No146三浦.indd

従来のペプチド免疫療法の問題点 樹状細胞 CTL CTL CTL CTL CTL CTL CTL CTL 腫瘍組織 腫瘍細胞を殺す 細胞傷害性 T 細胞 (CTL) の大半は 腫瘍の存在に気づかず 血管内を通り過ぎている! 腫瘍抗原の提示を考えると それは当然! 2

Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

肝クッパ 細胞を簡便 大量に 回収できる新規培養方法 農研機構動物衛生研究所病態研究領域上席研究員山中典子 2016 National Agriculture and Food Research Organization. 農研機構 は国立研究開発法人農業 食品産業技術総合研究機構のコミュニケーショ

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

cover

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

Transcription:

上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016) 164. 血管内皮抗原特異的免疫抑制療法は動脈硬化を抑制する 笠木伸平 神戸大学医学部附属病院検査部 Key words: 血管内皮抗原特異的免疫抑制療法, 免疫寛容, 動脈硬化 緒言動脈硬化は 致死的な合併症やその高い罹患率を背景とする医療経済学的な観点等の理由からその予防はわが国の大変重要な課題となっている 近年 動脈硬化は血管内皮障害から始まる血管内皮の慢性炎症であるという考えが一般的となりつつあり その機序として 血管内皮抗原 (HSP65 etc) が抗原提示細胞により T 細胞に提示され 血管内皮抗原特異的な T 細胞を活性化させると考えられている しかし 血管内皮抗原に対する免疫寛容の破綻がなぜ起こり また 動脈硬化の進展にどう関与するのかは未だ機構は解明されていない 加えて 動脈硬化症に対する治療は 未だ提唱もされておらず 専らその予防 ( 動脈硬化の危険因子の排除 ) のみが臨床の場で行われているのが現状である 仮に動脈硬化症を既存の免疫抑制療法で加療した場合 抗原非特異的な免疫応答が抑制され 結果 免疫不全状態となり 自己抗原以外の抗原 ( 感染抗原や腫瘍抗原 ) に対する免疫応答の低下により生じる副作用が懸念される 本研究において 血管内皮抗原特異的な制御性 T 細胞のみを選択的に体内で誘導することで免疫不全を起こさずに動脈硬化の治癒や進展の予防できるのかどうかを検証したので結果をここに報告する 方法 1.HSP65/IFA で誘導される動脈硬化モデルマウスの確立血管内皮抗原 (HSP65) と Incomplete Freund's adjuvant/ifa( 免疫賦活剤 ) の投与により HSP65 に特異的に免疫反応が誘導させることで動脈硬化を進行させるモデルマウスの実験系を確立した マウスは LDL-R KO マウスを使用し 通常食 (Non High Fat diet) で飼育した 10 週齢になった時点で HSP65 ペプチドと IFA の混合物 ( エマルジョンをマウスに皮下注射した マウスが 22 週齢になった時点でマウスを安楽死させた 2. 動脈硬化モデルマウスの治療マウスが 14 週齢に到達した時点でランダムに5つの群に無作為に分け うち4つの群には以下の別々の治療を施した すなわち 1 無治療群 (Cont 群と表記 ) 2HSP65 ペプチド投与群 (HSP65 ペプチドのみ隔日で6 回投与 HSP 群と表記 ) 3OVA ペプチド投与群 (OVA ペプチドのみ隔日で6 回投与 OVA 群と表記 ) 4Del+HSP65 投与群 ( 抗 CD20 抗体 (250μg/ 匹 ) で B 細胞を除去したのに引き続き HSP65 ペプチドを隔日で6 回投与した群 Del+HSP65 群と表記 ) 5Del+OVA 投与群 ( 抗 CD20 抗体 (250μg/ 匹 ) で B 細胞を除去したのに引き続き OVA ペプチドを隔日で 6 回投与した群 Del+OVA 群と表記 ) の5 群を設定した マウスが 18 週齢になった時点で再度 14 週齢で行った治療と同じ治療を繰り返し施行した 3. 動脈硬化モデルマウスの解析 22 週齢で安楽死させたマウスから 脾臓 大動脈を取り出し それぞれの組織における IFN-γ を産生する活性化 T 細胞の機能やそれを制御する制御性 T 細胞の機能をフローサイトメトリーで評価した また 大動脈の動脈硬化の程度を評価するためにオイルレッド O で染色した また 脾臓細胞を HSP65 抗原あるいは抗 CD3 抗体で 72 時間刺激し 脾臓細胞による IFN-γ の産生能を培養液中の IFN-γ 濃度を測定することで評価した (ELISA 法 ) 1

結果 1.Deletion+HSP65 併用療法の動脈硬化に与える影響について Deletion+HSP65 投与群では他の 4 群と比較して有意に動脈硬化巣の範囲が少なかった ( 図 1) 図 1. Del+HSP 療法は動脈硬化を抑制する (A)Cont 群と Del+HSP 群のマウスから下行大動脈を取り出し オイルレッド O で染色を行った 組織像を示す ( 20)(B) 各群のマウスの下行大動脈の Cross section において オイルレッド O で染色される部位を計測した (P < 0.05 One-way Anova) 2. 脾臓と大動脈における CD4 陽性 T 細胞の機能評価本解析はフローサイトメトリー法で行った 脾臓において Del+HSP65 投与群と Del+OVA 投与群の 2 群では他の 3 群と比較して有意に Foxp3 + 制御性 T 細胞の割合が増加していた ( 図 2A) 一方で IFN-γ 産生 CD4 陽性細胞の割合に関しては 4 群間で差を認めなかった ( 図 2B) 興味深いことに Foxp3 + 制御性 T 細胞と IFN-γ 産生 CD4 陽性細胞の比をとったところ Del+HSP65 投与群では他の群と比較して有意に高かったことから 同群では 脾臓内に抗炎症優位の環境が構築されていると考えられた ( 図 2C) さらに 同様の解析を血管内に浸潤している細胞を各マウスから抽出し それらをプールして解析を行ったところ 脾臓と同様に Foxp3 + 制御性 T 細胞と IFN-γ 産生 CD4 陽性細胞の比は Del+HSP65 投与群では他の群と比較して有意に高かった ( 図 2D) 2

図 2. Del+HSP 療法により脾臓および動脈において抗炎症優位な微小環境が構築される (A B)22 週齢の各治療群のマウスから脾臓と動脈を摘出し Foxp3 陽性制御性 T 細胞と IFN-γ 産生 CD4 陽性細胞の割合を FACS で解析した (C D) 脾臓 (C) および 動脈硬化巣 (D) における CD4 陽性細胞の Foxp3 陽性 IFN-γ 産生細胞の比を示す 3 回の実験の代表的な図を示す (*P < 0.05 one-way Anova) 3. 脾細胞における抗原特異的な免疫反応各マウスから得られた脾臓細胞を HSP65 あるいは抗 CD3 抗体で刺激し 脾臓細胞による IFN-γ の産生を培養液中の IFN-γ 濃度を測定することで評価した その結果 抗原 (HSP65) 特異的な脾臓細胞による IFN-γ の産生能は Del+HSP65 投与群では他の群と比較して有意に低かったが 抗 CD3 抗体 ( 抗原非特異的な ) 刺激による脾臓細胞による IFN-γ の産生能には差を認めなかった 以上のことから HSP65 抗原に特異的な脾臓細胞による IFN-γ の産生が Del+HSP65 投与群では選択的に抑制されていると考えられた ( 図 3A-B) 次に その現象が Del+HSP65 投与群において HSP65 抗原特異的な制御性 T 細胞が誘導されていることに起因するものなのかどうかについて検討した 制御性 T 細胞を含まない CD4 + CD25 - T 細胞と 制御性 T 細胞を含む CD4 + T 細胞を HSP65 で刺激して場合 ( 樹状細胞の存在下 ) に Del+HSP65 投与群では前者が後者よりも著しく高かったが Cont 群では 前者が後者よりもわずかに高いのみで Cont 群の前者と後者では有意差は認めなかった ( 図 3C) 以上のことから Del+HSP65 併用療法により HSP65 で刺激して活性化する制御性 T 細胞 (HSP65 抗原に特異的な制御性 T 細胞 ) が誘導されたと考えられた 3

図 3. Del+HSP 併用療法は HSP65 に特異的な免疫反応を選択的に抑制する (A B)22 週齢の時点における各治療群のマウスから脾細胞を抽出し (A)HSP65 (B) 抗 CD3 抗体 (acd3) で 72 時間培養刺激後に 培養液中の IFN-γ 濃度を ELISA 法 (Mean±SD) で測定した (C)22 週齢の各治療群のマウスから脾臓 CD4 陽性 T 細胞 ( ) と同数の CD4 陽性 CD25 陰性細胞 ( ) を抽出し 樹状細胞と HSP65 抗原の存在下で 72 時間培養した その後 培養液中の IFN-γ 濃度 (Mean±SD) を ELISA 法で測定した (*P < 0.05 図 3A; One-way Anova 図 3C; U-test) 考察本研究では 抗 CD20 抗体に引き続き HSP65 の併用投与することで 血管内皮抗原特異的な制御性 T 細胞のみを選択的に体内で誘導できること また 動脈硬化の進展を遅らせることを発見した しかしながら その併用の治療がどのような機序で 血管内皮抗原特異的な制御性 T 細胞のみを選択的に体内で誘導し 動脈硬化の進展を遅らせるのかまでは明らかにできなかった CD20 抗体と OVA の併用療法では同様の効果を得られなかったことから 抗 CD20 抗体の効能である B 細胞の体内からの除去では動脈硬化の進展は予防できないと考えられた また 同様に HSP65 の単独投与では同様の効果を得られなかった 低用量の抗原を持続的に投与することで その抗原に対する免疫反応が抑制される ( 免疫寛容の誘導 ) 治療法は脱感作療法として知られているが HSP65 の単独投与では同様の効果を得られなかったことからは 本併用療法の効能を説明する機序は少なくとも抗原の脱感作や B 細胞の除去ではないと考えられた これまでの我々の研究 1) から 本併用療法の効能は以下のとおり説明できるのではないかと推測している すなわち 抗 CD20 抗体の投与によりアポトーシスを誘導された B 細胞は 速やかに体内でマクロファージなどの貪食を専門とする白血球に貪食されることで マクロファージが大量の TGFβ を産生する 2) 次に 新しく生まれてくる T 細胞は 大量の TGFβ により 制御性 T 細胞に分化する傾向が強く 3) なるが HSP65 の投与により 抗原提示細胞である体内の樹状細胞から HSP65 の提示も同時にうけるので HSP65 を特異的に認識する制御性 T 細胞が選択的に分化されるのではないかという仮説である ( 図 4) この仮説が正しいのかを証明するためには 治療直後に大量の TGFβ を中和すること あるいは体内でマクロファージを除去してから治療を行うことで 治療効果が消失することを検討することが必要であり 今後の検討課題であると考えられる 4

また 本当に血管内皮抗原特異的な制御性 T 細胞のみを選択的に体内で誘導しているのか 免疫不全を同時に誘導していないのかどうかは本研究では十分に検討できていない In vitro の実験系では HSP65 に対する免疫反応は抑制され 抗 CD3 抗体による非特異的な抗原刺激に対する免疫反応は治療により抑制されていなかったことは 血管内皮抗原特異的な免疫反応は抑制されても 他の抗原に対して特異的な免疫反応は抑制されていない可能性は高い しかしながら免疫不全を誘導していないかどうかを証明するには 治療したマウスに対して 実際に感染を誘導し 感染症の罹患率や重篤度において他のマウスと比較して違いがないことを証明する必要性がある さらに 仮にこれらが証明されたとしても 臨床応用へのハードルは依然高いと考えている HSP65 は Toll like receptor 4(TLR4) を介して 炎症を誘導する危険性があるため 4) その用量や投与方法については 臨床応用の時点では問題になると推測される 図 4. 血管内皮抗原特異的免疫抑制療法が動脈硬化を抑制する機序仮説抗 CD20 抗体の投与によりアポトーシスを誘導された B 細胞 (Step1) は 速やかに体内でマクロファージなどに貪食されることで (Step2) マクロファージが大量の TGFβ を産生する (Step3) その結果 炎症細胞が不活性化し (Step4) 制御性 T 細胞の機能が回復する (Step5) 新しく生まれてくる T 細胞は 大量の TGFβ の存在下により 制御性 T 細胞に分化する傾向が強くなるが HSP65 の投与により 抗原提示細胞である体内の樹状細胞から HSP65 の提示も同時にうけるので HSP65 を特異的に認識する制御性 T 細胞が選択的に分化する (Step6-7) 本稿を終えるにあたり 本研究をご支援いただいた上原記念生命科学財団に深く感謝申し上げます 文献 1) Kasagi S, Zhang P, Che L, Abbatiello B, Maruyama T, Nakatsukasa H, Zanvit P, Jin W, Konkel JE, Chen W. In vivo-generated antigen-specific regulatory T cells treat autoimmunity without compromising antibacterial immune response. Sci Transl Med. 2014 Jun 18;6(241):241ra78. doi:10.1126/scitranslmed. 3008895. PMID: 24944193 2) Perruche S, Zhang P, Liu Y, Saas P, Bluestone JA, Chen W. CD3-specific antibody-induced immune tolerance involves transforming growth factor-beta from phagocytes digesting apoptotic T cells. Nat Med. 2008 May;14(5):528-35. doi: 10.1038/nm1749. Epub 2008 Apr 27. PMID: 18438416 5

6 3) Chen W, Jin W, Hardegen N, Lei KJ, Li L, Marinos N, McGrady G, Wahl SM.Conversion of peripheral CD4+CD25- naive T cells to CD4+CD25+ regulatory T cells by TGF-beta induction of transcription factor Foxp3. J Exp Med. 2003 Dec 15;198(12):1875-86. PMID: 14676299 4) Mycobacterial heat shock protein 65 enhances antigen cross-presentation in dendritic cells independent of Toll-like receptor 4 signaling.chen K, Lu J, Wang L, Gan YH.J Leukoc Biol. 2004 Feb;75(2):260-6. Epub 2003 Nov 3. PMID: 14597728