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平成24年7月x日

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第6号-2/8)最前線(大矢)

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アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

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平成24年7月x日


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肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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医薬品タンパク質は 安全性の面からヒト型が常識です ではなぜ 肌につける化粧品用コラーゲンは ヒト型でなくても良いのでしょうか? アレルギーは皮膚から 最近の学説では 皮膚から侵入したアレルゲンが 食物アレルギー アトピー性皮膚炎 喘息 アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状を引き起こすきっかけになる

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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喘息を抑える新しいメカニズムの発見 1. 発表者 : 中江進 ( 東京大学医科学研究所附属システム疾患モデル研究センターシステムズバイオロジー研究分野准教授 ) 2. 発表のポイント : 気管支喘息を抑える新しい免疫応答機構を発見した ( 注 同じマスト細胞 1) でも アレルゲンに結合した免疫グロブリン E (IgE) ( 注 2) によって刺激された場合には気管支喘息を悪化させるが インターロイキン 33(IL- 33) ( 注 3) ( 注で刺激された場合には 制御性 T 細胞 4) を増やして気管支喘息を抑制することを初めて明らかにした ( 図 ) 生体内におけるマスト細胞の機能のうち 制御性 T 細胞の誘導能のみを発揮させる方法を確立することにより 気管支喘息の新たな治療法の開発につながる可能性がある 3. 発表概要 : 東京大学医科学研究所の中江進准教授らは 国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所などとの共同研究によって 気管支喘息を抑える新しい免疫応答機構を発見しました 気管支喘息の治療は ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入による対症療法が現在の主流となっています 薬剤吸入によって気管支喘息を一時的に抑えることができますが 完治はできないため 長期間薬剤の継続投与をする必要性があります そのため 気管支喘息の完治を目指す新たな治療法の開発が望まれています 近年 欧米ではリウマチなどの自己免疫疾患や臓器移植での拒絶応答を抑える新しい治療法として炎症抑制機能を持つ制御性 T 細胞の移植が行われ その有効性が示されています 制御性 T 細胞の移植は気管支喘息などのアレルギー疾患においても有効な治療法として期待されています ただし 血中から取れる制御性 T 細胞は非常にわずかであるのに対し この治療には 大量の制御性 T 細胞が必要となることが難点でした マスト細胞は アレルゲンと結合した IgE 抗体によって刺激されると 気管支喘息を含む様々なアレルギー疾患を悪化させる免疫細胞です 今回の研究成果は マスト細胞は IL-33 という体内分子で活性化されると制御性 T 細胞だけを選択的に増やし その結果 気管支喘息を抑制する作用があることを初めて明らかにしました ( 図 ) このマスト細胞による制御性 T 細胞の新規誘導機構の発見は アレルギーや自己免疫疾患 臓器移植での拒絶応答に対する新たな治療法の開発に寄与することが期待されます 本研究は 国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 厚生労働省免疫アレルギー疾患等予防 治療研究事業 文部科学省科学技術振興調整費若手研究者の自立的研究環境整備促進 日本学術振興会科学研究費補助金若手研究 (A) 日本学術振興会科学研究費補助金若手研究 (B) の一環として行われました

本研究成果は 2015 年 7 月 21 日正午 ( 米国東部時間 ) 米国科学雑誌 Immunity で 公開されます 4. 発表内容 : < 研究の背景 > 現在世界で 3 億人以上いるとされる気管支喘息患者は年々増加の一途を辿っています ステロイドやβ-アドレナリン受容体選択的刺激薬の吸入による対症療法によって 気管支喘息による死亡率は以前より減少しましたが 未だ年間 25 万人もの患者が死亡しています 薬剤吸入によって気管支喘息を一時的に抑えることはできますが 完治はできないため 長期間薬剤の継続投与が必要となっています そのため 気管支喘息の完治を目指す新たな治療法の開発が望まれています 近年 欧米ではリウマチなどの自己免疫疾患や臓器移植での拒絶応答を抑える新しい治療法として炎症抑制機能を持つ制御性 T 細胞の移植が行われ その有効性が示されてきました 制御性 T 細胞の移植は気管支喘息などのアレルギー疾患においても有効な治療法として期待されていますが ヒトの生体内で制御性 T 細胞を選択的に増やすことは難しく 加えて末梢血中の制御性 T 細胞数は少ないため 体外増幅なくして自家移植治療用の充分な細胞量の確保は難しいことが問題でした そのため 有効な体外制御性 T 細胞増幅法が求められています < 研究の内容 > 1. 気管支喘息の抑制における制御性 T 細胞の重要性の再確認気管支喘息を含む多くのアレルギー疾患の発症に関わる原因物質 ( アレルゲン ) は 布団などに生息しているダニ ( ダニの死骸や排泄物など ) と考えられています とくにダニの排泄物に含まれるタンパク質分解酵素がヒトの肺の気道上皮細胞を破壊することが知られ 気管支喘息の発症の一因と考えられています 中江進准教授らは マウスにタンパク質分解酵素を吸入させると 肺胞上皮細胞から IL-33 が放出され この IL-33 が免疫細胞である自然リンパ球や好塩基球を活性化することにより 気管支喘息に似た気道炎症を誘発することを明らかにしました このタンパク質分解酵素によるマウスの気道炎症は制御性 T 細胞を移植することで抑制でき 逆に制御性 T 細胞を除去すると重症化することも明らかにしました 2. マスト細胞には気管支喘息の抑制機能があることを新たに発見 IL-33 はアレルギーの誘発に関わるマスト細胞を活性化します したがって タンパク質分解酵素の投与によるマウスの気道炎症の誘導には 自然リンパ球や好塩基球だけでなく マスト細胞も関わっている可能性が推測されました そのため マスト細胞が存在しないマウスでは タンパク質分解酵素の投与による気道炎症は起こらないと予想されましたが それに反して マスト細胞が存在しないマウスでは タンパク質分解酵素の投与後 制御性 T 細胞が増えないため 気道炎症が重症化することを突き止めました この結果は 従来 マスト細胞は気管支喘息を悪化させると考えられていましたが 逆に 気管支喘息を抑制するような働きも併せ持っていることを初めて明らかにしたものです 3. マスト細胞による制御性 T 細胞の新規誘導機構の解明中江進准教授らは 試験管内でマスト細胞と T 細胞を混合し そこに IL-33 を加えることによって制御性 T 細胞だけを増やすことに成功しました その際 IL-33 がマスト細胞を

刺激し マスト細胞からインターロイキン 2(IL-2) ( 注 5) という分子を誘導することを 明らかにしました このマスト細胞からの IL-2 が マスト細胞と T 細胞の細胞間接着分 子と結合することによって制御性 T 細胞だけを選択的に誘導できることを明らかにしました 4. 新しく樹立した制御性 T 細胞の誘導法によって気管支喘息の抑制に成功中江進准教授らは マスト細胞を利用して体外で誘導した制御性 T 細胞をマウスに移植することにより タンパク質分解酵素の投与による気道炎症が抑制できることを証明しました < 今後の展開 > ( 注マスト細胞は アレルゲンに結合した IgE 抗体の刺激で活性化されると脱顆粒 6) して気管支喘息を悪化させてしまいます 一方 マスト細胞は IL-33 で刺激された場合には脱顆粒はせず 気管支喘息を抑制する制御性 T 細胞を誘導できます ( 図 ) したがって 生体内におけるマスト細胞の機能のうち 制御性 T 細胞の誘導能のみを発揮させる方法を確立することにより 気管支喘息の新たな治療法の開発に結びつくことが期待されます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Immunity 7 月号論文タイトル :An interleukin-33-mast cell-interleukin-2 axis suppresses papain-induced allergic inflammation by promoting regulatory T cell numbers 著者 : Hideaki Morita, Ken Arae, Hirotoshi Unno, Kousuke Miyauchi, Sumika Toyama, Aya Nambu, Keisuke Oboki, Tatsukuni Ohno, Kenichiro Motomura, Akira Matsuda, Sachiko Yamaguchi, Seiko Narushima, Naoki Kajiwara, Motoyasu Iikura, Hajime Suto, Andrew N.J. McKenzie, Takao Takahashi, Hajime Karasuyama, Ko Okumura, Miyuki Azuma, Kazuyo Moro, Cezmi A. Akdis, Stephen J. Gali, Shigeo Koyasu, Masato Kubo, Katsuko Sudo, Hirohisa Saito, Kenji Matsumoto, Susumu Nakae 6. 注意事項 : 日本時間 7 月 22 日 ( 水 ) 午前 1 時 ( 米国東部時間 :7 月 21 日 ( 火 )12 時 ( 正午 )) 以前の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : 東京大学医科学研究所附属システム疾患モデル研究センターシステムズバイオロジー研究分野准教授中江進 ( ナカエススム ) Tel: 03-6409-2111 Fax: 03-6409-2109 e-mail: snakae@ims.u-tokyo.ac.jp

8. 用語解説 : ( 注 1) マスト細胞 外敵から生体を守る免疫細胞の一つ 細胞内にヒスタミンなどのアレルギー症状を誘発する物質を蓄える顆粒を持つ ( 注 2) 免疫グロブリン E(IgE) 外敵 ( 主に寄生虫など ) から生体を守る抗体の一つ ( 注 3) インターロイキン 33(IL-33) インターロイキンは細胞間の情報伝達に関わるサイトカイン ( 免疫細胞などから産生されるタンパク質 ) の一つ インターロイキン-33 は 外界と接触する細胞 ( 気道 消化器 皮膚などの上皮細胞 ) から産生され 寄生虫などの感染防御に重要な役割を持つ ( 注 4) 制御性 T 細胞外敵から生体を守る免疫細胞である T 細胞のうち 免疫応答を抑制する作用を持つ T 細胞 ( 注 5) インターロイキン 2(IL-2) 制御性 T 細胞の増殖を誘導するサイトカイン ( 注 6) 脱顆粒マスト細胞が アレルゲンに結合した IgE 抗体の刺激によって 顆粒内の物質 ( ヒスタミンなど ) を放出すること

9. 添付資料 : 図喘息を抑制する新しい免疫機構左 : マスト細胞は アレルゲンに結合した IgE 抗体の刺激によって脱顆粒をし ヒスタミンなどの物質を放出して 様々な免疫細胞を活性化し 炎症を起こすことで喘息などのアレルギー疾患を悪化させる 右 : マスト細胞は IL-33 の刺激によって IL-2 を産生する IL-2 は免疫応答を抑制する制御性 T 細胞を増やし この制御性 T 細胞が喘息などのアレルギー疾患を抑制する