2 異常時の対処方に関する研究 鉄道版CRM(R-CRM)の構築に向けて

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2 異常時の対処方に関する研究 鉄道版 CRM(R-CRM) の構築に向けて 守屋祥明岸野稔和田一成阿部啓二石橋明 1 目的異常時に遭遇すると冷静さを失って適切な取扱いを行うことができず かえってトラブルを拡大させてしまうことがあります 本研究では ヒューマンファクターの観点から 運転士や車掌 指令員等がチームワークを発揮するなどして異常時にも適切に対処する方法を確立 提言することを目的としています 2 内容平成 21 年度の研究において 航空業界における CRM(Crew Resource Management) 訓練を応用することにより 不安や疑問を感じても声に出すことができない などの列車運行に関わるヒューマンファクター上の課題を克服できる可能性が示唆されました これを踏まえ 平成 22 年度は教育プログラムの検討 訓練用教材の作製など 鉄道版 CRM (R-CRM) 訓練の開発に着手し 運転士 車掌 指令員にトライアル版の訓練 ( 以下 トライアル という ) を受講してもらいました (1)R-CRM 訓練における着眼点航空業界で実施されている CRM 訓練のノウハウ ( 下記 1~3) を採り入れるとともに 鉄道業務の特性も踏まえて 新たな着眼点 ( 下記 4) を付加しました 1 座学 + 演習で 教える のではなく 気づかせる あるべき行動パターンについて 受講者の自発的な気づきを促すよう グループワーク ディスカッション ビデオ視聴等の教育技法を導入しました 2 教官 ではなく ファシリテータ 講師が 一方的に教育を行う 教官 ではなく 双方向の理解を重視し司会進行役兼ムードメーカーに徹する ファシリテータ の役割を果たすことで 受講者が発言しやすい環境を作ることに配慮しました 3 知悉度 より 考え方の理解 を重視知識の詰め込みではなく R-CRM スキル及びその重点項目である R-CRM 考動目 18 あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~

標 ( 以下 合わせて R-CRM スキル という )( 表 1) を理解するまでのプロセスや 知識をきちんと運用することに主眼を置きました 4 複数職種の参加による チーム意識の向上鉄道業務が多くの職種により支えられている点を踏まえ 今回のトライアルでは 運輸系統の運転士 車掌 指令員計 71 名の協力を得ました グループワークやディスカッションは 3 職種の社員で1つのグループを構成して行いました 表 1 R-CRM スキル R-CRM スキル重点項目 (R-CRM 考動目標 ) 状況認識 意思決定 コミュニケーション チームワーク 1 いつもと違う状況 がないか確認し 心構えを作る 2 意識レベルの変化に気づき 対処する 3 リソース 1 を活用する 4 他人の間違いを見つけたときは 相手に伝える 5 自信がないときは確認する 6 おかしい 変だな と感じたときは 相手に伝える 7 権威の低い側にいるときはアサーション 2 を活用する 8 権威の高い側にいるときは 意見を言いやすい雰囲気を作る 9 チームで対処する意識を持つ 10 自分が得た情報は関係者間で共有する 11 相互にサポートする 1: 状況を正しく把握するための様々な情報源 関係者の知識 マニュアル 無線情報 時刻表 ダイヤ 機器類の表示など 2: 安全に関する自分の考え 情報 疑問などを相手が受け入れやすいように述べること (2) 教育プログラムの構成と進め方航空業界における CRM 訓練のノウハウを参考として 以下の3つの過程を構成しました ( 図 1) 1 集合研修 R-CRM 訓練の初期教育として 1 日の研修を実施しました 座学により R-CRM スキルを理解させ その後の演習により あるべき行動パターンについて受講者に自発的な 気づき を促しました 研修にあたり カリキュラムを検討するとともに各種教材を作製しました あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~ 19

理解 気づきスキルの実践検証 1 集合研修 (1 日 ) 2 実践期間日々の実践 振返り (3~4 ヶ月 ) 3 トレース (1 日 ) 受講者 ( 協力者 ) CRMの基礎知識の理解 あるべき行動パターンへの気づき 安全研究所 業務での CRM スキル活用 R-CRM シートによる振返り 職場訪問を実施 集約して分析 効果検証 フィードバック 図 1 トライアルの全体イメージ 受講者からの評価 取り組んだ感想 実践上の課題等 効果のトレースブラッシュアップ 1 1 ア集合研修カリキュラム ( 表 2) まず ヒューマンファクター講義 では CRM の基礎的な考え方について説明し 核心となる 各 R-CRM スキル講義 では 解決するべき課題への気づきを促す構成としました さらに ビデオ & グループディスカッション では R-CRM スキルを用いた総合的な演習を行い 実践期間において具体的に取り組むべき事柄を印象付けました 表 2 集合研修カリキュラム ( 主なものを抜粋 ) カリキュラムと概要 1 ヒューマンファクター講義 自分を取り巻く様々な要因についての理解 エラーを起こしやすい状況についての理解 使用教材 冊子教材 2 各 R-CRM スキル講義 状況認識 意思決定 コミュニケーション チームワーク [ 講義の流れ ] 1 解決するべき課題の提示 2 課題を放置したことで重大なエラーに発展した事例の紹介 3 課題解決に向けた R-CRM スキルの詳細な説明 4 事例分析 グループディスカッション 発表 5 まとめ ( 再度 課題解決に向けた R-CRM スキルを詳細に説明 ) 3 ビデオ & グループディスカッション 2で習得したスキルの観点から 事例の改善点に気づくこと 改善点のディスカッション 発表 冊子教材 冊子 ビデオ教材 20 あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~

イ冊子教材アのカリキュラムに沿って 説明用パワーポイントの主要な部分を冊子教材として編集しました 列車運行の安全確保のため 安全を脅かす要因に 気づく ( 状況認識 意思決定 ) 個々の 気づき を正しく伝達しあう ( コミュニケーション ) 個々の 気づき を共有し補いあう ( チームワーク ) の3つの主題を掲げました ウビデオ教材登場人物 ( 運転士 車掌 指令員 ) がそれぞれ R-CRM スキルを発揮しなかったために重大なエラーに発展する内容のビデオを作製し 総合的な演習に用いました 2 日々の実践 振り返り R-CRM スキルへの日常的な接触による意識高揚 教育効果の持続 エラー誘発要因に対する感度向上を目的として R-CRM シート ( 図 2) を作成しました 3~4 ヶ月の実践期間において 1 勤務ごとに自身の取り組みをセルフチェックし 本シートに記入後 提出してもらうよう受講者に依頼しました また 当期間中には受講者の職場をそれぞれ2 回ずつ訪問し 疑問や不安を解消するなどのフォローを図りました 3 トレース受講者の R-CRM スキルに対する意識や実践期間における取り組み方の確認及びトライアルの内容や方法に関する課題の把握を目的として トレース (1 日 ) を実施しました 受講者同士の意見交換を通じて トライアルに対する多角的な評価を依頼し R-CRM 訓練のブラッシュアップにつなげることとしました 3 結果と考察 R-CRM スキルに対する意識の変化を確認するため 集合研修直前 直後 実践期間終了後 ( 図 1) の3 回に渡ってアンケートを実施しました R-CRM スキルに即した考え方や行動を問う質問を 11 項目設定し それぞれについて どの程度そう思うか を7 段階で回答してもらい 得点化しました ( 図 3) 得点の推移を見ると 集合研修直後に有意な差をもって上昇し 多くの項目で実践期間終了後まで維持されています 得点の上昇については 集合研修に用いたカリキュラムや教材に一定の教育効果があったものと考えられます また 得点の維持については 実践期間中の R-CRM シートによる振り返りや定期的な職場訪問が影響したものと考えられます これについては 受講者からも振り返りの重 あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~ 21

要性を支持する声が多数得られ 日常業務における振り返りの継続や定期的なフォローの重要性がうかがえる結果となりました ただし 集合研修直後と実践期間終了後とを比較して得点の推移を細かく見ると 質問項目によって特徴に違いが見受けられました 状況認識 意思決定 及び チームワーク に関連する項目では おおむね高得点を維持できていました これは 日常業務において 運行に支障をきたす可能性のあるもの への事前の対処やリソースの活用 さらには情報の共有化 関係者のサポートなどのチームで対処することの重要性を受講者が再認識した結果と考えられます 一方 コミュニケーション に関連する項目では 高得点を維持できている項目があるものの 数値自体は5 項目すべてにおいて下降しました この結果について受講者に聞き取りを行ったところ 行動へのためらいや周囲の理解不足など 自身と環境の双方の要因から いざ やろうとしたができなかった との意見が多く挙げられました 4 まとめ平成 21 年度の研究において 鉄道版 CRM 訓練を開発 導入することの有効性が示唆されたことを受け 鉄道に適合化させた CRM 訓練の開発に着手し トライアルを実施しました この中で行った R-CRM スキルに即した考え方や行動についての受講者の意識を問うアンケートでは 多くの項目で高得点の維持と 受講後のフォローの必要性の支持という2つの結果が得られました 今後は R-CRM シートの詳細な分析を行うとともに トレースで出された受講者からの意見や提言を整理して全体のブラッシュアップを行い より効果的な R-CRM 訓練の構築を目指して取り組みます なお 本研究を進めるにあたり多くのみなさまから多大なご協力 ご支援をいただきましたことに 心より感謝いたします 22 あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~

図 2 R-CRM シート あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~ 23

集合研修直前 ~ 直後 ~ 実践期間終了後の意識の変化 7.00 得点 ( とてもそう思う ) * * * * * * 集合研修前集合研修後実践期間終了後 * * * * * * * 6.00 5.00 4.00 ( どちらでもない ) 状況 11 状況 2 2 状況 3 3 コミュ 4 1 コミュ 5 2 コミュ 6 3 コミュ 7 4 コミュ 8 5 チーム 9 1 チーム 10 2 チーム 11 3 状況認識 意思決定コミュニケーションチームワーク n=65 *:p<0.05 図 3 意識アンケート ( 仕事を行うときの意識について ) 結果 ( 得点が高いほど そう思う 1 点 ~7 点の 7 段階 ) 質問項目 (R-CRM スキルに即した考え方 行動 ) 番号質問項目 R-CRM スキル 運行に支障を来たす可能性のあるもの ( 天候 遅れ情報など ) は 乗務前 ( 着座前 ) に 1 確認しようと思う 2 眠気や焦り あわてなどの意識の変化に気をつけておくのはとても重要だと思う異常時や不安な作業に直面したら 手元のマニュアルや関係者の知識などを十分に 3 活用しようと思う 状況認識 意思決定 4 他人の間違いなどを見つけたときには 安全のために必ず伝えようと思う 5 自信がないことは必ず誰かに確認しようと思う 6 何か おかしい 変だ と感じたら 必ず相手に言おうと思う相手よりも強い立場にいるときは 意見を言いやすいような雰囲気になるよう気を 7 配ろうと思う コミュニケーション 8 相手のミスなどを伝えるときには その人の受け入れやすい言い方で伝えようと思う 自分が見たり聞いたりしことは 周りの関係者に伝えて全員が同じ情報を持って作業 9 するべきである 10 職種の違う人やあまり知らない人でも 助けの必要な関係者はサポートしようと思う チームワーク 11 職種にこだわらずチームで行動することが大切だと思う 24 あんけん Vol.4(2011)~ 研究成果レポート ~