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2. 航空機産業 (1) 航空機産業概観 航空機産業は市場規模の増大が予想される成長産業 航空機産業において米国は圧倒的な存在感を誇る 完成機メーカーを頂点とするピラミッド構造 世界の航空機市場は主要 4 社が寡占 日系メーカーは主に Boeing の Tier1 メーカー アジアをはじめ世界の航空

第 Ⅲ 章 需要予測 Ⅲ-1

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目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

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さらに 増産傾向にある中で 国内大手企業 ( 発注側 ) も Make-Buy 戦略を立てながらサプライチェーン全体での生産管理 品質保証が必要になっているところ 受注側企業での生産管理 品質保証能力を持つ人材の確保 育成をどうやって行うかが課題である 生産技術管理や サプライチェーンも含む生産管理

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2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

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けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

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1. 世界における日 経済 人口 (216 年 ) GDP(216 年 ) 貿易 ( 輸出 + 輸入 )(216 年 ) +=8.6% +=28.4% +=36.8% 1.7% 6.9% 6.6% 4.% 68.6% 中国 18.5% 米国 4.3% 32.1% 中国 14.9% 米国 24.7%

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1 監督 検査の意義監督 検査は 会計法 に基づき 契約の適正な履行を確保するための手段です 監督は 通常 製造又は役務の請負契約の履行過程において 必要な立会 工程管理 材料 部品等の審査又は試験 細部設計書の審査 承認等の方法により 検査では確認できない部分について 契約物品に対する要求事項が確

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5 航空産業ビジョンは こうした認識の下に 政府として航空産業の将来像を共有しつつ 複数の関係省庁に跨がる課題について 統一的な方針をもって政府が一丸となり取り組むために取りまとめるものである 2. 現状と課題 (1) 我が国航空機産業の現状 1 我が国の航空機産業は 自衛隊が運用する外国から輸入さ

Ⅱ 用語等の説明 今期の状況 来期の状況 前年同期 ( 平成 29 年 4~6 月期 ) と比べた今期 ( 平成 30 年 4~6 月期 ) の状況 前年同期 ( 平成 29 年 7~9 月期 ) と比べた来期 ( 平成 30 年 7~9 月期 ) の状況 前期平成 30 年 1~3 月期 来期平成

急務となっている そのため 周辺企業に金融機関を加えた生産能力増強 技術力向上を目的とした大学との連 携など 外部の人材とともに知識を最大限に活用しながら課題解決に貢献する開かれたネット ワーク体制を構築し 国内航空機産業を強化する必要がある 産 ( 民間事業者 ) 学 ( 大学等 ) 官 ( 公設

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現代資本主義論

Ⅱ 用語等の説明 今期の状況 来期の状況 前年同期 ( 平成 28 年 4~6 月期 ) と比べた今期 ( 平成 29 年 4~6 月期 ) の状況 前年同期 ( 平成 28 年 7~9 月期 ) と比べた来期 ( 平成 29 年 7~9 月期 ) の状況 前期平成 29 年 1~3 月期 来期平成

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第 Ⅰ 章航空機産業の概観と特徴 1. 日本の航空機市場の概観と特徴 p.9 2. 日本の航空機市場の成長性 p13 3. 設備投資動向及び経済波及効果 p サプライチェーン p 主要な航空機 / エンジン製造会社ランキング p ビジネスモデル p 認

第9章 タイの二輪車産業-好調な国内市場と中国の影響-

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Transcription:

産業レポート vol.14 航空機産業の発展に向けて ( 要旨 ) ~ 素材技術と加工技術の複合発展 ~ 平成 22 年 8 月 株式会社日本政策投資銀行 Development Bank of Japan Inc 100-0004 東京都千代田区大手町 1-9-1 Tel. (03)3244-1680 企業金融第 1 部インターネットアドレス http://www.dbj.jp

目次 はじめに本稿の目的要旨 第一章航空機産業の概観及び特徴 1. 航空機産業の概観 2. 航空機産業の特徴 第二章機体構造 1. 国内メーカーのシェア推移 2. 技術進歩 3. アルミニウム合金業界 4. 炭素繊維業界 5. 今後注目される素材 第三章エンジン 1. 国内メーカーのシェア 2.RSP 契約とビジネスモデル 3. 使用される素材 第四章装備品 1. 装備品の全体像と参入各社一覧 2. システム 計器 3. 降着システム 室内装備品 4. 装備品業界の問題点 5. 装備品組合構想 第五章航空機産業の課題と解決の方向性 1. 問題点の再考 2. 解決策の方向性 ( 参考 : 企業紹介 )

はじめに 2009 年 12 月 多くの国内メーカーが携わった Boeing787 がテストフライトに成功し 国内では国産旅客機 MRJ の事業化が本格化している 航空機産業については ( 社 ) 日本航空宇宙工業会をはじめとして様々な角度から分析され 国内製造業にとって自動車 電機に次ぐ次世代産業の柱として育てようという気運がある しかしながら 現在航空機業界において欧米企業に比して日本企業のプレゼンス 加えて国内産業の中での航空機産業の存在感は小さい 欧米に比べ 防衛需要が少ないというハンデを負っているものの 日本の航空機産業は米国の 1 割にも満たない産業規模であり 国内機械工業の中でも航空機産業は 1% 程度である このままでは今後世界的な人口増に伴い航空機需要が増大してゆく中で 航空機産業が成長していく過程における利益を享受できない虞がある 一方で しばしば航空機産業は 先端技術を集めた 産業として紹介され ものづくり技術が高い日本企業は世界で勝ち抜ける可能性があるようにも言われる 輸送用機器セグメントで他業界を見れば 二輪 自動車 造船業界で日本は世界市場で大きなシェアを保持し また近年新幹線の技術も評価され輸出が始まりつつある 航空機産業も 上記業種と同じく最先端の技術と品質の高さで世界市場におけるプレゼンスを示すことができるのではないだろうか 本稿では 上記のように航空機産業が他ものづくり産業のように 世界市場でシェアを拡大する可能性があるのか もしそうであれば国内航空機産業を育成するためにはどのような分野に どのような支援が必要であろうか という疑問を可能な限り考察することを目的としている 航空機産業について分析したレポートは多数あるものの 本稿の特徴は1 航空機部品の品質は素材によって大きく影響される という仮定を置き 素材産業についてもサーベイしたこと 2 航空機産業特有の巨額の投資や長期の投資回収に対し プライムメーカーとサプライヤーのリスク負担についてサーベイしたこと 3 装備品産業を含め 国内企業の強いセグメント 弱いセグメントを可能な限り分類していること の3 点である また 当行の取引先や ( 社 ) 日本航空宇宙工業会等業界団体や メーカー各社へのヒアリングを積極的に行い 公表情報には出てこない生の情報を頂いた 日々の業務に多忙の中 ヒアリングに対応していただいた方々にはこの場を借りて感謝の意を表したい 尚 ヒアリングや各種統計 資料を総合して作成したものの 航空機産業全体について把握するには情報の制約があり 専門家から見れば事実と異なる等ご指摘があるかと思われる ご指摘を踏まえながら 今後も航空機産業全体をより正しく把握できるよう努力したい 平成 22 年 8 月株式会社日本政策投資銀行企業金融第 1 部文責 : 渡辺拓也 ( 現企業投資グループ所属 ) 連絡先 :tawatan@dbj.jp

本稿の目的 プライムメーカー Tier1 サプライヤー Tier2 サプライヤー 全体の概観 強いセグメント / 弱いセグメントの分類 課題の洗い出し ファイナンス等による課題解決への提言 サプライヤー 本稿では 航空機を製造するのに関わる産業 各企業に焦点を当て 1 全体の規模感及び特徴を概観し ( 第一章 ) 2 日本企業の得意なセグメントや課題のあるセグメントの洗い出しを行い ( 第二 三 四章 ) 3 課題のあるセグメントにおける問題の把握 解決策を考察すること ( 第五章 ) に主眼をおく

要旨第一章航空機産業の概観及び特徴国内航空機産業は約 1 兆 1,000 億円規模であり 半分の約 6,000 億円が民間航空機産業である これは米国の約 7% 国内機械工業の中でも1% 程度である 日本からの輸出額は全体で 5,000 億円程度であり 機体部品約 2,500 億円 エンジン関連約 2,200 億円 装備品約 300 億円と装備品の割合が極めて低い 航空機産業の特徴として 巨額の初期投資 ( 研究開発費 ) が必要であり MRO 1 ビジネスを含め 長期間で回収することとなることからリスクが高いビジネスとされており 航空機機体メーカーやエンジンメーカーはリスクをサプライヤーに分担させるよう 契約を工夫している また 高度な安全性が求められるため 設計認証や製造認証については FAA 2 を中心に厳しい認証があると同時に プライムメーカー各社によるサプライヤーに対しての認証試験が各種存在する 国内企業と海外企業を比べれば国内企業は全体として規模の小さな企業が多く 各社航空機ビジネスは事業部の一部門に過ぎないことが多い一方で 海外企業は M&A を繰り返し 規模の拡大を進めていることも特徴である 国内メーカーにとって 初期投資の資金負担を負う事ができず技術レベルに比して仕事 ( 担当部位シェア ) が取れないことがある という問題がある 航空機製造に関連する産業をイメージ図にし まとめたものが下記である 機体メーカー :MHI KHI 等日本シェア :B787 では 35% 等海外メーカー :Boeing 社や AIRBUS 社 素材 (CFRP 等 ) メーカー : 東レ 三菱レイヨン等日本シェア :60% 程度海外メーカー :Hexcel 社等 エンジンメーカー :IHI MHI KHI 等日本シェア :GEnx では 15% 等海外メーカー :GE 社 RR 社等 素材 (Ti Ni) メーカー : 神鋼 大同特殊鋼等日本シェア : シェアは低い海外メーカー :PCC 社 Howmet 社等 装備品 (1) システム関係メーカー : ナブテスコ シンフォニアテクノロシ ー他海外メーカー :Hamilton Sundstrand 社 Honeywell 社等 国内メーカーは主に国内防需向けであり民間航空機市場ではプレゼンスが低い (2) 室内設備 脚等メーカー : ジャムコ 小糸工業 住友精密工業等海外メーカー :Goodrich 社等 室内装備品及び脚周りについては一定程度のシェアを確保 川下 川上 約 15%~20% 約 15%~20% 約 60%~70% ( 製造費中の割合 ) 1 Maintenance Repair Overhaul 2 米国連邦航空局

以下 第二章から第四章で各分野における日本企業の状況を説明する 第二章機体構造機体構造分野において MHI KHI FHI 等重工各社を筆頭に 国内メーカーの担当範囲はプログラム毎に拡大しており B787 では Boeing 社と同じ 35% の割合を担当している これは東レをはじめとする国内 CFRP 3 メーカーの素材技術の発展に伴った重工各社の加工技術の進化が要因と考えられる 尚 東レは Boeing 4 へ CFRP の独占供給を行っており 次世代素材である CFRP 業界ではこれ以上シェアを拡大できないと思われる程 国内メーカーは世界で最先端の技術とプレゼンスを保持している 第三章エンジンエンジンは GE 社や RR 社 PW 社と日本では IHI MHI KHI 社が共同開発を続けており B787 用エンジンである GEnx-1Bエンジンでは IHIを中心として日本メーカーが 15% のプログラムシェアを確保している その他 IHI や MHI KHI 等が単独で GE や RR の RSP 5 としてプログラムに入っているものや IAE のように国際的な共同開発を行っているプログラムもあり 技術力を背景に国内重工メーカーは相応のプレゼンスを確保している 一方 素材について述べれば 超高速で回転し 剛性 耐熱 耐食性が求められ かつ軽量化が求められるエンジン部品は エンジン性能に対して素材の品質が重要となっている 主に使用されるチタン及びニッケル合金における国内素材メーカーのプレゼンスについて チタンについては相当程度シェアがあるものの ニッケル合金については比較的劣位に甘んじている 更に 大型の鍛造品を成形する大型プレスが国内に存在しないことから 大型で高付加価値な鍛造製品は海外メーカーに寡占されているという問題がある 第四章装備品 1. システム 計器システムについては Hamilton Sundstrand 社 (UTC) や Honeywell 社 Goodrich 社等欧米メーカーが強く 国内メーカーは劣勢である 欧米メーカーは M&A を重ね 巨大化し プライムからシステムの一括受発注を行うことで 担当シェアや領域を増やしてきている 国内メーカーはシンフォニアテクノロジー等が航空機のシステムを行っているが主に防需向けであり 民間航空機のシステムを受託できる企業は少ない 6 3 Carbon Fiber Reinforced Plastic ( 炭素繊維複合材 ) 4 2010 年 5 月 10 日に AIRBUS とも炭素繊維プリプレグに関する長期供給基本契約を締結 5 Risk Sharing Partner( 後述 p12) 6 一方 Hamilton Sundstrand 等と共同研究を行ったり サプライヤーとして供給している事例はナブテスコをはじめとして多い

2. 降着システム 室内装備品シートやギャレー ラバトリー等の室内装備品においては国内の小糸工業 ジャムコが相応のシェア 7 を持ち国内企業が世界に通用する分野である 降着システムについては 住友精密工業が大 中型機に Tier2 として納入しているのに加え リージョナルジェット及びビジネスジェットには Tier1 として納入している 欧米メーカーでは Messier Dowty Goodrich が二強であり 大 中型機はこの2 社で競合している状況である 第五章航空機産業の課題と解決の方向性第一章から第四章で見てきたように 航空機産業には大きく以下の3つの問題がある (1) 国内メーカーは欧米企業に比して規模が小さいことが多く ( 若しくは企業の一部門に過ぎないことが多く ) 初期の研究開発資金負担が受注の足かせになることが多い (2) エンジン製造技術の向上やコスト競争力強化には素材からの国内一貫生産が望まれるが 大型プレスがない以上プライムの素材指定の問題もあり 日本では一貫生産ができない部品が多い 国内に大型の鋳鍛造工程を持たぬ故に 付加価値の面で不利な立場を余儀なくされている (3) 機体構造やエンジンについては政府の補助政策が存在するが 最も国際的シェアが低く 且つ付加価値の高いと思われるシステム分野に政府補助政策が行き届いていない 上記の問題点に対して (1) 研究開発費資金負担の共有 分散化研究開発負担が重い企業に対しては 研究開発費負担を他の企業が共有し 分散化を図る策が考えられる (2) 国内で大型プレスの導入先行する海外に比べ初期投資負担の重さ 需要予測やプレスの稼働率 損益分岐予測等の課題はあるものの サプライチェーン上で恩恵を受けるメーカー各社のリスク負担で大型プレスを導入することが考えられる (3) 装備品組合構想の再始動 ( 社 ) 日本航空宇宙工業会において装備品組合の構想が議論されていたが システム関係への政府支援等を含めて 装備品関係企業がいかに協力し どのように進出するか議論を再開することが望ましいと考えられる 以上 7 例えばジャムコのギャレーは Boeing 機のほぼ全て AIRBUS 機の A300/310/380 に採用されている