親しい他者との間の自己 他者評価の関係性およびそれらの評価が社会的適応に及ぼす影響 小林知博 ( 神戸女学院大学人間科学部 ) 本研究は 日本人における 親しい他者との間の自己 他者評価の様相を明らかにすること また それらの自己 他者評価が本人の社会的適応に及ぼす影響を検討することを目的として行わ

Similar documents
2 251 Barrera, 1986; Barrera, e.g., Gottlieb, 1985 Wethington & Kessler 1986 r Cohen & Wills,

スポーツ教育学研究(2013. Vol.33, No1, pp.1-13)

e.g., Mahoney, Vandell, Simpkins, & Zarrett, Bohnert, Fredricks, & Randall2010 breadth intensitydurationengagement e.g., Mahone

<4D F736F F F696E74202D B835E89F090CD89898F4B81408F6489F18B4195AA90CD A E707074>

【問 題】

THE JAPANESE JOURNAL OF PERSONALITY 2007, Vol. 15 No. 2, 217–227

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

Japanese Journal of Applied Psychology

The Japanese Journal of Experimental Social Psychology. 2003, Vol. 42, No.2,

研究報告用MS-Wordテンプレートファイル

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

PowerPoint プレゼンテーション

Japanese Journal of Applied Psychology

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol 12, No 1, pp 49 59, 2008 資料 看護師におけるメンタリングとキャリア結果の関連 Relationship between M

(’Ó)”R

.A...ren

ブックfor04_3.indb

Microsoft Word - 210J4061.docx


Jpn. J. Personality 18(2): (2009)

05_藤田先生_責

人文論究54―2(よこ)/2.一言

Weiner, Graham & Chandler, 1982 Weiner, Graham, Stern, & Lawson, 1982 Blaine, Crocker, & Major, ;

パーソナリティ研究2006 第14巻 第2号 214–226

11号02/百々瀬.indd

56 56 The Development of Preschool Children s Views About Conflict Resolution With Peers : Diversity of changes from five-year-olds to six-year-olds Y

07-内田 fm

横浜市立大学論叢人文科学系列 2018 年度 :Vol.70 No.1 幼児における罪悪感表出の理解の発達 謝罪の種類は排除判断に影響するのか? 長谷川真里 問題と目的罪悪感や誇りなどの道徳感情 (moral emotion) は 人々が道徳的に行動し 道徳的逸脱行動を避けるよう動機づけるものである

Title ポジティブ側面への積極的注目に関する研究 : ポジティブ志向, 主観的幸福感, ネガティブ認知, 他者軽視との関連 ( fulltext ) Author(s) 高橋, 誠 ; 森本, 哲介 Citation 学校教育学研究論集 (26): Issue Date


_Y13™n‹ä

療養病床に勤務する看護職の職務関与の構造分析

(2004) (2002) (2004) ( 1990,Smith,Standinger, & Baltes,1994,Carstensen, et al., 2000) (1990) (2006)

Web Stamps 96 KJ Stamps Web Vol 8, No 1, 2004

発達研究第 25 巻 問題と目的 一般に, 授業の中でよく手を挙げるなどの授業に積極的に参加している児童は授業への動機づけが高いと考えられている ( 江村 大久保,2011) したがって, 教師は授業に積極的に参加している児童の行動を児童の関心 意欲の現われと考えるのである 授業場面における児童の積

親からの住宅援助と親子の居住関係-JGSS-2006 データによる検討-

先端社会研究所紀要 第12号☆/1.巻頭言

Japanese Journal of Applied Psychology

Juntendo Medical Journal

04-p45-67cs5.indd


2 DV 3. セックス ワーク論, 2005, 職業スティグマ Goffman 1963 Dirty WorkHugher, 1951; 1958; 1962 Dirty Work Ashforth & Kreiner 1999 Dirty Work prestige 3 dimen

The Japanese Journal of Experimental Social Psychology. 2017, Vol. 56, No. 2, DOI: /jjesp.si3-7 原著 受稿日 :2015 年 12 月 31 日受理日 :2016 年 11

Newgarten, BL., Havighrst, RJ., & Tobin, S.Life Satisfaction Index-A LSIDiener. E.,Emmons,R.A.,Larsen,R.J.,&Griffin,S. The Satisfaction With Life Scal

<4D F736F F D F4B875488C097A790E690B C78AAE90AC838C837C815B FC92E889FC92E894C5>


わが国における女性管理職研究の展望 Research on Women in Management Positions in Japan Kieko HORII 5 Abstract Japanese society is struggling with a low percentage of wo

名古屋文理大学紀要高校生の時間的展望と自己評価の関連第 11 号 (2011) - 全体的自己価値, 具体的側面の自己評価, 具体的側面の重要度の観点から - 高校生の時間的展望と自己評価の関連 - 全体的自己価値, 具体的側面の自己評価, 具体的側面の重要度の観点から - The Relation

早期教育の効果に関する調査(II)-親子の意識と学習状況の分析を中心に-

kenkyujo_kiyo_09.ren

, 2001, 1, Japanese Journal of Interpersonal and Social Psychology, 2001, No. 1, ) Aron, Dutton, Aron, & Iverson Sprecher

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

〈論文〉高校生の学校適応と社会的スキルおよびソーシャルサポートとの関連--不登校生徒との比較

日本人英語学習者の動機付け―JGSS-2003のデータ分析を通して―


<4D F736F F D2094AD92428CA48B CB B4C92C789C1816A462E646F63>

教育社会学会(180903d)


ユーモア・センスやユーモアの分類に関する研究は、古くから現在まで長く行われてきており、最近の研究では、Martin et al

( 別刷 ) 中年期女性のジェネラティヴィティと達成動機 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

The Japanese Journal of Psychology 1990, Vol. 61, No. 3, The effects of a recipient's openness and conveyance to a third party of the self-dis

untitled

Title Author(s) 高校生における加害者の謝罪行動が許しに与える影響 : 加害者 被害者の立場の差異と親密性の観点から 早川, 貴子 ; 荻野, 美佐子 Citation 対人社会心理学研究. 10 P.187-P.196 Issue Date 2010 Text Version pub

02総福研-06_辻.indd

1) (1) (2) (3) (4) (5) ( 1984) Tesser(1969) Stalling(1970)McLaughlin(1970) Palmer & Byrne(1970) Seyfried & Hendrick(1973) ( 1997) Byrne (e.

Microsoft Word - 12_田中知恵.doc

132 Camerer (2003) Chen, Lakshminarayanan and Santos (2006) fmri ventral stiatum Fliessbach K., Weber B., Trautner P., Dohmen T., Sunde U., Elger C. E


Title 会話中における話者の自己呈示スタイルの相互関連性 Author(s) 笠置, 遊 ; 外山, みどり ; 大坊, 郁夫 Citation 対人社会心理学研究. 8 P.59-P.64 Issue Date 2008 Text Version publisher URL

e.g ; Ryan & Deci, ; 2009 indecisive Bacanli, 2006 Bacanli, 2006 ; Cooper, Fuqua, & Hartman, 1984 Gordo

(Microsoft Word \227F\210\344\226\203\227R\216q\227v\216|9\214\216\221\262.doc)

研究論集Vol.16-No.2.indb

The Japanese Journal of Psychology 1984, Vol. 55, No. 3, Effects of self-disclosure on interpersonal attraction Masahiko Nakamura (Department

CMCの社会的ネットワークを介した社会的スキルと孤独感との関連性

The Japanese Journal of Health Psychology, 29(S): (2017)

’V‰K2.ren


03楠奥.indd

若者の親子・友人関係とアイデンティティ

The Japanese Journal of Psychology 1991, Vol. 62, No. 3, A study on the reliability and validity of a scale to measure shyness as a trait Atsu

Perspective-Taking Perspective-Taking.... Vol. No.

Microsoft Word - 209J4009.doc

No.3 14

Jpn. J. Personality 19(2): (2010)

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx


+深見将志.indd

IPSJ SIG Technical Report Vol.2014-CE-123 No /2/8 Bebras 1,a) Bebras,,, Evaluation and Possibility of the Questions for Bebras Contest Abs

大谷教育福祉研究 39号☆/1.熊野


論文 大学生ボランティア介助者における障害の透明化 宮前良平大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程 要旨本研究は 共生社会の実現に向けての課題のひとつとして障害者問題を取り上げた 障害者が地域社会で自立生活を行うことが求められるようになってきたが その際に不可欠なのが介助者である 介助者は障害者と

J53-01

評論・社会科学 85号(よこ)(P)/3.佐分

Japanese Journal of Applied Psychology

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

20 Japanese Journal of Educational Psychology, 1989, 37, 20 \28 THE WILLINGNESS OF SELF-DISCLOSURE AND THE DEVIATION FROM NORMATIVE SELF-DISCLOSURE IN

た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

Counterfactual Thinking in Simulated Situations: Failing a job-interview Kaori MASAMOTO Counterfactual thinking: This study investigates counterfactua


230/個人研究/金山.indd

Transcription:

親しい他者との間の自己 他者評価の関係性およびそれらの評価が社会的適応に及ぼす影響 小林知博 ( 神戸女学院大学人間科学部 ) 本研究は 日本人における 親しい他者との間の自己 他者評価の様相を明らかにすること また それらの自己 他者評価が本人の社会的適応に及ぼす影響を検討することを目的として行われた 大学生 296 人 親しい友人 241 人 大学生の親 142 人を対象としたパネル調査の結果 (1) 大学生も友人も親も 互いに自己評価よりも親しい他者への評価の方をポジティブに認知していること ( 親密他者高揚 ) (2) 本人の社会的適応に影響を及ぼすのは 大学生本人の親しい他者 ( 友人 親 ) への評価ではなく 親しい他者から本人への評価のポジティブさ また大学生本人の自己評価の高さであることが明らかになった キーワード : 自己評価 親 友人からの評価 親密他者高揚 社会的適応 関係性評価 問題日本人の自己評価傾向 日本人を対象とした自己 他者評価に関する先行研究においては 日本人は北米人と比較して 自己を他者に比べてネガティブ視していることが指摘されている (Heine & Lehman, 1999; Heine, Lehman, Markus, & Kitayama, 1999) しかし 日本人は自己をポジティブ視 ( 自己高揚 ) せず ネガティブ視 ( 自己卑下 ) を行うのが常態であると主張する研究者もいれば (Heine, et al., 1999; Heine & Hamamura, 2007) 日本人は拡張的自己となる親しい他者を含めて自己高揚を行っている点を指摘した研究や (Brown & Kobayashi, 2003) 自己高揚は文化を問わず普遍的であると主張する研究者もおり (Sedikides, Gaertner, & Vevea, 2007; Sedikides & Gregg, 2008) 今なお議論は収束していない 近年 本邦において 日本人の自己高揚的傾向における対人関係の重要性を指摘した研究が増加している 例えば 友人や配偶者など親しい他者を 自己に比べてポジティブ視するといういわば 親密他者高揚 とも言うべき評価のパターンは 日本人を対象とした調査においては先行研究でも見られている ( 遠藤, 1997; Brown & Kobayashi, 2002) また 日本人は自己卑下的な自己呈示をすることにより 他者から励ましなどの間接的な高揚を得ることができるという 戦略としての自己高揚の存在も指摘されている ( 吉田 黒川 浦, 2004) 確かに日本においては 出る杭は打たれる という諺も存在するように 自己高揚的に自慢話ばかりをする人は 能力的には認められることがあっても 逆に他者から疎まれる可能性がある こういった傾向は 日本のみで見られているわけではない 北米において提唱されているソシオメーター理論 (Baumeister & Leary, 1995) でも 人の自尊心システムは 人が他者に受容されているかどうかの程度について監視し 排斥の可能性を最小限にする方法で振る舞う ように人を動機づけるとしている つまり 人にとって 周囲の重要な他者に嫌われたり排斥されたりすることは避けるべきことなのである 日本人の自己評価と社会的適応 ポジティブな自己評価と適応の関連性について 遠藤 (1995) は先行研究の結果から 2 つの方向の推測を行っている 第 1 は個人内要因で 第 2 は対人関係要因である 個人内要因とは 自尊心の高さや将来に対する楽観視が 本人の動機づけを高め その結果 自分が重要だと考えている課題に関してねばり強く取り組んだり努力をし 最終的には実際の成功に結びつく可能性を高める (Baumeister & Tice, 1985) というものである 対人関係要因とは 高自尊心者や能力に自信のある人は 他者に対して肯定的関心を持ち 向社会的行動をとり 人間関係が良好で (Taylor & Brown, 1988) ソーシャル サポートを受け取ることが多く ストレスフルな出来事にも効果的に対処できる (Taylor, Kemeny, Reed, & Aspinwall, 1991) というものである このように 社会的適応には個人内要因と対人関係要因の 2 種類があるため 本研究では社会的適応の指標としてこの両方の側面 つまり個人内要因として精神的健康を 対人関係要因として 他者との人間関係良好性を用いた 近年の研究では 自己評価と社会的適応の関係を考慮に入れた研究もあるが (Endo, Heine, & Lehman, 2000) 調査対象が 調査参加者本人の自己評価 他者評価など調査参加者からの一方向的な評価にとどまり 実際の友人などの他者による評価 つまり両者の関係性評価との関連の検討は行われていない つまり 実際に調査参加者にとっての重要な他者が 調査参加者自身について また調査参加者との関係についてどうとらえているかということと 社会的適応の関係について扱った研究は未だ見られない そのため本研究では 実際に調査参加者と親しい他者 ( 友人と親 ) から 調査参加者への評

価および調査参加者との対人関係性についての評価を得た 本研究は (1) 日本人の自己 他者評価は拡張的自己を含めた上で自己高揚的であることを確認し その上で (2) そのような親しい他者への高揚的評価は 調査参加者本人の社会的適応に ( 北米において指摘されるように ) 悪い影響を及ぼしているのかどうかについて検討する 1) 社会的適応の尺度については GHQ28(General Health Questionnaire, 中川 大坊, 1996) 遠藤(1997) の関係性評価を用いた 関係性評価については 調査参加者 友人 親のそれぞれからの評価を取り その相関関係も検討した これらは 先述した個人内要因と対人的要因に対応する 以上のような問題意識により 本研究は 親しい他者への評価 さらに親しい他者からの評価が 社会的適応に及ぼす影響を検討することを目的とした 具体的には 以下のような仮説を検討する 変数として 調査参加者が評定する自己評価 友人評価 親評価 社会的適応として精神的健康と関係性評価を用いた また調査参加者が選んだ親しい他者 ( 友人と親 ) が評定した 調査参加者評価 調査参加者との関係性評価も用いた 仮説は以下の通りである 仮説 1. 調査参加者は 自己評価よりも親しい他者への評価をポジティブに行う この仮説は 先行研究 ( 遠藤, 1995, 1997; Brown & Kobayashi, 2002) において自己を親しい他者よりもネガティブに評価する傾向がしばしばみられていることによる また 自己評価維持モデルを検討した研究 ( 磯崎 高橋, 1988) においても 心理的に近い他者を自己より過大に評価しており 日本人にはこのような 親密他者高揚 が幅広くみられると考えられる 仮説 2. 友人 ( 親 ) は 友人 ( 親 ) 自身の評価よりも 調査参加者への評価をポジティブに行う 仮説 1 と同様に 評価者が友人や親であれば 親しい他者 ( 調査参加者本人 ) の評価が自分自身 ( 友人や親 ) の評価よりもポジティブになると推測できる 先行研究では 調査参加者から行った一方向的な評価を検討したものが一般的であるが これを逆の立場からも検討する 仮説 3. 自己評価がポジティブな方が社会的適応が良い 先行研究の結果からも 自己評価は精神的健康に影響を及ぼすことがわかっている 本研究では 対人関係性にも影響を及ぼすと考え さらに Big Five の各特性について検討した 仮説 4. 親しい他者への評価がポジティブな方が社会的適応が良い 先行研究 ( 遠藤, 1995, 1997; Brown & Kobayashi, 2002) より 親しい他者を高く評価する傾向のある日本人においては 親しい他者を高く評価するほど 他者との対人関係や本人の精神的健康が高いと予測した 調査参加者 方法 大阪府内の私立大学生 120 名 京都府内の私立大学生 176 名 およびその友人と家族である 大学生本人 296 名 ( 年齢 : M=18.80, SD=1.25 女性 225 名 男性 68 名 不明 3 名 ) 友人 241 ( 年齢 : M=19.14, SD=2.95 女性 178 名 男性 63 名 回収率 79%) 親 142 名 ( 回収率 48%) から有効な回答を得 分析に用いた 手続き 調査参加者本人は 心理学 社会心理学 調査分析 の授業中に一斉に回答を依頼した 回答に要した時間は 40 分程度であった 調査参加者は 本人用質問紙以外に 親用質問紙 友人用質問紙の入った封筒を1 セットずつ 合計 3 セット ( 自分用 友人用 親用 ) 受け取った 友人用封筒 1 セットには 質問紙および依頼書と 料金後納郵便のスタンプと返送先が印刷された返送用封筒が入っていた 依頼書には 40 日以内に回答し 封筒に入れて投函してもらうよう依頼文が書かれてあった 調査参加者の学生には 最も親しい友人と親に 友人用 親用の封筒を 1 セットずつ渡してもらうよう依頼した 各質問紙には 自分用 友人用 親用で共通の通し番号を打っておき 回収された段階で どの調査参加者とペアのものかがわかるようにした 調査参加者の学生には 本人 友人それぞれの回答が回収されると 講義の評点に一定点数が加算されると説明された 調査時期は 2002 年 10~12 月であった 質問紙 本人用 (1) 本人の自己評価 (2) 友人に対する評価 (3) 親に対する評価 (4) 社会的適応 を含む質問紙であった 調査参加者本人の自己評価 友人評価 親への評価には 性格の様々な側面を含有できるよう Big Five 尺度 ( 和田, 1996) より 外向性 情緒不安定性 開放性 誠実性 調和性それぞれの代表 3 項目ずつを使用した 合計 15 項目に対し 1. 全くあてはまらない 7. 非常にあてはまる までの 7 件で回答を求めた 社会的適応に関しては 個人内要因として GHQ28( 中川 大坊, 1996) を用いた さらに 対人的要因である周囲の人との関係性評価には 友人および親との関係評価 (Endo, et al., 2000) を用いた 具体的な項目は 親密な お互いを理解している 私にとって重要 一緒にいて楽しい お互いを支え合っている の 5 項目であり 7 件での回答を求めた

友人 親用質問紙友人 親自身の自己評価 友人 親から見た調査参加者本人への評価 調査参加者本人との関係評価を尋ねる質問紙を用いた 自己 他者評価項目については 本人用にて使用したものと同一であった 結果親しい他者と自己の比較 すべての Big Five 特性の中で 情緒的不安定性 に関しては得点が高いほどネガティブな意味となり 1 特性だけ他の 4 特性 ( いずれも高得点ほどポジティブな意味をもつ ) と方向性が異なる このことは特性間の比較を混乱させる危険性があると考え 情緒的不安定性 に関しては得点を逆転させた よって以降の記述では 情緒安定性 と表記し 得点が高くなるほどポジティブな意味を表すようにした 1. 大学生本人の自他評価 3( 評定ターゲット : 調査参加者の自己評価, 友人への評価, 親への評価 ) 5(Big Five 性格特性 : 外向性, 情緒安定性, 開放性, 誠実性, 調和性 ) を独立変数とした 繰り返しのある 2 要因分散分析を行ったところ 有意な評定ターゲットの主効果 (F(2, 570)=187.73, p<.001) 性格特性の主効果(F(4, 1140)=225.37, p<.001) およびターゲット 性格特性の交互作用効果が得られた (F(8, 2280)=23.57, p<.001) Figure 1 に下位検定の結果を示す 特性による若干の差異はあるが 全般的に自己評価は友人や親という他者への評価に比して評定値が低く ネガティブな方向に偏っている これは 自己よりも 親しい他者をポジティブに評価する という先行研究の結果 (e.g., Brown & Kobayashi, 2002) を再現したものである よって仮説 1. 調査参加者は 自己評価よりも親しい他者への評価をよりポジティブに行う は支持された 2. 友人の自他評価 2( 評定ターゲット : 友人による本人評価, 友人の自己評価 ) 5(Big Five 性格特性 : 外向性, 情緒安定性, 開放性, 誠実性, 調和性 ) を独立変数とした 2 要因分散分析を行ったところ 有意な評定ターゲットの主効果 (F(1, 230) = 126.05, p<.001) 性格特性の主効果 (F(4, 920) = 128.50, p<.001) および評定ターゲット 性格特性の交互作用効果が得られた (F(4, 920) = 4.29, p<.001) Figure 2 に示したとおり どの特性においても 友人は自分自身よりも 調査参加者本人についてポジティブな評定を行っていた つまり 自己よりも 親しい他者をポジティブに評価する という傾向が 友人自身にも当てはまっていたということとなる 仮説 2. 友人( 親 ) は 友人 ( 親 ) 自身の評価よりも 調査参加者への評価をポジティブに行う は 友人に関して支持されたといえる 注 ) p<.01. 得点範囲は 3-21. 注 ) p<.01. 得点範囲は 3-21. 3. 親の自他評価 2( 評定ターゲット : 親による本人評価, 親の自己評価 ) 5(Big Five 性格特性 : 外向性, 情緒安定性, 開放性, 誠実性, 調和性 ) を独立変数とした 2 要因分散分析を行ったところ 評定ターゲットの主効果 (F(1, 137) = 11.86, p<.001) 性格特性の主効果 (F(4, 548) = 35.51, p<.001) および交互作用効果(F(4, 548) = 6.21, p<.001) が得られた Figure 3 に示したとおり 調査参加者の親たちは 外向性と開放性において 親自身よりも 娘 息子である調査参加者への評価を高く行っていた 情緒安定性については傾向差 (p<.10) がみられ 調査参加者への評価が親自身のものより高かった 上記より 親しい人物間で相互評価の比較を行った場合 自己 友人 親のいずれの評価においても 他者からの評価の方が自己評価よりも高く 互いに互いを好意的に評価し合っているということがわかる このことは 特に日本においては 親しい他者との間に自己高揚ではなく 親密他者高揚 が存在することを意味する 友人からの評価 および親からの評価をまとめると 仮説 2. 友人 ( 親 ) は 友人 ( 親 ) 自身の評価よりも 調査参加者への評価をよりポジティブに行う は 友人に関しては支持 親に関しては部分的に支持されたといえる

+ 注 ) p<.01, p<.10. 得点範囲は 3-21. 自己 他者評価と社会的適応の関係上の分析で 親しい関係の中では お互いに親しい他者を自己よりもポジティブに評価し合い また相手も自己のことをポジティブに評価していることが明らかになったが 以下では このような他者へのポジティブな評価が 調査参加者本人の社会的適応に及ぼす影響について検討する 以下 GHQ( 精神的健康 ) および関係評価それぞれについて分析を行う 1. GHQ( 精神的健康 ) 自己評価 他者評価のポジティブ性が 精神的健康に及ぼす影響を検討するため GHQ 得点を基準変数 調査参加者の自己評価 他者評価 ( 友人への評価 親への評価 ) を説明変数とする重回帰分析 ( ステップワイズ法 ) を行った その結果 自己評価の 外向性 ( =-.28, p<.001) 情緒安定性 ( =-.19, p<.01) 調和性 ( =-.16, p<.01) と 親への評価の 情緒安定性 ( =-.12, p<.05) がGHQ 得点に有意に負の影響を及ぼしていた (R 2 =.25) これらより 情緒安定性に関して 自己評価と親への評価がポジティブ ( 情緒安定的 ) であることが 自己の精神的健康につながることが示された 自己のポジティブな評価 ( 外向性, 調和性 ) も精神的健康にポジティブな影響を与えていた また 友人へのポジティブな評価は精神的健康に正の影響を持たないことが示された よって GHQ については仮説 3. 自己評価がポジティブな方が社会的適応が良い は支持され 仮説 4. 親しい他者への評価がポジティブな方が社会的適応が良い は支持されなかった 2. 対人関係評価対人関係評価は 調査参加者本人が評定したもの 友人または親から評定されたものの 2 方向あった 調査参加者本人が評定した親子の関係評価と親が評定した親子の関係評価の相関係数は r=.51(p<.001) 調査参加者本人が評定した友人との関係評価と友人が評定した関係評価の相関係数は r=.39(p<.001) と高い値であった 結果の煩雑さを避けるため 以下の関係評価では 本研究の特徴である 友人 から 親から のものを基準変数とし 様々な評価変数との関連を検討する 友人関係評価に影響を及ぼす要因を検討するため 自己と友人に関するすべての評価 ( 調査参加者の自己評価, 調査参加者から友人への評価, 友人の自己評価, 友人の調査参加者評価 ) を基準変数 友人からの友人関係評価を説明変数とした重回帰分析 ( ステップワイズ法 ) を行ったところ 友人からの調査参加者評価が外向的であること ( =.21, p<.001) 情緒安定的であること( =.29, p<.001) 開放的であること( =.21, p<.001) 調和的であること ( =.19, p<.01) が有意であった(R 2 =22) つまり 調査参加者の自己評価や他者評価は一切関連がなく 友人から調査参加者への評価がポジティブであるほど 調査参加者との関係性がポジティブに評価されていた 次に 親子関係評価に影響を及ぼす要因を検討するため 調査参加者自身と親に関するすべての評価 ( 調査参加者の自己評価 調査参加者から親への評価 親の自己評価 親の調査参加者評価 ) を説明変数 親からの親子関係評価を基準変数とした重回帰分析 ( ステップワイズ法 ) を行ったところ 親の調査参加者評価への評価が外向的 ( =.51, p<.001) 誠実的( =.34, p<.001) 調和的 ( =.24, p<.01) であること また親の自己評価が誠実的でないこと ( =-.21, p<.01) 調査参加者の自己評価が情緒安定的であること ( =.14, p<.05) が 親が評価する親子関係に有意な影響をもつことが分かった (R 2 =38) 以上をまとめると 友人との関係においては友人からの調査参加者評価として外向性 開放性 調和性が 親との関係においては親からの調査参加者評価として外向性 誠実性 調和性が それぞれの関係に正の影響を及ぼしているといえる 特に友人や親に対し 調査参加者がポジティブな評価を行っている場合 ( 親しい他者をすばらしい人だと評価した場合 ) に対人関係が良好になるのではないことが明らかになった よって 仮説 4. 親しい他者への評価がポジティブな方が社会的適応が良い は関係性評価についても支持されなかった 2) 考察本研究をまとめると まず仮説 1 2 の検討より 調査参加者と友人 親は 互いに自分のことよりも 親密な他者をポジティブ視しており 親密他者高揚 の傾向があることを確認した これは遠藤 (1997) の 他者高揚 の結果を 新たに親子関係にも拡張して確認したものである ただし 親から調査参加者への評価では 5 つの特性中すべてについて有意に他者 ( 調査参加者本人 ) 高揚が行われたわけではなかった このような結果となったことについては 下記のように推測される まず調査参加者から見た友人 親 (Figure 1) そして友人から見た調査参加者本

人 (Figure 2) は 人間関係が 対等 あるいは 評価他者の方がどちらかといえば上 であるのに対し 親から見た娘 息子である調査参加者 (Figure 3) の場合は その立場が 評価対象者の方が多くの場合下となる ということである また 調査参加者の平均年齢が 18.8 才で しかも大学生であることから考えて 精神的 経済的に親から自立している度合いの低さによるものだとも考えられる 社会的にも年齢的にも明らかに成長途上 だと見なす相手については 親密他者高揚 が見られない場合があるのも当然かもしれない しかし そのような場合でも 5 つの特性中 3 つにおいて 親が息子 娘を 自分より好意的に評価する という有意差あるいは有意傾向が得られたことは 日本における 親密他者高揚 の強い傾向が改めて確認されたといえる それらの評価と適応との関連では 精神的健康には自己評価のポジティブ視が正の影響を及ぼしていた 友人との関係においては友人からの調査参加者本人への評価として外向性 開放性 調和性が 親との関係においては親からの調査参加者本人への評価として外向性 誠実性 調和性が それぞれの関係に正の影響を及ぼしていた 友人や親からの評価と関係性評価に影響を及ぼす要因としての共通点は 外向的 調和的であること 相違点は 友人からは開放的であること 親からは誠実的であることであった 外向的や調和的であることは 相互作用相手を問わず 他者から関係を良好だと評価されるために重要な側面であると考えられる 一方 友人として良好な関係を保ちたいと思わせる特性は 特に大学生の年代では 好奇心が旺盛で様々な経験に開放的であることであり 常識に合致する また親として良好な関係を保つにあたっては 娘 息子が誠実であることが重視されるという結果も また常識に合致するものである このように他者から ポジティブな評価を得る 領域というのは 共通する側面もあるが それぞれの相互作用相手によって異なる面もあることがわかる 本研究は 日本においては 親密な他者を互いに高く評価しあう という 親密他者高揚 がみられること そして 親密な他者から高い評価を得ることが 結果としてその他者との関係評価を高めていることを示した これらの結果は 日本では親しい他者との相互的な 親密他者高揚 が社会的適応を高めることを示している 自己高揚の様相は文化による差はあるが いずれの文化においても 人は基本的には他者に受容され ポジティブな関係を維持し 結果的に自分の社会的適応を促進するように 自己や他者評価を行い 行動していると考えられよう 引用文献 Baumeister, R. F. & Leary, M. R. (1995). The need to belong: Desire for interpersonal attachments as a fundamental human motivation. Psychological Bulletin, 117, 497-529. Baumeister, R. F., & Tice, D. M. (1985). Self-esteem and responses to success and failure: Subsequent performance and intrinsic motivation. Journal of Personality, 53, 450-467. Brown, J. D. & Kobayashi, C. (2002). Self-enhancement in Japan and in America. Asian Journal of Social Psychology, 5, 145-168. Brown, J. D. & Kobayashi, C. (2003). Motivation and manifestation: The cross-cultural expression of the self-enhancement motive. Asian Journal of Social Psychology, 6, 85-88. 遠藤由美 (1995). 精神的健康の指標としての自己をめぐる議論社会心理学研究, 11, 134-144. 遠藤由美 (1997). 親密な関係性における高揚と相対的自己卑下心理学研究, 68, 387-395. Endo, Y., Heine, S. J., & Lehman, D. R. (2000). Culture and positive illusions in close relationships: How my relationships are better than yours. Personality and Social Psychology Bulletin, 26, 1571-1586. Heine, S. J. & Hamamura, T. (2007). In search of East Asian self-enhancement. Personality and Social Psychology Review, 11, 1-24. Heine, S. J. & Lehman, D. R. (1999). Culture, self-discrepancies, and self-satisfaction. Personality and Social Psychology Bulletin, 25, 915-925. Heine, S. J., Lehman, D. R., Markus, H. R., & Kityama, S. (1999). Is there a universal need for positive self-regard? Psychological Review, 106, 766-794. 磯崎三喜年 高橋超 (1988). 友人選択と学業成績における自己評価維持機制. 心理学研究, 59, 113-119. 中川泰彬 大坊郁夫 (1996). 日本版 GHQ 精神健康調査票手引日本文化科学社 Sedikides, C., & Gregg, A. P. (2008). Self-enhancement: Food for thought. Perspectives on Psychological Science, 3, 102-116. Sedikides, C., Gaertner, L., & Vevea, J. L. (2007). Evaluating the evidence for pancultural self-enhancement. Asian Journal of Social Psychology, 10, 201-203. Taylor, S. E. & Brown, J. D. (1988). Illusion and well-being: A social psychological perspective on mental health. Psychological Bulletin, 103, 193-210. Taylor, S. E., Kemeny, M. E., Reed, G. M., & Aspinwall, L. G. (1991). Assault on the self: positive illusions and adjustment to threatening events. In G. A. Goethals & J. A. Strauss (Eds.), The self: An interdisciplinary perspective (pp. 239-254). New York: Springer-Verlag. 和田さゆり (1996). 性格特性用語を用いた Big Five 尺度の作成心理学研究, 67, 61-67. 吉田綾乃 黒川正流 浦光博 (2004). 日本人の自己卑下呈示に関する研究 : 他者反応に注目して社会心理学研究, 20, 144-151.

註 1) 本研究では 親 および 親友 からの評価を研究対象としているが 双方の漢字が類似しており混乱する可能性があるため 親友 については 友人 と表記する 2) 補足的に調査参加者からの 友人関係評価 親子関係評価 を基準変数とした分析を行った その結果 友人関係評価 (R 2 =20) には 調査参加者の友人評価として外向性と開放性 ( それぞれ =.16,.14, ps<.05) 友人からの調査参加者評価として開放性 ( =.13, p<.05) が 正 の効果をもっていた 親子関係評価 (R 2 =43) には 調査参加者の親評価が開放的 ( =.32, p<.001) 親の自己評価が誠実的でなく ( =-.16, p<.05) 親の調査参加者評価が誠実的 ( =.36, p<.001) であることが正の効果をもっていた 友人からの調査参加者評価として開放性が正の影響をもつこと 親の調査参加者評価として誠実的が正の影響をもつことについては 本文で示した分析と同じ結果であった Relationships among evaluations of self and close others, and their effects on social adaptation Chihiro KOBAYASHI (School of Human Sciences, Kobe College) This research investigated relationships among evaluations of self and close others, and how these evaluations influence Japanese people s social adaptation. Two hundred and ninety six university students completed a questionnaire booklet, which consisted of evaluations toward self, their best friend, and their mother or father, and questions that asked students social adaptation level, such as health and good relationships. These students then asked their best friend and either their mother or father to complete a questionnaire booklet, which consisted of evaluations toward self and the student who brought the questionnaire. Results indicated that (1) students, their best friends, and their parents all evaluated their close others more positively than themselves, and (2) both positive self-evaluation of self and from their close others had positive effect on students social adaptation. Keywords: self-evaluation, evaluation from best friend and parents, close-other enhancement, social adaptation, relationship evaluation.