No3 特許契約の基礎知識 http://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/info/tebi ki_1009.pdf 1
知財のライセンス 知的財産権に関する通常実施権の実施許諾を指す このとき実施許諾の対象となる知的財産は 特許 意匠 商標やノウハウに至る 特許権などでは権利になっていない段階の特許を受ける権利の時点でもライセンス契約の対象となる また実施許諾の条件は 独占的な通常実施権許諾 ( 日本法では専用実施権設定もある ) か非独占の通常実施権許諾かの大きな分類に加えて 対象技術 対象製品 対象地域 期間 再実施権許諾権の有無 製造を許諾するのか販売を許諾するのかなど極めて多様 その組み合わせによって 権利を有し許諾する側 ( ライセンサー ) と実施権許諾を受ける側 ( ライセンシー ) との関係性が異なってくる 独占の補完としての知財ライセンス 知的財産権を用いて技術を独占するためのプロプラエタリ な知財マネジメントとしてのライセンス契約 最初の譲受人の企業のみならず 多くの組織に委ねられることで初めて ビジネスが成り立つ といった構造に対応するケース 自社の事業を強化するために 組織外部から知財のライセンスを受け入れる場合 自社の知的財産権を資産としてとらえて そこから収益を得る目的で行われる知財権のライセンス 2
異なるライセンス環境 大学技術移転などまだ研究途上の技術が対象である場合 実施許諾を行ったからといっても その後の技術開発を継続しないと事業化ができないため ライセンサーとライセンシーとの間で共同研究開発が継続されることが多い ライセンサーの自社事業が飽和してきてライセンスによる収入増を図る場合や 仲間づくりなどの戦略的な組織間関係の確率を意図してライセンスを行う さらに他社から望まれてライセンスを行うケース ライセンシーが正当な権利を有しないでライセンサーの知財を実施していることが疑われる場合は 権利侵害訴訟と背中合わせの交渉となるため 敵対的交渉の色彩が強くなる ロイヤリティーのバリエーション 契約一時金 ランニングロイヤリティー ランニングロイヤリティー 契約時 試作時 量産時 3
続き ランニングロイヤリティーに充当 ランニングロイヤリティー 例えば各年度のランニングロイヤリティーの半分まで充当できるなど 4
日本企業の知財ライセンスの経験 日本企業の技術導入 1950 年代から60 年代にかけて盛んに米国技術の導入を進めた 独自で技術開発を行うことに比べれば技術導入は事業化までのスピードも速く確実であるが 一方で ライセンサーは許諾する実施範囲を細分して制限してくるため ライセンシーにとっては実施できる範囲が自由にならず 場合によっては狭く制限されるという問題がある さらに同じ技術を保有するライセンサーはその時点ではマーケットが異なるなどのすみ分けがあったとしても 潜在的には競合関係になることが多く ライバルから技術を導入している以上その技術の優劣を逆転することは難しい さらに技術導入に多く取り組むことに効率的な組織は 独創的な技術の開発が生まれにくい風土を生みやすいなどの問題も生じる 日本企業は米国からの技術導入でスタートしたが その後多くの企業が独自技術を育て世界市場における競争優位を獲得した 5
その結果 現在の日本企業が知財権のライセンスを受ける際は 自社技術の自由度を最大限確保するためにライセンシーはできるだけライセンサーへの依存度を低減させようとする傾向が強い 日本の製造業企業の技術構造は 相互依存性の高い所謂インテグラル型が特徴であることが多く そこに新たな技術を なじませる ためには 既に他社によって実施されている技術であっても自社で研究開発をやり直すなどの手続きが踏まれるためと考えられる そのような学習を行うことで 技術に対する理解が進み ライセンスを受ける必要がある技術項目は減少していくことにつながる ライセンス事例 6
ライセンス収入 日立製作所の場合は 当初技術導入の支払いが超過していた状態から 1985 年に技術移転収入が黒字となり 一時期は 500 億円を超える特許等の技術収入があった キヤノンでも 1995 年当時 特許権ライセンス収入は 100 億程度であったものが 2010 年には 300 億程度まで増大している ブローバ社 (Bulova) の事例 ブローバ社はライセンスを求めるメーカーがあっても 特許ライセンスのみを行うことはせず 資本提携を行うことを条件として求めた ライセンシーがライセンサーであるブローバ社と競合するような機会主義的な行動をとることを懸念し ライセンシーと資本提携を行うことによって その行動を抑制しようとする意図からくるもの 他社はブローバと資本関係を持つことを嫌い クオーツ時計の独自開発に走り 日本勢を中心にその事業化に成功していく より精度に優るクォーツ式時計の開発が進み 低価格化による普及に伴って音叉時計は競争力を失い 1976 年には製造中止となる 7
日本のクオーツ式時計の積極的なライセンス 1979 年にシチズンがアナログクオーツのムーブメントの本格販売に乗り出すと これがデファクト標準になり同社に大きな収益をもたらした これに触発されてセイコーも 1983 年に OEM 販売を開始することになる しかし 2 社とも自社完成品事業はそのまま継続した これらのムーブメント事業は高収益事業に育ったが クオーツ式時計の完成品自身はコモディティーというイメージが広がることによって 自社完成品のブランドの毀損を招いたとの批判もある 榊原清則 イノベーションの収益化 有斐閣 (2005) ライセンス契約の戦略性 知財権のライセンス契約では どの会社にどのような範囲の権利をライセンスするのかという許諾条件を企業毎に設けることが可能であり そのオプションの活用によっては 収入を得るという以上に戦略的な意味合いが含まれる ライセンスを行った相手とは何らか組織間関係が形成されることから 何ら関係性のないライバル企業と比べれば競争の度合いが減少する このようなライセンスを複数企業と行うことによって 企業を取り巻く競争状態に変化を与えることができる 8
ライセンスの自社事業への影響 収入が得られる一方で 自社で活用している技術をライセンスするということは あえて競合をつくりだす可能性がある 技術を移転する立場からすると ライセンシーの吸収能力 (Absorptive capacity) が高ければ技術の移転は容易になり 順調にロイヤリティーが得られる可能性が高くなる一方 ライセンサーの市場優位を脅かすような技術力を蓄積するかもしれない Cohen, W. M., and Levinthal, D. A. Absorptive Capacity: A new Perspective on Learning and Innovation, Administrative Science Quarterly, Vol.35, pp.128-152(1990). 真保智之 ライセンス契約の形態の選択 組織科学,44,49-59(2010) クロスライセンス契約 お互い必要な知財権を交換し その不足分を金銭で解決する 他社の特許の存在によって 自社の特許のみによる独占が不可能である場合 クロスライセンスが検討される ( プロプラエタリ の次善の策 ) しかし大企業ではこのようなクロスライセンスを 多くの企業と締結することもある その結果クロスライセンスを行った企業間では紛争の芽が摘まれて 安定な組織間関係がもたらされる 取引される知財は その時点でお互いが必要としているものばかりではなく 将来自社の技術や事業の発展を見越して 必要が将来生じるかもしれないという見通しで取引されることもある 9
知財ライセンス契約に見るオープン 研究開発コンソシアムなどでは パイオニア発明の川下の改良発明を束ねてオープンな領域を形成するケースが考えられる 改良発明の取扱いを定める条項は知財ライセンス契約で重要な条項 アサインバック条項 : ライセンシーの改良発明を譲渡させる義務を負わせる グラントバック条項 : ライセンシーに改良技術のラインセンスをさせる義務を負わせるもの 互恵的グラントバック条項 : ライセンシーが改良技術を提供すると同時に ライセンサーも改良技術を提供することが約束する場合 知財ライセンスグラントバック条項 ライセンサーの地位を利用してライセンシーの改良発明を得ようとする行動は 競争を避けるために生み出された考え方 グラントバック条項については とくにパテントプールに関して古くから問題になっていたとする記録が残されている プール参加者は 彼らの改良発明特許をその特許プールに提供することを求められていることが一般的で 米国の 1936 年の硝子製造の工程と機械の特許 600 件の特許プールに関する Hartford Empire 社事件では グラントバック条項が独禁法違反であるかが争点となった 実際このパテントプールを後に分析した研究では イノベーション阻害的であったとする結果が得られている (Lampe and Moser,2009) 10
グラントバック条項の実際の運用 同一特許群に関して ライセンサーが多数のライセンシーと締結しているケースがある IP プロバイダーが多数のライセンシーと締結しているケースがある 競争の選択としての知財ライセンス 知財のライセンスには 技術独占の手段としてのライセンスに加えて 競争の選択としてのライセンスの 2 つの側面を有する 11
職務発明制度 https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu.ht m 12