スーダン : アジア国営石油企業の活躍で原油生産量倍増へ 更新日 :2006/12/22( 掲載後 加筆修正 ) 石油 天然ガス調査グループ : 竹原美佳 CNPC をはじめとするアジア国営石油企業の探鉱開発により スーダンの原油生産量は倍増する見込み アジア国営石油企業は油田開発のみならず パイプラインや製油所建設を手がけている スーダンの原油生産量は 2005 年の 38 万バレル / 日から 2008 年には約 80 万バレル / 日に増加し アフリカ 4 大産油国 ( ナイジェリア リビア アルジェリア アンゴラ ) につぐ産油国となる見通し 1. 新規油田稼働開始に涌くスーダン 2006 年 スーダンでは Palogue 油田 Thar Jath 油田などが相次いで生産を開始した 同国の原油生産量は 2005 年末の 38 万バレル / 日から 2006 年には約 50 万バレル / 日に増加する見通しである 現在 同国で石油の探鉱開発を行っているのは 主に CNPC( 中国 ) や Petronas( マレーシア ) ONGC( インド ) などアジアの国営石油会社である 3 社は油田の探鉱開発のみならず 製油所や原油パイプラインの建設も手がけており 3 社がスーダンの石油産業を支えていると言っても過言ではない (1) アジア国営石油企業がメジャー撤退の穴を埋めたスーダンは 1970 年代から 80 年代にかけ Agip( 現 Eni) Chevron や Total などの欧米石油企業が紅海や Muglad 盆地で探鉱活動を行った 現在 生産量の大半を占める Block1/2/4 の Unity/Heglig 油田は Chevron が 1980 年代に発見したものである しかし 1984 年に南北内戦が勃発 鉱区の設定された南部はゲリラによる攻撃が行われ 死傷者が出た Total は 1985 年以降 探鉱活動を休止 Chevron は 1992 年に同国から撤退した スーダン政府は Chevronが保有していた 50 万 km 2 におよぶ鉱区を分割 再設定し 1993 年にカナダの中堅企業 Arakis がUnity/Heglig 油田のあるBlock1/2/4 を取得 探鉱活動を行っていた 中国 CNPC マレーシア Petronas は 1996 年 12 月にBlock1/2/4 にファームインし Arakis と共同操業会社 GNPOC (Greater Nile Petroleum Operating Company) を設立 Unity/Heglig 油田などの開発を進めた 同油田は 1999 年に原油の輸出を開始した その後 ArakisはカナダTalisman Energyに買収された
Talisman Energyの親会社は米国で上場していたが 米国はスーダンを テロ支援国家 に指定 国内法 Sudan Peace Act ( 同国で投資行為を行う企業をニューヨーク証券市場から上場廃止できる ) により 米国で上場している企業の同国への投資を実質的に禁じている Talisman Energy は同法の適用は免れたものの 米国の人権団体から訴訟を起こされるなど国際社会の圧力が高まったため 2003 年 3 月にGNPOC 権益 25% をインドONGCに売却することで合意 同国から撤退した 現在 欧州企業で実際に活動しているのは スウェーデンの Lundin ならびにスイスの Cliveden の 2 社である 米 Marathon は探鉱休止中の Total 鉱区にパートナーとして参加しているが 権益売却を希望している模様である 日本の石油開発企業はスーダンで活動したことはない しかし 日本は国連制裁解除後の 2001 年からスーダンの原油輸入を開始 2005 年にはスーダンの生産量の 2 割に相当する原油 8 万バレル / 日 ( 日本の原油輸入全体の 1.9%) を輸入した スーダン原油の最大の輸入者は中国で 2005 年にはスーダンの原油生産量の 4 割に相当する約 13 万バレル / 日を輸入 ( 中国の原油輸入全体の 5.2%) した インドが数万バレル / 日を輸入している他 政府間合意によりエチオピアに輸出されている模様である (2)2008 年にはアフリカ第 5 の産油国に?! 主力油田である Unity/Heglig 油田は成熟化により生産の減退が始まったが 新規油田の生産開始により スーダンの原油生産量は今後数年増加を続ける見通しである スーダン政府は 2007 年に 65 万バレル / 日 2008 年に 80 万バレル / 日に達するという見通しを示している 産油国政府の生産見通しは 意欲的 あるいは非現実的な数値になりがちだが 欧州の有力石油コンサルタント Woodmackenzie は スーダンの生産量は数年以内に少なくとも 60 万バレル / 日を超え アフリカ 4 大産油国 ( ナイジェリア リビア アルジェリア アンゴラ ) に比肩することは難しいものの 減退が始まっている第 5 位のエジプト ( 現行生産量 69 万バレル / 日 ) を超え アフリカ産油国第 2グループ筆頭に立つ可能性があるという認識を示している ちなみ アフリカで原油生産量が増加するのはスーダンに限ったことではない こちらは政府によるやや 意欲的 な増産計画であるが ナイジェリアは 2008 年までに現在の 250 万バレル / 日から 400 万バレル / 日に アンゴラは現在の 140 万バレル / 日から 280 万バレル / 日に増産する計画である また IEA World Energy Outlook2005 によると 2010 年頃 リビアの生産量は 185 万バレル / 日 (2005 年は 170 万バレル / 日 ) アルジェリアは 210 万バレル / 日 (2005 年は 202 万バレル / 日 ) エジプトは現状よりやや減少し 67 万バレル / 日 (2005 年は 70 万バレル / 日 )
となる見通し ( いずれも標準ケース ) である 図 1: スーダンの原油生産量および見通し 90 単位 : 万 b/d 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1995 年 1996 年 1997 年 1998 年 1999 年 2000 年 2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 ( 予測 ) 2007 年 ( 予測 ) 2008 年 ( 予測 ) ( 出所 BP 統計 2006 年以降はスーダン政府予測 ) 2. スーダンにおける最近の油田開発状況 (1) 油田開発状況 Thar Jath 油田 (Muglad 盆地 Block5A) 2006 年 6 月生産開始 当初生産量は 4 万バレル / 日 2006 年末には 6 万バレル / 日に達する見通し 生産プラトーは 15 万バレル / 日 Block5A は Petronas がオペレーター ONGC と Sudapet が参加 Palogue 油田 (Melut 盆地 Block 7) 2006 年 8 月生産開始 生産量は現在約 4 万バレル / 日 生産プラトーは 30 万バレル / 日 Neem 油田 (Muglad 盆地 Block4) 2006 年 8 月生産開始 ( 生産量は当初 2 万 4,000 バレル / 日で 今後 4 万に増加させる見通し ) (2) 最近の外資参入 ( 契約締結 ) 状況スーダンにおける鉱区取得は入札ではなく 個別交渉方式である スーダンの 1 鉱区あたりの面積は平均 6 万 km 2 で リビア ( 約 5,800km 2 ) やナイジェリア ( 約 1,600km 2 ) に比べ 広大で 未探鉱の地域も多い 2006 年 9 月末現在 オープン鉱区は 3 鉱区 (Block10 12B 13) ある 2005 年 1 月に スーダン政府 ( エネルギー鉱物資源省 ) は 北部および西部の鉱区を公開したが Block15 などでPS 契約が締結された模様である また 西部 Block12Aについては 2006 年 6 月 サウジ
アラビア Al-Qahtani 他 リビア イエメン企業など湾岸諸国連合がSudapet とPS 契約を締結することで基本的に合意した模様である これまでオペレーターの経験が無いパキスタンの石油企業 Zaver が合計約 30 万 km 2 の鉱区権益を保有している 2004 年 9 月 国連安全保障委員会がダルフール危機解決に向け スーダン政府に対し 石油輸出禁止 警告決議案を出した際 パキスタンは棄権しており その見返りに鉱区を得たという見方がある 2005 年 2 月以降の外資参入の動き Block11:2005 年 パキスタンの Zaver が Sudapet と PS 契約を締結 現在である Block14:2005 年 2 月 南アフリカ国営 PetroSA が Sudapet と PS 契約を締結 現在である Block15:2005 年 2 月 ナイジェリア Express は Sudapet と PS 契約を締結 2006 年 8 月 CNPC Petronas スーダン Hi Tech Group がファームインした Block17:2006 年 6 月 イエメンの ANSAN は Sudapet と PS 契約を締結 ANSAN は権益 66% を取得 Block17 は CNPC の Block6 放棄部分で 2004 年 12 月に Block17 に設定された 図 2: スーダンの鉱区
参考 : スーダンにおける主な原油 製品パイプラインならびに製油所 (1) 原油 石油製品パイプライン 1Greater Nile 原油パイプライン ( 稼働中 ) パイプライン総延長:1,610Km 28 インチ (Muglad 盆地 Unity Heglig 油田 ~ 紅海 Bashair 出荷ターミナル ) 1999 年 7 月完成 ( 中国 CNPC 傘下 CPECC ドイツ企業が建設を受注) 輸送能力 :45 万バレル / 日 ( 初期設計能力 18 万バレル / 日から増強 ) 2Block6~ ハルツーム製油所原油パイプライン ( 稼働中 ) パイプライン総延長:723Km 24 インチ (Fula 油田 ~ハルツーム製油所 ) 輸送能力 :20 万バレル / 日 3Block5A 原油パイプライン ( 稼働中 ) パイプライン総延長 :168Km 24 インチ (Thar Jath 油田 ~Heglig 油田 ) 輸送能力: 不明 4Block3/7~ 紅海原油パイプライン ( 稼働中 ) 輸送能力 :30 万バレル / 日 パイプライン総延長 :1,367Km 32 インチ Sinopec が建設を受注 5ハルツーム製油所 ~ 紅海 Port Sudan(El-Khair 輸出ターミナル ) 製品パイプライン ( 稼働中 ) パイプライン総延長 815Km 8 インチ 輸送能力 :82 万 6,000 トン / 年 2005 年 12 月完成 インド ONGC Videsh 連合が建設を受注 建設費 1 億 9,400 万ドル (2) 製油所 (1) ハルツーム製油所 ( 稼働中 ) 処理能力 :10 万バレル / 日 CNPC とスーダン政府 50:50 の出資比率
1 期 1999 年稼働開始 ( 処理能力 5 万 5,000 バレル / 日 ) 事業費 6 億 5,000 万ドルインド ONGC 連合 2004 年から 2 期 ( 増強 ) 工事着工 2006 年 7 月完工 事業費 5 億 5,000 万ドル (2) オベイド製油所 ( 稼働中 ) 1996 年稼働開始 処理能力 15,000 バレル / 日 (3) 旧 Port Sudan 製油所 ( 稼働中 ) スーダン政府 処理能力 21,700 バレル / 日 (4) 新 Port Sudan 製油所 ( 計画 ) 2009 年稼働開始予定 処理能力 15 万バレル / 日 Petronas が建設を受注
表 : スーダン鉱区 (2006 年 9 月末現在 ) Block( 鉱区 ) オペレーター パートナー 現状 生産量 主な油田 Block1/2/4 Block3/7 Block5B Petronas40.375% ONGC26.125% Lundin ( スウェーテ ン )24.5% Sudapet10% Block6 CNPC95% Sudapet5% 生産プラトー生産中 :35 万 b/d Heglig Unity Neem 他生産プラトー :30 万 b/d 生産中 :4 万 b/d Adar Yale Palogue 他生産プラトー :30 万 b/d 生産中 :4 万 b/d Thar Jath 生産プラトー :15 万 b/d 生産中 :4 万 b/d Fula Abu Ghabra 生産プラトー :10 万 b/d Block8 Petronas77% Sudapet15% Hi Tech ( スータ ン )8% Block9 Zaver( パキスタン )85% Sudapet15% Block10 オープン Block11 Zaver85% Sudapet15% Block12A Al-Qahtani( サウジアラ PS 契約締結 ( 見込み ) ビア )33% Ansan Wikfs( イエメン ) 20% Sudapet20% Dindir*12% ONGC5% Hi Tech5% AAIN*5% (* リヒ アまたはヨルタ ン企 Block12B オープン Block13 オープン Block14 PetroSA( 南アフリカ )80% Sudapet20% Block15 共同操業会社 Red Sea Petroleum Operating Co Express10% CNPC35% Petronas35% Sudape15% High Tech Group 5% Block17 Ansan Wikfs( イエメン )66%Sudapet33% BlockA Zaver( パキスタン )83% Sudapet17% BlockB Total( 仏 )32.5% Marathon( 米 )32.5% KPC( クウェート )25% Sudapet10% 探鉱休止中 BlockC 各種資料にもとづき作成 共同操業会社 Greater Nile Petoroleim Operating Co.(GNPOC) CNPC( 中国 )40% Petronas( マレーシア )30% ONGC( イント )25% スータ ン国営 Sudapet5% Petrodar: CNPC41% Petronas40% Sudapet8% Snopec6% Al Thani(UAE)5% Block5A Petronas68% ONGC24% Sudapet8% 共同操業会社 Advanced Petroleum Co Sudapet17% High Tech Group 28.00% Hejlij Co ( スーダン )8.00% Sate of Khartoum 10.00% Cliveden Petroleum Co Ltd( スイス )37.00%