脂質が消化管ホルモンの分泌を促進する仕組み 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 北口哲也 ( 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所主任研究員 ( 研究当時 )) 神谷泰智 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 2 年 (

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学位論文の要約

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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第6号-2/8)最前線(大矢)

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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核内受容体遺伝子の分子生物学

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

報道発表資料 2006 年 6 月 5 日 独立行政法人理化学研究所 独立行政法人科学技術振興機構 カルシウム振動が生み出されるメカニズムを説明する新たな知見 - 細胞内の IP3 の緩やかな蓄積がカルシウム振動に大きく関与 - ポイント 細胞内のイノシトール三リン酸(IP3) を高効率で可視化可能

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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相模女子大学 2017( 平成 29) 年度第 3 年次編入学試験 学力試験問題 ( 食品学分野 栄養学分野 ) 栄養科学部健康栄養学科 2016 年 7 月 2 日 ( 土 )11 時 30 分 ~13 時 00 分 注意事項 1. 監督の指示があるまで 問題用紙を開いてはいけません 2. 開始の

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胞運命が背側に運命変換することを見いだしました ( 図 1-1) この成果は IP3-Ca 2+ シグナルが腹側のシグナルとして働くことを示すもので 研究チームの粂昭苑研究員によって米国の科学雑誌 サイエンス に発表されました (Kume et al., 1997) この結果によって 初期胚には背腹

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脂質が消化管ホルモンの分泌を促進する仕組み 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 北口哲也 ( 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所主任研究員 ( 研究当時 )) 神谷泰智 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 2 年 ( 研究当時 )) Kyaw Htet Aung( 国立成育医療研究センター薬剤治療研究部実験薬理研究室研究員 ( 研究当時 )) 中村和昭 ( 国立成育医療研究センター薬剤治療研究部実験薬理研究室室長 ) 太田邦史 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授 ) 坪井貴司 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻准教授 ) 2. 発表のポイント : 脂質の一種であるリゾフォスファチジルイノシトール (LPI) が 消化管ホルモンの一種グルカゴン様ペプチド -1(GLP-1) の分泌を促進することを発見しました 細胞を生きたまま観察できる顕微鏡技術を用いて GLP-1 が分泌される過程を明らかにし ました GLP-1 はインスリンの分泌を促すホルモンであるため 本成果は糖尿病に対する新規治療 法の開発に貢献すると考えられます 3. 発表概要 : 脂質の一種であるリゾフォスファチジルイノシトール (lysophosphatidylinositol: LPI) は 肥 満や糖尿病の患者で血中濃度が上昇することが知られており その受容体である GPR55 は膵臓 β 細胞からのインスリン分泌に関与しています しかし 小腸から分泌されてインスリンの分 泌を促進するグルカゴン様ペプチド -1(glucagon-like peptide-1: GLP-1) の分泌に LPI がどのよ うに関わっているかは不明でした 本研究では GLP-1 を分泌する小腸内分泌 L 細胞由来の培養細胞 またマウスから採取した 小腸組織において LPI の投与により GLP-1 の分泌が増加することを見出しました さらに 細胞内の Ca 2+ や膜動態を生きたまま観察できる顕微鏡技術により LPI が GLP-1 の分泌を引き 起こす詳細な過程が明らかとなりました 以上の結果より LPI が小腸内分泌 L 細胞からの GLP-1 分泌を促進することが示唆されまし た GLP-1 は インスリン分泌の促進や食欲抑制などの作用を有しています 本研究で示され た LPI と GLP-1 分泌の関連の発見により GLP-1 分泌機構の解明が進み 糖尿病の新規治療法 開発に結び付く可能性があります 4. 発表内容 : 背景リゾフォスファチジルイノシトール (lysophosphatidylinositol: LPI) は リゾリン脂質 ( 注 1) と呼ばれるリン脂質分子の一種です LPI は細胞の移動や開口分泌に関与しており また肥満や糖尿病患者において血中濃度が上昇することが知られています ( 図 1) さらに LPI を感受 するとされる G タンパク質共役型受容体 ( 注 2) である GPR55 は 膵臓 β 細胞においてインス

リン分泌に関与することが知られており LPI や GPR55 が血糖値制御に重要な役割を担ってい る可能性が考えられます しかし 小腸から分泌されるグルカゴン様ペプチド -1(glucagon-like peptide-1: GLP-1) と LPI や GPR55 の関連性は未解明でした GLP-1 は 小腸下部の上皮に分布する小腸内分泌 L 細胞から分泌されるホルモンです ( 図 2) 消化管内の栄養素や腸内細菌代謝産物 小腸に分布する神経由来の神経伝達物質や血液中のホ ルモンなど 様々な物質が小腸内分泌 L 細胞に作用し GLP-1 の分泌を制御しています 分泌 された GLP-1 は 膵臓 β 細胞に作用してインスリン分泌を促進し また神経系へ作用して食欲 を抑制します 本研究では この GLP-1 の分泌に LPI や GPR55 が関与しているのではないか と考えました 内容 マウス小腸内分泌 L 細胞株 GLUTag 細胞に LPI を投与すると 細胞内でホルモン分泌の引き 金となる Ca 2+ 濃度が上昇し GLP-1 の分泌量が増加することを見出しました ( 図 3) GLP-1 の分泌増強効果は マウスから採取した小腸組織においても認められました また GLUTag 細胞において GPR55 が発現しており GPR55 の阻害や RNA 干渉法 ( 注 3) による発現抑制を行うことで LPI 投与に伴う Ca 2+ 濃度の上昇が部分的に抑制されました さらに イオンチャネル ( 注 4) の一種である transient receptor potential cation channel subfamily V member 2(TRPV2) チャネルを阻害 または発現抑制すると LPI 投与に伴う Ca 2+ 濃度の上 昇および GLP-1 分泌が抑制されました この TRPV2 の動態を詳しく調べるため TRPV2 に蛍 光タンパク質 GFP を融合させて GLUTag 細胞に導入し 細胞膜直下の蛍光を観察できる全反射 蛍光顕微鏡 ( 注 5) を用いて観察を行いました すると LPI の投与に伴って細胞膜の蛍光強度 が上昇しており TRPV2 が細胞膜へ移行していることが示唆されました ( 図 4) またこの反 応は GPR55 の阻害によって部分的に抑制されました 以上の結果から LPI は GPR55 に作用することに加え TRPV2 の細胞膜への移行を促して 活性化することで 小腸内分泌 L 細胞からの GLP-1 分泌を促進していると考えられます 影響 波及効果 GLP-1 はインスリン分泌の促進や食欲の抑制といった作用を持つため 糖尿病の新規治療薬 の標的候補として注目されています 今回 LPI や GPR55 と GLP-1 分泌の関連が明らかになっ たことで GLP-1 分泌機構の詳細な解明が進めば 新たな糖尿病治療法の開発に貢献できると 考えられます 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Journal of Biological Chemistry ( オンライン速報版 2017 年 5 月 22 日 ) 論文タイトル : Lysophosphatidylinositol-induced activation of the cation channel TRPV2 triggers glucagon-like peptide-1 secretion in enteroendocrine L cells 著者 :Kazuki Harada, Tetsuya Kitaguchi, Taichi Kamiya, Kyaw Htet Aung, Kazuaki Nakamura, Kunihiro Ohta, Takashi Tsuboi * ( * 責任著者 ) DOI 番号 :10.1074/jbc.M117.788653 アブストラクト URL:http://www.jbc.org/content/early/2017/05/22/jbc.M117.788653.abstract

6. 問い合わせ先 : 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系 准教授坪井貴司 ( つぼいたかし ) 153-8902 東京都目黒区駒場 3 丁目 8 番地 1 号 Tel: 03-5465-8208 E-mail:takatsuboi[ アットマーク ]bio.c.u-tokyo.ac.jp ( メールアドレスの [ アットマーク ] は @ に置き換えてください ) 7. 用語解説 : ( 注 1) リゾリン脂質リン酸とグリセロール骨格に炭化水素鎖が結合したリン脂質のうち 炭化水素鎖が 1 本のみ結合したもの 細胞膜を構成するリン脂質の多くは 炭化水素鎖が 2 本結合している ( 注 2)G タンパク質共役型受容体細胞に到達する様々な刺激物質を感知する受容体の一種 細胞膜を 7 回貫通する構造をもち 細胞内の末端に三量体 G タンパク質という 3 つのタンパク質が結合している 受容体に対する 特異的な刺激物質 ( リガンド ) が結合すると 三量体 G タンパク質が活性化して細胞内でのシ グナル伝達を引き起こす ( 注 3)RNA 干渉法 目的遺伝子のメッセンジャー RNA 配列に相補的な二本鎖 RNA を細胞に導入し その遺伝子 の発現を抑制する手法 ( 注 4) イオンチャネル 細胞膜上に存在し 様々な金属イオンを透過するタンパク質 イオンチャネルの種類により 透過するイオンの種類や透過条件が異なる ( 注 5) 全反射蛍光顕微鏡レーザー光を試料の下方から全反射する角度で照射し 全反射に伴って試料側へ発生するエバネッセント光を励起光とする顕微鏡 エバネッセント光はガラス面から 100 nm 程度のごく狭い領域にのみ発生するため ガラス面に接着した細胞を観察すると 細胞膜近傍の蛍光のみを検出できる

8. 添付資料 : 図 1.LPI の構造と生理作用 LPI はリン脂質の一種で 1 本の炭化水素鎖 グリセロール骨格 リン酸 イノシトールが結合した構造を持つ 細胞移動や開口分泌の制御に関与するとされるほか 肥満 糖尿病患者において血中濃度の上昇が見られ 血糖値制御とのかかわりが示唆されている

図 2. 小腸内分泌 L 細胞と GLP-1 の機能小腸内分泌 L 細胞は小腸上皮に少数存在し GLP-1 を分泌する GLP-1 は膵臓 β 細胞に作用しインスリン分泌を促進するほか 神経系に作用し食欲を抑制する GLP-1 の分泌は 消化管管腔由来の栄養素や腸内細菌代謝物 また血管や神経由来のホルモン 神経伝達物質により制御されている

図 3.LPI による細胞内 Ca 2+ 濃度上昇と GLP-1 分泌 (A)GLUTag における LPI 投与時の代表的な細胞内 Ca 2+ 濃度変化 GLUTag 細胞にカルシウ ム感受性蛍光色素 Fluo4-AM を導入し その蛍光強度変化を蛍光顕微鏡で観察した (B)LPI 投与時の GLUTag 細胞からの GLP-1 分泌量 データは平均 ±SD 試行回数 6 回 *** は P < 0.001 を示す (Lysophosphatidylinositol-induced activation of the cation channel TRPV2 triggers glucagon-like peptide-1 secretion in enteroendocrine L cells. Harada et al., Journal of Biological Chemistry, 2017, doi/ 10.1074/jbc.M117.788653 より一部改変 )

図 4.LPI 投与時の細胞膜上の TRPV2 動態の観察 (A) 蛍光タンパク質 GFP 融合型の TRPV2 を導入した GLUTag 細胞に LPI を投与した際の 全反射蛍光顕微鏡による疑似カラー画像 左 :0 分 右 :20 分 (B)LPI 投与時の GFP 融合型 TRPV2 の蛍光強度変化 データは平均 ±SD 細胞数 6 以上 * は P < 0.05 を示す (Lysophosphatidylinositol-induced activation of the cation channel TRPV2 triggers glucagon-like peptide-1 secretion in enteroendocrine L cells. Harada et al., Journal of Biological Chemistry, 2017, doi/ 10.1074/jbc.M117.788653 より一部改変 )