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図 7:AGEP の臨床像 ( 入院時検査所見 ): 白血球 15500/μL( 好中球 86.0% 好酸球 5.0% 単球 3.5% リンパ球 4.5% 異型リンパ球 1%) 赤血球 /μl Hg 14.4g/dL Ht 42.0% 血小板 /μl 血沈 83

いは蛇行状を呈す 数日から数週間の間隔で繰り返し出現する 臨床検査で特徴的な所見はない (3) 中毒性表皮壊死症 (toxic epidermal necrolysis: TEN) 38 以上の発熱が認められる AGEP の経過中に小膿疱が融合し 角層が薄くはがれる所見を呈することがあるが TEN

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Microsoft Word - No2-1DIHS.doc

入院 3 日目同院皮膚科で SJS と診断され プレドニゾロン 60 mg/ 日 γ- グロブリン 2.5 g/ 日の点滴治療を開始 入院 4 日目家族の希望で当科に転院 ( 現症 ): 顔面 頸部に米粒大までの暗紅色斑が多発 融合し 眼瞼 鼻孔部 口唇粘膜には発赤 びらんを伴っていた 躯幹でも同様

2015 年 8 月 27 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 3 シンポジウム2 基調講演薬疹の最新動向と今後の展望 昭和大学皮膚科教授末木博彦 はじめに本日は薬疹の最新情報と今後の展望についてお話しさせていただきます 最初に薬疹の概念が変遷しボーダレス化が進んでいるというお話 続

DLST の実際実際に DLST を行う手順を簡単にご説明します 患者末梢血をヘパリンや EDTA 添加の採血管で採取します 調べる薬剤の数によって採血量は異なりますが, 約 10 20mL 採血します. ここからフィコール比重遠心法により単核球を得て 培養液に浮遊し 96 穴プレートでいろいろな薬

本マニュアルの作成に当たっては 学術論文 各種ガイドライン 厚生労働科学研究事業報告書 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の保健福祉事業報告書等を参考に 厚生労働省の委託により 関係学会においてマニュアル作成委員会を組織し 社団法人日本病院薬剤師会とともに議論を重ねて作成されたマニュアル案をもとに

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

測されている (7) 医薬品ごとの特徴現時点では 原因医薬品ごとの特徴についての知見は得られていない (8) 副作用発現頻度人口 100 万人当たり年間 1~6 人との報告がある (9) 自然発症の頻度自然発症の頻度は明らかではない 発症の原因としては 医薬品 ( 健康食品を含む ) によるものが多

01-02(先-1)(別紙1-1)血清TARC迅速測定法を用いた重症薬疹の早期診断

6. 引用文献 参考資料 1) 日本臨床腫瘍学会. 腫瘍崩壊症候群 (TLS) 診療ガイダンス. 金原出版 ) Cairo, M. S., et al. Tumour lysis syndrome: new therapeutic strategies and classificat

性の症例や 関節炎の激しい症例に推奨されるが 副作用 ( 肝障害 骨髄抑制 間質性肺炎など ) に留意し 十分なインフォームドコンセントに配慮する必要がある 妊娠までの最低限の薬剤中止期間は エトレチナートでは女性 2 年間 男性 6か月 メトトレキサートでは男女とも3か月とされている TNFα 阻

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

汎発性膿庖性乾癬の解明

39 中毒性表皮壊死症 概要 1. 概要中毒性表皮壊死症 (Toxic epidermal necrolysis:ten) は 高熱や全身倦怠感などの症状を伴って 口唇 口腔 眼 外陰部などを含む全身に紅斑 びらんが広範囲に出現する重篤な疾患である TEN は スティーヴンス ジョンソン症候群 (S

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

Microsoft Word - 奈良県GQP-GVPガイドライン doc

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

ルギー性接触皮膚炎症候群と診断されました 欧州医薬品庁は昨年 7 月にケトプロフェン外用薬に関するレヴュー結果を公表し 重篤な光線過敏症の発症は10 0 万人に1 人程度でベネフィットがリスクをうわまること オクトクリレンが含まれる遮光剤が併用されると光線過敏症のリスク高まることより最終的に医師の処

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (


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Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

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診療科 17 診療科 病床数 494 床 (ICU3 床 HCU5 床 無菌病室 1 床含む ) 病棟数 9 病棟 ( 一般病棟入院基本料 7:1) 外来患者数 1302 人 / 日 入院患者 437 人 / 日 地域がん診療連携拠点病院 病院機能評価認定病院 (Ver5.0) 平成 22 年度実績

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耐性菌届出基準

2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

貧血 

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

ステロイド療法薬物療法としてはステロイド薬の全身療法が基本になります 発症早期すなわち発症後 7 日前後までに開始することが治療効果 副作用抑制の観点から望ましいと考えられす 表皮剥離が全身に及んだ段階でのステロイド薬開始は敗血症等感染症を引き起こす可能性が高まります プレドニゾロンまたはベタメタゾ

Microsoft Word - オーソ_201302_Final.docx

薬生安発 0302 第 1 号 平成 30 年 3 月 2 日 各都道府県衛生主管部 ( 局 ) 長殿 厚生労働省医薬 生活衛生局医薬安全対策課長 ( 公印省略 ) 医薬品リスク管理計画の実施に基づく再審査期間終了後の評価報告について の一部改正について 再審査期間中の新医薬品以外の医薬品の医薬品リ

講演1 「アトピー性皮膚炎を理解するために」

減量・コース投与期間短縮の基準

した つまり 従来から研究されてきた IgE/Fc RI を介した活性化経路は 肥満細胞活性化の一面に過ぎず むしろ生体防御の見地からすると 感染に対する防御こそ肥満細胞の機能の中心的な役割である可能性も出てきたのです この一連の研究は 肥満細胞は何もアレルギーを起こすために存在しているのではなく

多形紅斑・Stevens-Jonhnsons症候群なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

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医療事故防止対策に関するワーキング・グループにおいて、下記の点につき協議検討する

日本医薬品安全性学会 COI 開示 筆頭発表者 : 加藤祐太 演題発表に関連し 開示すべき COI 関連の企業などはありません

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小児感染免疫第29巻第4号

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2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎


161 家族性良性慢性天疱瘡

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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

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Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

情報提供の例

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

様式 2 の (1) 記載要領 血球系障害 * (1) 患者の氏名 測定日 H27 年 9 月 17 日 身長 160 cm 体重 48 kg (3) 現住所 (4) 副作用によるものとみられる疾病の名称又は症状 ( 注 ) - ) 身長 体重は (6) の医薬品を使用した時点の直近の値を記入してく

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

2016 年 4 月 7 日放送 第 67 回日本皮膚科学会西部支部学術大会 2 教育講演 1-2 EB ウイルス関連皮膚疾患 : 皮膚病変から見抜く病態と診断の進め方 岡山大学大学院皮膚科教授岩月啓氏 はじめに Epstein-Barr ウイルスは 略して EB ウイルスと呼ばれます ヒトヘルペス

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審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

過去の医薬品等の健康被害から学ぶもの

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

医薬品たるコンビネーション製品の不具合報告等に関する Q&A [ 用いた略語 ] 法 : 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律 ( 昭和 35 年法律第 145 号 ) 施行規則 : 医薬品 医療機器等の品質 有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則 ( 昭和 36 年

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

鑑-H リンゼス錠他 留意事項通知の一部改正等について

 85歳(141

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

この薬は 細菌感染症には効果がありません この薬を予防に用いる場合は 原則としてインフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族または共同生活者である下記の人が対象となります 高齢の人 (65 歳以上 ) 慢性心疾患の人 代謝性疾患の人 ( 糖尿病等 ) 腎機能障害の人 この薬は 治療に用い

2009年8月17日

改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

日本皮膚科学会雑誌第117巻第14号

( 別添 ) 御意見 該当箇所 一般用医薬品のリスク区分 ( 案 ) のうち イブプロフェン ( 高用量 )(No.4) について 意見内容 <イブプロフェン ( 高用量 )> 本剤は 低用量製剤 ( 最大 400mg/ 日 ) と比べても製造販売後調査では重篤な副作用の報告等はない 一方で 今まで

規制改革会議公開討論資料

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70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

都道府県医師会医療安全担当理事殿 ( 法安 56) 平成 27 年 8 月 5 日 日本医師会常任理事今村定臣 酵素電極法を用いた血糖測定に使用する医療機器及び体外診断用医薬品に係る 使用上の注意 の改訂について グルコース分析装置 自己検査用グルコース測定器及び自動分析装置等並びに血液検査用グルコ

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに


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より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

STEP 1 検査値を使いこなすために 臨床検査の基礎知識 検査の目的は大きく 2 つ 基準範囲とは 95% ( 図 1) 図 1 基準範囲の考え方 2

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

症化することからハイリスクとされています VZV は細胞親和性が強く cell-to-cell にウイルスが感染するため ウイルス増殖の抑制には液性免疫よりも細胞性免疫が重要であります このため 特に細胞性免疫機能の低下した宿主においては極めて重篤となり 致死的な経過をたどることが少なくありません

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重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性汎発性発疹性膿疱症 平成 2 年 5 月 厚生労働省

本マニュアルの作成に当たっては 学術論文 各種ガイドライン 厚生労働科学研究事業報告書 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の保健福祉事業報告書等を参考に 厚生労働省の委託により 関係学会においてマニュアル作成委員会を組織し 社団法人日本病院薬剤師会とともに議論を重ねて作成されたマニュアル案をもとに 重篤副作用総合対策検討会で検討され取りまとめられたものである 社団法人日本皮膚科学会マニュアル作成委員会 橋本公二 愛媛大学医学部長 医学部皮膚科教授 飯島正文 昭和大学病院長 医学部皮膚科教授 塩原哲夫 杏林大学医学部皮膚科教授 朝比奈昭彦 独立行政法人国立病院機構相模原病院皮膚科医長 池澤善郎 横浜市立大学医学部皮膚科教授 南光弘子 東京厚生年金病院皮膚科部長 伊崎誠一 埼玉医科大学総合医療センター教授 堀川達弥 神戸大学医学部皮膚科准教授 古川福実 和歌山県立医科大学皮膚科教授 白方裕司 愛媛大学医学部皮膚科講師 藤山幹子 愛媛大学医学部皮膚科助教 狩野葉子 杏林大学医学部皮膚科准教授 相原道子 横浜市立大学医学部皮膚科准教授 末木博彦 昭和大学藤が丘病院皮膚科教授 北見周 昭和大学医学部皮膚科 渡辺秀晃 昭和大学医学部皮膚科講師 森田栄伸 島根大学医学部皮膚科教授 木下茂 京都府立医科大学視覚機能再生外科学教授 外園千恵 京都府立医科大学視覚機能再生外科学講師 ( 敬称略 ) 社団法人日本病院薬剤師会 飯久保尚 東邦大学医療センター大森病院薬剤部部長補佐 井尻好雄 大阪薬科大学臨床薬剤学教室准教授 大嶋繁 城西大学薬学部医薬品情報学講座准教授

小川雅史 大阪大谷大学薬学部臨床薬学教育研修センター実践医 療薬学講座教授 大浜修 福山大学薬学部医療薬学総合研究部門教授 笠原英城 社会福祉法人恩賜財団済生会千葉県済生会習志野病院 副薬剤部長 小池香代 名古屋市立大学病院薬剤部主幹 小林道也 北海道医療大学薬学部実務薬学教育研究講座准教授 後藤伸之 名城大学薬学部医薬品情報学研究室教授 鈴木義彦 国立病院機構宇都宮病院薬剤科長 高柳和伸 財団法人倉敷中央病院薬剤部長 濱 敏弘 癌研究会有明病院薬剤部長 林 昌洋 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長 ( 敬称略 ) 重篤副作用総合対策検討会 飯島正文 昭和大学病院長 医学部皮膚科教授 池田康夫 慶應義塾大学医学部内科教授 市川高義 日本製薬工業協会医薬品評価委員会 PMS 部会委員 犬伏由利子 消費科学連合会副会長 岩田誠 東京女子医科大学名誉教授 上田志朗 千葉大学大学院薬学研究院医薬品情報学教授 笠原忠 慶應義塾大学薬学部長 栗山喬之 千葉大学名誉教授 木下勝之 社団法人日本医師会常任理事 戸田剛太郎 財団法人船員保険会せんぽ東京高輪病院院長 山地正克 財団法人日本医薬情報センター理事 林 昌洋 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部長 松本和則 獨協医科大学特任教授 森田寛 お茶の水女子大学保健管理センター所長 座長 ( 敬称略 ) 2

本マニュアルについて 従来の安全対策は 個々の医薬品に着目し 医薬品毎に発生した副作用を収集 評価し 臨床現場に添付文書の改訂等により注意喚起する 警報発信型 事後対応型 が中心である しかしながら 副作用は 原疾患とは異なる臓器で発現することがあり得ること 2 重篤な副作用は一般に発生頻度が低く 臨床現場において医療関係者が遭遇する機会が少ないものもあることなどから 場合によっては副作用の発見が遅れ 重篤化することがある 厚生労働省では 従来の安全対策に加え 医薬品の使用により発生する副作用疾患に着目した対策整備を行うとともに 副作用発生機序解明研究等を推進することにより 予測 予防型 の安全対策への転換を図ることを目的として 平成 7 年度から 重篤副作用総合対策事業 をスタートしたところである 本マニュアルは 本事業の第一段階 早期発見 早期対応の整備 (4 年計画 ) として 重篤度等から判断して必要性の高いと考えられる副作用について 患者及び臨床現場の医師 薬剤師等が活用する治療法 判別法等を包括的にまとめたものである 記載事項の説明 本マニュアルの基本的な項目の記載内容は以下のとおり ただし 対象とする副作用疾患に応じて マニュアルの記載項目は異なることに留意すること 患者の皆様へ 患者さんや患者の家族の方に知っておいて頂きたい副作用の概要 初期症状 早期発見 早期対応のポイントをできるだけわかりやすい言葉で記載した 医療関係者の皆様へ 早期発見と早期対応のポイント 医師 薬剤師等の医療関係者による副作用の早期発見 早期対応に資するため ポイントになる初期症状や好発時期 医療関係者の対応等について記載した 副作用の概要 副作用の全体像について 症状 検査所見 病理組織所見 発生機序等の項目毎に整理し記載した 3

副作用の判別基準( 判別方法 ) 臨床現場で遭遇した症状が副作用かどうかを判別 ( 鑑別 ) するための基準 ( 方法 ) を記載した 判別が必要な疾患と判別方法 当該副作用と類似の症状等を示す他の疾患や副作用の概要や判別 ( 鑑別 ) 方法について記載した 治療法 副作用が発現した場合の対応として 主な治療方法を記載した ただし 本マニュアルの記載内容に限らず 服薬を中止すべきか継続すべきかも含め治療法の選択については 個別事例において判断されるものである 典型的症例 本マニュアルで紹介する副作用は 発生頻度が低く 臨床現場において経験のある医師 薬剤師は少ないと考えられることから 典型的な症例について 可能な限り時間経過がわかるように記載した 引用文献 参考資料 当該副作用に関連する情報をさらに収集する場合の参考として 本マニュアル作成に用いた引用文献や当該副作用に関する参考文献を列記した 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページの 添付文書情報 から検索することが出来ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/index.html) 4

きゅうせいはんぱつせいほっしんせいのうほうしょう 急性汎発性発疹性膿疱症 英語名 :acute generalized exanthematous pustulosis :AGEP 同義語 :toxic pustuloderma, generalized pustular eruption A. 患者の皆様へ ここでご紹介している副作用は まれなもので 必ず起こるというものではありません ただ 副作用は気づかずに放置していると重くなり健康に影響を及ぼすことがあるので 早めに 気づいて 対処することが大切です そこで より安全な治療を行う上でも 本マニュアルを参考に 患者さんご自身 またはご家族に副作用の黄色信号として 副作用の初期症状 があることを知っていただき 気づいたら医師あるいは薬剤師に連絡してください きゅうせいはんぱつせいほっしんせいのうほうしょう重篤な皮ふ症状などをともなう 急性汎発性発疹性膿疱症 は その多くが医薬品によるものと考えられています そうごう抗菌薬 痛風治療薬 抗てんかん薬などでみられ また 総合かんぼうやく感冒薬 ( かぜ薬 ) のような市販の医薬品でもみられることがある ので 何らかのお薬を飲んでいて 次のような症状がみられた場 合には 放置せずに ただちに医師 薬剤師に連絡してください 高熱(38 以上 ) 皮ふの広い範囲が赤くなる 赤くなっしょうのうほうた皮ふ上に小さな白いブツブツ ( 小膿疱 ) が出る 全身がだるい 食欲がない などがみられ その症状が持続したり 急激に悪くなったりする 5

きゅうせいはんぱつせいほっしんせいのうほうしょう. 急性汎発性発疹性膿疱症とは? 急性汎発性発疹性膿疱症とは 高熱 (38 以上 ) とともに 急速に全身が赤くなったり 赤い斑点がみられ さらにこの赤 い部分に多数の小さな白っぽい膿みのようなぶつぶつしょうのうほう ( 小膿疱 ) が出現する病態です 血液検査値の異常も認められ ます 大部分は医薬品を飲んだ数日後に発症することが多く 原因 医薬品の服用を中止すると 約 2 週間で発疹は軽快します し かし 原因医薬品に気づかずに投与が続けられると高熱や皮ふ の症状がなおらず 重篤な状態になります 急性汎発性発疹性膿疱症の欧米での発生頻度は人口 00 万人 あたり年間 ~5 人と推定されています 原因医薬品としてはペニシリン系 マクロライド系 セフェム 系抗生物質 キノロン系抗菌薬 イトラコナゾール ( 抗真菌薬 ) テルビナフィン ( 抗真菌薬 ) アロプリノール ( 痛風治療薬 ) カルバマゼピン ( 抗てんかん薬 ) ジルチアゼム ( 降圧薬 ) ア セトアミノフェン ( 鎮痛解熱薬 ) などが多くを占めています 発症メカニズムは医薬品などにより生じた免疫 アレルギー 反応によるものと考えられています 基礎疾患として感染症が 存在する場合により発症しやすい傾向があります 6

2. 早期発見と早期対応のポイント 高熱(38 以上 ) 皮ふの広い範囲が赤くなる 赤くなった皮ふの上に小さな白いブツブツが出現 全身がだるい 食欲がない などがみられ その症状が持続したり 急激に悪くなったりするような場合には 放置せずに ただちに医師 薬剤師に連絡してください 受診時 急性汎発性発疹性膿疱症が疑われる場合は 血液などの検査を行います 基本的には入院が必要になります 原因と考えられる医薬品の服用後数時間後 ~ 週間以内に発症することが多く 原因医薬品の中止で軽快しますが 高齢者や肝 腎機能障害を有している場合には回復が遅れることがあります なお 医師 薬剤師に連絡する際には 服用した医薬品の種類 服用からどのくらいたっているのかなどを 担当医師に伝えてください また 血液検査などを受けていましたら その検査結果を担当医師にみせてください 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページの 添付文書情報 から検索することが出来ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/index.html) 7

B. 医療関係者の皆様へ. 早期発見と早期対応のポイント () 早期に認められる症状医薬品服用後急速に出現する無数の小膿疱をともなうびまん性の紅斑 浮腫性紅斑に加え 発熱 (38 以上 ) 全身倦怠感 食欲不振 医療関係者は 上記症状のいずれかが認められ その症状の持続や急激な悪化を認めた場合には早急に入院設備のある皮膚科の専門病院に紹介する (2) 副作用の好発時期原因医薬品の服用後数時間 ~ 数日以内に発症する場合 ( すでに薬剤に対して感作されている場合 ) と服用後 ~2 週間後に発症する場合 ( 初めて服用した場合 ) がある (3) 患者側のリスク因子感染症 乾癬 関節リウマチ 白血病 糖尿病などを基礎疾患として有している患者では 発症しやすい傾向がある また 高齢者や肝 腎機能障害のある患者では 当該副作用を生じた場合 症状が重症化しやすい (4) 推定原因医薬品推定原因医薬品は 抗生物質としてペニシリン系 ( アンピシリン アモキシシリン ) マクロライド系( ロキシスロマイシン ) セフェム系 ( セファロスポリン ) オキサセフェム系( フロモキセフ ) カルバペネム系 ( イミペネム ) テトラサイクリン系( ミノサイクリン ) キノロン系抗菌薬 ( ノルフロキサシン オフロキサシン ) イトラコナゾール テルビナフィン ( 抗真菌薬 ) アロプリノール( 痛風治療薬 ) カルバマゼピン ( 抗てんかん薬 ) ジルチアゼム( 降圧薬 ) アセトアミノフェン ( 鎮痛解熱薬 ) などが報告されている この他 ブフェキサマク含有外用薬や水銀摂取でも発症することがある 8

(5) 医療関係者の対応のポイント 39~40 の高熱 全身性に急速に出現する多数の 5mm 大以下の小膿疱を有する浮腫性紅斑あるいは小膿疱を有するびまん性の紅斑が主要徴候である ( 図 参照 ) 小膿疱は毛孔に一致しない( 図 2 参照 ) いずれの場合も紅斑の色調は間擦部 ( 頸部 腋窩部 陰股部など皮膚が密着して摩擦する場所 ) あるいは圧迫部に強い傾向があり この部分に小膿疱も多発密生する ( 図 3 参照 ) (4) の薬物の処方を受けている患者などで このような症状を認めたときは 原因医薬品の服用を中止した上で 血液検査を実施する 血液検査では好中球優位な白血球増多や炎症反応の上昇の有無を確認する また 敗血症を否定するために血液の細菌培養を行うことが望ましい [ 早期発見に必要な検査項目 ] 血液検査 ( 血液像を含む ) 炎症反応(C 反応蛋白 ) 血液細菌検査 図 (a,b):agep の臨床像 a) b) 紅斑上に多発する小膿疱 9

図 2:AGEP の臨床 ( 拡大像 ) 散在 融合する小膿疱 図 3:AGEP の臨床 鼠径部 ~ 大腿部の皮疹 0

2. 副作用の概要 急性汎発性発疹性膿疱症 (AGEP) は スティーブンス ジョンソン症候群 中毒性表皮壊死症 薬剤性過敏症症候群と並ぶ重症型の薬疹である 高熱とともに急速に全身性に 5mm 大以下の小膿疱が浮腫性紅斑やびまん性紅斑上に多発する 通常粘膜疹は伴わず 肝障害や腎障害はあったとしても軽度である 血液検査で 好中球優位な白血球増多と炎症反応 (CRP) の上昇がみられる 抗菌薬などの医薬品が原因となることが非常に多く 服用後数時間 ~ 数日以内に発症する場合 ( すでに薬剤に対して感作されている場合 ) と服用後 ~2 週間後に発症する場合 ( 初めて服用した場合 ) がある 原因医薬品の中止により約 2 週間で軽快する () 自覚症状 38 以上の高熱 紅斑上に多発する小膿疱 全身倦怠感 食欲不振 (2) 他覚症状間擦部 ( 頸部 腋窩部 陰股部など皮膚が密着して摩擦する場所 ) あるいは圧迫部に 5mm 大以下の毛孔に一致しない小膿疱を有する浮腫性紅斑あるいはびまん性紅斑がみられ 全身に拡大する 原因医薬品が除去されれば小膿疱は数日で乾燥し 落屑となる 時に小膿疱は融合し 角層が薄く剥がれるようになる ( 図 4 参照 ) 図 4: AGEP の臨床 角層がはがれる所見

(3) 臨床検査値末梢血で好中球優位な白血球の増加や CRP の上昇を認める 白血球中の好中球数は 7000/mm 3 が目安とされている 好酸球も軽度増加することがある. 肝 腎機能障害はあっても軽度である 血液 尿 膿疱の細菌検査で有意な細菌は検出されない (4) 画像検査所見基礎疾患に応じて検査を進める 基礎疾患として呼吸器感染症がある場合 胸部 X 線写真 胸部 CT 像をチェックする (5) 病理組織所見表皮は軽度の海綿状態を示し 角層下膿疱 あるいは表皮上層に膿疱を認める 真皮上層は浮腫性で 血管周囲に好中球 好酸球 リンパ球の浸潤を認める ( 図 5 参照 ) 時に 血管炎がみられることがある 図 5: 皮膚病理組織像 2

(6) 発症機序病変部の T 細胞の解析により 通常の播種状紅斑丘疹型の薬疹に比べて本症では末梢血や皮膚病変組織に CXCL8(interleukin-8) を産生する薬剤特異的 T リンパ球 (HLA-DR + CD4 + や HLA-DR + CD8 + ) が有意に多いことが指摘されている 最初に薬剤特異的 T リンパ球が表皮に集まり この T リンパ球やケラチノサイトから granulocyte/macrophage-colony stimulating factor (GM-CSF) や CXCL8 が産生される CXCL8 により病変部に好中球が集積するため 膿疱を形成するという機序が関与していることが考えられている (7) 医薬品ごとの特徴ペニシリン系抗生物質が原因の場合には過去にこの薬剤に経皮的に感作されているため 薬剤使用後短期間で発症することが多い (8) 副作用発現頻度人口 00 万人当たり年間 ~5 人との報告がある (9) 自然発症の頻度自然発症の頻度は明らかではない 発症の原因としては 医薬品によるものが非常に多いとされ そのほかウイルス感染 クモ咬症などによる報告がある 3. 副作用の判断基準 ( 判別方法 ) () 概念薬剤使用後 高熱とともに急速に出現する多数の無菌性小膿疱を有する汎発性の紅斑で 末梢血の好中球増多を伴う (2) 主要所見 急速に出現 拡大する紅斑 2 紅斑上に多発する無菌性の非毛孔性小膿疱 3 末梢血の白血球中の好中球増多 (7,000/mm 3 以上 ) 4 発熱 (38 以上 ) 3

(3) 副所見 皮膚病理組織学的に角層下膿疱あるいは表皮内膿疱 2 除外疾患 : 膿疱性乾癬 角層下膿疱症 中毒性表皮壊死症 汗疹 敗血疹 主要所見のすべてをみたすものを急性汎発性発疹性膿疱症とする (4) 参考所見 皮疹は間擦部や圧迫部に出現しやすい 膿疱は 5mm 大以下のことが多い 多くで粘膜疹は認めない ウイルスや細菌感染が先行あるいは増悪因子となることがある 基礎疾患( 乾癬 関節リウマチ 骨髄性白血病 潰瘍性大腸炎 掌蹠膿疱症 糖尿病など ) が存在していることが多い 4. 判別が必要な疾患と判別方法 AGEP は臨床症状 血液検査所見 病理組織所見 経過などの特徴を重視した概念で大部分が薬剤に起因すると捉えられる 一方 膿疱型薬疹は膿疱の出現という形態的特徴を重視した薬疹の一つの臨床病型である このため AGEP と膿疱型薬疹の概念は一部重複している部分がある () 膿疱性乾癬過去に乾癬の既往があり乾癬局面が存在する 医薬品の摂取歴にかかわらず発症する 発症は比較的緩徐で 小膿疱は乾癬局面内にみられる 発熱の持続期間は長い 皮膚病理組織学的には表皮肥厚 錯角化がみられる 発症より2 週間以上経過しても小膿疱が完全に消退しないことが多い ( 図 6 参照 ) 4

図 6(a,b): 膿疱性乾癬の臨床像 a) b) (2) 角層下膿疱症 (Sneddon-Wilkinson 病 ) 発熱などの前駆症状は通常なく 間擦部中心に米粒大前後の弛緩性の膿疱を形成することが多い 膿疱は融合傾向を示し しばしば環状ある 5

いは蛇行状を呈す 数日から数週間の間隔で繰り返し出現する 臨床検査で特徴的な所見はない (3) 中毒性表皮壊死症 (toxic epidermal necrolysis: TEN) 38 以上の発熱が認められる AGEP の経過中に小膿疱が融合し 角層が薄くはがれる所見を呈することがあるが TEN では全身の 0% を超える表皮の壊死性障害による水疱 表皮剥離 びらんを認め 粘膜疹を伴う 皮膚病理組織検査により鑑別できる ( 中毒性表皮壊死症( 中毒性表皮壊死融解症 ) のマニュアル参照) (4) 薬剤性過敏症症候群 (drug-induced hypersensitivity syndrome: DIHS) 全身に紅斑丘疹や多形紅斑がみられ 進行すると紅皮症となる 通常 膿疱を伴わないが ときに顔面 ~ 頸部に小膿疱が多発することがある 限られた原因医薬品の内服歴 全身のリンパ節腫脹 肝機能障害をはじめとする臓器障害 末梢白血球異常 ( 好酸球増多あるいは異型リンパ球の出現 ) 原因医薬品中止後にも遷延する経過などが鑑別点である 経過中にヒトヘルペスウイルス-6 の再活性化をみる ( 薬剤性過敏症症候群 のマニュアル参照 ) (5) 急性汎発性 ( 全身性 ) 膿疱性細菌疹多くは上気道の連鎖球菌感染症に引き続いて全身に散在性に膿疱 小紫斑が出現する 皮疹は手掌 足蹠に初発することが多く 膿疱は AGEP でみられる膿疱より大きく 紅暈を有している 関節痛などの全身症状を伴う (6) 膿疱性汗疹高熱が出現した後に間擦部に汗疹が出現し これが膿疱化した病変である 医薬品摂取に関わらず高熱後に生じる 末梢血の好中球増多を伴う白血球増多はみられない 6

(7) 敗血疹 38~40 の高熱が生じ 熱型は弛張熱 時に稽留熱で持続する 全身に膿疱が散在性にみられる 汎発性の紅斑は認められず 膿疱は AGEP で認められるものよりやや大型である 血液細菌培養で菌が検出される 5. 治療方法 まず 被疑薬の使用を中止する 薬物療法としてステロイド薬の全身投与が有効である 急性期にプレドニゾロン換算で 0.5~0.7mg/kg/ 日から開始し 症状に応じて適宜漸減する 抗菌薬による発症が疑われる場合には代替の抗菌薬は化学構造の異なるものを選択する 6. 典型的症例概要 [ 症例 ] 40 歳代 男性 ( 家族歴 ): 特記すべきことなし ( 既往歴 ):0 歳代に抗生物質による薬疹 ( 現病歴 ): 初診 6 日前に作業中に転倒し左足背に外傷を受けた 2 日後に同部の発赤 疼痛と発熱が出現し近医受診 蜂窩織炎と診断され フロモキセフナトリウムの点滴を受けた 点滴数時間後から体幹に紅斑が出現し 翌日には紅斑は全身に拡大するとともに潮紅が増し 高熱を認めたため緊急入院した ( 入院時現症 ): 顔面から体幹 上肢はびまん性に紅斑を認め 頸部 前胸部 背部などでは ~2mm 大の非毛孔性の小膿疱が多発散在していた ( 図 7 参照 ) 39 台の発熱を認めた また 左足背は蜂窩織炎のため発赤 腫脹が著明であった 7

図 7:AGEP の臨床像 ( 入院時検査所見 ): 白血球 5500/μL( 好中球 86.0% 好酸球 5.0% 単球 3.5% リンパ球 4.5% 異型リンパ球 %) 赤血球 474 0 4 /μl Hg 4.4g/dL Ht 42.0% 血小板 20. 0 4 /μl 血沈 83/4 AST 24 IU/L ALT 9 IU/L ALP 205 IU/L LDH 57 IU/L BUN 33.4 mg/dl Cr.2 mg/dl CRP 5 mg/dl 以上 ASO( anti-streptolysin O antibody) 44 IU/mL ASK (anti-streptokinase antibody)60x.( 倍 ) 各種ウイルス ( 単純ヘルペス 水痘 - 帯状疱疹ウイルス Epstein-Barr ウイルス サイトメガロウイルス ) 抗体価に有意な所見なし 細菌学的検査 ; 背部の小膿疱 血液より一般細菌の検出なし 咽頭 : 常在菌のみ 左足背部 :Streptococcus pyogenes (Group A) 検出 心電図および胸部レントゲン検査にて異常なし ( 入院後経過及び治療 ): 入院時の臨床所見で足背部の蜂窩織炎は深部へ進展する可能性が危惧されたため 入院時よりホスホマイシンの点滴 さらに翌日からヒト免疫グロブリン製剤の投与を開始した 全身の皮膚の潮紅は第 2 病日目より消退しはじめ また 小膿疱も乾燥傾向を示し 第 5 病日目には解熱し 所々に落屑がみられた その後 蜂窩織炎の発赤 腫脹も軽快傾向を示した 第 5 病日目には全身の発疹は軽度の色素沈着を残して軽快した ( 入院時病理組織所見 ): 背部の小膿疱を含む紅斑では軽度の表皮肥厚があり 表皮内にリンパ球の浸潤がみられる 角層下には膿疱が認められた また 真皮では上層の浮腫と血管周囲性に好中球 リンパ球 好 8

酸球の浸潤を認めた ( 臨床診断 ): 急性汎発性発疹性膿疱症 ( 原因医薬品の検討 ): フロモキセフナトリウムのパッチテストを施行した フロモキセフナトリウム貼付部に 48 時間後に ICDRG 基準で (2+) の所見がみられ陽性と判断した フロモキセフナトリウムの薬剤添加リンパ球刺激試験(DLST) 入院第 5 病日 53% (S.I. 値 ): 陰性入院第 24 病日 336% (S.I. 値 ): 陽性以上よりフロモキセフナトリウムによる急性汎発性発疹性膿疱症であることが確定した 7. その他 早期発見 早期対応に必要な事項 急性汎発性発疹性膿疱症は過去にすでに原因医薬品に感作されている患者に生じることが多いため 抗菌薬による接触皮膚炎の既往がある場合には 投与時に注意する必要がある 8. 引用文献 参考資料 ) 橋本公二 :Stevens-Johnson 症候群 toxic epidermal necrolysis (TEN) と hypersensitivity syndrome の診断基準および治療指針の研究厚生科学特別研究事業平成 4 年度総括研究報告 (2002) 2) Baker H et al : Generalized pustular psoriasis: A clinical and epidemiological study of 04 cases. Br J Dermatol 80:77-793(968) 3) Roujeau J-C et al: Acute generalized exanthematous pustulosis: Analysis of 63 cases. Arch Dermatol 27:333-338(99) 4) Sidoroff A et al: Acute generalized exanthematous pustulosis(agep)-a clinical reaction pattern. J Cutan Pathol 28:3-9(200) 5) 塩原哲夫 : ウイルス感染症と薬疹の鑑別. MB Derma 43:5-58 (2000) 6) Choen AD et al: Acute generalized exanthematous pustulosis mimicking toxic epidermal necrolysis. Int J Dermatol 40:458-46(200) 7) Beltraminelli HS et al : Acute generalized exanthematous pustulosis induced by the antifungal terbinafine: case report and review of the literature.br J Dermatol 52:780-783(2005) 8) Kardaun SH et al: Acute generalized exanthematous pustulosis caused by morphine confirmed by positive patch test and lymphocyte transformation test. J Am Acad Dermatol 55:S2-23(2006) 9

9) Watsky KL. Acute generalized exanthematous pustulosis induced by metronidazole: The role of patch testing. Arch Dermatol 35:93-94(999) 0) 堀田隆之, 他 : フロモキセフナトリウムによる Acute generalized exanthematous pustulosis. 皮膚臨床 44:405-409(2002) ) 南光弘子 : 本邦における有害薬物反応 (ADR) と重症薬疹 過去 5 年間に認定された皮膚障害の概要. 日皮会誌 5:55-62 (2005) 2) 飯島正文 :Stevens-Johnson 症候群. 最新皮膚科学大系, 第 5 巻, 玉置邦彦, 他編, 中山書店, 東京,pp36-46 (2004) 3) 橋本公二 :Stevens-Johnson 症候群 toxic epidermal necrolysis (TEN) と hypersensitivity syndrome の診断基準および治療指針の研究厚生科学特別研究事業平成 7 年度総括研究報告 (2005) 4) Kawaguchi M et al: Acute generalized exanthematous pustulosis induced by salazosulfapyridine in a patient with ulcerative colitis. J Dermatol 26: 359-362(999) 5) 小鍛治知子, 他 :Acute generalized exanthematous pustulosis. 臨皮 56:47-52(2002) 6) Smith K et al: Do the physical and histologic features and time course in acute generalized exanthematous pustulosis reflect a pattern of cytokine dysregulation? J Cutan Med Surg 7:7-2(2003) 7) Britschgi M et al: Acute generalized exanthematous pustulosis:a clue to neutrophil-mediated inflammatory processes orchestrated by T cells. Curr Opin Allergy Clin Immunol 2:325-33(2002) 8) 狩野葉子 : 急性汎発性発疹性膿疱症. アレルギー 免疫 4;436-440(2007) 20

参考 薬事法第 77 条の 4 の 2 に基づく副作用報告件数 ( 医薬品別 ) 注意事項 ) 薬事法第 77 条の4の2の規定に基づき報告があったもののうち 報告の多い推定原因医薬品 ( 原則として上位 0 位 ) を列記したもの 注 ) 件数 とは 報告された副作用の延べ数を集計したもの 例えば 症例で肝障害及び肺障害が報告された場合には 肝障害 件 肺障害 件として集計 また 複数の報告があった場合などでは 重複してカウントしている場合があることから 件数がそのまま症例数にあたらないことに留意 2) 薬事法に基づく副作用報告は 医薬品の副作用によるものと疑われる症例を報告するものであるが 医薬品との因果関係が認められないものや情報不足等により評価できないものも幅広く報告されている 3) 報告件数の順位については 各医薬品の販売量が異なること また使用法 使用頻度 併用医薬品 原疾患 合併症等が症例により異なるため 単純に比較できないことに留意すること 4) 副作用名は 用語の統一のため ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDR A/J)ver. 0.0に収載されている用語 (Preferred Term: 基本語 ) で表示している 年度 副作用名 医薬品名 件数 急性全身性発疹性膿疱症 塩酸テルビナフィンアモキシシリンセファゾリンナトリウム消風散カンデサルタンシレキセチルクラリスロマイシンクロタミトンコンドロイチン硫酸 鉄コロイドサラゾスルファピリジンスルバクタムナトリウム アンピシリンナトリウムエチゾラムセフジニルセフトリアキソンナトリウムドリスタンL2 フロモキセフナトリウムポリマッククリームランソプラゾールリン酸クリンダマイシンリン酸ジメモルファン塩酸ジルチアゼム塩酸セフカペンピボキシルアジスロマイシン水和物 平成 8 年度 6 4 2 合計 3 2

平成 9 年度 急性全身性発疹性膿疱症 非ピリン系感冒剤アセトアミノフェンデムコAローションアモキシシリンアロプリノールアモキサピンエトドラクカルボシステインジクロフェナクナトリウムセファゾリンナトリウムセフジトレンピボキシルセフタジジムイブプロフェンビアペネムピラジナミドブフェキサマクリン酸クリンダマイシン塩酸オロパタジン塩酸ジルチアゼム 2 2 2 2 2 合計 24 医薬品の販売名 添付文書の内容等を知りたい時は 独立行政法人医薬品医療機器総合機構の医薬品医療機器情報提供ホームページの 添付文書情報 から検索することが出来ます (http://www.info.pmda.go.jp/) また 薬の副作用により被害を受けた方への救済制度については 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページの 健康被害救済制度 に掲載されています (http://www.pmda.go.jp/index.html) 22

参考 2 ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDRA/J)ver.. における主な関連用語一覧 日米 EU 医薬品規制調和国際会議 (ICH) において検討され 取りまとめられた ICH 国際医薬用語集 (MedDRA) は 医薬品規制等に使用される医学用語( 副作用 効能 使用目的 医学的状態等 ) についての標準化を図ることを目的としたものであり 平成 6 年 3 月 25 日付薬食安発第 032500 号 薬食審査発第 0325032 号厚生労働省医薬食品局安全対策課長 審査管理課長通知 ICH 国際医薬用語集日本語版 (MedDRA/J) の使用について により 薬事法に基づく副作用等報告において その使用を推奨しているところである 下記に PT( 基本語 ) の 急性汎発性発疹性膿疱症 とそれにリンクする LLT( 下層語 ) を示す また MedDRA でコーディングされたデータを検索するために開発された MedDRA 標準検索式 (SMQ) には 重症皮膚副作用 (SMQ) があり これを利用すれば MedDRA でコーディングされたデータから 本症状を含めた皮膚の重篤副作用を包括的に検索することができる ( 急性汎発性発疹性膿疱症 は狭域検索用語) 名称 PT: 基本語 (Preferred Term) 急性汎発性発疹性膿疱症 LLT: 下層語 (Lowest Level Term) AGEP 中毒性膿疱性皮疹 英語名 Acute generalised exanthematous pustulosis AGEP Toxic pustuloderma 23