平成 20 年 3 月に告示された小 中学校の学習指導要領及び平成 21 年 3 月に告示された高等学校学習指導要領 ( 以下 学習指導要領 という ) においては, 理数教育を充実する観点から, 理科及び算数 数学の授業時数の増加, 観察 実験などの活動の充実をはじめとする指導内容の充実が図られました また, 小 中学校理科及び高等学校理科の基礎を付した科目については, エネルギー, 粒子, 生命, 地球 などの, 科学の基本的な見方や概念を柱として, 小 中 高等学校を通じた理科の内容の構造化が図られるとともに, 国際的な通用性, 内容の系統性の確保などの観点から一貫性に十分配慮するように改善が図られました この理科指導資料は, 理科の柱である観察, 実験を基に, 科学的な思考力, 表現力を育む授業づくりについて, 中 高等学校の接続を中心に, 理科の内容の系統性に配慮した授業実践を提示するものです 今年度は, 学習指導要領 及びその 解説理科編 を基に, 小 中 高等学校での学習の円滑な接続を図る観点から, 必要な指導内容を整理しました 次年度は, 系統性を踏まえた指導を行うに当たっての趣旨と指導上の留意点を分かりやすくまとめて, 実践事例とともに提示する予定です この資料が系統性を踏まえた理科の授業の計画や実施の際に参考となることを期待しています 平成 26 年 2 月 岡山県総合教育センター -1-
学習指導要領 理科 の改善の基本方針 小 中 高等学校学習指導要領解説理科編 より ( ア ) 理科については, その課題を踏まえ, 小 中 高等学校を通じ, 発達の段階に応じて, 子どもたちが知的好奇心や探究心をもって, 自然に親しみ, 目的意識をもった観察 実験を行うことにより, 科学的に調べる能力や態度を育てるとともに, 科学的な認識の定着を図り, 科学的な見方や考え方を養うことができるよう改善を図る ( イ ) ( 略 ) 科学的な概念の理解など基礎的 基本的な知識 技能の確実な定着を図る観点から, エネルギー, 粒子, 生命, 地球 などの科学の基本的な見方や概念を柱として, 子どもたちの発達の段階を踏まえ, 小 中 高等学校を通じた理科の内容の構造化を図る方向で改善する ( ウ ) 科学的な思考力 表現力の育成を図る観点から, 学年や発達の段階, 指導内容に応じて, 例えば, 観察 実験の結果を整理し考察する学習活動, 科学的な概念を使用して考えたり説明したりする学習活動, 探究的な学習活動を充実する方向で改善する ( エ ) 科学的な知識や概念の定着を図り, 科学的な見方や考え方を育成するため, 観察 実験や自然体験, 科学的な体験を一層充実する方向で改善する ( オ ) 理科を学ぶことの意義や有用性を実感する機会をもたせ, 科学への関心を高める観点から, 実社会 実生活との関連を重視する内容を充実する方向で改善を図る また, 持続可能な社会の構築が求められている状況に鑑み, 理科についても, 環境教育の充実を図る方向で改善する 下線部は系統性に関連した事項を示しています ( 以下同様 ) 小学校理科の目標と改訂の要点 小学校学習指導要領解説理科編 より 小学校学習指導要領 理科 の目標自然に親しみ, 見通しをもって観察, 実験などを行い, 問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに, 自然の事物 現象についての実感を伴った理解を図り, 科学的な見方や考え方を養う 小学校学習指導要領 理科 改善の具体的事項 ( 抜粋 ) ( イ ) ( 略 ) また, エネルギー や 粒子 といった科学の基本的な見方や概念を柱として内容が系統性をもつように留意する ( ウ ) ( 略 ) また, 生命 や 地球 といった科学の基本的な見方や概念を柱として内容が系統性をもつように留意する ( エ ) 児童の科学的な見方や考え方が一層深まるように, 観察 実験の結果を整理し考察し表現する学習活動を重視する また, 各学年で重点を置いて育成すべき問題解決の能力については, 現行の考え方を踏襲しつつ, 中学校との接続も踏まえて見直す -2-
中学校理科の目標と改訂の要点 中学校学習指導要領解説理科編 より 中学校学習指導要領 理科 の目標自然の事物 現象に進んでかかわり, 目的意識をもって観察, 実験などを行い, 科学的に探究する能力の基礎と態度を育てるとともに自然の事物 現象についての理解を深め, 科学的な見方や考え方を養う 中学校学習指導要領 理科 改訂の要点 ( 抜粋 ) (1) 改訂に当たっての基本的な考え方 1 科学に関する基本的概念のー層の定着を図り, 科学的な見方や考え方, 総合的なものの見方を育成すること エネルギー, 粒子, 生命, 地球 などの科学の基本的な見方や概念を柱として理科の内容を構成し, 科学に関する基本的概念の一層の定着が図れるよう改善する さらに, 科学的な見方や考え方を育成し, 科学技術と人間, エネルギーと環境など総合的な見方を育てる構成とする その際, 小学校との接続にも十分に配慮するとともに, 国際的な通用性, 内容の系統性の確保などの観点から改善を図る 2 科学的な思考力, 表現力の育成を図ること 3 科学を学ぶ意義や有用性を実感させ, 科学への関心を高めること 4 科学的な体験, 自然体験の充実を図ること ( 略 ) (3) 内容の改善の要点今回の改訂では, エネルギー, 粒子, 生命, 地球 などの科学の基本的な見方や概念を柱として構成し, 科学に関する基本的概念の一層の定着を図り, さらに, 科学技術と人間, エネルギーと環境, 生命, 自然災害など総合的な見方を育てる学習へと発展させる構成とした その際, 小学校 中学校の一貫性に十分配慮するとともに, 国際的な通用性, 内容の系統性の確保などの観点から改善を図った 追加及び移行した学習内容今回の改訂で, 小 中 高等学校を通じた理科の内容の構造化を図っている 小学校, 中学校及び基礎を付した科目について, エネルギー, 粒子, 生命, 地球 を柱とした内容の構成を, 図 1, 図 2に示す また, 高等学校から中学校に移行した主な内容を以下に示す [ 中学校理科 第 1 分野 ] 力とばねの伸び, 重さと質量の違い, 水圧, プラスチック, 電力量, 熱量, 電子, 直流と交流の違い, 力の合成と分解, 仕事, 仕事率, 水溶液の電気伝導性, 原子の成り立ちとイオン, 化学変化と電池, 熱の伝わり方, エネルギー変換の効率, 放射線, 自然環境の保全と科学技術の利用 -3-
-4- 高等学校学習指導要領解説 理科編 より
高等学校学習指導要領解説 -5- 理科編 より
[ 中学校理科 第 2 分野 ] 種子をつくらない植物の仲間, 無脊椎せきつい動物の仲間, 生物の変遷と進化, 日本の天気の特徴, 大気の動きと海洋の影響, 遺伝の規則性と遺伝子,DNA, 月の運動と見え方, 日食, 月食, 銀河系の存在, 地球温暖化, 外来種, 自然環境の保全と科学技術の利用 高等学校理科の目標と改訂の要点 高等学校学習指導要領解説理科編 より 高等学校学習指導要領 理科 の目標自然の事物 現象に対する関心や探究心を高め, 目的意識をもって観察, 実験などを行い, 科学的に探究する能力と態度を育てるとともに自然の事物 現象についての理解を深め, 科学的な自然観を育成する 高等学校学習指導要領 理科 改訂の要点 ( 抜粋 ) 改訂に当たっての基本的な考え方 (1) 科学的な概念の理解など基礎的 基本的な知識 技能の確実な定着を図る観点から小 中 高等学校を通じた理科の内容の構造化を図るとともに, 科学的な思考力 表現力の育成を図る観点から探究的な学習活動をより一層充実する 中学校との接続に配慮し, 高等学校理科の各科目の構成及び内容の改善 充実を図るとともに, 科学的に探究する能力と態度の伸長を図ることができるよう改善する 全国学力 学習状況調査結果等から見えてきた課題 平成 24 年 4 月に全国学力 学習状況調査で初めて理科が実施されました 理科の結果においては, 観察 実験の結果などを整理 分析した上で, 解釈 考察し, 説明すること などが課題とされたほか, 小学校と中学校との比較で理解や意欲の落ち込みが他教科に比べて大きいこと 理科が実社会で役に立つという意識が他教科に比べて低いこと などが明らかとなりました 理科の学習指導の改善 充実に向けた調査分析について よりまた,JST( 科学技術振興機構 ) 理数学習支援センターが, 中学校段階での理科教育の改善や充実を促すとともに, 将来の科学技術を索引する人材の育成を支援する施策の立案に資するため, 平成 25 年 3 月に, 全国の公立中学校及び中等教育学校 417 校,1,229 名の理科教員と 13,430 名の第 2 学年の生徒を対象に全国調査を実施しました そして, その結果が, 平成 25 年 9 月に 平成 24 年度中学校理科教育実態調査集計結果 ( 速報 ) として発表されました 各分野の指導について回答した割合を示したものが表 1です -6-
表 1 中学校理科教員が各分野の指導をどうとらえているか物理 (%) 化学 (%) 生物 (%) 地学 (%) 得意 22.54 35.31 24.41 17.09 やや得意 45.16 50.61 47.19 40.11 やや苦手 28.23 12.86 25.87 35.31 苦手 3.82 0.81 2.28 7.00 無回答 0.24 0.41 0.24 0.49 (N=1229) 中学校や高等学校の理科教員は, 教科専門として採用されていることもあり, 領域, 分野の専門性の向上よりは, 多感な時期を迎えている生徒への対応や, 学習者の立場に立った発問の仕方や授業の組み立て方など, 授業実践に必要な指導力に課題があると言われてきました 高等学校では多くの学校で, 物理, 化学, 生物, 地学をそれぞれ別の教員が指導していますが, 中学校では, 生徒数の関係などから,4つの領域それぞれの専門の教員が, 一つの学校に在籍することはほとんどありません そのため, 教員自身が専攻したり深く研究したりしていない分野や領域の授業を担当しているのが現状です したがって, かなりの割合の中学校理科教員が, 分野によっては苦手意識を抱えながら指導に当たっていることがこの回答からも明らかになりました また, 校内で, 普段の話し合いを含め, 理科やその他の教科の教員と, 理科の授業改善につながる協議を行うことはどの程度ありますか の問いに対して, ほぼ毎日協議していると回答した理科教員の割合は約 5%, 週に数回あると回答した教員は約 25%, 月に数回と回答した教員は約 32%, 年に数回と回答した教員が約 31% でした 小学校と異なり教科担任制である中学校において, 教科に関わる校内研修を行うことはなかなか困難な状況があり, 他教科の教員も含めた教科の話し合いをすることが非常に少ない傾向であることが分かります 今回の改訂では, 特に中学校理科の授業時数が大きく増えました この指導内容の中には, 指導する教員にとって, これまで指導したことのない内容ばかりでなく, その教員自身が中学時に学んでこなかった内容も含まれることになります このことに加え, 児童生徒の科学的な思考力 表現力や関心 意欲 態度など, 学習状況を把握 分析し, 課題の改善に向けた取り組みにつなげていくことが求められています 児童生徒が抱えている課題は, ある日突然出てくるのではなく, 小 中 高等学校という発達の段階, あるいは教育の系統的な指導の中で, どこかにつまずきの要素があり, それが積み重なることによって顕在化してきます このことは, 児童生徒の学習に対する受け止め方が年齢とともに消極的になっていく傾向にも当てはまっています このような状況の中で, 約 90% の教員が 理科の授業 や 理科の教材研究 に 力を入れて取り組みたいと思っている ( 理想 ) と回答しているのに対し, 現実的には 日頃から力を入れて取り組んでいる ( 実態 ) と思っている教員が少ないことも分かりました これらを踏まえ, 本研究では理科の柱である観察, 実験を柱に科学的な思考力, 表現力を育む授業づくりについて, 理科の内容の系統性に配慮することの重要性を明らかにするとともに, 授業実践を提示したいと考えています -7-