報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

解禁日時 :2018 年 8 月 24 日 ( 金 ) 午前 0 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2018 年 8 月 17 日国立大学法人東京医科歯科大学学校法人日本医科大学国立研究開発法人産業技術総合研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 軟骨遺伝子疾患

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

Microsoft Word - 【HP掲載用】リリース_EGFR肺がん関与遺伝子発見ver4.2_確定版

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

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日本人に多い EGFR 変異を持つ肺腺がんの罹りやすさを決める遺伝子領域発見 免疫を司る HLA 遺伝子など 6 遺伝子領域が関与 国立研究開発法人国立がん研究センター国立研究開発法人理化学研究所愛知県がんセンター国立大学法人秋田大学国立大学法人大阪大学国立大学法人京都大学国立大学法人群馬大学国立大

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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2. PleSSision( プレシジョン ) 検査の内容について 網羅的ながん遺伝子解析とは? 月 木新患外来診療中 現在 がん は発症臓器 ( たとえば肺 肝臓など ) 及び組織型( たとえば腺がん 扁平上皮がんなど ) に基づいて分類され 治療法の選択が行われています しかし 近年の研究により

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

埼玉医科大学倫理委員会

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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間質性肺炎合併肺癌に関するステートメント 出版にあたって 発刊の目的肺癌診療, 特に薬物療法は分子標的治療 免疫療法を含めその進歩には目を見張るものがあります. このような新たな治療開発に臨床試験での評価は欠かすことができませんが, 残念ながらほぼすべての肺癌臨床試験で間質性肺炎合併例は登録から除外

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

生物時計の安定性の秘密を解明

4. 研究の背景 : エストロゲン受容体陽性で その増殖にエストロゲンを必要とする Luminal A [3] と呼ばれるタイプの乳がんは 乳がん全体の約 7 割を占め 抗エストロゲン療法が効果的で比較的予後良好です しかし 抗エストロゲン剤の効果が低く手術をしても将来的に再発する高リスク群が 約

汎発性膿庖性乾癬の解明

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 椎間板ヘルニアの新たな原因遺伝子 THBS2 と MMP9 を発見 - 腰痛 坐骨神経痛の病因解明に向けての新たな一歩 - 骨 関節の疾患の中で最も発症頻度が高く 生涯罹患率が 80% にも達する 椎間板ヘルニア

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

東京医科歯科大学医歯学研究支援センター illumina Genome Analyzer IIx 利用基準 平成 23 年 10 月 1 日医歯学研究支援センター長制定 ( 趣旨 ) 第 1 条次世代型シークエンサーはヒトを含むあらゆる生物種の全ゲノム配列の決定 全エキソンの変異解析 トランスクリプ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

EGFR-TKI を使用した場合と第 2 世代 EGFR-TKI を使用した場合とでその後のタグリッソの効果が同等であるかは明らかではありません 両者の間で EGFR 以外の癌に関する遺伝子の状態にも違いが生じている可能性もあります そこで今回私たちは EGFR-TKI に対する耐性獲得時に T79

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

平成24年7月x日

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大規模ゲノム解析から明らかとなった低悪性度神経膠腫における遺伝学的予後予測因子 ポイント 低悪性度神経膠腫では 遺伝子異常の数が多い方が 腫瘍の悪性度 (WHO grade) が高く 患者の生命予後が悪いことを示しました 多数検体に対して行った大規模ゲノム解析の結果から 低悪性度神経膠腫の各 sub

平成14年度研究報告

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研究成果報告書

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

家族の介護負担感や死別後の抑うつ症状 介護について全般的に負担感が大きかった 割合が4 割 患者の死亡後に抑うつ等の高い精神的な負担を抱えるものの割合が2 割弱と 家族の介護負担やその後の精神的な負担が高いことなどが示されました 予備調査の結果から 人生の最終段階における患者や家族の苦痛の緩和が難し

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし


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博士学位申請論文内容の要旨

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4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

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スライド 1

血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被

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いることが推測されました そこで東京大学医科学研究所の氣駕恒太朗特任研究員 三室仁美 准教授と千葉大学真菌医学研究センターの笹川千尋特任教授らの研究グループは 胃がんの発 症に深く関与しているピロリ菌の感染現象に着目し その過程で重要な役割を果たす mirna を同定し その機能を解明しました スナ

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

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報道関係各位 日本人の肺腺がん約 300 例の全エクソン解析から 間質性肺炎を合併した肺腺がんに特徴的な遺伝子変異を発見 新たな発がんメカニズムの解明やバイオマーカーとしての応用に期待 2018 年 8 月 21 日国立研究開発法人国立がん研究センター国立大学法人東京医科歯科大学学校法人関西医科大学慶應義塾大学医学部国立研究開発法人日本医療研究開発機構 本研究成果のポイント 世界に先駆けて間質性肺炎に合併した肺腺がん ( 間質性肺炎合併肺腺がん ) の遺伝子変異の特徴を明らかにしました 肺の形成や働きにかかわる遺伝子群の機能を失わせるような変異が間質性肺炎合併肺腺がんで高頻度に見られることがわかりました 間質性肺炎合併肺腺がんの病態解明と新規治療法開発への応用が期待できます 国立研究開発法人国立がん研究センター ( 理事長 : 中釜斉 東京都中央区 ) 研究所 ( 所長 : 間野博行 ) ゲノム生物学研究分野の河野隆志分野長らは 国立大学法人東京医科歯科大学などと共同で 54 例の間質性肺炎合併肺腺がんを含む日本人肺腺がん 296 例の全エクソン解析の結果から 肺サーファクタントシステム遺伝子群 (Pulmonary Surfactant System Genes) が間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異であること またその変異を有する群では生命予後が不良であることをつきとめました その研究成果は 米国臨床腫瘍学会機関誌 Journal of Clinical Oncology Precision Medicine に 8 月 17 日付で発表されました 間質性肺炎合併肺腺がんの予後は不良であるため その治療や予後予測を可能とするバイオマーカーの解明が急務でした しかしながら 治療合併症への懸念などから 外科的手術の適応とならないことが多く そのため 解析試料の集積が難しく ゲノム異常については未解明なままでした 本研究は過去最大級のサンプル数で ゲノム網羅的な解析を行った初めての報告です 1

背景 間質性肺炎は肺胞構造の破壊と線維化をもたらす病気で 肺がんのリスクを高める重要な因子です 一般的な肺がんにおいては 発がんの原因となるドライバー遺伝子が多数同定されており そのがん遺伝子に対する特異的分子標的薬が奏功することが知られています しかし 間質性肺炎合併肺がんに特徴的ながん遺伝子異常や発がん機構については明らかではありませんでした このような背景から 研究グループは今回間質性肺炎合併肺腺がんに注目してゲノム網羅的な遺伝子 変異の検出を行い 間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的な遺伝子変異の解析を試みました また その 変異について臨床情報を組み合わせることで遺伝子変異の意義について検討を行いました 研究概要 1) 間質性肺炎合併肺腺がんのドライバー遺伝子異常の分布の解明研究グループは東京医科歯科大学と国立がん研究センター中央病院で肺腺がんと診断されて根治的手術を受けた患者から 54 例の間質性肺炎合併肺腺がんの患者試料を抽出し 既知のドライバー遺伝子異常がどのように分布しているのかについて解析しました また 間質性肺炎を有さない一般的肺腺がんの症例 637 例を比較対象として同様の解析を行いました その結果 がんの原因となるドライバー遺伝子の分布は間質性肺炎の有無によって大きく異なることが判明しました 一般的肺腺がんでは 約 70% に EGFR 等のドライバー遺伝子異常を認めましたが 間質性肺炎合併肺腺がんでは約 25% にしかドライバー遺伝子異常は存在せず これまでの研究では解明されていない発がん経路をたどっていることが判明しました ( 図 1) 図 1 間質性肺炎合併および一般肺腺がんのドライバー遺伝子の分布 2) 全エクソン解析で判明した肺サーファクタントシステム遺伝子群の変異とその意義間質性肺炎合併肺腺がんの約 75% の発がん経路は既存のドライバー遺伝子に依存しておらず 未知の発がん機構の存在が示唆されました そこで 間質性肺炎合併肺線がん 51 例を含む肺腺がん 296 例の全エクソン解析でゲノム網羅的に遺伝子変異を検出するための解析を行ったところ 肺の発生や臓器としての働きを担うサーファクタントシステム遺伝子群の機能を失わせるような変異が 間質性肺炎合併肺腺がんに特徴的なゲノム異常であることが明らかになりました また これらの遺伝子に異常がある症例では腫瘍組織が未成熟な傾向を示し その生命予後が不良でした ( 図 2) 2

図 2 肺サーファクタント遺伝子は間質性肺炎合併例に多く その予後は不良となる 今後の展望 本研究から 間質性肺炎合併肺腺がんのゲノム異常の特徴が肺サーファクト遺伝子の機能を失わせるような変異であることを明らかにしました 予後の改善のためには 新たな発がん機構の解明と更なる疾患特異的な治療を開発することが重要であり その基礎的なデータとして本研究は多大なる貢献をすることが期待されます 共同研究者 本研究は 以下の施設を含む 多くの研究グループによる取り組みの成果です また 試料提供にご協力 ご賛同してくださった患者 家族の皆様へも深く御礼を申し上げます 引き続き 生体試料を用いた研究に対するご理解とご支援をお願いいたします 1. 国立がん研究センター中央病院渡邊俊一科長 元井紀子医長など先端医療開発センター土原一哉分野長など 2. 東京医科歯科大学本多隆行特任助教 稲瀬直彦特命教授 大久保憲一教授など 3. 関西医科大学蔦幸治教授など 4. 慶應義塾大学医学部病理学教室金井弥栄教授など 5. 日本医療研究開発機構 本研究への支援 日本医療研究開発機構次世代がん医療創生研究事業早期がん及びリスク依存がんの統合解析による肺発がん多様性の理解と重点化治療戦略の策定 (JP18cm0106532) 3

発表論文 雑誌名 : Journal of Clinical Oncology Precision Medicine, 2018, on line publication. タイトル : Deleterious Pulmonary Surfactant System Gene Mutations in Lung Adenocarcinomas Associated with Usual Interstitial Pneumonia 著者 : Takayuki Honda, Hiroyuki Sakashita, Kyohei Masai, Hirohiko Totsuka, Noriko Motoi, Masashi Kobayashi, Takumi Akashi, Sachiyo Mimaki, Katsuya Tsuchihara, Suenori Chiku, Kouya Shiraishi, Yoko Shimada, Ayaka Otsuka, Yae Kanai, Kenichi Okubo, Shunichi Watanabe, Koji Tsuta, Naohiko Inase, Takashi Kohno*. (* 責任著者 ) DOI: 10.1200/PO.17.00301 URL: http://ascopubs.org/doi/full/10.1200/po.17.00301 用語解説 全エクソン解析次世代シークエンサーを用いて エクソン配列のみを網羅的に解析する手法 エクソン配列は 全ゲノム配列の約 1% を占め タンパク質に翻訳される領域である そこで 機能的に重要な遺伝子変異を効率よく見つけることができる < 報道関係からのお問い合わせ先 > 国立研究開発法人国立がん研究センター研究所ゲノム生物学研究分野分野長河野隆志 104-0045 東京都中央区築地 5-1-1 TEL:03-3542-2511( 内線 3879) E-mail:kkohno@ncc.go.jp 企画戦略局広報企画室 TEL:03-3542-2511( 代表 ) FAX:03-3542-2545 E-mail:ncc-admin@ncc.go.jp 国立大学法人東京医科歯科大学総務部総務秘書課広報係 113-8510 東京都文京区湯島 1-5-45 TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272 E-mail:kouhou.adm@tmd.ac.jp 学校法人関西医科大学広報戦略室 573-1010 大阪府枚方市新町 2-5-1 TEL:072-804-2126 E-mail:kmuinfo@hirakata.kmu.ac.jp 慶應義塾大学信濃町キャンパス総務課 160-8582 東京都新宿区信濃町 35 TEL:03-5363-3611 FAX:03-5363-3612 4

E-mail:med-koho@adst.keio.ac.jp <AMED 事業に関すること> 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 戦略推進部がん研究課次世代がん医療創生研究事業担当 100-0004 東京都千代田区大手町一丁目 7 番 1 号 TEL:03-6870-2221 E-mail:cancer@amed.go.jp 5