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平成 27 年度製造基盤技術実態等調査 ( モデルベース開発に係わる自動車産業への影響に係わる調査 ) 報告書 平成 28 年 3 月 株式会社電通国際情報サービス 1

目次 1. 背景と目的 2. 調査内容と実施方法 1) 調査内容 (1) モデル表記規格の詳細と自動車メーカー 部品メーカー間のモデル授受検討 (2) 部品メーカーモデルの計算確認 (3) 欧州でのモデルベース開発の普及状況の調査 2) 実施方法 3) ガイドライン案 4) トライアルの実施方法 3. 研究会 ワーキンググループの活動内容 1) 研究会 ワーキンググループの開催実績 2) 議事 4. 実施結果報告 1) トライアル結果 2) 欧州でのモデルベース開発の普及状況の調査 5. 総括 2

1. 背景と目的 IoT (Internet of Things) 時代においては モノのデジタル化 ネットワーク化が急速に拡大し 実世界と IT が緊密に結合されたシステムである Cyber Physical System(CPS) が進展していくことが見込まれる 自動車産業分野においても 既に部品の受発注における電子かんばんシステムや商用車テレマティクス情報を活用したアフターサービスなど様々な取組が進んでいる 特に 近年 自動車の高機能化 ( 電子制御システム及び安全運転システムの導入 ネットワーク化 ) パワートレインの多様化等によって自動車設計開発業務が複雑化することに伴って 先行開発 設計開発の効率化 性能 品質の向上が極めて高いレベルで行うことが求められる中で 開発 性能評価のプロセスをバーチャル シミュレーション ( いわゆるモデルベース開発 (Model Based Development) 以下 MBD という ) で行う重要性が拡大し 従来日本の自動車産業の強みとする開発段階のいわゆる 擦り合わせ のプロセスにも 今後 大きな変化をもたらす可能性が高い こうした中で 自動車部品をシステム単位で モデルを伴って納入することができるメガサプライヤーの存在感が増大している傾向も見られるが 開発初期段階でモデルを使った 擦り合わせ を行うことは抜本的に開発を効率化し またモデルを活用した開発領域と生産領域の解析の連携は高度化する自動車の性能 品質の向上を高いレベルで実現することが可能であることから 我が国自動車産業の開発基盤 生産技術力の維持 強化の観点からは 自動車メーカーと中小規模を含めた部品メーカーが 共存共栄の考え方に基づく連携の下で 従来の 擦り合わせ の強みを活かしつつ 効率的に MBD を活用していくことを強力に進めていく必要がある 現在 MBD の推進に当たっては 1 多くの自動車部品メーカーにおいて モデル化に対応可能な人材 設備 ( ソフトウェア ) 面で課題があるとともに 2モデルの標記等に関する統一されたルールが無く 自動車部品メーカーは自動車メーカーごとに異なる複数のモデルに対応を余儀なくされる 自動車メーカーは部品メーカーから納入されたモデルが自社モデルとルールが異なって使用できないなど モデルの流通可能性にも課題があり その潜在力が十分に発揮されていない状況にある このため 部品メーカーの競争力の源泉となる差別化領域を適切に確保しつつ MBD 推進に係る協調領域を適切に設定していくためモデル流通 シミュレーションの高度化 標記ルールの統一のあり方や その推進による我が国の自動車産業への影響について調査を行った また その際 我が国に先行して MBD が普及している欧州の状況も合わせて調査した 国内外の文献 統計 公開資料等の調査 分析の他 国内外の自動車関連企業や関連団体等へのヒアリングについては モデルベース開発について積極的な取組を行っている国内自動車メーカーおよび部品メーカー 10 社による研究会とワーキンググループを組成し 調査を実施した 3

2. 調査内容と実施方法 1) 調査内容具体的な調査内容は 以下の3つである (1) モデル表記規格の詳細と自動車メーカー 部品メーカー間のモデル授受検討自動車メーカー各社保有の個別モデルについて作動確認を行った上で 同モデルを部品メーカーに授受する際に問題となりうる項目について調査 分析を行う その際 予め共通モデル ( ハイブリッド自動車用を想定 ) を自動車メーカー各社と調整の上 用意して実施する (2) 部品メーカーモデルでの計算確認 (1) での調査を踏まえて MBD 推進に係る協調領域を適切に設定していくためモデル流通 シミュレーションの高度化 標記ルールの統一のあり方を検討するのに有効なトライアル案件を最低 1 件は抽出 抽出した案件について 標記ルールの統一化やシミュレーションの高度化等を実証的に行い 実証を行う上で問題となった点や 複数の自動車メーカーや部品メーカーを巻き込んでのモデルベース開発の成果について 調査分析する (3) 欧州でのモデルベース開発の普及状況の調査モデルベース開発で先行している 欧州の国際コンソーシアムのプラクティスについて現地調査 (2 ヶ国以上 ) を行い モデルの共有のための体制 共有しているモデルの内容 ( 競争領域と協調領域の設定の基準等 ) 部品メーカーとの連携のあり方について調査する 2) 実施方法調査内容 (1)(2) は モデル表記に関するガイドライン ( 案 ) を用いて 自動車メーカーと部品メーカー間で実証トライアルを行い 表記ルールの統一やモデル流通のあり方 我が国自動車産業への影響について調査 分析を実施した 調査内容 (3) は 2014 年にモデル流通に関する研究の一環として実施した欧州調査の考察を踏まえて モデルベース開発で先行している企業が参加する国際会議 第 11 回 Modelica Conference 2015( フランス ) への参加と モデルベース開発のツール連携に関する最新技術を所有する自動車研究機関 Virtual Vehicle( オーストリア ) への訪問調査を実施し調査結果を作成した 4

本調査に先立って 2014 年に実施した欧州調査の考察を以下に示す 欧州では ツール 表記の標準化はフレームワーク構築に留め 詳細部分は自動車メーカーと部品メーカー間で取り決める方向 自動車メーカー各社で共通の標準を作ることは考えていない - 自動車メーカー各社で仕様要求が異なる - 各社間の取り決めはオプションとして記述することを考えている 本調査で用いたガイドライン( 案 ) のように 詳細な部分まで標準化する必要性は感じていない 3) ガイドライン ( 案 ) 今回のトライアルに使用したガイドライン ( 案 ) は 2013 年度の 自動車パワートレインのモデルベース開発におけるエネルギーマネジメントモデルに関する研究会 で議論し作成されたものである ガイドライン ( 案 ) は 1モデル間の入出力仕様 2モデルでのエネルギー収支表現の仕様を規定しており ブロック図表記となっている エネルギーの概念でモデル同士をつないでいくために 流動量 Aと位差量 Bの対で部品を接続し 部品と部品の間にどんなエネルギー収支があるかの関係を表現することができるように作成されている 4) トライアルの実施方法ガイドライン ( 案 ) をモデルのインターフェースの共通ルールとして用い 自動車メーカーと部品メーカー間のモデル授受及びシミュレーション動作を検討するトライアルを実施した シミュレーションは構想設計段階での燃費評価を対象とした トライアルは 自動車メーカー 4 社と部品メーカー 6 社で 8 組の自動車メーカーと部品メーカーの組合せ ( ペアリング ) を組成して実施した トライアルは 第一回研究会において上記の組合せ ( ペアリング ) によるトライアル実施の合意を得て 各社の実務担当者が参加する計 3 回のワーキンググループを開催して実施した 以下に実務担当者のワーキンググループにおける具体的な検証手順を示す ( 詳細は 図表 1: 構想段階での燃費評価のトライアル検証手順を参照 ) 5

(1) 流通トライアルモデルの決定 (2) モデル準備 部品メーカーがガイドライン( 案 ) に基づきモデルのインターフェースを修正 (3) モデル送付 (4) モデル動作検証 自動車メーカーが受領した部品メーカーのモデルを自社のモデルへ組込み 動作を確認 (5) 検証結果報告 図表 1: 構想段階での燃費評価のトライアル検証手順 また 最終回 ( 第三回 ) の実務担当者ワーキンググループ開催前に自動車メーカー 4 社による事前ミーティングを実施し 研究会への報告内容と今後の提言に関して議論し 第三回ワーキンググループで合意を得た その後 第二回研究会で実務者ワーキンググループのトライアル結果および今後の提言に関する報告を行い 調査結果をとりまとめた 6

3. 研究会 ワーキンググループの活動内容 1) 研究会 ワーキンググループの開催実績本調査を行うために開催した研究会 ワーキンググループの実績を 図表 2 図表 3 に示す 内容 日時 会場 第一回自動車産業におけるモデル 2015 年 11 月 19 日 ( 木 ) 11:30~12:30 三田共用会議所第 3 特別会議室 利用に関する研究会 第二回自動車産業におけるモデル利用に関する研究会 2016 年 3 月 8 日 ( 火 ) 16:00~17:30 電通国際情報サービス品川本社セミナールーム 図表 2: 自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会の開催実績 内容 日時 会場 第一回実務者ワーキンググループ 2015 年 12 月 22 日 ( 木 ) 13:30~17:00 電通国際情報サービス中部支社 第二回実務者ワーキンググループ 2016 年 1 月 29 日 ( 金 ) 14:00~17:00 電通国際情報サービス品川本社 実務者ワーキンググループ自動車メーカー 4 社 2016 年 2 月 29 日 ( 金 ) 13:30~17:00 電通国際情報サービス中部支社 事前ミーティング 第三回実務者ワーキンググループ 2016 年 2 月 29 日 ( 月 ) 13:00~17:00 電通国際情報サービス中部支社 図表 3: 実務者ワーキンググループの開催実績 2) 議事 第一回研究会において 研究会の議事の取り扱いは原則として非公開とすることが確認 された 7

4. 実施結果報告 1) トライアル結果今回のトライアルでは 各社既存のモデルをガイドライン ( 案 ) に従って修正し授受した ガイドライン ( 案 ) に沿ってモデル接続をすることで 共通の考え方でモデル修正ができ モデルの修正の効率化が図れることが トライアル全社から効果として挙げられている また 今回の部品の中で同じモデルを別の自動車メーカーに提供する試みも実施したが 接続が可能であった これはガイドラインを利用することで これまでは同じ部品のモデルでも各自動車メーカーごとにモデルを修正して提供していたが そのモデル修正工数を削減できることになることを示している 今回のトライアルはプラントモデル ( 機構系 ) に関する範囲での適用が可能であることを確認することができた 図表 4 は 調査内容 (1) のモデル表記規格の詳細と自動車メーカー 部品メーカー間のモデル授受検討 (2) のモデル流通 シミュレーション高度化 表記ルールの統一の課題や成果について トライアル結果をもとにまとめたものである 図表 4: トライアル結果総括 ( 調査内容別 ) 8

2) 欧州でのモデルベース開発の普及状況の調査 (1) 第 11 回 Modelica Conference 2015 モデル流通全般に関する調査を目的に参加 - モデル流通に関する発表は 7 件 - ProSTEP は FMI( ) を産業界で普及させるための活動を実施 ユースケースや Reference Process を調査している FMI: 欧州主導のモデル流通の Syntax( 分法的 ) の標準化 - Modelica 協会にて新しいワーキンググループ :System Structure & Parametrization が活動を開始 モデル流通の Model の構造やパラメータを埋め込む方法を議論している - JSAE からの提言として FMI で接続する際の極性について発表 ( 非因果モデリングツールを用いた FMI モデル接続ガイドライン ) - 航空機の事例として モデルを流通させるための現状と課題が紹介 (Airbus, DLR) - モデルの再利用のために モデルからナレッジを抽出して Index を付ける発表があった ( マドリード大学 ) - 航空機の事例 : 初期開発 Phase でモデル交換を容易にしたシステムモデルの紹介があった (Dassault Aviation) 他情報 - 仏 独の一部の自動車メーカー ( プジョー & シトロエン BMW) が Semantic な ( 意味論的 ) 標準化のルール作りを開始したとの情報有り 欧州の自動車メーカーとしても全く新しい取り組みである - 航空機業界では 10 年以上前から共通アーキテクチャに基づくモデル流通を始めている ( 現在 ボーイングとエアバスでのモデルインターフェイスは共通 ) 継続して情報収集が必要な欧州組織 団体 - 欧州での文法的な標準化の動向を把握するために 下記のような組織 団体の活動動向を継続して情報収集していく必要があると考える Modelica Association: https://www.modelica.org/ FMI: https://fmi-standard.org/ ProSTEP ivip Smart Systems Engineering Project: http://www.prostep.org/en/projects/smart-systems-engineering.html 9

(2) 異なるシミュレーションツールのモデル流通 ( 連携 ) のための技術調査ツール間連携の必要性として 複雑性を増す製品開発を行うためには メーカー設計 電気設計 制御設計といった複数部署間や 自動車メーカーと部品メーカー間で 横断的にシミュレーションすることが必要となってきている しかし 各分野 部門で最適な Simulation ツールは異なる場合が一般的で 一つのツール上で全てのモデルを構築することは難しいケースが多い ( ツールの得意 不得意分野が存在する ) 従って 異なるツールによる連携が今後必要になってくるということは 欧州でも常識となりつつある ツール間連携を伴い 分野横断的にシミュレーションを実行する方法として 1FMI/FMU 2 連携専用ツール 3Simulink の S-Function を使用する手法がある ここでは 2の連携専用ツールについて述べる 図表 5: 異なるツール間の連携方法 連携専用ツールとして 従来の連携専用ツールの固有の欠点を克服したものが市販されている 従来の連携専用ツールの欠点は 1 信号のステップ遅れが発生し 精度が悪化する 2 部分モデルの計算ステップ幅が異なる際に精度が悪化する等である 10

図表 6: 連携専用ツール 連携の新技術を持っている技術者とのミーティングを実施し 従来の Co-Sim の弱点を克服する機能について議論した 具体的には Virtual Vehicle 社 ( オーストリア ) の ICOS の開発責任者である Martin Benedikt 氏に聞き取り調査を実施した 連携の新技術として 以下の 2 つの手法が存在することを確認した NEPCE(Nearly Energy Preserving Coupling Elements) - 通信ステップが積分ステップに比べて粗い場合に 制御の考え方を用いてエネルギー誤差をゼロに近づけるようにし 入力が来ない間に外挿予測する精度を上げる手法 - 従来の単なる多項式外挿とは一線を画する手法である ACoRTA - HiL のような Real-time モデルと結合するために プラントモデルの特性を線形二次システムで近似して高速に外挿予測する手法 - 信号処理の分野の Karman Filter の技術を応用したもの - 異なるツールを連携させる際の問題が小さくなり モデルの流通が広がる契機になる可能性がある 11

(3)2015 年度の欧州調査の総括今回の欧州調査で判明したこと : 欧州主導の Syntax の ( 文法的 ) 標準化は益々進んでいる - モデル連携技術だけでなく データの持たせ方等へも発展 - 異なるツールを連携させる技術も進展 従来は欧州で実施していなかった Semantic な ( 意味論的 ) 標準化の動きがある - 航空機業界では以前から実施 (AirBus と Boeing で標準化 ) - 一部の自動車メーカーが提唱して自動車産業でのモデル流通のルール作りが始まる 欧州主導の標準化に関する動向を把握しつつ 欧州標準化の不足点をガイドラインに取 り込み 先行優位性を活かして早期に国内実用化していくことが重要である 5. 総括ガイドライン ( 案 ) のような共通の表記ルールは モデル流通において自動車メ-カーと部品メーカーの双方にメリットがあることが確認できた部品メーカーの自動車メーカー毎の個別対応の削減効果とそれに伴う 自動車メーカーの開発期間 コスト 品質向上が期待できる また ガイドライン ( 案 ) のような共通の表記ルールは 国内自動車産業での モデル活用に有効であることも確認できた 社内でのモデル流通も推進し モデル利用の活性化が期待できる 更に 自動車メーカーと部品メーカーの共同議論 作業を通じて 互いの課題が共 有でき MBD 推進に関わる相互協力の基盤を構築することができたことは今後の国内自 動車産業の強化につながる 今後は ガイドラインの表記ルール改定と早期実用化の継続 モデル利用に関する 協調領域の拡大により 国内自動車産業に更なるメリットを生み出していくことを 提言する 12