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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

山梨県生活習慣病実態調査の状況 1 調査目的平成 20 年 4 月に施行される医療制度改革において生活習慣病対策が一つの大きな柱となっている このため 糖尿病等生活習慣病の有病者 予備群の減少を図るために健康増進計画を見直し メタボリックシンドロームの概念を導入した 糖尿病等生活習慣病の有病者や予備

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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シトリン欠損症説明簡単患者用

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ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 22 年 6 月 16 日現在 研究種目 : 若手研究 (B) 研究期間 :2008~2009 課題番号 : 研究課題名 ( 和文 ) 心臓副交感神経の正常発生と分布に必須の因子に関する研究 研究課題名 ( 英文 )Researc

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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自然科学研究機構生理学研究所京都大学大学院農学研究科国立研究開発法人国立循環器病研究センター 褐色脂肪細胞においてエネルギー消費を促す新たなメカニズムを発見 からだの熱産生に褐色脂肪細胞の TRPV2 チャネルが関与 今回 自然科学研究機構生理学研究所の富永真琴教授 内田邦敏助教および Sun Wuping 研究員と 京都大学大学院農学研究科河田照雄先生 国立循環器病研究センター岩田裕子先生の研究グループは 脂肪を分解して熱を発生させる細胞である 褐色脂肪細胞 に存在する TRPV2 チャネルが 脂肪燃焼を促すことを明らかにしました 本研究結果は ヨーロッパ分子生物学会誌 EMBO Report 誌 (2016 年 3 月 1 日号 ) に掲載されます pg. 1

褐色脂肪細胞においてエネルギー消費を促す新たなメカニズムを発見 からだの熱産生に褐色脂肪細胞の TRPV2 チャネルが関与 褐色脂肪細胞 は脂肪を分解して熱を発生させる細胞です しかし 脂肪細胞が熱を産生する詳細なメカニズムは不明な点が多いのが現状です 今回 自然科学研究機構生理学研究所の富永真琴教授 内田邦敏助教 Sun Wuping 研究員と 京都大学大学院農学研究科河田照雄先生 国立循環器病研究センター岩田裕子先生の研究グループは 褐色脂肪細胞において TRPV2 チャネルが効率的に脂肪燃焼を促すことを明らかにしました 本研究結果は EMBO Reports 誌 (2016 年 3 月 1 日号 ) に掲載されます 1 脂肪細胞には いわゆる皮下脂肪や内臓脂肪などの白色脂肪細胞用語と 褐色 2 脂肪細胞用語の 2 種類が存在します この 2 つの脂肪細胞は 同じ脂肪であるにも関わらず まるで対照的な特徴を持っています 白色脂肪細胞は細胞内に栄養を脂肪として貯蓄しますが 褐色脂肪細胞は脂肪を分解し 熱を産生することで体温の調節をします 特に寒い環境下では 3 交感神経用語の活動が高まるにつれて褐色脂肪細胞が活性化し 体温が下がりすぎないよう熱を産生します これまで褐色脂肪細胞は乳児期にのみ存在し 成長するにつれ消退すると考えられていましたが 近年成人であっても肩甲骨周囲や脊椎周囲に限局して存在していることが明らかになりました そしてこの褐色脂肪細胞の機能低下や数の減少が 生活習慣病やメタボリックシンドロー 4 ム用語の原因になることが分かってきました 今回我々の研究グループは 褐色脂肪細胞の TRPV2 5 チャネル用語に注目し この TRPV2 チャネルが褐色脂肪細胞に特に多く発現していること そして寒い環境下ではチャネルの発現量が多くなることを発見しました また TRPV2 チャネルは 冷たい刺激にさらされた際 熱産生を担うために増加する分子であ用語る UCP1 6 の発現量に関わっていることがわかりました さらに TRPV2 チャネルを持たないマウス (TRPV2KO マウス ) を調べた結果 褐色脂肪細胞の熱産生機能が弱まり 冷たい刺激にさらされた時に体温を維持できなくなっていました 加えて 熱産生機能が弱い TRPV2KO マウスは エネルギー消費が少なく肥満になりやすいこともわかりました ( 図 1) 快適な温度環境下では一般的に交感神経の活動は低く 褐色脂肪細胞の熱産 pg. 2

生は弱まります この時の TRPV2 の活性は弱い と考えられます 一方 寒い環境下では交感神経の活動は活発化し これに伴い褐色脂肪細胞が活性化されて強い熱産生が起こります つまり TRPV2 は交感神経の活動によって間接的に活性化され 細胞内カルシウム濃度を上昇させることで熱産生を促しているのです ( 図 2) 富永真琴教授は 今回の研究で これまで謎であった褐色脂肪細胞の持つ熱産生機能の生理学的メカニズムを解明することができました 褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促すことから メタボリックシンドロームの治療や 肥満改善のターゲットとして今後ますます注目されると考えられます そして褐色脂肪細胞の TRPV2 チャネルの活性をコントロールすることで メタボリックシンドロームを始めとしたさまざまな生活習慣病の予防と治療につながると期待されます と話しています 本研究は文部科学省科学研究費補助金 並びに武田科学振興財団の補助を受けて行われました 用語の説明 1. 白色脂肪細胞 : 皮下脂肪や内臓脂肪など いわゆる一般的によく知られた脂肪 エネルギーを蓄積する働きを持ちます 2. 褐色脂肪細胞 : エネルギーを利用して 熱 を作り出す細胞です 熱を作るミトコンドリアという細胞内器官が多く存在するために 細胞が褐色に見えます 3. 交感神経 : 自律神経の一つで 激しい活動をしているときに活性化します 4. メタボリックシンドローム : 内臓型肥満に高血圧 高血糖 脂質代謝異常が組み合わさり 心臓病や脳卒中などの動脈硬化性疾患をまねきやすい病態です 動脈硬化によって起こる心臓病や脳卒中の危険が高まることがわかっています 5. TRPV2 チャネル : チャネルは細胞膜に存在するタンパク質の一種です 機械刺激や特定の脂質による刺激によって活性化し 細胞内へカルシウムを投下します 褐色脂肪細胞以外にも 神経や免疫細胞にも多く存在します 6. UCP1: 褐色細胞のミトコンドリアに存在するタンパク質の一種で 脂肪を燃焼させて熱を産生するはたらきを持っています pg. 3

1.TRPV2 チャネルは褐色脂肪細胞に多く発現しており その発現量は冷たい刺激 (4 ) にさらされると起こる交感神経の活動上昇に伴い増加することがわかりました 2.TRPV2 チャネルを持たないマウスは 寒い環境下で褐色脂肪細胞の熱産生機能が弱く 体温を維持できませんでした 3.TRPV2 チャネルを持たないマウスは TRPV2 チャネルを持ったマウスと比べてエネルギー消費量が少ないために肥満になりやすいことがわかりました pg. 4

高脂肪食を食べさせた TRPV2 チャネルを持たないマウス 8 週間高脂肪食を食べさせると普通のマウスでも肥満になります しかし TRPV2 を持たないマウスは 普通のマウスよりもさらに肥満になりました 褐色脂肪細胞による熱産生と TRPV2 チャネルの関与外気温度は皮膚並びに感覚神経によって感知され その情報は神経を介して脳へ伝えられます その情報は脳で処理され 交感神経を介して褐色脂肪の活性を調節しています 寒い刺激にさらされると それを主に感覚神経が感じて脳へ情報を伝えます 脳は体温を維持するために交感神経活動を上昇させ 褐色脂肪細胞を活性化します 交感神経から分泌されるノルアドレナリンが褐色脂肪細胞にある受容体を活性化し 熱産生を担う分子 (UCP1 など ) の発現量を増加させます また 脂肪細胞に蓄積された脂肪 ( トリグリセリド ) を分解して遊離脂肪酸を産生し UCP1 を活性化することで熱を産生します TRPV2 チャネルは熱産生を担う分子の発現量増加に関与しており また冷たい刺激にさらされると TRPV2 チャネルそのものの発現量も増大します 褐色脂肪細胞の活性化はエネルギー消費を促進することから メタボリックシンドローム治療並びに肥満改善のターゲットとして注目されています TRPV2 チャネルを活性化することが 生活習慣病 メタボリックシンドロームの予防並びに治療につながることが期待されます Lack of TRPV2 impairs thermogenesis in mouse brown adipose tissue. Wuping Sun, Kunitoshi Uchida, Yoshiro Suzuki, Yiming Zhou, Minji Kim, Yasunori Takayama, Nobuyuki Takahashi, Tsuyoshi Goto, Shigeo Wakabayashi, Teruo Kawada, Yuko Iwata and Makoto Tominaga. EMBO Reports. in Press pg. 5

図 1 図 2 pg. 6