配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

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令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

平成**年*月**日

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

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互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

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スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

マスコミへの訃報送信における注意事項

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

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報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

PRESS RELEASE (2017/6/2) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成18年2月24日

< 研究の背景と経緯 > ここ数十年に渡る半導体素子 回路 ソフトウェア技術の目覚ましい進展により 様々なモノがセンサー 情報処理端末を介してインターネットに接続される IoT(Internet of Things) 社会が到来しています 今後その適用先は一層増加し 私たちの日常生活においてより多く

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

高校電磁気学 ~ 電磁誘導編 ~ 問題演習

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

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図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

第1章 様々な運動

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酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

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背景 現代社会を支えるコンピューティングや光通信では, 情報の担い手として, 電子の電荷と, その電荷を変換して生成した光 ( 光電変換 ) を利用しています このような通常の情報処理に用いる電荷以外に, 電子にはスピンという状態があります このスピンの集団は磁石の性質を持ち, 情報の保持に電力が不

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

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論文の内容の要旨

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

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フィードバック ~ 様々な電子回路の性質 ~ 実験 (1) 目的実験 (1) では 非反転増幅器の増幅率や位相差が 回路を構成する抵抗値や入力信号の周波数によってどのように変わるのかを調べる 実験方法 図 1 のような自由振動回路を組み オペアンプの + 入力端子を接地したときの出力電圧 が 0 と

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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2. コンデンサー 極板面積 S m 2, 極板間隔 d m で, 極板間の誘電率が ε F/m の平行板コンデンサー 容量 C F は C = ( )(23) 容量 C のコンデンサーの極板間に電圧をかけたとき 蓄えられる電荷 Q C Q = ( )(24) 蓄えられる静電エネルギー U J U

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

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予定 (川口担当分)

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コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

教師の持つ指導ポイント 評価規準 中国地方の送電線網の図を利用し, 発電所からの電力を消費地に届けていることを示す その際, 送電の途中では, 電線の抵抗のために電線が発熱して電気エネルギーが損失することを, 本単元の内容をもとに考察させる ( 自然事象への関心 意欲 態度 ) エネルギーは変換の際

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研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

平成**年*月**日

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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3. クランプメータの外観代表的なデジタルクランプメータの外観を示す 本体は開閉式の CT ( トランスコア ) 部 ファンクションスイッチ部 表示部 電圧 抵抗入力端子部から構成されており CT 部を除いては一般のマルチメータとほとんど変わりない この CT 部は先端が開閉できるような構造になって

電気基礎

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報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

RMS(Root Mean Square value 実効値 ) 実効値は AC の電圧と電流両方の値を規定する 最も一般的で便利な値です AC 波形の実効値はその波形から得られる パワーのレベルを示すものであり AC 信号の最も重要な属性となります 実効値の計算は AC の電流波形と それによって

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

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がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

平成22年11月15日

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1 薄膜 BOX-SOI (SOTB) を用いた 2M ビット SRAM の超低電圧 0.37V 動作を実証 大規模集積化に成功 超低電圧 超低電力 LSI 実現に目処 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ( 理事長古川一夫 / 以下 NEDOと略記 ) 超低電圧デバイス技術研究組合(

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報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

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本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

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開発の社会的背景 パワーデバイスは 電気機器の電力制御に不可欠な半導体デバイスであり インバーターの普及に伴い省エネルギー技術の基盤となっている 最近では高電圧 大電流動作が技術的に可能になり ハイブリッド自動車のモーター駆動にも使われるなど急速に普及し 市場規模は 2 兆円に及ぶといわれる パワー

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配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25 日 東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 東北大学金属材料研究所科学技術振興機構 (JST) スピン流スイッチの動作原理を発見 実証 ~ スピントロニクスのトランジスタ開発に道 ~ JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクトにおいて Zhiyong Qiu 助教 ( 東北大学金属材料研究所 ) と齊藤英治教授 ( 東北大学材料科学高等研究所 / 金属材料研究所 ) らは スピン流の流れやすさを制御するスピン流スイッチの原理を発見 実証しました スピントロニクス注 1) は電子の電荷だけではなく スピンをも利用した次世代の情報処理技術です スピントロニクスを利用したデバイスは 高速かつ不揮発なメモリーや 超高密度なハードディス クとして身近になりつつあります しかしながら スピントロニクスにおいては スピン流の流れ やすさを制御するスピン流スイッチを実現する手段が確立されておらず その動作原理の発見 実 証が望まれていました 本研究では 反強磁性体注 2) の相転移での振る舞いを利用して スピン流スイッチが実現できるこ とを実証しました スピン流の具体的な素子には 磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット (YIG) とスピン流検出用の白金 (Pt) の間に 反強磁性体である酸化クロム (Cr2O3) を挟んだ構 造を用いました YIG から Pt に向けてスピン流を注入すると Cr2O3 でのスピン流の流れやすさに 応じた起電力が Pt に生じます 本研究では この起電力測定を通じて 反強磁性相転移により Cr2O3 がスピン流に対する導体から絶縁体に変わることを見いだしました さらに この相転移の 近くで磁場を加えることによって この相転移前後のスピン流の流れやすさを 500% もの大きさで変 化させられることを示しました 齊藤教授らは 電流における類似の現象から 本現象を 巨大ス ピン磁気抵抗効果 と名付けました これは 外部磁場によってスピン流の流れやすさを制御できる すなわちスピン流のスイッチを 実現する原理を発見したことになります 本研究は これまでスピントロニクスに欠けていたスピ ン流スイッチを見いだしたものとして さまざまなスピントロニクスデバイスの展開に貢献するも のと期待されます 本研究成果は 2018 年 5 月 28 日 ( 英国時間 16:00) に英国科学誌 Nature Materials( ネイチ ャー マテリアルズ ) のオンライン版で公開されます 問い合わせ先 < 研究に関すること > 東北大学材料科学高等研究所 (AIMR)/ 金属材料研究所教授齊藤英治 Tel:022-217-6238 Fax:022-217-6395 E-mail:eizi@ap.t.u-tokyo.ac.jp < 報道に関すること > 東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) アウトリーチオフィス Tel:022-217-6146 E-mail: aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp www.tohoku.ac.jp

< 研究の背景と経緯 > スピントロニクスは電子の電荷だけではなく スピンをも利用した次世代の情報処理技術です スピントロニクスを利用したデバイスは 高速かつ不揮発なメモリーや 超高密度なハードディスクとして身近になりつつあります エレクトロニクスにおいては 電子の流れである電流が利用されますが スピントロニクスにおいては電子の持つ電荷とスピンの両方が利用されます スピン流とは電子スピンの流れです スピン流は電流を伴う必要はなく 電気の流れない磁性体中を伝搬することができます そのため 従来の電気回路ではスピン流を生成 検出することはできませんでした しかしながら 近年発見された逆スピンホール効果注 3) やスピンゼーベック効果注 4) といった新現象によって スピン流を用いた素子の開発が可能になりました これらの発展によって 純粋にスピン流のみを利用した情報処理技術の研究が進められており そのような素子は電流に伴うエネルギーロスの少ない より省電力なデバイスとなり得ると期待されています エレクトロニクスの発展では トランジスタの発明が大きな役割を果たしました トランジスタは電流の流れをオン オフするスイッチであり このオン オフによって情報の伝達 演算 保存が可能となりました トランジスタの小型化と集積化に伴う性能向上のスケーラビリティはムーアの法則として知られ 現代の半導体デバイスの発展の歴史そのものです しかしながら スピントロニクスにおいては スピン流の流れを制御するスピン流スイッチを実現する手段が確立されていませんでした そのため スピン流のみで動作するデバイスを構成するための最も基本的な素子である スピン流スイッチの実証が望まれていました < 研究の内容 > 本研究は 反強磁性体の相転移での振る舞いを新たに発見し ( 巨大スピン磁気抵抗効果 ) これを利用して スピン流の流れを制御するスピン流スイッチが実現できることを実証しました 具体的な素子は 磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット (YIG) とスピン流検出用の白金 (Pt) の間に 反強磁性体である酸化クロム (Cr2O3) を挟んだ構造を用いました ( 図 (a)) 反強磁性体は磁石の一種ですが その内部での電子スピンの並び方に特徴があります 普通の磁石は全ての電子スピンが同じ方向を向いているのに対して 反強磁性体では電子スピンが互い違いに逆向きを向いています そのため 正味の磁化は発現しませんが 電子スピンの並び方 ( 秩序 ) を持った物質です この反強磁性体における電子スピンの並び方は ネールベクトルと呼ばれる量で特徴付けられます 本研究では Cr2O3 のスピン流の流れやすさを調べました スピン流の流れやすさは YIG から Pt に向けてスピン流を注入して調べることができます ( 図 (a),(b)) まず YIG に温度差をつけることで スピンゼーベック効果によってスピン流が Pt へ向けて注入されます Pt へ注入されたスピン流は 逆スピンホール効果によって電圧に変換されます この電圧は Pt へ到達するスピン流の量に比例するため この電圧は YIG と Pt の間にある Cr2O3 でのスピン流の流れやすさを反映します

この電圧は Cr2O3 の反強磁性相転移を挟んで大きく変化することが分かりました ( 図 (e),(f)) これは Cr2O3 が反強磁性体となることにより スピン流に対する導体から絶縁体に変わることを示しています さらに この相転移の近くで磁場を印加することによって 相転移前後でのスピン流の流れやすさを 500% もの大きさで変化させられることを示しました ( 図 (d)) この大きな変化は まさにスピン流のオン オフを外部磁場によって制御できるスイッチに相当します この現象は 反強磁性体においては ネールベクトルに平行な角運動量成分を持つスピン流だけが流れることによって生じると理解できます 齊藤教授らは 電流における金属 絶縁体転移における巨大磁気抵抗効果との類似性から 本現象を 巨大スピン磁気抵抗効果 と名付けました < 今後の展開 > 本研究成果は 外部磁場によってスピン流の流れやすさを制御できる すなわちスピン流のスイッチを実現する原理を発見したことになり それに適切な材料の性質を明らかにしました 本研究は これまでスピントロニクスに欠けていたスピン流スイッチを見いだしたものとして さまざまなスピントロニクスデバイスの展開に貢献するものと期待されます < 参考図 > (a) 実験セットアップ (b) 作製された層構造の電子顕微鏡写真 それぞれの物質層がきれいな結晶構造を成していることが分かる (e) 測定された Pt 層起電力の温度依存性 300K あたりで急激な信号の減少が確認できる (f)cr2o3 層がない場合の対照実験結果 起電力は温度とともになだらかに変化している (d) 実験結果から求められたスピン流の流れやすさの磁場依存性 図 (e) で信号が急激に変化する温度域において 外部磁場によってスピン流の流れやすさが相転移の前後で最大 500% も変化している

< 付記事項 > 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 齊藤スピン量 子整流プロジェクト などの支援を受け実施されました < 用語解説 > 注 1) スピントロニクス電子の磁気的性質であるスピンを利用して動作する全く新しい電子素子 ( トランジスタやダイオードなど ) を研究開発する分野のこと 注 2) 反強磁性体隣り合うスピンが 大きさは同じで逆向きに整列した磁性体 注 3) 逆スピンホール効果スピン流を流すと その流れる方向と 流れているスピンの向きに垂直な方向に電圧が生じる現象 注 4) スピンゼーベック効果磁性体に温度勾配を加えると 温度勾配の方向にスピン流が生じる現象 < 関連サイト> スピンワールド:http://www.spinworld.jp/ ERATO 齊藤量子スピン整流プロジェクトのアウトリーチサイトです スピン科学やその基礎となる磁石の物理をやさしく解説しています < 関連プレスリリース > 超薄膜物質の磁性を容易に測定できる手法を開発 (2016 年 08 月 30 日 ) https://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/news/press/2016/20160830_000659.html < 論文タイトル> Spin Colossal Magnetoresisntance Zhiyong Qiu, Dazhi Hou, Joseph Barker, Kei Yamamoto, Olena Gomonay, Eiji Saitoh DOI: 10.1038/s41563-018-0087-4 <お問い合わせ先 > < 研究に関すること> 齊藤英治 ( サイトウエイジ ) ERATO 齊藤スピン量子整流プロジェクト研究総括東北大学材料科学高等研究所 (AIMR)/ 金属材料研究所教授 980-8577 宮城県仙台市青葉区片平 2-1-1 Tel:022-217-6238 Fax:022-217-6395 E-mail:eizi@ap.t.u-tokyo.ac.jp

<JSTの事業に関すること> 古川雅士 ( フルカワマサシ ) 科学技術振興機構研究プロジェクト推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068 E-mail:eratowww@jst.go.jp < 報道担当 > 東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 広報 アウトリーチオフィス Tel:022-217-6146 E-mail:aimr-outreach@grp.tohoku.ac.jp 東北大学金属材料研究所情報企画室広報班 Tel:022-215-2144 E-mail:pro-adm@imr.tohoku.ac.jp 科学技術振興機構 (JST) 広報課 Tel:03-5214-8404 E-mail:jstkoho@jst.go.jp