スウェーデン認知症ケア最新情報

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認知症の有病率 筑波大学臨床医学系精神医学 朝田隆 1 認知症の有病率調査 全国 7か所で認知症高齢者数 ( 有病率 症状別 分布 所在の推計 ) を推計する 2

社会保障給付の規模 伸びと経済との関係 (2) 年金 平成 16 年年金制度改革において 少子化 高齢化の進展や平均寿命の伸び等に応じて給付水準を調整する マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びはの伸びとほぼ同程度に収まる ( ) マクロ経済スライド の導入により年金給付額の伸びは 1.6

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スウェーデンの高齢者住宅とケア政策 表 1 年齢による居住形態の変化 ( 年ごろ, 単位 :%) 高齢者住宅とシニア住宅 高齢者施設の議論に必ず出てくるのは 高齢者 住宅 という言葉であるが 各国の制度が異なるの で誤解も生じている スウェーデンにおいて 高齢 者住宅 (äldreboe

まちの新しい介護保険について 1. 制度のしくみについて 東温市 ( 保険者 ) 制度を運営し 介護サービスを整備します 要介護認定を行います 保険料を徴収し 保険証を交付します 東温市地域包括支援センター ( 東温市社会福祉協議会内 ) ~ 高齢者への総合的な支援 ( 包括的支援事業 )~ 介護予

問 2 次の文中のの部分を選択肢の中の適切な語句で埋め 完全な文章とせよ なお 本問は平成 28 年厚生労働白書を参照している A とは 地域の事情に応じて高齢者が 可能な限り 住み慣れた地域で B に応じ自立した日常生活を営むことができるよう 医療 介護 介護予防 C 及び自立した日常生活の支援が

アルツハイマー型認知症ってどんな病気?

【最終版】医療経営学会議配付資料 pptx

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第 2 章高齢者を取り巻く現状 1 人口の推移 ( 文章は更新予定 ) 本市の総人口は 今後 ほぼ横ばいで推移する見込みです 高齢者数は 増加基調で推移し 2025 年には 41,621 人 高齢化率は 22.0% となる見込みです 特に 平成 27 年以降は 後期高齢者数が大幅に増加する見通しです

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私たちの人生 病気やケガのリスクと 経済的影響は? 50 ( 千人 ) 1, 通院入院 ( 歳 )

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平成 2 8 年 6 月 平成 27 年中における行方不明者の状況 警察庁生活安全局生活安全企画課

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第28回介護福祉士国家試験 試験問題「社会の理解」

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

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諸外国における介護施設の機能分化等に関する調査 政機関に責任が分立している結果 サービスの継続性 連携が上手く図られていないという問題が生じている この結果 在宅の高齢者に対するリハビリテーションの提供 在宅で訪問看護を受けている者に対する医師の訪問診療 ( 医師の関与 ) が不十分となっていること

スカイラ サービス付き高齢者向け住宅料金表 部屋タイプ 月額 内訳 料金 家賃 45,000 円 A タイプ (18m2) 138,000 円 食事 ( 1,6 0 0 円 / 日 ) 48,000 円共益費 35,000 円 サービス費 10,000 円 家賃 65,000 円 B タイプ (20

地域包括ケアシステムの構築について 団塊の世代が 75 歳以上となる 2025 年を目途に 重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう 医療 介護 予防 住まい 生活支援が包括的に確保される体制 ( 地域包括ケアシステム ) の構築を実現 今後

H23修正版

平成29年版高齢社会白書(全体版)

(2) 高齢者の福祉 ア 要支援 要介護認定者数の推移 介護保険制度が始まった平成 12 年度と平成 24 年度と比較すると 65 歳以上の第 1 号被保険者のうち 要介護者又は要支援者と認定された人は 平成 12 年度末では約 247 万 1 千人であったのが 平成 24 年度末には約 545 万

スライド 1

平成28年版高齢社会白書(概要版)

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資料 4 明石市の人口動向のポイント 平成 27 年中の人口の動きと近年の推移 参考資料 1: 人口の動き ( 平成 27 年中の人口動態 ) 参照 ⑴ 総人口 ( 参考資料 1:P.1 P.12~13) 明石市の総人口は平成 27 年 10 月 1 日現在で 293,509 人 POINT 総人口


4 年齢階級別の死因山形県の平成 28 年の死因順位は 20 歳から 34 歳までの各階級において自殺が1 位となっているほか 64 歳までの各階級においても死因順位の上位にあり おおむね全国と同様の傾向が見られます < 表 7> 年齢階級別の死因順位 死亡者数 ( 山形県 ) 年齢階級 総死亡者数

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新潟県の自殺の現状 平成 27 年の本県の自殺者数は厚生労働省の人口動態統計によると 504 人です 自殺者数の推移を見ると 平成 10 年に国と同様 中高年男性を中心とした自殺者の急増があり 当時は県内で 800 人を超える方が毎年自ら死を選択されるという状況でした 以後漸減し 平成 27 年の

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脳血管疾患による長期入院者の受診状況~レセプトデータによる入院前から退院後5年間の受診の分析

平成 29 年中の救急出動件数等 ( 速報値 ) の公表 平成 30 年 3 月 14 日 消防庁 平成 29 年中の救急出動件数等の速報値を取りまとめましたので公表します U 救急出動件数 搬送人員とも過去最多 平成 29 年中の救急自動車による救急出動件数は 634 万 2,096 件 ( 対前

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ファーストケアチーム 事業実施マニュアル 阿南市保健福祉部福祉事務所 介護 ながいき課 平成 28 年 6 月作成

制度 後期高齢者医療制度とは 3 資格 被保険者 4 被保険者証 保険証 5 保険料の算定 6 保険料の納付方法 7 保険料の軽減と納付相談 8 お医者さんにかかるときの自己負担割合 10 療養費 12 接骨院 整骨院 柔道整復 のかかり方 13 訪問看護療養費 移送費 13 高額療養費 14 特定

Ⅰ 障害福祉計画の策定にあたって

高齢者を取り巻く状況 将来人口 本市の総人口は 今後も減少傾向で推移し 平成32年 2020年 には41,191人程度にまで減少し 高齢 者人口については 平成31年 2019年 をピークに減少に転じ 平成32年 2020年 には15,554人程度 になるものと見込まれます 人 第6期 第7期 第8

三菱電機グループ保険 ガイドブック 2018年

2014人口学会発表資料2

相対的貧困率の動向: 2006, 2009, 2012年

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同一建物に居住する利用者の減算 特別地域加算 前年度の 1 月あたりの平均実利用者数の分かる書類 ( 地域に関する状況 ) 1 訪問看護ステーション ( 規模に関する状況 ) 前年度の 1 月あたりの平均延訪問回数の分かる書類 13 訪問看護 2 病院又は診療所 3 定期巡回 随時対応サービス連携

統計トピックスNo.92急増するネットショッピングの実態を探る

平成14年度社会保障給付費(概要)

質問 1 何歳から 長生き だと思いますか? 男性 女性ともに 80 歳 がトップ ( 合計 :42.3% 男性 :43.2% 女性 41.3%) 平均すると 男性が 81.7 歳 女性が 83.0 歳 と女性の方がより高年齢を 長生き と思うという 傾向があり 女性の 5 人に 1 人 (20.8

(1) 医療保険 医療特約の加入率民保加入世帯 ( かんぽ生命を除く ) における医療保険 医療特約の世帯加入率は88.5%( 前回 91.7%) となっている 世帯員別にみると 世帯主は82.5%( 前回 85.1%) 配偶者は68.2%( 前回 69.6%) となっている 前回と比較すると 世帯

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公的医療保険が対象とならない治療 投薬などの費用 ( 例 : 病院や診療所以外でのカウンセリング ) 精神疾患 精神障害と関係のない疾患の医療費 医療費の自己負担ア ) 世帯 ( 1) における家計の負担能力 障害の状態その他の事情をしん酌した額 ( しん酌した額が自立支援医療にかかった費用の 10

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

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スライド 1

対象疾患名及び ICD-10 コード等 対象疾患名 ( 診療行為 ) ICD-10 等 1 糖尿病 2 脳血管障害 3 虚血性心疾患 4 動脈閉塞 5 高血圧症 6 高尿酸血症 7 高脂血症 8 肝機能障害 9 高血圧性腎臓障害 10 人工透析 E11~E14 I61 I639 I64 I209 I

Microsoft Word - H27スウェーデンパンフレット(最終案)

障害厚生年金 厚生年金に加入している間に初診日 ( 障害のもととなった病気やけがで初めて医者にかかった日 ) がある病気やけがによって 65 歳になるまでの間に 厚生年金保険法で定める障害の状態になったときに 受給要件を満たしていれば支給される年金です なお 障害厚生年金に該当する状態よりも軽い障害

 

介護度 1 か月 (30 日 ) あたりの施設利用料グループホームかじかの里平成 28 年 5 月 1 日現在 負担割合 介護サービス利用料加算料金居室料食費光熱水費合計 要介護 1 1 割 2 割 22,770 45,540 2,475 4,949 37,500 30,000 11,

1. 北海道 ( 医師数データ集 )(218 年版 ) 目次 北海道 南渡島医療圏 南檜山医療圏 北渡島檜山医療圏 札幌医療圏 後志医療圏 南空知医療圏 中空知医療圏 北空知医

統合失調症患者の状態と退院可能性 (2) 自傷他害奇妙な姿勢 0% 20% 40% 60% 80% 100% ないない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 尐ない 中程度 高い 時々 毎日 症状なし 幻覚 0% 20% 40% 60% 80% 100% 症状

2. 身体障がいの状況 (1) 身体障がいの種別 ( 主な障がいの部位 ) 平成 28 年 6 月 30 日現在の身体障害者手帳所持者の身体障がいの種別 ( 主な障がいの部位 ) をみると 肢体不自由が 27,619 人 (53.3%) と全体の過半数を占めて最も多く 次いで 内部障がいが 15,9

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

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HSR第15回 勉強会資料

本章のまとめ 第 4 章当市の人口推移 本章のまとめ 現在までの人口推移は以下のとおりである 1. 人口の減少当市の人口は平成 23 年 7 月 (153,558 人 ) を頂点に減少へ転じた 平成 27 年 1 月 1 日時点の人口は 151,412 人である 2. 人口増減の傾向年齢 3 区分で

○○○の課題と検討

Microsoft PowerPoint - 参考資料

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PowerPoint プレゼンテーション

いずれも 賃金上昇率により保険料負担額や年金給付額を65 歳時点の価格に換算し 年金給付総額を保険料負担総額で除した 給付負担倍率 の試算結果である なお 厚生年金保険料は労使折半であるが 以下では 全ての試算で負担額に事業主負担は含んでいない 図表 年財政検証の経済前提 将来の経済状

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221 新潟県長岡市 齋藤氏【自治体における組織横断的な連携~精神障害者の地域移行を通して~】

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

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ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

2018 年度以降に入学した方が対象の科目です 2017 年度以前に入学した方は履修登録できません リング老年心理学 B 2018~ 科目コード FD2545 単位数履修方法配当年次担当教員 2 R or SR( 講義 ) 1 年以上吉川悠貴 161 基礎心理 2017 年度以前に入学した方は 本科

患者学講座第1講「医療と社会」

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第1回 障害者グループホームと医療との連携体制構築のための検討会

超高齢社会における共生を考える健康長寿の要因の探求 40 神出 楽木 健康長寿の要因の探求 41 未来共生学第 4 号 論文 高齢者疫学研究からの知見 Reich et al i, ii 神出計 ii 楽木宏実 大阪大学大学院医学系研究科 i 保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座

区西北部圏域 豊島区 北区 板橋区 練馬区 1,000百万円未満 500百人未満 居住系 在宅 51% 在宅 71% 居住系 13% 大 中 施設 19% 施設 36% 凡例 円グラフの大きさ 小 東京都 1,000百万円以上 10,000百万円未満 10,000百万円以上 500百人以上 1,00

北多摩南部圏域 東京都 武蔵野市 三鷹市 府中市 調布市 施設 36% 小金井市 狛江市 凡例 円グラフの大きさ 1,百万円未満 延べ 5百人未満 施設 居住系 1% 在宅 51% 在宅 71% 居住系 13% 大 中 小 1,百万円以上 1,百万円未満 1,百万円以上 5百人以上 1,百人未満 1

2014AW

資 _ 図表 37-1 人口動態 二次医療圏市区町村人口 人口密度 2025 年総人口 2040 年総人口 年総人口増減率 年総人口増減率 2015 年 人口 2025 年 人口 2040 年 人口 年 人口増減率 年 人口増減率 全国

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

千葉県 地域包括ケアシステム構築に向けた取組事例 1 市区町村名 銚子市 2 人口 ( 1) 68,930 人平成 25 年 4 月 1 日現在 ( ) 3 高齢化率 ( 1) 65 歳以上人口 20,936 人 ( 高齢化率 30.37%) ( ) (65 歳以上 75 歳以上それぞれについて記載

不動産学会 空き家.key

平成 29 年度 特別養護老人ホームの入所状況に関する調査 平成 30 年 3 月独立行政法人福祉医療機構経営サポートセンターリサーチグループ

調査概要 調査対象 : 東京都 愛知県 大阪府 福岡県の GF シニアデータベース 有効回答件数 :992 件 標本抽出法 :GF RTD( ランダム テレフォンナンバー ダイアリング ) 方式 調査方法 : アウトバウンド IVR による電話調査 調査時期 : 平成 23 年 8 月 4 日 (

当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

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人 ) 195 年 1955 年 196 年 1965 年 197 年 1975 年 198 年 1985 年 199 年 1995 年 2 年 25 年 21 年 215 年 22 年 225 年 23 年 235 年 24 年 第 1 人口の現状分析 過去から現在に至る人口の推移を把握し その背

7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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スウェーデンの認知症ケア動向 Ⅰ スウェーデンの認知症患者 < 目次 > 1. 認知症の出現 1 (1) 認知症の出現と発病 1 (2) 将来の認知症者数 2 2. クングスホルメンプロジェクト 3 3. 認知症の費用 4 (1) 医療 4 (2) 介護 4 (3) 社会的コスト 4 (4) 総費用 5

I スウェーデンの認知症患者 1. 認知症の出現 (1) 認知症の出現と発病 図 1 年齢別の認知症の出現率 年齢が高くなればなるほど 認知症の出現率も高くなる 65-69 歳では認知症である割合は 1,5% であるが 95 歳以上の高齢者では 48% 近くになる 2007 年に出版された報告書では約 14 万 2 千人が認知症で この内およそ 50-70% がアルツハイマー型認知症者 脳血管性認知症が 20-25% であると推測されている 60 歳以下の認知症者の出現率は不正確なので これを除けば 60 歳以上の認知症者は 13 万 8500 人である なお認知症者という定義に含まれない軽度認知機能障害 MCI(Mild cognitive impairment) は 65 歳以上の高齢者の 15% になるという調査結果もある 認知症者の発病は年間およそ 25000 人と推定されていて 女性の割合はおよそ 67% である 同様にして 認知症のよる死亡は年間 20000 人と推定されている 1

表 1 年齢別の認知症の出現率年齢 (%) 60-64 1 65-69 1,5 70-74 3 75-79 6 80-84 12 85-89 25 90-94 37 95-100 48 表 2 認知症者はどこに住んでいるか (2005 年の推定 ) 2005 年 % 特別な住居 64500 45,3 一般住居 78000 54,7 合計 142500 100,0 社会庁の調査によると 2005 年現在 約 14 万 2500 人が認知症であると推測され このうち一般住居に 54,7% 特別な住居には 45,3% が住んでいると見られている (2) 将来の認知症者数現在 スウェーデンの高齢化率は増えてはいるものの 介護が必要となる 80 歳以上の後期高齢化率は減少している 後期高齢化率は 2015 年頃 5,2% まで減少した後 2020-30 年に急増するものと見られている 同時に就労人口に対する後期高齢者の割合も 2030 年前後に上昇し 財政的負担が大きくなる 認知症の出現率 発病率 危険性などが変わらないと仮定すると 後期高齢者が急増する 2020 年代に認知症者も急増すると推測されている ( 図 2 を参照 ) 表 3 将来の人口推計 (2006 年の推計 ) 65 歳以上の高齢者人口 ( 千人 ) 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 1113 1362 1526 1540 1727 2056 2303 高齢化率 (%) 13.8 16.4 17.8 17.4 18.7 21.2 22.9 80 歳以上の高齢者人口 ( 千人 ) 190 263 370 460 491 525 763 後期高齢化率 (%) 2.4 3.2 4.3 5.2 5.3 5.4 7.6 2

図 2 将来の認知症者数 2. クングスホルメンプロジェクトストックホルム市のクングスホルメン地区で 75 歳以上の高齢者を対象とした長期分析が 1987 年にスタートした この地区に住む 75 歳以上の高齢者すべてが疫学調査の対象で 1810 名の中から 668 名が選ばれて 3 年ごとに調査された これによると 調査時において 75 歳以上の高齢者の中では認知症者の割合はおよそ 34% であった 2003 年までに 668 名のうち 627 名が亡くなった 認知症者の平均寿命は認知症者でない高齢者よりも 2,5 歳短い 調査がスタートした時点においては 認知症者でない高齢者は 88% が一般住宅に住み サービスハウスが 8% ナーシングホームが 3% であった しかし認知症者が在宅に住んでいた割合は 44% で サービスハウス 8% ナーシングホームが 40% でナーシングホームに住んでいた割合が高い さらに認知症者が施設に移るのは認知症でない高齢者に比べて 4,5 年早い これらの高齢者の 1980 年からの居住変化を見てみると 認知症でない高齢者の場合 52% が在宅に住み続け ナーシングホームおよびサービスハウスに移った人はそれぞれ 24% 14% であった しかし認知症者の場合 在宅に住み続けられたのはわずか 16% で 61% がナーシングホームに移り サービスハウスには 10% が移っている 特に認知症者はさらにサービスハウスからナーシングホームに移った人も多い このようにサービスハウスは認知症者にとっても他の高齢者にとっても終の棲家ではなかった この調査によると 認知症者の施設における平均居住期間が 4,3 年であるのに対して 認知症でない高齢者の場合は 3,4 年である なおストックホルム市における調査 (2002 年 ) ではナーシングホーム 3,9 年 グループホーム 4,4 年である 特別な住居に移ってからの入居期間が短い人もいる反面 上に見たように特別な住居における滞在は 3-4 年にわたり 特に認知症者の滞在期間は認知症でない人に比べて長い このためにも特別な住居の内装 機能などは十分考慮する必要があると社会庁の報告書は述べている 3

3. 認知症の費用高齢者の増加と共に認知症者も増え その費用増加が 将来のケア費用急増 という形で興味が持たれている 社会庁は 2000 年に認知症費用を 384 億クローナ ( およそ 3456 億円 ) と公表した 各病気による社会的費用の計算は難しいが ガンの費用が 330 億クローナ リュウマチ 360 億クローナとならんで 費用が大きい病気である 社会庁は 2005 年にふたたび認知症の費用を最新情報に基づいて計算 公表した (1) 医療病院入院者の中で ICD( 疫病および関連保健問題の国際統計分類 ) による分類で認知症が主あるいは従であるケースが DRG( 診断群別定額払方式 ) によって計算された 件数は 28000 件で 認知症が入院の主な原因であるのは 5000 件である 通院については病気による分類は十分ではないが いくつかの調査から認知症者の医師訪問は年に 2 回 看護師訪問は 4 回と推測された また専門医訪問は合計 42000 回である 薬に関しては 75 歳以上の高齢者に対して症状を緩和する薬の販売統計が使用された 上記から明らかなようにスウェーデンには 14 万人の認知症者がいるが すべての患者が認知症の診断を受けているわけではない 特に初期医療における正確な認知症診断回数は不明である 報告書によると 毎年認知症を発病する 25000 人を含む 5 万人分の認知症診断が必要であると考えられている いくつかの調査から 認知症診断は初期医療において 2 万件 専門医にて 14000 件 あわせて 34000 件行われていると推測されている 診断費用は 1 件あたり 5900-6000 クローナである (2) 介護認知症ケアの費用を計算すると ナーシングホームおよび認知症者用住居における年間費用は 54 万 6 千クローナ (1 日あたり 1496 クローナ ) その他の特別な住居の年間費用は 45 万 4 千クローナ (1 日あたり 1244 クローナ ) と推測されている なおこの費用には住居費は含まれていない 在宅においては ホームヘルプ 1 時間あたり 350 クローナと計算されている また認知症者はデイケアを週に 2-3 回訪問しているので 5000 人の認知症者がデイケアを週に 2,5 回訪問し 1 回あたりの費用は 645 クローナであると計算された (3) 社会的コスト在宅においてはインフォーマルケアが大きな役割を担っている たとえば高齢者の子供のように就労可能な世代がインフォーマルケアを行っていることもまれではなく 認知症の費用を計算する場合 この社会的費用をどの様にして計算するかによって総費用は大きく異なる しかしながら この社会的コスト計算はどの様に条件付けるかによっていろいろな難しさがある たとえばインフォーマルケアを行っている人が就労可能な世代か退職した高齢者か あるいは労働時間を短くしてケアを行っているか自由時間にケアを行っているか 4

報告書においては 就労世代が介護をしている場合 代替コストは 1 時間あたり 220 クローナ ( 平均賃金 ) 非就労世代の場合は 1 時間あたり 28 クローナと推測されている 在宅に住んでいる認知症者は 3 分の 2 が夫か妻によって介護され 残りの 3 分の 1 が子供によって行われていると推測されているので 平均の代替コストは 1 時間 91 クローナと計算された 認知症者は障害年金あるいは傷病給付の対象になることはあまりないが 2005 年現在およそ 1250 名が認知症という診断名によって給付を受けている ( 若年認知症者であると思われる ) これらの人が就労できない費用として 55-64 歳の平均収入である 30 万 6000 クローナが生産損失分として計算されている (4) 総費用下の表からもわかるように スウェーデンの認知症費用は 501 億クローナ (2005 年 ) で 総費用の 85% は市が行う福祉で 県が行う医療はおよそ 5% インフォーマルケアが 9% である このように認知症ケアに占める医療費は大きくない 市の高齢者ケア費用は 836 億クローナなので 認知症ケア費用はおよそ 51% を占めることになる 市の認知症ケア費用の中で一番大きいのが特別な住居費用 ( ナーシングホーム グループホーム その他の特別な住居 ) で およそ 330 億クローナ 総費用の 67% を占める なお県と市の高齢者ケア 高齢者医療費は 1615 億クローナ (2005 年 ) なので 認知症ケア費用は 28% を占める計算になる 5

表 4 認知症の総費用 (2005 年 ) 単価 ( クローナ ) 費用 ( 百万クローナ ) 県 ( 医療 ) 2594 入院 27358 775 老年科 27358 精神科 27358 救急受付 2253 164 専門科外来 3500 147 一般医外来 1006 286 その他の専門科 403/ 訪問 229 薬 2259-3926 790 診断 5900/ 初期医療 6000/ 専門医 202 市 ( ケア ) 42478 ナーシングホーム 54600/ 年間 12286 グループホーム 54600/ 年間 12559 その他の特別な住居 45400/ 年間 8609 デイケア 645/ 訪問 419 ホームヘルプ 350/ 時間 8604 インフォーマルケア 4642 軽度 91/ 時間 2684 中度 91/ 時間 752 重度 91/ 時間 1206 生産損失 306000/ 年 383 合計 50097 高齢者ケア 高齢者医療費 161500 6

表 5 認知症と認知症でない場合の一人あたりの年間費用実数 ( クローナ ) 割合 (%) ホームインフォーマ特別な住居県 ( 医療 ) 合計ヘルプルケア認知 255303 56906 31140 12373 355722 症 71.8% 16.0% 8.8% 3.5% あり認知 31015 25332 16712 13820 86879 症 35.7% 29.2% 19.2% 15.9% なし 224288 31574 14428-1447 268843 差 上の表は医学的に認知症と診断された人とそうでない人の費用を比較したものである この調査は人口 1 万人の市で行われたもので 対象人口が少ないため一般化はできない これによると 認知症者一人あたりの年間費用はおよそ 35 万 6000 クローナであるが 認知症でない人の年間費用はおよそ 8 万 7000 クローナで その差 26 万 9000 クローナが認知症によるコスト増である 認知症者の場合 特別な住居費用が 8 倍にもなり ホームヘルプ費用とインフォーマルケア費用は倍増する しかし医療費は認知症であるかどうかとはあまり関係がない 反対に認知症でない人の医療費が若干大きい これらの調査によると 純粋に認知症によるコスト増は年間 350-380 億クローナになる < 参考文献 > DS 2003:47(2003) På väg mot en god demensvård OECD(2004) OECD case study on dementia - Sweden Socialstyrelsen(2000) Demenssjukdomarnas samhällskostnader Socialstyrelsen(2005) Boende och vårdinsatser för personer med demenssjukdom Socialstyrelsen(2007) Demenssjukdomarnas samhällskostnader och antalet dementa i Sverige 2005 < 調査協力 > 株式会社ニッセイ基礎研究所 7