研究成果報告書

Similar documents
Microsoft Word - Ⅲ-11. VE-1 修正後 3.14.doc

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Untitled

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

研究成果報告書

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

平成14年度研究報告

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

2015 年度 SFC 研究所プロジェクト補助 和食に特徴的な植物性 動物性蛋白質の健康予防効果 研究成果報告書 平成 28 年 2 月 29 日 研究代表者 : 渡辺光博 ( 政策 メディア研究科教授 ) 1

Untitled

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

要旨 グレープフルーツや夏みかんなどに含まれる柑橘類フラボノイドであるナリンゲニンは高脂血症を改善する効果があり 肝臓においてもコレステロールや中性脂肪の蓄積を抑制すると言われている 脂肪肝は肝臓に中性脂肪やコレステロールが溜まった状態で 動脈硬化を始めとするさまざまな生活習慣病の原因となる 脂肪肝

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

長期/島本1

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

Microsoft Word - 3.No._別紙.docx

Powered by TCPDF ( Title Sub Title Author 喫煙による涙腺 眼表面ダメージのメカニズム解明 Assessment of the lacrimal and ocular surface damage mechanism related

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

スライド 1


犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

PowerPoint プレゼンテーション

保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

研究成果報告書

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

抄録/抄録1    (1)V

-119-


第一章自然免疫活性化物質による T 細胞機能の修飾に関する検討自然免疫は 感染の初期段階において重要な防御機構である 自然免疫を担当する細胞は パターン認識受容体 (Pattern Recognition Receptors:PRRs) を介して PAMPs の特異的な構造を検知する 機能性食品は

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年


結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

Untitled

アントシアニン

論文の内容の要旨

Powered by TCPDF ( Title 非アルコール性脂肪肝 (NAFLD) 発症に関わる免疫学的検討 Sub Title The role of immune system to non-alcoholic fatty liver disease Author

<8CBA95C4985F95B62E786477>

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

学位論文の要約

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

新技術説明会 様式例

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

センシンレンのエタノール抽出液による白血病細胞株での抗腫瘍効果の検討

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文題目 Novel role of group VIB Ca 2+ -independent phospholipase A 2γ in leukocyte-endothelial cell in

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

シトリン欠損症説明簡単患者用

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

ヒト胎盤における

スライド 1

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

研究成果報告書

日本医科大学医学会雑誌第7巻第2号

肝クッパ 細胞を簡便 大量に 回収できる新規培養方法 農研機構動物衛生研究所病態研究領域上席研究員山中典子 2016 National Agriculture and Food Research Organization. 農研機構 は国立研究開発法人農業 食品産業技術総合研究機構のコミュニケーショ

ウシの免疫機能と乳腺免疫 球は.8 ~ 24.3% T 細胞は 33.5 ~ 42.7% B 細胞は 28.5 ~ 36.2% 単球は 6.9 ~ 8.9% で推移し 有意な変動は認められなかった T 細胞サブセットの割合は γδ T 細胞が最も高く 43.4 ~ 48.3% で CD4 + T 細

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

平成24年7月x日

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

Taro-kv12250.jtd

博第265号

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

石黒和博 1) なお酪酸はヒストンのアセチル化を誘導する一方 で tubulin alpha のアセチル化を誘導しなかった ( 図 1) マウスの脾臓から取り出した primary T cells でも酢酸 による tubulin alpha のアセチル化を観察できた これまで tubulin al

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

第90回日本感染症学会学術講演会抄録(I)

2 Vol. 17, No.1, 2009

Untitled

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

cover

Ł\”ƒ-2005

Transcription:

様式 C-9 科学研究費補助金研究成果報告書 平成 年 3 月 3 日現在 研究種目 : 若手研究 ( スタートアップ ) 研究期間 :7-8 課題番号 :98836 研究課題名 ( 和文 ) ケトジェネシスの鶏酸化ストレス 免疫応答制御機構の解析研究課題名 ( 英文 ) Modulation of the redox status and immune function by ketone body in chicken. 研究代表者大津晴彦 (OHTSU HARUHIKO) 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所機能性飼料研究チーム研究員研究者番号 :445536 研究成果の概要 ( 和文 ): 肝臓脂肪酸代謝の中間代謝物であるケトン体の鶏における酸化ストレス 免疫能に対する作用を in vitro および in vivo の両面から検討した その結果 高濃度のケトン体は直接的に免疫細胞の生存率を低下させ炎症応答因子シクロオキゲナーゼ II(COXII) の発現を増加させる また生体内において高濃度のケトン体は抗酸化能を低下させ 脾臓 COXII 発現量を増加させることが明らかとなり ケトン体は鶏酸化ストレス 免疫応答に負の作用をもつことが示された 研究成果の概要 ( 英文 ): Effects of ketone body, an intermediator of fatty acid β-oxidation in liver, on the redox status and immune function in chicken were investigated in vitro and in vivo. High concentration of ketone body reduced the cell viability and increased the mrna expression of cyclooxygenaseii (COXII), an inflammatory factor, in chicken lymphocyte. Furthermore, plasma antioxidant activity was decreased, and the expression of spleen COXII mrna was increased in chicken with ketosis, suggesting that ketone body increased oxidative stress and decreased immune function in chicken. 交付額 ( 金額単位 : 円 ) 直接経費 間接経費 合計 7 年度,37,,37, 8 年度,35, 45,,755, 年度年度年度総計,7, 45, 3,5, 研究分野 : 動物栄養生化学科研費の分科 細目 : 畜産学 獣医学 畜産学 草地学キーワード : ケトン体 ストレス 免疫 応用動物 生理. 研究開始当初の背景初期成長時の代謝が動物の成長全体と生産性を決定づける上で大きな要因である 家禽の初期成長期は腹腔内に存在する脂質を主成分とする残存卵黄が主なエネルギー源 として機能し 炭水化物主体の飼料を摂取する成鶏とは異なる栄養環境下にある 免疫機能においても 孵化直後の鶏では ファブリキウス嚢は未発達であり また免疫グロブリンを産生できず 成鶏とは異なる特徴を持つ

申請者はこれまでに 肝臓での脂質の β 酸化による生成物であるケトン体の生成 ケトジェネシス がブロイラーの孵化時をピークとし 孵化直前直後で特異的に亢進しており 血液 肝臓および骨格筋中ケトン体濃度が高いことを明らかにした ケトン体はエネルギー基質であるとともに 様々な生理活性を持つことが知られており 哺乳動物において ケトン体の酸化ストレス 免疫応答の調節作用が報告されている しかし ケトン体の酸化ストレス 免疫応答に対する作用は確立されておらず 鶏免疫細胞における報告はない Nuclear Factor-kappa B(NFκB) Activator protein-(ap-) は活性酸素によって活性化されるレドックス応答転写因子で種々の免疫 炎症反応に関与する遺伝子発現を促すとともに 細胞 組織の機能を変化させる 酸化ストレス環境下においては活性酸素がレドックス応答転写因子を過剰に活性化し 免疫応答異常を起こすと考えられる したがって酸化ストレスを調節するケトン体がこのレドックス応答転写因子活性を調節し 免疫応答を調節する可能性が考えられるが その報告はほとんどない そこで本研究においては初期成長期の鶏の栄養生理による免疫機能調節を目的とし ケトン体の鶏の酸化ストレス 免疫応答に対する作用機序の解明をレドックス応答転写因子の観点も含めて試みた. 研究の目的鶏の酸化ストレス 免疫応答へのケトン体の作用を細胞培養実験 (In Vitro) および動物実験 (In Vivo) において検討した ()In Vitro 系におけるケトン体の鶏リンパ球酸化ストレス応答に対する作用ケトン体である β- ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸が鶏リンパ球において酸化ストレス 免疫応答に対し 促進作用をもつか抑制作用を有するか 培養系においてケトン体の直接的作用を検討した ()In Vivo 系におけるケトン体の鶏初期成長時の免疫応答 酸化ストレスに対する作用ケトン体が実際 Whole body で どのように酸化ストレス 免疫応答を調節するかを明らかにすること目的とし 高脂肪飼料で生体内のケトン体産生を亢進する飼料の産卵鶏および初期成長期のブロイラー雛への給与試験ならびにブロイラー雛へのケトン体投与試験を行い 血漿中脂質成 分などの変動と共に 酸化ストレス 免疫応答への影響を検討した 3. 研究の方法 ()In Vitro 系におけるケトン体の鶏リンパ球酸化ストレス応答に対する作用 鶏血液よりリンパ球を調製し β- ヒドロキシ酪酸 (.mm-mm) およびアセト酢酸 (.mm-mm) を培地中 (RPMI-64 ウシ胎児血清 % 鶏血清 %) に添加し 4 時間後の Cell Viability を WST-8 法により測定した 鶏 B 細胞株 (DT4) に β- ヒドロキシ酪酸もしくはアセト酢酸を添加し Cell Viability およびレドックス応答因子により mrna 発現が調節される炎症応答因子 COXII mrna 発現量に対するケトン体の影響を調べた ()in Vivo 系におけるケトン体の鶏初期成長時の免疫応答 酸化ストレスに対する作用 産卵鶏用に設計したケトン体産生を促す 高脂肪 低炭水化物 低タンパク質飼料である 飼料 を 4 週間給与し 血中ケトン体濃度 脂質成分 ( 遊離脂肪酸 トリグリセリド ) および酸化ストレスマーカー ( 過酸化脂質量 [TBARS] 総抗酸化能 ) さらに脾臓サイトカイン ( インターロイキン 4[IL-4], インターフェロン γ[ifn-γ] 炎症応答因子 (COXII) の mrna 発現量を測定した 孵化直後のブロイラー雛に飼料を 週間給与し 血中脂質成分 酸化ストレスマーカーおよび脾臓サイトカイン 炎症応答因子 (COXII) の mrna 発現量を測定した 更に孵化直後の雛の腹腔内に β- ヒドロキシ酪酸を 日 回 体重 kg あたり g.g の濃度で 週間投与し 脾臓サイトカイン 炎症応答因子 (COXII) の mrna 発現量を測定した 4. 研究成果 ()In Vitro 系におけるケトン体の鶏リンパ球酸化ストレス応答に対する作用 鶏リンパ球の生存率に対するケトン体の作用 産卵鶏の血液から調製したリンパ球培養系にケトン体 β- ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸を.~mM の濃度で添加し 4 時間後の細胞生存率を測定したところ 5mM mm で有意な低下が観察され ( 図 ) 高濃度のケトン体が直接的に鶏免疫能を低下させることが示唆された

.5.5 5 5 β-ヒドロキシ酪酸 (mm) アセト酢酸 (mm) Control β ヒドロキシ酪酸アセト酢酸 図 鶏リンパ球のCell Viabilityに対するケトン体の作用採卵鶏より調製したリンパ球にβ-ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸を添加し 4 時間後のCell Viability をWST-8 法により測定した 値は無添加区をとして算出した :p<.5( 無添加区に対して ) 鶏 B 細胞株 (DT4) の増殖に対するケトン体の作用 DT4 細胞培養系に β- ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸を.~mM 濃度で添加後 7 時間培養し 生細胞数を WST-8 法で測定した その結果.5~mM の β- ヒドロキシ酪酸は DT4 細胞数を無添加区に比べ有意に低下させたが アセト酢酸による影響は見られなかった 以上より 高濃度のケトン体が直接的に免疫機能を低下させることが再度確認された.5.5 5 5 β-ヒドロキシ酪酸 (mm) アセト酢酸 (mm) 図 ケトン体のDT4 Cell Viabilityに対する影響 DT4 細胞にβ-ヒドロキシ酪酸 アセト酢酸を添加 7 時間後のCell ViabilityをWST-8 法により測定した 値は無添加区をとして算出した :p<.5( 無添加区に対して ) 酸化ストレスに深く関与するレドックス応答転写因子である NFκB,AP- によりその発現量が調節される COXII mrna 発現量をレドックス応答転写因子活性化のマーカーとして測定した結果 5mM の β- ヒドロキシ酪酸およびアセト酢酸の添加により増加した 従って 高濃度のケトン体はレドックス応答転写因子を活性化することが示唆された 図 3 DT4 細胞におけるケトン体の COXII mrna 発現量に対する影響 DT4 細胞に5mMの濃度のβ-ヒドロキシ酪酸 アセト酢酸を添加し 4 時間後のCOXII mrna 量を測定した ハウスキーピングジーン (GAPDH) 量で補正後 Control を として値を算出した :p<.5( 無添加区に対して ) 以上のように ケトン体が鶏の免疫担当細胞の生存率を低下させ レドックス応答転写因子によりその発現が調節される COXII mrna 発現量を増加させることより ケトン体の直接的効果としては鶏の免疫能を低下させるとともに酸化ストレスを誘導することが示唆された ()In Vivo 系におけるケトン体の鶏初期成長時の免疫応答 酸化ストレスに対する作用 採卵鶏用に設計した飼料給与は 血中アセト酢酸濃度に影響を与えなかったが β- ヒドロキシ酪酸濃度は有意に増加し ( 図 4) 鶏においても 高脂肪 低炭水化物 低タンパク質飼料がケトジェネシスを亢進することが示された また 飼料は採卵鶏の血中トリグリセリドを低下 遊離脂肪酸を上昇させ ( 図 5) 脂質代謝にも影響を及ぼすことが示された β- ヒドロキシ酪酸 (μm) 5 5 5 週 4 週 図 4 飼料給与による血液中 β ーヒドロキシ酪酸濃度の変化採卵鶏に標準飼料 ( ) および飼料を給与後,4 週目の血液中 β ヒドロキシ酪酸濃度を測定した : p<.5

遊離脂肪酸 (meq/l) このケトン体産生の亢進した採卵鶏において 酸化ストレスマーカーである TBARS の低下が確認されたが 抗酸化能も同時に低下した ( 図 6) TBARS は血液中の過酸化脂質濃度であり この TBARS の著しい低下には 血液中脂質であるトリグリセリド濃度の低下が関与している可能性が考えられる TBARS(nmol/ml).8.7.6.4.3.. 週 4 週 トリグリセリド (mg/dl) 4 8 6 4 採卵鶏における飼料給与は脾臓サイトカイン (IL-4,IFN-γ)mRNA 発現量に影響を与えなかったが COXII mrna 発現量を増加させた ( 図 7) 以上のように 産卵鶏における飼料給与によるケトジェネシス亢進は 週 4 週 図 5 採卵鶏における飼料給与の血中脂質成分に対する影響採卵鶏に標準飼料 ( ) および飼料を給与後,4 週目の血液中遊離脂肪酸 (NEFA) およびトリグリセイリド濃度を測定した : p<.5 8 6 4 週 4 週 総抗酸化能 (μm) 8 6 4 週 4 週 図 6 採卵鶏における飼料給与の血中酸化ストレスに対する影響採卵鶏に標準飼料 ( ) および飼料を給与後,4 週目の血中過酸化脂質量 (TBARS) および総抗酸化能 (PAO) を測定した : p<.5 7 6 5 4 3 シクロ インターロイキン-4 インターフェロン -γ オキシゲーナーゼII 図 7 採卵鶏における飼料給与の脾臓サイトカイン シクロオキシゲナーゼ II mrna 発現量に対する影響採卵鶏に標準飼料 ( ) 飼料を給与後 4 週目の脾臓中シクロオキシゲナーゼ II インターロイキン -4 インターフェロン -γ の mrna 量を測定した ハウスキーピングジーン (GAPDH) 発現量で補正後 を として値を算出した :p<.5 血液中脂質濃度を変化させ 血中過酸化脂質濃度 (TBARS) を低下させるものの 抗酸化能を抑制した また 採卵鶏における飼料給与はレドックス応答転写因子により発現調節される COXII mrna 発現量を増加させた TBARS の低下より飼料給与は酸化ストレスを低減する可能性も考えられるが 血中脂質成分であるトリグリセリド濃度が大きく低下していることによるものと推察され 抗酸化能の低下 および COX II 発現量の増加 また in Vitro 系における結果から総合して考えると 産卵鶏においてケトン体は redox status において負の作用を示すと考えらえる 初期成長期のブロイラー雛における飼料給与の抗酸化能 免疫応答に対する影響飼料給与により 血中 β- ヒドロキシ酪酸濃度は区に比べ有意に増加し 初期成長期雛においても 高脂肪 低炭水化物 低タンパク質飼料は産卵鶏同様 初期成長期のブロイラー雛のケトジェネシスを亢進することが示された ( 図 8) 飼料給与はブロイラー雛においては 血中トリグリセリド 遊離脂肪酸濃度に有意な影響を与えなかった ( 図 9) β- ヒドロキシ酪酸 (μm) 5 4 3 図 8 初期成長期のブロイラー雛における飼料給与の血中 β- ヒドロキシ酪酸濃度に対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に標準飼料 ( ) 飼料を給与後 7 日後の血中 β- ヒドロキシ酪酸濃度を測定した :p<.5 遊離脂肪酸 (meq/l).4.3.. トリグリセリド (mg/dl) 飼料給与によるブロイラー雛におけるケトジェネシス亢進は血中 TBARS を低下させたものの 抗酸化能も低下させた ( 図 ) 6 4 8 6 4 図 9 ブロイラー雛における飼料給与の血中脂質成分に対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に標準飼料 ( ) 飼料を給与 7 日後の血中遊離脂肪酸 トリグリセリド濃度を測定した

TBARS(nmol/ml) 7 6 5 4 3 総抗酸化能 (μm) 4 3 飼料給与は初期成長期の雛の脾臓サイトカイン発現量には影響を与えなかったが COXII mrna 発現量を増加させた ( 図 ) 図 ブロイラー雛における飼料給与の血中酸化ストレスマーカーに対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に標準飼料 ( ) 飼料給与 7 日後の血中 TBARS 抗酸化能 (PAO) を測定した :p<.5.6.4..8.6.4.. β- ヒドロキシ酪酸 (g/kg 体重 ) 図 3 初期成長期のブロイラー雛におけるケトン体投与の脾臓シクロオキシゲナーゼ II mrna 発現量に対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に β ーヒドロキシ酪酸を体重 Kg あたり.g の濃度で腹腔に 日 回 7 日間投与後脾臓シクロオキシゲナーゼ II の mrna 発現量を測定した ハウスキーピングジーン (GAPDH) 発現量で方正後 を として値を算出した.8.6.4..8.6.4. 図 ブロイラー雛における飼料給与の脾臓 COXII mrna 発現量に対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に標準飼料 ( ) 飼料を給与後 7 日目の脾臓 COXII mrna 発現量を測定した ハウスキーピングジーン (GAPDH) 発現量で方正後 を として値を算出した :p<.5 ケトン体の初期成長期雛における酸化ストレス 免疫応答を更に詳細に検討するために ケトン体を投与し 血中酸化ストレスマーカーおよび脾臓サイトカイン COXII mrna 発現量を測定したところ 飼料給与と同様に TBARS を低下させたものの抗酸化能も低下させる傾向を示した ( 図 ) COXII mrna は増加する傾向を示すものの有意な変化は観察されなかった ( 図 3) TBARS(nmol/ml) 6 5 4 3. β- ヒドロキシ酪酸 (g/kg 体重 ) 総抗酸化能 (μm) 5 5 5 P=.. β- ヒドロキシ酪酸 (g/kg 体重 ) 図 初期成長期のブロイラー雛におけるケトン体投与の酸化ストレスに対する影響ブロイラー雛 ( 日齢 ) に β ーヒドロキシ酪酸を体重 Kg あたり.g の濃度で腹腔に 日 回 7 日間投与後の血中 TBA RS 抗酸化能 (PAO) を測定した :p<.5 以上のように 初期成長期のブロイラーにおいて 飼料給与は TBARS を低下させるものの 抗酸化能も低下させる また ケトン体投与も TBARS を低下させるが 抗酸化能も低下させる傾向を示した 採卵鶏とは異なり 初期成長期のブロイラーにおいては 血中脂質濃度に大きな影響を与えず TBARS を低下させることから ケトン体が酸化ストレスを低減する可能性も考えられる しかしながら 飼料給与による抗酸化能の低下および COXII mrna 発現量の増加がみられること また in Vitro におけるケトン体の COXII の発現量の増加作用の結果から ブロイラー雛においてもケトン体は redox status に対して負の作用を示すことが示唆される ケトン体投与試験において 抗酸化能低下および COXII mrna 発現量の有意な増加が観察されなかったことの要因としては 飼料給与と異なり ケトン体が恒常的に体内に存在しておらず 十分な作用時間および濃度が得られなかったと推察され この際 TBARS が低下していることから 比較的低濃度のケトン体は酸化ストレスに対して一過性には抑制する作用をもつ可能性も考えられる 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 学会発表 ( 計 件 ) 大津晴彦 矢ヶ部陽子 山崎信 阿部啓之産卵鶏における血漿脂質成分と抗酸化能に及ぼす飼料給与の影響日本畜産学会第 9 回大会 8 年 3 月 9 日常磐大学 ( 茨城 )

大津晴彦 矢ヶ部陽子 金谷健 山崎信 阿部啓之初期成長期のブロイラーヒナの抗酸化能に対するケトン体の影響日本畜産学会第 回大会 9 年 3 月 9 日日本大学生物資源科学部 ( 神奈川 ) 6. 研究組織 () 研究代表者大津晴彦 (OHTSU HARUHIKO) 独立行政法人農業 食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所機能性飼料研究チーム研究員研究者番号 :445536