ウエストナイル熱 (West Nile Fever) ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 1 ウエストナイル熱とは ウエストナイル熱は ウエストナイルウイルス (WNV) が原因でヒトに急性熱性疾患を引き起こす感染症です (1) 原因ウイルスの概要 WNV は フラビウイ

Similar documents
蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

11月/庵原俊昭

スライド 1

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

Microsoft Word - デング熱診療マニュアル案 doc

ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 エルシニア症 (Yersiniosis) 1 エルシニア症とは エルシニア症は Yersinia 属菌の中で一般的に食中毒菌として知られる Yersinia enterocolitica と仮性結核菌として知られる Yersinia p

( 症状および検査所見 ) 3~7 日の潜伏期間の後に 発熱 発疹 頭痛 骨関節痛 嘔気 嘔吐などの症状がおこる 日本国内で診断されたデング熱患者の症状や検査所見の出現頻度を表 1 に示す 3) 発熱は発病者のほぼ全例にみられ 時に二峰性となる 通常 発病後 2~7 日で解熱し そのまま治癒する 約

どですが 成人では症状も肝障害の程度も重い傾向にあります また A 型肝炎に感染すると症状の有無にかかわらず防御抗体を得ることができます 4), 8), 9) A 型肝炎に対する特別な治療法はなく 原則として 急性期には入院し 安静臥床の処置と症状に応じた対症療法が適用されます 1) A 型肝炎の予

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

Microsoft PowerPoint 最近の性感染症の動向

_<74B0><5883><611F><67D3><30DD><30B1><30D7><30ED>_<5FF5><6821>2.pdf

国際的な人の移動の活発化に伴い 国内での感染があまり見られない感染症について 海外から持ち込まれる事例が増加している デング熱などの蚊が媒介する感染症 ( 以下 蚊媒介感染症 という ) についても 海外で感染した患者の国内での発生が継続的に報告されている 我が国においては 平成二十六年八月 デング

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております

, , & 18

ジカ事務連案(自治体) (結核)

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

Taro [県・動検版] Schmall

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

2.好井先生スライド(web非掲載削除済み)

<4D F736F F D E937892CA926D81698E7B8D7394C CA8E86816A2E646F63>

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

Microsoft Word - 01沖縄県蚊媒介感染症対策行動計画(第3版)

0426番号入り。HP用

Q2 蚊媒介感染症 にはどんな病気があるの? A2 蚊媒介感染症は世界的に数多く存在しますが, 海外から日本国内へ持ち込まれ, 流行する可能性のある感染症としては, ウエストナイル熱, ジカウイルス感染症, チクングニア熱, デング熱, 日本脳炎, マラリアの6つがあります 海外から持ち込まれる可能

23158-本文.indd

(3) 食中毒 ( 感染症 ) の症状 セレウス菌食中毒は その臨床症状から嘔吐型と下痢型の二つに分けられます それぞれ の特徴は 表のとおりです 1), 2) 嘔吐型食中毒 下痢型食中毒 発症菌量 10 5 ~10 8 /g 10 5 ~10 8 /g 毒素産生場所 食品 小腸 潜伏期間 0.5~

Microsoft Word - H300717【プレスリリース】夏休みの感染症対策について

一について第一に 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号 以下 感染症法 という )第十二条の規定に基づき 後天性免疫不全症候群(以下 エイズという )の患者及びその病原体を保有している者であって無症状のもの(以下 HIV感染者 という )(以下 エイズの患者等

インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

<4D F736F F D20926E C5E B8FC797E192E88B CC8DC489FC92E88E9696B D2E646F63>

<4D F736F F D2093FA967B945D898A90DA8EED8DB782B58D5482A62E646F63>

報告風しん

( 別添 ) インフルエンザに伴う異常な行動に関する報告基準 ( 報告基準 ) ( 重度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 重度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください ( 軽度調査 ) インフルエンザ様疾患と診断され かつ 軽度の異常な行動を示した患者につき ご報告ください イン

新技術説明会 様式例

37, 9-14, 2017 : cefcapene piperacillin 3 CT Clostridium difficile CD vancomycin CD 7 Clostridium difficile CD CD associate

Microsoft Word - WIDR201839

海外勤務健康プラザ 大阪(OHAP-OSAKA)のご案内      2001

重症急性呼吸器症候群 (SARS) 削除. 新興感染症対策を Xに新設. 5. ウエストナイル熱 空気感染する可能性があり, かつパンデミッ これらは改定版 2 刷発行当時 (2004 年 ), クになった際の透析施設の対応を Xに移行. 新興 再興感染症として問題とされてい 4. ウ

渡航先 ( 国 地域 ) や渡航先での行動によって, 感染する可能性のある感染症は大き く異なりますが, 世界的に蚊を媒介した感染症が多く報告されています 特に熱帯 亜 熱帯地域ではマラリア, デング熱, チクングニア熱などに注意が必要です (1) マラリア毎年世界で約 2 億人の患者が発生し, 約

% ORG/WIKI/FILE:SALKWS.JPG 1. ORG/WIKI

2 (1) (2) SCI 2 SCI

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

3131_2014_02.pdf

C O N T E N T S Annual Report

18年度石見美術館年報最終.indd

pdf0_1ページ目

Microsoft Word - WIDR201826


3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

Microsoft Word - 届出基準

事務連絡 平成 28 年 9 月 23 日 都道府県 各保健所設置市衛生主管部 ( 局 ) 御中 特別区 厚生労働省健康局結核感染症課 ジカウイルス感染症に関する情報提供について 標記については 平成 28 年 8 月 10 日付け事務連絡でお知らせしたところです 今般 ジカウイルス感染症に関して

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

<4D F736F F D D28F5782C982A082BD82C182C42E646F63>

かけはし_049.indd

東京大会と感染症サーベイランス ~ 普段とどこがちがうのか ~ 疾患疫学が変化する可能性 多数の訪日外国人の流入 多くのマスギャザリングイベント 事前のリスク評価に基づいたサーベイランスと対応の強化の必要性を検討する 体制構築の観点から 行政と大会組織委員会の責任範囲と協力体制の構築が必要 国内移動


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

Microsoft Word - 被災地の感染症予防 詳細版 final as of docx

, , & 18

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

●アレルギー疾患対策基本法案

Transfusion-Transmitted Hepatitis Verified from Haemovigilance and Look-back Study

Microsoft Word - <原文>.doc

<4D F736F F D208D B B835896F2938A975E82CC8D6C82A695FB2E646F63>

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

とを考慮すると ( 症状を有する感染者の 5 倍の ) 約 1,000 人の感染者が既にシンガポール国内にいると推測される ジカウイルスは 1947 年にアフリカのウガンダでサルから発見 ( 参考 : ヒトへの最初の感染例は 1952 年 ) され アジア アメリカに伝わったとされているが これまで

09 NCD の負担軽減 現状世界保健機関 (WHO) によると 2008 年の世界の死亡数 5,700 万人のうち 63% にあたる3,600 万人がNCD (Noncommunicable Diseases) によるものと推計している 1 具体的な疾患として WHOは糖尿病 慢性閉塞性肺疾患など

Microsoft Word - ①(概要).doc

< F2D816994D48D FA957493FC816A >

< F2D817988C482C682EA94C5817A895E97708E77906A2E6A7464>

Synagis RS RSRespiratory Syncytial Virus RSBPD CHDRS RS RS BPD CHD 50mg100mg RS20138 RS Respiratory Syncytial Virus RS

新たに定期接種ワクチンとされたことから 本邦における HPV ワクチンによる免疫獲得状況を把握 して 将来の子宮頸癌予防計画に役立つ基盤データを蓄積することを目的に 14 年度から本事業にて HPV16 抗体価の測定調査を実施することとなった 2. 感受性調査 (1) 調査目的ヒトの HPV16 に

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

スライド 1

209【参考資料9】 _H7N9リスクアセスメント_final4_見え消しなし

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

(CREST) 科学的発見 社会的課題解決に向けた各分野のビッグデータ利活用推進のための次世代アプリケーション技術の創出 高度化 ( 研究総括 : 北海道大学田中譲 ) における研究課題 大規模生物情報を活用したパンデミックの予兆, 予測と流行対策策定 ( 研究代表者 : 西浦博 ) の一環として行

(案)

pdf0_1ページ目

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

BSL4の稼働合意について

untitled


ように いわゆる渡航者 に推奨されているワクチン (Recommend vaccines) 次に黄熱ワクチンのように一部の国に入国する際 接種証明書の提示を要求されるワクチン (Required vaccines) そして麻しんや風しんワクチンのようにわが国で通常に接種されているワクチン (Rout

海外たばこ事業実績補足資料(2015 年1-3 月期)

日本内科学会雑誌第106巻第3号

ROCKY NOTE 髄膜炎診断における jolt accentuation の検査特性 ( ) (140812) 参考文献 3 4 を読んで追記 以前 jolt accentuatio

1 ジカウイルス感染症の認知度 問 1 あなたは, ジカウイルス感染症, いわゆるジカ熱を知っていますか この中から 1 つだけお答えください どのような病気か詳しく知っている 9.1% どのような病気かある程度知っている 44.9% 名前だけ知っているが, どのような病気かは知らない 37.7%

<89FC B9E93738E7382B182DD292E786C7378>

チクングニヤウイルスと その病態、診断法

卸-11-2.indd

Taro-H24.10.jtd

Transcription:

ウエストナイル熱 (West Nile Fever) ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 1 ウエストナイル熱とは ウエストナイル熱は ウエストナイルウイルス (WNV) が原因でヒトに急性熱性疾患を引き起こす感染症です (1) 原因ウイルスの概要 WNV は フラビウイルス科フラビウイルス属に属する直径 50nm の外被膜 ( エンベロープ ) を持つ球形の RNA ウイルスです 1) WNV は 自然界では鳥と蚊の間で感染サイクルを形成して維持されています 1 ヒトやウマの感染については この感染サイクル外で WNV を保有する蚊の吸血によって起こります 1) 2) (2) 原因 ( 媒介 ) 食品 現在までに WNV に感染した鳥や動物の肉を食べてヒトが WNV に感染した報告はありません 3) なお 米国疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention; CDC) では WNV に感染した七面鳥や動物に由来する食肉を食べて WNV に感染するという証拠はなく たとえ汚染された食肉であっても適切な調理により感染のリスクは排除できるとしています 2) (3) 感染症の症状 WNV に感染したヒトのうち約 20% では 2~14 日間の潜伏期の後に発熱 頭痛 背中の痛み 筋肉痛 食欲不振といった症状を呈します 1), 4), 5) これをウエストナイル熱といいます 通常ウエストナイル熱は 3~6 日で回復しますが 患者のうち数 % では重症化して 頭痛 高熱 方向感覚の欠如 麻痺 昏睡 痙攣等の症状を示すことがあります これは脳炎 脊髄炎又は髄膜炎を発症したことによります 重症例の致死率は 4~14% とされています 1), 5) ウエストナイル熱の治療方法については 特異的な方法はなく 対症療法が行われます また ウエストナイル脳炎の治療も一般的脳炎の治療と同じです 1) 抗ウイルス剤による治療はありません 1 ウイルスは媒介動物である感染蚊の吸血により鳥に伝播される 鳥は感染後 1~4 日の間に高いウイルス血症を起こし その鳥を吸血した蚊が感染することによって感染環が維持される 1

(4) 予防方法 ウエストナイル熱発生地域においては 蚊に刺されないようにすることが重要です 1), 3) 2 リスクに関する科学的知見 (1) 疫学 ( 感染症の発生頻度 要因等 ) WNV は 1937 年にウガンダで発見されて以降 アフリカ アジア 中東 欧州等で発生の報告がありましたが 1990 年代前半まではそれほど大きな流行の報告はありませんでした しかし 1996 年以降比較的大きな流行がルーマニア ロシア イスラエル等でおこり 1999 年にそれまで報告のなかった北米大陸の大都市ニューヨークに侵入し 4),5) それ以降の米国での大規模な発生により数千人の患者と 100~300 人の死者を毎年記録しました この発生は 2008 年以降 死者数が 50 人を切り 患者は減りつつあります 2) 一方で 米国へのウイルス侵入後はカナダ 中米等へ分布が拡大しました 5) WNV は自然界では鳥と蚊の間で感染を繰り返して存在しています ヒトへの感染は WNV を保有する蚊による吸血が主な経路となっています 感染蚊の吸血によるもの以外では 輸血等で感染した可能性のある症例について報告があります 1) なお 通常 ほ乳動物は WNV に対する感受性が低いといわれており このウイルスに感染した場合でも ヒトやウマでは蚊との間で WNV が維持されるということはありません 2), 6) 一方 鳥類の多くは感受性が高く 若齢の家きんの一部では 吸血した蚊との間で感染サイクルが形成されるレベルまでウイルスが体内で増えることが報告されています 7), 8), 9), 10) (2) 我が国における食品の汚染実態 国内外の WNV による食品の汚染実態に関する報告は認められません 3 我が国及び諸外国における最新の状況など (1) 我が国の状況 我が国では ウエストナイル熱 ( 脳炎を含む ) は 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づく四類感染症に指定されており 診断した医師は7 日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出ることになっています 2005~2009 年の報告数は以下のとおりです 11) なお 2005 年に報告された 1 例は 米国において感染して 2

帰国した患者です 年 2005 2006 2007 2008 2009 患者数 ( 人 ) 1 0 0 0 0 (2) 諸外国等の状況 1 米国では CDC が患者数及び死者数を取りまとめており 2005~2010 年の報告数は以下のとおりです 2) 年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 患者発生数 ( 人 ) 3000 4269 3630 1356 720 1021 死者数 ( 人 ) 119 177 124 44 32 57 2 EUでは 加盟国から報告されたウエストナイル熱の症例を欧州疾病予防管理センター (ECDC:European Centre for Disease Prevention and Control) で取りまとめており その報告数は以下のとおりです 12) 年 フランス ハンガリー ルーマニア 英国 イタリア 合計 2006( 人 ) - 1 2 1-4 2007( 人 ) 2 4 4 1-11 2008( 人 ) - 19 2-3 24 -はデータ無し Annual Epidemiological Report on Communicable Diseases in Europe 2008 2009 2010 3 豪州では豪州保健 高齢化省 (Australian Government Department of Health and Aging) が豪州に常在するウエストナイルウイルスの1 系統のクンジンウイルスについて患者発生数を報告しています 13) 年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 患者発生数 ( 人 ) 1 3 1 1 2 2 3

4 参考文献 1) 倉根一郎 : ウエストナイル熱. ウイルス, 53, 1-6 (2003) 2) 米国疾病予防管理センター (CDC) のウエストナイルウイルスホームページ http://www.cdc.gov/ncidod/dvbid/westnile/ 3) 厚生労働省のウエストナイル熱ホームページ ( ウエストナイル熱 脳炎 Q&A) http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou08/02.html 4) Petersen, L.R., and Marfin, A.A.: West Nile virus: a primer for the clinician. Ann Intern Med 137, 173-179 (2002). 5) Campbell, G.L., Marfin, A.A., Lanciotti, R.S., and Gubler, D.J.: West Nile virus. Lancet Infect Dis 2, 519-529 (2002). 6) Shirafuji, H., Kanehira, K., Kamio, T., Kubo, M., Shibahara, T., Konishi, M., Murakami, K., Nakamura, Y., Yamanaka, T., Kondo, T., Matsumura, T., Muranaka, M. and Katayama, Y.: Antibody responses induced by experimental West Nile virus infection with or without previous immunization with inactivated Japanese encephalitis vaccine in horses. J Vet Med Sci 71, 969-974 (2009). 7) Styer, L.M., Bernard, K.A., and Kramer, L.D.: Enhanced early West Nile virus infection in young chickens infected by mosquito bite: effect of viral dose. Am J Trop Med Hyg 75, 337-345 (2006). 8) Turell, M.J., Dohm, D.J., Sardelis, M.R., Oguinn, M.L., Andreadis, T.G., and Blow, J.A.. An update on the potential of north American mosquitoes (Diptera: Culicidae) to transmit West Nile Virus. J Med Entomol 42, 57-62 (2005). 9) Sardelis, M.R., Turell, M.J., Dohm, D.J., and O'Guinn, M.L.: Vector competence of selected North American Culex and Coquillettidia mosquitoes for West Nile virus. Emerg Infect Dis 7, 1018-1022 (2001). 10) Shirafuji, H., Kanehira, K., Kubo, M., Shibahara, T., and Kamio, T.: Experimental West Nile virus infection in aigamo ducks, a cross between wild ducks (Anas platyrhynchos) and domestic ducks (Anas platyrhynchos var. domesticus). Avian Dis 53, 239-244 (2009). 11) 国立感染症研究所 感染症情報センターホームページ http://idsc.nih.go.jp/idwr/ydata/report-ja.html 12) 欧州疾病予防管理センター (ECDC) のホームページ http://ecdc.europa.eu/en/publications/surveillance_reports/pages/index.aspx?page=1 13) 豪州保健 高齢化省のホームページ http://www9.health.gov.au/cda/source/rpt_2_sel.cfm 4

注 1) 上記参考文献の URL は 平成 23 年 (2011 年 )9 月 15 日時点で確認したものです 情報を掲載している各機関の都合により URL が変更される場合がありますのでご注意下さい 注 2) この疾病に関する他の情報については 平成 21 年度食品安全確保総合調査 食品により媒介される感染症等に関する文献調査 報告書 ( 社団法人畜産技術協会作成 ) もご参照ください http://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20100110001 5