( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1
幹細胞研究の現状 腎不全 各種心臓疾患など 臓器不全症に対する根本的な治療には臓器移植が必要 しかし移植臓器は圧倒的に不足している にもかかわらず試験管内で臓器を作出することは難しく 現在の再生医療が目指しているのは幹細胞から誘導した細胞を用いた細胞治療である 最近 我々はラット ips 細胞を用いてマウス個体内でラットの膵臓を作ることに成功した この原理がヒトとブタ等の大動物でもあてはまればブタの個体内でヒトの臓器を作成することが可能になり 移植ドナーの供給源として医療に大きく貢献できる さらに最近 免疫不全マウスに移植した ips 細胞由来の奇形腫からヒト造血幹細胞を誘導することに成功 遺伝性血液疾患の根治療法につながる重要な成果 臨床応用の可能性を検討するにあたっては 家畜など より大きな動物で検証する必要がある マウスとラット以外の動物種 ( ヒトを含む ) の ES 細胞や ips 細胞はキメラ形成能を持たない ( 少し分化した ) 多能性幹細胞であることが明らかとなってきた
現在の再生医療が目指しているのは細胞治療 多数の患者が臓器不全症等で移植を待っている 分化細胞を用いた細胞療法 ( 糖尿病 パーキンソン病 脊髄損傷 網膜色素変性症など ) in vitro で分化誘導 受精卵 体細胞の初期化 受精 多能性幹細胞 (ES 細胞 ips 細胞 ) 3
現在の再生医療が目指しているのは細胞治療 多数の患者が臓器不全症等で移植を待っている 分化細胞を用いた細胞療法 ( 糖尿病 パーキンソン病 脊髄損傷 網膜色素変性症など ) in vitro で分化誘導 受精卵 体細胞の初期化 受精 多能性幹細胞 (ES 細胞 ips 細胞 ) 4
キメラ動物とは 交配では精子と卵子が受精することによりそれぞれが持つ遺伝子が交ざりあう これに対し キメラ動物とは ( ゲノムが異なる ) 細胞が混じりあった状態の個体を意味する キメラは部分キメラと全体キメラに区別できる 部分キメラ : 輸血や骨髄移植 臓器移植を受けた人 二卵性双生児のペアの 8% が血液キメラであるし 母親の血液中に子供の血液が長年にわたって存在する場合があることが知られている また研究分野でもマウス ラット 羊 ウシ等の動物にヒト血液幹細胞 ヒト ES 細胞 ヒト ips 細胞 ヒトがん細胞 ヒト神経幹細胞などを移植することは日常的に行われていて ヒト神経細胞を持つマウスなども作成されている これらは全て部分キメラである 全体 ( 全身性 ) キメラ : 発生の極めて早期にゲノムが異なる胚細胞が混じると体全体に両方の細胞が入り混じった個体が生まれてくる 異種間の胚を混ぜてキメラ個体作出まで至った例として羊とヤギのキメラ (Geep) が 1984 年に生まれているが ラット マウス間で個体作出の成功例はない 混合した時期に両方の細胞が多能性を持っていれば全体キメラが生まれる可能性があると考えられる 5
胚性幹 (ES) 細胞によるキメラマウスの作製 受精後 3~4 日目の受精卵 (= = 胚盤胞 ) ES 細胞 ES 細胞を 10~15 個胚盤胞へ注入 仮親の子宮に胚盤胞を移植キメラマウスの誕生 胚盤胞注入 注入された ES 細胞 ( 緑 ) 6
胚盤胞補完法を利用した臓器作出の原理 膵臓を欠損する遺伝子改変マウス = Pdx1 KO マウス Pdx1KO マウス個体内でドナー ips 細胞由来臓器が 再生されるのではないか? 胎児 胚盤胞 胚盤胞へ注入 受精 マウス多能性幹細胞 (ES 細胞 ips 細胞 ) 7
Pdx1 KO マウス内にほぼ全ての細胞が ips 由来の膵臓ができていた Pdx1 KO マウス + マウス ips 細胞 Pdx1 ヘテロマウス + マウス ips 細胞 明視野 HE 膵島膵臓 EGFP EGFP DAPI 200μm 50μm 200μm 50μm 8
この原理を利用してヒトの臓器を再生するには? 異種動物を用いた胚盤胞補完を成功させることが必要 臓器欠損動物 患者由来の ips 細胞 臓器欠損動物を作成する 膵臓欠損ブタ由来胚盤胞へのヒト ips 細胞の移植 ブタ個体内で作成した患者の臓器を移植 ブタ個体内でのドナー ips 細胞由来臓器の再生 異種の壁を越えた胚盤胞補完の成立
異種動物の体内で臓器を作ることは可能か? ips 細胞を用いてマウス - ラット間で動作原理を確認する マウス ラット 10
材料と方法 : マウス ラット異種間キメラ作製 ラット胚盤胞 + マウス ips 細胞 ラット同士の交配 (Wistar x Wistar ) EGFP-Tg マウス (B6 ) マウス ips 細胞 胚盤胞注入 偽妊娠ラット (Wistar) へ移植 マウス胚盤胞 + ラット ips 細胞 マウス同士の交配 (B6 x BDF1 ) 胚盤胞注入 偽妊娠マウス (ICR) へ移植 ラット (Wistar ) ラット ips 細胞 11
マウス -ラット異種間キメラは出生後成体まで発育可能であった 明視野 新生児期 EGFP 成体 ラット胚盤胞 + マウス ips 細胞 マウス胚盤胞 + ラット ips 細胞 12
キメラの作製効率とキメリズム A. 異種間キメラの作製効率 B. 胎児繊維芽細胞のキメリズム解析 移植胚 ( 総移植数 = 100%) (%) 24 26 70 30 移植胚数 (%) 100 75 50 25 0 ホスト胚 ラット マウス マウス ラット 非胎児非キメラキメラ キメリズム (EGFP 陽性率 ) 100 75 50 25 0 ラット マウス マウス ラット ドナー細胞 マウス ips 細胞 ラット ips 細胞 マウス ips 細胞 ラット ips 細胞
異種間胚盤胞補完法によりマウス内にラットの臓器を作出できるか示す Pdx1 KO マウス ラット ips 細胞 受精卵 膵臓欠損マウス内にラット ips 細胞由来の膵臓を作出 14
ラットの膵臓を持った Pdx1 KO マウスは成体まで発育できた A. ラットの膵臓を持った Pdx1 KO マウス (8 週目 ) B. マウス内に作出されたラット膵臓の形態 明視野 EGFP Pdx1 KO マウス + ラット ips 細胞 Pdx1 ヘテロマウス + ラット ips 細胞 15
Pdx1 KO マウスに作出されたラットの膵臓は組織学的および機能的に正常な膵臓であった A. 膵臓の形態と EGFP 陽性細胞の分布 B. 糖負荷後の血糖値推移 HE (mg/dl) 600 STZ- 糖尿病モデル EGFP DAPI 200μm 400 200 0 Pdx1 KO マウス + ラット ips 細胞 Pdx1 ヘテロマウス + ラット ips 細胞 0 30 60 90 120 ( 分 ) 200μm 16
テラトーマ形成を利用した造血幹細胞の誘導法 テラトーマ三胚葉系へ分化した組織を含む良性腫瘍 造血系サイトカインやストローマ細胞を投与することで テラトーマ内に造血幹細胞を誘導できるのでは? 造血系サイトカインストローマ細胞 HSCs 浸透圧ポンプでサイトカインを持続投与 誘導された造血幹細胞は骨髄にホーミングするのでは?
今後の課題 1) 大動物でも多能性幹細胞を使って臓器を作ることができるのか? ブタ等の大動物を使った動作原理の確認 2) この原理を応用してヒトの臓器を他の動物の個体内で作出するには動物性集合胚の作成が必須である 動物性集合胚のヒトまたは動物の胎内への移植は 現在のガイドラインでは不可 ( 英国では可能 中国は規制無し ) ガイドラインの見直し 胚盤胞ではなく胎仔に多能性幹細胞や前駆細胞を移植する 3) マウスやラットの ips 細胞と異なりヒトの ips 細胞はキメラ形成能が無い キメラ形成能を持つ本当の ips 細胞を樹立する必要がある そのためにはキメラ形成能を調べる手段が必要 動物性集合胚の研究が必須となる ( 日本のガイドラインでは in vitro で原始線状ができるまで可能 ) 4) ヒトと家畜のキメラを作出する際にヒト細胞が脳や生殖細胞を持つ動物ができる可能性がある ( 現実には既にヒトの神経細胞を持つマウスは多数作られていて特に問題にはなっていない ) 胚盤胞ではなく胎仔に多能性幹細胞や前駆細胞を移植する 神経系や生殖系に分化しないように加工した多能性幹細胞を用いる