2011 年 12 月 15 日発行 東日本大震災リスク レポート ( 第 5 号 ) 次の大地震 大津波への対応 : 防災計画の見直しと企業に求められる対応 発行 : 三菱商事インシュアランス株式会社リスクコンサルティング室 はじめに 1 本年 3 月 11 日 ( 金 ) の東日本大震災の発生から約 9ヶ月経過しました 震災の復旧 復興にはまだまだ時間がかかる状況ですが その後の調査などで次第に今回の地震や津波のメカニズムがわかってきました 今回の東日本大震災の発生を受けて 次に起きる大地震と想定されている首都直下地震や東海 東南海 南海地震への対応の見直しに向けて 国や地方自治体などで様々な対策が検討されはじめています 東日本大震災での未曾有の経験や教訓から 国や地方の防災計画も大きく見直されるものと思われます そして 次の大地震 大津波への対応は 行政 企業 住民が一体となって連携して対応する必要があるため 政府や地方自治体などの防災計画の見直しは企業の災害対策や事業継続計画 (BCM/BCP) などにも大きく影響してくるものと思われます そこで 今回は 東日本大震災リスク レポート の締めくくりとして 次の大地震 大津波への対応 : 防災計画の見直しと企業に求められる対応 と題して 国や地方の動向のうち企業に係わる取組みを中心にレポートいたしたいと思います 各企業の皆様の災害対策や事業継続計画の見直しに 多少なりとも参考となりましたら幸甚でございます 2 今回の内容 1 中央防災会議の動向 2 東京都の取組み 3 静岡県の取組み 4 中部圏の取組み 5 企業に求められる対応 中央防災会議の動向 防災対策推進検討会議 を設置し 東日本大震災の総括と首都直下地震 東海 東南海 南海地震などに対する防災対策の充実 強化を図る内閣総理大臣を会長とする中央防災会議が開催 ( 平成 23 年 10 月 11 日 ) され 下記の事項の推進が確認された 1 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震 津波対策に関する専門調査会 報告のポイント 1 防災対策で対象とする地震 津波の考え方は 古文書等の分析 津波堆積物調査 海外地形などの知見にもとづき あらゆる可能性を考慮した最大クラスの巨大な地震 津波 を検討する 2 津波対策を構築するにあたっては 発生頻度は極めて低いものの甚大な被害をもたらす最大クラスの津波 と 発生頻度は高く津波高は低いものの大きな被害をもたらす津波 の二つのレベルの津波を想定する 前者は人命保護を最優先とし 後者は人命保護に加え 住民財産の保護や効率的な生産拠点の確保などの観点から 海岸保全施設の整備等のハード対策を実施する 3この他 揺れによる被害を軽減するための対策として 建築物の耐震化の計画的推進 天井落下防止対策や長周期地震動対策 液状化対策を着実に進める 2 今後の防災対策に関する各府省庁の主な取組み 1 地震 津波に関する調査 研究 * 文部科学省 地震に関する評価方法の見直し 発生履歴等知見が不足している巨大地震についても評価できるよう評価方法を改善する * 内閣府 地震 津波による被害実態調査 発災時の避難行動や避難状況などを網羅的に調
査 分析し 今後の地震 津波対策の充実強化を図る 2 災害対策全般 * 内閣府 災害対策法制の見直し 災害対策基本法をはじめとする災害対策法制のあり方を検討する * 内閣府 防災基本計画の見直し 3その他 予防 復旧 復興対策 応急対策 被災者支援 三連動地震 首都直下地震等大規模地震 津波対策 についても 各府省庁による検討が進めらている * 消防庁 危険物施設等の地震津波対策 * 農林水産省 国土交通省 海岸対策 * 国土交通省 港湾における津波対策 支援物質の輸送 * 経済産業省 電気設備の地震津波対策 * 内閣府 東日本大震災対応の全般的な検証 避難のあり方の検討 災害時要援護者対策 三連動地震対策 首都直下地震の見直し 帰宅困難者対策 など 3 防災対策推進検討会議 の設置 1 中央防災会議に新たな専門調査会として 防災対策推進検討会議 が設置されることが決定された 2この調査会は 未曾有の甚大な被害をもたらした東日本大震災における政府の対応を検証し この大震災の教訓の総括を行うとともに 首都直下地震や東海 東南海 南海地震 ( いわゆる三連動地震 ) 等の大規模災害や頻発する豪雨災害に備え 防災対策の充実 強化を図る目的で設置され 平成 24 年夏頃に検討会議の最終報告が出される予定となっている 3この最終報告は 災害対策基本法をはじめとする災害対策関連法制の改正や大規模地震 津波対策の見直しなどに反映させていくとしている 東京都の取組み 関東大震災級の大地震などを想定する地震に追加 1 東京都は11 月 25 日に 東京都防災対応指針 を発表した 首都直下地震の想定地震について 従来の 東京湾北部地震 に加え 関東大震災型の地震 や 立川断層帯地震 などが追加された 今後 津波の被害想定などが大幅に見直されるものと思われる 東京都防災対応指針の概要 1 東京を襲う地震像 首都直下地震 : 東京湾北部地震 (M7.3) プレート境界多摩地震 (M7.3) など 海溝型地震 : 大正型関東地震 (M7.9 程度 ) 元禄型関東地震 (M8.1 程度 ) など 活断層で起こる地震 : 立川断層帯地震 (M7.4 程度 ) など 連鎖的被害が懸念される地震 : 東海 東南海 南海連動地震 東北地方太平洋沖地震 新潟県中越沖地震 などこうした地震によるリスクに加え台風や高潮などの自然災害が複合的に発生する可能性も否定できず 災害への備えを固め直すことが必要としている 2 東京の防災対策の目指すもの 東京都防災対策の目的 : 都民の命を守ること 都市の機能を維持すること 今後の防災対策の方向性 : 多様な主体が個々の防災力を高めるとともに 主体間の連帯を強化する あらゆる事態に備え 個別対策の徹底強化と施策の複線化 多重化を促進する ( バックアップの確保 ) ことを 2 本の柱として 東京の防災力の高度化 を目指している 2 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会の設置内閣府と東京都が共同事務局となり 国の関係省庁 首都圏の地方公共団体 関係民間企業 団体等の31 機関をメンバーとして 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会 が本年 9 月に設置された
平成 24 年春に中間報告を行い 夏から秋に最終報告を行うスケジュールとなっている 帰宅困難者等の対策のイメージは下記の通り 1 一斉徒歩帰宅者の発生の抑制 むやみに移動を開始しない という基本原則の周知 徹底 安否確認手段の周知 企業等における安否確認体制の先進事例共有 企業等における一時収容対策 ( 備蓄 従業員等の行動ルールの検討等 ) 2 円滑な徒歩帰宅等のための支援体制 帰宅困難者等への一時滞在施設の確保 帰宅困難者等の搬送体制の検討 徒歩帰宅への支援体制 ( 飲料水やトイレ等の提供 ) 駅周辺における混乱防止 円滑な誘導体制の検討 静岡県の取組み 大津波対策の検討を開始 1 静岡県は同県の防災 原子力学術会議に津波対策分科会を設置し国の防災計画と同時並行的に次の大津波への対策を検討している 2 アクションと具体目標は次の通りである 1 住民等への防災情報の伝達災害時における情報伝達の強化促進 2 的確な避難の実施住宅の耐震化の促進市町津波避難計画の充実 強化津波避難施設の拡充 3 津波避難施設の整備既存公共土木施設等への津波避難用階段等の設置 4 津波避難地 避難路 ( 避難階段等 ) を確保した急傾斜地崩壊防災施設の整備 5 津波避難施設等の整備及び耐震調査の実施 3 静岡県は 国の 東海 東南海 南海地震 の地震 津波モデルが検討され 3 連動地震による地震動 津波の高さ等の想定が出た段階で 速やかに津波アクションプログラム ( 中長期 ) やアクションプログラムの見直し 修正を行うとしている 中部圏の取組み 地域一体となった戦略会議を立ち上げ 地域連携 BCP の構築を目指す中部圏では 東海 東南海 南海地震対策中部圏戦略会議 を立ち上げて 地域一体となって検討を進めている 本年 12 月 28 日に基本戦略を公表する予定となっているが それに先立って 地震 津波対策アドバイザリー会議 が開催され 中部圏地震防災基本戦略 ( 中間とりまとめ ( 素案 ) の方針 ) 東海地域の新たな産業防災 減災 への取組などが発表された 1 基本戦略の基本方針の主なポイント 1 人の命を最優先とする 2 従来から取組んできた施設整備等を着実に進める 3 守りきれない規模の外力に対しては 減災の考え方を重視して バランスの取れたハード施策とソフト施策を総合的に推進する 4 広域的な支援 連携 受入体制を確立する 5 緊急対応 復興を見据えた地震防災に関するオペレーション計画を事前に策定する 2 東海地域の新たな産業防災 減災東海地域の産官学により構成される 東海地域の新たな産業防災 減災を考える研究会 が本年 8 月に設置された 大規模災害においては 個社の BCP のみでは充分でない場合が想定されるため 地域 を単位とした連携メカニズム ( 地域連携 BCP= 地域内もしくは地域間の BCM/BCP) の構築が急務として 下記の検討を行う 1 企業防災 減災のあり方 BCM/BCP の現状と課題 地域連携による BCP の先行事例調査
連携 による BCM/BCP の新たなあり方 ( ガイドライン化の検討 ) 2 地域連携 BCP 策定マニュアルの検討 3 地域連携 BCP の普及促進のあり方 液状化は海岸沿岸部だけではなく内陸部でも発生する 2 下記の図は東日本大震災により発生した関東地方の液状化の発生分布図です 関東地方では少なくとも96の市町村で液状化が発生しました 液状化は 沿岸部の埋立地や利根川の旧河道など地盤の軟弱な場所で広範囲に発生し大きな被害が出ています 東日本大震災による関東地方の液状化 中部圏地震 津波対策アドバイザリー会議資料より htp://www.chubu.meti.go.jp/tisin/download/111213bosai-chuka n-press.pdf 企業に求められる対応 日本全国のどの地域でも強い地震が発生する可能性がある 1 次の図は今後 30 年以内に震度 6 弱以上の地震が発生する確率を示したものですが 太平洋沿岸をはじめとして日本列島のどの地域で発生してもおかしくありません 今後 30 年以内に震度 6 弱以上の地震が発生する確率 地震調査研究推進本部ホームページより 自社の立地条件を十分に確認すること 3 災害対策 BCP の構築にあたっては まずは自社の各事業所 ( 本社 工場 倉庫 物流センターなど ) の立地条件と耐震性などを十分に確認し 地震のリスク 津波のリスク 液状化のリスク 洪水のリスク 台風のリスク 火山のリスク 山崩れのリスク 原子力発電所のリスクなどを把握しておく必要があることを強調しておきたいと思います 1 地理的条件 ( 海岸沿岸部 河川 湖 低地 火山 原子力発電所からの距離など ) 2 敷地の地盤 ( 海岸沿いの埋立地 元は谷や池や川や沼地などであったかなど ) 3 周囲の状況 ( 石油コンビナート 化学工場 病院 学校 住宅 鉄道 高速道路など ) 4 今回の東日本大震災の発生を受けて 従来の災害
対策 防災対策の抜本的な見直しが必要となり 政府や次の大震災 大津波が懸念されている東京都 静岡県 中部圏などでは防災対策 減災対策が総合的に検討され始めています 大震災 大津波では行政 企業 住民など地域全体が一体となった対応が求められるので 国や地方自治体などの防災計画の見直しは 各企業の災害対策にも大きく影響してくるものと思われます 5 中部圏では産官学が一体となって地域単位の BCP を検討していく方針が打ち出され検討が開始されています このような動きに対応して 企業活動を継続し 社会的責任を果していく上でも 自社の災害対策 事業継続計画 (BCM BCP) を構築しておくこと 見直しておくことは非常に重要であると思われます 6 まとめ以上をまとめると下記の通りとなります 次に来る大地震 大津波に備え 自社の被害を最小限に留め サプライチェーンの供給責任を果し 地域社会に貢献していく上で これらの取組みを推進されることをお奨めいたします 1 政府や地方自治体の動向や取組みを常に注視し把握しておく 2 自社事業所の立地条件や耐震性を十分確認しておく 3 今後政府や各自治体が改定する予定の被害想定やハザードマップなどを参考にして自社の被害想定の見直しを行う 4 自社の災害対策 BCP の策定 見直しを実施する 5サプライチェーン全体の BCP 地域連携型 BCP の取組みを検討する リスクコンサルティング室長寺田祐治