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未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

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速報 海外で行われた CLASSIC 試験 国内で行われた J-CLASSIC-PII 試験および胃癌術後補助化学療法におけるオキサリプラチン併用療法に関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメント 試験名 :CLASSIC 試験文献 : Adjuvant capecitabine and oxaliplatin for gastric cancer after D2 gastrectomy (CLASSIC): a phase 3 open-label, randomised controlled trial. 著者 :Bang YJ, Kim YW, Yang HK, Chung HC, Park YK, Lee KH, Lee KW, Kim YH, Noh SI, Cho JY, Mok YJ, Kim YH, Ji J, Yeh TS, Button P, Sirzén F, Noh SH; CLASSIC trial investigators. 掲載雑誌 :Lancet. 2012 Jan 28;379(9813):315-21. 研究資金 :Roche Sanofi -Aventis CLASSIC 試験のデザイン D2 リンパ節郭清を伴う治癒切除術を受け組織学的に確認された Stage II - IIIB(AJCC/UICC 第 6 版 ) 胃腺癌患者を術後 6 週以内に登録し 手術単独と比較してカペシタビン (2000mg/m 2 / 日 1-14 日 3 週毎 )+ オキサリプラチン (130mg/m 2 3 週毎 ) 併用 (CapeOX) 療法による術後補助化学療法 (8 サイクル ) の無病生存期間における優越性 ( 期待ハザード比 0.75 両側 α エラー 0.05 パワー 80%) を検証した無作為化非盲検の多施設共同第 Ⅲ 相比較試験である 2006 年 6 月から 2009 年 6 月の間に 1035 例 ( 手術単独群 515 例 CapeOX 群 520 例 ) が登録された 患者背景に偏りはなく 両群ともに年齢の中央値は 56 歳 病期は 49-51% が Stage II 36-37% が Stage IIIA 13-14% が Stage IIIB であった 計 257 のイベントが発生した時点 ( 観察期間中央値約 34 か月 ) で予定されていた中間解析がなされ その結果が早期公表された 無病生存期間におけるハザード比は 0.56 (95% 信頼区間 0.44 0.72 p<0.0001) 3 年無病生存割合は手術単独群 59% CapeOX 群 74% であり 3 年生存割合は手術単独群 78% CapeOX 群 83% であった ( ハザード比 0.72 95% 信頼区間 0.52 1.00 p=0.0493) 346 例 (67%) が予定の 8 サイクルの化学療法を完遂した しかし 167 例 (32%)/163 例 (32%) においてカペシタビン / オキサリプラチンの減量を要した 平均相対薬物強度は カペシタビン 68.2% オキサリプラチン 74.3% であった (J-CLASSIC-PII 試験の論文より引用 ) 追跡不能もしくは治療未実施の 61 例を除外した 974 例 ( 手術単独群 478 例 CapeOX 群 496 例 ) において安全性が解析され CapeOX 群の 56% に Grade 3 以上の有害事象を認めた 5% 以上の頻度で認められた Grade 3 以上の有害事象は 好中球減少症 (22%) 血小板減少症 (8%) 嘔気 (8%) 食欲不振 (5%) 嘔吐 (7%) 疲労 (5%) であり 50 例 (10%) の症例が有害事象のため化学療法を中止した 本論文における結語 CapeOX 療法は D2 リンパ節郭清を伴う治癒切除術後の胃癌症例における術後補助化学療法の新たな治療選択肢である 補足 :CLASSIC 試験における 5 年経過観察後の結果 CLASSIC 試験の 5 年経過観察後 ( 観察期間中央値約 62 ヵ月 ) の結果が報告されている 1) 5 年生存割合は 手術単独群 69% CapeOX 群 78%( ハザード比 0.66 95% 信頼区間 0.51 0.85 p=0.0015) であった 全生存期間におけるサブセット解析では 組織学的病期 Stage II/IIIA /IIIB のハザード比 (95% 信頼区間 ) は それぞれ 0.54 (0.34 0.87)/0.75 (0.52 1.10)/ 0.67 (0.39 1.13) であった

試験名 :J-CLASSIC-PII 試験文献 :Adjuvant capecitabine plus oxaliplatin after D2 gastrectomy in Japanese patients with gastric cancer: a phase II study. 著者 :Fuse N, Bando H, Chin K, Ito S, Yoshikawa T, Tsuburaya A, Terashima M, Kawashima Y, Fukunaga T, Gotoh M, Emi Y, Yoshida K, Oki E, Takahashi S, Kuriki H, Sato K, Sasako M. 掲載雑誌 :Gastric Cancer. 2016 Mar 8. [Epub ahead of print] 研究資金 :Chugai Yakult JCLASSIC-PII 試験のデザイン D2 リンパ節郭清を伴う治癒切除を受け組織学的に確認された Stage II/III( 胃癌取扱い規約 14 版 T1 T3N0 T4bN1/N2/N3 を除く ) の胃癌患者を対象として CLASSIC 試験にて有効性が証明された CapeOX 療法による術後補助化学療法 (8 サイクル ) の国内での安全性を確認するための第 Ⅱ 相臨床試験である 適格規準および CapeOX 療法の用法 用量や治療変更規準は CLASSIC 試験と同様であった プライマリーエンドポイントは相対薬剤強度 ( スケジュール延期を考慮せず 8 サイクルまでに投与される予定の薬物総投与量に対する実際の総投与量の比 ) であり CLASSIC 試験と同等であること示すために CLASSIC 試験での相対薬物強度を ACTS-GC 試験の対象患者の年齢分布で調整して計算されたカペシタビン 63.4% オキサリプラチン 69.4% を閾値として 実際に得られた平均相対薬物強度がこれらの閾値を超えるかどうかが検討された 80% の検出力を確保するために登録予定症例数は 100 例であった また 治療完遂割合 安全性 1 年無病生存率も検討された 2012 年 7 月から 2013 年 7 月の間に国内の 12 施設から 100 例が登録された 年齢の中央値は 62 歳であり 病期 (AJCC/UICC 第 6 版 ) は Stage II/IIIA/IIIB/IV がそれぞれ 50/25/13/12 例であった 76 例 (76%) が予定の 8 サイクルの化学療法を完遂した しかし カペシタビンとオキサリプラチンがそれぞれ 78 例 (78%) 66 例 (66%) において減量され そのうちの 19 例 (19%) では途中でオキサリプラチンが中止されていた 術後補助化学療法を中止した 24 例の理由は 有害事象 / 再発 / 患者拒否 / その他が 11/5/5/3 例であった 65 歳未満や幽門側胃切除術の症例の方が 65 歳以上の高齢者や胃全摘術の症例よりも完遂率が高い傾向であった 平均相対薬物強度は カペシタビン 67.2 % (95 % 信頼区間 61.9 72.5) オキサリプラチン 73.4 % (95% 信頼区間 68.4 78.4 %) であり いずれも上記の閾値を上回った Grade 3 以上の有害事象が 71 例 (71%) で観察され 10% 以上の頻度で認められた Grade 3 以上の有害事象は 好中球減少症 (33%) 食欲不振 (17%) 末梢神経障害 (14%) 嘔気 (10%) であった 高齢者および胃全摘症例の方が有害事象の頻度が高い傾向を認めた 1 年無病生存割合は全体で 86% であった 本論文における結語国内における CapeOX 療法による胃癌術後補助化学療法の安全性 忍容性は CLASSIC 試験と同等であった 本試験および CLASSIC 試験を合わせると CapeOX 療法は日本人においても胃癌術後補助化学療法の選択肢の一つであると考えられる

試験名 : なし 文献 :Phase II study of adjuvant chemotherapy of S-1 plus oxaliplatin for patients with stage III gastric cancer after D2 gastrectomy. 著者 :Shitara K, Chin K, Yoshikawa T, Katai H, Terashima M, Ito S, Hirao M, Yoshida K, Oki E, Sasako M, Emi Y, Tsujinaka T 掲載雑誌 :Gastric Cancer. 2015 Dec 1. [Epub ahead of print] 研究資金 :Yakult 試験のデザイン本試験は D2 以上のリンパ節郭清を伴う治癒切除を受け組織学的に確認された Stage III ( 胃癌取扱い規約 14 版 遺残度 R0 T4bN2/N3 を除く ) 胃癌症例において S-1(80mg/m 2 / 日 1-14 日 3 週毎 )+ オキサリプラチン (2 コース目以降 100mg/m 2 3 週毎 ) 併用 (SOX) 療法による術後補助化学療法 (8 サイクル ) の安全性と忍容性を検討することを目的に施行された プライマリーエンドポイントは 8 サイクルまでの治療完遂 ( オキサリプラチンが中止されていても可 ) 割合であり ACTS-GC 試験 2) の完遂割合 77.9% CLASSIC 試験での完遂割合 67% を参考にし 実際に得られた完遂割合の点推定値が 72% を越えることを期待し 95% 信頼区間の幅が 25% 未満になるように若干の脱落例を考慮して症例数 (60 例 ) が設定された 2013 年 7 月から 2014 年 2 月の間に国内の 11 施設から 63 例が登録されたが 同意撤回のため 1 例が解析から除外された 年齢の中央値は 64.5 歳であり 胃癌取扱い規約による Stage IIIA/IIIB/IIIC がそれぞれ 17/22/23 例であった 46 例が予定の 8 サイクルの化学療法を完遂し 完遂割合は 74.2%(95% 信頼区間 61.5-84.5) であり 44 例 (71%) でオキサリプラチンの投与も完遂した しかし 26 例 (41.9%) において S-1 が減量され 37 例 (61.7%) においてオキサリプラチンが減量されていた 術後補助化学療法を中止した 16 例の理由は 有害事象によるコース再開延期 / 再発 / 患者拒否 / 担当医判断が 7/2/4/3 例であった スケジュール延期を考慮せず投与総量からみた平均相対投薬強度は S-1 では 77.2% オキサリプラチンでは 71.2% であった Grade 3 以上の有害事象が 62.9% の症例に観察され 10% 以上にみられた Grade 3 以上の有害事象は好中球減少症 (32.3%) であった 65 歳以上と未満の症例で S-1 およびオキサリプラチンの平均相対薬物強度には差がなかったが 胃全摘症例の方が幽門側胃切除症例よりも平均相対薬物強度は低い傾向にあった 本論文における結語 Stage III 胃癌に対する SOX 療法による術後補助化学療法はマネージメント可能であり 適切な減量や延期することにより安全に実施可能であった

ガイドライン委員会からのコメント CLASSIC 試験および J-CLASSIC-PII 試験の結果を受けて 本邦において 2015 年 11 月にカペシタビンおよびオキサリプラチンが胃癌術後補助化学療法で使用可能となった これまで胃癌治療ガイドラインでは ACTS-GC 試験 2,3) に基づいた S-1 単剤の 1 年間投与が推奨度 1 の術後補助化学療法とされていたが 選択肢が増えたことになる S-1 単独療法および CapeOX 療法はいずれも 本邦の胃癌術後補助化学療法において 推奨される治療法 である ただし 術後補助化学療法における S-1 単剤療法と CapeOX 療法または SOX 療法を直接比較した試験はなく 現場ではこれらの優劣についての間接比較やサブセット解析に基づいて病期や組織型 ( 分化度 ) による使い分けが議論されている しかし サブセット解析自体が検証的なものではなく さらにそれを用いた試験間での間接比較は 推測や考察でしかない ことを十分意識する必要がある すなわち 現時点で S-1 単独療法と CapeOx または SOX 療法を使い分ける明確な基準は存在せず リスク ベネフィットを考慮した使い分けは今後の重要な検討課題である 現時点では胃癌術後補助化学療法としての CapeOX 療法および SOX 療法の本邦における長期成績の報告はない 治癒を目的とする術後補助化学療法においては 延命を目的とする緩和的化学療法と異なり 長期成績を含めたリスク ベネフィットを考慮した慎重な判断が必要である SOX 療法には比較試験の結果がないため エビデンスレベルは CapeOX 療法の方が高い また オキサリプラチン併用によって副作用が増強する可能性に留意する必要がある J-CLASSIC-PII 試験では プライマリーエンドポイントである平均相対薬剤強度は事前に設定された閾値を超えたものの カペシタビン オキサリプラチンともに 2/3 以上の症例で減量が必要であった これは SOX 療法でも同様であった このように 術後補助化学療法においてオキサリプラチンを併用する際には 副作用に十分に注意し適宜減量する必要がある また 本邦の実臨床では高齢者の割合が CLASSIC 試験の登録例より高いことが予想されるが 高齢者では副作用の頻度が高く忍容性が低い可能性があることに注意が必要である 推奨度について胃癌治療ガイドライン第 4 版では 推奨度を下記のように定義した 推奨度 1: 推奨されるレジメン全生存期間をエンドポイントにおいた第 Ⅲ 相試験で優越性, もしくは非劣性が証明されたレジメンのうち, 国内での十分なデータがあり, 推奨度 1 としてコンセンサスの得られたもの 推奨度 2: 選択可能なレジメン第 Ⅲ 相試験で優越性もしくは非劣性が証明されたが, 推奨度 1 とするには十分なコンセンサスが得られていないもの, または第 Ⅱ 相試験で臨床的有用性が示唆されたレジメンのうち, 推奨度 2 としてコンセンサスの得られたもの 推奨度 3: 推奨されないレジメン第 Ⅲ 相試験の主評価項目で優越性や非劣性が証明できなかったレジメン, あるいは臨床的有用性や国内での十分な安全性のデータが示されていないレジメン また 速報 RAINBOW 試験と REGARD 試験の概要ならびに進行胃癌治療におけるラムシルマブに関する日本胃癌学会ガイドライン委員会のコメントでは 以下の推奨度を適応した 推奨度 1: 推奨されるレジメン全生存期間をエンドポイントにおいた第 III 相試験で優越性もしくは非劣性が証明されたレジメンのうち 国内での十分なデータがあり 最も適切なレジメン であるとのコンセンサスが得られたため推奨されるレジメン推奨度 2: 選択可能なレジメン

第 III 相試験で優越性もしくは非劣性が証明された または 第 II 相試験で臨床的有用性が示唆されたことにより 適切なレジメン としてコンセンサスが得られたため選択可能なレジメン推奨度 3: 推奨されないレジメン第 III 相試験の主要評価項目で優越性や非劣性が証明されていない あるいは臨床的有用性や国内でのデータが十分に示されていないため推奨されないレジメン これらの推奨度は エビデンスレベルの高さとコンセンサスの強さを合わせて本学会が独自に設定したものであるが さまざまな臨床試験を経て登場する新しい治療法に対してこれらの定義をあてはめることは困難になってきた 本ガイドライン作成委員会では 2017 年に出版予定の第 5 版に向けてより普遍的に対応可能な推奨方法を検討中である 本邦の実地医療における胃癌術後補助化学療法にとって S-1 単独療法および CapeOX 療法はいずれも 推奨される治療法 であることは明らかである 現時点でこれらの比較や使い分けについて明言することは困難であるが 個々の患者のリスクや全身状態を考慮して 両療法のリスク ベネフィットを考察し サブセット解析の信頼度も含めて十分な説明をしたうえで 患者の同意を得て治療法を決定することが求められる 胃癌治療ガイドライン第 4 版の推奨度の定義に従うと S-1 単独療法は 推奨度 1 であり 国内における効果についてデータのない CapeOX 療法は 推奨度 2 となる しかし これが両者の優劣あるいは選択順を示すと解釈される危険性がある 一方 国内での十分なデータのない CapeOX 療法を S-1 単独療法と同等の推奨度 1 とすることには慎重にならざるを得ない ラムシルマブについての速報で定義した推奨度では パクリタキセルとラムシルマブの併用療法を 推奨度 1: 最も適切なレジメン とした しかし 胃癌術後補助化学療法において 最も適切なレジメン を S-1 単独療法または CapeOX 療法のいずれか 1 つに限定することは不適切である 以上より 本速報ではあえて CapeOX 療法の推奨度については言及しないこととした 胃癌治療ガイドライン第 5 版では 適切な表現で両治療法を推奨する予定である 文献 1. Noh SH, et al. Adjuvant capecitabine plus oxaliplatin for gastric cancer after D2 gastrectomy (CLASSIC): 5-year follow-up of an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2014 Nov;15(12):1389-96 2. Sakuramoto S, et al. Adjuvant chemotherapy for gastric cancer with S-1, an oral fluoropyrimidine. N Engl J Med. 2007 Nov 1;357(18):1810-20 3. Sasako M, et al. Five-year outcomes of a randomized phase III trial comparing adjuvant chemotherapy with S-1 versus surgery alone in stage II or III gastric cancer. J Clin Oncol. 2011 Nov 20;29(33):4387-93