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Transcription:

平成 26 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究 Ⅱ 循環器疾患の病態生理と薬物治療に関する研究 不整脈における処方せん調査 Study on Pathological Physiology and Pharmacotherapy in Circulatory Disease Survey on Prescribed Drug of Arrhythmia 臨床薬剤学研究室 6 年 09P030 木伏宏士 ( 指導教員 : 河野健冶 )

要旨 不整脈の薬物治療において労力を注げる患者の多くは心房細動の患者である 心房細動の疾患の改善や予防において使われる治療薬は様々でありその組み合わせも多い 実際の処方傾向や使用する薬剤の特徴を把握することは 薬剤師が的確な服薬指導を行ううえで必要であると考え 不整脈の処方実態を調査した 抗不整脈薬では Vaughan Williams 分類のⅠa 群薬のシベノール リスモダン Ⅰc 群薬のサンリズム タンボコール Ⅱ 群薬のテノーミン メインテート セロケン Ⅲ 群薬のアミオダロン塩酸塩 アンカロン Ⅳ 群薬のワソラン ヘルベッサー R ベプリコール 強心薬であるジゴキシン ハーフジゴキシンなどが処方されていた 併用薬では抗血栓薬 利尿薬 Ca 拮抗薬 Angiotensin-Converting Enzyme (ACE) 阻害薬 AngiotensinⅡ(ATⅡ) 受容体拮抗薬 αβ 遮断薬 抗狭心症薬の順に多く処方されていた 不整脈だけでなく不整脈の原因疾患と合併している処方が多数あると認められた 抗不整脈薬だけでなく合併している疾患の治療を行いながら薬剤師として患者に適した服薬指導が行えるようになることが必要であると考えた

キーワード 1. 不整脈 2. 薬物療法 3. 処方実態 4. 抗血栓薬 5. 利尿薬 6.Ca 拮抗薬 7.Angiotensin-Converting Enzyme (ACE) 阻害薬 8.AngiotensinⅡ(ATⅡ) 受容体 拮抗薬 9.αβ 遮断薬 10. 抗狭心症薬 11. 強心薬

目次 1. はじめに 1 2. 病態生理と薬物治療 1 3. 調査方法 7 4. 結果 7 5. 考察 13 6. おわりに 14 謝辞 14 引用文献 15

論文 1. はじめに不整脈は様々な種類があり 不整脈でもっとも多い 心室性期外収縮 は健康な人でも起こるもので 多くは治療を行わなくてもよい また一方で他の心疾患に伴って起こり一刻も早い治療が必要な不整脈や 不整脈そのものが突然死を引き起こすものもある 1) 多くの種類や症状によって治療の緊急度に違いのある不整脈を本論文では実際の臨床現場において不整脈の治療を目的としている処方せんの実態を調査し その使用状況についてまとめた 2. 不整脈について 2-1 定義心臓におけるさまざまな部位 ( 心房 房室結節 心室など ) における興奮生成もしくは伝導の異常により正常リズムと異なるリズム不整をきたすもの 2) 2-2 発生機序 1. 刺激生成異常 [ 洞結節自動能の異常 ] 洞結節の生理的ペースメーカーに異常が生じ 活動電位の発生が不規則になったり 頻度が異常に高くあるいは低くなる 3) [ 異所性自動中枢 ] 洞結節の生理的ペースメーカー以外に異常なペースメーカーが出現すると そこで発生した活動電位が心臓内を伝わってひろがり 拍動を乱す この異常なペースメーカーの活動には細胞膜からの Ca 2+ または Na + の流入が関与していると考えられている 3) [ 誘発活動 ] 活動電位の発生が引き金となって 活動電位再分極相の途中または活動電位終了直後に異常な脱分極が生じ 異常な拍動が起きます 細胞膜の K + 透過性の低下や細胞内 Ca 2+ 濃度の異常な上昇により生じると考えられている 3) 1

2. 刺激伝導異常 [ 伝導ブロック ] 活動電位が心臓全体へ伝わらなくなり 拍動が乱れる 3) [ リエントリー ] 通常は心臓全体に伝搬した後消失する活動電位が何らかの異常により消失せず心筋内を旋回して拍動を乱す 3) 図 1 4) 2-3 不整脈の種類徐脈性と頻脈性に分類することができる 徐脈性不整脈( 脈が遅くなる ) 洞不全症候群 ( 洞停止 洞性徐脈 洞房ブロック 徐脈 頻拍症候群 ) 房室ブロック 頻脈性不整脈( 脈が速くなる ) 心室期外収縮 発作性上室頻拍 心房粗動 心房細動 心室細動 心室頻拍 2

2-4 不整脈の種類ごとによる治療 5) 洞不全症候群(SSS) 1. 血行動態が安定している場合 無症状のものは原則として治療を要しない 2. 血行動態が不安定な場合 a, 薬剤投与アトロピン 無効ならドパミン アドレナリン 無効ならイソプロテレノール b, 薬剤無効のとき 一時的ペーシングを施行 c, 永続性のとき ペースメーカーまた 薬剤性のものは まず薬剤の中止を行う 房室ブロック 1.ⅠおよびⅡ 度房室ブロック (wenckebach 型 ) で血行動態が安定している場合治療を必要としないことが多いが原因となるものがあれば原因にたいしての治療を行う 2. 房室ブロック (wenckebach 型 ) で血行動態が不安定な場合 a, 薬剤投与アトロピン 無効ならドパミン アドレナリン 無効ならイソプロテレノール b, 薬剤無効のとき 一時的ペーシングを施行 3. 房室ブロック (mobitzⅡ 型 )Ⅲ 度房室ブロック ( 完全房室ブロック ) の場合 原則として一時的ペーシングを施行 ペーシング準備中に薬剤投与アトロピン 無効ならドパミン アトロピン 無効ならイソプロテレノール 根治療法としてペースメーカー植込み術を考慮する 発作性上室頻拍(PSVT) 1. 動態が安定している場合 発作時にはまず迷走神経刺激法を試みる 効果がなければ ATP,Ca 拮抗薬 ( ベラパミルなど ),β 遮断薬を静注 2. 動態が不安定な場合カルジオバージョン ( 単相性除細動器 :50~100J 二相性除細動器 : 不定 ) 3

心房細動(AF) 1. 血行動態が安定している場合 a. 心拍数のコントロールのため Ca 拮抗薬 ( ベラパミルなど ) β 遮断薬 ジゴキシン b. 心リズムのコントロールのため アミオダロン ジゴキシン * 心不全を合併した際の頻拍には ジゴキシンが第一選択薬である 2. 血行動態が不安定な場合カルジオバージョン ( 単相性除細動器 :100~200J, 二相性除細動器 :100~120J) 3. 抗凝固療法 ( ヘパリン ワルファリン ) 塞栓症の予防に必要である 心房期外収縮 (PAC) 特に治療を要さない 動悸や頻拍などの増悪があれば Ca 拮抗薬 ( ベラパミルなど ) を用いる 心室期外収縮 (PVC) 1. 心筋梗塞などの基礎疾患を伴う場合リドカイン静注 ( 心室細動 [VF] の誘発を防ぐ ) 2. 基礎疾患を伴わない場合動悸などにより生活に支障をきたす場合のみβ 遮断薬などを投与 心室細動(VF) 1. 直ちにカウンターショックを行う ( 単相性除細動器では 360J, 二相性除細動器では 120~200J を用いる ) 2. 上記が無効であれば心肺蘇生法とカウンターショックを繰り返すエピネフリン バゾプレシン アミオダロン リドカインなども用いられる 3. 心肺蘇生法と平行して低 O2 血症 アシドーシス 電解質異常などを補正し 原因となった基礎状態の是正を図る 4

Ⅰ 不整脈に対する治療薬 Vaughan Williams 分類 6) 第 群 種類 作用 副作用 キニジン (Ⅰa) Na チャネル遮断 高度伝導障害 心停止 心室細動 活動電位延長 心不全 SLE 様症状無顆粒球細胞 症 白血球減少 再生不良正貧血 溶血性貧血 血小板減少性紫斑病 プロカインアミド Na チャネル遮断 心室頻拍 心室粗動 心室細動 (Ⅰa) 活動電位延長 心不全 SLE 様症状 無顆粒球症 アジマリン (Ⅰa) Na チャネル遮断 無顆粒球症 活動電位延長 ジソピラミド (Ⅰa) Na チャネル遮断 心停止 心室細動 心室頻拍 心 活動電位延長 室粗動 心房粗動 房室ブロック 洞停止 失神 心不全悪化等 低 血糖 無顆粒球症 ジベンゾリン (Ⅰa) Na チャネル遮断 ショック 催不整脈作用 心不全 活動電位延長 低血糖 顆粒球減少 ピルメノール (Ⅰa) Na チャネル遮断 心不全 心室細動 心室頻拍 房 活動電位延長 室ブロック 洞停止 失神 低血 糖 リドカイン (Ⅰb) Na チャネル遮断 刺激伝導性抑制 ショック 意識 活動電位短縮 障害 振戦 痙攣等の中毒症状 メキシレチン (Ⅰb) Na チャネル遮断 中毒性表皮壊死症 皮膚粘膜眼症 活動電位短縮 候群 紅皮症 過敏症症候群 心 室頻拍 アプリジン (Ⅰb) Na チャネル遮断 催不整脈 無顆粒球症 間質性肺 活動電位短縮 炎 肝機能障害 フレカイニド (Ⅰc) Na チャネル遮断 活動電位不変 ピルシカイニド (Ⅰ Na チャネル遮断 c) 活動電位不変 プロパフェノン (Ⅰ Na チャネル遮断 c) 活動電位不変 心室頻拍 心室細動 心房粗動 肝機能障害心室細動 心室頻拍 失神 肝機能障害 心室頻拍 心室細動 洞停止 洞房ブロック 房室ブロック 失神 徐脈 5

Ⅱ Ⅲ Ⅳ 第 群 ナドロール β 受容体遮断作用 心不全 洞房ブロック 洞不全症候群 過敏症 プロプラノロール塩酸塩 β 受容体遮断作用 うっ血性心不全 徐脈 末梢性虚血 房室ブロック 無顆粒球症 血小板減少症 紫斑病 気管支痙攣 呼吸器困難 喘息 アミオダロン K チャネル遮断作用 間質性肺炎 肺線維症 肺胞炎 塩酸塩 活動電位延長 既存の不整脈の重度の悪化 心不 全 徐脈からの心停止 完全房室 ブロック 血圧低下 第 群 ニフェラカント 塩酸塩 K チャネル遮断作用 活動電位延長 心室頻拍 心室細動 心室性期外 収縮 心房細動 心房粗動 ソタロール 心房細動 心室頻拍 洞停止 完 塩酸塩 全房室ブロック 心不全 振拡大 ベラパミル Ca チャネル抑制 心不全 洞停止 房室ブロック 塩酸塩 徐脈 意識消失 皮膚粘膜眼症候 群 ジルチアゼム Ca チャネル抑制 完全房室ブロック 高度徐脈 心 第 塩酸塩 停止 うっ血性心不全 群 ベプリジル Ca チャネル抑制 QT 延長 心室頻拍 心室細動 洞 塩酸塩水和物 停止 房室ブロック 無顆粒球症 間質性肺炎 ジゴキシン 心筋の収縮力増強 ジギタリス中毒 ( 高度の徐脈 二 強心薬 ( ジギタリス製 剤 ) ( 陽性変力作用 ) 心拍数減少 ( 陰性変時作用 ) 興奮伝導遅延作用 段脈 多源性心室性期外収縮 発 作性心房性頻拍などの不整脈 ) ( 陰性変伝導作用 ) 6

3. 調査方法新潟県内に店舗を置く市民調剤薬局にデータ提供の協力を得て 2013 年 11 月 (11/1 ~11/30) に来局した患者の処方せんから不整脈と思われる患者を対象とし それらについて過去 1 年間の処方せん 薬局薬歴より 年齢 性別 処方医薬品名 用量 用法 投与日数のデータ収集 集計を行った 尚 得られた情報に関しては 個人情報保護法に配慮して収集した 4. 結果 4-1. 研究対象患者背景条件を満たした 29 名を抽出し 処方実態について調査を行った 平均年齢は 66.0 歳で 年齢層は 20 代から 90 代までと幅広く 60 代が最も多いという結果が得られた また 性別比は男性 :20 名 (69.0%) 女性 :9 名 (31.0%) という構成比であった ( 図 1 図 2) 図 2 を見ると男性は 20 代から 90 代までと幅広く 女性は 50 代から 90 代までと若年層には患者が見られなかった 男性 女性 31% 69% 図 1 対象患者の男女比 7

8 7 6 5 4 3 男性 女性 2 1 0 20 代 30 代 40 代 50 代 60 代 70 代 80 代 90 代 図 2 男女別年齢構成比 4-2. 代表的な処方せん ⅰ) 72 歳女性 Rp1 リスモダンカプセル 100mg 2 カプセル 1 日 2 回朝 夕食後 42 日 Rp2 ワーファリン錠 1mg 4.5 錠 1 日 1 回朝食後 42 日 Rp3 ワソラン錠 40mg 3 錠 1 日 3 回毎食後 42 日 ⅰ) では不整脈治療薬としてリスモダンカプセル 100mg( ジソピラミド ) とワソラン錠 40mg( ベラパミル ) が処方されている ジソピラミドは Na チャネル遮断作用 + 一部の K チャネルの遮断と強い抗コリン作用を示す ワソラン錠 40mg( ベラパミル ) は Ca 拮抗薬であり これら 2 剤の併用は心機能正常での発作性心房細動の予防的治療に用いられている また心房細動に起因する血栓塞栓症の予防として抗凝固薬であるワーファリン錠 1mg( ワルファリンカリウム ) が使用されていると推察できる 7.8) 8

ⅱ) 94 歳男性 Rp1 ラシックス錠 20ng 1 錠 ハーフジゴキシン KY 錠 0.125mg 0.5 錠 ワーファリン錠 1mg 2 錠 アリセプト D 錠 5mg 1 錠 1 日 1 回朝食後 35 日 Rp2 ワソラン錠 40mg 2 錠 1 日 2 回朝 夕食後 35 日 ⅱ) は高齢者の不整脈治療薬としてハーフジゴキシン KY 錠 0.125mg( ジゴキシン ) ワソラン錠 40mg( ベラパミル ) が処方されている ジゴキシンは心筋収縮力の増大 房室伝導の抑制により慢性心房細動のレートコントロールに使用されている 高齢であるため脱水や感染症を契機に過剰となる可能性があるため長期的なリスクを考え半錠の服用と推察できる また Ca 拮抗薬であるワソラン錠も心房細動のレートコントロールに使用されている 併用することにより相乗効果が大きい ラシックス錠 40mg( フロセミド ) は利尿薬の中でループ利尿薬に分類され 強力かつ速効性があり利尿薬の中で最も多く使用されている 心不全に適応がある 本来心房細動の患者には第一選択薬としてβ 遮断薬が選ばれるが心不全の患者には禁忌である 抗凝固薬であるワーファリン錠 1mg( ワルファリンカリウム ) は心房細動による血栓塞栓症の予防のために使用されていると推察できる アリセプト D 錠 5mg( ドネペジル ) はアルツハイマー型認知症の治療薬として使用されている 7.8) 9

4-3. ケーススタディ 65 歳女性 処方 1 H25.7 Rp1 サンリズムカプセル 50mg 2 カプセル 1 日 2 回朝 夕食後 7 日 Rp2 セロケン錠 20mg 2 錠 動悸時 ( 頓服 ) 5 日 Rp3 メインテート錠 2.5mg 1.5 錠 1 日 1 回朝食後 8 日 処方 2 H25.7 Rp1 セロケン錠 20mg 2 錠動悸時 ( 頓服 ) 15 日 Rp2 メインテート錠 2.5mg 1.5 錠 1 日 1 回朝食後 14 日 Rp3 シベノール錠 100mg 3 錠 1 日 3 回毎食後 14 日 サンリズムカプセル削除シベノール錠追加 処方 3 H25.10 Rp1 メインテート錠 2.5mg 1.5 錠 1 日 1 回朝食後 14 日 Rp2 パリエット錠 10mg 1 錠 1 日 1 回朝食後 14 日 Rp3 シベノール錠 100mg 3 錠 1 日 3 回毎食後 14 日 Rp4 セロケン錠 20mg 2 錠動悸時 ( 頓服 ) 6 日 パリエット錠 追加 ここで調査した処方せんの中から1 例を挙げ 処方歴を紹介する 72 歳女性 処方 1 ではサンリズムカプセル 100mg( ピルジカイニド ) が使用されている サンリズムカプセルは Na チャネル遮断作用のみであり K 電流への作用や心臓以外への影響がほとんどなく安全性の高い不整脈薬である 心房細動に対する第一選択薬となることも少なくない しかし治療効果が期待できなかったあるいは症状が悪化によりシベノール錠 100mg( ジベンゾリン ) に変更になった シベノールは Na チャネルの遮断 一部の K チャネルの遮断 わずかな Ca チャネルの遮断 弱い抗コリン作用をもつ ま 10

た他のⅠa 群薬よりも Na チャネルの結合 / 解離が遅く この点はⅠc 群に近くこれらの理由からサンリズムカプセルからシベノール錠へ変更したのだと推察できる また処方 3 からパリエット錠 10mg( ラベプラゾールナトリウム ) が処方されているのは消化器症状の副作用が現れたからと推察できる 7.8) 4-4. 薬物治療の実際 今回調査対象にあった 29 名の処方せんにおいて 作用機序別抗不整脈薬の処方頻度 の集計を行った ( 図 3.4) Ⅰa 薬 Ⅰb 薬 Ⅰc 薬 Ⅱ 薬 Ⅲ 薬 処方率 Ⅳ 薬 強心薬 0 10 20 30 40 50 60 70 % 図 3 処方薬頻度 (Vaughan Williams 分類 + 強心薬 ) 抗血栓薬利尿薬 Ca 拮抗薬 ACE 阻害薬 ATⅡ 受容体拮抗薬 αβ 遮断薬抗狭心症薬併用なし 処方率 図 4 不整脈以外の併用薬 0 10 20 30 40 50 60 70 % 抗不整脈薬の中では Ⅳ 群の処方頻度が一番多く 58.7% であった 次いで Ⅱ 群 32.7% Ⅰ 群 27.2% 強心薬 18.1% Ⅲ 群 16.1% Ⅰc 群 7% Ⅰb 群 0% であった ( 図 3) 11

また その他の併用薬として抗血栓薬 64.2% 利尿薬 40.6% Ca 拮抗薬 27.2% ACE 阻害薬 16.5% ATⅡ 受容体拮抗薬 9.1% αβ 遮断薬 9.1% 抗狭心症薬 9.1% となった 10% 49% 41% 単剤 2 剤 3 剤 図 5 薬剤の併用数 ( 抗不整脈薬のみ ) 併用数 組み合わせ 処方率 (%) 単剤 Ⅰa 群 10.2 単剤 Ⅰc 群 5.1 単剤 Ⅲ 群 4 単剤 Ⅳ 群 19.3 単剤 Ⅳ 群 ( 屯 ) 2 2 剤 Ⅰa 群 +Ⅱ 群 3.1 2 剤 Ⅰa 群 +Ⅳ 群 3.5 2 剤 Ⅰc 群 +Ⅱ 群 1.2 2 剤 Ⅰc 群 +Ⅳ 群 ( 屯 ) 0.7 2 剤 Ⅱ 群 +Ⅲ 群 7.5 2 剤 Ⅱ 群 +Ⅳ 群 5.1 2 剤 Ⅳ 群 +Ⅳ 群 9.8 2 剤 強心薬 +Ⅳ 群 15.7 2 剤 強心薬 + 2.4 Ⅳ 群 ( 屯 ) 3 剤 Ⅰa 群 +Ⅱ 群 +Ⅱ 群 2.8 3 剤 Ⅰa 群 +Ⅱ 群 +Ⅱ 群 ( 屯 ) 2.8 3 剤 Ⅰa 群 +Ⅱ 群 +Ⅲ 群 4.7 表 1 治療薬の組み合わせ (Vaughan Williams 分類 + 強心薬 ) 12

併用数の数は 2 剤が一番多く 49% 次に単剤の 41% 3 剤 10% となり単剤と 2 剤を処 方するケースが処方せんの多くを占めていた ( 図 5) 治療薬の組み合わせでは Ⅳ 群の単 剤 強心薬 +Ⅳ 群 Ⅰa 群の単剤の順で多かった ( 表 1) 5 考察本論文では不整脈と疑われる処方を収集し 調査した 対象となった患者は男性の方が多く年代も男性は 20 代から 90 代と幅広いのに対し 女性は 50 代から 90 代となった 処方率については不整脈治療薬よりも抗血栓症薬の方が高くなった これは心房細動によって生じる血栓塞栓症の改善 予防の目的に使用していることが理由と考えられる また次に処方率の多かったⅣ 群薬 (Vaughan Williams 分類 ) も心房細動のレートコントロール 動悸を抑える目的に使用されていることから心房細動に対する治療が多いことが推察できる 併用薬では抗血栓薬 利尿薬 Ca 拮抗薬 ACE 阻害薬 ATⅡ 受容体拮抗薬 αβ 遮断薬 抗狭心症薬などがあり 患者は不整脈だけでなく心不全 高血圧 狭心症などの疾患と合併していることが推察できる このことからも薬物治療は不整脈だけでなくそれに関連するその他の循環器疾患の治療も必要である またそれに伴い処方する組み合わせも違いが生じ 今回の調査では不整脈薬の組み合わせは 17 種類になった 多いものでⅣ 群薬単剤処方が 19.3% 次いで強心薬 +Ⅳ 群薬が 15.7% となり 心房細動のコントロールにはこの 2 種類の組み合わせで 35% の割合で使用されている 不整脈の症状の重症度による組み合わせの違いもあると思われるが合併している疾患の違いにも 17 種類という多い組み合わせは関係していると推察できる 全体を通して不整脈の薬物治療は心房細動に対しての処方が多く 治療に対しても様々な組み合わせがあることを知った またその他の循環器疾患による治療薬の変化なども考えながら個々の患者に適した処方が必要であると考察した 13

6. おわりに不整脈治療はただ不整脈を治すのではなく不整脈の原因となる疾患も治療をしていかなければならない その疾患も心不全や高血圧 狭心症など様々ある それに伴い治療薬の組み合わせも変わってくる 数多い処方の組み合わせを理解し薬剤師として患者に適した服薬指導が行えるようになることが必要であると考えた 謝辞 本調査研究の実施にあたり 多大なるご協力をいただきました株式会社市民調剤薬局の 諸先生方 新潟薬科大学臨床薬剤学研究室河野健治教授に深く感謝申し上げます 14

引用文献 (1) http://www.daiichisankyo.co.jp/healthy/library/arrhythmia/chapter2/index.html (2) わかりやすい疾患と処方薬の解説 (2011). (3)http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/shinkin/medicine/medicine-1-1-1.html. (4)http://www.yume-shop.com/banana.shop/feseimyaku_Q%26A.htm (5) 病気がみえる 2 循環器 (2010). (6)2011 治療薬マニュアル. (7) 村川祐二循環器治療ファイル薬物治療のセンスを身につける (2002). (8) 小川聡抗不整脈薬の選び方と使い方 - 抗不整脈薬ガイドラインに準じて (2005). 15