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目次 要旨 1 はじめに 1.1 Hα 線 1.2 HⅡ 領域について 1.3 目標天体のオリオン星雲について 1.4 Hαフィルター 2 観測 2.1 使用機材 2.1.1 リッチー クレチアン式 40cm 反射望遠鏡 2.1.2 CCD カメラ 2.2 観測方法 2.3 画像処理 2.3.1 ダークフレーム補正 2.3.2 フラットフレーム補正 2.4 画像合成 3 解析 3.1.1 R バンド連続光を引くための準備 3.1.2 画像処理結果 4 考察 5 引用文献 6 謝辞 1

要旨 本研究では大学構内にある 40cm リッチー クレチアン式反射望遠鏡と CCD カメラを用いてHαフィルターの性能精度評価を行っていく それにより得られたデータから精度評価の方法とその結果を論じることを目的とする 本研究では明星大学 40cm 望遠鏡と冷却 CCD カメラを用い HII 領域オリオン大星雲の観測を行った 観測には性能試験対象である Hαフィルターと 恒星からの連続光を評価するための R フィルターを用いた 次に各フィルターのデータの画像合成を行い Hα 画像から R バンド画像を減算した また 減算する前に R バンド画像を R の透過率曲線を全帯域にわたって積分した値と Hαの帯域で積分した値の比の 0.130cm! を乗算する必要がある 2

1 はじめに 1.1 Hα 線 Ha 線とは 電離した水素原子が発する波長 656.3nm を中心とした電磁波である バルマー系列とは水素原子の線スペクトルのうち可視光から近紫外の領域にあるものである 量子数 3 の電子軌道から遷移した電子は最もエネルギーが小さく 波長が長いため Hα 線に属し 量子数 4 からの電子は Hβ 線 量子数 5 からの電子は Hγ 線に相当する光子を放出する 表 1: バルマー系列の水素原子の線スペクトル 図 1: 水素の電子軌道散光星雲などに見られる この輝線を発する領域は HⅡ 領域である 彩層から来るラインとしては最も明るい バルマー公式 1 λ = R( 1 2 2 1 n 2) λ: 波長 R: 定数 ( リュードべリ定数 ) (n>2) 3

1.2 HⅡ 領域について HII 領域とは 電離された水素が光を放っている天体である 直径数百光年に達する大きさを持ち 内部で星形成が行われている このガス雲の中で生まれた若い高温の青い星が多量の紫外線を放出し 星の周囲にある星雲を電離することで光っている HII 領域は数百万年にわたって数千個の新しい恒星を生まれている 生まれた星の中でも質量が大きな星々は爆発し あるいは激しい恒星風を放出するが それらの圧力により HⅡ 領域のガスが吹き払われ 星団の背後にわずかな星雲を残すのみとなる HII 領域は星が誕生する場所であるだけでなく その中には惑星系も存在するという証拠が見つかっている 化学的には HII 領域は約 90% を水素が占める 波長 656.3nm の Hα 線が最も強いため HII 領域は特徴的な赤色をしている 水素以外の残りはヘリウムや他の重元素である 1.3 オリオン星雲 (M42) についてオリオン大星雲 (M42) は散光星雲である 肉眼で見える星雲の中で最も明るいものの一つである 地球から約 1,600 光年の距離にあり 約 33 光年の実直径を持つと考えられている オリオン大星雲の中心部には 4 重星のトラペジウムを主要な構成メンバーとする 非常に若い星からなる散開星団がある ハッブル宇宙望遠鏡などの強力な望遠鏡による観測で オリオン大星雲の中に塵の円盤に包まれた星が多数発見されている これらの星は周囲に惑星系が形成される非常に初期の段階にあるものと考えられている 1.4 Hαフィルター Hαフィルターとは Hα 線付近の特定の波長帯の光だけを透過させるフィルターである 今研究で使用した Hαフィルターは多層膜干渉フィルターの一種である 多層膜干渉フィルターとはガラス面に光の波長程度の厚みの薄い膜を多数蒸着し それらの膜で光を干渉させることによりある特定の波長だけを透過させる形式のフィルターである したがって 蒸着させた膜に厚さや屈折率などのムラがあると フィルターの透過率 透過波長帯が影響を受けることになる 狭い特定の波長を通すだけのフィルターは ナローバンドフィルターと呼ばれ こうしたフィルターを使えば 特定の波長以外の光はブロックするため 光害がある都会の夜空からでも星雲を撮影することができる虹的な目的 効能であり 本研究では 特定波長で観測するために使用した 4

2 観測 2.1 使用機材 CCD カメラ (BITRAN 社製 BN-52) リッチー クレチアン式 40cm 反射望遠鏡 Hα フィルター (Astronomik 社製 透過率半値全幅 12nm) R バンドフィルター (SBIG 社製 ) 5

2.1.1 リッチー クレチアン式 40cm 反射望遠鏡広い視野を移せるのが特徴のカセグレン式の望遠鏡より広い視野を確保するために 放物凹面主鏡と双曲筝曲凸面副鏡の組み合わせでコマ収差と球面収差を除去できるリッチー クレチアン望遠鏡には高次非球面の鏡が使われているため 光軸合わせは困難である 鏡の方向きやスパイダーの長さだけでなく 副鏡と主鏡の前後間距離も重要になっている 図 2: リッチー クレチアン式 40cm 反射望遠鏡 形式 リッチー クレチアン式 40cm 反射望遠鏡 口径焦点距離口径比集光力 40cm 2800cm F7 3265 倍 分解能 0.290 ( 秒 ) 実視極限等級 有効最高倍率 14.78 等級 800 倍 表 2:40cm 望遠鏡の性能 6

2.1.2 CCD カメラ現在 可視光の天体観測では最も使われている光検出器である 長年使用されてきた写真乾板に比べて高い量子効率と出力信号が入射光量に対して高い線形性を有するという特徴を持っていることから より効率的かつ定量的に観測を行うことができる カメラに搭載されているフィルターホルダー内に ジョンソンフィルターが装填されており 今回は Hαフィルターと R バンドを使用した 図 3:CCD カメラ 7

2.2 観測方法 目標天体を望遠鏡に導入した後 CCD カメラの露出時間を調整する 露出時間は 今観測では星雲の観測の目的であるため バックのガス雲がきちんと映る時 間を選んでいる 恒星からの連続光を評価するために Hαと合わせて R フィルターでの撮像を行った 観測日 フィルター 露出時間 ( 秒 ) 撮影枚数 ( 枚 ) 気温 ( ) 湿度 (%) 気象条件 月齢 ( 歳 ) 12/24 Hα 0.5 23 5.9 56 快晴 2.1 R 1.5 22 5.9 56 快晴 2.1 12/25 Hα 0.5 22 5.8 35 晴れ 3.1 R 1.5 24 5.8 35 晴れ 3.1 表 3: 観測した時間帯と気象条件と月齢 8

2.3 画像処理 2.3.1 ダークフレーム補正 CCD は冷却することで暗電流によるダークノイズは少なくなるが 他にも読み込みノイズやバイアスといったノイズ要素があるため これらを除く必要がある そのノイズ要素を含めたダークノイズを補正するため ライトフレームから ダークフレームを減算する ダークフレームを得るには CCD 表面に全く光が当たらないようにし ライトフレームを撮像したときと同じ露出時間と冷却温度で撮像する 2.3.2 フラットフレーム補正写真の端は中央に対して輝度値の減少があり 画像内の光の量は使用した光学系によって均一ではない これらの CCD 各ピクセルの感度のムラや 光学系が原因で起こる光量ムラ 周辺減光 CCD 表面に付着したゴミ等を補正するために 均一な光源を撮像したフラットフレーム画像でライトフレーム画像を割る必要がある 2.4 画像合成画像合成の手順 1. フラットフレームのダーク処理を行う 2. 撮影した画像全てにダーク補正 フラット補正を行う 3. 処理した画像のピントが合っていないものを省き 日にちごと フィルターごとの4 種類に分けて加算平均を行う 4. 加算平均した画像をフィルターごとの 2 種類に分け加算平均を行う ( 観測日が違うため位置座標を合わせる ) 5. R バンド画像に Hα 全積分時間 /R 全積分時間の乗算を行う 6. さらに フィルターの感度曲線で囲まれた面積比の乗算を行う (3.1 で詳しく解説する ) 7. Hα 画像から乗算した R バンド画像の減算を行う ( 位置座標を合わせるときに中心のトラペジウムだけでなく トラペジウムを含めた全体星の位置を合わせる ) 9

Hα フ ィ ル タ ー l 合成した枚数 39枚 画像より 星雲 4重星トラペジウムを含む星団 ガスの広がりを映し出すことが出来 た 10

l R バンド合成した枚数 39 枚 Hα フィルター画像と比べ 4 重星トラペジウムを含む星団のみを映し出していることが 分かった 11

3 解析 3.1 R バンド連続光を引くための準備 l 今回恒星の光の強度が R バンドフィルターの帯域内で波長によらず一定であるという仮定を用いている l 恒星の連続光を差し引くためには R フィルター画像に含まれる Hαフィルター帯の光子の割合を求める必要がある l CCD カメラの受け取る ある波長の光子の数は その波長におけるフィルターの透過率に比例する したがって R フィルター画像に含まれる Hαフィルター帯の光子の割合は 透過率曲線を Hαの帯域で積分した値と全帯域にわたって積分した値との比となる l 透過率曲線を紙に拡大印刷し 面積計で透過率曲線の囲む面積をそれぞれ 10 回測定し 透過率曲線を Hαの帯域で積分した値と全帯域にわたって積分した値を求めた l R と Hαで測るべき透過率曲線の画像が別々になったので 測定した面積を直接比較できない したがって 200nm 20% の領域をそれぞれで測り それとの比を取ることで透過率曲線を Hαの帯域で積分した値と全帯域にわたって積分した値の比を求めた 図 4: 使用した R バンドフィルターの透過波長領域 http://www.sbig-japan.com/ubvri/ubvri_m.html より引用 12

図 5: 使用した Hα フィルターの透過波長領域 http://www.astronomik.com/en/photographic-filters/h-alpha-12nm-ccd-filter.html より引用オレンジで塗りつぶしてある個所の面積を図った オレンジで塗りつぶしている面積は R バンドの透過波長領域内にある Hαの帯域を示している 表 4: 前出のグラフから面積計で測定した結果 13

Hαフィルタ R バンド Hα/R cm² cm² cm² 1 146.5 67.0 2.187 2 145.7 68.2 2.136 3 143 70.2 2.037 4 145.8 70.3 2.074 5 143.3 67.3 2.129 平均 144.86 68.6 2.113 表 5:200nm 20% の領域の面積比 式透過率曲線を!" の帯域で積分した値 HII 領域の光 = Hα 画像 - ( 全積分時間比 ) ( ) R 画像全帯域にわたって積分した値上記の式は Hαフィルター画像から R バンドフィルター画像を減算するために用いた式である 14

3.2 画像処理結果 画像より Hα( 星 + 星雲の光 )-R( 星の光 ) で純粋な星雲の光を求めることが出来た 15

4 考察画像処理 (Hα-R 画像 ) から純粋な星雲の光を求めることが出来た R フィルターは 輝線の光を映し出しており Hαフィルターは 星の光と星雲の光を映し出していると考えている Hαフィルター画像は R バンドフィルター画像と比べガスの中心近くにあるトラぺジウムが分かりやすく写し出されていないことから トラペジウムの光が星雲の光に比べて等級が高いことが考えられる トラぺジウムを含む星全体のカウント値が想像していた値を超えていたのは 仮定していた光の強度が 一定では無いということが考えられる 他のデータとの比較ができないことで精密な観測が出来たのかわからないが 今後の参考となるデータが出来ていると考えている 16

5 引用文献 オリオン大星雲の見え方の変化 モノクロからカラーに見える瞬間を探る http://ursa.phys.kyushu-u.ac.jp/jsession/2010haru/07_jsession2010.pdf バルマー系列からリュードベリの公式へ http://homepage3.nifty.com/rikei-index01/ryousikagaku/topic-keiretuhakken.html バルマーの謎 http://211.15.34.23/ohnok/balmer.htm TETRA'S MATH http://math.artet.net/?eid=270991 17

6 謝辞今回の論文作成において 数多くのアドバイスをくださった井上先生 小野寺先生 日比野先生 院生の方々 天文研究室皆の胃袋を満たしてくれた小野和論君にも大変お世話になりました 一年間ありがとうございました 本研究テーマを通して学ぶことが多く 実験に対する姿勢を考えることができたと思っております 天文台やその他の機材を使わせていただきました 年が明けてから急に慌ただしくなっていく姿を見守ってくださり 支えてくださり 本当に感謝しています 18