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Q2 はどのような構造ですか? A2 LDL の主要構造蛋白はアポ B であり LDL1 粒子につき1 分子存在します 一方 (sd LDL) の構造上の特徴はコレステロール含有量の減少です 粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく また1 分子のアポ B に対してコレステロールが相対

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EBM と臨床 ( その 2)

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動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 本ガイドラインの目的と特徴 わが国の動脈硬化性疾患の予防と治療 動脈硬化性疾患のうち特に冠動脈疾患を念頭にし 管理目標は高脂血症を中心にしたものであるが 他の冠危険因子も十分に考慮した 本ガイドラインは臨床医に動脈硬化性疾患の予防や治療判断の情報を提供するものであるが 個々の患者の治療目標や治療手段の最終判断は直接の臨床医による

動脈硬化性疾患診療ガイドライン 2002 本ガイドラインと高脂血症診療ガイドライン (1997 年 ) との違い 高 LDL コレステロール血症 ( 高コレステロール血症 ) の診断基準は 1997 年のそれと同様に 140mg/dL 以上 (220mg/dL 以上 ) としたが 適正値は設けない 個々の患者のもつ危険因子に応じてリスクの重みづけを行い きめ細かい管理を目指すとともに リスクを減らすことを目標とした マルチプルリスクファクター症候群の重要性を強調した 薬物療法適応基準は設定せず 治療手段はライフスタイルの改善によることを優先させた

高脂血症の診断基準

患者カテゴリーと管理目標値

患者カテゴリーと管理目標値 * 冠動脈疾患とは 確定診断された心筋梗塞 狭心症とする ** LDL-C 以外の主要冠危険因子加齢 ( 男性 45 歳 女性 55 歳 ) 高血圧 糖尿病 ( 耐糖能異常を含む ) 喫煙 冠動脈疾患の家族歴 低 HDL-C 血症 (<40 mg/dl) * 原則として LDL-C 値で評価し TC 値は参考値とする * 脂質管理は先ずライフスタイルの改善から始める * 脳梗塞 閉塞性動脈硬化症の合併は B4 扱いとする * 糖尿病があれば他に危険因子がなくとも B3 とする * 家族性高コレステロール血症は別に考慮する

1997 年版ガイドラインとの主な相違 高 LDL- コレステロール血症 ( 高コレステロール血症 ) の診断基準は 1997 年のそれと同様に 140mg/dL 以上 (220mg/dL 以上 ) としたが 適正値は設けなかった 個々の患者のもつ危険因子に応じてリスクの重みづけを行い きめ細かい管理を目指すとともに リスクを減らすことを目標とした マルチプルリスクファクター症候群の重要性を強調した 薬物療法適応基準は設定せず 治療手段はライフスタイルの改善によることを優先させた

問題に戻って 高コレステロール血症 263 220 mg/dl 高トリグリセリド血症 (=TG 中性脂肪 ) 204 150 mg/dl さらなる検査と問診により 6 群の患者カテゴリーに分類 高血圧や糖尿病といった危険因子も考慮することになる 治療手段はライフスタイルの改善によることを優先 疾患が複合的な場合に累積的に処方薬が増えることを防止 スタチンについてはすぐに処方すべきではない MEGA study では 女性に関しては冠動脈疾患の予防にメバロチンが有用であるとは言えないという結果 ( 後述 )

高脂血症治療薬の主な値段 ([3] より ) メバロチン 20mg 275.6 円 リポバス 10mg 299.2 円 ローコール 60mg 278.6 円 リピドール 5mg 76.5 円 リバロ 1mg 81.8 円 クレストール 2.5mg 87.3 円 全部スタチン 選ぶのは医師の裁量に任される 後発医薬品が浸透しないかは 医療機関の利益が減るから... 薬価が高い程医療機関にはたくさんのお金が入ってくる

NNT(numbers needed to treat)

NNT(numbers needed to treat) わかりやすい例を [4] から引用 ワクチンや薬の有効性の説明に で40% 減少する 良くなる などありますが これは投薬しなかった場合に較べての数字です 相対指数といわれます 乳幼児でのインフルエンザワクチンの場合 罹患率が約 23% が約 18% に減少しますから (23 18) 23 正式な数字で計算すると約 25% です ワクチン接種で 乳幼児のインフルエンザ罹患が25% 減る といのも 18 人接種して一人のインフルエンザ罹患が防げる というのも同じこと 神谷研究から導き出される結論なのですが 受ける印象がまったく違います 私たちが受ける説明は 相対指数での説明が多いのですが NNTのような絶対指数でみるとまったく違って見えます

NNT(numbers needed to treat) [4] 高脂血症治療薬 : 高コレステロール血症で心筋梗塞など虚血性心疾患を予防するために 高脂血症治療薬を服用すると約 22% 減少するから飲みましょうと奨められます これは服用すると死亡率が 4.1% から 3.2% に米国で減少した事から出された数字です これを NNT 治療必要数でみると日本で 500 1000( 欧米で 50 100) 500 1000 人治療して効果があるのは 1 人 若い人では NNT は 1 万人を越えるので 重大な副作用が 1 万人に一人でも起これば 治療の意味は無くなる と指摘されています ( これは心筋梗塞などを患っていない人の場合で 患ったことのある人には投薬が必要です ) 高齢者の高血圧では 降圧剤の長期服用で脳卒中が約 35 % 減少します これを NNT 治療必要数でみると 33 33 人投薬 5 年で一人に効果が顕れます 脳卒中の発症は 投薬を受けても 5.6% 20 人に一人 逆にまったく降圧剤を飲まなくても 90% は脳卒中は起こしません 5 年間で 10 人に一人弱です

NNT(numbers needed to treat) 以上の引用に参考文献は記されていないが 最近行なわれた MEGA Study の結果についての考察を [5] から引用 何人に投与すると 1 名の発症が抑えられるかという検討 (number needed to treat : NNT) を MEGA で行うと冠疾患で NNT=119 冠疾患 + 脳梗塞で NNT=91 であった 米国の正脂血症 ( そう高くない患者 ) を扱った AFCAPS/TexCAPS での NNT= 54 を考えると 如何に日本人で 冠疾患が起こり難いか という事になる ちなみに米陸軍病院の Jezior は AHA2005 で 9.11 テロ後 50 歳以上の現役の米軍の急性心筋梗塞発症数が 2.78/ 千人年から 4.49/ 千人年に増加したと述べている MEGA の数字はすべての冠動脈イベントであり Jezior は再還流の件数は 3.91 から 5.65 に増えたとしているので 全イベントはさらに多いと思われる

MEGA study 血清脂質の変化

MEGA study 一次評価項目 : 冠動脈疾患

MEGA study 二次評価項目 : 冠動脈疾患 + 脳梗塞

MEGA study 二次評価項目 : 総死亡

NNT(numbers needed to treat) [5] なんパーセント予防できたか? vs 幾らで人の命が買えたか? 費用対効果の検討が今後の課題になる 100 名の患者にメバロチン を投与すると mg 1 錠 145.50 円を365 日に投与して531 万 750 円かかる カテーテル治療の入院で150 万円 バイパス手術で250 万円しか掛からないことを考えると あとの300-400 万円が安心料という事になる 倍の発症率で倍の医療費の米国ではHMG-CoA 還元酵素阻害薬は多いに投資に対する回収がとれる良い薬になる 心筋梗塞にならなかった 脳梗塞で介護が不要になった そういった値段のつけにくい コスト を幾らと見積もるかが悩みになろう ぎゃくに言うとプラバスタチン錠の適正価格は10mg40 円か? そうするとPTCA の値段とトントンになる

MEGA study MEGA Study に関しては色々な意見がある [6] より引用 まとめ :MEGA study の報告は 薬剤の効果を調べる研究が製薬メーカー主導で行われることの問題点を露呈した MEGA study は資料操作の疑惑も上がっている さらに 結果の解釈は統計学を無視した内容で 学術的な発表とはとうてい思えないものである 全くでたらめ 単なる薬の広告 と言われても仕方のないあきれた内容である 以上は当院の意見です

MEGA study [7] 投稿者 : 一循環器専門医 週刊朝日 4/21 号が大変参考となります MEGAstudy では統計学的に女性は効果なしとなっているのに 軽症高脂血症のすべてのひとにメバロチンが有用と印象づける発表をしています また Medicaltribune2 月 16 日号 低 HDL-C 値の高齢患者にスタテンが有効 にあるように 高 LDL-C 値 高総コレステロール血症は薬剤の効果の予測には全く薬に立たない 高齢者はスタチン ( メバロチンなど ) が無効 MEGAstudy はこれら 高齢者 女性の問題をすべて意図的に無視しようとしています また 研究 5 年目にハイリスク群を意図的に除外した痕跡があり 5 年目の投薬群の発病率がほとんどいなくなっている異常現象あり 国内外の発表では 女性や高齢者は効果なし また それ以外でも効果は弱い スタチンの使用はハイリスクの人に限定すべきです 高脂血症のすべてに処方すべきではありません いろいろ問題の多い発表内容です

参考文献 [1] EBM 内科処方指針中外医学社 2004 [2] 日本動脈硬化学会 [3] 臨床医学トピックス第 1 回講義資料 [4] 有機八百屋虹屋 http://www5.plala.or.jp/nijiya231-9288/hatake/hatake_03/hatake_0314.htm [5] Patrol Boat 165http://square.umin.ac.jp/pb165/mito/comp/statin _epa.html [6] まえだ循環器内科 http://www.m-junkanki.com/ [7] お薬 blog [8] 日経メディカルオンライン女性のコレステロールは下げなくても良い! [9] 神奈川歯科大学 http://www.kdcnet.ac.jp/naika/med/1/1-3-r5p.htm