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1)表紙14年v0

29-28

第 1 回改訂 (2005/2/3 承認 ): 適格規準の病理組織学的悪性度に FNCLCC system の Grade 2 を追加した 対象年齢上限を 60 歳から 65 歳に引き上げた MRI 撮影施設を追加した 第 2 回改訂 (2005/7/5 承認 ): 新規参加施設における放射線治療の

らに本検査により 術中に腹膜再発リスク患者の高感度判定が可能となったため 現在 2017 年 4 月より 大阪市立大学医学部附属病院において 胃癌手術中の判定に基づいて術中に腹膜再発予防的治療を行う臨 床試験を開始しています 図 1. 胃癌の腹膜転移経路と手術中診断法 胃粘膜上皮で発生した癌細胞が胃

づけられますが 最大の特徴は 緒言の中の 基本姿勢 でも述べられていますように 欧米のガイドラインを踏襲したものでなく 日本の臨床現場に則して 活用しやすい実際的な勧告が行われていることにあります 特に予防抗菌薬の投与期間に関しては 細かい術式に分類し さらに宿主側の感染リスクも考慮した上で きめ細

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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

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試験デザイン :n=152 試験開始前に第 VIII 因子製剤による出血時止血療法を受けていた患者群を 以下のい ずれかの群に 2:2:1 でランダム化 A 群 (n=36) (n=35) C 群 (n=18) ヘムライブラ 3 mg/kg を週 1 回 4 週間定期投与し その後 1.5 mg/k

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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2.IPMN はどうして重要なの? いわゆる 通常の膵臓がん は先に説明したように 非常に悪性度が高く治療成績が悪いとされており 発見時すでに進行癌ということが多い疾患です それに比べて同じ膵臓の腫瘍といっても IPMN では 良性の段階 ( 過形成や腺種と呼びます ) から悪性の段階 ( 通常型の

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「             」  説明および同意書

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cstage,, CQ1-5 cstage a CQ2-1,9 CQ4-1 cstage b CQ5-1 CQ4-2~6 CQ5-2~4 CQ2-2~9 CQ3-1~4 CQ6-1~4 CQ4-7 cstage JPS 6 図 2 膵癌治療アルゴリズム 表 1 勧告の強さの分類 A B C1 C2

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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平成 30 年 8 月 15 日作成第 1.2 版 ホームページ公開文書 本研究は大分大学医学部倫理委員会で審議され, 大分大学医学部長の許可を得ています 倫理委員会では 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針 に基づき, 外部委員を交え, 倫理的 科学的観点から審査を行います 1. 研究の名称

食道癌手術さて 食道は文字どおり口 咽頭から胃まで をつなぐ管状の器官でまさに食物を運ぶ道です そして縦隔と呼ばれる背骨の前方の狭い領域にあり 大動脈 心臓そして気管などと密に接しています さらに 気管とは私たちの身体が構成される過程で同じところから発生し 非常に密な関係にあります さらに発生の当初

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胃がんの内視鏡的治療 ( 切除 ) とは胃カメラを使ってがんを切除する方法です. 消化器内科 胃がん 治癒 胃がん切除

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が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

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12_モニタリングの実施に関する手順書 


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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

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1. 概要 2010 年 12 月から開始された群馬大学医学部附属病院第二外科の腹腔鏡下肝切除術において, 複数の死亡例があることが判明した 本院医療安全管理部による予備調査では,2014 年 6 月までに実施された 92 例の腹腔鏡下肝切除術のうち,58 例が保険適用外の疑いがあり, その内の 8

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日本の方が多い 表 2 は日本の癌罹患数の多い順の第 7 位までの部位とそれに対応する米国の数値と日 米比を示す 赤字と青字の意味は表 1 と同じである 表 2: 部位別の癌罹患数 : 日 米比較日 / 米 0.43 部位 罹患数 ( 日 ) (2002)( 人 ) 罹患数 ( 米 ) 罹患数比日本

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

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付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

FOLFOXに関しては 1990 年代終わり頃から2000 年にかけて 2つの臨床試験が実施された そのひとつであるStageⅡ/Ⅲ 結腸癌症例を対象とした5-FU/LV(de Gramont 法 ) とFOLFOX4のRCTであるMOSAIC では 5 年 DFS(67.4% vs. 73.3%

( 図 1 アンケート用紙を送付しなかった理由 (n=248)) その他 4 % 住所又は両親の名前不明 1 7 % 他科にてフォロー中 3 % 音信あり 1 6% 他院にてフォロー中 28 % 3. 方法まず患者の保護者に対して郵送によるアンケート形式で病院より今後コンタクトをとることについての可

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3. 本事業の詳細 3.1. 運営形態手術 治療に関する情報の登録は, 本事業に参加する施設の診療科でおこなわれます. 登録されたデータは一般社団法人 National Clinical Database ( 以下,NCD) 図 1 参照 がとりまとめます.NCD は下記の学会 専門医制度と連携して

背景 急性大動脈解離は致死的な疾患である. 上行大動脈に解離を伴っている急性大動脈解離 Stanford A 型は発症後の致死率が高く, それ故診断後に緊急手術を施行することが一般的であり, 方針として確立されている. 一方上行大動脈に解離を伴わない急性大動脈解離 Stanford B 型の治療方法

は関連する学会 専門医制度と連携しており, 今後さらに拡大していきます. 日本外科学会 ( 外科専門医 ) 日本消化器外科学会 ( 消化器外科専門医 ) 消化器外科領域については, 以下の学会が 消化器外科データベース関連学会協議会 を組織して,NCD と連携する : 日本消化器外科学会, 日本肝胆

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

4 受付番号 157 申請者 : リハビリテーション科 同種造血幹細胞移植患者の移植前栄養状態と移植前後の身体機能に関する後方視的検 討 平成 30 年 11 月 20 日 ~ 平成 30 年 12 月 6 日 文書審査により 承認 とした 5 受付番号 158 申請者 : 麻酔科 気管挿管刺激に対

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(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

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パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

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総括報告書 JCOG9501: 大動脈周囲リンパ節郭清の臨床的意義に関する研究 [ 作成年月日 2017/12/14 ] 研究事務局 : 笹子三津留 ( 兵庫医科大学上部消化管外科 ) 研究代表者 : 笹子三津留 ( 兵庫医科大学上部消化管外科 ) グループ代表者 : 寺島雅典 ( 静岡県立静岡がんセンター胃外科 ) 試験概要 試験の目的 : 大動脈周囲リンパ節に高頻度に転移しうると推測される漿膜下浸潤 (SS) または漿膜浸潤胃癌 (SE-SI) を対象として 標準手術である 2 群リンパ節郭清 (D2 郭清 ) に対し 2 群リンパ節郭清に大動脈周囲リンパ節郭清 (PAND) を加えた拡大郭清術 (D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清 ) の優越性を検証する 対象 : 組織学的な胃腺癌であり 開腹所見にて深達度 SS-SI かつ術中洗浄細胞診陰性で根治 A もしくは B の切除が可能と判定された例 年齢 75 歳以下 治療の概要 : 術中登録 術中割付で D2 郭清もしくは D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清を行う primary endpoint: 全生存期間 secondary endpoints: 無再発生存期間 術後合併症 手術関連死亡 術後入院期間 予定登録数 :520 例 登録期間 :5.5 年間 追跡期間 : 登録終了より 5 年 背景胃がんの治療においては 肉眼的に完全な腫瘍の切除を行う以外には治癒を可能にする方法はない 本邦では 転移する可能性が高い 1 群および 2 群リンパ節を外科的に切除する D2 郭清が安全に行われてきた さらに 2 群リンパ節を超えた大動脈周囲リンパ節の郭清 (PAND) も行われるようになってきている 同部への転移頻度は 20-35% 有転移例の 5 年生存割合は 15-35% と報告されている 大動脈周囲リンパ節郭清を追加することで 手術関連死亡が増加するとの報告はないが 手術時間 出血量 血圧低下期間 入院期間などが有意に延長することが報告されている 一方 これらのリスクを上回る生存割合の向上が得られるか否かは明らかではない そこで 明らかな大動脈周囲リンパ節転移を認めないが高頻度に顕微鏡的な転移を来すと推測される漿膜下浸潤 (SS) または漿膜浸潤胃癌 (SE-SI) を対象として 標準手術である 2 群リンパ節郭清に対し 2 群リンパ節郭清に大動脈周囲リンパ節郭清を加えた拡大郭清術 (D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清 ) により リスクを上回る生存の改善が得られるか ランダム化比較第 III 相試験にて検証することとした 試験経過 1995/6/15 より登録が開始された プロトコール改訂は計 3 回行われ その内容は以下のとおりである 第 1 回 (1999/1/18 承認 ): 進捗不良のため 登録期間の延長をおこなった第 2 回 (2000/7/24 承認 ): 本試験は追試が極めて困難なこと 検出力を高めることに臨床的意義が充分認められることを理由に 生存割合改善効果 12% を 8% に引き下げ 予定登録数を 412 例から 520 例に増やし 登録期間の延長をおこなった 第 3 回 (2001/11/27 承認 ): プロトコールでの記載が モニタリングと中間解析とが明確に区別されていなかった そこで 全登録例が治療を終了した時点以降のできるだけ早い時期に 中間解析を行 1

う との記載を整備し明確化した 登録状況登録ペースは 当初予測したペースと比べて やや不良であったため 1999/1/18 に登録期間の延長をおこなった 以降 予定を上回るペースで登録が進んだ 2000/7/24 に予定登録数を増やしたが 以降の登録ペースも順調であった 2001/4/6 までに両群で 523 例 (D2 群 :263 例 D2+PAND 群 : 260 例 ) を登録して終了した 施設毎の患者登録数は 国立がん研究センター中央病院から 107 例と約 1/5 を占めた 第 2 位の施設は新潟県立がんセンターで 51 例 以下 四国がんセンター 48 例 大阪府立成人病センター ( 現在は大阪国際がんセンター )40 例 国立大阪病院 ( 現在は国立病院機構大阪医療センター )31 例 国立がん研究センター東病院 30 例と続いた 参加した全 24 施設から 1 例以上の登録があったが 9 施設では 10 例未満の登録であった 誤登録や重複登録など 登録上の問題点はなかった 背景因子臨床診断 SS/SE-SI の割合は D2 群で 37.6%/62.4% D2+PAND 群で 37.7%/62.3% とほぼ想定どおりであったが 病理診断では M-SM が D2 群 3.4%/D2+PAND 群 5.4% MP が D2 群 17.5%/D2+PAND 群 14.2% と想定以上に早期の患者が含まれていた また D2+PAND 群における大動脈周囲リンパ節転移頻度は 260 例中 22 例 (8.5%) と 当初想定した 20-35% よりも少なかった 胃全摘術が施行されていたのは D2 群で 102 例 D2+PAND 群で 97 例であったが 脾摘が施行されていたのは D2 群 98 例 D2+PAND 群 93 例と ほとんどの患者で脾摘が行われていた 一方 11 番リンパ節郭清のために 膵尾部切除 を受けていたのは D2 群 263 例中 9 例 D2+PAND 群 260 例中 12 例のみであり 両群ともにほとんどの患者が 膵温存術式 を受けていた 安全性に関係する 脾摘 や 膵尾部切除 が施行された割合は ほぼ 当初の想定どおりであった 治療経過 D2 群に割り付けられた 263 例中 全例がプロトコール治療である D2 胃切除術を受けた D2+PAND 群に割り付けられた 260 例中 1 例は 病理診断で悪性リンパ腫であったことが判明し 登録後不適格となった 有害事象によるプロトコール治療中止はなかった 本試験では 術中に適格性を最終確認し 術中登録することとなっていた 開腹してはじめて診断される腹膜転移や切除不能な他臓器浸潤症例が除外されていたこと 手技に十分に習熟した外科医のみが参加したことで 極めて良好な治療完遂割合が得られたものと推測される プロトコール遵守 D2 群で規定どおりの手術を実施していたのは 263 例中 254 例 (96.6%) D2+PAND 群で規定どおりの手術を実施していたのは適格 259 例中 256 例 (98.8%) であった 不遵守はいずれもリンパ節郭清に関する不遵守であり プロトコール違反 (D2 群 9 例 /D2+PAND 群 3 例 ) とした D2 群では 2 例に規定された範囲を超える郭清が行われた 1 例は大動脈周囲リンパ節転移の有無を術中迅速病理診断で確認され もう 1 例は D2 群であったにもかかわらず大動脈周囲リンパ節郭清が施行された 癌研究会病院では 日常診療の方針が本試験と異なりプロトコール遵守が困難であることが試験開始後に判明したため 9 例登録後に本試験から辞退している また 郭清が不十分であったのは D2 群で 7 例 D2+PAND 群で 3 例認めた プロトコールでは 腫瘍が胃前庭部に存在していた場合 D2 郭清ではなく D3 郭清を標準手術とすると規定されていたが 熟知していない参加施設が規定された郭清を行っていなかったことが判明した 1999/12/11 班会議にて プロトコールで規定された郭清範囲を徹底することが再確認されている 2

D2 群で 大動脈周囲リンパ節の一部または全部を郭清した 2 例 (0.8%) は D2+PAND 群のプロトコール治療を実施していたこととなり エンドポイントの群間差が縮小する方向に影響していた可能性が考えられる また 規定どおりの郭清をしなかった D2 群の 7 例 (2.7%) と D2+PAND 群の 3 例 (1.1%) によって D2 群および D2+PAND 群において 安全性のエンドポイントはより安全な方向に 有効性のエンドポイントはより不良な方向に影響した可能性が考えられる しかしながら プロトコール違反の割合はわずかであり 結果には ほとんど影響しなかったと考えられる 安全性術後入院日数が 60 日以上となった症例は D2 群 11 例 D2+PAND 群 18 例であった 在院死は 3 例 (D2 群 2 例 D2+PAND 群 1 例 ) D2 群の 1 例と D2+PAND 群の 1 例は 手術後に急速に癌が進行し 肺癌性リンパ管症 / 胸腹水により それぞれ原病死となった D2 群の 1 例は 手術後に MRSA 肺炎から播種性血管内凝固症候群 腎不全 多臓器不全となり死亡されている この患者はプロトコール治療との因果関係 Probable と判定されている 在院死を除く手術後 30 日以内の死亡は 1 例 (D2+PAND 群 1 例 ) 手術後 17 日目に退院し その 4 日後 吻合部潰瘍より出血 大量吐血し死亡されている この患者は プロトコール治療との因果関係 Possible と判定されている いずれも 異なる施設からの報告であり 施設間 / 群間での特定の偏りはない 以上 手術死亡は D2 群で 2 例 (0.8%) D2+PAND 群で 2 例 (0.8%) に認められた 計画当初想定していた死亡割合は 標準手術群で 1-2% 程度 拡大手術群で 5% 未満であり 両群ともに下回っていたことから 両術式ともに 安全であることが確認された その他の重篤な有害事象として D2+PAND 群の 1 例で 術中心停止 が認められている この患者は 迷走神経反射によるものと考えられる術中心停止を来たしたため手術が中断となり 後日 改めて規定された手術を施行されている プロトコール治療との因果関係 Probable と判定されている その他の安全性の Secondary endpoints は 手術時間 出血量 輸血量 術後合併症 再手術の有無 術後在院日数である 手術時間中央値 (Range) は D2 群 237 分 (127-625 分 ) D2+PAND 群 300 分 (152-600 分 ) と D2+PAND 群で有意に長かった 出血量中央値 (Range) は D2 群 430 ml (32-1,810 ml) D2+PAND 群 660 ml(60-2,885 ml) と D2+PAND 群で有意に多量であり 輸血した患者も D2 群 37 例 (14.1%) D2+PAND 群 78 例 (30%) と D2+PAND 群で有意に高頻度であった 術後合併症発症割合は D2 群 20.9% D2+PAND 群 28.1% と D2+PAND 群でやや高い傾向にあったが 主要な合併症である縫合不全 膵液瘻 腹腔内膿瘍の発生頻度にほとんど差はなく 再手術割合にもほとんど差を認めなかった 以上 D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清術は D2 郭清術に比し 手術時間が長く出血量が多いものの 術後合併症や手術死亡には差はなく 安全な術式であった 当初の想定とは異なり D2 郭清手術に大動脈周囲リンパ節郭清を加えることで 術後合併症や手術死亡が増加することはなかった 有効性本試験における Primary endpoint は 全生存期間である 5 年生存割合は D2 群 69.2%(95%CI: 63.2-74.4%) D2+PAND 群 70.3%(95%CI:64.3-75.4%) であった 両群の生存曲線はほぼ重なっており 層別ログランク検定で 両群間に有意差を認めなかった ( 片側 p 値 0.57 ハザード比 1.03 95%CI: 0.77-1.37) また 5 年無再発生存割合は D2 群 62.6%(95%CI:56.4-68.2%) D2+PAND 群 61.7% (95%CI:55.4-67.3%) であった 当初の想定とは異なり D2 郭清に大動脈周囲リンパ節郭清を加えることで 生存割合が改善されることはなかった また 全生存割合が想定を上回った理由として 4. 背景因子 で記載したように 臨床診断での過大評価により早期の患者が想定以上に含まれていたためと推測される サブグループで治療効果に差異があったか否か 年齢 性別 BMI 腫瘍占居部位 腫瘍径 組織型 肉眼型 臨床での深達度 臨床でのリンパ節転移 病理での深達度 病理でのリンパ節転移に 3

ついて 探索的な解析を行った 病理でのリンパ節転移陰性となった 174 例での 5 年生存割合は D2 群で 78.4%(95%CI:67.6-86.0%) であったのに対し D2+PAND 群では 96.8%(95%CI:90.5-99.0%) であった 一方 病理でのリンパ節転移陽性となった 348 例での 5 年生存割合は D2 群で 65.2%(95%CI: 57.9-71.6%) であったのに対し D2+PAND 群では 54.9%(95%CI:46.9-62.1%) であった ハザード比は リンパ節転移陰性例で 0.37(95%CI:0.17-0.80, p=0.004) リンパ節転移陽性例で 1.38(95%CI: 1.01-1.88 p=0.04) であった 病理での深達度においても同様であり M/SM-MP では D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清で SS-SI では D2 郭清で それぞれ予後良好となっていた しかしながら あくまでも探索的な解析であり 検定の多重性は考慮されていない 考察 < 有効性 > 本試験の仮説は D2 郭清によって得られる 5 年生存割合 50% に対して D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清により 8% 以上 ( ハザード比 0.72) の生存上乗せ効果が得られる であり この仮説が検証された場合 試験治療である D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清が D2 郭清に優る新たな標準治療と判断することと規定していた 最終解析における 5 年生存割合は D2 群 69.2%(95%CI:63.2-74.4%) D2+PAND 群 70.3%(95%CI:64.3-75.4%) であり 両群の生存曲線はほぼ重なっていた 層別ログランク検定で 両群間に有意差を認めなかった ( 片側 p 値 0.57 ハザード比 1.03) これらの結果より 術前診断で大動脈周囲リンパ節転移を認めない漿膜下浸潤 (SS) または漿膜浸潤胃癌 (SE-SI) に対する D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清による生存改善効果は否定され D2 郭清が標準治療であると結論づけられた 本試験は 20-35% の大動脈周囲リンパ節転移を来すと推測される漿膜下浸潤 (SS) または漿膜浸潤胃癌 (SE-SI) を対象としていた また 大動脈周囲リンパ節郭清によって 大動脈周囲リンパ節転移陽性例の 35% で 5 年生存割合が得られると報告されていた これをもとに 当初 大動脈周囲リンパ節郭清により治癒する患者の割合を 12%(0.35 0.35 = 0.1225) と計算し その後のプロトコール改訂で 8% に引き下げている この改訂により 転移割合が 23% 程度 (0.08 / 0.35 = 0.2285) と下回っていたとしても 生存改善効果が得られることとなっていた しかしながら 本試験では D2+PAND 群における大動脈周囲リンパ節転移頻度は 260 例中 22 例 (8.5%) と 当初の想定より大幅に低かった この理由として 過去の報告では 4 型胃癌や術中洗浄細胞診陽性症例が含まれたコホートにおける転移割合であったが本試験ではこれらの症例を除外していたこと 過去の報告では SS-SI の全例に大動脈周囲リンパ節郭清を施行していたわけではなく症例を選別していた可能性があること 病理所見での SS-SI 症例の割合は D2 群 79.1%/D2+PAND 群 80.4% と約 8 割程度に留まったこと などが推測される また 大動脈周囲リンパ節転移例における 5 年生存割合は 18.2% に過ぎず 想定した 35% を大きく下回っていた すなわち 生存改善効果は 1.5% (0.085 X 0.182) とさらに少なかったため 有意な結果が得られなかったと解釈することもできる では 対象を 大動脈周囲リンパ節転移陽性頻度の高いコホートに限定できたとしたら D2+PAND による生存改善効果は得られたのか? 大動脈周囲リンパ節への転移を予測する最も信頼性の高い指標は 7 番リンパ節 ( 左胃動脈リンパ節 ) への転移であることが報告されている 本研究では 76 例に 7 番リンパ節転移を認めている しかしながら この 76 例における 5 年生存割合は D2 群 44.2% (95%CI:29.2-58.2%) に対し D2+PAND 群 36.4%(95%CI:20.6-52.3%) と D2+PAND 群で下回っており ハザード比は 1.09(95%CI:0.62-1.93) p 値 0.62 であった この結果は 顕微鏡レベルでの大動脈周囲リンパ節転移は 郭清しないことで予後が良くなる もしくは郭清することで予後が悪化する ことを示唆している すなわち もしも 対象が大動脈周囲リンパ節転移陽性頻度の高いコホートであったとしても D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清で期待した生存改善効果が得られたとは言いがたい また 探索的な解析では 病理学的リンパ節転移陰性例や M/SM-MP 例において すなわち 進行した症例 ではなく より早期の症例 において D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清の生存改善効果が得られている しかしながら これらの より早期の症例 で 病理学的な大動脈周囲リンパ節転移を来 4

す可能性はほとんどなく 大動脈周囲リンパ節郭清が生存を改善する理論的根拠はない この結果は あくまでも探索的な解析により得られたものであり 検定の多重性に伴うαエラーの可能性によるものと解釈できる また 病理結果は 切除後に得られる情報であり 術前や術中に正確な病理診断を得ることはできない したがって この探索的な解析結果によって 日常診療が変わる可能性はない ただし 95 例の D2+PAND の治療成績は早期胃がん以上に良好な成績であり 偶然として片づけるにはあまりにも多い 95 例という症例における結果であることは注目すべきところである 単なる偶然として片づけるにはあまりにも良好な結果であり がん細胞が転移能を獲得するプロセスにおいて 大動脈周囲リンパ節が重要な役割を果たしている可能性を疑う余地はある 今後の基礎的な研究に期待するところである < 安全性 > 胃癌に対する胃切除術の死亡割合は 欧米で 5~16% と高頻度であったのに対し 本邦では 2% 以下と報告されてきた 本試験は D2 郭清と D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清を比較した Phase III 試験であるが バイアスの入らない前向き研究において 両群ともに手術死亡割合は 0.8% と 胃切除術の安全性を証明した 一方 オランダや英国で行われた D1 郭清と D2 郭清を比較する Phase III 試験での D2 郭清による手術死亡割合はそれぞれ 10%/13% と高頻度であった 高頻度となった最大の理由として D2 郭清のラーニングカーブが挙げられる 本試験を計画した研究代表者は オランダの試験に参加し D2 郭清を指導していたが D2 郭清の経験がない外科医が多数 参加していたことが明らかとなっている また D2 郭清の経験がほとんどない小規模病院では 安全で効率的な手術を行い術後合併症を管理する ための経験と知識が欠如していたことも明らかとなっている 一方 台湾の単施設で行われた D1 郭清と D2/D3 郭清を比較した Phase III 試験では 80 例以上の D2 郭清を経験した外科医のみが手術を担当していたが 両群ともに手術死亡が見られていない 本試験では プロトコールでは具体的に術者を規定していなかったが 結果的には D2 郭清を 100 例以上経験した外科医がいる もしくは 年間 80 例以上の胃切除術を施行している 本邦の選りすぐりの 24 施設だけが参加していた 年 2 回の班会議では 参加施設から最低 3 例の D2 郭清および D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清施行のビデオレビューを行い 品質管理と品質保証を行っていた 両群の手術死亡割合が 1% 以下という結果が得られたのは これらの要因が大きいものと推測される 胃全摘術時の 10 番リンパ節郭清の完全郭清を目的として 脾臓摘出 ( 脾摘 ) が行われる また 11 番リンパ節郭清の方法には 膵尾部切除術式 と 膵温存術式 とがある オランダの Phase III 試験では D2 群で胃全摘を受けたほとんどの患者で 脾摘 膵尾部切除 が施行されていた 膵臓関連の術後合併症として 膵液瘻 + 腹腔内膿瘍の発生頻度は 20% であり 10% という高率な手術死亡割合の原因ともなっていた オランダと英国の Phase III 試験において 脾摘 膵尾部切除 は D2 郭清における術後合併症 / 手術死亡の最大の危険因子となっていたことが報告されている 以降 欧米で D2 郭清が行われる場合には 脾温存 膵温存 が推奨されてきた 本邦においては その後に行われた 脾摘 vs. 脾温存 の Phase III 試験 JCOG0110 の結果が出るまで 脾摘 が標準手術であった 本試験においても ほとんどの胃全摘症例において 脾摘 が行われていた 本試験においても 脾摘 は術後合併症の危険因子であることが明らかとなっている 一方 11 番リンパ節郭清の術式として 1990 年代前半までは 膵尾部切除術式 が主流であったが 1990 年代後半からより安全な 膵温存術式 が急速に普及していた 本試験においても 両群ともにほとんどの患者が 膵温存術式 を受けていた 本試験における 膵液瘻 + 腹腔内膿瘍の発生頻度は D2 群で 10.6% とオランダの試験の約半分であり 手術死亡の原因にもなっていない 本試験とオランダの試験との術式上の最大の相違点は 膵尾部切除 の有無であり これが 膵臓関連合併症の多寡の原因の一つとなっていたと考えられる しかしながら 本試験では膵臓関連合併症が手術死亡に繋がっていない 本試験では D2 郭清術の豊富な経験に基づく術後管理の知識と経験 が貢献していたものと考えられる 5

結論と今後の方針術前診断で大動脈周囲リンパ節転移を認めない漿膜下浸潤 (SS) または漿膜浸潤胃癌 (SE-SI) に対する D2+ 大動脈周囲リンパ節郭清術による生存改善効果は否定され D2 郭清術が標準治療であると結論づけられた 本試験の主要な結果は Journal of Clinical Oncology 22 (14): 2767-2773, 2004 および The New England Journal of Medicine 359 (5): 453-462, 2008 に掲載された 本試験結果をもとに 胃全摘を要する上部の進行胃癌に対して 標準術式である 脾摘 D2 に対し 脾温存 D2 の非劣性を検証する JCOG0110 上部進行胃癌に対する胃全摘術における脾合併切除の意義に関するランダム化比較試験 が開始された その他の考察本試験では 術式の可及的標準化を図る目的で ビデオによる手技の比較検討 手術の助手をし合う 見学し合うなどの交流を定期的に行う との記載が プロトコールに既述されていた 本試験結果の公表時 手技の品質管理と品質保証 について 方法のなかで記載できたことは 本試験の価値を高める結果に繋がった 手術手技の臨床試験における 手技の品質管理と品質保証 の重要性は その後の JCOG 試験のプロトコールのなかで活かされている 胃癌では 臨床診断と病理診断との間に乖離があるため 想定以上に より早期の症例が入る ことも確認できた 臨床診断に基づいて治療を決定する臨床試験では これを勘案したうえで 試験計画を立てる必要があることも分かった この知見は JCOG 胃がんグループで行われる臨床試験で活かされている 以上 6