Ⅳ 沈殿平衡 ( 溶解平衡 ) 論 沈殿平衡とは 固体とその飽和溶液 (Ex. 氷砂糖と砂糖水 ) が共存する系 ( 固相と液相 が平衡状態にある : 不均一系 ) であり その溶液の濃度が溶解度である 分析化学上 重要な沈殿平衡は難溶性電解質についてのもの Ⅳ-1 沈殿生成と溶解 電解質について

Similar documents
Microsoft PowerPoint - D.酸塩基(2)

木村の化学重要問題集 01 解答編解説補充 H S H HS ( 第 1 電離平衡 ) HS H S ( 第 電離平衡 ) そこで溶液を中性または塩基性にすることにより, つまり [ H ] を小さくすることにより, 上の電離平衡を右に片寄らせ,[ S ] を大きくする 193. 陽イオン分析 配位

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

Ⅲ-2 酸 塩基の電離と水素イオン濃度 Ⅲ-2-1 弱酸 Ex. 酢酸 CH 3 COOH 希薄水溶液 (0.1mol/L 以下 ) 中では 一部が解離し 大部分は分子状で存在 CH 3 COOH CH 3 COO +H + 化学平衡の法則より [CH 3 COO ][H + ] = K [CH 3

平成27年度 前期日程 化学 解答例

Slide 1

高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

Taro-化学3 酸塩基 最新版

<576F F202D F94BD899E8EAE82CC8DEC82E895FB5F31325F352E6C7770>

2011年度 化学1(物理学科)

▲ 電離平衡

< イオン 電離練習問題 > No. 1 次のイオンの名称を書きなさい (1) H + ( ) (2) Na + ( ) (3) K + ( ) (4) Mg 2+ ( ) (5) Cu 2+ ( ) (6) Zn 2+ ( ) (7) NH4 + ( ) (8) Cl - ( ) (9) OH -

カールフィッシャー法と濃度計算問題

Word Pro - matome_7_酸と塩基.lwp

<連載講座>アルマイト従事者のためのやさしい化学(XVII)--まとめと問題 (1)

(Microsoft PowerPoint - \211\273\212w\225\275\215t.ppt)

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

木村の理論化学小ネタ 緩衝液 緩衝液とは, 酸や塩基を加えても,pH が変化しにくい性質をもつ溶液のことである A. 共役酸と共役塩基 弱酸 HA の水溶液中での電離平衡と共役酸 共役塩基 弱酸 HA の電離平衡 HA + H 3 A にお

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

<4D F736F F F696E74202D208D918E8E91CE8DF481698E5F89968AEE816A F38DFC97702E707074>

キレート滴定

XIII キレート滴定 Chelatometry 金属イオンにキレート生成試薬 ( 水溶性多座配位子 ) を加え 電離度の極めて小さい水 溶性キレート化合物 ( 分子内錯化合物 ) を生成させる キレート生成試薬 EDTA:Ethylenediaminetetraacetic Acid 最も一般的

イオン化傾向 イオン化傾向 1 金属の単体はいずれも酸化されて陽イオンになりうる 金属のイオンのなりやすさを表したものをイオン化傾向という イオン化傾向 K Ca Na Mg Al Zn Fe Ni Sn Pb (H) Cu Hg Ag Pt Au e- を出してイオンになりやすい酸化されやすい イ

PowerPoint プレゼンテーション

キレート滴定2014

Microsoft Word - 酸塩基

SO の場合 Leis の酸塩基説 ( 非プロトン性溶媒までも摘要可 一般化 ) B + B の化学反応の酸と塩基 SO + + SO SO + + SO 酸 塩基 酸 塩基 SO は酸にも塩基にもなっている 酸の強さ 酸が強い = 塩基へプロトンを供与する能力が大きい 強酸 ( 優れたプロトン供与

2 Zn Zn + MnO 2 () 2 O 2 2 H2 O + O 2 O 2 MnO 2 2 KClO 3 2 KCl + 3 O 2 O 3 or 3 O 2 2 O 3 N 2 () NH 4 NO 2 2 O + N 2 ( ) MnO HCl Mn O + CaCl(ClO

CuSO POINT S 2 Ni Sn Hg Cu Ag Zn 2 Cu Cu Cu OH 2 Cu NH CuSO 4 5H 2O Ag Ag 2O Ag 2CrO4 Zn ZnS ZnO 2+ Fe Fe OH 2 Fe 3+ Fe OH 3 2 Cu Cu OH 2 Ag Ag

2019 年度大学入試センター試験解説 化学 第 1 問問 1 a 塩化カリウムは, カリウムイオン K + と塩化物イオン Cl - のイオン結合のみを含む物質であり, 共有結合を含まない ( 答 ) 1 1 b 黒鉛の結晶中では, 各炭素原子の 4 つの価電子のうち 3 つが隣り合う他の原子との

電子配置と価電子 P H 2He 第 4 回化学概論 3Li 4Be 5B 6C 7N 8O 9F 10Ne 周期表と元素イオン 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar 価電子数 陽

Taro-化学5 無機化学 最新版

分析化学講義資料 ( 容量分析 ) 林譲 (Lin, Rang) 容量分析概要容量分析法 (volumetric analysis) は滴定分析法 (titrimetric analysis) とも呼ばれている この方法は, フラスコ中の試料液の成分とビュレットに入れた濃度既知の標準液 (stand

Microsoft PowerPoint - presentation2007_05_SolutionEquilibrium.ppt

<4D F736F F D2095BD90AC E93788D4C88E689C88A778BB389C88BB388E78A778CA48B868C6F94EF95F18D908F912E646F6378>

FdData理科3年

補足 中学校では塩基性ではなくアルカリ性という表現を使って学習する アルカリはアラビア語 (al qily) で, アル (al) は定冠詞, カリ (qily) はオカヒジキ属の植物を焼いた灰の意味 植物の灰には Na,K,Ca などの金属元素が含まれており, それに水を加えて溶かすと, NaOH

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

H22応用物理化学演習1_濃度.ppt

コンクリート工学年次論文集 Vol.25

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

FdData理科3年

1/120 別表第 1(6 8 及び10 関係 ) 放射性物質の種類が明らかで かつ 一種類である場合の放射線業務従事者の呼吸する空気中の放射性物質の濃度限度等 添付 第一欄第二欄第三欄第四欄第五欄第六欄 放射性物質の種類 吸入摂取した 経口摂取した 放射線業 周辺監視 周辺監視 場合の実効線 場合

Microsoft PowerPoint - presentation2007_06_RedoxOxidation.ppt

Microsoft PowerPoint - presentation2007_03_acid-base.ppt

i ( 23 ) ) SPP Science Partnership Project ( (1) (2) 2010 SSH

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

Microsoft PowerPoint - siryo7

(Microsoft Word - \230a\225\266IChO46-Preparatory_Q36_\211\374\202Q_.doc)

Microsoft Word - basic_15.doc

B. モル濃度 速度定数と化学反応の速さ 1.1 段階反応 ( 単純反応 ): + I HI を例に H ヨウ化水素 HI が生成する速さ は,H と I のモル濃度をそれぞれ [ ], [ I ] [ H ] [ I ] に比例することが, 実験により, わかっている したがって, 比例定数を k

木村の化学重要問題集 015 解答編解説補充 第 4 周期の遷移元素がとる酸化数酸化数 Sc Ti 4 V 4 5 Cr Mn Fe Co 4 5 Ni 4 Cu 1 d 軌道と 4s 軌道のエネルギー差がわずかなので, 酸化により抜けるのは d 軌道と

陽イオンの反応

Microsoft PowerPoint 基礎実験2

注釈 * ここでニッケルジメチルグリオキシム錯体としてのニッケルの重量分析を行う場合 恒量値を得るために乾燥操作が必要だが それにはかなりの時間を要するであろう ** この方法は, 銅の含有量が 0.5% 未満の合金において最も良い結果が得られる 化学物質および試薬 合金試料, ~0.5 g, ある

無電解析出

基礎化学 ( 問題 ) 光速 c = m/s, プランク定数 h = J s, 電気素量 e = C 電子の質量 m e = kg, 真空中の誘電率 ε 0 = C 2 s 2 (kg

Microsoft Word - 00”ŒŁ\”ƒf.doc

Ⅵ 錯体生成平衡論 Ⅵ-1 錯体の成り立ち 一次化合物 Primary Compounds 元素の持つ陽原子価が 他の元素の陰原子価で飽和してできた化合物 Ex. 塩であれば 単塩 simple salt という K + +CN KCN, Fe 2+ +2CN Fe(CN) 2 など 2K + +S

後期化学_04_酸塩基pH

コロイド化学と界面化学

FdText理科1年

2017 年度一般入試前期 A 日程 ( 1 月 23 日実施 ) 化学問題 (63 ページ 74 ページ ) 問題は大問 Ⅰ Ⅳ までありますが 一部 他科目との共通問題となっています 大問 Ⅰ は 化学基礎 + 生物基礎 の大問 Ⅰ と共通の問題です 大問 Ⅱ は 化学基礎 + 生物基礎 の大問

DVIOUT-酸と塩

1 次の問い ( 問 1~ 問 5) に答えよ (23 点 ) 問 1 次の単位変換のうち, 正しいもののみをすべて含む組み合わせは どれか マーク式解答欄 1 (a) 1.0 kg = mg (b) 1.0 dl = ml (c) 1.0 g/cm 3 = 1.

Microsoft Word - H29統合版.doc

木村の有機化学小ネタ セルロース系再生繊維 再生繊維セルロースなど天然高分子物質を化学的処理により溶解後, 細孔から押し出し ( 紡糸 という), 再凝固させて繊維としたもの セルロース系の再生繊維には, ビスコースレーヨン, 銅アンモニア

A6/25 アンモニウム ( インドフェノールブルー法 ) 測定範囲 : 0.20~8.00 mg/l NH 4-N 0.26~10.30 mg/l NH ~8.00 mg/l NH 3-N 0.24~9.73 mg/l NH 3 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の

Taro-renshu1

14551 フェノール ( チアゾール誘導体法 ) 測定範囲 : 0.10~2.50 mg/l C 6H 5OH 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の ph が ph 2~11 であるかチェックします 必要な場合 水酸化ナトリウム水溶液または硫酸を 1 滴ずつ加えて ph を調整

Taro-22 No19 大網中(中和と塩

 資  料 

Microsoft PowerPoint - anachem2018PPT

student chemistry (2019), 1, 多価酸 1 価塩基滴定曲線と酸塩基滴定における学術用語についての考察 西野光太郎, 山口悟 * 茨城県立水戸第一高等学校化学部 茨城県水戸市三の丸 (2019 年 3 月 1 日受付 ;2019 年

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

温泉の化学 1

photolab 6x00 / 7x00 バーコードのない測定項目 バーコードのない測定項目 使用できる測定法 これらの測定項目の分析仕様は 付録 4 に記載されています ここでは 使用方法は カラム 5 の測定法番号を使用して手動で選択します 測定法の選択方法の説明は 光度計の機能説明の 測定法の

Microsoft PowerPoint - qchem3-11

物理化学I-第12回(13).ppt

Microsoft Word 後期化学問題

Microsoft PowerPoint - lecture_2019_HP用

現行の学習指導要領(1998年公示,2002年実施)は,教育の総合化をキーワードに,「生きる力の育成」と「ゆとりある教育」をねらいとしている

<979D89F E B E786C7378>

冬休みの課題 ( 化学基礎 酸化還元 ) 1. 下線部の原子の酸化数 NO1 1 CaCO 3 2 NaNO 3 3 K 2Cr 2O 7 4 H 3PO 下線部の原子の酸化数の変化 1 3Cu+8HNO 3 3Cu(NO 3) 2+4H 2O+2NO

CERT化学2013前期_問題

ph の計算 2018 年 4 月 1 日

イオンクロマトグラフィー ION CHROMATOGRAPHY イオンクロマトグラフィー 陰イオン分析用カラム (IC-2010 専用 ) TSKgel SuperIC-Anion HS TSKgel SuperIC-AZ TSKgel SuperIC-AP P.122 P.123 TSKgel S

XII-3 標準液の調製と標定 (1)0.1mol/L 硝酸銀液 AgNO 3 (169.87) 17.0g に水を加えて 1000mL とする 遮光保存 標定 一次標定標準物質 : 塩化ナトリウム NaCl(58.44) Fajans 法 ( 指示薬 : フルオレセインナトリウム試液 ) または電

理科科学習指導案

東京理科大学 Ⅰ 部化学研究部 2016 年度春輪講書 マグネシウム空気電池における電解液の検討 2016 年水曜班 Otsuka,H.(2C),Katsumata,K.(2K),Takahashi,Y.(2K),Tokuhiro,K.(2OK), Watanabe,R(2OK),Negishi,M

現場での微量分析に最適 シリーズ Spectroquant 試薬キットシリーズ 専用装置シリーズ 主な測定項目 下水 / 廃水 アンモニア 亜硝酸 硝酸 リン酸 TNP COD Cr 重金属 揮発性有機酸 陰イオン / 陽イオン界面活性剤 等 上水 / 簡易水道 残留塩素 アンモニア 鉄 マンガン

調査研究「教科等で考える異校種間の連携の工夫」〔理科〕

Microsoft PowerPoint - presentation2007_04_ComplexFormation.ppt

RAA-05(201604)MRA対応製品ver6

<4D F736F F F696E74202D A E90B6979D89C8816B91E63195AA96EC816C82DC82C682DF8D758DC03189BB8A7795CF89BB82C68CB48E AA8E E9197BF2E >

指導計画 評価の具体例 単元の目標 単元 1 化学変化とイオン 化学変化についての観察, 実験を通して, 水溶液の電気伝導性や中和反応について理解するとともに, これらの事物 現象をイオンのモデルと関連づけて見る見方や考え方を養い, 物質や化学変化に対する興味 関心を高め, 身のまわりの物質や事象を

必要があれば, 次の数値を使いなさい 原子量 O= 標準状態で mol の気体が占める体積. L 問題文中の体積の単位記号 L は, リットルを表す Ⅰ 次の問いに答えなさい 問 飲料水の容器であるペットボトルに使われているプラスチックを, 次の中から つ選び, 番号をマークしなさい ポリエチレン

電気化学第 1 回講義平成 23 年 4 月 12 日 ( 火 ) 担当教員 : 杉本渉 ( 材料化学工学課程 ) 今回の講義内容 教科書の対応箇所 キーワード 理解度チェック 今回の講義で理解できなかったところがあれば記入してください 参考書 講義と密接に関連, 参考になる 電気化学の歴史, 体系

スライド 1

4 1 Ampère 4 2 Ampere 31

Transcription:

Ⅳ 沈殿平衡 ( 溶解平衡 ) 論 沈殿平衡とは 固体とその飽和溶液 (Ex. 氷砂糖と砂糖水 ) が共存する系 ( 固相と液相 が平衡状態にある : 不均一系 ) であり その溶液の濃度が溶解度である 分析化学上 重要な沈殿平衡は難溶性電解質についてのもの Ⅳ-1 沈殿生成と溶解 電解質について Ⅳ-1-1 溶解度積 Solubility Product 難溶性塩 (MA とする ) は 水に僅かに溶けて飽和溶液となり 完全電離している v 1 MA MA M + +A ( 固相 ) ( 液相 ) v 2 ( 液相 ) v 1 =k 1 [MA]=k 1 [MA] は飽和溶液濃度であるから一定 k 1 と [MA] をまとめる v 2 =k 2 [M + ][A ] 平衡状態では v 1 =v 2 であるから ' [M + ][A ]= k 1 =Ksp( 定数 : 溶解度積 ) k 2 * 沈殿平衡が成立している系では上澄み液中に [M + ][A ]=Ksp を満足する M + および A が必ず存在し これらのイオン濃度は決してゼロにはならない!! * 一般に 難溶性電解質は 溶液中のイオンの相乗積が Ksp に達するまでは溶解し Ksp に達すれば飽和し それ以上では沈殿する Ⅳ-1-2 溶解度積と溶解度 難溶性塩 MA の溶解度 (= 全濃度 mol/l) を s とすると 一般に [M + ]=[A ]=[MA]=s MA は完全電離 Ksp=[M + ][A ]=s 2 s= Ksp M m A n mm n+ +na m のとき Ksp=[M n+ ] m [A m ] n [M m A n ]=s とすれば [M n+ ]=ms [A m ]=ns であるから Ksp=(ms) m (ns) n =m m n n s m+n Ksp s= m+n m m n n 45 であるから * 溶解度は難溶性の指標になる ( 溶解度は小さい程 難溶性 ) * 溶解度積も難溶性の指標になる しかし * 溶解度積と溶解度は電解質の型 ( 各イオンの電荷 ) に依存しているため比例しない

Ex. AgCl(Ksp=1.78 10 10 ) vs. Ag 2 CrO 4 (Ksp=1.29 10 12 ) s AgCl =1.33 10 5 vs. s Ag2CrO4 =6.86 10 5 (m=2,n=1) Ⅳ-2 溶解度に影響する諸因子 Ⅳ-2-1 試薬の添加量 ( 共通イオン効果 ) 沈殿試薬は対応量よりやや過剰に加える!! 共通イオンの影響で電離が抑えられる 沈殿の溶解度が減少するただし 大過剰量加えると可溶性錯体を生成して再溶解することがあることがあるので気をつける Ex. Ag + Cl - AgCl Cl- AgCl 2,AgCl 3 4 : 可溶性 例題 1 塩化銀 (AgCl:143.4) の溶解度は 0.0019g/L である 溶解度積はいくらか Ans. 1.74 10 10 例題 2 0.1mol/L 硝酸銀溶液 50mL に 0.1mol/L 塩化ナトリウム溶液を 149mL 250mL 355mL 加えたときに液中に残る Ag + の濃度を求めよ (K AgCl SP =1.78 10 10 ) Ans. 11.01 10 3 mol/l 21.33 10 5 mol/l 33.74 10 8 mol/l 例題 3 硫酸バリウム(BaSO 4 :233.4 Ksp=2.0 10 11 ) を1 水 20.01mol/L 硫酸で洗ったときの沈殿の損失量を比較せよ Ans. 11.04 10 3 g/l 溶ける 24.67 10 7 g/l 溶ける (1の約 1000 倍 ) Ⅳ-2-2 試薬の選定 沈殿試薬の電離度を考慮して選ぶ Ex. 1 硫化物 Hg 2+ 水溶液に H 2 S 溶液を加えると HgS の黒沈を生ずるが Na 2 S 溶液を加えると一旦生じた沈殿が溶けてしまう H 2 S : 飽和溶液で [S 2 ]=1 10 15 Hg 2+ +S 2 HgS Na 2 S :1mol/L で [S 2 ]=0.09 HgS+S 2 HgS 2 2 : 可溶性 Ex. 2 水酸化物 Al 3+ 水溶液に NH 4 OH 溶液を加えるとゲル状の沈殿を生ずるが NaOH 溶液を加えると一旦生じた沈殿が溶けてしまう 46

NH 4 OH : 弱電解質 Al 3+ +3OH Al(OH) 3 NaOH : 強電解質 Al(OH) 3 +OH Al(OH) 4 : 可溶性 Ⅳ-2-3 水素イオン濃度の影響 溶解度が溶液の ph によって異なることがある Ex.. 弱酸の塩は酸性では溶解度が上がる ( 溶け易くなる ) MA M + +A 1 + H + HA:HA の生成により A が消費され 1 の平衡が右に移行する a) 一価酸 (HA) の塩 (MA) MA M + +A Ksp=[M + ][A ] 1 HA H + +A Ka= [H + ][A ] 2 [HA] 溶液中の A の全濃度を c A とすると1より c A =[A ]+[HA]=[A ]+ [H + ][A ] =[A ] 1 + [H+ ] Ka Ka H + 存在下の溶解度積 (= 条件付溶解度積 ) を Ksp とすると Ksp =[M + ]c A =[M + ][A ] 1 + [H+ ] =Ksp 1 + [H+ ] Ka Ka このときの溶解度を s とすると s= Ksp' = Ksp 1+ [H + ] Ka よって [H + ] Ka(i.e. ph pka) では s= Ksp b) 二価酸 (H 2 A) の塩 [H + ]=Ka(i.e. ph=pka) では s= 2Ksp [H + ] Ka(i.e. ph pka) では s= Ksp H 2 A H + +HA Ka 1 = [H+ ][HA ] [H 2 A] HA H + +A 2 Ka 2 = [H + ][A 2 ] [HA ] H 2 A の全濃度を c A とすると [H + ] Ka c A =[A 2 ]+[HA ]+[H 2 A]=[A 2 ]+ [H+ ][A 2 ] Ka 2 + [H+ ][HA ] Ka 1 47

=[A 2 ]+ [H+ ][A 2 ] Ka 2 + [H+ ] 2 [A 2 ] Ka 1 Ka 2 =[A 2 ](1+ [H+ ] Ka 2 + [H + ] 2 Ka 1 Ka 2 )=[A 2 ] α A よって 二価金属 (M 2+ ) について考えると Ksp =[M 2+ ]c A =[M 2+ ][A 2 ] α A =Ksp α A s= Ksp α A c) 硫化物の場合 Ka 1 =1.02 10 7 これらを代入して計算すると Ka 2 =1.21 10 13 α A =1+8.26 10 12 [H + ]+8.10 10 19 [H + ] 2 ph<5([h + ]>10 5 ) の酸性であれば α A 8.10 10 19 [H + ] 2 とおけるから s 9.00 10 9 [H + ] Ksp (ph が 1 下がると溶解度は 10 倍になる ) 例題 0.3mol/L 塩酸酸性で 次の金属イオンを硫化物として沈殿させることができるか ただし 硫化水素 金属イオンとも最終濃度は 0.01mol/L とし ( ) 内は硫化物の溶解度積を表すものとする Ag + (1.6 10 49 ),Cu 2+ (8.5 10 45 ),Fe 2+ (3.7 10 19 ),Ni 2+ (3.0 10 21 ) Sn 2+ (8.0 10 29 ),Zn 2+ (1.2 10 23 ), Bi 3+ (1.6 10 72 ) Ans. Ag 2 S( ),CuS( ),FeS( ),Ni S( ), SnS( ),ZnS( ), Bi 2 S 3 ( ) d) 金属水酸化物アルカリ アルカリ土類金属以外の水酸化物は難溶性 * いずれも酸性で溶解度が上昇する * 両性金属はアルカリ性でも溶解度が上昇する Exs. Fe(OH) 3 Fe 3+ +3OH 酸性 :OH +H + H 2 O となり OH が消費され 平衡が右に移行 Al(OH) 3 +OH Al(OH) 4 ( 可溶性 ) アルカリ性 : 平衡が右に移行し溶ける 48

例題 1 0.05mol/L FeCl 3 水溶液から Fe(OH) 3 を沈殿させるのに必要な [OH ] はいくらか 水酸化鉄 (Ⅲ) の溶解度積を 2.5 10 39 とする Ans. Ksp=[Fe 3+ ][OH ] 3 より [OH - ] = Ksp 2.5 10 39 3 = [Fe 3+ 3 = 3.68 10 13 3.68 10 13 mol/l(ph1.57) ] 0.05 例題 2 前問において 0.05mol/L FeCl 3 水溶液が 0.1mol/L 塩酸より成るとする この溶 液 100mL に濃度未知の水酸化ナトリウム水溶液 100mL を添加したとき沈殿を生じたとす ると この水酸化ナトリウム水溶液の濃度はいくらか ヒント 沈殿生成時の [Fe 3+ 100 ] = 0.05 = 0.025 および 100 +100 混和後の液性はまだ酸性であることに留意せよ Ans. 0.0569mol/L Ⅳ-2-4 有機溶媒の影響有機溶媒中では一般に無機塩は溶解度は下がる * 有機溶媒の誘電率 (ε) は小さい f = 1 q 1 q 2 : イオン間に働く力 ε r 2 Ⅳ-2-5 共存イオンの影響 a) イオン強度と活量 ( 活動度 ) a-1) イオン強度 Ionic Strength:μ * 電解質溶液のイオンの電荷による効果を含む濃度の関数 * イオン強度が等しければその電解質の活量係数は等しい = イオン強度の法則 1 2 μ= c 2 i Z i (c i : イオンの ( 重量 ) モル濃度 Z i : イオンの電荷 ) Ex. 0.01mol/L NaCl と 0.001mol/L (NH 4 ) 2 SO 4 混液のイオン強度を計算せよ μ= 1 2 {0.01 12 +0.01 (-1) 2 +0.001 2 1 2 +0.001 (-2) 2 }=0.013 a-2) 活量 ( 活動度 ) Activity:a 見かけの濃度に熱力学的補正をした有効濃度のこと a=γc γ: 活量係数 Activity coefficient c:( 重量 ) モル濃度これは 強電解質が高濃度では電離が見かけ上 100% に達しないことの補正である 1 電離したもの全部がイオンとして作用できない 49

2イオン相互間の静電気的引力により不活性となる 3 高濃度では イオン相互間の平均距離が 相互作用が となり γ<1 となる 4 無限希釈では γ=1 5 中性分子では a=1 a-3) 活量係数の計算 :Debye-Hückel の式 logγ i = A Z i µ または logγ ± = A Z +Z µ 1+ B r i µ 1+ B r µ γ i : イオン種 i の活量係数 Z i : の電荷 A=0.509 r i : のイオン半径 (10 ー 8 cm) B=0.33 γ ± : 平均イオン活量係数 この式より イオン強度が大きくなれば 活量係数は小さくなることが分かる b) 共通イオン 平衡の移動成分イオンの一方を加えることにより 他のイオン濃度が減少し 溶解度が下がる ただし イオン強度が変わると減少度は小さくなる Ex. Ag 2 SO 4 2Ag + +SO 2 4 (Ksp=[Ag + ] 2 [SO 2 4 ]) において 1AgNO 3 を加える :Ag + の影響はほぼ計算通り 2K 2 SO 4 を加える :SO 2 4 の活量が減るため 溶解度はそれ程変わらない 多価イオンの方がイオン強度の変化が大きい 3H 2 SO 4 を加える : SO 2 4 +H + HSO 4 が起こるため 溶解度は増す c) 異種イオン 塩効果 Salt Effect 影響は共通イオン程大きくはないが イオン強度の変化に応じた影響がある * 一般に イオン強度が大であれば溶解度も大 両イオンの活量係数が小さくなる * イオン価が大きい程効果大 * 多価イオンの塩の方が効果大 d) 溶解度積と活量積 MX M + +X において [M + ] [X ] を活量 a M a X で表わすと a M =γ M [M + ] a X =γ X [X ] 活量積を Ksp とすると 50

Ksp=a M a X =γ M γ X [M + ][X ]=γ M γ X K sp 難溶性塩の溶液は希薄であるから γ M =γ X =1 とおける Ksp=K sp e) イオン強度と溶解度 イオン強度が大きくなる (= 高濃度 ) と γ<1 となる γ M =γ X =γ とすると Ksp=γ 2 [M + ][X ]=γ 2 s 2 s = Ksp γ f) 例題 10.1mol/L (NH 4 ) 2 SO 4 中に BaSO 4 (Ksp=2.0 10 11 ) はどれだけ溶けるか Ans. x mol/l 溶けるとすると [Ba 2+ 2 ]=x [SO 4 ]=0.1+x Ksp=x(0.1+x) x 0.1=2.0 10 11 x=2.0 10 10 mol/l 20.1mol/L Na 2 SO 4 中に PbSO 4 (Ksp=7.2 10 8 ) はどれだけ溶けるか ( イオン強度を考慮 しないとき したとき ) Ans. イオン強度を考慮しないとき s = [Pb 2+ ] = Ksp 7.2 10 8 = [SO 2-4 ] 0.1 = 7.2 10 7 (mol/l) イオン強度を考慮したとき (Na 2 SO 4 についてのみ考慮する PbSO 4 は無視 ) µ = 1 2 Σc iz i 2 = 1 2 (0.1 2 12 + 0.1 2 2 ) = 0.3 μ=0.3 のときの活量係数は γ Pb 2+ = γ SO 4 2- = 0.22 Ksp = γ Pb 2+ [Pb 2 + ] γ SO 4 2-[SO 4 2- ] であるから s = [Pb 2+ ] = Ksp γ Pb 2+ γ 2- SO4 [SO 2-4 ] = 7.2 10 8 = 1.49 10 5 0.22 0.22 0.1 51

塩の平均活量係数 (γ) イオン強度 M + X 型 M 2 X, MX 2 型 M 2+ X 2 型 0.0001 0.99 0.98 0.96 0.001 0.96 0.93 0.86 0.01 0.89 0.79 0.63 0.05 0.81 0.66 0.40 0.1 0.76 0.56 0.33 0.3 0.66 0.44 0.22 0.5 0.62 0.39 0.18 1.0 0.56 0.31 0.13 2.0 0.50 0.25 0.09 Ⅳ-2-6 分別沈殿 Fractional Precipitation 一種類の沈殿剤で イオン混合物から各イオンを分別的に沈殿させる Ex. 陰イオン :A B 陽イオン :M + ( 沈殿剤 A B と反応して沈殿生成 ) B * K spa < K sp のとき MA が先に沈殿 * K sp A K sp B のとき MA が殆ど沈殿してから MB が沈殿 : 分別沈殿 MB が沈殿し始めたとき 上澄中では が同時に成り立っている よって [A ] [B ] = KspA Ksp B [M + ][A ]=Ksp A,[M + ][B ]=Ksp B MB が沈殿し始めるのは [A ] [B ] が 溶解度積の比に等しくなったとき * 以後 この比を保ちつつ MB が沈殿する * この比が小さい程分別は完全になる 例 1 各 0.1mol/L の Cl I の混液に Ag + を加える ( 液量は変わらないとする ) ただし 溶解度積は AgCl:1.78 10 10 AgI:9.8 10 17 とする [I ] 9.8 10 17 [Cl = ] 1.78 10 10 1 1.8 10 6 *[I ] が [Cl ] の 180 万分の 1 より小さくなるまで AgI のみ沈殿 52

*AgCl が沈殿し始めたときの [I ] は 1 [I ] = 0.1 1.8 10 = 5.6 10 8 mol/l 5.6 10 5 % 事実上完全分別 6 例 2 例 1 において Br と Cl の場合はどうか (AgBr の K sp =2.11 10 13 ) [Br ] 2.11 10 13 [Cl = ] 1.78 10 10 1 844 :AgBr が先に沈殿 * この程度の比では分別沈殿は難かしい *AgCl が沈殿し始めたとき [Br ]= 0.1 1 844 = 1.18 10 4 mol/ L 0.118% [ 注 ] 一般に 沈殿を確認するには 10 4 10 6 M 以上のイオン濃度が必要 これ以下になれ ば 沈殿は完結と見なす 例 3 5 10 3 mol/l K 2 CrO 4 の存在下 0.01mol/L Cl を硝酸銀で滴定する (Mohr 法 ) 沈殿を生ずるのに要する [Ag + ] を求める : AgCl :[Ag + ]= Ag 2 CrO 4 :[Ag + ]= 1.78 10 10 [Cl ] Ksp [CrO 4 2 ] = = 1.78 10 10 0.01 ( 溶解度積 Ag 2 CrO 4 :1.29 10 12 ) = 1.78 10 8 ( mol / L) 12 1.29 10 = 1.61 10 5 ( mol/l) 5 10 3 よって AgCl の方が先に沈殿する なお Ag 2 CrO 4 が沈殿し始めたときの [Cl ] は [Cl ]= Ksp 1.78 10 10 = [Ag + ] 1.61 10 = 1.11 ( 5 10 5 mol/l) 1.11 10 5 残存率 ( 滴定誤差 )= 100 = 0.111% 0.01 Ⅳ-2-7 沈殿の溶解 1) 物理的方法 イオン積を溶解度積より小さくする * 溶媒を加えて濃度を下げる * 温度を上げて溶解度積を大きくする 2) 化学的方法 平衡の移動 1 別種沈殿 ( より難溶性のもの ) の生成 Exs. AgCl+SCN AgSCN +Cl PbCO 3 +S 2 2 PbS +CO 3 53

2 弱電解質の生成 Exs. Fe(OH) 3 +3H + Fe 3+ +3H 2 O ZnS+2H + Zn 2+ +H 2 S Mg(OH) 2 +2NH 4 Cl MgCl 2 +2NH 4 OH (2NH 3 +2H 2 O) 3 可溶性錯イオンの生成 Exs. AgCl+2NH 3 Ag(NH 3 ) + 2 +Cl Al(OH) 3 +OH Al(OH) 4 HgS+S 2 2 HgS 2 4 イオン価の変化 ( 酸化還元反応 ) Exs. 3CuS+2NO 3 +8H + 3Cu 2+ +3S +2NO+4H 2 O 2AgI+Zn 2Ag +ZnI 2 3) マスキング Masking あるイオンに試薬を加えて沈殿または 呈色反応が起こるとき 予め第三の物質 ( マスキング剤 ) を加えることによってその反応を起こさせなくすること Ex. Ag + を含む溶液にアンモニアを加えておくと Cl を加えても AgCl を沈殿しなくなる 反応に関与するイオンのいずれかの濃度を下げる : 錯イオン生成によるものが多い マスキング剤 Masking Agents CN, SCN, S 2 O 3 2 / 酒石酸塩 クエン酸塩 EDTA,etc. 54