日本金属学会誌第 70 巻第 3 号 (2006)220 225 合金としてのウィスカ抑制 Pb フリーはんだ 林田喜任 橋義之 大野隆生 荘司郁夫 2 タムラ化研株式会社 2 群馬大学工学部 J. Japan Inst. Metals, Vol. 70, No. 3 (2006), pp. 220 225 2006 The Japan Institute of Metals Whisker Free Pb Free through Alloying Yoshitou Hayashida, Yoshiyuki Takahashi, Takao Ohno and Ikuo Shohji 2 TAMURA KAKEN CORPORATION, Iruma 358 850 2 Faculty of Engineering, Gunma University, Kiryu 376 855 Electronic products with Sn Pb solder are being now excluded due to the harmful effect of Pb on the environment. Generally, Sn Ag Cu solder is used in place of Sn Pb solder. In the solder joint, acicular crystals called whiskers often grow. Whiskers often cause a short circuit problem in a fine pitch solder joint. In this study, several lead free solders added with a small amount of various elements were prepared to investigate the effectiveness validity of added elements in restraining whisker growth. The elements effective in inhibiting whisker growth were identified. (Received November 8, 2005; Accepted February, 2006) Keywords: whisker growth, whisker growth restraint, whisker growth mechanism, lead free solder, solder paste, high temperature humidity test, tin oxidation, zinc addition. 緒言電気製品で使われる電子部品の接合に使用されていた材料は,Sn Pb 系はんだがほとんどであった ). 電気製品が故障や破損等で廃棄される場合, 電子部品が剥き出しとなった実 装基板の一部はリサイクルされずに破砕されて, 埋め立て処 理されているのが現状である. そのような廃棄物に現在問題 視されている酸性雨が降りかかることによって, はんだ中の Pb が地下水に溶け出し, 河川や海洋に流れ込むことによっ て, 食物を通して人体中に悪影響を与える Pb を摂取される ことになり, 先進国では特に問題視されてきた 2). この問題を解決するために, 欧州では WEEE 指令や RoHS 指令が発令され, これらに基づいて Pb を使用しない はんだ材料,Sn Ag Cu 合金等のいわゆる Pb フリーはんだ 合金, が開発され, 用いられるようになってきた 3 5). 特に めっきでは Sn めっきによって Pb フリー化は既に実用化さ れている. しかし,Pb フリー化によって新たな問題が現れ た.Sn の再結晶によって発生する Sn 針状結晶 ( いわゆるウ ィスカ ) が発生する現象である 6 8). これまでは, ウィスカは めっきはんだのみの問題としての認識があったが 9 ), 電子 部品接合に用いられるはんだについてもウィスカの発生が判 明した 2). 電気製品の性能競争によって, 電気回路基板の小型化に伴ってパターンや部品間隔は狭くなってきている. このため, ウィスカが発生した場合, 回路短絡による電気信頼性を欠く問題がでてきた. そこで本研究ではウィスカ抑制はんだ合金の開発を行い, ウィスカ抑制効果のあるはんだ合金組成を見出し 2), ウィスカの発生メカニズムおよび抑制効果の検討を行った. その成果について報告する. 2. 実験方法 2. はんだ合金の作製 はんだの原料となる Sn または Sn Ag Cu はんだに少量の 元素を添加し, そのウィスカ抑制効果について検討した. 添加元素が少量ならば, 現存の Pb フリーはんだとしての 特性を失わずに, ウィスカ抑制効果が現れると予測した. 添 加元素の選定は 低環境負荷, 原料が安価, 通常状態で Table compositions. Compositions (mass ) SGe Sn 0.Ge SMn Sn 0.Mn S0.Zn Sn 0.Zn SZn Sn.0Zn SAC Sn 3.0Ag 0.5Cu SACGe Sn 3.0Ag 0.5Cu 0.Ge SACMn Sn 3.0Ag 0.5Cu 0.Mn SAC0.Zn Sn 3.0Ag 0.5Cu 0.Zn SACZn Sn 3.0Ag 0.5Cu.0Zn
第 3 号合金としてのウィスカ抑制 Pb フリーはんだ 22 安定であることを基準に選択した. 黒鉛るつぼに Sn や Sn 3.0Ag 0.5Cu はんだを約 850 g 入れ, 窒素雰囲気下, マッフル炉 ( 株デンケン製 ) により 300 C で加熱溶解後, 溶融しているはんだに数種類の元素を ca.0. mass 添加した. さらに窒素雰囲気下で 500~000 C,~ 2 時間加熱し, はんだに添加元素を溶融させ, 添加元素を含有する Sn 合金やはんだ合金を作製した.Table に作製したはんだ材の成分を示した. 組成は, 一般的に使われているはんだ組成表記法である mass を用いた. 2.2 試験片作成方法メニスコグラフにより溶融させたウィスカ検討対象はんだ合金中に, 表面研磨後, フラックス ( タムラ化研製,EC 9S 8) を塗布した JIS 2 型クシ型基板を, 約 3 秒間浸漬させることで, ディップはんだ付を行った. この基板を酢酸エチルに浸し, 超音波によってフラックス残さを除去した後, 85 C, 85 R.H. 条件下に放置した.500 時間経過後, はんだ付されたクシ型回路から発生しているウィスカを光学顕微鏡により観察し, その長さを測定することで, 添加元素によるウィスカ発生の抑制効果傾向を検証した. また,SAC, SACZn を用いたはんだ粉のはんだペーストを作製し, ペーストの場合のウィスカ抑制評価も行った. 3. 実験結果および考察 Sn X 系と同様に Zn を添加した SAC0.Zn では金属光沢が維持されていることがわかった.Zn 以外の添加元素では, このような金属光沢は観察されなかった. SAC および SAC0.Zn のはんだ表面の SEM による観察結果を Fig. 2 に示した.SAC では Cu 下地とはんだ界面部分や, はんだが酸化した所から, 太さや長さが異なったウィスカの発生が確認された. 一方,SAC0.Zn では, はんだの酸化やウィスカは確認されなかった. さらに, ウィスカの主な発生箇所を詳しく観察したところ, フィレット末端のはんだの厚さが薄いところ ( 約 40 mm 以下 ) から多く発生しているのが確認された. 反対にフィレット中央のはんだが多く供給され厚さが 40 mm 以上あるところからは,SAC の場合でもウィスカの発生は観察されなかった. さらにはんだ表面状態を比較すると,SAC では Sn X 系合金などよりは Ag, Cu 含有による Sn 総量の減少で, はんだの酸化部分は減少している. しかし, 添加元素によりはんだ表面状態はそれぞれ異なるが,Zn 以外を添加した Sn Ag Cu X 系はんだは酸化の度合いは異なるが, 黒く変色していた. Zn 添加したものは,Sn Zn 合金,Sn Ag Cu Zn 合金のどちらの場合も, はんだ表面の酸化が見られずはんだは金属光沢を保っていた. このことから, 添加された Zn がはんだ表面上で亜鉛酸化膜を形成しているものと考えられる. これ 3. ディップはんだ付によるウィスカ検証 Sn に元素を添加した Sn 合金のウィスカ発生状態を Table 2 に示した. この場合,SGe が比較的ウィスカの成長を抑制していたが, 高温高湿槽に放置することで, はんだ表面が酸化によりかなり腐食されていた. しかし,S0.Zn や SZn ではウィスカの発生は認められず, はんだ表面の腐食もなく, 金属光沢が維持されていることがわかった. Sn 3.0Ag 0.5Cu はんだに元素を添加したはんだ合金の場合を Table 3 に示した. この場合も Zn を添加した SAC0.Zn の場合だけ, ウィスカの発生を抑制していることが確認された. Fig. に SAC, SAC0.Zn のはんだ表面の様子を示した. Table 2 whisker of Sn X system solder alloy (85 C, 85 R.H., 500 h). SGe 30 S0.Zn 0 SMn 50 SZn 0 Table 3 whisker of Sn 3.0Ag 0.5Cu X systemsolder alloy (85 C, 85 R.H., 500 h). SAC 40 SAC0.Zn 0 SACGe 40 SACZn 0 SACMn 60 Fig. surface of (a) SAC and (b) S0.Zn by an optical microscope observation result (85 C, 85 R.H., 500 h).
222 日本金属学会誌 (2006) 第 70 巻 Fig. 2 surface by SEM observation result (85 C, 85 R.H., 500 h). (a) An oxidation part of SAC and (b) a joining part of SAC0.Zn. Fig. 3 (a) surface of (a) SAC and (b) SAC 0.Zn by SEM observation result (85 C, 85 R.H., 500 h). は Zn が従来もっている犠牲防食作用による防錆効果ではないかと考えられる. また高温高湿試験では, 各時間終了後, 試料を試験機から取り出して観察を行った. そのため, 試験実施時に結露が生じた可能性があり, 結露による酸化腐食もウィスカ発生の一因と考えられる. しかし, 実装部品を実際に使用する状況において, 結露現象が起こる可能性がある. このような環境下でも,Zn の微量添加はウィスカ発生の抑制に効果があると考えられる. 3.2 経時変化および Zn 添加量とウィスカの関係 SAC および SAC0.Zn について, さらに高温高湿条件下におけるウィスカ長さの経時変化について, 比較検討を行った. その結果を Fig. 3, 4 に示す. この結果,SAC では時間の経過とともにウィスカが成長していたが,SAC0.Zn ではウィスカの発生はほとんど認められなかった.500 時間後の SAC では最長 60 mm のウィスカが観測された. また,Zn 添加量を増加した場合では, その効果は更に顕著に現れた.SZn は Sn 37Pb はんだよりもウィスカが抑制されていることがわかった. また,SACZn では 500 時 Fig. 4 A relationship of whisker length and aging time of SAC, SAC0.Zn, SACZn, S0.Zn, SZn and Sn 37Pb (85 C, 85 R.H.). 間経過後もウィスカの発生は全く確認されなかった. このように Zn の添加量が増加することでウィスカ抑制効果が向上することも確認された. 3.3 はんだペーストとしてのウィスカ評価 SAC, SACZn を用いたはんだペーストでのウィスカ評価
第 3 号合金としてのウィスカ抑制 Pb フリーはんだ 223 Table 4 Reflow conditions investigated. Marker Temp. T/ C Pre heat Time t/s Peak temp. T/ C Melt time t/s Reflow times 235 90 4 70 50 290 90 80 200 70 235 50 90 を行った. 試験基板は, ディップはんだ付に使用したものと同じものを用いた. また, 試験基板のフラックス残さを洗浄または無洗浄の状態で実験を行った. さらに, プリヒート温度, 時間, ピーク温度, 溶融時間についてリフロー加熱条件を変化させ, ウィスカ発生状況についても比較検討した. リフローは, 静置型リフロー装置を用いて Table 4 示す条件にて実施した. Fig. 5 に各リフロー条件において作製した SAC, SACZ はんだ接合部の 85 C, 85 R.H. 放置下におけるウィスカ長さの経時変化を示す.SAC のペーストの場合, ディップはんだ付の場合よりも,500 時間でのウィスカ長さは短かった. また, リフロー加熱温度を高くしたり, 加熱時間を長くすると通常条件 (Marker, 500 h, 90 mm) よりもウィスカは成長する傾向が見られた (Fig. 5(a)). また, フラックス残さが残っているとウィスカの成長は遅くなる傾向が見られた. しかし, リフロー条件を前述のように高温, 長時間にすると, ウィスカの成長する傾向が見られた (Fig. 5(b)). SACZn の場合では, フラックス残さの有無や, リフロー条件の変化にかかわらずウィスカの発生は認められなかった (Fig. 5(c)). 3.4 ウィスカ発生原因および抑制メカニズムの考察 ウィスカの発生箇所がはんだフィレットの末端部分や, 酸化されている所に集中していたことから (Fig. 2(a)), ウィスカの発生原因は, はんだの酸化と推測している. そこで,60 C, 90 R.H. と 85 C オーブン ( 加湿無し ) に高温高湿条件を変えて, はんだの酸化環境変化による SAC, SAC0.Zn, Sn 37Pb のウィスカ評価を行い, 結果を Fig. 6 に示した.60 C, 90 R.H. 環境下では SAC だけが,000 時間で 40 mm のウィスカの発生が確認された.85 C, 85 R.H. と比較してもウィスカの成長速度は格段に遅くなっていた. また,85 C オーブン条件では, どのはんだもウィスカの発生は認められなかった. さらに, はんだ中の Sn の酸化がウィスカ発生に影響を与えているか確認する為に,85 C, 85 R.H., 500 時間後のウィスカ発生箇所の断面を EPMA により観察し,SAC と SACZn の Sn と O の分布状態を Fig. 7, 8 に示した.SAC において酸化物が発生し, それらに挟まれたはんだから, ウィスカが発生していることが確認された (Fig. 7).SACZn においては, このような酸化物の発生は確認されておらず, Fig. 5 A relationships of whisker length and aging time (85 C, 85 R.H.). (a) SAC with cleared flux residue, (b) SAC without cleared flux residue and (c) SACZn with cleared and without cleaned flux residue. ウィスカ発生原因がはんだ中の Sn の酸化によることが確認 された (Fig. 8). 以上の結果からウィスカ発生メカニズムを考察した.
224 日本金属学会誌 (2006) 第 70 巻 Fig. 6 Relationships of length of whisker and aging time in dry (85 C oven) and 60 C, 90 R.H., conditions of Sn 37Pb, SAC and SAC0.Zn. はんだの主成分である Sn が空気中の水分によって酸化されて, 低密度の酸化物になる. 酸化による Sn の体積増加によりはんだフィレット内に応力が生じ, フィレット末端部では, はんだ量が少なく応力が集中しやすいため, 内部応力が蓄積される. 内部応力を開放するためにフィレット末端の Sn が押し出され, ウィスカが発生すると考えられる. Zn 添加はんだ合金においてウィスカ発生が抑制されるのは, はんだ表面に Zn 酸化被膜が形成され, はんだ中の Sn の酸化を防止し, 酸化物の生成による内部応力が発生せず, ウィスカの発生を抑制しているものと考察される. 4. 結論 ウィスカ抑制はんだについて得られた結果を以下にまとめた. Sn に Zn を 0.~.0 mass 添加することで, ウィスカの発生を抑制できることが確認された. Pb フリーはんだとして一般的な Sn 3.0Ag 0.5Cu はんだに Zn を 0.~.0 mass 添加した場合も, ウィスカの発生を抑制できることが確認された. Sn 3.0Ag 0.5Cu 0.Zn はんだは高温高湿条件下 (85 C, 85 R.H.) に 500 時間放置しておいても, ウィスカの発生が抑制されていることが確認された. 高温高湿試験では, 結露による酸化腐食もウィスカ発生の一因と考えられるが, そのような環境下でも Zn 添加によるウィスカ発生の抑制効果があるものと考えられる. 実用可能な Pb フリーはんだペーストとして期待される Sn 3.0Ag 0.5Cu.0Zn はんだペーストについてもウィスカ抑制効果があることが確認された. その場合, さまざまなリフロー条件においてもウィスカ抑制効果が認められた. ウィスカ発生原因として, はんだ成分の Sn の酸化による内部応力の発生が主要因であると考えられる. 文 Fig. 7 A cross section of SAC solder paste at whisker grows part by EPMA observation atoms mapping. (a) Areflection electronic view, (b) oxygen mapping view and (c) tin mapping view. 献 ) 標準マイクロソルダリング技術, 日本溶接協会マイクロソルダリング教育委員会編, 日刊工業新聞社 (2002). 2) 鉛フリーはんだ付け技術, 菅沼克昭著, 工業調査会 (2000). 3) A. Hirose, T. Fujii, T. Imamura and K. F. Kobayashi: Mater. Trans. 42(200) 794 802. 4) M. Nishiura, A. Nakayama, S. Sakatani, Y. Kohara, K. Uenishi andk.f.kobayashi:mater.trans.43(2002) 802 807. 5) S.K.Kang,P.Lauro,D. Y.Shih,D.W.Henderson,J.Bartelo, T. Gosselin, S. R. Cain, C. Goldsmith, K. Puttlitz, T. K. Hwang andw.k.choi:mater.trans.45(2004) 695 702.
第 3 号合金としてのウィスカ抑制 Pb フリーはんだ 225 6) T. Ando: Proc. of 6th Symposium on Microjoining and Assembly Technology in Electronics (2000) pp. 57 60. 7) S. Higuchi: Proc. of 6th Symposium on Microjoining and Assembly Technology in Electronics (2000) pp. 6 66. 8) T. Akamatsu: Proc. of 4th Micro Electronics Symposium (2004) pp. 237 240. 9) S. Lal and T. D. Moyer: IEEE Transactions on Electronics Packaging Manufacturing 28(2005) 63 74. 0) J.W.Osenbach,R.L.Shook,B.T.Vaccaro,B.D.Potteiger,A. N. Amin, K. N. Hooghan, P. Suratkar and P. Ruengsinsub: IEEE Transactions on Electronics Packaging Manufacturing 28(2005) 36 62. ) K. N. Tu and J. C. M. Li: Materials Science and Engineering A 409(2005) 3 39. 2) Y. Hayashida: Proc. of 5th Micro Electronics Symposium (2005) pp. 273 276. Fig. 8 A cross section of SACZn solder paste by EPMA observation atoms mapping. (a) A reflection electronic view, (b) oxygen mapping view and (c) tin mapping view.