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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

2 注釈 1 精液検査とは? 射精した精液中の精子の数や運動性 形などを調べる検査で これらの結果を 精液所見 といい 治療方針が決められることが多い 精液検査の標準値として左図のWHOラボマニュアルに準拠している場合が多い 注釈 2 フーナーテストとは? 代表的な精子 - 子宮頸管粘液適合試験であ

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妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

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博第265号

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

長期/島本1

平成17年度研究報告

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

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結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

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大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

博士の学位論文審査結果の要旨

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

系統看護学講座 クイックリファレンス 2012年 母性看護学

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

「ゲノムインプリント消去には能動的脱メチル化が必要である」【石野史敏教授】

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

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学位論文内容の要旨 Abstract Background This study was aimed to evaluate the expression of T-LAK cell originated protein kinase (TOPK) in the cultured glioma ce

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

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Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

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の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形


Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

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立命館人間科学研究No.10



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上原記念生命科学財団研究報告集, 23(2009) 176. 遺伝子導入を用いた精子形成の試みと男子不妊症臨床応用に向けた基礎的研究 小島祥敬 Key words: 男子不妊症, 精子形成, 遺伝子導入 名古屋市立大学大学院医学研究科腎 泌尿器科学分野 緒言 Ad4BP/SF-1(Ad4 Binding Protein/Steroidogenic Factor 1) および DAX-1(dosage-sensitive sex reversal-adrenal hypoplasia congenita critical region on the X chromosome, gene 1) は, 胎生期の性腺形成および性分化に大きな役割を果たしている転写因子である. これら転写因子は, 視床下部 下垂体 性腺系の細胞で発現を認め, 特に, 精巣ではステロイド合成と精子形成に関わっている可能性が, 最近成人マウスを用いた解析により示唆されている. ヒト精巣における Ad4BP/ SF-1 および DAX-1 の発現を検討し, 特に特発性男子不妊症患者におけるこれら転写因子の役割について推察した. 一方, 近年補助生殖医療は, 特に ICSI(Intracytoplasmic sperm injection) の出現により目覚ましい発達を遂げた. しかしながら, これらはあくまでも in vitro による授精であるのみならず, 長期安全性については未だ不明である. さらに男子不妊症の多くにはその適応に限界があり, 今後新しい治療が望まれている. 私達は, 将来の男子不妊症に対する遺伝子治療の可能性を見据え, 安全で効率的な精巣内への遺伝子導入方法について検討した. 方法 1. 精巣における Ad4BP/SF-1 と DAX-1 の発現 (1) ラット精巣 ( 出生後 ) における Ad4BP/SF-1 と DAX-1 の発現 :0 週齢 10 週齢の Sprague-Dawley ラットを用いて, 各週齢における Ad4BP/SF-1 と DAX-1mRNA および蛋白の発現量と局在を定量的 RT-PCR,Western blotting, 免疫組織染色により調べ, 発現の推移について検討した. (2) ヒト正常精巣における Ad4BP/SF-1 と DAX-1 の発現 :1 26 歳正常男性の精巣における Ad4BP/SF-1 と DAX-1mRNA および蛋白の発現量とその推移を (1) と同様に検討した. (3) 特発性男子不妊症精巣における Ad4BP/SF-1 と DAX-1 の発現と意義 : 定量的 RT-PCR により発現量を調べ,1) 血中ホルモン値 (LH,FSH,testosterone) との相関,2) 病理組織所見との関係を調べた. (4)Ad4BP/SF-1 と DAX-1 と視床下部 下垂体 性腺系の調節機構 : 培養細胞 (TM3: ライディッヒ細胞株および TM4: セルトリ細胞株 ) にそれぞれ LH(5 mg/ml) および FSH(1 mg/ml) 投与した時のそれぞれ Ad4BP/SF-1 および 3beta-HSD と DAX-1 蛋白の発現の時間的推移を観察 (Western blotting) した. 2. 精巣への遺伝子導入法の確立プラスミド DNA として pcaggs-lacz を用いた. 遺伝子導入方法としては (1)cationic liposome 法 (CLGT 法 ) (2)electroporation 法 (EPGT 法 )(3)adenovirus vector 法 (AdVGT 法 ) を用いて, 以下についてそれぞれの導入方法の特徴を検討した.(1)beta-gal の発現強度 局在による遺伝子導入効率の検討,(2) 遺伝子導入による造精機能への影響 (3) 精子および次世代への影響を含めた安全性. をそれぞれ検討した. 3. 培養細胞への遺伝子導入 DAX-1cDNA をアデノウイルスベクターに組み込みセルトリ細胞株である TM-3 にアデノウイルスベクターにより DAX-1 遺伝子導入を行った. 1

1. 精巣における Ad4BP/SF-1 と DAX-1 の発現 結果 Ad4BP/SF-1 はラット, ヒトともに思春期より発現の増加を認め, その発現部位は主にライディッヒ細胞であった ( 図 1). 図 1. ヒト正常精巣における Ad4BP/SF-1 の発現 ( 免疫組織化学染色 ). Ad4BP/SF-1 は, 思春期以降に Leydig 細胞の核内に強い発現を認めた. また testosterone 値とよく相関し, ヒトにおいてもステロイド合成に必須の転写因子と考えられた 1). しかしながら, この発現は LH 非依存性であった. また Ad4BP/SF-1 の発現は, 特発性男子不妊症患者の病理所見と相関を認めず, 精子形成には直接的に関与しないものと思われた. DAX-1 はラット, ヒトともに思春期より発現の増加を認め, その発現部位は主にセルトリ細胞であった ( 図 2). 2

図 2. ヒト正常精巣における DAX-1 の発現 ( 免疫組織化学染色 ). DAX-1 は, 思春期以降に Sertoli 細胞の核内に強い発現を認めた. 特にラットにおいては, 精子形成周期依存性の発現を認め, 精子形成に大きく関与していることが示唆された. ホルモン値との相関は認めなかったが, ライディッヒ細胞において Ad4BP/SF-1 の発現と相反することは, Ad4BP/SF-1 の転写活性を思春期においては抑制していないことが示唆された. また,DAX-1 の発現は, 特発性男子不妊症患者の病理所見と相関を認め, 精子形成には直接的に関与していると考えられた. 1) またこれは FSH 非依存的であることが推察された. 2. 精巣への遺伝子導入法の確立遺伝子の発現は CLGT 法は精子に,EPGT 法は精子形成細胞, セルトリ細胞, ライディッヒ細胞に,AdVGT 法はセルトリ細胞とライディッヒ細胞に認めた ( 表 ) 2,3). 3

表 1. 精巣内遺伝子導入における各遺伝子導入方法の比較 精巣内遺伝子導入における各遺伝子導入方法の比較 < 発現強度はいずれの方法も導入後 7 日目にピークを認め,AdVGT 法 (1.53±0.42 unit) が CLGT (0.07±0.09unit) や EPGT (0.73±0.56 unit) に比較して有意に高かった (p<0.01, 図 3). 表 1. 精巣内遺伝子導入における各遺伝子導入方法の比較 精巣内遺伝子導入における各遺伝子導入方法の比較 4

図 3. 遺伝子発現細胞と発現量の検討. 遺伝子の発現は CLGT 法は精子に,EPGT 法は精子形成細胞, セルトリ細胞, ライディッヒ細胞に,AdVGT 法はセ ルトリ細胞とライディッヒ細胞に認めた. AdVGT 法においては, 導入後 56 日まで遺伝子の発現が持続したが,CLGT,EPGT は 28 日目以降の発現は認めなかった. 導入後 7 日目の apoptosis index は EPGT 法 (2.34±0.91, p<0.05) で高く, 最も造精機能障害を強く認めた (CLGT 法 :0.83±0.87 AdVGT 法 :0.78±0.43). いずれも 28 日目以降にはほぼ正常にまで改善した.CD4,CD8 陽性細胞を中心とした軽度の細胞浸潤はいずれの遺伝子導入方法でも認めたが, 遺伝子導入方法による有意な差は認めなかった. 有意な精子運動能の低下, 奇形率の上昇はいずれの遺伝子導入方法でも認めなかった ( 図 4). 図 4. 遺伝子導入による造精機能および妊孕性への影響. 精子運動率, 生殖能力, 胎仔異常は認めず, 次世代への影響はいずれの遺伝子導入方法でもなかった. 生殖能力, 胎仔異常は認めず, 次世代への影響はいずれの遺伝子導入方法でもなかった 4). 3. 培養細胞への遺伝子導入 DAX-1 遺伝子導入セルトリ細胞株から mrna を抽出し, セルトリ細胞特異的に発現する遺伝子を 20 種類 RT-PCR により発現を半定量したのち, その中で増加および減少したと思われる遺伝子数種類に的を絞って,TaqMan 法による定量的 RT- 5

PCR を行い発現の増減を確認した. その中である遺伝子の発現が上昇しており現在 DAX-1 との関係について, 発現機能解析を行っている. またわれわれが作成した停留精巣モデルラットに遺伝子導入を行ったが 5), 現在その結果を検討中である. 考察 Ad4BP/SF-1 は, ヒト精巣においてもステロイド合成の維持に必須の転写調節因子である考えられた.DAX-1 は, 精子形成に重要な役割を担い, 特発性男子不妊症の発症メカニズムに強く関与している可能性が考えられた. 遺伝子導入の方法としては CLGT 法,EPGT 法はいずれも簡便な方法ではあるが,AdVGT 法に比較して遺伝子効率が低く, 安全性や安定性に欠けていた.AdVGT 法は, 遺伝子効率が高く, 精子形成細胞への遺伝子導入を認めないことから次世代への影響が極めて少なく, 将来臨床応用する上では, 体細胞を標的とした最も優れた遺伝子導入方法と考えられた.DAX-1 を用いた遺伝子導入についての可能性については更なる検討が必要と考えられた. 本研究の共同研究者は名古屋市立大学大学院医学研究科腎 泌尿器科学分野の水野健太郎, 佐々木昌一, 林祐太郎, 郡健 二郎である. 文献 1) Kojima, Y., Sasaki, S., Hayashi, Y., Umemoto, Y., Morohashi, K-I. & Kohri, K.: Role of transcription factors Ad4BP/SF-1 and DAX-1 in steroidogenesis and spermatogenesis in human testicular development and idiopathic azoospermia. Int. J. Urol., 13:785-793, 2006. 2) Kojima, Y., Hayashi, Y., Kurokawa, S., Mizuno, K., Sasaki, S. & Kohri, K.: No evidence of germline transmission by adenovirus-mediated gene transfer to mouse testes. Fertil. Steril., 89:1448-1454, 2008. 3) Kojima, Y., Sasaki, S. & Kohri, K.: Therapeutic options: Current research and future prospects for gene therapy in andrology. Hargreave T, Comhaire F, Schill W-B (eds) In: Andrology for clinician. Springer, Heiderberg, Germany, 2006. 4) Kojima, Y., Kurokawa, S., Mizuno, K., Umemoto, Y., Sasaki, S., Hayashi, Y. & Kohri, K.: Gene transfer to sperm and testis: future prospects of gene therapy for male infertility. Curr Gene Ther., 8:121-134, 2008. 5) Mizuno, K., Hayashi, Y., Kojima, Y., Kurokawa, S., Sasaki, S. & Kohri, K.: Early orchiopexy improve the subsequent testicular development and spermatogenesis in the experimental cryptorchid rat model. J. Urol., 179:1195-1199, 2008. 6