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どですが 成人では症状も肝障害の程度も重い傾向にあります また A 型肝炎に感染すると症状の有無にかかわらず防御抗体を得ることができます 4), 8), 9) A 型肝炎に対する特別な治療法はなく 原則として 急性期には入院し 安静臥床の処置と症状に応じた対症療法が適用されます 1) A 型肝炎の予


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緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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(4) 薬剤耐性菌の特性解析に関する研究薬剤耐性菌の特性解析に関する知見を収集するため 以下の研究を実施する 1 家畜への抗菌性物質の使用と耐性菌の出現に明確な関連性がない家畜集団における薬剤耐性菌の出現又はこれが維持されるメカニズムについての研究 2 食品中における薬剤耐性菌の生残性や増殖性等の生

目について以下の結果を得た 各社の加熱製品の自主基準は 衛生規範 と同じ一般生菌数 /g 以下 大腸菌 黄色ブドウ球菌はともに陰性 未加熱製品等の一般生菌数は /g 以下であった また 大腸菌群は大手スーパーの加熱製品については陰性 刺身などの未加熱製品については

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はじめに 高齢者施設等で抵抗力が低い利用者をケアするには 介護スタッフの感染予防が必要です 施設は重度の利用者が中心になり さまざまな基礎疾患を抱えているため 感染しやすい状態の方が急増しています 介護スタッフが感染源にならないための予防策と 介護スタッフ自身の安全なケアの方法が重要となってきます

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

衛生管理マニュアル 記載例

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

年次別 主な病原体別の食中毒事件数の推移 * 腸管出血性大腸菌を含む

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4. 加熱食肉製品 ( 乾燥食肉製品 非加熱食肉製品及び特定加熱食肉製品以外の食肉製品をいう 以下同じ ) のうち 容器包装に入れた後加熱殺菌したものは 次の規格に適合するものでなければならない a 大腸菌群陰性でなければならない b クロストリジウム属菌が 検体 1gにつき 1,000 以下でなけ

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卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

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Clostridium difficile 毒素遺伝子検査を踏まえた検査アルゴリズム

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菌名原因食品及び感染したときの症状特徴 黄色ブドウ球菌 原因食品 : 弁当 おにぎりなど潜伏期間 :1~5 時間症状 : 吐き気 おう吐 下痢 腹痛などの症状が現れます ヒトや動物の化膿した傷口やおできなどに存在し 食品に付着し増殖するときに毒素を作ります 毒素は熱や乾燥に強い性質があります ウエル

( 別記報告様式 1 ) 記載例 2 感染症等 ( 疑 ) 発生報告票 1 報告年月日 平成 1 9 年 4 月 1 日 ( 日 ) 1 5 時 0 0 分現在 2 施設等の名称 学校法人 函館学院 函館保健所幼稚園 ( 種 別 ) ( 私立幼稚園 ) 4 報 告 者 職 氏 名 園 長 名 函 館

48小児感染_一般演題リスト160909

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写 29 生畜第 50 号平成 29 年 4 月 10 日 一般社団法人日本養蜂協会会長大島理森殿一般社団法人全国はちみつ公正取引協議会会長早川幸男殿 農林水産省生産局畜産部畜産振興課長食肉鶏卵課長 蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症予防に係る注意喚起について 今般 東京都足立区において 乳児に対し離

表 2 衛生研究所 保健所別菌株検出数 ( 医療機関を含む ) 内訳 衛生研究所保健所試験検査課県中支所会津支所郡山市いわき市 総計 喫食者 接触者 従事者食品 3 3 拭きとり総計 遺伝子型別解析遺伝子型別解析は, デンカ生研の病

サルモネラ食中毒とは? 症状は? 食後 6~48 時間で おう吐 腹痛 下痢 発熱など 乳幼児や高齢者は 症状が重くなることもある 原因になりやすい食品は? 加熱不足の卵 肉などが原因になりやすい 生の肉に使った包丁で切った調理済みの食品も原因に 害虫やペットが 菌を食品に付けてしまうことも ( 農

2. トイレの後には必ず手洗いをしましょう! 調査から 15.4% の方がトイレの後に手を洗わないことがあるという結果が得られました ( 小便後又は大便後に手を洗うのどちらかを選択しなかった方 どちらも選択しなかった方 トイレで手を洗わないを選択した方 の合計 ) Q10 特にこれからの季節に流行す

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近年患者数が多く公衆衛生上の重要性が増しているノロウイルスについて ヒトへの 感染経路における食品 ( カキを中心とした二枚貝とその他の食品別 ) の寄与率やヒトの 症状の有無による食品への汚染の程度を明らかにする研を実施する 2 調査事業 (1) 食品用器具 容器包装に用いられる化学物質のリスク評

名称未設定

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第4章

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(案)

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

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第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

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ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ


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2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

出題 マウス ラットの微生物モニタリングに関する記述で誤っているものはどれか 正答 1 コメント 1. 検査対象となる動物は SPF 環境下ならびにコンベンショナル環境下で飼育されている動物である 2. 検査項目となる微生物はウイルス 細菌 真菌 寄生虫などである 3. 検査方法としては 過去の感染

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(案の2)

したことによると考えられています 4. ピロリ菌の検査法ピロリ菌の検査法にはいくつかの種類があり 内視鏡を使うものとそうでないものに大きく分けられます 前者は 内視鏡を使って胃の組織を採取し それを材料にしてピロリ菌の有無を調べます 胃粘膜組織を顕微鏡で見てピロリ菌を探す方法 ( 鏡検法 ) 先に述

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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ファクトシート 作成日 : 平成 23 年 11 月 24 日 エルシニア症 (Yersiniosis) 1 エルシニア症とは エルシニア症は Yersinia 属菌の中で一般的に食中毒菌として知られる Yersinia enterocolitica と仮性結核菌として知られる Yersinia pseudotuberculosis による感染症の総称です 1),2) Yersinia pestis による感染症は ペストとして独立して扱われるため 通常 エルシニア症には含まれません 3) (1) 原因微生物の概要 両菌種とも腸内細菌科 Yersinia 属に属するグラム陰性 1 の通性嫌気性の桿菌 2 です 至適 発育温度は 28 付近ですが 4 以下でも発育可能な低温発育性の病原菌です 家畜や野 生動物などが保菌しています 1),2) (2) 原因 ( 媒介 ) 食品 Y. enterocolitica 感染症では 主に腸管内に存在する本菌に汚染された生の豚肉又は豚肉から二次的に汚染された食品を摂取して感染すると考えられていますが 野生動物の糞便などで汚染された沢水を介した感染が疑われる事例も報告されています 4) 我が国では食中毒の原因食品が明らかとなったのは加工乳によるもの及びリンゴサラダによるものの 2 件です 海外でも乳製品 ( 粉ミルク 加工乳等 ) 等による食中毒事例が報告されています 1),2) Y. pseudotuberculosis 感染症では 食品の摂取による場合も報告されているものの 我が国における散発事例の多くが本菌に汚染された沢水や井戸水の摂取による水系感染によるものと考えられています 1),2) 海外では Y. pseudotuberculosis に汚染された野菜を原因とする集団感染事例が報告されています 5) 1 グラム染色法では 細菌体細胞壁の構成成分の違いによりグラム陽性菌は紫色に グラム陰性菌は赤色ないし赤桃色 ( 陰性 ) に染まる 2 エネルギー獲得のため 酸素が存在する場合には好気的呼吸によって ATP を生成するが 酸素がない場合においても発酵によりエネルギーを得られるように代謝を切り替えることのできる細菌のうち 棒状の形をしている細菌 1

(3) 食中毒 ( 感染症 ) の症状 両感染症の潜伏期間は Y. enterocolitica 感染症では 0.5~6 日 Y. pseudotuberculosis 感染症では 2~20 日 ( 平均約 8 日 ) とされています 3),4),5) エルシニア症の一般的な臨床症状は 発熱 下痢 腹痛などを主症状とする胃腸炎で 2~ 3 歳の幼児に多く 成人ではまれな感染症と認識されています 2),3) Y. enterocolitica 感染症の場合 年齢によって症状が異なり 乳幼児では下痢を主体とした症状を示しますが 年齢が高くなるにつれて腸間膜リンパ節炎などの症状を示すことがあります 1) 感受性は年長児から青年期へ年齢が高くなるにつれて低下します 4) 一方 Y. pseudotuberculosis 感染症の場合 胃腸炎症状の他に発疹 結節性紅斑など多様な症状を呈することが多いとされています 1) エルシニア症の治療については 一般的には対症療法が行われます 1),2) (4) 予防方法 両菌種とも 4 以下で増殖可能であり 栄養分の乏しい低温の水中では長期間生残することが特徴として上げられています 4), 5) Y. enterocolitica については 加熱に対する抵抗性は一般の腸内細菌と同様高くない ( 全乳中での D 値 3 は多くの株で 62.8 で 0.7~17.0 秒 ) と報告されています 4) 従って エルシニア症の予防には 食品 特に生肉を冷蔵 (10 以下 ) 保存する場合でも短時間に留め 長く保存する場合は冷凍保存すること及び調理の際には中心部まで十分に加熱することが必要です また 井戸水等の未殺菌水を飲用や調理に使用しないように心がけることも必要です 1),2),3),4),5) 2 リスクに関する科学的知見 (1) 疫学 ( 食中毒 ( 感染症 ) の発生頻度 要因等 ) エルシニア症の主たる感染経路は 保菌している家畜や野生動物の糞便で汚染された食品 や飲料水を介した経口感染です 代表的な保菌動物であるブタでは両菌種を比較的高率に保 菌しており 不顕性感染 ( 臨床症状を示さない ) であることが知られています 1),2) ヒツジも Y. 3 最初に生存していた菌数を 1/10 に減少させる ( つまり 90% を死滅させる ) のに要する加熱時間を分 ( 秒 ) 単位で表したもの (D-value:Decimal reduction time) 2

pseudotuberculosis の保菌動物として知られており ヒツジとウシでは本菌による死 流産の報告がみられます しかし ウマとニワトリでは通常両菌種とも分離報告がありません 2) また 伴侶動物であるイヌとネコも両菌種を保菌し 不顕性感染であることが知られていますが これらとの接触を介したヒトの感染事例も報告されています 2) 野生動物では ノネズミが両菌種を高率に保有しており 主要な保菌動物として知られています 2) なお Y. pseudotuberculosis はヒトからヒトへの感染はまれとされていますが Y. enterocolitica は乳幼児の患者からヒトへの二次感染の可能性も指摘されています 3) (2) 我が国における食品の汚染実態 両菌種とも生の豚肉から比較的高率に分離されますが 豚肉以外の食肉からはほとんど分 離されることはないと考えられています 5) 1990 年代前半の調査では Y. enterocolitica は我が 国で生産された豚肉の 8.1% から検出されたとの報告があります 4) 3 我が国及び諸外国における最新の状況等 (1) 我が国の状況 2000 年以降では 2004 年 7 月に奈良県内で発生したリンゴサラダが原因食品となった Y. enterocolitica の食中毒事例 ( 患者数 40 名 ) が報告されています 6) が 2005~2010 年には報 告はありません 7) 年 2005 2006 2007 2008 2009 2010 事例数 ( 件 ) 0 0 0 0 0 0 患者数 ( 人 ) 0 0 0 0 0 0 (2) 諸外国の状況 1 米国では 全州から食品媒介疾病集団発生サーベイランスシステム (FBDSS) を通じて 収集されたエルシニア症 (Y. enterocolitica) の集団発生事例が米国疾病管理予防センタ ー (CDC) で集計されており その報告数は以下のとおりです 8) 3

年 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 事例数 ( 件 ) 1 2 0 0 0 0 0 患者数 ( 人 ) 4 9 0 0 0 0 0 * Y. enterocolitica のみ Foodborne Outbreak Online Database(http://wwwn.cdc.gov/foodborneoutbreaks/Default.aspx) から単一病原物質事例のみ集計 2 EU では 加盟国から食品によるエルシニア症の集団発生事例が欧州食品安全機関 (EFSA) と欧州疾病予防管理センター (ECDC) で集計されており その報告数は以下のとお りです 9) 年 2004 2005 2006 2007 2008 事例数 ( 件 ) 51 9 26 22 22 患者数 ( 人 ) 182 22 604-101 *2004~2006 年は非加盟国からの報告も含む 2008 年は疑い例も含む EU 加盟国数 :25 か国 (2004~2006 年 ) 27 か国 (2007 年 ~) : データなし 4 参考文献 1) 林谷秀樹. 9 エルシニア. 食中毒予防必携第 2 版, p.124-130, 社団法人日本食品衛生協会, 東京 (2007). 2) 林谷秀樹. エルシニア. 人獣共通感染症, p.158-164, 清水実嗣監修, 養賢堂, 東京 (2007). 3) 山崎修道編集者代表. エルシニア症. 感染症予防必携第 2 版, p.62-65, 社団法人日本公衆衛生協会, 東京 (2005). 4) 福島博. Yersinia enterocolitica. 食品由来感染症と食品微生物, p.315-334, 仲西寿夫 丸山務監修, 中央法規出版, 東京 (2009). 5) 福島博.Yersinia pseudotuberculosis. 食品由来感染症と食品微生物, p.335-346, 仲西寿夫 丸山務監修, 中央法規出版, 東京 (2009). 6) Sakai,T., Nakayama,A, Hashida,M., Yamamoto,Y., Takebe,H.,and Imai, S.: Laboratory and epidemiology communications: Outbreak of food poisoning by Yersinia enterocolitica serotype O8 in Nara prefecture: the first case report in Japan. Japanese Journal of 4

Infectious Diseases 2005, vol. 58, no. 4, p. 257-258. 7) 厚生労働省 : 食中毒統計 http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html 8) 米国疾病予防管理センター (CDC:Centers for Disease Control and Prevention) : OutbreakNet Foodborne Outbreak Online Database http://wwwn.cdc.gov/foodborneoutbreaks/default.aspx 9) 欧州食品安全機関 (EFSA :European Food Safety Authority):The community summary report http://www.efsa.europa.eu/cs/satellite 注 1) 上記参考文献の URL は 平成 23 年 (2011 年 )9 月 15 日時点で確認したものです 情報を 掲載している各機関の都合により URL が変更される場合がありますのでご注意下さい 注 2) この食品媒介疾病に関する他の情報については 平成 21 年度食品安全確保総合調査 食品により媒介される感染症等に関する文献調査 報告書 ( 社団法人畜産技術協会作 成 ) もご参照ください http://www.fsc.go.jp/fsciis/survey/show/cho20100110001 5