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IRAP 法によるシイタケ品種の識別 佐々木史 高畠幸司 Commercial strain typing of Lentinula edodes with IRAP-PCR Fumito SASAKI, Koji TAKABATAKE 富山県農林水産総合技術センター森林研究所研究報告 No.10 平成 30 年 3 月 31 日発行 Reprinted from BULLETIN OF THE TOYAMA FORESTRY RESEARCH INSTITUTE No.10 2018.3

論文 IRAP 法によるシイタケ品種の識別 佐々木史 *1 *2 高畠幸司 Commercial strain typing of Lentinula edodes with IRAP-PCR Fumito SASAKI *1, Koji TAKABATAKE *2 簡便なフィンガープリントである Inter-retrotransposon amplified polymorphism (IRAP) 法に用いるシイタケ用プライマーを設計し, シイタケ品種の識別を試みたところ, 高い多型性が見られた 本方法は非常に安定しており,1 回の PCR により結果を導き出せることから, 迅速なシイタケの品種識別に適したものと考えられた 1. はじめにシイタケ ( Lentinula edodes) は生産的見地から見て世界で 2 番目に重要な食用キノコであり, 東アジアでは最もポピュラーな菌である (Qin et al. 2006) 栄養価と薬効, 特徴的な香りをもって知られている (Breene 1990) 特に近年では, シイタケの持つ機能性について盛んに研究が行われており, 抗腫瘍活性や免疫賦活作用などが報告されている ( 近藤ら 2016) シイタケには形態的, 生理的に似通った多くの栽培品種が存在し, 種苗登録のなされた品種は法律により育成者権が保護される (Saito et al. 2002) しかしながら, 種菌や生鮮品から容易に菌糸体を分離培養できるため, 第三者による育成者権の侵害が懸念される ( 前田ら 2015) 品種の登録や識別は, 主に子実体の形態や培養所見に依存するが (Chiu et al. 1999), 子実体の形態は, 多分に環境条件に左右されやすい (Zhang et al. 2007) また, 微細形態の観察に関しては, 経験や技術が必要とされる 対峙培養は環境などに左右されない識別法の 1 つだが, 帯線の形成には時間がかかる そのため, 簡便で時間がかからず安定した結果が得られる品種の識別方法が必要である 特に, 先行調査として安価で簡易に判定できる方法が, 品種を多数保持している種菌業などでは重要となる 近年, シイタケ品種の安定した識別を目的とした,AFLP(Amplified Fragment Length Polymor-phism) 法や RAPD(Random Amplified Polymorphism DNA) 法などの分子生物学的手法が開発されている (Zhang and Molina 1995; Chiu et al. 1999; Terashima and Matsumoto 2004; 馬場崎 2006 など ) しかしながら, いずれの方法もコストや簡便性, 迅速性などの総合的評価において満足とはいいがたい 一方で, これらの短所を補完できる方法として IRAP (Inter-Retrotransposon Ampli-fied Polymorphism) 法が開発され (Kalendar et al. 1999), 園芸分野などで利用されている 本方法はゲノム中の 2 つの近接した可動性遺伝因子 ( レトロトランスポゾン ) 間の多型性を利用したものであり (Kalendar and Schulman 2006), レトロトランスポゾン間を PCR (Polymerase Chain Reaction) で増幅し, 電気泳動で可視化するフィンガープリント法である IRAP 法は制限酵素処理やアダプター配列の付加操作などが不要で, 基礎的な PCR 検出動作だけで完結でき, 操作が簡素で優れている ( 平島 佐伯 2012) 本研究では, 迅速かつ安定的で安価にシイタケ品種を識別するための IRAP 法の開発を試みた *1, 富山県農林水産総合技術センター森林研究所 ; *2, 琉球大学農学部 *1, Toyama Prefectural Agricultural, Forestry & Fisheries Research Center, Forestry Research Institute; *2, Faculty of Agriculture, University of the Ryukyus 32

富山森林研報 10(2018) 2. 材料および方法 2 ー 1 DNA 抽出供試菌として, 農林水産省に品種登録されている, もしくはされていたシイタケ品種を中心に複数の種菌会社由来の 40 品種を使用した 供試菌は PDA 平板培地上で約 20 日間暗培養後, 寒天片ごとメスで 5mm 四方に切り出し,2~3 片から NucleoSpin Plant II (Macherey-Nagel GmbH & Co. KG) により total DNA の抽出を行った 手順は添付の説明書に従った ところ, 明瞭なラダー状のバンドパターンが検出された そこで, サーマルサイクラーのグラジエント機能を使用し最適なアニーリング温度の検証を行ったが,50 から 65 において同一の明瞭なパターンが示された ( 図 -1) このことから,IRAP-PCR は安定性かつ特異性が高いことが示された 2 ー 2 IRAP-PCR IRAP-PCR 用として, シイタケの持つレトロトランスポゾン Le.RTn1 の両末端に存在する LTR (Long Terminal Repeat) 部位の塩基配列情報 (Shishido et al. 2 0 0 7 ) を基に, レトロトランスポゾン間を増幅できるようプライマーサイトを設けた すなわち, 内部配列の 5 末端および 3 末端から外側に向けてプライマーの設計を行った ( 表 -1) 表ー 1 IRAP-PCR 用プライマー プライマーセット LeF および LeR,Pfu-X ポリメラーゼ (Jena Bioscience GmbH) を用いて PCR 反応を行った 反応のサイクルは,94 4 分の変性の後, 変性 94 1 分, アニーリング x 1 分, 伸長 72 2 分を 35 回繰り返し, 最後に 72 10 分の伸長反応を追加した アニーリングの温度 (x ) は最適化のための検討を行った PCR 産物は GelRed (Biotium Inc.) を添加した 1.7% アガロースゲル ( アガロース S; 和光純薬工業 ) を用いて 100V で 50 分の電気泳動を行い, UV 照射によりバンドを可視化した 3. 結果および考察今回設計を行った IRAP-PCR 用のプライマーセット LeF および LeR を用いて, 品種イに関し 60 のアニーリング温度で IRAP-PCR を行った 図ー 1 異なるアニーリング温度における IRAP-PCR 電気泳動像 一般的に, アニーリング温度を低く設定すると増幅効率が上がり, 逆にアニーリング温度を高く設定すると特異性が上がるとされている 商業利用されている作物への利用という背景を踏まえ, 本プライマーセットでのアニーリング温度を 65 とし, 以降の試験に適用した 品種ロを使用し, 液体窒素による凍結保管から解凍した培養菌糸体 ( 寒天培地使用 ) と, 市販の子実体, 販売種菌 ( オガ粉培地使用 ) よりそれぞれ DNA の抽出を行い IRAP-PCR を行ったところ, 全て同じバンドパターンが得られた ( 図 -2) このことから,IRAP 法はシイタケの品種識別用途において想定しうる DNA 抽出媒体からは安定した結果が得られることが判明し, 市販の子実体から菌を分離培養することなく検査に供試が可能であり, 販売種菌における他品種のクロスコンタミネーションチェックなどにも利用ができると考えられた 品種ハおよびニとその交配品種ホを使用して IRAP-PCR を行った 培養的識別法である対峙培養では親品種ニと品種ホの間に帯線は形成されないが, バンドパターンには違いが確認された ( 図 -3) 33

図ー 4 両親株および交配株間でのバンドパターンの比較 図ー 2 異なるサンプルを用いた IRAP-PCR 電気泳動像 図ー 3 両親株と交配株とのバンドパターンの比較 また, 品種へと品種トから胞子を採取して一核菌糸を作出し,mon-mon 交配により交配株 (F1) を 6 株得た 親株の品種へおよびトと F 1 を用いて IRAP-PCR を行ったところ, 品種へおよびトと F1 とは異なるバンドパターンであったが,F1 間では同じパターンになるものが確認された ( 図 -4) どちらの試験においても,IRAP 法は優性マーカーのためバンドパターンによる両親株と交配株との遺伝的血縁関係の証明は不可であり, 交配株間においては識別できないケースが見られたものの, 遺伝的には極めて近似であるが明確に性質は異なる, 両親株と交配株との区別は可能なことから, 自社品種における育成者権侵害の早期発見といった本来の目的を十分果たせるものと考えられた 市販のシイタケ種菌 35 品種を使用して IRAP- PCR を行ったところ, 各品種において多型性の高いバンドパターンが得られた ( 図 -5) 図ー 5 シイタケ 35 品種を使用した IRAP-PCR による電気泳動像 過去に開発されてきたシイタケの品種識別法は高価な機材の使用や煩雑性, コストにおいて十分満足のいくものではなかった 過去に開発された主なシイタケの品種識別法である AFLP 法 (Terashima and Matsumoto 2004) や IGS シーケンシング法 ( 馬場崎 2006) では, シーケンサーを用いて多数の塩基配列情報の取得やフラグメント解析を行う必要性があり, 外注で 34

富山森林研報 10(2018) 行うには多額のコストが生じる また, シーケンサーを保有している場合でも, シーケンサーに使用するポリマーなどの備品やダイデオキシ法に係る試薬などが比較的多く必要となる RAPD 法 (Zhang and Molina 1995) や ISSR (Inter Simple Sequence Repeat) 法 (Zhang et al. 2007) はシーケンサーを原則必要としないが, 多型性の高いプライマーを見つけるための時間および多量の試薬を浪費する 一方で IRAP 法の場合, 今回開発したプライマーセットを用いた 1 回の PCR と電気泳動で結果が判明する そのため, DN A 抽出に係る機器類とサーマルサイクラー, 電気泳動装置, トランスイルミネーターがあれば良く, 基礎的な機器のみである これらのことから,IRAP 法による品種識別方法は既存方法と比較し, 使用機器なども含めて安価かつ簡便であり, 迅速で安定したシイタケ品種の識別を行えることが示された 謝辞本研究において株式会社北研および上田産業株式会社には多大なご協力を賜った また, 富山県森林研究所の職員各位には, 有益なご助言を頂いた ここに御礼申し上げる 引用文献馬場崎勝彦 (2006)IGS1-DNA シーケンスのデータベースを用いるシイタケ品種のインターネット照合. 日本菌学会 50 周年記念大会講演要旨集 Breene WM (1990) Nutritional and medicinal value of specialty mushrooms. J Food Protec 53: 883-894 Chiu SW, Wang ZM, Chiu WT, Liu FC, Moore D(1999)An integrated study of individual Lentinula edodes in nature and its implication for cultivation strategy. Mycol Res 103: 651-660 平島敬太 佐伯一直 (2012) レトロトランスポゾンによる福岡県育成キク品種 雪姫, 月姫, 秋華, 夏日和 の品種識別. 福岡県農業総合試験場研究報告 31: 49-53 Kalendar R, Grob T, Regina M, Souniemi A, Schulman A (1999) IRAP and REMAP: Two new retrotransposon-based DNA fingerprinting techniques. Theor Appl Genet 98: 704-711 Kalendar R, Schulman AH(2006)IRAP and REMAP for retrotransposon-based genotyping and fingerprinting. Nat Protocol 1: 2478-2484 近藤知巳 中島有紀子 渡辺朋子 吉山佳世 内田飛香 黒木勝久 福井敬一 水光正仁 榊原陽一 (2016) シイタケおよびその加工品による抗酸化ストレス作用. 日本食品科学工学会誌 63: 199-208 前田亜紗 寺島和寿 長谷部公三郎 (2015) High-resolution melting (HRM) 解析を用いたシイタケ品種 菌興 115 号 の迅速 DNA 品種識別法の開発. 日本きのこ学会誌 23: 114-119 Qin LH, Tan Q, Chen MJ, Pan YJ(2006)Use of intersimple sequence repeats markers to develop strain-specific SCAR markers for Lentinula edodes. FEMS Microbiol Lett 257: 112-116 Saito T, Tanaka N, Shinozawa T(2002) Characterization of subrepeat regions within rdna intergenic spacers of the edible basidiomycete Lentinula edodes. Biosci Biotechnol Biochem 66: 2125-2133 Shishido K, Nobusaka R, Kaneko S, Sato Y, Akiyama R, Miyazaki Y, Ninomiya M, Katsukawa S(2007)Long terminal repeat of the mushroom retrotransposon functions as a dual terminator to transcription. Biosci Biotechnol Biochem 71: 2321-2324 Terashima K, Matsumoto T(2004) Strain typing of shiitake (Lentinula edodes) cultivars by AFLP analysis, focusing on a heat-dried fruiting body. Mycosci 45: 79 82 Zhang Y, Molina FI(1995)Strain typing of Lentinula edodes by random amplified polymorphic DNA assay. FEMS Microbiol Lett 131: 17-20 Zhang R, Huang C, Zhang S, Zhang J, Ng TB, Jiang R, Zuo X, Wang H(2007)Straintyping of Lentinula edodes in China with inter simple sequence repeat markers. Appl Microbiol Biotechnol 74: 140-145 35

Summary We tried to simple strain typing by Inter-retrotransposon amplified polymorphism(irap)-pcr with primers designed for shiitake cultivar, and high polymorphism were detected. Since the method is very stable and able to result by one action of PCR, it is considered to be a suitable method for quickly shiitake strain typing. 36