事業継続ISOの上手な使い方――ISO 22301認証取得企業からみる実際の効果

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114 事業継続 ISO の上手な使い方 ISO 22301 認証取得企業からみる実際の効果 西出三輝 Mitsuteru Nishide リスクコンサルティング事業本部 ERM 部主任コンサルタント はじめに事業継続の ISO である ISO 22301 1 が JIS 2 として制定されてから間もなく 1 年を迎える 3 当社でも様々な企業に認証取得を支援する機会を得た 当社が支援した企業において ISO 22301 認証取得を選択した理由は様々であったが ISO22301 への期待を集約すると表 1 のとおり 4 つに分類できる 本稿では 当社が支援した認証取得企業の声を基に ISO 22301 の上手な使い方を紹介する 4 表 1 認証取得企業における ISO 22301 への期待 1 2 3 4 有事に強い企業作り 教育 訓練の充実などによる人材強化 事業継続能力の向上 ブランド力のアップ 1. ISO 22301 とは ISO 22301 は 事業継続マネジメントシステム ( 以下 BCMS ) の国際標準規格である ISO 22301 の目次と概要は表 2 のとおりである 全体は 箇条 0 序文 ~10 改善 で構成されており このうち要求事項にあたるのは箇条 4~10 である 要求事項の内容を見ると BCMS の確立 実施 継続的改善といった PDCA サイクルの実現に向けた平時に実施すべき事項を規定した要求事項が多くを占めている そして箇条 8 などでは インシデント ( 中断 損失 阻害 緊急事態又は危機になり得る又はそれらを引き起こし得る状況 5 ) 発生時の役割責任 インシデント終了後の解除プロセスといった事業継続計画 ( 以下 BCP ) に含めるべき事項など 有事でも事業継続できるために平時に準備すべき事項を規定した要求事項がある 1 ISO 22301 の詳細については 2012 年 7 月 19 日発行の損保ジャパン日本興亜 RM レポート 71( 旧 NKSJ-RM レポート 71) 国際規格 ISO 22301 とはどのようなものか?- ISO 22301 の可能性とは を参照 参考 URL:http://www.sjnk-rm.co.jp/publications/pdf/r71.pdf 2 Japanese Industrial Standards( 日本工業規格 ) 3 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項として 2013 年 10 月 21 日に制定 4 5 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22300:2013 社会セキュリティ- 用語 P(1)~P 索 5,P3 2.1.15 インシデント を参照 Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 1

つまり ISO 22301 に準拠した活動 ( 以下 事業継続活動 ) は 平時の継続的な活動が重要となり 有事 が発生した際には 平時の活動の積み重ねが活かされるような活動でなければならない 6 表 2 ISO 22301 の目次と概要 箇条項目概要 0 序文 BCMS の重要性や本規格の構成要素について説明している 1 適用範囲規格の趣旨や適用可能な範囲について説明している 2 引用規格規格が引用している文書について示している 3 用語及び定義この規格で用いている主な用語について定義している 4 組織の状況 BCMS における組織の適用範囲を決定するために必要な事項を示している 5 リーダーシップ BCMS における経営陣の役割責任について示している 6 計画 BCMS 全体の目的や指針の設定について示している 7 支援 BCMS を運用するにあたり 文書化 力量の保持 利害関係者とのコミュニ ケーションに関する事項を示している 8 運用 事業継続を実現するための対応方法 手順の策定方法 策定後の演習について示している 9 パフォーマンス評価 BCMS のパフォーマンスや適合性の確認について示している 10 改善 BCMS の不適合を特定し是正処置によって対応することを示している 2. 期待した効果と実際に取組んだ結果の声 ISO 22301 に取組むことで 表 1 に示す期待どおりの効果を得られたという声を紹介する 2.1. 有事に強い企業作り への効果 有事が発生した場合でも利害関係者の期待に応えられる企業になるためには 自社の現状について再確 認し 課題を見つけ出すことが重要である ISO 22301 では 平時において有事を想定し 優先すべき事業や事業のボトルネックとなり得る重要な活 動とは何かなど 自社の現状について再確認し 課題を見つけ出すことを要求事項 7 で規定している これまで当社が認証取得を支援した企業では この要求事項に基づき 自社の事業などを皆で客観的に 再確認できたことで 優先すべき事業や自社の弱点などが明確になり 有事に強い企業作りに有効であっ たといった効果を実感する意見があった 実際に支援した企業からの声の一部を表 3 に示す 8 表 3 有事に強い企業作り の効果に関する声 優先すべき事業が何であるかが見える化できた 既存の BCP を見直し より実効性の高い BCP を策定できた サービス提供に必要となるサプライヤを管理できる仕組みができた リソースの課題が見える化でき 関係するサプライヤに必要な対策を実施できた 6 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P(1)( 概要については当社の見解である ) 7 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P11,P17 4 組織の状況 8.2 事業影響度分析及びリスクアセスメント 8.3 事業継続戦略 を参照 8 Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 2

2.2. 教育 訓練の充実などによる人材強化 への効果 有事においては 平時のように必要な人員が全て揃っているとは限らないため 従業員一人ひとりの能 力強化は重要なテーマである ISO 22301 では 事業継続活動に必要な力量を洗い出すことや有事において誰が何をすべきかを整理する ことなど 平時および有事における事業継続上の役割 責任と併せて力量を設定することや事業継続に取 組む意味を従業員に認識させることを要求事項 9 で規定している 人材強化を強く意識した企業では 設定した力量に基づく教育 訓練や事業継続活動の重要性を理解さ せることに注力した結果 適切な有事対応のために不足している手順書等があることを従業員が発見した り 率先して事業継続活動に加わりたいという従業員が増加したりと 従業員の能力の強化がみられた それらの声の一部を表 4 に示す 10 表 4 教育 訓練の充実などによる人材強化 の効果に関する声 従業員が有事対応の必要性を認識し 平時においても有事対応に関する意識が向上した 教育 訓練を通じて経営陣の考え方が従業員に伝わり 優先すべき事業の認識など有事対応にお ける考え方が統一された ISO 22301 の活動から 事業継続活動の必要性を理解したことで 社内に協力者が増えた 2.3. 事業継続能力の向上 への効果 BCP を策定し具備するだけでは 実際に有事が発生したときに対応できる能力が備わったとはいえない そこで事業継続活動を行い 有事においても想定したとおり適切に事業継続できる能力 ( 以下 事業継続 能力 ) を向上させることが重要となる ISO 22301 では 事業継続の目的達成に向けて 事業継続活動の適切性 妥当性および有効性を継続的に 改善することを要求事項 11 で規定している これまで当社が認証取得を支援した企業では 事業継続能力を向上させるため 事業継続に係る文書の 策定 改善や演習 12 に注力した結果 属人的に判断されていた事項や不明確だった手順 責任の所在等が明 確化され ムダムラのない事業継続活動が可能となり 人事異動等があっても適切に引き継がれ事業継続 能力の維持が可能となった それらの声の一部を表 5 に示す 13 表 5 事業継続能力の向上 の効果に関する声 ISO 22301 の活動を継承できる仕組みができた ISO 22301 を活用することで 事業継続活動に関する基準ができ 改善が行いやすくなった ISO 22301 の運用に則り 演習などを通じて課題を発見し 改善活動を行った その後 実際に有事が発生した際 従業員が能動的に参集し事業再開に向けた活動を行う姿を見て 以前と比べて有事に強い企業に近づいていることを実感した 9 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P15 7.2 力量 7.3 認識 を参照 10 11 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P24 10.2 継続的改善 を参照 12 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P20 8.5 演習及び試験の実施 を参照 13 Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 3

2.4. ブランド力のアップ への効果 ISO 22301 の認証は 事業継続活動の成果をブランド力のアップなど利害関係者からの信頼獲得に向けて活用することも可能である ISO 22301 の要求事項は 当該企業のニーズにかない 利害関係者の要求事項を満たす BCMS を設計できるようにすることを意図している 14 これまで当社が認証取得を支援した企業では信頼を獲得したい相手の期待を明確化し その相手の期待を踏まえた活動の結果を自己評価ではなく 第三者評価として相手に伝達できたことで 相手の安心感につながり 自社のブランド力の更なる強化に繋がった それらの声の一部を表 6 に示す 15 表 6 ブランド力のアップ の効果に関する声 取引先が気にしていた製品で ISO 22301 の認証を取得し それをアピールすることで取引枠を拡 大できた また業界内でも初の取得であったため 取引先へ与える安心感が向上した 当初の予定通り ISO 22301 に取組んだ結果を利用して 銀行が実施する事業継続への取り組み 状況により有利な融資を受けられる格付評価で高評価を得て 融資を受けられた ISO 22301 認証取得をアピールすることで 取引先から 有事に強い企業 として認知されるよ うになった 3. ISO 22301 活用のポイントまず ISO 22301 の取組みにおいて 2. 期待した効果と実際に取組んだ結果の声 で示したような良い効果を得るためには 単に ISO 22301 に準拠した体制を構築するだけでは十分ではないと考える 良い効果を得た企業は 自社の状況に合わせ 表 7 のような活用のポイントに配慮して ISO 22301 に準拠した体制を構築した そこで 本章では ISO 22301 を活用するにあたり配慮すべきポイントを紹介する 表 7 ISO 22301 活用のポイント 16 1 ISO 22301 を使って何がしたいのかを明確にする 2 シンプルなルールを心がける 3 既存のリソースを有効に活用する 3.1. ISO 22301 を使って何がしたいのかを明確にする ISO 22301 に取組む前に 事業継続をテーマとした自社の期待や目的 ( 例えば 有事に強い企業作りやブランド力の向上等 ) に対して ISO 22301 が効果的なツールかを検討することが重要である 事業継続活動を続けるためには ヒト モノ カネ 情報といったリソースが継続的に必要となる 経営陣が ISO 22301 のような認証制度を自社の期待や目的の達成に寄与しないものと考えていたり ISO 22301 の取組みが信頼を獲得したい利害関係者の期待に合っていなかったりする場合は 事業継続活動を 14 一般財団法人日本規格協会 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 P(1)~P 解 8,P3 1 適用範囲 を参照 15 16 Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 4

阻害する要因となる恐れもある まずは ISO 22301 に対する自社の期待と信頼を獲得したい相手を設定し 自社における ISO 22301 の適 用範囲をイメージしてから活動を始めることをお勧めする 3.2. シンプルなルールを心がける ISO 22301 に関するルールはシンプルなルールを心がけることが重要である 事業継続活動が複雑すぎる場合 日常業務を圧迫し 形骸化につながる恐れがある また 有事において BCP が複雑すぎる場合でも 内容の理解や書類の確認ばかりに時間が取られてしまい 目標とする時間内で事業を再開できない恐れがある したがって ISO 22301 に関するルールは 自社の目的の達成や期待した効果を得るため 従業員への負担が過重すぎて守れないルールになっていないか 事業再開までの時間短縮に役立たない準備をしていないか 等 事業継続活動における課題を考慮しながら整備し シンプルなルールを目指すことをお勧めする 3.3. 既存のリソースを有効に活用する事業継続活動に係るリソースを準備する際 既存のリソースの有効活用を検討したうえで 新規導入を検討することが重要である 既存のリソースの有効活用を検討せず新規導入を優先した場合 既存のリソースとの機能の重複 管理対象の増加 コストの増加 新たなリソースが従業員に認知されないなど 事業継続活動に様々な悪影響をおよぼす恐れもある したがって 既に導入している他のマネジメントシステムがあれば関連する活動を統合する 日常的に使用している設備点検表の一部を有事の被害状況確認表としても使用できるよう改訂する など 既存の活動で利用しているものを有効活用することをお勧めする しかし 既存のリソースの有効活用だけでは リソースがすべて揃うとは限らない その場合にはリソースの新規導入について計画を立案し 事業継続活動や日常の業務に悪影響が出ないような導入方法を検討するべきである おわりに 事業継続 ISO の上手な使い方 と題して 当社が支援した認証取得企業が得た効果を紹介した 効果の内容は様々であったが 各社共通しているのは ISO 22301 を使って何がしたいかを明確にして取組んだ結果 期待どおりの効果を得たことである このことは ISO 22301 に限らず ISO 9001 ISO 14001 OHSAS 18001 などの他のマネジメントシステムと同様に ISO 認証取得に効果がついてくるのではなく 自社の目的達成のためのマネジメントシステムをいかに構築できるかが 効果を得るためには重要であることを表している したがって ISO 22301 を上手に使うためには まず 2. 期待した効果と実際に取組んだ結果の声 で紹介したとおり 自社の目的や期待する効果を明確にしたうえで 3. ISO 22301 活用のポイント で紹介した内容に配慮して取組まれることをお勧めする Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 5

参考情報 BCMS 認証制度は 2008 年より BS 25999-2 17 を要求事項とした BCMS 適合性評価制度の実証運用からスタ ートし 2012 年に ISO 22301 が発行されてからは認証取得組織数が更に伸び 現在 71 組織 ( 内 3 組織が非公 表 ) が認証を取得している ( 尚 非公表の 3 組織については取得年等も非公表のため 公表されている 68 組 織にてグラフを作成している ) 組織数80 70 60 50 40 30 20 10 2 12 0 6 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年図 1 BCMS 認証取得組織の推移 (2014 年 6 月 23 日現在 ) 18 18 31 53 68 参考文献 JIS Q 22301:2013 社会セキュリティ- 事業継続マネジメントシステム- 要求事項 JIS Q 22300:2013 社会セキュリティ- 用語 執筆者紹介西出三輝 Mitsuteru Nishide リスクコンサルティング事業本部 ERM 部主任コンサルタント専門は事業継続 情報セキュリティ 損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントについて損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社は 株式会社損害保険ジャパンと日本興亜損害保険株式会社を中核会社とする NKSJ グループのリスクコンサルティング会社です 全社的リスクマネジメント (ERM) 事業継続(BCM BCP) 火災 爆発事故 自然災害 CSR 環境 セキュリティ 製造物責任 (PL) 労働災害 医療 介護安全および自動車事故防止などに関するコンサルティング サービスを提供しています 詳しくは 損保ジャパン日本興亜リスクマネジメントのウェブサイト (http://www.sjnk-rm.co.jp/) をご覧ください 本レポートに関するお問い合わせ先損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社リスクコンサルティング事業本部 ERM 部 160-0023 東京都新宿区西新宿 1-24-1 エステック情報ビル TEL:03-3349-4226( 直通 ) 17 BS 25999-2:2007 年 11 月に発行された事業継続マネジメントシステムに関する英国規格 現在 日本では ISO 22301 を要求事項とした第三者認証制度となっているため BS 25999-2 を要求事項とした認証発行は行っていない 18 一般財団法人日本情報経済社会推進協会情報マネジメントシステム推進センター BCMS 適合性評価制度 BCMS 認証取得組織検索結果 (http://www.isms.jipdec.or.jp/bcms/lst/ind/index.html)( アクセス日 :2014 年 7 月 1 日 ) より Copyright 2014 Sompo Japan Nipponkoa Risk Management Inc. All rights reserved. 6