平成 28 年度スーパーバイザー事業報告書 発達や障がい特性に応じた指導 支援 ~ 感覚と運動の高次化理論を活用した指導 支援の充実 ~ 鳥取県立皆生養護学校 スーパーバイザー : 淑徳大学池畑美恵子助教 1 はじめに (1) 学校経営方針本校は 肢体不自由と病弱 ( 高等部 ) の特別支援学校である 学校目標を 学び 輝き 感動のある学校 とし それに迫るために学校像 ミッションを設定している めざすべき教師の姿としては 以下の 3 点を掲げている 1 一人一人の子どもに応じた指導ができる教師 2 保護者に寄り添い 適切な対応ができる教師 3 学校組織の一員として協働できる教師 (2) 一人一人の子どもに応じた指導の現状特別支援学校の教師には 個々の子どもの障がいの状態や教育的ニーズに応じた指導が求められている そういった教師を育成するために 本校では研究 研修部が中心となり各種研修会を実施してきた 教材を活用した学習に関しては 平成 23 年度から 感覚と運動の高次化理論 の研修を行い 一人一人の子どもに応じた指導を深化してきた (3) 感覚と運動の高次化理論を活用した指導 支援感覚と運動の高次化理論は 教材を活用した学習支援を発達に応じて進めていくことができる点で分かりやすく使いやすい 特別支援学校や就学前施設の中で注目されるようになってきている ( 高橋,2015) 感覚と運動の高次化理論の特徴は 子どもの発達を 感覚と運動のつながり と その処理システム の高次化として捉え 4 層 8 水準の枠組みの中で発達支援につながる学習を展開する点である ( 宇佐川,2007) 本校では これまでの取り組みにより以下の成果があがった 1 子どもの実態把握ツールの開発と活用 2 教材や教材を用いた指導 支援方法の充実 3 教材室の整備その結果 全国肢体不自由教育研究大会で実践発表できる程 指導 支援のレベルが向上してきた しかし 本年度のアンケート調査では 感覚と運動の高次化理論を知らない教師の数が知っている教師の数を上回るという結果であった 教師の異動により 理論についての学校としての専門性が低下していると考えられた 新たな研修機会を作る
ことで 一人一人の子どもに応じた指導 支援の充実をさらに目指す必要があった 2 研究のねらい 感覚と運動の高次化理論を活用し 一人一人の子どもに応じた指導 支援が充実する 3 研究内容 (1) 対象となる授業小学部 中学部 高等部から 1 名ずつ対象となる児童 生徒を選び その担任との教材を使った授業を対象授業とした (2) 年間計画授業公開を 2 回 (6 月 12 月 ) 実施した 当日はスーパーバイザーを招き 各授業を 45 分間ずつ参観してもらい 授業後に教師への助言を 20 分間ずつ受けるようにした 授業公開の前後の期間 ( 下の に示した部分 ) は 実践を振り返ったり 充実させたりしながらスーパーバイザー助言活用シートを記入する期間とした 4 月 5 月 6 月授業公開 スーパーバイザーによる助言 ( 第 1 回 ) 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 指導 支援上の教師の困り感の整理 助言の取捨選択 方法や手立ての修正 児童 生徒の変容の整理 教師自身の変容の整理 12 月授業公開 スーパーバイザーによる助言 ( 第 2 回 ) 1 月 2 月 3 月 助言の取捨選択 方法や手立ての修正 児童 生徒の変容の整理 教師自身の変容の整理 (3) スーパーバイザー助言活用シートの活用先行研究 ( 諫早特別支援学校,2008) を参考にしてスーパーバイザー助言活用シートを利用することとした その利点として 以下の事を想定した 1 教師が授業で困っている内容をスーパーバイザーに事前に伝えることができる 2 教師がスーパーバイザーの助言をもとに 指導 支援を充実させていくための道筋が分かりやすい 3 教師が行ってきた指導 支援により 子どもの変容を記録しておくことができる 4 指導 支援が充実していく過程を振り返り 教師自身が自分の変容に気づくことができる
スーパーバイザー助言活用シート 児童生徒氏名 担当氏名 関連する年間目標 学習内容 問題に感じていること 行っている方法や手立て 専門家からの助言 助言を受けて 修正した方法や手立て 児童 生徒の様子や変容 教師の変容 担当教師には 活用シートの記入の流れを説明し 1 年間の指導 支援の充実に向けた取り組みについて見通 しが持てるようにした スーパーバイザー助言活用シート 児童生徒氏名 関連する年間目標 学習内容 1 2 担当氏名 問題に感じていること 行っている方法や手立て 専門家からの助言 助言を受けて 修正した方法や手立て 児童 生徒の様子や変容 3 4 5 6 7 8 教師の変容 9 1: 担当の児童 生徒の現在 指導上問題に感じている事を 3に記載し それに関する年間指導計画や学習内容 手立てを 個別の指導計画 より抜き出し 1 2 4 に記載する 2: 研修担当者と記載内容の検討 3: シートは 連絡調整役を通じて専門家に渡す 4: スーパーバイザー来校による授業参観 助言 担当者が内容聞き取り
5: スーパーバイザーからの助言を 5にまとめる 6: 受けた助言を整理し 6を記入する 7: 助言の際のビデオなどを参考にしながら 指導改善に向けて検討を行い 7に記載する 8: 実践の中で 指導改善を行ったことによる児童 生徒の変容を 8に記載する また この一連のやりとりの中で 教師自身に起こった変化について 9に記載する 9: シートの 助言をどう整理したか ( 6) 教師の変容 ( 9) に記載した事項を整理し 教師としての専門性の高まりにつながったかを見つめなおす 10: 完成したシートをもとに研修担当者は研究の成果と課題をまとめる 4 研究のまとめ (1) 成果スーパーバイザーの助言を活用した指導 支援により 児童 生徒の変容した姿を紹介する 高等部生徒 Aは 感覚運動の高次化では Ⅰ 層 ( 初期感覚の世界 ) ステージ Ⅱ( 感覚運動 ) の段階の実態であると考えらえた 処理系 知恵自己像情緒 視覚運動協応 聴覚運動協応 基礎視知覚 視覚入力系細部全体視知覚視知覚 感覚入力系 基礎聴知覚 聴覚入力系細部全体聴知覚聴知覚 手先の運動 表出系 粗大運動協応 発語 Ⅰ: 感覚入力水準通過通過通過通過 第 Ⅰ 層 Ⅱ: 感覚運動水準通過通過通過通過通過通過通過通過通過通過通過 Ⅲ: 知覚運動水準 - - 通過 - 通過 - - - 通過通過通過 - - - 第 Ⅱ 層 Ⅳ: パターン知覚水準 - - - - - - - - - - - - - - Ⅴ: 対応知覚水準 - - - - - - - - - - - - - - 上の実態把握等から Aのねらいを設定しスーパーバイザーの助言を活用しながら学習を重ねた その結果 実践の終盤には教材を見て操作できるようになった そこに至るまでの過程は以下の通りである 問題に感じていたこと 提示された教材をちらっとしか見ない 見続けることが難しい 外部専門家からの助言 対象物に目が向けられるようにコントラストに留意してはどうか 机上に箱か円盤状のシートを置くことで空間に枠ができるので目が向きやすいのではないか 教室の隅を使うなどの目が使いやすい学習環境を検討してはどうか
助言を受けて修正した方法や手立て 対象物に目が向けられるように机上に円盤状のシートを置いてその中に課題を置いた A の周りに黒い衝立を設置した 自分に近づいてくる教材 ( 歩く犬 ) を使う 生徒の変容 学習の始点と終点が円盤の中にあることで視線のぶれが少なくなった 教材に目を向けることが増えた 2 つの教材を見比べて輪抜きができるようになった 授業場面以外では CD プレーヤーの小さなスイッチを見て押して音楽が流せるようになる変容も見られた (2) 課題本研究は スーパーバイザーの助言を活用した研究であったが エキスパート教員など校内の専門性のある教師が果たした役割も大きかったと考えられる 一人一人の子どもに応じた指導 支援の充実を図るには スーパーバイザーの活用とともに 校内の人材も大切であるとわかった 校内において専門性のある教師を計画的に育成することが今後の課題である 5 おわりに本研究は 感覚と運動の高次化理論を活用し 一人一人の子どもに応じた指導 支援が充実することを目的にした研究であった スーバーバイザーの助言を受けて 一人一人の子どもに応じた指導 支援が充実し その結果 児童 生徒の変容がみられた このような機会を与えてくださった鳥取県教育センター そして 2 回にわたり本校で助言をしてくださった池畑美恵子先生には心から感謝を申し上げたい 6 引用 参考文献 (1) 高橋浩 (2015) 感覚と運動の高次化理論研修会案内.http://www2t.biglobe.ne.jp/~doremi/k20150517.pdf ( アクセス日 : 平成 29 年 1 月 9 日 ) (2) 宇佐川浩 (2007) 障害児の発達臨床 Ⅰ 感覚と運動の高次化からみた子ども理解. 学苑社. (3) 諫早特別支援学校 (2008) 外部専門家活用研修事業. 諫早特別支援学校ホームページ, http://www2.news.ed.jp/shared/uploads/2016/03/1459382476.pdf ( アクセス日 : 平成 28 年 9 月 29 日 )