8 章細胞の発生と分化

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動物の発生と分化 (立ち読み)

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平成18年3月17日

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かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞が

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RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

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8 章細胞の発生と分化

有性生殖と無性生殖 生物は自分と同じ種類の新しい生物を作ってその数を殖している 生殖 reproduction 有性生殖 sexual reproduction や などの性がある場合 無性生殖 asexual reproduction 性が無い場合 本質 : 異なる遺伝子を混ぜ合わせる 若返りのしくみ 受精 fertilization 接合 conjugation 幼体 多細胞生物個体 元は 1 個の生殖細胞 ( 卵 ) 体細胞 somatic cells 同じ遺伝情報 クローン細胞 生殖細胞 germ cells 成体 日々の生きる営みを行う為の細胞個体のほぼ全ての細胞 代謝が常に活発 細胞分裂 = 無性生殖 子孫へ遺伝情報を伝える為の細胞わずかの数の細胞群 特定の時期にだけ働く 限りがある寿命 加齢 aging 細胞死 cell death

生殖法の違い 無性生殖 世代 世代交代 有性生殖 世代 回転 生活環 life cycle 世代交代 例 ) ゾウリムシ 接合 = 有性生殖 接合型と呼ばれる何十種類もの性が存在 接合型 E 異なる遺伝子をもつクローン集団の間で接合は行われる 接合型 O 性的成熟接合後 50 回の分裂 寿命は 700 回細胞分裂 細胞分裂 = 無性生殖 小核 核融合 交換 受精核

水クラゲの生活環 減数分裂により核相 1n の配偶子を形成 有性生殖により子孫を残す世代 細胞分裂により増殖する世代 核相は 2n である 核相が交代することを核相交代とよぶ 核相交代と世代交代は必ずしも一致しない

受精や接合を経ること無く新しい個体を生じる現象 単為生殖 parthenogenesis 生殖能力あり 未受精卵が発生する 単為発生 parthenogenetic development

発生と分化 分化 differentiation ヒト約 200 種類の細胞 受精卵 分裂 増殖 機能的形態的 特殊化 成体 adult 体細胞分裂と卵割の違い 発生 development 卵細胞の極性 娘細胞は成長して元の大きさに戻る 極体が生じる場所 直角 2 等分する面 娘細胞 ( 割球 ) は成長せずに次の分裂を繰り返す 細胞は小さくなってゆく 動物極の反対側

カエルの発生 2 4 8 16 32 神経胚 初期 中期 外胚葉 中胚葉 内胚葉 後期 桑実胚 胞胚 原腸胚

各胚葉から分化する器官 神経系 感覚器 泌尿器 循環器 骨格 筋 生殖 呼吸器 消化器 原腸胚 神経胚

例 ) ショウジョウバエ Drosophila 分化を決定する因子 胚の前後 背腹 左右の軸を決める 卵細胞質中の物質の濃度勾配 受精後に翻訳 胚の極性を決めている因子 未受精卵で転写された mrna( 母性遺伝子 ) 決定因子 determinant 脊椎動物などの場合 胚の中での近接する細胞同士の相互作用 予定運命 fate 例 ) 線虫の場合 Caenorhabditis elegans 1 個体が約 1000 個の細胞 全遺伝子配列が判明 細胞の系譜が全て明らか

シュペーマンの交換移植実験 初期原腸胚の時期 移植を行っても分化は正常に起こる 後期原腸胚 移植を行うと余分な神経を形成 予定運命が決定されている Fate Map

形成体 両生類胚の初期原腸胚 原口背唇部 他の胚に移植 2 次胚を形成 形成体 organizer この誘導を生じる本体浅島誠 ( 東大 ) が発見 アクチビン activin ペプチド 232 のアミノ酸から構成される親水性の短いタンパク質 脳下垂体から FSH( 卵胞刺激ホルモン ) 放出を促す因子 TGF(Transforming growth factor)-β ファミリーに属する 50 ng/ml 脊索 5 ng/ml 筋肉 0.5 ng/ml 血球 濃度依存的に様々な組織の形態形成を誘導する

細胞間相互作用の一例 眼の発生 赤道面付近の細胞 卵細胞の極性 分化 原口背唇部 誘導 段階的に起こる誘導どの一つが欠けても正常な眼は形成されない 外胚葉 神経管 分化 分化 外胚葉 ( 表皮 ) 眼杯 分化 誘導 水晶体 誘導 表皮 分化 角膜

例 ) ニワトリ Gallus gallus 四肢の発生 外胚葉性頂堤 apical ectodermal ridge(aer) 中胚葉 抑制 分化 誘導 肢芽後部極性化域 zone of polarizing activity (ZPA) 濃度依存的な誘導前後軸に沿ったパターン形成 FGF-4 fibroblast growth factor 翼 ソニック ヘッジホッグ sonic hedgehog 極性化域 肢芽の前部に一部だけ移植 過剰指が形成される 肢芽の前部に多量に移植 鏡像的な過剰指が形成される Hedgehog の名前の由来は, この hedgehog 遺伝子の機能を失った変異体の表現型の胚が小さな歯のような突起物に覆われていて, その様がハリネズミ (hedgehog) に似ていることから名づけられたが 3 種類の相同遺伝子のなかでも sonic hedgehog は セガのゲームソフトキャラクターから名付けられた (Riddle et al, 1993, Cell, 75,1401 1416.)

分化細胞 : 安定にその形質 機能を保つ 再生 regeneration 例 ) イモリの肢の再生 再編 皮膚小腸上皮造血細胞 再生芽 分化の安定性 生体でもたゆまない分化 増殖と細胞死 損傷 表皮細胞の増殖 脱分化 再生 再分化 未分化細胞 ほ乳類や鳥類では組織が失われた時の再生能力は低いが筋細胞には見られる 筋細胞 脱分化 dedifferentiation サテライト細胞 satellite cell 未分化な細胞 再分化 redifferentiation 骨格筋細胞 軟骨細胞

イモリの水晶体の再生 眼のレンズを抜き取る 虹彩上縁細胞が脱色素 脱分化 dedifferentiation レンズの再生 再分化 redifferentiation 虹彩まで抜き取る 網膜からレンズの再生がおこなわれる

多能性幹細胞 pluripotent stem cell 成体 adult 発生の進行 分裂 増殖 受精卵 分裂停止 G0 状態 G1 期 or G2 期 全能性細胞 totipotent cell 分化した細胞 分化した細胞 特殊化した機能のみを発現 細胞分裂 細胞分裂 幹細胞 stem cell 幹細胞 stem cell 分化 多能性細胞 pluripotent cell 幹細胞 stem cell

細胞 分化 増殖 例 ) ニワトリの予定細胞死 寿命 life span 分裂限界 癌細胞 cancer cell 不死化した細胞無限に分裂 細胞死 cell death 組織化学的分類 アポトーシス apoptosis ネクローシス necrosis アポトーシスの語源 予定細胞死 programed cell death 細胞の変成が核から始まる DNA の断片化 細胞質変成が細胞質から始まる 予定細胞死 programed cell death apo 離れる ptosis 下に落ちる 落葉もすなわち予定細胞死の例 アポトーシス 例 ) 神経細胞 発生過程で過剰に増殖分化 標的の細胞と神経連絡 ( シナプス synaps) を形成 シナプスが形成できなかった 20 70% の細胞は脱落 シナプス形成は偶発的

アポトーシスの機構 Fas リガンドサイトカイン TNFα Lymphotoxinα 結合 TRAIL Apo3 シトクロム C による活性化経路 Fas Fas による活性化経路 カスパーゼ前駆体 細胞質のタンパク質 ミトコンドリア が障害を受ける 放出 CytC 電子伝達系の酵素 分解 解離 分解 アポトーシスシグナル 活性化 分解 カスパーゼ caspase タンパク質分解酵素 Bcl-2 抑制物質活性化 細胞死を誘導するタンパク質癌研究から見つけられた因子 Fas リガンドの受容体 receptor 活性型 Bcl-2 細胞死を抑制するタンパク質発癌遺伝子の翻訳産物 カスパーゼ前駆体活性化因子 カスパーゼ前駆体 アポトーシス Bcl-2

細胞老化 cell senescence 個体の老化 細胞の老化 癌痴呆等 運動機能低下記憶力の低下組織機能低下細胞の機能低下疾患の増加細胞死 個体の寿命 正の相関 少なくともほ乳類の場合 細胞の分裂寿命 培養細胞の観察 原生動物 アメーバ等は無限に分裂する ヒト (40 60 回 ) 2 46 = 70 兆 哺乳類の細胞 有限の分裂能 = 分裂寿命 細胞提供者の年令に反比例早老症患者の細胞分裂能は低い ヘイフリック限界 (1961, Hayflick and Moorhead) では 分裂の寿命を決めているのはなにものか?

テロメア telomere 染色体の末端にある TTAGG という塩基配列の多数の繰り返し配列 ヒトは約 2000 回の繰り返し テロメアの長い配列は不死化した癌細胞や生殖細胞に発見される テロメア telomere の位置 テロメア仮説 動原体 centromere の位置 染色体 細胞分裂の時の DNA の複製 DNA 合成酵素 (DNA ポリメラーゼ ) DNA ポリメラーゼは 2 本鎖にしか結合できない プラマーが必要 プライマーは RNA である プライマーゼ primase リボヌクレオシドを重合させ プラマーを合成 RNA は不安定 プライマー部分は分解される 複製の度に DNA は末端から短くなってゆく 分裂回数をカウントするしくみ