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報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

研究成果報告書

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を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

1. データベースへのアクセス イギリス特許 ( 以下 英国特許 ) を調査するにあたっては 英国特許庁への出願( 以下 各国ルートとする ) と 欧州特許出願に基づくもの( 以下 EPルートとする ) 両方を確認する事が必要となる 英国特許庁でも特許データベースが提供されているが その検索機能や収

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JP-NETを活用した特許マップ 作成マニュアル【基礎編】

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Establishment and Characterization of Cynomolgus Monkey ES Cell Lines

第13回文科大臣賞幹細胞選考資料

幹細胞 前駆細胞 (ES 細胞 PS 細胞 体 幹細胞他 ) 体細胞 () な細胞 その作製 分 製 装置 器材 培 成分 物 培養 件 細胞 分化 子 ( 質 化合物 ) 培養の工 細胞との 物 発生工学 生 工学分子生物学 細胞工学 ム科学 工学 分化 せた幹細胞体細胞遺伝子 細胞 サイトカイン

A23「タイ特許調査方法の検討」

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背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

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実践編 まず Search term(s) に EP と入力し Search ボタンをクリックすると以下のような 画面が表示される この About this file の画面では欧州特許の権利状況や書誌事項についての情報を得ることができる が 最初に確認すべき項目は Status の

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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中国における特許を対象にした企業動向調査 Q ナイキ (NIKE) 社の出願動向を把握したい 1) 調査ツールの選択中国特許 実用新案は 中華人民共和国国家知識産権局 ( 以下 SIPO) が提供する CNIPR と PSS-System 日本国特許庁( 以下 JPO) が提供する

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この問題点の一つとして従来からの細胞培養法が挙げられます 長年行われている細胞培養法では 細胞培養フラスコやディッシュなどを使用していますが これらは実験者にとって操作しやすいものの 細胞自身に適したものでは決してありません それは 細胞が本来あるべき環境とは異なるからです 私たちの体において 細胞

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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平成18年3月17日

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

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再生医療市場

図 3. 新規 HIV 感染者報告数の国籍別 性別年次推移 図 4. 新規 AIDS 患者報告数の国籍別 性別年次推移 (2) 感染経路 1 HIV 感染者 2016 年の HIV 感染者報告例の感染経路で 異性間の性的接触による感染が 170 件 (16.8%) 同性間の性的接触による感染が 73

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資料3-1_本多准教授提出資料

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1. 主な機能追加項目 以下の検索項目をサポートしました 書誌 全文検索コマンド検索 国内 査定日 最新の査定日 ( 登録査定日または拒絶査定日 ) を検索します 査定種別 最新の登録 拒絶査定 または査定なしを検索します 審査最終処分日 最新の審査最終処分日を検索します 審査最終処分種別 最新の審

言語切替 4 つの検索モードが用意されている 今回は 複数の検索項目を設定でき より目的に近い検索ができることから 構造化検索 モードを選択 した事例を紹介する pg. 2

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序 : 去る 2014 年 9 月 日本の理化学研究所グループ ( 高橋政代グループリーダー ) による世界で初めての 滲出型黄斑変性症患者由来 ips 細胞に由来する網膜シート ( 網膜色素上皮単層シート ) のヒト網膜下移植実施のニュースが報じられました (http://www.riken.jp/pr/topics/2015/20151002_1/) この 2014 年の臨床試験について 評価結果を記載する論文にはこちらからアクセスできます (https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/s2213-6711(13)00175-6) その後 2017 年には同じグループによる 他人の ips 細胞に由来する網膜細胞を懸濁した注射製剤を用いた移植手術の成功も続けて報じられました (http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170316_1/) また 今年 (2018 年 ) になり 同一グループから培養 ES 細胞による網膜再生についても報告が出ています (http://www.riken.jp/pr/press/2018/20180302_1/) 上記のような 患者由来の脱分化細胞から網膜細胞を誘導したのみならず これを立体的に培養しシート状とした上で患者に移植した臨床試験は 世界で初めてのケースとして当時話題となりました この理研グループの臨床試験以降 各国で立体的な網膜組織 / オルガノイドの作製例が報告されています ( 参考文献 1) また 以前から行われている胎児由来網膜前駆細胞や ES 細胞由来網膜色素上皮の移植による臨床試験はこれからも各国の企業主導で進展が見込まれます ( 参考文献 2) 今回 網膜の再生医療について 現状の技術動向を把握することを目的として 日米欧州での出願情報を収集し分析を試みました 1 分析の準備 : 1.1 検索式の策定とスクリーニング対象母集団の設定今回 検索には ( 株 ) 日立システムズによる SRPARTNER( 国内国外版 ) を使用しました 再生医療 網膜に関連するキーワード IPC を組み合わせ JP/US/EP/WO 特許を対象に検索を実施し 約 440 ファミリーからなる母集団

を取得しました 検索は 2018 年 6 月下旬に実施しました 1.2 分析対象母集団の設定前述の 1.1 で得られた 440 ファミリーの母集団を 目視による請求項の確認によりスクリーニングを実施しました 結果 分析対象として不要なノイズ出願を取り除き 142 ファミリーを分析対象としました また 分析の前処理としてこの 142 ファミリーの出願人名を目視により統制しました ( 最新の出願人情報を用いて 名寄せ作業を実行 ) 2 概要分析 142 ファミリーの公報について 書誌情報を用いて概要を分析しました 2.1 特許出願数と論文発表数の経緯今回抽出された出願 142 件を出願年ごとに集計しました ( 下記オレンジ線 ) あわせて pubmed で網膜再生関連の論文を簡易検索により収集し 発行年ごとに集計しました ( 下記青線 ) 図 1 特許出願数と論文発表数の経緯 論文の最先の発表は 1990 年となりました この論文はマウスの脳細胞の分化系 譜を追跡したものでした 論文は ES 細胞が発表された 2000 年ごろを境に発表

数が増えている傾向がよみとれます 一方 出願は 2003 年ごろから増加傾向が みてとれます 2013 年から 2014 年に論文発表数の急増が確認できますが 要因は不明です 2.2 出願人の国籍 SRPARNER では 各出願人名に拠点所在地を示す国籍コードが付与されます これを用いて国籍別の出願人数 出願件数を集計しました 国籍 参入出願人数 合計出願数 US 38 80 JP 15 45 GB 6 7 KR 5 6 AU 2 2 CH 2 7 CA 1 1 DE 1 1 ES 1 2 FI 1 1 IL 1 1 表 1 出願人の国籍別集計 米国からの参入が最も多く 合計出願件数も 80 件となり大きなプレゼンスを示しました 米国からは Scripps 研究所 Schepens 研究所 ( ハーバード大所属機関 ) カルフォルニア大により合計で 20 件を超える出願がなされており 米国の出願件数の多さに貢献しています 米国に続いて日本が多く 理研による 16 件の出願と理研と共同出願の多い住友 化学による 9 件の出願が件数に貢献しています ただし 近年網膜再生医療に積極的に参入するアステラス製薬による Advanced cell technology(us) を前身とする Ocata therapeutics(us) の買収経緯を加味し これらをアステラス製薬に集約した場合 アステラス社による出願が 12 件となり大きな存在となります

また 英国からの参入数が日本に続きました 英国から参入している 6 者の出願人には Reneuron LTD が含まれています 当社は現在米国で胎児由来の網膜色素上皮の移植による AMD 治療の臨床試験を進めています ( 参考文献 3) 英国に続いた韓国からは 5 者の参入が確認されました この中には hes 細胞由来の網膜色素上皮懸濁製剤の網膜下注射によるスターガット病 ドライ型 AMD の臨床試験を進める CHABIO & DIOSTECH CO LTD が含まれています ( 参考文献 3) 参考文献 1: Stem Cells International Volume 2017, Article ID 5682354, 14 pages Three-Dimensional Organoid System Transplantation Technologies in Future Treatment of Central Nervous System Diseases 参考文献 2: Stem Cell Reviews and Reports (2018) 14:463 483 Pluripotent Stem Cells for Retinal Tissue Engineering: Current Status and Future Prospects 参考文献 3: Eye (2018) 32:946 971 Cellular regeneration strategies for macular degeneration: past,present and future 2.3 出願人別の出願件数集計出願人ごとの出願件数を集計しました 下記に 2 件以上の出願を有している出願人を示します 出願人名 国籍 件数 RIKEN JP 16 SCRIPPS RESEARCH INST US 9 SUMITOMO CHEMICAL CO JP 9 ADVANCED CELL TECH INC US 8 SCHEPENS EYE RES INST US 8 UNIV CALIFORNIA US 7 HISTIDE AG CH 6 BRAINCELLS INC US 5 JANSSEN BIOTECH INC US 5 JAPAN SCIENCE & TECH AGENCY JP 4 NIPPON MENAADE KESHOHIN KK JP 3 OCATA THERAPEUTICS INC US 3 SUMITOMO DAINIPPON PHARMA CO LTD JP 3 RENEURON LTD GB 2 SNU R&DB FOUNDATION KR 2 STATE UNIVERSITY OF NEW YORK US 2 UNIV MIAMI US 2 UNIV SOUTHERN CALIFORNIA US 2

WISCONSIN ALUMNI RES FOUND US 2 表 2 主要出願人 ( 出願件数 2 件以上の出願人 ) 併せて 各出願人について出願日から出願年を集計しました 図 2 主要出願人 出願年の集計 下記に 上記分析の結果と主な主要出願について 公開情報をもとに調査した 出願人プロフィールを示します 主要出願人 緑字は 文献 3 から臨床試験の実施 が確認できた出願人 件数 出願人プロフィール 理研 ( および 共同出願人の住 友化学 住友大日本製薬 ) 16 2005 年頃から笹井芳樹氏 ( 故 ) による無血清浮遊培養による Wnt 経路阻害剤 Nodal 阻害剤を用いた hes 細胞からの網膜前駆細胞誘導に関する出願を有しており 現在では当初の笹井氏の研究成果が高橋政代氏のグループによる網膜色素上皮細胞シート関連技術や網膜細胞スフェロイド技術に引き継がれている 共同出願の多い住友化学 住友大日本製薬と併せてこの分野では世界的に最も大きな影響力を持つプレイヤーの一つと言える Scripps 研究所 9 上記 図 2 から 2008 年以降の出願活動が途絶えてい る

Advanced cell tech inc ( 現ア ステラス製薬グループ ) 8 図 2 から理研とほぼ同時の 2005 年頃の出願を有していることがわかる この分野の技術黎明期から現在に至るまで研究活動を維持していることがあきらか 2015 年に当社 ( 現 OCATA 社 ) を買収したアステラス製薬のこの分野での優位性がみてとれる Schepens 研究所 8 正式名称は Schepenes Eye Research institute of Massachusetts Eye and Ear で ハーバード大の付属研究機関 書誌情報を閲覧すると 8 件の出願は概ね CHEN DONG FENG 女氏が率いるグループ及び YOUNG MICHAEL J 氏に率いられるグループに大別される 出願内容は人工的なポリマーに網膜細胞を組み合わせた立体網膜組織や 幹細胞からの網膜細胞系譜誘導化合物に関連するもの UNIV. CALIFORNIA 7 眼組織再生用の移植用足場材料 ( ポリカプロラクトン系 /PEG 系 ) の他に 幹細胞からの網膜細胞系譜誘導化合物や 胎児由来の網膜前駆細胞などの出願を有す カリフォルニア大は本分析の主要出願人の中で最先の出願を有しており 最初の出願は 1998 年に遡る 当該出願は 眼組織再生用の PEG 系足場材料に関するもの 7 件のうち 3 件の出願で Klassen 氏または Yang 氏が発明者として関与している この 2 者は 現在米国で網膜色素変性症の胎児網膜前駆細胞移植治療を進める jcyte inc. のファウンダー ( 参考文献 2 および 3) HISTIDE 6 スイスの特許管理会社 6 件の出願内容は全て人工オリゴ ペプチドであって 幹細胞から神経系細胞の分化を誘導す る物質に関する BRAINCELLS 5 2003 年に設立された米国サンディエゴを拠点とするベンチャーで かつては大塚製薬 大正製薬などから抗精神薬等のリード化合物を導入していた実績がある 現在の活動は不明 出願内容はニューロン新生作用等のある化合物に関連する JANSSEN BIOTECH 5 近年の出願が特に活発化している 出願は全て臍帯や胎盤に由来する幹細胞を用いた網膜疾患治療に関するものである なお JANSSEN グループにより 2022 年の終了を予定する臍帯血幹細胞懸濁液を用いた網膜下への移植臨床試験が進行している ( 参考文献 3)

JST 4 光受容体細胞形成因子であるピカチュリン発見者の古川貴久氏 ( 大阪大 ) 現岡山大学所属で 過去に理研で体性組織幹細胞研究ユニット (2008 年終了 ) を主宰した小坂美津子氏による出願 Reneuron ltd 2 現在米国で胎児由来の網膜前駆細胞の移植臨床試験を進めている ( 前出 ) 出願はヒト幹細胞や網膜前駆細胞とその他添加物を含む注射製剤に関するもので 2008 年に出願され 各国で登録となっている SNU R&DB FOUNDATION 2 韓国 国立ソウル大学 キム ジ ヨン氏による出願で Wnt シグナル阻害剤や誘導因子カクテルによる網膜前駆細胞からの網膜細胞誘導方法に関する 2011 年以降出願途絶えている The Research Foundation of State University of New York 2 Zuber Michael 氏らによる出願で ES,iPS 細胞 表皮幹 細胞からの神経前駆 網膜細胞の分化誘導方法に関する 直近 2017 年の出願は 上記 ES,iPS 細胞をソースとする 分化誘導方法で Tbx3,PAX6 遺伝子産物を用いた方法 UNIV MIAMI 2 磁性化させた網膜幹細胞の投与による網膜疾患治療法に関する出願 ( 共同出願人の GOLDBERG JEFFREY 氏はスタンフォード大所属 ) および 神経由来幹細胞からの FGF,bFGF を用いた網膜前駆細胞の分化誘導方法に関する出願 UNIV SOUTHERN CALIFORNIA WISCONSIN ALUMNI RES FOUND 2 2 件とも網膜再生用の 移植用ポリマー片に関する出願 網膜色素上皮を播種したポリマーを 移植部位に留置し用いる 発明者の Humayun 氏は 失明者に視覚を提供する移植デバイス Argus II Retinal Prosthesis System の共同発明者で 米国で著名なファウンダー 投資家 発明家 参考 : http://www.secondsight.com/g-the-argus-iiprosthesis-system-pf-en.html 2 ips,es 細胞に由来する Chx-10 陽性網膜前駆細胞に関する出願 前編の分析はここまで より詳細なレベルの分析は 後編 へと続きます