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PwC s View 特集 : ERM( 全社的リスクマネジメント ) Vol. 12 January 2018 www.pwc.com/jp

特集 : E R M( 全社的リスクマネジメント ) 改訂版 COSO ERM フレームワークの解説 ~ 背景と改訂のポイント ~ PwC あらた有限責任監査法人 リスク デジタル アシュアランス部門シニアマネージャー和泉義夫 PwC コンサルティング合同会社 リスクコンサルティング シニアマネージャー西原隆 PwC あらた有限責任監査法人 リスク デジタル アシュアランス部門マネージャー中江郁子 はじめに 2017 年 9 月 6 日に米国 COSO(The Committee of Sponsoring Organization of the Treadway Commission: トレッドウェイ委員会支援組織委員会 ) から ERM(Enterprise Risk Management: 全社的リスクマネジメント ) フレームワークの改訂版が公表されました 2004 年にCOSOが ERMフレームワークを初めて公表してから 10 数年ぶりの改訂です そこで 本稿では 速報的に COSOが ERMフレームワークを改訂した背景や改訂の概要を俯瞰し解説します 1 COSO ERM フレームワーク改訂の概要 (1) そもそもERMとは何か? 今回の改訂版 ERMフレームワークでは ERMは 組織が価値を創造し 維持し 実現する過程においてリスクを管理するために依拠する 戦略策定ならびに実行と一体化したカルチャー 能力 実務 であると定義されています 旧 ERMフレームワークでは 事業体の取締役会 経営者 その他の組織内の全ての者によって遂行され 事業体の戦略策定に適用され 事業体全体にわたって適用され 事業目的の達成に関する合理的な保証を与えるために事業体に影響を及ぼす発生可能な事象を識別し 事業体のリスク選好に応じてリスクの管理が実施できるように設計された 一つのプロセス であると定義されていたことを考えると プロセス から カルチャー 能力 実務 へと大きく概念が拡大されました また リスクを管理する上では 1 組織のカルチャーを理解すること 2 能力を高めること 3 実務として適用すること 4 戦略策定とパフォーマンスを統合して活用すること 5 戦略やビジネス目標の達成を目的として行うこと 6 価値とひも付けて考えること が重要であるとされています これらの考え方の基調には ERMとは 企業経営者からみて 単なる 守り のための受け身で外圧的な仕組みではなく 攻める ための基礎を提供する能動的で自発的なものであり 組織体の経営そのものであるという考え方があると 筆者は考えています (2) 改訂の経緯今日の経営環境は 2004 年に旧 COSO ERMフレームワークが公表された当時と大きく異なり テクノロジーが進展し 企業規模がグローバル化しているなかで リスクが多様化 複雑化し 新しいリスクが発生しており 経営者や取締役会 ( 以下 経営者等 ) でリスクに関して議論する機会が増えています これに応えるような ERMフレームワークに 12 PwC s View Vol. 12. January 2018

特集 :E R M( 全社的リスクマネジメント ) したいというのが改訂の最大要因です 2004 年当時は 今日の経営環境と比べると経営者等のリスクに対する関心が高くなく また米国 SOX 法が要請する内部統制対応に奔走した時期でした そのため 旧 COSO ERMフレームワークはリスクマネジメントに関するグローバルスタンダードの一つとして大いに期待されたものの 必ずしも企業 特に経営者等への浸透 定着には至りませんでした この背景には ERMに関するさまざまな誤解があったからであるといわれています 具体的には 1 ERMは機能や部門である 2ERMとはリスクを一覧化することである 3 ERMとは内部統制を対象とすることである 4ERMはチェックリストである 5ERMは中小規模の組織には適用できない 等々の誤解を受けてしまったことが 経営者等から敬遠されてしまった要因の一つであるとされています COSOが 2013 年に 内部統制フレームワーク を 20 年ぶりに改訂しましたが この改訂を受けて 後続のプロジェクトとして 経営環境の変化や前述の誤解を解く趣旨も含めて今回の ERMフレームワーク について改訂が行われました COSOから委託を受けたPwCのプロジェクトチームが中心となって改訂作業を行い 2016 年 6 月に公開草案を公表し その後 パブリックコメントなどで寄せられた指摘を反映する形で今回 9 月に改訂版が公表されました (3) 改訂の対象旧 ERMフレームワークは大きく フレームワーク篇 と 適用技法篇 ( フレームワークの各構成要素を適用する際に有用な手法の図解を提供 ) の 2つから構成されていました このうち 今回の改訂はフレームワーク篇を対象として行われました (4) 改訂版の構成と入手方法改訂版は 1エグゼクティブサマリー ( 要約篇 ) 2 本文 3 付録 4FAQ( よくある質問 ) の4 部から構成されています このうち 1と4については COSOのウェブサイトから無償でダウンロード可能ですが 2と3についてはAICPA( 米国公認会計士協会 ) あるいは IIA( 内部監査人協会 ) のウェブサイトから有償 ( 最大 US$169) で購入可能となっています ご関心をお寄せいただける方は ぜひ入手 ご一読をお勧めします (5) 改訂版が想定する読者とは誰か? 今回の改訂に当たっては COSOが誰を一番のターゲットとして ERMフレームワークを作成したのかを理解することが重要であると考えます 前述のとおり 旧 ERMフレームワークはさまざまな誤解を受け 企業 特に経営者層にあまり浸透 定着しなかったことを教訓として 今回の改訂では経営 者等にまず理解と共感を得て 実務で活用できることを随所 で意識した内容となっていると 筆者は感じています 例え ば その表れの一つとして 経営者等に理解しやすいよう Plain English( 平易な英語 ) を心がけ 可能な限り平易な 言い回しを使用しています 最終版と公開草案とを比較す ると 公開草案公表後の改訂作業において 非常に多くの 時間が費やされ 表現の工夫がなされたことが垣間見えま す 2 COSO ERM フレームワークの主な改訂ポイント 今回の改訂作業ではさまざまな加筆 修正がなされてい ますが 以下では筆者が実務上大切であると考えるポイント を 3 つに絞って紹介します (1) リスク の定義の改訂 旧 ERM フレームワークにおいては リスクとは 目的達成 を阻害する影響を及ぼす事象が生じる可能性 である旨が 定義されており マイナスの影響を与える事象を リスク プラスの影響を与える事象を 事業機会 (opportunity) と 整理していました 一方 今回の改訂版では ERM フレームワークでは リス クとは 事業戦略およびビジネス目標の達成に影響を与える 不確実性 である旨が明示されており リスク と 事業機 会 をコインの表裏の関係のように区別するのではなく 両 者を併せて リスク として整理し直しています この変更により リスクマネジメントに関して 従前は マ イナスの事象に備える 守り のイメージ さらには管理部門 の仕事であると誤解される向きがありましたが 事業戦略や ビジネス目標にかかわる 攻め の部分もリスクマネジメント の対象であること すなわち経営者等の仕事そのものである ことが明確になっているものと考えられます (2) リスクを 戦略 や パフォーマンス と統合し 一体の ものであることを強調 戦略からパフォーマンスまでを一貫してリスクと統合して いることが 今回の改訂の一番のポイントであると筆者は受 け止めています 実際 今回のフレームワークのタイトルは Enterprise Risk Management Integrating with Strategy and Performance( 全社的リスクマネジメント 戦 略とパフォーマンスとの統合 ) となっており リスクは戦略 やパフォーマンスと一体のものであることが強調されていま す 改訂版では 戦略策定時や日常業務においてもリスクを 関連付けて意思決定を行うことが有意義であることや 目標 PwC s View Vol. 12. January 2018 13

特集 : E R M( 全社的リスクマネジメント ) とするパフォーマンスを達成するためにはどの程度のリスクがあるかを把握し そのうちどれだけリスクを取れるかを決定することが有効である旨が解説されています これらは伝統的な日本企業にとってあまり馴染みのない実務であるので 今後 経営者が検討すべき課題の一つとなると考えられます 今回のフレームワークで紹介されているリスクプロファイルの活用により これまで定量的に捕捉が困難であったパフォーマンスとリスク量の相関関係が見える化され ( リスクカーブ ) 事業戦略 目標に適合した取るべきリスク ( リスク選好 ) の設定が可能となります これにより 明確なパフォーマンスターゲットを設けた継続的で高度なリスク管理が実現し リスク選好 受け入れられるリスクの最大量 ( リスクキャパシティ ) の把握による適時 適格な撤退判断 および代替策の実行が可能となります つまり リスクが戦略における意思決定に非常に重要であり 一体化して管理されるべきであることが述べられています リスクプロファイルは何も目新しいリスク管理手法ではありませんが 今回のフレームワークにおいてはパフォーマンス量の変動に伴うリスク量をより明確に図示できるものに刷新されたのが特筆すべき変更です リスク量はパフォーマンスの向上により一方的に減少するという性質のものではなく ある一定値を超えると逆に増加の一途をたどる場合もあります 例えば ある企業が新商品を開発する過程において 新商品開発のための技術 リソース 設備 資材の確保をビジネスターゲット そして 商品の生産数をパフォーマンスとした場合 図表 1のように 商品開発が間に合わず 市場にリリースできないという事象がリスクカーブの最初の基点となります ( つまりリスクカーブの一番左側 ) ただ 市場の需要以上に商品供給をし 供給過多に陥った場合 リスク量は低下傾向から反転し増加の一途をたどります ( 在庫リスク 販売価格低下リスク ブランド価値の毀損など ) 図表 1: リスクプロファイルの事例 Business Target Risk Tolerance Target 新しいリスクプロファイルは このリスクとパフォーマンス の相関関係をより正確に理解し その上でリスク選好 リス クキャパシティを設定する事が可能となり 事業戦略の意思 決定により密接に寄与する事ができます (3)5 つの構成要素と 20 の原則 旧 ERM フレームワークにおいては ERM は 8 つの相互に 関連する構成要素 (1 内部環境 2 目的の設定 3 事象の 識別 4 リスクの評価 5 リスクへの対応 6 統制活動 7 情報と伝達 8 モニタリング ) からなるとされ 内部統制フ レームワークの COSO キューブ ( 立方体 ) にならった COSO ERM キューブとして図示されていました Performance Risk Curve Risk Capacity Risk Appetite COSO Enterprise Risk Management Integrating with Strategy and Performance 2017 9 PwC 一方 改訂版 ERM フレームワークにおいては 構成要素 自体が見直され 5 つの相互に関連する構成要素 (1 ガバナ ンスとカルチャー 2 戦略と目標設定 3 パフォーマンス ( 実行 ) 4 レビューと見直し 5 情報 伝達と報告 ) からなる 図表 2:COSO 改訂 ERM フレームワーク図 COSO Enterprise Risk Management Integrating with Strategy and Performance 2017 9 14 PwC s View Vol. 12. January 2018

特集 :E R M( 全社的リスクマネジメント ) とされ COSO ERMキューブによる図示は廃止されました リスク 戦略 パフォーマンスの関連性をより明確にするため 新たに図表 2のように図示されています 改訂 COSO 内部統制フレームワークと同様に どのような組織にもERMを導入しやすいよう 原則主義的アプローチを導入し 構成要素にひも付いた20の原則を設定し 実務上のポイントについて解説しています 3 おわりに 本稿では COSO ERMフレームワークの改訂の概要とポイントを解説しました 本特集の他の稿では経営トップによるERMの活用の可能性および実務上のポイントについて紹介します 和泉義夫 ( いずみよしお ) PwCあらた有限責任監査法人リスク デジタル アシュアランス部門シニアマネージャー東京証券取引所を経て PwCメンバーファーム ( 現 PwCあらた有限責任監査法人 ) に入所 現在 国内大手上場企業の海外子会社ガバナンス構築支援 リスクマネジメント高度化支援 海外子会社内部監査支援 内部監査の外部品質評価等に多数従事 COSO ERMフレームワーク (2004 年版 ) および 改訂 COSO 内部統制フレームワーク (2013 年版 ) 翻訳プロジェクトメンバー メールアドレス :yoshio.izumi@pwc.com 西原隆 ( にしはらたかし ) PwCコンサルティング合同会社リスクコンサルティングシニアマネージャー米国監査法人 (Big4) ニューヨーク本社にて 11 年勤務 ( 現地採用 ) 帰国後 PwCあらた監査法人を経て PwCコンサルティングへ転籍 総合商社 金融機関 ( 銀行 保険 ) コングロマリット 製造 小売 情報サービス業などの多国籍企業のリスクアセスメントや内部統制構築を日米両国にて支援 メールアドレス :takashi.nishihara@pwc.com 中江郁子 ( なかえいくこ ) PwCあらた有限責任監査法人リスク デジタル アシュアランス部門マネージャーあらた監査法人 ( 現 PwCあらた有限責任監査法人 ) に入所後 PricewaterhouseCoopers LLP(UK) に2 年間出向 2017 年 2 月に日本帰任 一般事業会社に対する全社的リスクマネジメントおよびコンプライアンスに関する助言業務に多数従事している メールアドレス :ikuko.nakae@pwc.com PwC s View Vol. 12. January 2018 15

PwCあらた有限責任監査法人 100-0004 東京都千代田区大手町 1-1-1 大手町パークビルディング Tel:03-6212-6800 Fax:03-6212-6801 PwC Japanグループは 日本におけるPwCグローバルネットワークのメンバーファームおよびそれらの関連会社 (PwCあらた有限責任監査法人 PwC 京都監査法人 PwCコンサルティング合同会社 PwCアドバイザリー合同会社 PwC 税理士法人 PwC 弁護士法人を含む ) の総称です 各法人は独立して事業を行い 相互に連携をとりながら 監査およびアシュアランス コンサルティング ディールアドバイザリー 税務 法務のサービスをクライアントに提供しています 2018 PricewaterhouseCoopers Aarata LLC. All rights reserved. PwC Japan Group represents the member firms of the PwC global network in Japan and their subsidiaries (including PricewaterhouseCoopers Aarata LLC, PricewaterhouseCoopers Kyoto, PwC Consulting LLC, PwC Advisory LLC, PwC Tax Japan, PwC Legal Japan). Each firm of PwC Japan Group operates as an independent corporate entity and collaborates with each other in providing its clients with auditing and assurance, consulting, deal advisory, tax and legal services.