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順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ),89~94 (2009) 89 報告 長期運動教室参加者における下肢筋力の経時的変化 東京都北区を事例として 門屋悠香 丸山裕司 Changes in strength of lower limb in the long-term exercise program participants: A case study of Kita City in Tokyo Haruka KADOYA and Yuji MARUYAMA. はじめに 現在, わが国では国民の約 3 人に 1 人が65 歳以上の高齢者という本格的な高齢社会の到来が見込まれている 4).2015 年には高齢化率が26.0,2050 年には35.7 に達するとされ, 東京都北区 ( 以下, 北区と記す ) においても例外ではない. 北区の高齢化率 ( 平成 20 年 1 月 1 日現在 ) は,23.7 と23 区の中で 2 番目の高さであり, 高齢化対策は重要課題である. このような背景において, 北区では平成 14 年度から 1 万人の転倒予防事業 が開始され, 中高年齢者を対象とした 筋力アップ体操教室 などがスタートした. 加えて平成 15 年 3 月には, 転倒予防を主眼とした さくら体操 ( 武井正子順天堂大学名誉教授監修 ) が考案され, 筋力アップ体操教室 を中心に区の体操として広く実施されるようになった. 筋力アップ体操教室 には, 開始以来 5 年以上が経過し, 現在も北区健康増進センターの運動指導員が14 会場で指導にあたっている. 高齢者の健康指標は, 疾病の罹患率や死亡率より 順天堂大学大学院医学研究科スポーツ医学 Department of Sports Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine 国際医療福祉大学理学療法学科 Department of Physical Therapy, International University of Health and Welfare も生活機能を重視し, 高齢者がいかに身体的, 精神的, 社会的に自立して生きがいのある生活を送ることができるかを評価している. 身の周りのことは自分でできるだけの体力を保持し, いきいきとした生活を送れることは誰もが望むことであり 7), 近年では生活の質を重視した健康寿命の延長が課題となっている 8). 高齢者における筋力低下は身体的 ADL の低下をもたらすため, 筋力低下を予防することが重要であり 1), 特に下肢筋力の機能低下は転倒リスクファクターの要因とされる 2). 転倒は高齢者の寝たきりの原因となるため 2), 高齢期において筋力の保持, 向上は介護の予防につながると考えられる. これまで, 中高年齢者を対象とした運動教室の効果については, 数多く報告されているが, 年単位という長期間にわたりかつ縦断的に調査した報告は少なく, 意義深いものと考える. そこで本研究では, 東京都北区で実施されている 筋力アップ体操教室 参加者の体力について,36ヶ月間の経時的変化を報告したい.. 目的東京都北区において実施されている, 筋力アップ体操教室 参加者における, 体力の経時的変化について報告する.

90 順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ) (2009). 方法. 対象対象は, 筋力アップ体操教室 ( 以下, 教室と記す ) 参加者のうち, 以下の 4 条件を全て満たす者とした. 初回参加より 3 年以上が経過している者 平均参加率が50 以上の者 初回,6 ヶ月後,12ヶ月後,24ヶ月後,36ヶ月後の体力測定を実施した者 36ヶ月後における体力測定時の年齢が60 歳以上の者該当者は254 名 ( 男性 16 名, 女性 238 名 ), 平均年齢は,72.4±5.6 歳であった.. 調査期間平成 14 年 5 月 ~ 平成 20 年 2 月とした.. 調査内容体力測定の内容は,30 秒間椅子立ち上がりと開眼片足立ちの 2 種目である.30 秒間椅子立ち上がりは, 30 秒の間に椅子座位姿勢から立ち上がって座る回数を測定した. 開眼片足立ちは, 開眼で行う片足立ちの持続時間を計測し, 最高 120 秒とした.. 教室内容教室は, 週に一度,1 回 60 分行った. 内容は, 筋力トレーニングを軸とした, 準備運動, 区の体操 ( さくら体操 ), 整理体操で構成されており, 運動指導員が指導を行った. 筋力トレーニングは, 下肢筋力の保持, 向上を目的に構成した. 座位で膝関節伸展 ( 大腿四頭筋 ), 座位で足関節背屈 ( 前脛骨筋 ), 立位で足関節 底屈 ( 下腿三頭筋 ), 座位からの立ち上がり ( 大腿四頭筋, 大腿二頭筋, 殿筋群 ) の 4 種目を毎回それぞれ10 回実施した. 教室参加にあたり, 参加者は 緊急時ならびに統計処理目的以外での使用はしない 旨を記載した申し込み用紙に, 氏名や年齢等を記載した. 教室は自由参加であり, 申し込みも随時受け付けている. 体力測定は各会場にて同時期に実施し, 実施頻度は 3 ヶ月に 1 回とした. 測定の際には, 事前に内容や注意事項の説明を行い, 測定の実施は自由とした.. 分析方法各継続期間測定値の平均値の差の検定には, 一元配置の分散分析を行い, その後多重比較検定を実施した. その際,30 秒間椅子立ち上がりには Tukey, 開眼片足立ちにはTamhane の T2 検定を実施した. 年齢と30 秒間椅子立ち上がりの相関には Pearson の相関係数, 開眼片足立ちとの相関には, Spearman の相関係数を用いた. 分析には,SPSS for Windows 15.0 を使用した.. 結果及び考察. 体力の経時的変化表 1 及び図 1, 2 に初回 ~36ヶ月後の体力測定の結果を示す.30 秒間椅子立ち上がりにおいては, 多くの期間との間に統計学的に有意な向上を示した ( 図 1). 開眼片脚立ちにおいては, 初回に対してその後の全ての期間との間に統計学的に有意な向上を示した ( 図 2). 秒間椅子立ち上がり 30 秒間椅子立ち上がりは, 下肢筋力を評価す 表 1 体力の経時的変化 n=254 F 値 First time 6 month 12 month 24 month 36 month 30 秒間椅子立ち上がり 51.191 19.5±4.9 21.5±4.9 22.5±4.6 24.0±5.3 25.1±5.2 開眼片足立ち 5.743 54.3±40.1 65.1±42.1 67.7±42.7 69.5±42.5 69.3±42.6 p<0.001 教室参加者の初回,6 ヶ月後,12 ヶ月後,24 ヵ月後,36 ヶ月後における 30 秒間椅子立ち上がりおよび開眼片足立ちの結果を示した.

順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ) (2009) 91 図 1 体力の経時的変化 30 秒間椅子立ち上がり 図 2 体力の経時的変化 開眼片足立ち る 5). 全期間を通して統計学的有意差がみられたことから, 下肢筋力は,36ヶ月以上の継続的な教室参加により, 維持または向上される可能性が示唆された. 下肢筋力は階段昇降などの ADL と直結する 5) ので, 自立した移動能力の確保という点で本教室の成果は大きいと思われる. 各々の期間をみると,6 ヶ月後 ~12ヶ月後ならびに24ヶ月後 ~36ヶ月後の間には有意差が認められない.6 ヶ月後 ~12ヶ月後については, その後の期間において統計的に有意な向上を示していることから, 特に指摘するべき問題点は見当たらない. 一方, 24ヶ月後 ~36ヶ月後については, 今後更に調査を進

92 順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ) (2009) めることによって, 本教室の位置付けに大きく関わってくるものと考える. 開始以来 5 年が経過しており,36ヶ月後以降の調査は今後の課題のひとつである. 開眼片足立ち開眼片足立ちは, 立位のバランス能力を評価する 3). 全ての期間において, 初回との間に統計学的 有意差を認めた. 初回に対し, 継続期間が長い方が, バランス能力向上の可能性がより期待できるが, 開眼片足立ちの最長時間は120 秒であり,120 秒の人数が継続期間の長さに伴い増加していることから, 各期間での平均値はさらに向上すると推察する. 各期間の120 秒の人数は, 初回 47 名 (18.5 ), 6 ヶ月後 68 名 (26.8 ),12ヶ月後 74 名 (29.1 ), 図 3 年齢との相関 30 秒間椅子立ち上がり 図 4 年齢との相関 開眼片足立ち

順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ) (2009) 93 24ヶ月後 81 名 (31.9 ),36ヶ月後 78 名 (30.7 ) となっている. 一般に高齢期はバランス能力が大きく低下するのが高齢者の体力の特徴であり, 高齢期に転倒の危険性が高まるのは疑いの余地がない. そのため開眼片足立ちの結果は保持されれば充分な効果であると考える. 本教室は, 集団指導かつ幅広い年齢層の自由参加という側面から, 安全性と簡便性を考慮している. その結果, 椅子を用いた座位中心の筋力トレーニングとなり, トレーニング内容が直接的な影響を及ぼす可能性は,30 秒間椅子立ち上がりと比較すると乏しい. 今回,2 つの測定項目において異なる傾向がみられたことは, その可能性を示唆したものであり, 転倒予防を背景とする本教室においてのトレー ニング内容を検討するための一助としたい.. 年齢と体力の相関初回と36ヶ月後における体力測定結果と年齢との相関を図 3, 図 4 に示す.30 秒間椅子立ち上がりの初回の相関係数は,r=-.161 (p<0.05), 36ヶ月後は r=-.135 (p<0.05) であった. 開眼片足立ちの初回の相関係数は,r=-.412 (p<0.001), 36ヶ月後は r=-.389 (p<0.001) であった. 一般に加齢に伴う体力の低下は周知の事実である 6). 横断的なデータではあるが, 初回も36ヶ月後も年齢が上がるにつれ記録が低下していくことが明らかとなった. また, どちらの測定においても, 初回と比較して 36ヶ月後の回帰直線が高い位置にあることがわかる. 初回から36ヶ月後の経時的変化については既に述べたが, この結果より, 幅広い年齢層において同 表 2 年齢階級別経時的変化 30 秒間椅子立ち上がり n=254 年齢階級 年齢 n F 値 回数 ( 回 ) First time 6 month 12 month 24 month 36 month 60~64 62.5±1.4 23 6.374 19.9±4.6 21.7±4.8 22.4±4.1 24.3±4.4 25.7±4.8 65~69 67.4±1.5 50 6.905 20.4±4.7 23.0±4.4 23.7±4.6 24.9±5.9 25.3±5.8 70~74 71.7±1.4 92 23.138 19.9±5.2 21.7±4.4 22.8±4.8 24.9±5.3 26.1±5.1 75~79 76.7±1.5 65 13.410 19.0±4.7 20.9±4.2 21.9±3.9 23.0±4.6 24.2±4.5 80 以上 82.4±3.1 24 4.616 17.0±4.2 19.4±4.6 20.4±5.3 21.6±5.5 22.9±5.7 36 ヶ月後における体力測定時の年齢 p<0.01 p<0.001 5 歳ごとの年齢に分類した, 教室参加者の初回,6 ヶ月後,12 ヶ月後,24 ヵ月後,36 ヶ月後における 30 秒間椅子立ち上がりの回数を示す. 表 3 年齢階級別経時的変化 開眼片足立ち n=254 年齢階級 年齢 n F 値 時間 ( 秒 ) First time 6 month 12 month 24 month 36 month 60~64 62.5±1.4 23 2.683 84.8±32.3 105.7±25.6 104.0±25.9 109.3±23.8 104.7±32.6 65~69 67.4±1.5 50.920 77.1±43.1 88.2±36.7 90.1±37.6 89.5±37.3 85.6±39.0 70~74 71.7±1.4 92 2.923 50.1±37.5 62.5±39.0 64.2±39.7 66.8±39.5 67.0±40.0 75~79 76.7±1.5 65 2.303 41.3±31.9 48.3±37.7 55.0±41.1 56.7±41.6 59.5±41.9 80 以上 82.4±3.1 24.166 29.1±31.0 34.0±36.7 33.8±36.2 34.4±32.9 37.0±34.6 36 ヶ月後における体力測定時の年齢 p<0.05 5 歳ごとの年齢に分類した, 教室参加者の初回,6 ヶ月後,12 ヶ月後,24 ヵ月後,36 ヶ月後における開眼片足立ちの秒数を示す.

94 順天堂スポーツ健康科学研究第 1 巻第 1 号 ( 通巻 13 号 ) (2009) 様の効果があることが推察できる. また, 対象者について,36ヶ月後の時点での年齢が60 歳以上としている点については, 今後検討を重ねる必要があると考える.. 年代別にみる体力の経時的変化対象を 5 歳毎の年齢階級別に分類した体力測定の結果を表 2, 3 に示した. 性別をはじめ, より細かい分析が課題であり, ここでは途中報告としたい. 30 秒間椅子立ち上がりにおいては, 初回の記録は 60~64 歳から75~79 歳まであまり変わらず, その後の変化の割合も同様である. 後期高齢期では, トレーナビリティは低いと考えられるが,30 秒間椅子立ち上がりにおいては異なる結果であった. 開眼片足立ちは, 初回の記録が年齢階級により大きく異なっており,75~79 歳は60~64 歳の階級の50 以下であった.30 秒間椅子立ち上がりと比較すると記録の改善は小さい. バランス能力は個人差が大きく, 年齢階級が上がるに伴い記録の低下は大きい.. まとめ本研究の結果から, 筋力アップ体操教室 長期参加者の下肢筋力とバランス能力は保持もしくは向上した. 特に下肢筋力の向上は大きく, バランス能力においても 6 ヶ月後には向上を認め, その後も効果は継続された. 週 1 回 60 分の教室において, 参加率が50 以上の参加者には充分な効果が長期間にわたり得られるこ とが示唆された. 今後は, 分析を重ねるとともに, ドロップアウトの事例や長期間の不参加を経験した事例についての検討や, 教室以外での参加者の運動実施状況の把握なども課題としたい. 引用文献 1) Bassey EJ (1998) Longitudinal changes in selected physicalcapabilities. Muscles strength exibility and body size. Age Ageing 27, 12 16. 2) 厚生省大臣官房統計情報部 (2000) 平成 10 年国民生活基礎調査 ( 全 4 巻 ) 第 2 巻. 財団法人厚生統計協会, 158 159. 3) 文部省 (2000) 新体力テスト. 初版, 東京, ぎょうせい,22 23. 4) 内閣府 (2003) 平成 15 年版高齢社会白書 2. 東京, ぎょうせい,52 53. 5) 中谷敏昭, 灘本雅一, 三村寛一, 廣藤千代子, 近藤純子, 鞘本佳代ほか (2003)30 秒椅子立ち上がりテスト (CS 30テスト) 成績の加齢変化と標準値の作成. 臨床スポーツ医学 20 (3), 349 355. 6) 佐藤造 (2002) 高齢者運動処方ガイドライン. 東京, 南江堂,1 13. 7) 武井正子 (2001) 老人福祉施設における運動指導. 体育の科学,51 (12), 926 929. 8) 辻一郎 (2004) のばそう健康寿命. 東京, 岩波書店,32. 平成 20 年 10 月 7 日 平成 21 年 2 月 6 日 受付 受理