Key words: 肩腱板損傷 / 肩関節周囲炎 / リハビリテーション / 疼痛誘発テスト / 超音波検査要旨Jpn J Rehil Med 2017;54:841-848 特集 運動器リハビリテーションに必須の評価法と活用法 û 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 The Useful Methods for the Evlution of Pinful Shoulder * 徹 * 木田圭重 * 久保俊一 Toru Morihr Yoshikzu Kid Toshikzu Kuo 肩関節疾患の治療法として, 注射やリハビリテーションによる保存療法が第一選択として挙 げられる. 代表的な肩関節周囲炎や肩腱板断裂では, 肩関節痛と可動域制限を認めることが多い. その鑑別として問診, 視診, 触診, 理学検査 ( 肩関節可動域 筋力 誘発テスト ) および超音波検査が挙げられる. 本稿では肩関節における代表的疾患を説明し, これらの疾患に対する評価の進め方について解説する. 代表的な肩関節疾患 1 肩関節周囲炎 : 器質的な損傷がなく, 肩関節痛と可動域制限を認める. 2 腱板断裂 : 外傷, 加齢変化に伴った腱の脆弱性によって腱板断裂が生じる. 肩関節痛, 可動域制限と筋力低下 ( 外転, 外旋, 内旋 ) を認める. 3 肩峰下インピンジメント症候群 : 器質的な損傷がなく, 肩関節屈曲, 外転時に肩の引っかかり感を伴った肩関節痛と可動域制限を認める. 4 頚椎症性神経症, 変形性頚椎症 : 頚椎レベルの神経根の圧迫によって, 頚部から肩外側に放散痛や持続痛を認める. 肩関節可動域制限はないことが多い. 5 肩関節不安定症 ( 前方, 後方, 下方 ), 肩関節前方脱臼 : 疼痛は少なく, 特定の肢位で肩関節の脱臼感, 不安定感を認める. 6 肩関節唇損傷 : 投球動作において上肢の負担が増強すると, 上腕骨大結節腱板付着部と関節唇との衝突が増加し, 肩関節の引っかかり感と疼痛を生じる. 7 変形性関節症 (OA), 関節リウマチ (RA): 肩関節の骨性変化によって, 関節窩と上腕骨頭の適合性が不良になる. 肩関節痛と可動域制限を認める. 問診時のポイント 肩関節の可動域制限 (ADL 制限 ) と肩関節痛が主訴となる. 具体的には, 腕が上がらない, 頭に手が届かない, 髪の毛をとかせない, 背中が掻けない, 荷物を持つと肩が痛い, 後ろに手をもっていくと肩が痛い, などの愁訴になることが多い. 表 ø に代表的疾患の典型的な疼痛を示す. 表 ø 以外では, 石灰 沈着性腱炎は急激に激烈な疼痛を, 胸郭出口症候 * 京都府立医科大学大学院運動器機能再生外科学 ( 602-0841 京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町 465) E-mil:toru4271@koto.kpu-m.c.jp 群や頚肩腕症候群ではしびれ感, 重だるさ, 疲労 感を認める. 神経麻痺による運動障害 ( 腋窩神経 麻痺, 肩甲上神経麻痺, 長胸神経麻痺, 副神経麻 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 841
徹 他 表 ø 代表的な肩関節疾患の典型的な疼痛 肩関節周囲炎 freezing 期 frozen 期 thwing 期 腱板断裂肩峰下インピンジメント症候群 関節唇損傷頸椎症不安定症 OA, RA 安静時痛, 夜間痛 なし なし なし 動作時痛 なし 常 正常 常 正常 図 ø 肩甲骨の位置異常 痺 ) も念頭に置く必要がある. 疼痛の種類 ( 安静時, 夜間, 動作時の疼痛の有無 ) を訊くことも重要である. 安静時, 夜間の疼痛が強ければ薬物療法の適応となる.( 非ステロイド性消炎鎮痛薬 : NSAID) を中心に内服と外用消炎鎮痛剤を処方する. 夜間痛のために不眠が生じる場合には睡眠導入剤を追加することもある. 視診のポイント 筋萎縮の有無, 左右の肩甲骨の位置異常を評価する. 具体的には, 肩関節周囲筋 ( 前方 : 三角筋, 大胸筋, 後方 : 僧帽筋, 棘下筋 ) の筋萎縮の有無を確認する ( 図 ø,ù). 神経麻痺 副神経麻痺 ( 僧帽筋 ), 肩甲上神経麻痺 ( 棘上筋, 棘下筋 ), 長胸神経麻痺 ( 前鋸筋 ), 腋窩神経麻痺 ( 三角筋 ) なのか筋の廃用 ( 腱板断裂, 肩関節痛による廃用 ) による筋萎縮なのかを区別することが重要である. 患者の前面だけでなく, 後ろ向きにして, 側弯などの脊柱変形による両肩甲帯の高さ異常, 肩関節拘縮による肩甲骨の位置異常を評価することが大切である ( 図 ø). 触診のポイント 疼痛部位, しびれを評価する. 疼痛部位として, 図 ù に代表的疾患の疼痛 ( 圧痛 ) 箇所を示す. 触 診時には, 圧痛部位の浅層と深層に何があるか ( 関 節, 骨, 腱, 筋肉 ) を考慮し, 圧痛だけでなく筋緊 張を評価することが重要である. 腱板断裂は, 断 裂のサイズや罹病期間により症状は画一的でなく, 二頭筋長頭腱炎や五十肩を合併していることもあ り, 疼痛部位は図に示した限りではない ø, ù). また, 頚椎由来のしびれはデルマトームに沿った障害神 経部位を特定する必要がある. 肩関節運動 可動域評価のポイント 患者に肩関節の自動運動を行わせ, どの肢位で 疼痛, 可動域制限が生じるかを確認する ( 図 ø). このとき肩甲胸郭関節運動に注目する. 肩甲骨運 動の主動作筋群である僧帽筋, 前鋸筋などの機能 を理解することが必要である ( 表 ù). 健常人の上 842 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017
4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 1 5 4 2 3 6 7 8 図 ù 圧痛部位 1 結節間溝 : 二頭筋長頭腱炎, 肩関節周囲炎 2 烏口突起 : 肩関節周囲炎 3 三角筋部 : 肩関節周囲炎 4 腱板疎部 : 腱板疎部損傷 5 棘上筋部 : 腱板断裂 6 僧帽筋上部線維 : 頸椎症, 肩関節周囲炎 7 棘下筋 : 腱板断裂, 肩関節周囲炎 8 小円筋 : 肩関節周囲炎 肢挙上時では, 鎖骨を含めた上腕骨と肩甲骨のスムーズな協調運動 ( 鎖骨肩甲上腕リズム ) が行われている ú, û) ( 図 ú). 肩甲上腕関節では三角筋が上方に, 腱板が上腕骨を内下方に牽引するため, 上腕骨はスムーズに回転 ( 肩関節外転 ) する. 腱板断裂を認めた患者では, 腱板による内下方への牽引力が低下し, 三角筋による上腕骨の上方化が優位になるため, 残存した腱板は肩峰とインピンジし, 疼痛を生じる ( 図 û). 肩峰下インピンジメントサインである Neer テスト ( 図 ü),hwkins テスト ( 図 ü) が陽性となる. 棘上筋, 棘下筋断裂では, 外転を保持することができず ( 図 ý), 疼痛を伴 う (pinful rc sign). 腱板損傷部位を特定するためには各筋力テストを行う ( 図 þ~ā). また, 肩甲下筋と棘上筋の間に滑走している上腕二頭筋長頭腱にも炎症が及ぶと結節間溝に圧痛を認め ( 図 ù 1), 誘発テストが陽性になる ( 図 ø ). 肩関節周囲炎や, 肩峰下インピンジメント症候群でも陽性になることがある. 以下に肩関節疾患に特徴的なテスト法を解説した. Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 843
徹 他 表 ù 肩甲骨運動の主動作筋 前 肩甲骨 挙上 下制 外転 内転 上方回旋 下方回旋 主動作筋 僧帽筋上部肩甲挙筋 僧帽筋下部 前鋸筋大胸筋小胸筋 僧帽筋中部大菱形筋小菱形筋 僧帽筋上部僧帽筋下部前鋸筋 肩甲挙筋大菱形筋小菱形筋小胸筋 断 図 ú 鎖骨肩甲上腕リズム上肢挙上に伴い, 鎖骨の挙上, 後退, 肩甲骨の上方回旋が生じる. 三角筋 腱板 三角筋 棘上筋 峰の下面にインピンジすることによる疼痛誘発テストである. ù)hwkins テスト ( 図 ü) 肩関節前挙 Ā で, 検者により他動的に肩関節を内旋させ疼痛をみる. 大結節が烏口肩峰靱帯の下にインピンジすることによる疼痛が誘発される. 正常 図 û 腱板断裂によって痛みと可動域制限を生じるメカニズム正常では, 腱板が内側に, 三角筋が上方に上腕骨を牽引するため, 上腕骨はスムーズに回転する ( 肩関節は挙上できる ). 腱板断裂では, 腱板による牽引力が低下し, 三角筋による上腕骨の上方化のみになる. 残存した腱板は肩峰と挟まり衝突し ( インピンジメント ), 痛みを生じる. 上腕骨も回転しないため, 肩関節は挙上できない. 疼痛誘発テスト ø. 肩峰下インピンジメント サイン ø)neer テスト ( 図 ü) 腱板断裂 肩甲骨を下方へ押し付け, 上腕骨を肩峰下面に 押し付けるように他動的に外転し,Ā からやや 上方で痛みを誘発するテストである. 大結節が肩 ù.pinful rc サイン 下垂位から自動挙上させる. さまざまな挙上面と回旋角度で試す必要がある. 一般的には外転 þ 付近で疼痛を自覚し,øù 付近で疼痛が消失する. ú. 上腕二頭筋長頭腱テスト ø)yergson テスト ( 図 ø ) 肩下垂位, 肘 Ā で被検者の手関節を持って抵抗下に回外させる. 回外時, 結節間溝部に疼痛を訴えれば陽性. 結節間溝は同肢位で肩内旋 ø ~ øü した際に前方正面に位置する. ù)speed テスト ( 図 ø ) 同様に, 上腕二頭筋長頭腱の評価法である. 肩 844 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017
4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 図 ü 肩峰下インピンジメント サイン ( 文献 û より引用 ) :Neer テスト,:Hwkins テスト. 図 ý drop rm サイン ( 文献 û より引用 ) 図 þ SSP テスト ( 文献 û より引用 ) :empty cn test,:full cn test. 下垂位, 肘伸展位, 前腕回外位とし, 被検者の前腕を押さえて抵抗下に屈曲させる. 屈曲に伴って, 結節間溝部に疼痛を訴えれば陽性とする. 筋力評価 筋萎縮の程度を視診する. 腱板の中でも棘下筋の筋萎縮は確認しやすい. 次に各筋力テストを施 行するが, 同時に疼痛の有無を評価する. 拘縮が ある場合は十分に評価できないこともある. 図 ÿ ISP テスト ( 文献 û より引用 ) ø.drop rm サイン ( 図 ý) 上肢を検者が他動的に持ち上げるように Ā 外 転させ上肢を離すと患者は挙上位を保持できずに 下垂する現象である. 下垂しなくても検者のわず かな抵抗下で下垂してしまうものも陽性とする (one finger resistnce test). 腱板断裂時に陽性と Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 845
徹 他 c 図 Ā 肩甲下筋テスト ( 文献 û より引用 ) :lift-off テスト,:er-hug テスト,c:elly-press テスト. 図 ø 上腕二頭筋長頭腱テスト ( 文献 û より引用 ) :Yergson テスト,:Speed テスト. なることが多い. ù. 棘上筋 (suprspintus:ssp) テスト 肩関節外転 ú で内旋位を保ち, 肩甲面上で挙上させる. その際, 検者は抵抗運動を加えて疼痛と筋力を評価する (empty cn test)( 図 þ).full cn test は外旋位 ( 中間位 ) で評価する ( 図 þ). 外転 øü~ù (initil duction テスト ), 外転 Ā, 屈曲 Ā で同様の評価を行う ( 前述の Speed test と区別する ). ú. 棘下筋 (infrspintus:isp) テスト ( 図 ÿ) 肩下垂位で肘を Ā 屈曲し, 肩関節外旋させ評価する. û. 肩甲下筋テスト ø)lift-off テスト ( 図 Ā) 患側手を背部 ( 腰 ) に回した姿勢から, 被検者の前腕を押さえ, そこから後方へ押し出させ評価する. 肩甲下筋の評価に使用するが, 腰に回すだけで疼痛を有する症例に対しては実用的でなく, 次 の ù つが用いられる. 846 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017
4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 上腕二頭筋長頭腱. を めて, をやや内側に げたにする.. 大結節と小結節の間 ( 結節間溝 ) に ー を てると, 間に 円形のとして れる.. の ら ー を下方に 動 の 認を, 上方ではの 認をする. 常 肩甲下筋腱は小結節に eriursl ft 肩甲下筋腱. 上腕二頭筋長頭腱 ら小結節が 中 に るよ に ー を 動 る. 小結節 1 eriursl ft の 化や に注 2 烏口下 ( 肩甲下筋腱前方に る ) の の を 認. 腕を外旋 ると肩甲下筋腱が れる. 図 øø 短軸走査 : 上腕二頭筋長頭腱,: 肩甲下筋腱. ù)er-hug テスト ( 図 Ā) 患肢で健側肩を後方に押し込む際の筋力を評価する. ú)elly-press テスト ( 図 Āc) 患肢でお腹を後方に押し込む際の筋力を評価する. 超音波検査における筋腱評価 超音波装置は, 外来診察時に肩関節における静的, 動的評価が可能であり, 病態評価に有用である. 肩関節前方から短軸走査によって上腕二頭筋長頭腱の滑走, 水腫などの病変の有無を評価する ( 図 øø). 内側の肩甲下筋腱の付着部である小結節を描出し, 損傷程度を評価する. 前方肩関節痛の原因として, 上腕二頭筋長頭腱と肩甲下筋腱損傷によることが多い. 次にプローブを上方に進め, 長軸走査で棘上筋, 棘下筋の大結節付着部を観察し, 腱板の損傷の有無を評価する ( 図 øù). 腱板損傷は肩関節インピンジメント, 筋力低下, および肩関節痛の原因となることがある. まとめ 肩関節痛を生じる疾患に対する評価法として, 問診, 視診, 触診, 理学検査 ( 肩関節可動域 筋 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 847
徹 他 図 øù 長軸走査 : 棘上筋腱と棘下筋腱 力 誘発テスト ) および超音波検査は重要である. 文献 ø) Itoi, E, Mingw H,Seki N, Ae H:Are pin loction nd physicl exmintions useful in locting ter site of the rottor cuff? Am J Sports Med ù ü; úû:ùüý-ùýû ù) 山本敦史, 高岸憲二, 鈴木秀喜, 小林勉, 設楽仁, 篠崎哲也 : 腱板断裂の理学所見による断裂形態の判別. 肩関節 ù þ;úø:úýø-úýû ú) 徹, 立入久和, 久保俊一 : 腱板断裂.Monthly Book Orthopedics ù ø ;ú:úø-úā û) 徹, 立入久和, 久保俊一 : 肩関節疾.Monthly Book Medicl Rehilittion ù øø;øú :øā-ùÿ 848 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017