Key words: 肩腱板損傷 / 肩関節周囲炎 / リハビリテーション / 疼痛誘発テスト / 超音波検査要旨Jpn J Rehabil Med 2017;54: 特集 運動器リハビリテーションに必須の評価法と活用法 û 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 The

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膝関節鏡

背部弾発性繊維種肩甲骨の下部で広背筋と前鋸筋の間に生じる良性腫瘍 90% は片側性で女性に多い 中年以降に運動に伴う弾発や疼痛を伴うことがある 第一肋骨疲労骨折 斜角筋 前鋸筋の収縮が原因と考えられる 側頸部から肩甲部 上背部に疼痛を生じる 肩甲上神経障害バレーボールやテニスなどのスポーツで肩を振り

症例報告 関西理学 16: , 2016 肘関節屈曲を伴う肩関節屈曲運動が有効であった右肩腱板広範囲断裂の一症例 鈴木宏宜 長﨑進 1) 1) 三浦雄一郎 上村拓矢 1) 1) 福島秀晃 森原徹 2) 1) Approach for facilitation of middle tra

JAHS vol8(1)006

かかわらず 軟骨組織や関節包が烏口突起と鎖骨の間に存在したものを烏口鎖骨関節と定義する それらの出現頻度は0.04~30.0% とされ 研究手法によりその頻度には相違がみられる しかしながら 我々は骨の肥厚や軟骨組織が存在しないにも関わらず 烏口突起と鎖骨の間に烏口鎖骨靭帯と筋膜で囲まれた小さな空隙

図 1-2 上腕骨の骨形態 a: 右上腕骨を上方からみたところ. b: 右上腕骨を外側よりみたところ. 上腕骨近位外側には大結節ならびに小結節という骨隆起が存在し, 結節間溝によって分けられる. 大結節は, その向きによって上面, 中面, 下面とよばれる 3 面に分けられる. く, 不安定である.

症例報告 関西理学 11: , 2011 肩関節屈曲動作時に painful arc sign を認める 棘上筋不全断裂の一症例 棘下筋の機能に着目して 江藤寿明 1) 福島秀晃 1) 三浦雄一郎 1) 森原徹 2) A Case of an Incomplete Supraspina

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目 次 第 1 章肩の解剖学 1 第 1 節総論... 1 第 2 節肩の骨格... 2 第 3 節肩に関連する筋の解剖学 第 1 項肩甲骨 鎖骨に関連する筋 第 2 項肩関節に関連する筋 第 3 項肘関節に関連する筋 第 4 項体幹に関連する筋...

原著論文 肩関節屈曲による交互滑車運動器使用時における肩甲骨の動きからみた肩甲上腕リズムの検討 寒川貴雄 (RPT) 1) 成末友祐 (RPT) 2) 新枝誠人 (RPT) 1) 原田貴志 (RPT) 1) 澤近知代 (RPT) 3) Key Word 交互滑車運動器 肩関節屈曲 肩甲骨の動き 肩甲

10035 I-O1-6 一般 1 体外衝撃波 2 月 8 日 ( 金 ) 09:00 ~ 09:49 第 2 会場 I-M1-7 主題 1 基礎 (fresh cadaver を用いた肘関節の教育と研究 ) 2 月 8 日 ( 金 ) 9:00 ~ 10:12 第 1 会場 10037

46 図L 受傷時の肩関節の外観 肩甲上腕関節部に陥凹がみられる 矢印 a b C 図2 受傷時の単純X線像 a 正面像 肩甲上腕関節裂隙の開大 vacant glenoid sign 上腕骨頭の内旋 light bulb 肩甲骨 前縁と上腕骨頭距離の開大 rim sign がみられた b 軸写像

358 理学療法科学第 23 巻 3 号 I. はじめに今回は, 特にスポーツ外傷 障害の多い肩関節と膝関節について, 各疾患の診断を行ううえで重要な整形外科徒手検査法と徴候を中心に述べるので, 疾患については特に説明を加えないので, 成書を参照すること 1. 非外傷性肩関節不安定症 1 sulcu

6 腰椎用エクササイズパッケージ a. スポーツ選手の筋々膜性腰痛症 ワイパー運動 ワイパー運動 では 股関節の内外旋を繰り返すことにより 大腿骨頭の前後方向への可動範囲を拡大します 1. 基本姿勢から両下肢を伸展します 2. 踵を支店に 両股関節の内旋 外旋を繰り返します 3. 大腿骨頭の前後の移

7: , 2007 Changes in Separation Distances of Scapular Region Muscles before and after Shoulder Joint Flexion and Abduction Yuji HOTTA, RPT 1),

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TheShoulderJoint,2005;Vol.29,No.3: はじめに a 転位骨片を伴う関節窩骨折に対しては直視下に整復, 内固定を施行した報告が多いが, 鏡視下での整復固定の報告は比較的稀である. 今回我々は転位骨片を伴う関節窩骨折に腋窩神経麻痺を合併した1 例に対し,

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ピッチング ( 投球 ) のバイオメカニクス ピッチングに関連する傷害は オーバーユースに起因していると考えられています 1 オーバーユースに伴う筋肉疲労により 運動で発生したエネルギー ( 負荷 ) を吸収する能力が低下します 2 つまり本来吸収されるべきエネルギーは 関節や他の軟部組織 ( 筋肉

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(4) 最小侵襲の手術手技である関節鏡視下手術の技術を活かし 加齢に伴う変性疾患に も対応 前述したようにスポーツ整形外科のスタッフは 日頃より関節鏡手技のトレーニングを積み重ねおります その為 スポーツ外傷 障害以外でも鏡視下手術の適応になる疾患 ( 加齢変性に伴う膝の半月板損傷や肩の腱板断裂など

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理学療法科学 25(4): ,2010 原著 凍結肩に対する肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の試み A Clinical Anatomical Physical Therapy Approach for Frozen Shoulder Joint Patients 大槻桂右 1,2)

年 齢 性 別 罹患 (M) 以前の治療 過去 治療 痛み肩関節治療 1 結果 1 治療 2 結果 2 判 定 治療 回数 72 F 年前からあらゆる治療で 両後頚 背部 両肩挙上 bilc7 両肩挙上 F 年前から両肩こりと 挙上痛 注で痛みとれ ず 両

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2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

関節リウマチ関節症関節炎 ( 肘機能スコア参考 参照 ) カルテNo. I. 疼痛 (3 ) 患者名 : 男女 歳 疾患名 ( 右左 ) 3 25 合併症 : 軽度 2 術 名 : 中等度 高度 手術年月日 年 月 日 利き手 : 右左 II. 機能 (2 ) [A]+[B] 日常作に

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2 このなかでも 運動機能不全が最初に起き るということでしょうか? 投球動作が繰り返されることによっ て 肩関節あるいは全身的な機能低下が生 じてきますよね それにプラスして 硬さ あるいは不安定性が加味されてくるのだと 思います つまり 繰り返される動作によ って 機能不全だけではなく 肩の中で

2012 年度リハビリテーション科勉強会 4/5 ACL 術後 症例検討 高田 5/10 肩関節前方脱臼 症例検討 梅本 5/17 右鼠径部痛症候群 右足関節不安定症 左変形性膝関節症 症例検討 北田 月田 新井 6/7 第 47 回日本理学療法学術大会 運動器シンポジウム投球動作からみ肩関節機能

靭帯付 関節モデル ( 全 PVC 製 ) AS-6~AS-12 骨格の靭帯部分を 個別関節モデルとしてお買い求め頂けます 弊社カタログでは多くの選択肢の提案に努めています ご希望に合わせてお選び下さい ( 経済型関節モデル靭帯付 AJ-1~7 も良品です )

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椎間板の一部が突出した状態が椎間板ヘルニアです 腰痛やあしに痛みがあります あしのしびれやまひがある場合 要注意です 対応 : 激しい運動を控えましょう 痛みが持続するようであれば 整形外科専門医を受診して 検査を受けましょう * 終板障害 成長期では ヘルニアとともに骨の一部も突出し ヘルニア同様

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0. はじめに 当院でこれまで行ってきたメディカルチェックでは 野球選手のケガに対するアンケート調査も行 ってきました (P.4 表 1 参照 ) アンケート調査で 肘 ( ひじ ) の痛みを訴えていた選手は 高校生で 86.7% 小学生で 41.1% でした また 小学生に対しては 超音波 ( エ

GM アフ タ クター & アタ クター どの年代でも目的に合わせたトレーニングができる機器です 油圧式で負荷を安全に調節できます 中殿筋と内転筋を正確に鍛えることで 骨盤が安定し 立位や歩行時のバランス筋力を向上させます 強化される動き 骨盤 膝の安定性 トリフ ル エクステンサー ニー エクステ

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氏名 ( 本籍 ) 中 川 達雄 ( 大阪府 ) 学位の種類 博士 ( 人間科学 ) 学位記番号 博甲第 54 号 学位授与年月日 平成 30 年 3 月 21 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題目 股関節マイクロ牽引が腰下肢部柔軟性に及ぼす影響 - 身体機能および腰痛

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5. アルコールはひかえめに アルコールを代謝するときに尿酸が作られます とくにビールはプリン体を含むだけでなく 高エネルギーであるため肥満の助長効果もあります 6. 水分を十分にとる 尿量が増えると尿酸の排泄も増えます 高尿酸血症では 1 日に 2L 程度の尿量を確保するため 1 日に 1L 程度

イ業務量が 1 か月の平均又は 1 日の平均では通常の日常の範囲内であつても 1 日の業務量が一定せず 例えば次の ( ア ) 又は ( イ ) に該当するような状態が発症直前に 3 か月程度継続しているような場合をいうものであること ( ア ) 通常の 1 日の業務量のおおむね 20% 以上業務量

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5. 予後病状は数十年にわたり徐々に進行し 広範囲の激しい疼痛に加え 脊椎や四肢関節の運動制限により日常生活動作は著しく制限されるようになる 約 1/3 の患者が全脊椎の強直 ( 竹様脊椎.bamboo spine.1 本の棒のようになる ) に進展する 併発する臓器病変や長期の薬物治療の影響も加わ

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syndrome と呼んだ 4) 典型的な神経所見から診断が比較的容易な症例もあるが 軽症例から重症例まで神経所見は多彩であり 臨床症状からだけでは診断に苦慮する症例も少なくない 3) 親指から薬指半分までの手のひらのシビレや痛みで特に夜間や手を使用した後に悪化する しびれは手を振ると改善するようで

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Key words: 肩腱板損傷 / 肩関節周囲炎 / リハビリテーション / 疼痛誘発テスト / 超音波検査要旨Jpn J Rehil Med 2017;54:841-848 特集 運動器リハビリテーションに必須の評価法と活用法 û 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 The Useful Methods for the Evlution of Pinful Shoulder * 徹 * 木田圭重 * 久保俊一 Toru Morihr Yoshikzu Kid Toshikzu Kuo 肩関節疾患の治療法として, 注射やリハビリテーションによる保存療法が第一選択として挙 げられる. 代表的な肩関節周囲炎や肩腱板断裂では, 肩関節痛と可動域制限を認めることが多い. その鑑別として問診, 視診, 触診, 理学検査 ( 肩関節可動域 筋力 誘発テスト ) および超音波検査が挙げられる. 本稿では肩関節における代表的疾患を説明し, これらの疾患に対する評価の進め方について解説する. 代表的な肩関節疾患 1 肩関節周囲炎 : 器質的な損傷がなく, 肩関節痛と可動域制限を認める. 2 腱板断裂 : 外傷, 加齢変化に伴った腱の脆弱性によって腱板断裂が生じる. 肩関節痛, 可動域制限と筋力低下 ( 外転, 外旋, 内旋 ) を認める. 3 肩峰下インピンジメント症候群 : 器質的な損傷がなく, 肩関節屈曲, 外転時に肩の引っかかり感を伴った肩関節痛と可動域制限を認める. 4 頚椎症性神経症, 変形性頚椎症 : 頚椎レベルの神経根の圧迫によって, 頚部から肩外側に放散痛や持続痛を認める. 肩関節可動域制限はないことが多い. 5 肩関節不安定症 ( 前方, 後方, 下方 ), 肩関節前方脱臼 : 疼痛は少なく, 特定の肢位で肩関節の脱臼感, 不安定感を認める. 6 肩関節唇損傷 : 投球動作において上肢の負担が増強すると, 上腕骨大結節腱板付着部と関節唇との衝突が増加し, 肩関節の引っかかり感と疼痛を生じる. 7 変形性関節症 (OA), 関節リウマチ (RA): 肩関節の骨性変化によって, 関節窩と上腕骨頭の適合性が不良になる. 肩関節痛と可動域制限を認める. 問診時のポイント 肩関節の可動域制限 (ADL 制限 ) と肩関節痛が主訴となる. 具体的には, 腕が上がらない, 頭に手が届かない, 髪の毛をとかせない, 背中が掻けない, 荷物を持つと肩が痛い, 後ろに手をもっていくと肩が痛い, などの愁訴になることが多い. 表 ø に代表的疾患の典型的な疼痛を示す. 表 ø 以外では, 石灰 沈着性腱炎は急激に激烈な疼痛を, 胸郭出口症候 * 京都府立医科大学大学院運動器機能再生外科学 ( 602-0841 京都府京都市上京区河原町通広小路上る梶井町 465) E-mil:toru4271@koto.kpu-m.c.jp 群や頚肩腕症候群ではしびれ感, 重だるさ, 疲労 感を認める. 神経麻痺による運動障害 ( 腋窩神経 麻痺, 肩甲上神経麻痺, 長胸神経麻痺, 副神経麻 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 841

徹 他 表 ø 代表的な肩関節疾患の典型的な疼痛 肩関節周囲炎 freezing 期 frozen 期 thwing 期 腱板断裂肩峰下インピンジメント症候群 関節唇損傷頸椎症不安定症 OA, RA 安静時痛, 夜間痛 なし なし なし 動作時痛 なし 常 正常 常 正常 図 ø 肩甲骨の位置異常 痺 ) も念頭に置く必要がある. 疼痛の種類 ( 安静時, 夜間, 動作時の疼痛の有無 ) を訊くことも重要である. 安静時, 夜間の疼痛が強ければ薬物療法の適応となる.( 非ステロイド性消炎鎮痛薬 : NSAID) を中心に内服と外用消炎鎮痛剤を処方する. 夜間痛のために不眠が生じる場合には睡眠導入剤を追加することもある. 視診のポイント 筋萎縮の有無, 左右の肩甲骨の位置異常を評価する. 具体的には, 肩関節周囲筋 ( 前方 : 三角筋, 大胸筋, 後方 : 僧帽筋, 棘下筋 ) の筋萎縮の有無を確認する ( 図 ø,ù). 神経麻痺 副神経麻痺 ( 僧帽筋 ), 肩甲上神経麻痺 ( 棘上筋, 棘下筋 ), 長胸神経麻痺 ( 前鋸筋 ), 腋窩神経麻痺 ( 三角筋 ) なのか筋の廃用 ( 腱板断裂, 肩関節痛による廃用 ) による筋萎縮なのかを区別することが重要である. 患者の前面だけでなく, 後ろ向きにして, 側弯などの脊柱変形による両肩甲帯の高さ異常, 肩関節拘縮による肩甲骨の位置異常を評価することが大切である ( 図 ø). 触診のポイント 疼痛部位, しびれを評価する. 疼痛部位として, 図 ù に代表的疾患の疼痛 ( 圧痛 ) 箇所を示す. 触 診時には, 圧痛部位の浅層と深層に何があるか ( 関 節, 骨, 腱, 筋肉 ) を考慮し, 圧痛だけでなく筋緊 張を評価することが重要である. 腱板断裂は, 断 裂のサイズや罹病期間により症状は画一的でなく, 二頭筋長頭腱炎や五十肩を合併していることもあ り, 疼痛部位は図に示した限りではない ø, ù). また, 頚椎由来のしびれはデルマトームに沿った障害神 経部位を特定する必要がある. 肩関節運動 可動域評価のポイント 患者に肩関節の自動運動を行わせ, どの肢位で 疼痛, 可動域制限が生じるかを確認する ( 図 ø). このとき肩甲胸郭関節運動に注目する. 肩甲骨運 動の主動作筋群である僧帽筋, 前鋸筋などの機能 を理解することが必要である ( 表 ù). 健常人の上 842 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017

4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 1 5 4 2 3 6 7 8 図 ù 圧痛部位 1 結節間溝 : 二頭筋長頭腱炎, 肩関節周囲炎 2 烏口突起 : 肩関節周囲炎 3 三角筋部 : 肩関節周囲炎 4 腱板疎部 : 腱板疎部損傷 5 棘上筋部 : 腱板断裂 6 僧帽筋上部線維 : 頸椎症, 肩関節周囲炎 7 棘下筋 : 腱板断裂, 肩関節周囲炎 8 小円筋 : 肩関節周囲炎 肢挙上時では, 鎖骨を含めた上腕骨と肩甲骨のスムーズな協調運動 ( 鎖骨肩甲上腕リズム ) が行われている ú, û) ( 図 ú). 肩甲上腕関節では三角筋が上方に, 腱板が上腕骨を内下方に牽引するため, 上腕骨はスムーズに回転 ( 肩関節外転 ) する. 腱板断裂を認めた患者では, 腱板による内下方への牽引力が低下し, 三角筋による上腕骨の上方化が優位になるため, 残存した腱板は肩峰とインピンジし, 疼痛を生じる ( 図 û). 肩峰下インピンジメントサインである Neer テスト ( 図 ü),hwkins テスト ( 図 ü) が陽性となる. 棘上筋, 棘下筋断裂では, 外転を保持することができず ( 図 ý), 疼痛を伴 う (pinful rc sign). 腱板損傷部位を特定するためには各筋力テストを行う ( 図 þ~ā). また, 肩甲下筋と棘上筋の間に滑走している上腕二頭筋長頭腱にも炎症が及ぶと結節間溝に圧痛を認め ( 図 ù 1), 誘発テストが陽性になる ( 図 ø ). 肩関節周囲炎や, 肩峰下インピンジメント症候群でも陽性になることがある. 以下に肩関節疾患に特徴的なテスト法を解説した. Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 843

徹 他 表 ù 肩甲骨運動の主動作筋 前 肩甲骨 挙上 下制 外転 内転 上方回旋 下方回旋 主動作筋 僧帽筋上部肩甲挙筋 僧帽筋下部 前鋸筋大胸筋小胸筋 僧帽筋中部大菱形筋小菱形筋 僧帽筋上部僧帽筋下部前鋸筋 肩甲挙筋大菱形筋小菱形筋小胸筋 断 図 ú 鎖骨肩甲上腕リズム上肢挙上に伴い, 鎖骨の挙上, 後退, 肩甲骨の上方回旋が生じる. 三角筋 腱板 三角筋 棘上筋 峰の下面にインピンジすることによる疼痛誘発テストである. ù)hwkins テスト ( 図 ü) 肩関節前挙 Ā で, 検者により他動的に肩関節を内旋させ疼痛をみる. 大結節が烏口肩峰靱帯の下にインピンジすることによる疼痛が誘発される. 正常 図 û 腱板断裂によって痛みと可動域制限を生じるメカニズム正常では, 腱板が内側に, 三角筋が上方に上腕骨を牽引するため, 上腕骨はスムーズに回転する ( 肩関節は挙上できる ). 腱板断裂では, 腱板による牽引力が低下し, 三角筋による上腕骨の上方化のみになる. 残存した腱板は肩峰と挟まり衝突し ( インピンジメント ), 痛みを生じる. 上腕骨も回転しないため, 肩関節は挙上できない. 疼痛誘発テスト ø. 肩峰下インピンジメント サイン ø)neer テスト ( 図 ü) 腱板断裂 肩甲骨を下方へ押し付け, 上腕骨を肩峰下面に 押し付けるように他動的に外転し,Ā からやや 上方で痛みを誘発するテストである. 大結節が肩 ù.pinful rc サイン 下垂位から自動挙上させる. さまざまな挙上面と回旋角度で試す必要がある. 一般的には外転 þ 付近で疼痛を自覚し,øù 付近で疼痛が消失する. ú. 上腕二頭筋長頭腱テスト ø)yergson テスト ( 図 ø ) 肩下垂位, 肘 Ā で被検者の手関節を持って抵抗下に回外させる. 回外時, 結節間溝部に疼痛を訴えれば陽性. 結節間溝は同肢位で肩内旋 ø ~ øü した際に前方正面に位置する. ù)speed テスト ( 図 ø ) 同様に, 上腕二頭筋長頭腱の評価法である. 肩 844 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017

4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 図 ü 肩峰下インピンジメント サイン ( 文献 û より引用 ) :Neer テスト,:Hwkins テスト. 図 ý drop rm サイン ( 文献 û より引用 ) 図 þ SSP テスト ( 文献 û より引用 ) :empty cn test,:full cn test. 下垂位, 肘伸展位, 前腕回外位とし, 被検者の前腕を押さえて抵抗下に屈曲させる. 屈曲に伴って, 結節間溝部に疼痛を訴えれば陽性とする. 筋力評価 筋萎縮の程度を視診する. 腱板の中でも棘下筋の筋萎縮は確認しやすい. 次に各筋力テストを施 行するが, 同時に疼痛の有無を評価する. 拘縮が ある場合は十分に評価できないこともある. 図 ÿ ISP テスト ( 文献 û より引用 ) ø.drop rm サイン ( 図 ý) 上肢を検者が他動的に持ち上げるように Ā 外 転させ上肢を離すと患者は挙上位を保持できずに 下垂する現象である. 下垂しなくても検者のわず かな抵抗下で下垂してしまうものも陽性とする (one finger resistnce test). 腱板断裂時に陽性と Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 845

徹 他 c 図 Ā 肩甲下筋テスト ( 文献 û より引用 ) :lift-off テスト,:er-hug テスト,c:elly-press テスト. 図 ø 上腕二頭筋長頭腱テスト ( 文献 û より引用 ) :Yergson テスト,:Speed テスト. なることが多い. ù. 棘上筋 (suprspintus:ssp) テスト 肩関節外転 ú で内旋位を保ち, 肩甲面上で挙上させる. その際, 検者は抵抗運動を加えて疼痛と筋力を評価する (empty cn test)( 図 þ).full cn test は外旋位 ( 中間位 ) で評価する ( 図 þ). 外転 øü~ù (initil duction テスト ), 外転 Ā, 屈曲 Ā で同様の評価を行う ( 前述の Speed test と区別する ). ú. 棘下筋 (infrspintus:isp) テスト ( 図 ÿ) 肩下垂位で肘を Ā 屈曲し, 肩関節外旋させ評価する. û. 肩甲下筋テスト ø)lift-off テスト ( 図 Ā) 患側手を背部 ( 腰 ) に回した姿勢から, 被検者の前腕を押さえ, そこから後方へ押し出させ評価する. 肩甲下筋の評価に使用するが, 腰に回すだけで疼痛を有する症例に対しては実用的でなく, 次 の ù つが用いられる. 846 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017

4 肩関節痛のリハビリテーションに必須な評価法と活用法 上腕二頭筋長頭腱. を めて, をやや内側に げたにする.. 大結節と小結節の間 ( 結節間溝 ) に ー を てると, 間に 円形のとして れる.. の ら ー を下方に 動 の 認を, 上方ではの 認をする. 常 肩甲下筋腱は小結節に eriursl ft 肩甲下筋腱. 上腕二頭筋長頭腱 ら小結節が 中 に るよ に ー を 動 る. 小結節 1 eriursl ft の 化や に注 2 烏口下 ( 肩甲下筋腱前方に る ) の の を 認. 腕を外旋 ると肩甲下筋腱が れる. 図 øø 短軸走査 : 上腕二頭筋長頭腱,: 肩甲下筋腱. ù)er-hug テスト ( 図 Ā) 患肢で健側肩を後方に押し込む際の筋力を評価する. ú)elly-press テスト ( 図 Āc) 患肢でお腹を後方に押し込む際の筋力を評価する. 超音波検査における筋腱評価 超音波装置は, 外来診察時に肩関節における静的, 動的評価が可能であり, 病態評価に有用である. 肩関節前方から短軸走査によって上腕二頭筋長頭腱の滑走, 水腫などの病変の有無を評価する ( 図 øø). 内側の肩甲下筋腱の付着部である小結節を描出し, 損傷程度を評価する. 前方肩関節痛の原因として, 上腕二頭筋長頭腱と肩甲下筋腱損傷によることが多い. 次にプローブを上方に進め, 長軸走査で棘上筋, 棘下筋の大結節付着部を観察し, 腱板の損傷の有無を評価する ( 図 øù). 腱板損傷は肩関節インピンジメント, 筋力低下, および肩関節痛の原因となることがある. まとめ 肩関節痛を生じる疾患に対する評価法として, 問診, 視診, 触診, 理学検査 ( 肩関節可動域 筋 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017 847

徹 他 図 øù 長軸走査 : 棘上筋腱と棘下筋腱 力 誘発テスト ) および超音波検査は重要である. 文献 ø) Itoi, E, Mingw H,Seki N, Ae H:Are pin loction nd physicl exmintions useful in locting ter site of the rottor cuff? Am J Sports Med ù ü; úû:ùüý-ùýû ù) 山本敦史, 高岸憲二, 鈴木秀喜, 小林勉, 設楽仁, 篠崎哲也 : 腱板断裂の理学所見による断裂形態の判別. 肩関節 ù þ;úø:úýø-úýû ú) 徹, 立入久和, 久保俊一 : 腱板断裂.Monthly Book Orthopedics ù ø ;ú:úø-úā û) 徹, 立入久和, 久保俊一 : 肩関節疾.Monthly Book Medicl Rehilittion ù øø;øú :øā-ùÿ 848 Jpn J Rehil Med Vol. 54 No. 11 2017