PowerPoint プレゼンテーション

Similar documents
子宮頸がん 1. 子宮頸がんについて 子宮頸がんは子宮頸部に発生するがんです ( 図 1) 約 80% は扁平上皮がんであり 残りは腺がんですが 腺がんは扁平上皮がんよりも予後が悪いといわれています 図 1 子宮頸がんの発生部位 ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染は子宮頸がんのリスク因子です

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

腹腔鏡手術について 〜どんな手術かお話いたします

1)表紙14年v0

ける発展が必要です 子宮癌肉腫の診断は主に手術進行期を決定するための子宮摘出によって得られた組織切片の病理評価に基づいて行い 組織学的にはいわゆる癌腫と肉腫の2 成分で構成されています (2 近年 子宮癌肉腫は癌腫成分が肉腫成分へ分化した結果 組織学的に2 面性をみる とみなす報告があります (1,

Presentation Title

婦人科がんの手術療法

日産婦誌61巻4号研修コーナー

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

頭頚部がん1部[ ].indd

僕が見た21世紀の 産婦人科医療

<4D F736F F F696E74202D208E7396AF8CF68A4A8D758DC A957A8E9197BF816A205B8CDD8AB B83685D>

外来在宅化学療法の実際

日産婦教育プログラム(渡利)最終版4.22final提出用

Microsoft PowerPoint - komatsu 2

がん登録実務について

Microsoft Word - 婦人科がん特に子宮頸癌治療の最近の話題ver.4.docx

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

日産婦誌61巻5号研修コーナー


婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

卵巣癌の治療

B. 自治医科大学専門研修プログラムの具体例 産婦人科研修プログラムは 自治医科大学附属病院の 4 年間の後期研修プログラムにおける専門コースの一部ではじめの 3 年間が本プログラムに相当する 専攻医は3 年間で修了要件を満たし ほとんどは専門医たる技能を修得したと認定されると見込まれる 修了要件を

NCCN2010.xls

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

一般内科

含む ) 周産期 生殖 内分泌 女性のヘルスケアの4 領域を万遍なく研修することが可能となる 産婦人科専攻医の研修の順序 期間等については 個々の専攻医の希望と研修進捗状況 各施設の状況 地域の医療体制を勘案して 産婦人科研修プログラム管理委員会が決定する B. 産婦人科研修プログラムの具体例 専門

2)N 分類 Nの入力に際し 画像診断 (CT MRIなど ) より腫大リンパ節の有無を加味した以下の分類細目に従って報告する N0 所属リンパ節腫大 (-) N1 所属リンパ節腫大 (+) NX 画像診断をしなかった 3)M 分類 M0 遠隔転移なし MA 傍大動脈リンパ節の腫大 M1 その他の遠

Microsoft PowerPoint - 4_2Dr.Sato

基礎・臨床研究について

Microsoft PowerPoint - 印刷用 K-NET Kodama.ppt [互換モード]

配偶子凍結終了時 妊孕能温存施設より直接 妊孕能温存支援施設 ( がん治療施設 ) へ連絡がん治療担当医の先生へ妊孕能温存施設より妊孕能温存治療の終了報告 治療内容をご連絡します 次回がん治療の為の患者受診日が未定の場合は受診日を御指示下さい 原疾患治療期間中 妊孕能温存施設より患者の方々へ連絡 定

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

『卵巣がん,子宮体がん〈40歳からの女性の医学シリーズ〉』

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

「             」  説明および同意書

1) 専門研修基幹施設 藤田保健衛生大学病院 ( 総合型研修病院 ) 指導責任者 藤井多久磨 良性から悪性までの全ての婦人科疾患 母体 胎児救命を含む全ての周産期疾患 腹 腔鏡から体外受精まであらゆる生殖内分泌疾患 女性ヘルスケアなど非常に豊富な症 例をそれぞれの専門家による指導にて研修することがで

本文/開催および演題募集のお知らせ

PowerPoint プレゼンテーション

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

Microsoft Word - 資料3_大分県立病院研修コース

<4D F736F F D EEEE1878EC08E7B97768D80>

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

<4D F736F F D20288E518D6C8E9197BF AA82F18C9F90668F64935F8EF390668AA98FA791CE8FDB8ED282CC90DD92E882C982C282A282C AD8F6F94C5817A2E646F6378>

ANSWER CERVICAL CANCER 自分の病気を理解するために 担当医に質問してみましょう 治療方針を決めたり 健康管理をしたりするうえで 自分の病気の状態をよく理解しておくことが必要です 次のような質問を担当医にしてみましょう 私はどのようなタイプの子宮頸がんですか 病理検査の結果を説明

206 年実施卒後教育プログラム ( 日泌総会 ) 領域等タイトル日時単位 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 8 日泌総会卒後 9 日泌総会卒後 0 日泌総会卒後 日泌総会卒後 2 日泌総会卒後 3 日泌総会卒後 4 日泌総会卒後 5 日泌総会卒後 6

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

監修 作成作成ご協力者 氏名 村松俊成 所属 日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会幹事東海大学医学部付属八王子病院産婦人科教授

ギガンジウム 子宮頚癌予防ワクチン接種開始 1 年を経過して 我が国では毎年多くの人が癌で亡くなっています ( 死亡率の第 1 位 ) なかでも子宮頸癌は 我が国において毎年 15,000 人の方が罹患 (8,000 人は初期癌 ) し 昨年は 2,486 人の方が亡くなっています これは 20 ~

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

PowerPoint プレゼンテーション

fiÁ‘W-àVfic’æ’¶.ec9

院内がん登録集計報告

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

監修 作成作成ご協力者 氏名 大竹秀幸 所属 人吉総合病院副院長 産婦人科部長 腫瘍センター長

子宮頸がんと子宮体がん 卵管 子宮体癌 子宮頸癌 子宮体癌 自覚症状初期は無症状不正性器出血 好発年齢 30~40 代 (20~30 代で急増 ) 閉経後の 50 代以降 卵巣 子宮頸癌 リスクファクター 高リスク型 HPV 感染 肥満 高血圧 糖尿病 未経産婦 エストロゲン製剤の長期使用など 腟


< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

新入職医師のご紹介 2017 年 10 月より新たに常勤医 1 名が加わり 診療体制が充実しました 川崎幸病院婦人科飯田玲 認定資格等 日本産科婦人科学会専門医 平素より大変お世話になっております 本年 10 月より川崎幸病院婦人科で勤務しております 専門分野は婦人科良性疾患の手術 特に骨盤臓器脱手

腹腔鏡下前立腺全摘除術について

乳癌かな?!と思ったら

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

腹腔鏡補助下膀胱全摘除術の説明と同意 (2) 回腸導管小腸 ( 回腸 ) の一部を 導管として使う方法です 腸の蠕動運動を利用して尿を体外へ出します 尿はストーマから流れているため パウチという尿を溜める装具を皮膚に張りつけておく必要があります 手術手技が比較的簡単であることと合併症が少

妊よう性とは 妊よう性とは 妊娠する力 のことを意味します がん治療の影響によって妊よう性が失われたり 低下することがあります 妊よう性を残す方法として 生殖補助医療を用いた妊よう性温存方法があります 目次 はじめにがん治療と妊よう性温存治療抗がん剤治療に伴う卵巣機能低下について妊娠の可能性を残す方

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

1-0 治験実施計画書の要約

手術や薬品などを用いて 人工的に胎児とその付属物を母体外に排出することです 実施が認められるのは 1 妊娠の継続又は分娩が 身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがあるもの 2 暴行もしくは脅迫によって妊娠の場合母体保護法により母体保護法指定医だけが施行できます 妊娠 22 週 0

藤田学園第8回市民公開講座テキスト

5-4 乳がん連携ノート(患者用)

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

          

表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

婦人科がん検診Q&A

福島赤十字病院産婦人科における内視鏡下手術

スライド 1

A 2010 年山梨県がん罹患数 ( 全体 )( 件 ) ( 上皮内がんを除く ) 罹患数 ( 全部位 ) 5,6 6 男性 :3,339 女性 :2,327 * 祖父江班モニタリング集計表から作成 * 集計による主ながんを表示

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

姫路赤十字_病院誌(論文)39号.indb

Microsoft PowerPoint - 014新倉 仁

Microsoft PowerPoint - 疾患と治療1204解答改.pptx

目次 全部位の概要 - 部位別登録数 - 年齢階級 部位別登録数 - 来院経路 部位別登録数 - 患者住所 部位別登録数 - 症例区分 部位別登録数 - 発見経緯 部位別登録数 部位別詳細

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

スライド 1

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき

Transcription:

2015/01/24 神奈川県立がんセンター第 6 回市民公開講座 がんを知る ~ 子宮体癌 前立腺癌の最新治療 ~ 第 1 部 子宮体癌について 手術療法と化学療法について 神奈川県立がんセンター婦人科医長小野瀬亮

子宮体がん治療ガイドライン

子宮体がんガイドライン作成の目的は? 本ガイドライン作成の目的は 体癌の日常診療に携わる医師に対して 現時点でコンセンサスが得られ 適正と考えられる体癌の標準的な治療法を示すことにある それにより体癌の治療レベルの均霑化と治療の安全性や成績の向上を図ることが期待できる 子宮体がん治療ガイドライン 2006 年版より

子宮体がんガイドライン作成の目的は? 本ガイドラインはあくまでも診療上の参考に供するものであって これにより治療法自体に制約を加えるものではない 実際の臨床における治療法の選択は 個々の症例や患者および家族の意向にも考慮して ガイドラインを参考にしたうえで医師の裁量で行われるべきものと考える 子宮体がん治療ガイドライン 2006 年版より

子宮体がんガイドライン作成の目的は? なお 本ガイドラインの記述内容に対しては日本婦人科腫瘍学会が責任を負うものとするが 治療結果に対する責任は直接の治療担当者が負うべきものと考える 子宮体がん治療ガイドライン 2006 年版より

婦人科領域のがんの特徴 1 発見され易い ( 体表に近い所に臓器が存在し 症状が出やすい ) 2 他のがんに比べ治り易い 子宮頚癌の 5 年生存率 = 約 85% 子宮体癌の 5 年生存率 = 約 85% 卵巣癌の 5 年生存率 = 約 60% 3 子宮頚癌では 早期がんで発見されれば 100% 治り 妊娠 出産も可能 4 子宮頚癌は発生年齢の低下が顕著 5 子宮体癌の発生数が著しく増加している

子宮体癌とは 1) 発生の平均年齢は56 7 才 40 才未満は4.6% 2) 若年発生は不妊症 月経不順 ホルモン産生腫瘍 3)TAM 誘発体癌 ( 乳癌との重複がんも多い ) 4)90% 以上は不正性器出血を伴う 5) 体癌における診断率は組織診 細胞診とも85% 程度 6) 子宮体癌の65% は I 期である ( 新分類 ) 7)80% 以上が類内膜腺癌で うち54% はG1である 8) 全体で5 年生存率は83.6% 9) リンパ節転移の率は8 15% 10) 転移の80% は2 年以内に生じる

子宮癌症例数の推移 7000 6000 5000 4000 3000 子宮頸癌 子宮体癌 2000 1000 0 2001200220032004200520062007200820092010 日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会

子宮癌症例数の推移 160 140 120 100 80 60 子宮頸癌 子宮体癌 40 20 0 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 神奈川県立がんセンター

子宮体癌臨床進行期分類 2012 年症例より変更 Ia 期 Ib 期 間質 腹腔洗浄細胞診は問わない IIIc1= 骨盤陽性 IIIc2= 傍大動脈陽性

90 症例数年次推移 80 70 60 50 40 30 IV III II I 20 10 0 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 ( 分類 FIGO2008)

臨床進行期別症例数 (N=831) III 18% IV 8% II 8% I 66% ( 分類 FIGO2008)

患者背景 ( 組織型別 ) 類内膜漿液性粘液性明細胞腺扁平その他 15% 1% 3% 4% 4% 73%

CQ01: 術前に I 期と考えられる症例に対する 子宮摘出術式は? 1 腹式単純子宮全摘術が奨められる 2 拡大単純子宮全摘出術あるいは準広汎子宮全摘術も考慮される 子宮体がん治療ガイドライン 2013 年版より

CQ2: 術前に II 期と考えられる症例に対する 子宮摘出術式は? 臨床的に子宮頸部間質浸潤があると考えられる症例には 準広汎子宮全摘出術あるいは広汎子宮全摘出術が考慮される 子宮体がん治療ガイドライン 2013 年版より

切除範囲 : 単純全摘 vs 広汎全摘 単純子宮全摘術 広汎子宮全摘術

広汎子宮全摘術の合併症 下肢リンパ浮腫 ( 腫脹 蜂窩織炎 疼痛 ) 腟の短縮 ( 性交障害 ) 術後神経因性膀胱 ( 尿閉 尿満感欠損 ) 過去の症例では II 期体癌で単純子宮全摘を施行した症例と 広汎 準広汎で子宮切除した群と予後 再発形式で差はなかった 神奈川県立がんセンターでは 子宮体癌にたいしては単純子宮全摘術で子宮を切除しています

CQ3: 骨盤リンパ節郭清の意義は? 1 骨盤リンパ節郭清の正確な進行期を決定する上での診断的意義は確立されている 2 骨盤リンパ節郭清の治療的意義は確立されていないが 中 高リスク群と予想される症例では郭清が考慮される

CQ04: 傍大動脈リンパ節郭清 ( 生検 ) の意義は? 1 傍大動脈リンパ節郭清 ( 生検 ) は手術進行期決定に必要である 2 傍大動脈リンパ節郭清 ( 生検 ) の治療的意義は確立されていないが 中 高リスク群と予想される症例では郭清 ( 生検 ) が考慮される

CQ06: 卵巣温存は可能か? 1 初回治療において原則として両側付属器摘出術を行い 手術進行期を決定する 2 高分化型で筋層浸潤の浅い若年症例では卵巣温存に伴う危険性を十分に説明した上で温存が考慮される

CQ14: 腹腔鏡下手術は標準術式の一つと なり得るか? 1 病巣が子宮に限局し子宮頸部間質浸潤がないと予想される早期子宮体癌 (I 期 ) に対しては 症例により腹腔鏡下手術の日常診療での実践も考慮される 2 進行子宮体癌に対する腹腔鏡下手術は奨められない

CQ26: 術前に III IV 期と考えられる症例に 対する手術療法の適応は? 子宮摘出術と可及的腫瘍減量術が可能であれば 手術療法を考慮する

子宮体癌手術治療方針 : 個別化 1) 腫瘍体積 6 cm3を超える ( 画像 / 肉眼所見 ) 1 点 2) 筋層浸潤 1/2 を超える ( 画像 / 肉眼所見 ) 1 点 3) 組織型類内膜 G1 以外 ( 術前生検組織 ) 1 点 4) 術前 CA125 値閉経前 70U/ml を超える 1 点 閉経後 25U/ml を超える 0 点 : 単純子宮全摘 + 両付摘 1 点 1 2 点 : 単純子宮全摘 + 両付摘 + 骨盤リンパ節廓清 3 4 点 : 単純子宮全摘 + 両付摘 + 骨盤リンパ節廓清 + 傍大動脈リンパ節廓清 頚部浸潤の予測される例も術式の変更は行わない III IV 期症例でも可能ならば 子宮摘出 両側付属器摘出 ( 可及的腫瘍減量術 ) は施行する

後腹膜リンパ節 子宮体癌取扱い規約 より 産婦人科手術のための解剖学 より

子宮体癌の術式による差異 1998 年 4 月 2003 年 8 月 全例 廓清なし 骨盤まで 傍大動脈まで N=238 N=94 N=64 N=80 手術時間 3:51 1:59 3:20 6:28 出血量 490g 339g 500g 676g 輸 血 87 例 20 例 13 例 54 例 他家血 27 例 13 例 1 例 13 例 尿管損傷 :2 尿管損傷 :1 尿管狭窄 :2 イレウス :3 尿管狭窄 :1 イレウス :3 大腿神経マヒ :1 イレウス :4 創離開 :5 副障害 創離開 :2 動脈血栓症 :1 大腿神経マヒ :1 創離開 :1 骨盤リンパ嚢胞 :3 リンパ嚢胞 :6 ドレーン長期 :4 ドレーン部膿瘍 :1 ドレーン長期 :3 下肢浮腫 :3 下肢浮腫 :3 (2 例象皮症 ) 肺梗塞 :2

子宮体癌の早期発見 1. ほとんどの市町村は子宮体癌検診を実施しているが 対策型検診を行うことでの死亡率低下効果は認められていない 2. 子宮体癌検診は症状のある女性に対し 選択的に行うことになっている 3. 子宮体癌患者の 90% は不正性器出血の症状がある 4. 40 歳未満の発生は 5% 以下である 更年期以後の不正性器出血があった際は産婦人科を受診し 検査を受けましょう

子宮体癌の術後再発リスク分類 ( 子宮体がん治療ガイドラインより ) 低リスク群 : 類内膜腺癌 G1あるいはG2で筋層浸潤 1/2 未満頸部間質浸潤なし脈管侵襲なし遠隔転移なし中リスク群 : 類内膜腺癌 G3で筋層浸潤筋層浸潤 1/2 未満類内膜腺癌 G1あるいはG2で筋層浸潤 1/2 以上頸部間質浸潤なし脈管侵襲あり漿液性腺癌 明細胞腺癌で筋層浸潤なし遠隔転移なし高リスク群 : 類内膜腺癌 G3で筋層浸潤筋層浸潤 1/2 以上漿液性腺癌 明細胞腺癌で筋層浸潤あり付属器 漿膜 基靭帯進展あり頸部間質浸潤あり腟壁浸潤あり骨盤あるいは傍大動脈リンパ節転移あり膀胱 直腸浸潤あり腹腔内播種あり遠隔転移あり

子宮体癌 ( 類内膜腺癌 ) の術後治療フローチャート ( 子宮体癌治療ガイドラインより一部改変 ) 低リスク群 経過観察 手術進行期の決定再発リスク評価 中リスク群 化学療法または放射線治療 高リスク群 残存腫瘍なし 残存腫瘍あり 腫瘍減量手術 ± 放射線療法 ± 化学療法 ± ホルモン療法

CQ17: 術後化学療法を行う適応と 推奨される薬剤は? 1 高リスク群に対しアドリアマイシンとシスプラチンの併用療法 (AP 療法 ) が奨められる 2TC 療法等のタキサン製剤とプラチナ製剤併用療法も考慮される 3 中リスク群に対し術後化学療法が考慮される 4 低リスク群に対する術後化学療法は奨められない

子宮体癌術後療法治療指針 術後補助化学療法の対象 1) 原則として III 期以上 2)I-II 期では脈管侵襲陽性および特殊組織型 ( 漿 明 癌肉腫 ) のみ 術後補助化学療法の組み合わせタキソール + カルボプラチン療法を 6 コース ( 腹腔細胞診陽性のみ 3 コース )

生存率(%)100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 臨床進行期別生存率 0 20 40 60 80 100 120 140 生存期間 ( 月 ) I 期 (N=550):5 年生存率 95.5% II 期 (N=62):5 年生存率 91.3% III 期 (N=149):5 年生存率 65.4% IV 期 (N=70):5 年生存率 27.3%

生存率(%)症例全体生存率 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 20 40 60 80 100 120 140 生存期間 ( 月 ) 5 年生存率 :83.9% 10 年生存率 :80.6%

臨床進行期別 5 年生存率 I 96.3 II 92.7 III 80.6 IV 35.8 日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会第 54 回治療年報 (2006 年治療例 ) ( 分類 FIGO1988)