理学療法科学 25(4):493 497,2010 原著 凍結肩に対する肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の試み A Clinical Anatomical Physical Therapy Approach for Frozen Shoulder Joint Patients 大槻桂右 1,2) 石倉隆 3,4) KEISUKE OHTSUKI, PT, PhD 1,2), TAKASHI ISHIKURA, PT, PhD 3,4) 1) Harvest Medical Welfare College: 91 6 Minamiekima-cho, Himejishi, Hyogo 670-0962, Japan. TEL +81 79-224-1777 FAX +81 79-224-1779 2) Kinoko Geriatric Health Services Facility 3) Department of Rehabilitation Science, Osaka Health Science University 4) Shibata Hospital Rigakuryoho Kagaku 25(4): 493 497, 2010. Submitted Jan. 12, 2010. Accepted Feb. 17, 2010. ABSTRACT: [Purpose] The object of this study was to examine the application and outcomes of exercise therapy based on clinical anatomy of the shoulder joint. [Subjects] The subjects were 20 men diagnosed as having frozen shoulder: mean age, 54.0 3.3; 14 right and 6 left shoulders. [Method] After performing conventional exercise therapy, physical therapy based on clinical anatomy was performed. The treatment consisted of: 1) upper arm axis rotation utilizing the shoulder joint range of motion (ROM); 2) direct extension of the fifth and sixth heads of the muscle belly of the subscapular muscles; 3) application of light massage to the intersection of the teres minor muscle and the triceps brachii; and 4) application of light massage to the suprascapular vein. Treatments 1) to 4) were all applied in a random manner. According to the presence or absence of scapula immobility, shoulder joint flexion, abduction and internal and external rotation as well as The Japanese Orthopaedic Association (JOA) score, which assesses general shoulder function and pain, were assessed, and their values at the end of 4 weeks intervention were investigated with the t test. [Results] Significant increases in shoulder joint ROM, flexion, abduction, and internal and external rotation were found with both scapula mobility and immobility. The JOA score showed a significant increase from 15.0 6.0 to 25.7 3.0. [Conclusion] We consider that for conditions in which extension of the shoulder in the upward direction causes pain in the peripheral secondary shoulder joints or for decreases of ROM in the scapulohumeral joint, exercise therapy based on clinical anatomy should be tried before surgery as an effective measure of conservative treatment. Key words: frozen shoulder, clinical anatomy 要旨 : 目的 本研究の目的は, 肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の適応と意義について検討することである 対象 対象者は凍結肩と診断された男性患者 20 名 ( 平均年齢 54.0 ± 3.3 歳, 右肩 14 例, 左肩 6 例 ) を対象とした 方法 従来の運動療法を実施後に臨床解剖学に基づく運動療法を実施した 内容は1 上腕骨解剖軸回旋を用いた肩関節可動域運動,2 肩甲下筋の第五, 六頭の筋腹の直接的な伸張 3 小円筋と上腕三頭筋が交差する部位の軽度圧擦,4 肩甲上静脈に対する軽度圧擦, とした 1から4はランダムに全て実施した 肩甲骨固定の有無による肩関節の屈曲, 外転, 外旋, 内旋可動域, ならびに肩関節の総合機能, 疼痛については日整会肩関節疾患治療成績判定基準 (The Japanese Orthopaedic Association: JOA score) を用いて評価し,4 週間後のそれぞれの値をt 検定にて検討した (p<0.05) 結果 関節可動域は肩甲骨固定有りと肩甲骨固定なしともに, 屈曲, 外転, 外旋, 内旋可動域にそれぞれ有意な増加が認められた JOA score は 15.0 ± 6.0 点から25.7 ± 3.0 点へと有意な増加を示した 結語 臨床解剖学に基づく運動療法は, 肩関節を挙上方向へ伸張した時に第二肩関節周辺に痛みを起こす症例や肩甲上腕関節の関節可動域が減少している症例において, 手術的治療を選択する前に試みられるべき保存的治療の有効な一手段であると考えられた キーワード : 肩関節周囲炎, 凍結肩, 臨床解剖学
494 理学療法科学第 25 巻 4 号 I. はじめに外傷性, 非外傷性にかかわらず, 肩甲上腕関節 (Glenohumeral Joint; GHJ) 周辺に生じた痛みや拘縮による機能障害を総称して肩関節周囲炎という 1) 特に 50 歳以降に発症した場合を凍結肩 ( 俗称, 五十肩 ) という 立花 2) は, 肩関節周囲炎の病期を急性炎症期, 凍結肩への移行期, 凍結肩と分けている 積極的な運動療法が適応となるのは凍結肩への移行期から, 凍結肩の時期とされている 肩関節周囲炎の臨床経過は一般的には良好であり, 半年から 2 年の間に自然治癒するとの報告が多い 1,2) なかには数年にわたって痛みと関節可動域 (Range of motion; ROM) 制限が続くとの報告もみられる 3) 凍結肩の発生頻度は3 ~5% 4) といわれているが, 凍結肩に至った症例では, 辛抱強く治療を進めても緩解しないことが少なくない 5) 柴田 5) は, 保存療法を3~4ヶ月行っても症状の緩解をみない肩関節の強い痛みと拘縮を有する症例に対して, 積極的な手術的治療を奨励しているが, 現状は理学療法を中心とした保存的治療が第一選択とされている しかし, 痛みを無視した伸張などの運動療法は, 急性炎症痛の再燃につながりなかねないため, 絶対的禁忌とされている 2) 立花ら 2) は解剖頸軸回旋を用いた筋, 関節包の伸張法を考案し, その臨床的有用性を報告している 解剖頸軸とは上腕骨解剖頸の面に直角に交わる軸であり, この軸回旋の運動を解剖頸軸回旋と立花ら 2) は名付けた 上腕骨の動きで表現すれば, 肩甲骨臼蓋に対して垂直に接する頂角 90 度の円錐形に沿った動きであるため, 解剖頸軸回旋運動では臼蓋面と解剖頸面は常に平行に保たれる つまり, 大結節は烏口肩峰アーチをくぐることなく, アーチに平行に移動するため, 第二肩関節の痛みを引き起こさないで肩関節の伸張が可能であると報告している しかし, 凍結肩に対して臨床応用した報告は見当たらない さらに吉尾ら 6) は,GHJ に問題がある場合,ROM 検査にあるような肢位で他動的な伸張を行っても, 問題ある筋や組織への直接的なアプローチになりにくいだけに効果は少ないと述べている その改善のためには主因となる筋を特定する必要があると報告している 健常成人を対象として, アプローチの即時的効果を検討した報告はあるが 6), 凍結肩へ臨床応用した報告は見当たらない 凍結肩に対する理学療法において, 種々の運動療法が試みられているが未 だ確立された方法はない しかし, 凍結肩への移行期における運動療法はROM 制限や痛みに対して有効であるとする報告が多いことから 3), 凍結肩に至った症例においても, 従来の運動療法に加えて立花 2) や吉尾ら 6) の臨床解剖学に基づく運動療法を導入することによって, 保存療法の成績を向上させる余地があるのではないか, と考えられる 本研究の目的は, 凍結肩患者 20 名 ( 右肩 14 例, 左肩 6 例 ) に対して, 従来の運動療法に加えて, 肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法を4 週間 ( 週平均 3 回 ) 実施し, その適応と意義について検討することである II. 対象と方法 1. 対象外来受診した男性 20 名 ( 右肩 14 例, 左肩 6 例 ) を対象とした 対象者の年齢, 身長, 体重の平均値 ± 標準偏差は, それぞれ,54.0 ±3.3 歳,163.1 ±4.2 cm,56.2 ± 3.2 kg であった 診断はA 病院の整形外科専門医によって行われた 肩関節周囲炎による凍結肩の診断にあたっては, 診療ガイドラインに即して行われた 2 例においては肩関節造影を他院にて実施しており, 肩甲下滑液包の閉塞が確認された 研究の除外規定は, 明らかな外傷性, 単純 X 線検査にて石灰沈着性腱板炎の可能性のある患者, また明らかな上腕二頭筋長頭腱炎, 腱板断裂の症状を示す患者, 脳卒中片麻痺患者であること, さらに夜間痛や安静時痛のある場合とした なお, 患者には文章によって説明を行い, 同意を得た 薬物療法は, ロキソニン錠 (82%), セルタッチパップ (50%) が初診時において処方されていた また必要に応じて, 主治医によって関節内または滑膜包関節内注射を併せて実施された 2. 方法理学療法の内容は, まず物理療法としてホットパックを肩関節に対して5 分間実施した その後, 従来の運動療法としてROM 練習や筋力強化練習を先行研究 1-3) を参考にして, 約 20 分実施した 具体的な内容は, 防御的筋収縮があると判断された当該筋に対してリラクゼーションを目的にしたマッサージと疼痛を出さない範囲でのROM 練習を実施した ROM 練習は, 主に制限のある運動方向に対して, 痛みので 1) ハーベスト医療福祉専門学校 : 兵庫県姫路市南駅前町 91-6( 670-0962)TEL 079-224-1777 FAX 079-224-1779 2) きのこ老人保健施設リハビリテーション部 3) 大阪保健医療大学理学療法学専攻 4) 柴田病院リハビリテーション部 受付日 2010 年 1 月 12 日受理日 2010 年 2 月 17 日
凍結肩に対する肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の試み 495 表 1 初回評価と 4 週間後評価における ROM の比較 初回評価 4 週間後評価初回評価 4 週間後評価 肩甲骨固定可動域 (n=20) 肩甲骨非固定可動域 (n=20) 屈曲 75.7 ± 8.4 122.8 ± 7.5** 123.7 ± 26.3 153.0 ± 16.0** 外転 64.2 ± 5.3 100.4 ± 9.9** 100.9 ± 19.8 127.8 ± 18.1** 外旋 14.4 ± 3.4 28.2 ± 4.9* 21.1 ± 7.9 30.2 ± 6.9** 内旋 16.4 ± 2.4 44.0 ± 9.5** 24.4 ± 6.0 47.6 ± 8.5** *: p<0.05. **: p<0.01. ない範囲で約 20 回程度実施した また筋力強化練習は, ゴムバンドを利用した内外旋の運動と,1 kg の重錘を痛みのでない範囲で, それぞれ10 回程度, 肩関節外転位もしくは屈曲位で保持できるように指導した さらに, 従来の運動療法の実施後に臨床解剖学に基づく運動療法を約 20 分間実施した 内容は,1 上腕骨解剖軸回旋を用いて肩関節に対するROM 練習を痛みの出ない範囲にて最終可動域まで, 約 30 回の実施,2 外旋制限に対しては, 肩甲骨外側縁から肩関節下方関節包へ付着する肩甲下筋の第五, 六頭に着目し, 筋腹に対し垂直に母指を当て伸張を約 30 秒間実施, なお, 広背筋, 大円筋を肩関節内転にて同定した後, 肩関節内旋を行い, 肩甲下筋を同定した 3 屈曲制限に加えて内旋制限がある場合は, 小円筋と上腕三頭筋が交差する部位を, 上腕三頭筋長頭側から約 30 秒間の軽度圧擦,4 棘下筋に強い圧痛がある場合は棘下筋の肩甲上静脈の循環を改善するように約 30 秒間の圧擦とした 1から4 はランダムにすべて実施した なお, 解剖頸軸回旋とは, 成人の上腕骨の頸体角が135 度であることから, 臼蓋面に対して直角に面する頂角 90 度の円錐上を動き, また後捻角が30 度であることから, 前腕はその円の接線に対して常に30 度外旋位を向く運動であるため, 肩甲骨面挙上 45 度, 外旋 30 度を開始肢位とした 効果判定は肩甲骨固定の有無による肩関節の屈曲, 外転, 外旋, 内旋可動域, ならびに肩関節の総合機能, 疼痛については日整会肩関節疾患治療成績判定基準 (The Japanese Orthopaedic Association: JOA score) を用いて評価した ROM 検査は仰臥位にて肩関節屈曲, 外転, 第 2 肢位 ( 肩関節は 90 度外転し, かつ肘関節は90 度屈曲した肢位 ) による内旋 外旋可動域を測定した ROM 測定は, 肩甲骨をしっかりと徒手により固定して測定した可動域 ( 肩甲骨固定可動域 ) と固定せずに測定した可動域 ( 肩甲骨非固定可動域 ) の2 種類とした 肩甲骨固定における肩関節の可動域を肩甲上腕関節 (Glenohumeral joint: GHJ) 角度 8) とした 測定は2 名によって実施された 移動軸と基本軸は日本リハビリテーション医学会に準じ, ゴニオメーターを用いて 1 度単位で3 回測定を行い,3 回の平均値を用いた JOA score の疼痛の項目は, 痛みなし (30 点 ), 圧痛またはスポーツ, 重労働にわずかな痛み (25 点 ), 日常生活に軽い痛み (20 点 ), 中等度の耐えられる痛み (10 点 ), 高度な痛み (5 点 ), 痛みのために全く活動できない (0 点 ) である 総合機能における外転筋の強さは, 正常 (5 点 ), 外転位にて測定 (4 点 ), 同肢位がとれないとき (3 点 ), 可能な外転位にて測定 (2 点 ), 可能な外転角度 (1 点 ), 外転不可能 (0 点 ) である 耐久力は 1 kg の鉄アレイを水平保持できる時間で,10 秒以上 (5 点 ),3 秒以上 (3 点 ),2 秒以下 (1 点 ), 不可 (0 点 ) である 統計解析は解析ソフトSPSS Student Version 13.0J を用いて分析した 初回評価時の肩甲骨固定の有無による肩関節の屈曲, 外転, 外旋, 内旋可動域, ならびに肩関節の総合機能, 疼痛におけるJOA score と 4 週間後のそれぞれの値を t 検定にて検討した 5% 未満を有意とした III. 結果表 1 に初回評価と4 週間後のROM の値の比較を示した 肩甲骨固定と肩甲骨非固定ともに, 屈曲, 外転, 外旋, 内旋可動域に有意な増加が認められた JOA score における疼痛項目は初回評価時と4 週間後の評価の値を比較すると,9.3 ± 4.4 点から18.3 ± 2.0 点へと有意な増加が認め (p<0.01), 疼痛の軽減がみられた また外転筋力の強さは,3.8 ±0.6 点から4.0 ±0.0 点であり有意差は認められなかった さらに, 耐久力は 1.9±1.0 点から3.7±1.0 点へと有意な増加が認められた (p<0.05)
496 理学療法科学第 25 巻 4 号 IV. 考察凍結肩の保存的治療に関する先行研究において, 痛みの低下, 屈曲と外転可動域の増加はみられるが, 内旋と外旋の可動域においては, 著明な増加は得られにくいと報告されているものが多い 1,3,4,7) 橋口ら 7) は男性 48 例, 女性 57 例, 平均年齢 58.6 歳の腱板不全損傷を対象に, 保存的治療に影響を及ぼす因子について検討した結果,ROM 練習や腱板機能向上練習などを中心とする治療が奏功し, 症状の改善が得られた有効群は 43 例であり, 症状の改善が得られず最終的に手術的治療を必要とした無効群は62 例であった, と報告している 影響を及ぼす因子として, 年齢, 肩関節屈曲, 外旋可動域が保存的治療の成績不良因子であったと述べている 本研究結果においては屈曲, 外転のみならず, 内旋と外旋可動域に有意な増加が認められたことや JOA score における疼痛項目の点数も有意な増加を示し, 痛みの改善がみられた 従って, 先行研究と本研究の患者のROM の基礎値, 保存的治療の回数などの内容も異なっているため, 本研究と先行研究の結果を単純に比較することはできないが, 従来の運動療法に加えて本法導入の意義があったのではないかと考えられる 簡便にGHJ のROM を測定するには, 肩甲骨を固定して屈曲または外転可動域を測定する方法がある 8) 厳密に測定するにはMRI 撮影なども必要であるが本法の再現性と妥当性は確認されているため 8), この方法を採用した 肩甲骨が固定された場合, 最大 120 度の外転が可能である その可動域が極端に不足していればGHJ に問題がある場合が多い 本研究では, 肩甲骨非固定の肩関節のROM は平均約 120 度まで屈曲が可能であった また外転は平均約 100 度まで可能であった 正常肩ならば約 80 度がGHJ の動きとなる しかし, 本研究の SSにおける屈曲と外転可動域は80 度を下回っていることから, 本研究の凍結肩患者のROM 制限においても本質的にはGHJに問題があるのではないかと考えられる GHJに生じるROM 制限は主として関節包の短縮によって生じることも屍体肩によって報告されている 9) さらに凍結肩患者の肩関節の術中所見から, 第二肩関節周囲の組織は炎症と腫脹のために, 癒着を起こしていることが多い 2) そのため, 従来の挙上方向へ他動的関節運動による伸張による運動療法では, 筋の伸張感が出る前に第二肩関節周辺に痛みが発生する可能性がある 解剖頸軸回旋は, 挙上方向へ伸張した時に第二肩関節に痛みを起こす症例に対して, 本法の適応があるのではないかと考えられる 屍体肩を用いた検証から, 肩関節の屈曲制限と第二肢位にて外旋制限がある場合, 肩甲下筋が主因であることがわかっている 10) 特に肩甲下筋第五, 六頭は下方関節包靭帯に融合しているため, これらの筋束の筋の緊張は肩関節の柔軟性に直接影響することが考えられる また, 立花ら 2) は肩に痛みを訴える症例に関節造影を行うと多くの症例で肩甲下滑液包が閉塞しており, 癒着している可能性が高いと述べている 肩甲下滑液包の癒着は肩甲下筋腱の滑動を阻害しROM を直接的に制限すると考えられる 本研究の対象となった患者 2 例において, 他院にて関節造影が実施されており, 肩甲下滑液包の閉塞が確認されている 他患においても, 臨床症状から同様のことが起こっている可能性がある 屈曲制限に加えて内旋制限もある場合には, 小円筋と棘下筋が主因として疑われる 解剖的に棘下筋の上部線維は折り返して筋線維数を多く存在させ, それらの筋線維の一部は筋膜を起始にしている 6) この筋線維の特徴的構造は, 血管の発達と筋膜の線維構造の発達を意味する また, 棘下筋に関連する肩甲動静脈は棘上筋と肩甲骨とに挟まれるように走行している 吉尾 6) は肩甲骨と線維性の硬い筋膜で挟まれた羽状筋は, 下腿でみられるようなコンパートメント症候群と同様の状態に陥ることがあると述べている 肩甲上静脈の循環をよくするように丁寧に軽く圧擦することで, 痛みが減少し, 内旋可動域が増加したと考えられる 今後のさらなる可動域の改善に関しては, 短縮している可能性の高い烏口上腕靭帯や関節包自体の狭小化の改善が必要ではないかと考えられる 本研究は治療に対するコントロール群を置いていないことや, 科学的な厳密性や治療効果の妥当性が確認されていないことなど, 問題点や課題が残っている コントロール群を置いていない理由は, 従来の運動療法も効果があるため 1-3), その有効な治療法を撤回することは, 倫理的に問題があるためである 今後, 従来法との比較やシングルケースデザインによる検討も必要である また科学的な厳密性や治療効果の妥当性を根拠を持って示すことができていない部分もある しかし, 本法は特別な技術や器具を必要とせず, どの施設においても可能であることから, 手術的治療を選択する前に試みられるべき保存的治療の有効な一手段であると考えられる 引用文献 1) Kelly MJ, McClure PW, Leggin BG: Frozen shoulder-evidence and a proposed model guiding rehabilitation. J Orthop Sports Phys
凍結肩に対する肩関節の臨床解剖学に基づく運動療法の試み 497 Ther, 2009, 39(2): 135-148. 2) 吉尾雅春 : 運動療法学 ( 各論 ). 医学書院, 東京,2001, pp285-301. 3) Alvado A, Pelissier J, Bennim C, et al.: Physical therapy of frozen shoulder-literature review. Ann Readapt Med Phys, 2001, 44(2): 59-71. 4) Shaffer B, Tibone JE, Kerlan RK: Frozen Shoulder A long-term follow-up. J Bone Joint Surg Am, 1992, 74(2): 738-746. 5) 柴田陽三 : ステップスキャニュレーションシステムを用いた肩関節拘縮に対する関節鏡視下関節包切離術. 臨整会,2007, 42(3): 235-241. 6) 吉尾雅春 : 理学療法 MOOK 1. 三輪書店, 東京,1998, pp124-134. 7) 橋口宏, 伊藤博元 : 腱板不全断裂の保存的治療に影響を及ぼす因子の検討. 臨整会,2007, 42(3): 231-234. 8) Andrea JB: Manual Scapular Stabiliaztion Its effect on shoulder rotational range of motion. Arch Phys Med Rehabil, 2000, 81: 978-983. 9) 泉水朝貴, 青木見光広, 村木孝行 他 : 固定標本による肩関節後方関節包の伸張肢位の検討. 理学療法学,2008, 35(7): 331-338. 10) 高濱照, 壇順司 : 肩関節の構造 機能の研究と理学療法. 理学療法,2003, 20(7): 763-767.