(Microsoft Word - \203v\203\214\203X\203\212\203\212\201[\203X doc)

Similar documents
<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

<4D F736F F D FAC90EC816994AD955C8CE38F4390B394C F08BD682A082E8816A8F4390B38CE32E646F63>

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

Microsoft Word CREST中山(確定版)

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

周期的に活性化する 色素幹細胞は毛包幹細胞と同様にバルジ サブバルジ領域に局在し 周期的に活性化して分化した色素細胞を毛母に供給し それにより毛が着色する しかし ゲノムストレスが加わるとこのシステムは破たんする 我々の研究室では 加齢に伴い色素幹細胞が枯渇すると白髪を発症すること また 5Gy の

-119-


別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

Untitled

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

イマチニブ家族10-11

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

Microsoft Word - all_ jp.docx

論文の内容の要旨

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

PowerPoint プレゼンテーション

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

<4D F736F F D DC58F4994C A5F88E38A D91AE F838A838A815B835895B68F FC189BB8AED93E089C82D918189CD A2E646F63>

Microsoft PowerPoint - 2_(廣瀬宗孝).ppt

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

Microsoft Word - FHA_13FD0159_Y.doc

再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

スライド 1

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

がん登録実務について

Untitled

学位論文の要約

平成24年7月x日

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

平成18年3月17日

<4D F736F F D F4390B38CE3816A90528DB88C8B89CA2E646F63>

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

2. ポイント EGFR 陽性肺腺癌の患者さんにおいて EGFR 阻害剤治療中に T790M 耐性変異による増悪がみられた際にはオシメルチニブ ( タグリッソ ) を使用することが推奨されており 今後も多くの患者さんがオシメルチニブによる治療を受けることが想定されます オシメルチニブによる治療中に約

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

白血病(2)急性白血病

子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

平成24年7月x日

Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

Microsoft PowerPoint - 分子生物学-6 [互換モード]

Microsoft Word - PRESS_

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

博士の学位論文審査結果の要旨

PowerPoint プレゼンテーション

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Transcription:

平成 2 2 年 2 月 4 日 金沢大学 Tel:076-264-5024( 広報戦略室 ) ( 独 ) 科学技術振興機構 ( J S T ) Tel:03-5214-8404( 広報ポータル部 ) 慢性骨髄性白血病の治療抵抗性治療抵抗性原因分子原因分子を発見 新たなたな白血病治療法白血病治療法開発開発にはずみ JST 目的基礎研究事業の一環として, 金沢大学がん研究所の平尾敦教授と仲一仁助教らは, 慢性骨髄性白血病注 1) の治療抵抗性原因分子を発見しました 慢性骨髄性白血病の原因は,BCR-ABL 融合遺伝子注 2) によるチロシンキナーゼの異常活性亢進であることが知られており, 特効薬としてチロシンキナーゼ阻害剤が開発され, 患者の治療に使用されています ところが, 一部の患者に薬剤投与中止後の再発が起こること, また, 残存白血病において新たな遺伝子異常が発生することが問題となってお り, 白血病完治のためには, 薬剤抵抗性を克服することが必要であると考えられていました また, 最近, 白血病細胞中に, その供給源となる幹細胞様の細胞集団 白血病幹細胞 の存在が示され, 薬剤抵抗性との関連が示唆されていました 本研究グループは今回, 慢性骨髄性白血病マウスモデルを用い, 白血病幹細胞の特定と動態制御の解析を行った結果, 代謝制御分子フォークヘッド転写因子 FOXO 注 3) が, 白血病幹細胞において活性化していること, この活性化は白血病幹細胞の機能維持やチロシンキナーゼ阻害剤 抵抗性に重要な役割を果たしていることを発見しました さらに,FOXO 活性化機序のひとつとして,TGF ベータシグナル注 4) の役割を明らかにしました TGF ベータ受容体阻害剤を投与することによって, チロシンキナーゼ阻害剤の治療効果が向上することから, 白血病幹細胞における TGF ベータ -FOXO シグナル活性化が治療抵抗性の原因であることを示しました 本研究の成果は, 臨床上問題となっている慢性骨髄性白血病の薬剤抵抗性メカニズムの一端を解明したこと, また, 新たな白血病治療法開発のための重要な鍵を発見したことを 意味します 今後, さらに詳細なメカニズムの解明とともに, 化合物スクリーニングなどを用いた新規治療法の開発が期待されます 本研究成果は,2010 年 2 月 4 日 ( 日本時間午前 3 時 ) 発行の英国科学雑誌 Nature に掲載されました 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) 研究領域 : 代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術 ( 研究総括 : 鈴木紘一東京大学名誉教授 ) 研究課題名 : 代謝解析による幹細胞制御機構の解明 研究代表者 : 平尾敦 ( 金沢大学がん研究所教授 ) 研究期間 : 平成 17 年 10 月 ~ 平成 23 年 3 月 JST はこの領域で 細胞内の代謝変化を統合的あるいは網羅的に解析し 細胞機能の制御メカニズムや恒常性維持のメカニズムを明らかにし 細胞機能を効率的に制御 変換したり 恒常性の乱れを改善 回復させる細胞制御基盤技術の創出を目指しています 上記研究課題では 代謝制御の観点からのアプローチにより 幹細胞の制御機構を解明し 再生医療やがん治療の向上に貢献することを目標としています 1

< 研究の背景背景と経緯 > 腫瘍組織の不均一性 (heterogeneity) を説明する仮説のひとつとして, 正常組織幹細胞と類似した少数の腫瘍細胞が起源となり腫瘍組織全体を構成するという がん幹細胞仮説 が提唱されています すなわち, 正常組織では幹細胞を頂点として階層的に分化細胞がつくり出されるように, がん幹細胞を頂点として階層的に増殖能の低い分化細胞がつくり出 され腫瘍組織が構成されるということが考えられています 白血病をはじめとして, いくつかの腫瘍において, がん幹細胞の存在が示されており, がん治療における真の標的細胞であると考えられるようになりました ( 図 1) 慢性骨髄性白血病は, 成人にみられる骨髄増殖性疾患です 慢性骨髄性白血病の原因は, 造血幹細胞における遺伝子異常 (BCR-ABL 融合遺伝子 ) の発生であり, 異常チロシンキナーゼ活性 (ABL 機能の活性亢進 ) による造血細胞の異常増殖を示します 数年間の慢性期 を経て, 急性転化期を迎え, 白血病化します 治療として, チロシンキナーゼ阻害剤 ( イマチニブなど ) が開発され, 特効薬として患者の治療に使用されています イマチニブは, ABL を標的としたチロシンキナーゼ阻害剤であり, 従来の DNA 複製阻害剤を中心とした抗がん剤とは違い, 特定の分子の機能阻害による薬剤, すなわち分子標的薬剤として, 最も早く成功した薬剤として知られています ところが, 薬剤投与中止後の再発や薬剤耐性細胞における新たな遺伝子異常の発生が問題となっています これまでの研究により, チロ シンキナーゼ阻害剤抵抗性を示すのは, 分化した白血病細胞ではなく, 主に白血病幹細胞であることが示されてきました ( 図 2) 同じ遺伝子異常が存在しているにもかかわらず, チロシンキナーゼ阻害剤の感受性が, 白血病幹細胞集団と分化集団で異なり, 生存シグナルの依存性の相違が示唆されることから, 白血病幹細胞の動態や制御メカニズムを理解することが, 慢性骨髄性白血病の薬剤抵抗性メカニズム解明の鍵になると考えられてきました < 研究の内容 > 本研究グループは, マウス慢性骨髄性白血病モデルを確立し, 白血病幹細胞の特定および動態解析を行いました その結果, マウス生体中で慢性骨髄性白血病中には少数の幹細胞的細胞集団, 白血病幹細胞 が存在していることを確認しました この白血病幹細胞は, 細胞周期や細胞表面発現蛋白などが正常造血幹細胞と類似しており, 両者の共通性が示唆 されました 本研究グループは, 以前より正常造血幹細胞の制御機構の解析を行っており, 本 CREST 研究の一環で, 代謝制御分子であるフォークヘッド転写因子が, 造血幹細胞で必須の役割を果たしていることを見出していました (Cell Stem Cell, 2007) そこで, 白血病幹細胞において,FOXO の挙動を観察したところ, 白血病幹細胞で核内に局在し, 一方, 白血病幹細胞以外の白血病細胞では, 核外に局在していることから, 幹細胞特異的に FOXO が活性化していると考えられました ( 図 3A) FOXO ファミリー分子のひとつである FOXO3a 注 3) 欠損マウスを用いて, 白血病幹細胞の機能解析を行ったところ,FOXO3a は, 白血病幹細胞の生存に必須であり, 長期的に白血病を産生する能力を維持するために重要な役割を果たしていることが明らかとなりました また,FOXO3a の欠損によりイマチニブによる治療効果が向上することから, イマチニブ抵抗性の原因として, 白血病幹細胞における FOXO 活性化が重要であることを見出しました ( 図 3B) さらに, 白血病幹細胞における FOXO 活性化機序のひとつとして,TGF ベータシグナルが重要な役割を果たしていることを見出しまし た TGF ベータ受容体阻害剤の投与によって,FOXO の核局在が阻害され, イマチニブによる白 2

血病の治療効果も向上することが確認されました ( 図 4) このことから,TGF ベータ -FOXO シグナルが, 白血病幹細胞機能維持と治療抵抗性に必須の分子であることが判明しました また, 同様の機能がヒト慢性骨髄性白血病患者由来の白血病幹細胞でも確認されました < 今後の展開 > 本研究において, 臨床上問題となっている慢性骨髄性白血病の治療抵抗性メカニズムの一端を解明しました この成果は, 新たな白血病治療法開発のための重要な鍵を発見したことを意味します すなわち, 白血病幹細胞制御調節シグナル活性を調節する化合物を探索することによって, 新たな白血病治療法が開発できることが示唆されました 今後, 本研究グループは, がん幹細胞制御メカニズムの更なる理解を進めるとともに, 化合物スクリーニング などによる新規治療薬の探索, 前臨床試験に有用ながんモデルの確立などを通して, がんの診断 治療の向上を目指します 3

< 参考図 > 図 1 がん幹細胞幹細胞の概念がん幹細胞を頂点として階層的に増殖能の低い細胞がつくり出され, プログラムされた 制御によって腫瘍組織が構成される (A 階層モデル ) この考え方は, がんは本質的に均一な細胞から成り立ち, たとえ腫瘍形成能力を持つ細胞が一部にしかなくても, それは全くランダムな外的, 内的要因により規定されているという確率モデルと対照的である (B) 白血病や脳腫瘍を含む複数のがんにおいてがん幹細胞集団が特定されているが, 一方で, 確率モデルに合致するがんの存在も示されている 図 2 慢性骨髄性白血病の薬剤薬剤抵抗性抵抗性メカニズム慢性骨髄性白血病患者のチロシンキナーゼ阻害剤 ( イマチニブ ) 治療解析により, 比較 的分化した白血病細胞集団はイマチニブに感受性を持つが, 幹細胞様細胞集団は抵抗性を示す 4

A B 白血病マウスマウスの治療治療期間 ( 日 ) 図 3 白血病幹細胞における FOXO 活性化が薬剤薬剤抵抗性抵抗性の原因原因である A. 白血病幹細胞における FOXO の活性化 : マウス慢性骨髄性白血病モデルを作製し, 白血病幹細胞集団を特定した 幹細胞集団と非幹細胞集団を比較したところ, フォークヘッド転写因子 FOXO が, 幹細胞において核内に局在し活性化していることが判明した B. イマチニブ抵抗性における FOXO の役割 :FOXO3a 欠損マウスを用いた白血病モデルを作製し, イマチニブにより治療実験を行ったところ,FOXO3a の機能を欠損させることにより, 治療効果の上昇を認めた 図 4 TGF ベータによる FOXO 活性化 A.TGF ベータによる FOXO の活性化 : 慢性骨髄性白血病幹細胞集団において,TGF ベータ添 加により,FOXO は核内に移動する 一方,TGF ベータ受容体阻害剤により, 核外に移動する B. イマチニブ抵抗性における TGF ベータの役割 : マウス白血病モデルで治療実験を行ったところ,TGF ベータ受容体阻害剤を投与することにより, イマチニブの治療効果の上昇を認めた 5

< 用語解説 > 注 1) 慢性骨髄性白血病慢性骨髄性白血病は, 造血幹細胞をはじめとする造血細胞の異常増殖を呈する骨髄増殖性疾患である 慢性骨髄性白血病は数年の慢性期の後, 移行期を経て, 急性転化期とよばれる激しい症状が出現する病期に移行する 従って, 慢性骨髄性白血病の治療においては, 慢性期に徹底した治療を行って, 急性転化への移行を防ぐことが大変重要となる 慢性骨髄性白血病患者の約 95% にはフィラデルフィア染色体と呼ばれる染色体転座が認められ, このフィラデルフィア染色体から作り出される BCR-ABL が白血病細胞の増殖の原因となることが知られている この BCR-ABL を抑制するチロシンキナーゼ阻害剤が慢性骨髄性白血病の治療薬として開発され, 慢性骨髄性白血病治療を劇的に改善した しかし, 最近, このようなチロシンキナーゼ阻害剤に抵抗性の白血病細胞が存在し, 慢性骨髄性白 血病治療を再発させることが臨床上問題となっている 注 2)BCR BCR-ABL 融合遺伝子フィラデルフィア染色体は, 染色体 9 番長腕と 22 番の染色体長腕との間で起こる染色体転座であり, 慢性骨髄性白血病患者の 95% に認められる 9 番染色体 q34.1 には c-abl (Abelson murine leukemia viral oncogene homolog) というチロシンキナーゼが, また 22 番 q11.21 には BCR(Breakpoint cluster region) がコードされており, フィラデルフィア染色体転座によって BCR-ABL 融合遺伝子が産生される 通常 c-abl のチロシンキナーゼ活性は, キナーゼドメインと CAP ドメイン, 並びに SH2 SH3 ドメインとの分子内相互作用によって厳密に抑制されている しかし, BCR-ABL 融合遺伝子から産生される BCR-ABL タンパク質は恒常的チロシンキナーゼ活性を有しており, 慢性骨髄性白血病細胞の増殖を引き起こす 注 3) フォークヘッド転写因子 FOXO 代謝制御遺伝子 FOXO は FOXO1, 3a, 4, 6 からなり,AKT/PKB によってリン酸化されて制御される 通常,FOXO は細胞核内に存在して転写因子として機能するが,AKT/PKB によってリン酸化されると,14-3-3 タンパクと結合して核外に排出されて転写因子としての機能を失う FOXO が転写制御を行う標的遺伝子としては,DNA の修復に関わる GADD45, 活性酸素種の 無毒化を行う SOD2 や Catalase, 並びに細胞周期の静止期の維持に関わる p27 Kip1,p57 Kip2 など多くの遺伝子が知られている これらの遺伝子発現調節により, 正常造血幹細胞や神経幹細胞の自己複製能, 代謝, 細胞寿命の制御を行う 一方,FOXO 遺伝子が関係する染色体転座がヒト白血病やヒト横紋筋肉腫などのがんにおいて見出されており, 発がんの抑制における役割が示唆されている 注 4)TGF ベータシグナル TGF ベータ (Transforming growth factor-β) シグナルは細胞増殖, 発生, 分化, 発がん, 創傷治癒など様々な生命現象の制御に関わる TGF ベータのシグナル伝達には I 型, 及び II 型受容体が必要である TGF ベータがリガンドとして受容体に結合すると,I 型 II 型受容体がヘテロ 4 量体を形成して自身のセリン スレオニンキナーゼを活性化する 活性化 されたセリン スレオニンキナーゼは特異型 Smad をリン酸化し, リン酸化された特異型 6

Smad は共有型 Smad とともに核内に移行して様々な標的遺伝子の転写を調節する 通常,TGF ベータは増殖抑制因子として機能し, 早期癌において癌細胞の増殖を抑制する しかし, 一部の進行固形癌では, 癌細胞の転移を促進することが知られている 従って,TGF ベータシグナル阻害剤は一部の悪性腫瘍に対する治療薬として期待されている TGF ベータシグナル阻害剤としては,TGF ベータに対するモノクローナル抗体や TGF ベー タ I 型受容体に対する低分子化合物が開発されている < 論文名 > TGFβ-FOXO signalling maintains leukaemia-initiating cells in chronic myeloid leukaemia (TGFβ-FOXO シグナルは慢性骨髄性白血病幹細胞の維持に必須である ) <お問い合わせわせ先 > < 研究に関すること > 平尾敦 ( ヒラオアツシ ) 金沢大学がん研究所がん幹細胞研究センター遺伝子 染色体構築研究分野 920-0934 石川県金沢市宝町 13-1 Tel: 076-265-2726 Fax: 076-234-4508 E-mail:ahirao@kenroku.kanazawa-u.ac.jp <JSTの事業に関すること> 廣田勝巳 ( ヒロタカツミ ) 科学技術振興機構イノベーション推進本部研究領域総合運営部 102-0075 東京都千代田区三番町 5 三番町ビル Tel:03-3512-3524 Fax:03-3512-3531 E-mail:crest@jst.go.jp 7