研究成果報告書

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

Microsoft PowerPoint - 資料6-1_高橋委員(公開用修正).pptx

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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平成14年度研究報告

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

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Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

論文の内容の要旨

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

2014年

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

1. 研究の名称 : 芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の分子病理学的研究 2. 研究組織 : 研究責任者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 准教授 百瀬修二 研究実施者 : 埼玉医科大学総合医療センター病理部 教授 田丸淳一 埼玉医科大学総合医療センター血液内科 助教 田中佑加 基盤施設研究責任者

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

PowerPoint プレゼンテーション

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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井上先生 報告書 清水

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

汎発性膿庖性乾癬の解明

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

共同研究報告書

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

NEXT外部評価書

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

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本日の講演内容 1. PMDA コンパニオン診断薬 WG 2. 本邦におけるコンパニオン診断薬の規制 3. 遺伝子パネルを用いた NGS コンパニオン診断システム 1 2 規制上の取扱い 評価の考え方 2

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

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研究の背景私たちが人生のおよそ三分の一を費やす睡眠は 誰もが毎日行なう身近な行動でありながら 未だにメカニズムや役割をきちんと説明できていない現象です たとえば 眠気 は誰もが日常的に体験する現象ですが その脳内での物理的実体や 日々の睡眠量をほぼ一定に保つメカニズムは全く不明のまま残されています

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

NEXT外部評価書

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

プロジェクト概要 ー ヒト全遺伝子 データベース(H-InvDB)の概要と進展

医療連携ガイドライン改

第6号-2/8)最前線(大矢)

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

PowerPoint Presentation

背景 人工 DNA 切断酵素である TALEN や CRISPR-Cas9 を用いたゲノム編集技術により 遺 伝性疾患でみられる一塩基多型を導入または修復する手法は 疾患のモデリングや治療のた めに必須となる技術です しかしながら一塩基置換のみを導入した細胞は薬剤選抜を適用で きないため 正確に目的

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

神経発達障害診療ノート

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

長期/島本1

Transcription:

様式 C-19 F-19 Z-19( 共通 ) 1. 研究開始当初の背景次世代シークエンサーの普及とともに ゲノム解析技術は向上し 臨床現場においても疾患のゲノム解析が進んでいる 一方で 得られた遺伝子変異は疾患との相関関係を示すものの 因果関係を示すためにはモデル動物を用いた解析が不可欠である 近年 CRISPR/Cas9 を始めとするゲノム編集技術の革新により 高速かつ高効率に任意の遺伝子変異を導入することが可能となってきた 臨床現場で得られた遺伝子変異の知見を CRISPR/Cas9 などのゲノム編集技術を用いてモデル動物に導入することで疾患の分子基盤を明らかにすることが可能になると考えられる さらに 疾患のモデルを作成することにより 疾患治療の分子ターゲットが同定され 治療薬のスクリーニングなどに展開できることが期待される 2. 研究の目的本研究の目的は 臨床で同定されたヒト疾患関連遺伝子の知見を元に 新規遺伝子改変技術を用いて疾患モデル動物を作出することである ヒトで疾患表現型との相関性が示唆されるアミノ酸レベルの変異を CRISPR/Cas9 システムを用いてモデル動物の内在遺伝子座に導入し 疾患との因果性を明らかにすることを目指した 疾患としては睡眠障害に注目し モデル動物としてショウジョウバエを用いた 3. 研究の方法ゲノム編集技術として CRISPR/Cas9 システムを用いることで 任意の遺伝子に対する変異導入を行った モデル動物としては 近年 睡眠覚醒の分子遺伝学的解析が行われているショウジョウバエを用いた まず 複数の grna を発現する pcfd4 プラスミドを用いることにより CDS を完全に欠損した変異体の作出を試みた grna の発現のために pcfd4 プラスミドを用いてまずトランスジェニックラインを作出し さらに生殖細胞特異的に Cas9 を発現する nos-cas9 のトランスジェニックラインと掛け合わせることにより 生殖細胞で CRISPR/Cas9 による deletion が起こ るショウジョウバエを作出した ショウジョウバエの睡眠覚醒の表現型解析のためには DAM(Drosophila Activity Monitoring) システムを用いて 5 分間以上の不動状態を睡眠状態とする定義に基づき 睡眠覚醒の定量解析を行った さらに アミノ酸レベルでの変異導入のために CRISPR/Cas9 を用いたノックイン技術の確立を試みた 塩基配列の挿入をしたい領域に対する grna を発現する pcfd4 プラスミドを作出し トランスジェニックラインを作出した deletion ラインの作成と同様に 生殖細胞に Cas9 を発現する nos-cas9 のラインと掛け合わせ 得られた個体の卵に 5'arm, 3'arm それぞれ 1kb に挟まれた mclover 配列をドナープラスミドとしてインジェクションすることにより 相同組換えによるノックインラインの作出を行った 4. 研究成果研究代表者は医療機関における睡眠障害の診断 治療に携わる中で Kleine-Levin 症候群が一卵性双生児双方に発症した症例を経験した Kleine-Levin 症候群は原因不明の睡眠障害で 間欠的に過眠症状を繰り返す疾患であり 疾患症例自体が稀少であることに加え 一卵性双生児に発症した症例は世界初であり 国際誌に報告した (Ueno et al., 2012, BMC Neurol) 本症例は希少疾患である Kleine-Levin 症候群が一卵性双生児双方に発症したことから 遺伝学的素因の関与が疑われ 疾患関連遺伝子を同定することにより疾患の原因に迫ることが期待される そこで 本研究では患者である双生児ならびに両親にインフォームドコンセントを実施したのち 採血を行い 血液中からゲノム DNA を抽出した 得られたゲノム DNA に対して Exome シークエンスを行うことにより 疾患関連遺伝子の同定を試みた Kleine-Levin 症候群の疾患関連遺伝子の絞り込みについては 現在 Stanford 大学のグループと共同で症例を増やして解析を進めている さらに 睡眠障害を合併する精神疾患として 自閉症スペクトラムに注目し CRISPR/Cas9 システムを用いた疾患との因果性の解析を進めている 自閉症スペクトラム

をはじめとする発達障害においては睡眠障害の合併率が 80% 以上とされ 睡眠 覚醒に支障をきたすことが極めて多い 睡眠 覚醒の問題は これまで周辺的な症状と見なされ あまり関心が払われてこなかったが 学校や職場に行けない 適応できないなど患者の生活に多大な影響を及ぼす 近年 睡眠の適正化が日中の問題行動にも好影響があることが報告されている さらに 病態を考えるうえでも注意の問題とともに 睡眠 覚醒の問題は発達障害の病態において本質的な障害である可能性が示唆され始めている (Bourgeron, 2015, Nat Rev Neurosci) 自閉症スペクトラムは その病態が明らかになっておらず 治療法も確立したものはない 近年 自閉症スペクトラム患者の遺伝子研究からシナプス関連タンパクの変異が多数報告され シナプス強度の調整が病態に寄与していることが示唆されている さらに 睡眠の意義として シナプス強度の調整機能が提唱され (Tononi & Cirelli, 2014,Neuron) 自閉症スペクトラム患者における睡眠障害の合併率の高さを説明する作業仮説となりうる これまで 自閉症スペクトラム患者において疾患関連遺伝子が同定され AutismKB (http://autismkb.cbi.pku.edu.cn) を始めとするデータベースが作成されている ヒト遺伝子との相同遺伝子をショウジョウバエゲノムで探索したところ 62 遺伝子が見つかった それら遺伝子をターゲットとして CRISPR/Cas9 で変異を導入している 今後は得られた変異体における睡眠覚醒の表現型を解析し 自閉症スペクトラムにおける睡眠障害の原因遺伝子を探る また 得られたハエ変異体において 自閉症スペクトラムに認められる行動の表現型につながるマイクロエンドフェノタイプとして シナプスの定量評価を計画している 自閉症スペクトラムや断眠条件下においてシナプス蛋白の発現上昇が指摘されており これらバイオマーカーを用いた評価により 遺伝子変異と表現型をつなぐ分子メカニズムを明らかにする ショウジョウバエでは蛍光蛋白質を融合させたシナプス蛋白を神経細胞に発現させるこ とにより シナプスの増強を簡便に可視化することが可能であり 共焦点顕微鏡での評価を実施する さらに 申請者はショウジョウバエにおける睡眠中枢ならびに覚醒中枢となる神経ネットワークを明らかにしており (Ueno et al. Nature Neuroscience 2012, unpublished data) これら神経回路の活性を制御することにより人工的に睡眠 / 覚醒を制御し シナプスを始めとするマイクロエンドフェノタイプの変化を解析する また CRISPR/Cas9 システムを用いた睡眠障害として 加齢性の睡眠障害に注目した解析も実施した これまで 研究代表者の所属した研究室において 加齢性の記憶障害の分子メカニズムが同定された (Yamazaki et al., 2014, Neuron) 加齢に伴う生理現象として 記憶障害に加えて睡眠障害がショウジョウバエにおいても見られる L-セリンを D-セリンに変換するセリンラセマーゼは加齢とともに発現が低下することが知られており D- セリンは NMDA 受容体のコアゴニストとして作用する NMDA 受容体の全神経細胞におけるノックダウンによって ショウジョウバエの睡眠が減少することも見出している (Tomita et al., 2015, PLoS One) 以上の知見を鑑み 加齢性の記憶障害に関与する分子が加齢性の睡眠障害に寄与しうるという仮説のもと CRIPSR/Cas9 システムを用いて変異導入を行った ショウジョウバエにおけるセリンラセマーゼのホモログを同定し CDS を挟む形で grna を 2 種類設計した上で それら grna を全身性に発現するトランスジェニックラインを作出した 得られたトランスジェニックラインと 生殖細胞に Cas9 を発現するラインを掛け合わせ 次世代において目的とする遺伝子欠損個体をスクリーニングした スクリーニングの結果 目的の遺伝子欠損個体が得られ ホモ個体において睡眠の表現型を調べた その結果 羽化直後においては野生型と睡眠時間に違いがないのに対して 羽化後 2 週間が経過することにより 野生型に比べて睡眠時間が著しく短縮することを見出した ( 図 未発表データ )

4Ueno T*, Kume K* (* correspondence) Functional characterization of dopamine transporter in vivo using Drosophila melanogaster behavioral analysis. Frontiers in Behavioral Neuroscience, 2014, 8, 303 doi: 10.3389/fnbeh.2014.00303. 図. D-セリン合成酵素 損による加齢性睡眠障害 3 間ずつの明暗条件下における経時的な睡眠時間を す CRISPR/Cas9 により D-セリン合成酵素であるセリンラセマーゼを 損するハエを作出した 変異体は 若齢では睡眠時間に違いはないが 加齢による睡眠時間の減少が著しい 5. 主な発表論文等 雑誌論文 ( 計 4 件 ) 1Tomita J, Ueno T, Mitsuyoshi M, Kume S, Kume K The NMDA Receptor Promotes Sleep in the Fruit Fly, Drosophila melanogaster. PLoS One 10(5) e0128101 2015 doi:10.1371/journal.pone.0128101. 学会発表 ( 計 6 件 ) 1 上野太郎子どもの成長と睡眠 学力向上への睡眠の重要性 熊本県医師会主催市民公開講座 2015 年 9 月 6 日ホテル熊本テルサ熊本県熊本市 2 上野太郎ぐっすり眠って元気な仙台っこ よい睡眠習慣を取り戻そう仙台市教育委員会主催仙台っこ健康セミナー 2015 年 8 月 4 日旭ヶ丘市民センター宮城県仙台市 2 上野太郎, 粂和彦. ショウジョウバエを用いた睡眠の基礎研究. 日薬理誌 (Folia Pharmacol. Jpn.), 日本薬理学会, 2015 doi.org/10.1254/fpj.145.134 ( 査読無し ) 3 上野太郎児童生徒の睡眠障害について北区教育委員会主催学校保健会総会 2015 年 5 月 14 日滝野川文化センター東京都北区 3Yamazaki D, Horiuchi J, Ueno K, Ueno T, Saeki S, Matsuno M, Naganos S, Miyashita T, Hirano Y, Nishikawa H, Taoka M, Yamauchi Y, Isobe T, Honda Y, Kodama T, Masuda T, Saitoe M Glial dysfunction causes age-related memory impairment in Drosophila. Neuron 84 753-763 2014 doi:10.1016/j.neuron.2014.09.039. 4 上野太郎睡眠研究の最前線都民講座 2015 年 4 月 24 日公益財団法人東京都医学総合研究所東京都世田谷区

5 上野太郎 粂和彦 Sleep study using Drosophila 第 21 回日本時間生物学会シンポジウム 2014 年 11 月 8 日九州大学福岡県福岡市 6 上野太郎 粂和彦睡眠と麻酔の類似性から探る新規睡眠関連遺伝子第 39 回日本睡眠学会シンポジウム 2014 年 7 月 4 日あわぎんホール徳島県徳島市 図書 ( 計 0 件 ) 産業財産権 出願状況 ( 計 0 件 ) 取得状況 ( 計 0 件 ) その他 ホームページ等 6. 研究組織 (1) 研究代表者上野太郎 (UENO, Taro) 公益財団法人東京都医学総合研究所 認知症 高次脳機能研究分野 主席研究員研究者番号 :30648267 (2) 研究分担者 無し (3) 連携研究者 無し